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細胞さいぼう周期しゅうきチェックポイント

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

細胞さいぼう周期しゅうきチェックポイント(さいぼうしゅうきチェックポイント)とは、細胞さいぼうまさしく細胞さいぼう周期しゅうき進行しんこうさせているかどうかを監視かんし(チェック)し、異常いじょう不具合ふぐあいがある場合ばあいには細胞さいぼう周期しゅうき進行しんこう停止ていし(もしくは減速げんそく)させる制御せいぎょ機構きこうのことである。細胞さいぼう自体じたいがこの制御せいぎょ機構きこうそなえている。一回いっかい細胞さいぼう分裂ぶんれつ周期しゅうきなかに、複数ふくすうのチェックポイントが存在そんざいすることがられており、これまでにG1/SチェックポイントSチェックポイントG2/MチェックポイントMチェックポイントの4つが比較的ひかくてきよく解析かいせきされている。この機構きこう正確せいかく遺伝いでん情報じょうほうむすめ細胞さいぼう、ひいては子孫しそん伝達でんたつするための、生命せいめいにとって根源こんげんてき役割やくわりたしているとかんがえられており、この機構きこう異常いじょうはヒトなどのがん発生はっせい主要しゅよう原因げんいんのひとつといわれる。その基本きほん概念がいねんは、1988ねんリーランド・ハートウェルらにより提出ていしゅつされた。

概要がいよう

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細胞さいぼうは、その性状せいじょう生体せいたいないでの役割やくわりおうじて、それぞれまった周期しゅうき細胞さいぼう分裂ぶんれつかえ増殖ぞうしょくしている。この、一回いっかい分裂ぶんれつ増殖ぞうしょく周期しゅうき細胞さいぼう周期しゅうきび、たとえばいくつかの種類しゅるいのヒト培養ばいよう細胞さいぼう細胞さいぼう周期しゅうきやく24あいだである。しかし、細胞さいぼうXせん照射しょうしゃしてDNA損傷そんしょうこすと、この周期しゅうきながくなることがあきらかになった。このメカニズムが研究けんきゅうされた結果けっか細胞さいぼうにはDNA損傷そんしょうなどの遺伝子いでんし異常いじょうきると、それを検知けんちして細胞さいぼう周期しゅうき一旦いったん停止ていしさせる機構きこう存在そんざいすることが発見はっけんされ、この遺伝子いでんし異常いじょう監視かんし細胞さいぼう周期しゅうきめる機構きこう細胞さいぼう周期しゅうきチェックポイント名付なづけられた。りゃくしてチェックポイントともいわれる。

細胞さいぼう周期しゅうきチェックポイントは、

  • 遺伝子いでんし(DNA)に損傷そんしょうがないか(DNA損傷そんしょうチェック)
  • DNA複製ふくせい正常せいじょうおこなわれているか(DNA複製ふくせいチェック)
  • ゆういと分裂ぶんれつちゅうに、複製ふくせいされた染色せんしょくたい分離ぶんりまさしくおこなわれるか(スピンドルチェック)

などを監視かんししており、これらに異常いじょう検知けんちされると、チェックポイント制御せいぎょ因子いんしばれる複数ふくすう分子ぶんしぐん活性かっせいされて、細胞さいぼう周期しゅうき進行しんこうおくらせ、停止ていしさせる。

チェックポイント制御せいぎょ因子いんし活性かっせいされると、その異常いじょう原因げんいんのぞかれるまで、細胞さいぼう周期しゅうき停止ていしした状態じょうたいになる。このあいだに、たとえば軽度けいどのDNA損傷そんしょう場合ばあいには、DNA修復しゅうふく機構きこうはたらくことで損傷そんしょう修復しゅうふくされる。そして異常いじょう完全かんぜんのぞかれたと検知けんちされた時点じてんで、チェックポイントのはたらきが可逆かぎゃくてき解除かいじょされ、ふたた細胞さいぼう周期しゅうき進行しんこうする。このように細胞さいぼう周期しゅうきチェックポイントは、細胞さいぼう分裂ぶんれつ過程かてい異常いじょうしょうじた場合ばあいに、細胞さいぼう周期しゅうき一旦いったん停止ていしさせて異常いじょう原因げんいんのぞくことで、遺伝子いでんし異常いじょう子孫しそんつたわらないようにする役割やくわりたしているとかんがえられている。

また一方いっぽうで、重度じゅうどのDNA損傷そんしょう場合ばあいなどDNA修復しゅうふく機構きこうでも完全かんぜん修復しゅうふく出来できない場合ばあい、チェックポイント活性かっせいつづいて、その細胞さいぼうアポトーシスこして死滅しめつすることもあきらかになった。この機構きこうは、遺伝子いでんし異常いじょうこした細胞さいぼうが「自殺じさつ」することで、異常いじょう細胞さいぼう後世こうせいのこさないようする役割やくわりたしているとかんがえられている。細胞さいぼう周期しゅうきチェックポイントは、その細胞さいぼう損傷そんしょう修復しゅうふくふたた増殖ぞうしょくかうか、アポトーシスをこすかというスイッチの制御せいぎょにも関与かんよしているとかんがえられている。

チェックポイント機能きのう異常いじょうがおきると、内因ないいんせい外因がいいんせいのDNA損傷そんしょうによって、細胞さいぼう正確せいかくむすめ細胞さいぼう(コピー)をつくれなくなる場合ばあいおおくなる。たとえば、チェックポイント機能きのう不良ふりょうにより生存せいぞん必須ひっす遺伝子いでんし損傷そんしょうきた場合ばあい、その細胞さいぼうむすめ細胞さいぼうのこせずにやがて死滅しめつする。したがって、チェックポイント機能きのう異常いじょう遺伝いでん情報じょうほう正確せいかく伝達でんたつにおいておおきな不具合ふぐあいつことを意味いみし、生物せいぶつにとって重大じゅうだい脅威きょういとなりうる。実際じっさいにチェックポイント制御せいぎょ関与かんよするタンパク質たんぱくしつぐん変異へんいきると、その細胞さいぼうではDNA損傷そんしょうたいする感受性かんじゅせいして、アポトーシスなどの細胞さいぼうこしやすくなる。

分類ぶんるい

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細胞さいぼう周期しゅうきチェックポイントは、そのチェックポイントが細胞さいぼう周期しゅうきのどの段階だんかい(ステージ)に存在そんざいするかによって分類ぶんるいされ、これまでに (1) G1/Sチェックポイント、(2) Sチェックポイント、(3) G2/Mチェックポイント、(4) Mチェックポイントの4つが比較的ひかくてきよく解析かいせきされている。これらはそれぞれ複数ふくすうの、ことなるチェックポイント制御せいぎょ関連かんれん分子ぶんしによって制御せいぎょされており、その制御せいぎょ機構きこうきわめて複雑ふくざつである。

G1/Sチェックポイント

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G1からS移行いこうするさいのチェックポイント。G1DNAに損傷そんしょうがないこと、これからのDNA複製ふくせいのためのヌクレオチドなどが十分じゅうぶんあること、細胞さいぼうおおきさがチェックされる。細胞さいぼう生物せいぶつでは、増殖ぞうしょくゆるされているか(たとえば、サイトカインがあるか)、増殖ぞうしょく必要ひつよう細胞さいぼうであるか、などもチェックされる。がん抑制よくせい遺伝子いでんし産物さんぶつp53、RbとRbのホモログはこの制御せいぎょつかさどっているとわれる。

この制御せいぎょがDNA損傷そんしょうなどで活性かっせいするとS開始かいし、すなわちDNA複製ふくせい阻害そがいされ、細胞さいぼうはG1にとどまる。酵母こうぼなどで環境かんきょう条件じょうけんくない場合ばあい、または細胞さいぼう生物せいぶつにおいて細胞さいぼう分裂ぶんれつ適当てきとうでない場合ばあい、G1停止ていしながつづくとG0という休眠きゅうみん状態じょうたいはいることもある。G0ではタンパク質たんぱくしつ合成ごうせい抑制よくせいされ、細胞さいぼう周期しゅうき進行しんこうかかわるタンパク質たんぱくしつ一部いちぶ分解ぶんかいされる。

Sチェックポイント

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SのDNA複製ふくせいはやさを制御せいぎょし、DNA複製ふくせい不具合ふぐあい検知けんちされた場合ばあい複製ふくせいおくらせる機構きこう。DNA損傷そんしょうではヒトのATM蛋白質たんぱくしつはこの制御せいぎょ関与かんよしているとわれる。

G2/Mチェックポイント

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G2からM移行いこうするさいのチェックポイント。この制御せいぎょがDNA損傷そんしょうなどで活性かっせいするとM開始かいし阻害そがいされ、細胞さいぼうはG2にとどまる。DNA損傷そんしょう応答おうとうにおいては、ATR(ataxia-telangiectasia mutated related)がそれ自身じしんかあるいは因子いんしによって損傷そんしょう認識にんしきしたのちにリン酸化さんか活性かっせいされると、ATRはChk1をリン酸化さんかして活性かっせいする。活性かっせいがたChk1はCdc25Aのリン酸化さんか促進そくしん[1]、Cdc25AによるCdc2のだつリン酸化さんか阻害そがいするため、Cdc2はこうリン酸化さんかされた活性かっせい状態じょうたいたもたれ、M進行しんこうせずに細胞さいぼう周期しゅうき停止ていしする。また、活性かっせいされたp53(遺伝子いでんし転写てんしゃ因子いんし)は14-3-3s(シャペロン)を転写てんしゃし、それがリン酸化さんかCdc25と結合けつごうかくがい排出はいしゅつされるため、Cdc2が活性かっせいなままになる。よってM進行しんこう抑制よくせいされる。DNA損傷そんしょう認識にんしきのATRのリン酸化さんかかかわっている因子いんし現時点げんじてんでははっきりしていないが、ヒトがん抑制よくせい遺伝子いでんし産物さんぶつBRCA1がその役割やくわりにない、DNA損傷そんしょう応答おうとうしたG2/Mチェックポイントの制御せいぎょつかさどっているともわれている。 DNA複製ふくせい終了しゅうりょうたずに、M開始かいしする酵母こうぼ変異へんいかぶ考慮こうりょすると、監視かんし(チェック)期間きかんはSからG2にわたる比較的ひかくてきなが期間きかんであるとかんがえられる。

Mチェックポイント

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Mゆういと分裂ぶんれつ)の途中とちゅうにあるチェックポイントで、スピンドルチェックがおこなわれる。M細胞さいぼうでは、G2までのステップで複製ふくせいされたたい染色せんしょくぶんたいが、たがいにセントロメア付近ふきんコヒーシンふく合体がったいによって架橋かきょう結合けつごうし、また、このコヒーシンを切断せつだんするタンパク分解ぶんかい酵素こうそセパラーゼセキュリン結合けつごうすることで活性かっせいされた状態じょうたい存在そんざいする。

ゆういと分裂ぶんれつ過程かていつぎのステップとして、細胞さいぼう両極りょうきょくからびる紡錘ぼうすいいと微小びしょうかん)が、それぞれの染色せんしょくぶんたいのキネトコア(セントロメアの一部いちぶ)に結合けつごうする。一対いっつい染色せんしょくぶんたい対称たいしょうになるよう、まさしくかつ同時どうじに、紡錘ぼうすいいとかいして細胞さいぼう両極りょうきょく結合けつごうしているかどうかがチェックされる(分裂ぶんれつ染色せんしょくたい挙動きょどうについては、染色せんしょくたいこう参照さんしょう)。

分裂ぶんれつ後期こうき染色せんしょくぶんたい移動いどうさいしては、ユビキチンリガーゼであるAPC/CCdc20結合けつごうして活性かっせいすることが必要ひつようとなる。紡錘ぼうすいたいまさし形成けいせいされると、Cdc20の阻害そがいタンパクであるMad2がCdc20との結合けつごうからはずれ、APC/Cと結合けつごうする。活性かっせいしたAPC/Cによって、セキュリン蛋白たんぱくユビキチンされ、プロテアソーム依存いぞんてき分解ぶんかいされることでセパラーゼが活性かっせいし、染色せんしょくぶんからだあいだ架橋かきょうするコヒーシン蛋白たんぱく切断せつだんされる。これにより、染色せんしょくぶんたい紡錘ぼうすいたいきょくへと移動いどう可能かのうとなる。染色せんしょくぶんたい両極りょうきょくからびた微小びしょうかんひとしく結合けつごうしていないうちは、オーロラキナーゼなどのスピンドルチェックポイントタンパクの監視かんしによってAPC/Cの活性かっせい阻害そがいされ、染色せんしょくぶんたい分離ぶんり抑制よくせいする。

がんと遺伝いでんてき不安定ふあんていせいへの関連かんれん

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以下いかのことから、細胞さいぼう周期しゅうきチェックポイント制御せいぎょ部分ぶぶんてき破綻はたんはがんの発生はっせい進行しんこう(すなわち細胞さいぼう制御せいぎょ異常いじょう増殖ぞうしょく)のおおきなひとつの要因よういんではないかと推測すいそくされている。

  • 主要しゅようがん抑制よくせい遺伝子いでんし産物さんぶつp53、Rb、BRCA1は細胞さいぼう周期しゅうきチェックポイント制御せいぎょにも関与かんよする(上記じょうき)。
  • おおくのがん抑制よくせい遺伝子いでんし産物さんぶつはヒトのがんで頻繁ひんぱん活性かっせいされており、おおくのがんの原因げんいんであることがおおい。
  • 細胞さいぼう周期しゅうきチェックポイントは正確せいかく遺伝いでん情報じょうほう伝達でんたつのための基本きほんてき制御せいぎょ機構きこうであり、その異常いじょう遺伝いでんてき不安定ふあんていせいをもたらす。
  • 遺伝いでんてき不安定ふあんていせいおおくのがん細胞さいぼう主要しゅよう特徴とくちょうである。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ Mei-Shya Chen, Christine E. Ryan, and Helen Piwnica-Worms, Chk1 Kinase Negatively Regulates Mitotic Function of Cdc25A Phosphatase through 14-3-3 Binding, Mol Cel Biol(2003), 23, 7488-7497