脱亜入欧だつあにゅうおう

脱亜入欧だつあにゅうおう（だつあにゅうおう、旧きゅう字体じたい：脫亞入歐だつあにゅうおう）とは、明治めいじ時代じだい（19世紀せいき末すえ）の日本にっぽんにおいて、「後進こうしん世界せかいであるアジアを脱だっし、ヨーロッパ列強れっきょうの一員いちいんとなる」ことを目的もくてきとしたスローガンや思想しそうである。後のちには他たのアジアの国くにの同様どうようの動うごきについて使つかわれることもある。

歴史れきし

スローガン

「脱亜入欧だつあにゅうおう」という言葉ことばは、欧米おうべい列強れっきょうが植民しょくみん地ち戦争せんそうを繰くり広ひろげていた明治めいじ時代じだいに、『日本にっぽん之の輿論よろん　一いち名めい・当世とうせい名士めいし時事じじ活かつ論ろん』（1887年ねん（明治めいじ20年ねん））の鈴木すずき券けん太郎たろうなど在野ざいやの日本人にっぽんじんが造語ぞうごし流布るふさせた言葉ことばである。また、明治めいじ政府せいふの各種かくしゅスローガン「文明開化ぶんめいかいか」「殖産しょくさん興業こうぎょう」「四民しみん平等びょうどう」「国民こくみん皆兵かいへい」「富国強兵ふこくきょうへい」をひとくくりにして分わかりやすく表現ひょうげんした在野ざいやのスローガンである。『五ご箇条かじょうの御ご誓文せいもん』（1868年ねん（慶応けいおう4年ねん）3月14日にち）以降いこう『前ぜん近代きんだい的てきなものを卒業そつぎょうして近代きんだい国民こくみん国家こっかになるべきだ』と努力どりょくし続つづけていた明治めいじ中頃なかごろまでの日本国にっぽんこく政府せいふや『学問がくもんのすゝめ』（1872年ねん（明治めいじ5年ねん）-1876年ねん（明治めいじ9年ねん））の福澤ふくさわ諭吉ゆきちの意図いととは異ことなり、「脱亜入欧だつあにゅうおう」という分わかりやすいスローガンのほうが日本にっぽん国民こくみんの多おおくに幅広はばひろく浸透しんとうし流布るふした言葉ことばと考かんがえられる。

丸山まるやま眞男まさおの調査ちょうさによれば、「脱亜入欧だつあにゅうおう」という成句せいくが使用しようされた最もっとも古ふるい史料しりょうは1887年ねん（明治めいじ20年ねん）4月がつ14日にちに『山陽さんよう新報しんぽう』に掲載けいさいされた社説しゃせつ「欧化おうか主義しゅぎヲ貫つらぬけカサル可かラス」である。執筆しっぴつしたのは山陽さんよう新報しんぽうの主筆しゅひつであった鈴木すずき券けん太郎たろうである。この社説しゃせつの中なかで「脱亜入欧だつあにゅうおう」という成句せいくが4回かい使用しようされている。この社説しゃせつは鈴木すずき (1887b)、鈴木すずき (1887c)、鈴木すずき (1888)に収録しゅうろくされた。

脱だつ亜あ論ろんとの関係かんけい

1885年ねん（明治めいじ18年ねん）に福澤ふくさわ諭吉ゆきちが書かいたとされる論説ろんせつ『脱だつ亜あ論ろん』の考かんがえ方かたが「脱亜入欧だつあにゅうおう」の考かんがえ方かたであると指摘してきされることがあるが、これは表面ひょうめん上じょうも内容ないよう上じょうも誤あやまりである。福澤ふくさわは、確たしかに欧米おうべいの先進せんしん文明ぶんめいを吸収きゅうしゅうすべきであると繰くり返かえし主張しゅちょうしているが、「一身いっしん独立どくりつして一いち国こく独立どくりつす」（『学問がくもんのすすめ』初はつ編へん）とも明確めいかくに主張しゅちょうしている。従したがって、署名しょめい著作ちょさく・『時事新報じじしんぽう』論説ろんせつのすべてにおいて「入いれ欧おう」という言葉ことばを一いち度ども使用しようしていない。さらに福澤ふくさわが「脱亜入欧だつあにゅうおう」という語句ごくと関連付かんれんづけられるようになったのは第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ごの1950年代ねんだい以降いこうの事ことである。また、福澤ふくさわの『脱だつ亜あ論ろん』は、アジア諸国しょこくに対たいしては、欧米おうべい列強れっきょうに対抗たいこうする上じょうで支ささえ那な・朝鮮ちょうせんなどのアジア諸国しょこくが明治維新めいじいしんを成なし遂とげた日本にっぽんと共同きょうどう歩調ほちょうを取とれるよう自みずから進化しんかし連携れんけいしてくれる事ことが望のぞましいとはしているものの、「近隣きんりんの支ささえ那な・朝鮮ちょうせんでさえ余あまりにも前ぜん近代きんだいの体制たいせいに固執こしつし続つづけているため、彼かれらの進化しんかを待まっていては日本にっぽんが不当ふとうに立たち遅おくれてしまう。もはや待まっている訳わけには行いかぬ」という趣旨しゅしでのみ「脱だつ亜あ」を主張しゅちょうしているに過すぎない。

興亜こうあ会かい（興亜こうあ論ろん）との関係かんけい

福澤ふくさわの『脱だつ亜あ論ろん』（1885年ねん（明治めいじ18年ねん））によって反駁はんばくされた格好かっこうの『興亜こうあ論ろん』は、興亜こうあ会かい（1880年ねん（明治めいじ13年ねん）-）を中心ちゅうしんに展開てんかいされていた汎ひろしアジア主義しゅぎであるが、その興亜こうあ会かいに勝かつ海舟かいしゅうや福澤ふくさわ諭吉ゆきち自身じしんが顧問こもんとして参加さんかしている。ところが、福澤ふくさわに反駁はんばくされたはずの『興亜こうあ論ろん』が、後のちに日にち清しん戦争せんそうと日にち露ろ戦争せんそうに勝利しょうりしたのを機きに興亜こうあ会かいを吸収きゅうしゅうした東亜とうあ同文どうぶん会かいなどを中心ちゅうしんとして「八紘はっこう一宇いちう」「五ご族ぞく協和きょうわ」といったスローガンで喧伝けんでんされ、日本にっぽんを盟主めいしゅとすべきとする侵略しんりゃく正当せいとう化か論ろんに変質へんしつする。そして、昭和しょうわ前半ぜんはんの多おおくの日本にっぽんの軍人ぐんじん・政治せいじ家か・公務員こうむいんが日にち中ちゅう戦争せんそう・太平洋戦争たいへいようせんそうに突つき進すすむ心理しんり的てき要因よういんの一部いちぶになる。よって、東亜とうあ同文どうぶん会かいなどにより変質へんしつさせられた『興亜こうあ論ろん』が、昭和しょうわ前半ぜんはんに日本人にっぽんじんの多おおくが帝国ていこく主義しゅぎ・覇権はけん主義しゅぎ・侵略しんりゃく主義しゅぎ・全体ぜんたい主義しゅぎを信奉しんぽうし正当せいとう化かする契機けいきとなった思想しそうであり、その対極たいきょくの福澤ふくさわ諭吉ゆきちの『脱だつ亜あ論ろん』とそれを単純たんじゅん化かし分わかりやすく表現ひょうげんした鈴木すずき券けん太郎たろうらの「脱亜入欧だつあにゅうおう」論ろんとは性格せいかくが異ことなる。

中国ちゅうごく・韓国かんこくでの認識にんしき

中国ちゅうごく・韓国かんこくでは、「福澤ふくさわ諭吉ゆきちが脱亜入欧だつあにゅうおうを唱となえて明治めいじ時代じだいの日本にっぽんの世論せろんを先導せんどうして日本にっぽんの文明開化ぶんめいかいかを推おし進すすめた反面はんめん、中国ちゅうごく・韓国かんこくに対たいする蔑視べっしや侵略しんりゃく主義しゅぎ、さらに第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんへと導みちびいた元凶げんきょうにもなった」と認識にんしきされている。

2012年ねん（平成へいせい24年ねん）4月がつ29日にち、『サーチナ』は中国ちゅうごくの検索けんさくサイト百ひゃく度どの掲示板けいじばんに「中国ちゅうごくは日本にっぽんのように脱亜入欧だつあにゅうおうできるか？」というスレッドが立たったと報ほうじた。スレのレスでは、「福澤ふくさわ諭吉ゆきちが『時事新報じじしんぽう』に有名ゆうめいな短文たんぶん「脱だつ亜あ論ろん」を掲載けいさいして、中華ちゅうか思想しそうや儒教じゅきょうを廃はいし、西洋せいよう文明ぶんめいを吸収きゅうしゅうして、アジアを脱だっしアジア諸国しょこくとは絶交ぜっこうすることを主張しゅちょうした」との指摘してきがなされた。

2011年ねん（平成へいせい23年ねん）12月16日にち、韓国かんこくの『毎日新聞まいにちしんぶん』はジョン・インヨル論説ろんせつ委員いいんの「脱だつ亜あと興亜こうあ〜福澤ふくさわ諭吉ゆきちの残のこした「脱亜入欧だつあにゅうおう」の亡霊ぼうれいがまだ日本にっぽんを覆おおっている」というコラムを掲載けいさいした。ジョンはそのコラムの中なかで、「福澤ふくさわ諭吉ゆきちは今日きょうの日本にっぽんで国父こくふのように尊敬そんけいされている。そのため日本にっぽんの最高さいこう額がく紙幣しへいの1万まん円えんに描えがかれた彼かれは、1885年ねん、文章ぶんしょうを通つうじて『文明ぶんめい国家こっかになるためにアジアを脱だっしてヨーロッパを指向しこうしなければならない』として「脱亜入欧だつあにゅうおう」を主張しゅちょうした」と記しるしている。

トルコの場合ばあい

現代げんだいのトルコの国土こくどは大だい部分ぶぶんがアジア、一部いちぶがヨーロッパにまたがっているが、政府せいふの公式こうしき見解けんかいではヨーロッパの一いち国こくとしてNATOに加盟かめい、さらに欧州おうしゅう連合れんごうへの加盟かめいを推進すいしん中ちゅうである。

参考さんこう文献ぶんけん

• 丸山まるやま眞男まさお 著しる、松沢まつざわ弘ひろし陽ひ 編へん『福沢ふくさわ諭吉ゆきちの哲学てつがく　他た六ろく篇へん』岩波書店いわなみしょてん〈岩波いわなみ文庫ぶんこ 青あおN104-1〉、2001年ねん6月がつ15日にち。ISBN 978-4-00-381041-5。 
• 丸山まるやま眞男まさお 著ちょ「福沢ふくさわ諭吉ゆきちの「脱だつ亜あ論ろん」とその周辺しゅうへん　1990年ねん9月がつ」、丸山まるやま眞男まさお手帖てちょうの会かい 編へん『丸山まるやま眞男まさお話ばなし文集ぶんしゅう』 4巻かん、みすず書房しょぼう、2009年ねん3月がつ19日にち、2-56頁ぺーじ。ISBN 978-4-622-07384-0。 

参考さんこう資料しりょう

• 鈴木すずき券けん太郎たろう (1887年ねん4月がつ14日にち). “欧化おうか主義しゅぎヲ貫つらぬけカサル可かラス”. 山陽さんよう新報しんぽう (山陽新聞社さんようしんぶんしゃ) 
  • 鈴木すずき券けん太郎たろう 著ちょ「欧化おうか主義しゅぎヲ貫つらぬけカサル可かラス」、内山うちやま正ただし如 編へん『日本にっぽん之の輿論よろん　一いち名めい・当世とうせい名士めいし時事じじ活かつ論ろん』博文ひろぶみ館かん、1887年ねん7月がつ。NDLJP:783632/41。 
  • 鈴木すずき券けん太郎たろう 著ちょ「欧化おうか主義しゅぎを貫つらぬけカさる可からず」、内山うちやま正ただし如 編へん『日本にっぽん之の輿論よろん　一いち名めい・当世とうせい名士めいし時事じじ活かつ論ろん』国友くにとも館かん、1887年ねん11月。NDLJP:783633/42。 
  • 鈴木すずき券けん太郎たろう 著ちょ「欧化おうか主義しゅぎヲ貫つらぬけカサル可かラス」、内山うちやま正ただし如 編へん『日本にっぽん之の輿論よろん　一いち名めい・当世とうせい名士めいし時事じじ活かつ論ろん』精せい文ぶん堂どう、1888年ねん2月がつ。NDLJP:783634/29。 

関連かんれん項目こうもく

• 脱だつ亜あ思想しそう
• 脱だつ亜あ論ろん
• 文明開化ぶんめいかいか
• 西洋せいよう化か
• 中国ちゅうごく脅威きょうい論ろん - 特定とくていアジア - 反はん中なか（嫌いや中なか） - 嫌いや韓かん
• 明治維新めいじいしん - 洋よう務つとむ運動うんどう
• 日にち英えい同盟どうめい
• 八はちカ国かこく連合れんごう軍ぐん
• 日米にちべい同盟どうめい
• ワシントン会議かいぎ (1922年ねん) - 帝国ていこく主義しゅぎ
• 価値かち観かん外交がいこう - セキュリティダイヤモンド構想こうそう - 日にち米べい豪ごう印しるし戦略せんりゃく対話たいわ

外部がいぶリンク

• デジタル大辞泉だいじせん『脱亜入欧だつあにゅうおう』 - コトバンク