通つう化か事件じけん

旧きゅう満まん洲しゅう国こく通どおり化か省しょう通どおり化か市し（現げん吉林きつりん省しょう通どおり化か市し）

通つう化か事件じけん（つうかじけん）とは、国共こっきょう内戦ないせん時期じきの中国ちゅうごく東北とうほく部ぶ（かつてのいわゆる「満まん洲しゅう国こく」通つう化か省しょう通つう化か市し）で、当時とうじの中華民国ちゅうかみんこく政府せいふ（国民党こくみんとう）軍ぐん側がわと共闘きょうとうした日本人にっぽんじんらによる武装ぶそう叛乱はんらん蜂起ほうきと赤十字せきじゅうじ病院びょういん襲撃しゅうげきの失敗しっぱい事件じけんである。多おおくの日本人にっぽんじんが犠牲ぎせいとなり、最大さいだいで3000人にん以上いじょうが死しんだとされる。

通つう化かは1946年ねん2月がつ3日にち当時とうじ、すでに実質じっしつ的てきに中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐん側がわによって占領せんりょうされていた。失敗しっぱい後ごの鎮圧ちんあつ過程かていで中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐん（八はち路ろ軍ぐん）および朝鮮ちょうせん人民じんみん義勇軍ぎゆうぐん南みなみ満みつる支隊したい（李り紅くれない光こう支隊したい、新しん八はち路ろ軍ぐん）による中国ちゅうごく国民党こくみんとう員いんや日本人にっぽんじんらに対たいする制圧せいあつ・逮捕たいほ・取調とりしらべ・判決はんけつ・刑けい執行しっこうにおいて、多数たすうの冤罪えんざい・虐待ぎゃくたいや虐殺ぎゃくさつがあったとされる。日本人にっぽんじん犠牲ぎせい者しゃ数すうについて諸説しょせつあるが、少すくない説せつで武装ぶそう叛乱はんらん戦闘せんとうとその後ごの「処分しょぶん」との合計ごうけいで約やく800人にん、多おおい説せつでは約やく3000人にんの死者ししゃが出でたとされ、その中なかには蜂起ほうきに参加さんかさえしていなかった一般いっぱん市民しみんもいたとみられる。

中国ちゅうごくでは通つう化か二に・三さん事件じけんなどと呼よばれる。

当時とうじの中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんと朝鮮ちょうせん人民じんみん義勇軍ぎゆうぐん

「朝鮮ちょうせん義勇軍ぎゆうぐん」および「東北とうほく民主みんしゅ連れん軍ぐん」も参照さんしょう

当時とうじ、先さきに進駐しんちゅうしていた朝鮮ちょうせん人民じんみん義勇軍ぎゆうぐん（李り紅くれない光こう支隊したい）と延のべ安やすからの正規せいきの中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんを中共ちゅうきょう軍ぐんまたは八はち路ろ軍ぐんと包括ほうかつ的てきに呼称こしょうした。ただし、中ちゅうソ友好ゆうこう同盟どうめい条約じょうやくによって満まん洲しゅうで中国共産党ちゅうごくきょうさんとうが活動かつどうすることは許ゆるされていなかったため、東北とうほく民主みんしゅ連れん軍ぐんなどと称しょうしていた。彼かれらはもともと満まん洲しゅうで中国共産党ちゅうごくきょうさんとうによって設立せつりつされ、抗日こうにち活動かつどうしていた東北とうほく抗こう日連ひづれ軍ぐんの残党ざんとうがソ連それんの後押あとおしを受うけて再編さいへんされたもので、延のべ安やすの本部ほんぶとはなかなか連絡れんらくがとれず、1945年ねん10月がつにようやく延のべ安やす本部ほんぶとの合併がっぺいが決きまった。延のべ安やすの八はち路ろ軍ぐんに対たいして日本人にっぽんじんは彼かれらを新しん八はち路ろと呼よんでいた。

背景はいけい

中華民国ちゅうかみんこく政府せいふに降伏ごうぶくする日本にっぽん軍ぐん（1945年ねん9月がつ）

当時とうじの通つう化かの状況じょうきょう

通つう化かは第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん/日にち中ちゅう戦争せんそうの終戦しゅうせん時じに中華民国ちゅうかみんこく政府せいふの統治とうち下かに置おかれ、満まん洲しゅう国こく通つう化か省しょう王道おうどう院いん院長いんちょうを務つとめた孫まご耕こう暁あかつきが国民党こくみんとう通どおり化か支部しぶ書記しょき長ちょうに就任しゅうにんし、満まん洲しゅう国軍こくぐんや満まん洲しゅう国こく警察けいさつが転籍てんせきした中華民国ちゅうかみんこく政府せいふ軍ぐんによって統治とうちされていた。通つう化か市しはもともと日本人にっぽんじん8千せん人にんを含ふくむ、複数ふくすうの民族みんぞくが居住きょじゅうする人口じんこう14万まん人にんの都市としであった。ソ連それん進攻しんこうに対応たいおうした日本にっぽん兵へいの集中しゅうちゅうや大勢おおぜいの日本人にっぽんじん難民なんみんの到来とうらいにより日本人にっぽんじんが増加ぞうかし、日本にっぽん系けい大だい企業きぎょうの寮りょう･社宅しゃたくやそれまでに設営せつえいされていた軍ぐん関係かんけいの施設しせつさらに料亭りょうてい等とうに収容しゅうようするだけでは足たりず、日本人にっぽんじんで広ひろい屋敷やしき・住居じゅうきょを有ゆうする者ものの邸宅ていたくのほか、狭せまい満まん洲しゅう式しきの建物たてものに住すむ日本人にっぽんじんのところ、1945年ねん8月がつ18日にちに通つう化か国民こくみん学校がっこうに設置せっちされた避難ひなん民みん収容しゅうよう所しょにも分散ぶんさんして収容しゅうようさせた。通つう化かに避難ひなんしてきた女性じょせいたちは顔かおに泥どろやススを付つけて坊主ぼうず頭あたまにして男物おとこものの衣類いるいを着きていた者ものや、麻あさ袋ぶくろに穴あなを空あけたものに縄なわ帯たいしたものやぼろぼろの姿すがたの者ものもいた。居留民きょりゅうみん会かいが結成けっせいされ、軍ぐんの貯蔵ちょぞう物資ぶっしを利用りようしたほか、通つう化かの在留ざいりゅう邦人ほうじんから衣服いふく等とうが提供ていきょうされた。武装ぶそう解除かいじょされた日本にっぽん兵へいは次々つぎつぎと吉よし林りん、次ついでシベリアへと送おくられていった（シベリア抑留よくりゅう）が、同年どうねん8月がつ13日にちに発生はっせいした小山こやま克かつ事件じけんに巻まき込こまれた避難ひなん民みんも到着とうちゃくしており、日本人にっぽんじんの人口じんこうは1万まん5千せん人にんとも一時いちじは3万まん人にんになっていたともされる。なお、10万まん人にんの難民なんみんが滞在たいざいしていたとする説せつもあるが、1945年ねん12月がつ末まつの中国ちゅうごく側がわ資料しりょうによる通つう化か市しの日本人にっぽんじんの人口じんこうは1万まん6千せん人にんとされる。（なお、もともとの居留民きょりゅうみんの2～3倍ばいの難民なんみんを受うけ入いれた後のち、さらに500～600名めいの難民なんみんの受入うけいれ要請ようせいがソ連それん軍ぐんから来きた時ときには、これ以上いじょう受うけ入いれれば共倒ともだおれになるとして、当初とうしょ通どおり化か市し側がわは受入うけいれに大変たいへんな難色なんしょくを示しめしている。）

既すでに終戦しゅうせん前まえから反日はんにち運動うんどうの地下ちか工作こうさくが全ぜん満まん洲しゅうに行いきわたっており、国民党こくみんとう･共産党きょうさんとうともに通つう化かに浸透しんとうしていた。もともと満まん洲しゅうでは、日本にっぽんや日本にっぽん軍ぐんの南方なんぽうでの戦たたかいのために全土ぜんどで食糧しょくりょうの供出きょうしゅつ割当わりあてが強制きょうせい的てきに押おしつけられ、当とうの生産せいさんした農民のうみんには豆粕まめかすが配給はいきゅうされ、それも日本人にっぽんじん優先ゆうせんで満まん人ひと・朝鮮ちょうせん人じんは後回あとまわしにされるという状況じょうきょうであった。さらに、日本人にっぽんじん農家のうかのための農地のうち造成ぞうせいや石炭せきたん増産ぞうさんのために、各かく集落しゅうらくに勤労きんろう奉仕ほうしの割当わりあてがある等ひとし、現地げんち人じんの怒いかりが高たかまっていた。また、当時とうじの満まん洲しゅう製鉄せいてつは矯正きょうせい輔導ほどう院いんに収容しゅうようされた輔導ほどう工こうを重要じゅうような労働ろうどう力りょくとしていたが、輔導ほどう院いんには本来ほんらい対象たいしょうとなる筈はずの刑事けいじ犯はん･思想しそう犯はんだけでなく中国ちゅうごく兵へい捕虜ほりょ、さらには一般いっぱんの現地げんち良民りょうみんまでが入いれられ、二道ふたみち江こうについては不明ふめいながら、鞍山あんざんや通つう化か近ちかくの石いし人じんの鉱業こうぎょう所しょには輔導ほどう工こうがいて、戦前せんぜん･戦中せんちゅうはタコ部屋へや労働ろうどう（監禁かんきんされ、虐待ぎゃくたいや暴力ぼうりょくを受うけて強制きょうせい労働ろうどうをさせられるもので、はなはだしい場合ばあいは見みせしめにリンチを受うけて殺ころされていた。当時とうじは日本にっぽん本土ほんどにおいてすら、場所ばしょによっては公然こうぜんの秘密ひみつのように、このようなことが横行おうこうしていた。）をさせられていたという。なお、石いし人じんは万まん人にん坑あなの一ひとつがあったところとして知しられる。

佐藤さとう和明かずあきは、関東軍かんとうぐんがソ連それん軍ぐんに渡わたすくらいならと衣類いるい・毛布もうふを日本人にっぽんじんにのみ分配ぶんぱいした後のち、集あつまった中国人ちゅうごくじんら（彼かれの父ちちの記録きろくによると満まん人ひととされている）が分配ぶんぱいを懇願こんがんしているにもかかわらず、逆撫さかなでするかのように彼かれらの眼前がんぜんで焼却しょうきゃくしていたことを目撃もくげきしている。

ソビエト軍ぐん・中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんの進駐しんちゅうと暴行ぼうこう

通つう化か高等こうとう女学校じょがっこうの校長こうちょうであったという北野きたの憲二けんじの回想かいそう記きによると、1945年ねん8月がつ20日はつか、アジア系けいの正体しょうたい不明ふめいの兵へい2名めいが四よん輪りん駆動くどう車くるまで乗のり付つけてきた。彼かれらは、ソ連それん兵へいの持もつ短たん機関きかん銃じゅうを持もっていた一方いっぽうで、日本にっぽん軍ぐん将校しょうこうの軍服ぐんぷくを着込きこみ、満まん洲しゅう人じん訛なまりの日本語にほんごで話はなしてきたかと思おもえば、ロシア語ごの単語たんごを口くちにしたという。彼かれらは校内こうないに侵入しんにゅうし、女おんな生徒せいとたちがバレーボールの練習れんしゅうを終おえて校舎こうしゃに戻もどろうとすると最さい後尾こうびの女おんな生徒せいとの腕うでを掴つかんで引ひきずり出だそうとした。古こ荘そう康光やすみつ校長こうちょうと村田むらた研けん次じ教諭きょうゆが止とめに入はいると銃じゅうを乱射らんしゃし始はじめたため、20代だいの女性じょせい教師きょうしが自みずから身代みがわりとなって連行れんこうされた。連絡れんらくを受うけた通つう化か守備しゅび隊たいの中村なかむら一夫かずお大尉たいいは直ただちに兵士へいし40名めいを乗のせたトラック2台だいとともに駆かけつけ、男性だんせい教師きょうしたちと共同きょうどうで彼かれらの四よん輪りん駆動くどう車しゃを捜索そうさくしたが発見はっけんできなかった。女性じょせい教師きょうしは深夜しんやに解放かいほうされたが、その晩ばん自殺じさつした。

翌日よくじつ、再ふたたび2名めいは女学校じょがっこうに侵入しんにゅうすると女おんな生徒せいとか昨日きのうの女性じょせいと金品きんぴんを出だすよう要求ようきゅうした。村田むらた教師きょうしが「女性じょせいは自殺じさつした」と述のべると、他たの女性じょせいを出だすよう要求ようきゅうされたため、隠かくし持もっていた拳銃けんじゅうで2人ふたりを射殺しゃさつした。教師きょうしたちはソビエト兵へいを埋葬まいそうして線香せんこうと花はなを手向たむけると、菅原通すがはらどおり化か省しょう公おおやけ署しょ次長じちょうと中村なかむら大尉たいいに連絡れんらくし、寄宿きしゅく生せいを連つれて通つう化かを脱出だっしゅつした。1945年ねん8月がつ24日にち、ソビエト軍ぐん中佐ちゅうさ以下いか将校しょうこう20名めい、兵へい200名めいからなるソビエト軍ぐんが通つう化かに特別とくべつ列車れっしゃで進駐しんちゅう。部隊ぶたいの多おおくは油あぶらや泥どろにまみれた軍服ぐんぷく、軍靴ぐんか姿すがたで、その軍靴ぐんかの多おおくは関東軍かんとうぐんのものであった。さらに、半数はんすうは兵士へいしの関東軍かんとうぐんの三さん八はち式しき歩兵ほへい銃じゅうや九きゅう九きゅう式しき短小たんしょう銃じゅうなどの装備そうびであり、日本にっぽん軍ぐんでは採用さいようされないほど貧弱ひんじゃくな体格たいかくの兵へいも多おおく、出迎でむかえた人々ひとびとにはみすぼらしく貧弱ひんじゃくに映うつった。ソビエト軍ぐんは司令しれい部ぶを満まん洲しゅう中央ちゅうおう銀行ぎんこう通つう化か支店してん、日本興業銀行にほんこうぎょうぎんこう通つう化か支店してんを経へて龍泉りゅうせんホテルに設置せっちした。また、ソビエト軍ぐんによって武装ぶそう解除かいじょされた関東軍かんとうぐんの兵器へいきを譲渡ゆずりわたされた中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんも同市どうしに進駐しんちゅうした。

占領せんりょう下かの日本人にっぽんじんはソビエト軍ぐんによる強姦ごうかん・暴行ぼうこう・略奪りゃくだつ事件じけんなどにも脅おびやかされていた。この段階だんかいでは日本にっぽん軍ぐん憲兵けんぺい隊たいはシベリアに連行れんこうされずに治安ちあん活動かつどうを行おこなっており、ソビエト軍ぐんの蛮行ばんこうを傍観ぼうかんしていたわけではなかった。原はら憲兵けんぺい准尉じゅんいはソビエト兵へいが女性じょせいを襲おそっているとの通報つうほうを受うけ、現場げんばに駆かけ付つけると、白昼はくちゅうの路上ろじょうでソビエト兵へいが日本にっぽん女性じょせいを裸はだかにして強姦ごうかんしていたため女性じょせいを救すくおうと制止せいししたが、ソビエト兵へいが行為こういを止とめないため、やむなく軍刀ぐんとうで殺害さつがいした。原はら准尉じゅんいは直後ちょくごに別べつのソビエト兵へいに射殺しゃさつされ、この事件じけん以降いこうは日本にっぽん刀がたなも没収ぼっしゅうの対象たいしょうとなった。ソビエト兵へいによる日本にっぽん女性じょせいへの強姦ごうかんは路傍ろぼう、屋内おくないをとわず頻発ひんぱつしていた。女性じょせいは外出がいしゅつを避さけ、丸坊主まるぼうずに頭あたまを刈かる娘むすめたちが多おおかった。日本人にっぽんじん居留民きょりゅうみん会かいがソビエト軍ぐん司令しれい部ぶに苦衷くちゅうを訴うったえると、取締とりしまりを約やくする代かわりに日本人にっぽんじん女性じょせいを慰安いあん婦ふとして司令しれい部ぶに供出きょうしゅつするようかえって要求ようきゅうが出だされたため、居留民きょりゅうみん会かいは料亭りょうていで働はたらく日本人にっぽんじん女性じょせいたちに犠牲ぎせいとなるよう頼たのみ込こみ慰安いあん婦ふとして供出きょうしゅつした。ソビエト軍ぐん司令しれい部ぶは女性じょせいたちが司令しれい部ぶに出頭しゅっとうすると素人しろうと娘むすめでなければ認みとめないと要求ようきゅうしたが、同行どうこうしていた居留民きょりゅうみん会かい救済きゅうさい所長しょちょう宮川みやがわ梅うめ一いちはこれを拒否きょひし、後日ごじつソビエト軍ぐん司令しれい部ぶも折おれたという。

上記じょうきのような話はなしの一方いっぽうで、通つう化かに来きたソ連それん兵士へいしはまだしも規律きりつがあった方ほうで、彼かれらの流儀りゅうぎか、掠奪りゃくだつはひどかったものの婦女ふじょ暴行ぼうこうは上官じょうかん命令めいれいで止とめられていたらしく聞きかれなかったが、しばらくしてから司令しれい部ぶから婦女子ふじょしを要求ようきゅうしてきた、そこで元もと慰安いあん婦ふだった女性じょせいらが通つう化かで足止あしどめされていたので、彼女かのじょらに犠牲ぎせいになってもらう代かわりに訪問ほうもん着ぎや晴はれ着ぎを彼女かのじょたちに提供ていきょうするなど出来できる限かぎりのことをしたとする証言しょうげんや、さらにより事情じじょうに通つうじていた者ものからと見みられるものとして、ソ連それん兵士へいしの婦女ふじょ暴行ぼうこうを元々もともとおそれていたところ、その顕あらわわれとみられる幾いくつかの小しょう事件じけんが聞きかれたために、日本人にっぽんじん側がわが司令しれい部ぶに掛かけ合あい、女性じょせいを出だすことにして元もと酌婦しゃくふ･芸妓げいぎに因果いんがを含ふくめ慰謝いしゃ料りょうを与あたえて司令しれい部ぶに送おくり込こんだという証言しょうげん、さらには、奥おく佐たすくの『通つう化かに想おもう』（昭和しょうわ58年ねん10月がつ私家しか版ばん『望郷ぼうきょうから友好ゆうこうへー通どおり化かへの旅たび』所載しょさい）によれば、各地かくちでの暴行ぼうこうや強姦ごうかんの話はなしが伝つたわっていたため、実際じっさいには、ソ連それん軍ぐんの入城にゅうじょう時じには、既すでに居留民きょりゅうみん会かいで因果いんがをふくめて犠牲ぎせいとなる女性じょせいを準備じゅんびしていたという証言しょうげん等ひとしがある（他たに同種どうしゅの証言しょうげんは式しき本ほん米よね太郎たろう等ひとし）。

日本人にっぽんじんはソビエト軍ぐん進駐しんちゅう時じにラジオを全すべて没収ぼっしゅうされたため、外部がいぶの情勢じょうせいを知しることは困難こんなんとなった。また、中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんは日本にっぽん軍ぐんの脱走だっそう兵へい狩かりを行おこない、600人にんを検挙けんきょした後のち、吉よし林りんへ連行れんこうした。

中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんの単独たんどく進駐しんちゅう以降いこう

大村おおむら卓たく一いち

ソビエト軍ぐんの撤退てったい後ご、通つう化かの支配しはいを委譲いじょうされた中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんは、楊万まん字じ通つう化か省しょう長ちょう、超ちょう通つう化か市長しちょう、菅原すがわら達郎たつお通つう化か省しょう次長じちょう、川内かわうち亮あきら通つう化か県けん副ふく県けん長ちょう、川瀬かわせ警務けいむ庁ちょう長ちょう、林はやし通とおる化か市し副ふく市長しちょうなどの通つう化か省しょう行政ぎょうせいの幹部かんぶを連行れんこうし、拷問ごうもんや人民じんみん裁判さいばんの後のち、中国人ちゅうごくじん幹部かんぶを全員ぜんいん処刑しょけいした。また、中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんは「清算せいさん運動うんどう」と称しょうして民族みんぞくを問とわず通つう化か市民しみんから金品きんぴんを掠奪りゃくだつした。9月22日にちには、中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんが中華民国ちゅうかみんこく政府せいふ軍ぐんを攻撃こうげきし、通つう化かから駆逐くちくした。国民党こくみんとうは満まん洲しゅう人じんの襲撃しゅうげきから日本人にっぽんじん居留民きょりゅうみんを護まもってくれることもあったが、八はち路ろ軍ぐんは朝鮮ちょうせん人じんが主体しゅたいでもともと抗日こうにち意識いしきが強つよく、日本人にっぽんじんに反感はんかんが強つよく、彼かれら自身じしんが公然こうぜんと日本人にっぽんじんに対たいする掠奪りゃくだつなどを行おこなった。さらに、10月がつ10日とおかには中国人ちゅうごくじんが蜂起ほうきして日本人にっぽんじんを皆殺みなごろしにするというデマが流ながれ、これ以降いこう同種どうしゅのデマがたびたび流ながれるようになり、日本人にっぽんじん居留民きょりゅうみん側がわにも「やられる前まえに殺やったほうが・・・」と言いうギャンブル「一発いっぱつ逆転ぎゃくてん」意識いしきが強つよまっていったとされる。

10月23日にち、正規せいきの中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんの一いち個こ師団しだんが新あらたに通つう化かに進駐しんちゅう。11月2日にち、中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐん劉りゅう東元ひがしもと司令しれいが着任ちゃくにんする（時期じきについては諸説しょせつある）。司令しれい部ぶの置おかれた龍泉りゅうせんホテルでは「龍泉りゅうせんホテル」の看板かんばんが「東北とうほく民主みんしゅ連れん軍ぐん東ひがし辺べ道どう地区ちく司令しれい部ぶ」の看板かんばんに掛かけ替かえられ、屋上おくじょうには赤旗あかはたが掲かかげられた。共産党きょうさんとう軍ぐんは民族みんぞくを問とわず平均へいきん運動うんどうを進すすめ、持もてる者ものから財産ざいさんの供出きょうしゅつを図はかったが、抵抗ていこうが強つよく、遅々ちちとして捗はかどらなかった。その報復ほうふくとして、11月2日にち、中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんは17,000名めいを超こえる日本人にっぽんじんに対たいしては、収容しゅうよう能力のうりょく5,000名めい以下いかの旧きゅう関東軍かんとうぐん司令しれい部ぶ（南大みなみおお営）への移動いどう命令めいれいを出だした。日本人にっぽんじん1人にんにつき毛布もうふ1枚まいと500円えんの携行けいこう以外いがいは認みとめないとした。

11月18日にち、従来じゅうらいの日本人にっぽんじん居留民きょりゅうみん会かいが解散かいさんされ、中国共産党ちゅうごくきょうさんとうからの意思いし命令めいれい伝達でんたつ機関きかん、協力きょうりょく機関きかんとして遼東りゃおとん日本にっぽん人民じんみん解放かいほう連盟れんめい通つう化か支部しぶ（日にち解かい連れん）が設立せつりつされた。これは、劉りゅう司令しれいの命令めいれいにより居留民きょりゅうみん会かいを解散かいさんし日び解かい連れんを設立せつりつした、旧きゅう省しょう公おおやけ署しょの若手わかてメンバーが幹部かんぶとなって中国共産党ちゅうごくきょうさんとうに協力きょうりょくするための宣伝せんでん･再さい教育きょういくを行おこなったと説明せつめいされるが、その一方いっぽうで、旧きゅう公おおやけ署しょ時代じだいの有力ゆうりょく者しゃが講師こうしにおり、その意図いとについて人々ひとびとに疑問ぎもんを持もたれたとされる。また、トップに就任しゅうにんしたのは、さながら大陸たいりく浪人ろうにんを思おもわせるような経緯けいいで、持もてる者ものの代表だいひょうともいうべき龍泉りゅうせんホテルのオーナーの"友人ゆうじん"となり、同どうホテルの警備けいび役やくのようになった人物じんぶつであった。日にち解かい連れんの生残いきのこりメンバーである平沢ひらさわ博人ひろとの『通つう化か春秋しゅんじゅう』によると、日にち解かい連れんは劉りゅう司令しれいが居留民きょりゅうみん会かいの若手わかてに会あい、今いまの居留民きょりゅうみん会かいの役員やくいんは資本しほん家かや財閥ざいばつの亡者もうじゃだから君きみら若手わかてで協力きょうりょくしてほしいと言いって、居留民きょりゅうみん会かいを解散かいさんして作つくられた組織そしきであるが、下部かぶ組織そしきはそのまま引ひき継ついだほか、司令しれい部ぶからは結局けっきょく旧きゅう居留民きょりゅうみん会かい幹部かんぶが仮面かめんを被こうむって日本人にっぽんじんを指導しどうしていると見みられたという。とはいえ、共産党きょうさんとう側がわからは日にち解かい連れんは平均へいきん運動うんどうを進すすめることを強要きょうようされ、その結果けっか、住民じゅうみん側がわからはしばしば怨嗟えんさの的まととなったとされる。また、日にち解かい連れんメンバーにも共産党きょうさんとう軍ぐんの力ちからをかさに着きて横暴おうぼうを働はたらく者ものもいたとされる。日にち解かい連れんへの具体ぐたい的てきな批判ひはんとしては、平均へいきん運動うんどうで財産ざいさん拠出きょしゅつさせられたという話はなしの他ほかには、石川いしかわは旧きゅう軍人ぐんじん・警官けいかん・官吏かんりの逮捕たいほに協力きょうりょくした、宣伝せんでんや青年せいねんの再さい教育きょういく活動かつどうを進すすめたといったものを挙あげている。

日にち解かい連れんメンバー唯一ゆいいつの生存せいぞん者しゃである平沢ひらさわによると、南大みなみおお営の移動いどうについては、街まちに分散ぶんさんして日本人にっぽんじんが住すんでいると管理かんりが難むずかしく国民党こくみんとう軍ぐんに通つうじる者ものが出でて危険きけんである事こと、日本人にっぽんじんが難民なんみん救済きゅうさいにあまり協力きょうりょくしなかったためにショック療法りょうほうであろうとしている。日にち解かい連れんの幹部かんぶ会かいでは南大みなみおお営の移動いどうを止とめるためには日にち解かい連れんが悪者わるものになって表面ひょうめんに出でて平均へいきん運動うんどうを進すすめるしかないという結論けつろんになったという。日にち解かい連れんが嘆願たんがんを続つづけると、中国共産党ちゅうごくきょうさんとうは先さきに命めいじていた移動いどうを見合みあわせる条件じょうけんとして、日本にっぽん人民じんみん解放かいほう連盟れんめいは中国共産党ちゅうごくきょうさんとうの指令しれいに従したがい、日本人にっぽんじん男子だんし15歳さい以上いじょう60歳さい迄までの強制きょうせい徴用ちょうようと使役しえき、日本人にっぽんじん居留民きょりゅうみんに対たいし財産ざいさんを全すべて供出きょうしゅつし再さい配分はいぶんすること、日本にっぽん人民じんみん解放かいほう連盟れんめいに中国共産党ちゅうごくきょうさんとう側がわ工作こうさく員いんを採用さいようすることを命めいじた。

前記ぜんきの使役しえきについては、ソ連それん支配しはい時代じだいから始はじまったもので、各かく地区ちくに割わり当あてられ、成年せいねん男性だんせいは3日にちに一いち度どの割わりで飛行場ひこうじょう建設けんせつ等とうの労役ろうえきを負担ふたんしなければならなかったという。賃金ちんぎんも出でなかったとされ、男性だんせいの場合ばあいは厳きびしい肉体にくたい労働ろうどうで、日本人にっぽんじん居留民きょりゅうみんはこれをとくに嫌いやがっていた。とくに生業せいぎょうのある者ものにとっては、その日ひは自身じしんの仕事しごとが出来できず、不利益ふりえきに感かんじられていた。一方いっぽうで、通つう化か市し管轄かんかつ内ないであるものの郊外こうがいの二に道江みちえのことになるが、そこに避難ひなんした者ものが老若男女ろうにゃくなんにょ問とわず一般いっぱんの使役しえきの仕事しごとが一いち日にち5円えんの賃金ちんぎんで、どうでもいいような作業さぎょうもあり失業しつぎょう対策たいさくの面めんもあるではないかと考かんがえたという手記しゅきがある。とくに9月がつ末まつから11月のインフレ期きに住民じゅうみんの着物きものの切きり売うりや自みずから使役しえきに出でるものが増ふえた事ことが記しるされていたり、共産党きょうさんとう軍ぐん側がわにとっては彼かれらの理想りそうとする平等びょうどうな形かたちで仕事しごとをする社会しゃかい建設けんせつのための平均へいきん運動うんどうの一環いっかんとして行いっていた事ことが考かんがえられ、邦人ほうじん側がわの非難ひなんもあくまで"持もてる"立場たちばの者ものからの自己じこ都合つごうである事ことも否定ひていできない。邦人ほうじん側がわでも、平沢ひらさわ博人ひろとの『通つう化か春秋しゅんじゅう』（謙けん光ひかり社しゃ、1986年ねん）など、多おおくの困窮こんきゅう者しゃや難民なんみんがいる中なかで、平均へいきん運動うんどうなどに協力きょうりょくしようとしなかった者ものらへの批判ひはんの声こえはある。

11月17日にち、中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんは大村おおむら卓たく一いちを満まん鉄てつ総裁そうさいであったことを罪状ざいじょうとして逮捕たいほした。

日ひの丸まる飛行ひこう隊たい飛来ひらい

一式いっしき戦闘せんとう機き（隼はやぶさ）

12月10日にち、通つう化かに日章旗にっしょうきを付つけた飛行ひこう隊たいが飛来ひらいし、日本人にっぽんじん居留民きょりゅうみんは歓喜かんきした。飛行ひこう隊たいは林はやし弥一郎やいちろう少佐しょうさ率ひきいる関東軍かんとうぐん第だい二に航空こうくう軍ぐん第だい四よん錬成れんせい飛行ひこう隊たいであり、一式いっしき戦闘せんとう機き（隼はやぶさ）、九きゅう九きゅう式しき高等こうとう練習れんしゅう機きを擁ようしていた。隊員たいいんは300名めい以上いじょうが健在けんざいであり、全員ぜんいんが帝国ていこく陸軍りくぐんの軍服ぐんぷく階級かいきゅう章しょうを付つけ軍刀ぐんとうを下さげたままであった。また、木村きむら大尉たいい率ひきいる関東軍かんとうぐん戦車せんしゃ隊たい30名めいも通つう化かに入はいったが、航空こうくう隊たいと戦車せんしゃ隊たいの隊員たいいんは全員ぜんいんが中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんに編入へんにゅうされていた。

12月15日にち、通つう化か飛行場ひこうじょうで飛行ひこうテストをしていた林はやし弥一郎やいちろう少佐しょうさは搭乗とうじょう機きのエンジン不調ふちょうのため渾江の河原かわらに不時着ふじちゃくしようとして渡わたし舟ぶねのロープに脚あしをひっかけて墜落ついらくし、負傷ふしょうした。

中国共産党ちゅうごくきょうさんとうの根拠地こんきょち延のべ安やすからは、日本にっぽん人民じんみん解放かいほう連盟れんめいで野坂のさか参さん三さん（戦後せんご日本にっぽん共産党きょうさんとう議長ぎちょう）に次つぐ地位ちいにあり、当時とうじ「杉本すぎもと一夫かずお」の名なで活動かつどうしていた前田まえだ光ひかり繁しげるが政治せいじ委員いいんとして派遣はけんされた。

蜂起ほうきの流言りゅうげん

藤田ふじた実彦さねひこ

このような状況じょうきょう下か、「関東軍かんとうぐんの軍人ぐんじんが中華民国ちゅうかみんこく政府せいふと組くんで八はち路ろを追おい出だす」という流言りゅうげんが飛とび交かった。日本人にっぽんじんも国民党こくみんとう系けいの中国人ちゅうごくじんも、この噂うわさを信しんじた。そしてその軍人ぐんじんとは、「髭ひげの参謀さんぼう」として愛あいされ、その後ご消息しょうそく不明ふめいとされていた藤田ふじた実彦さねひこ大佐たいさとされた。藤田ふじた大佐たいさは終戦しゅうせん後ご、武装ぶそう解除かいじょを待またずに師団しだんを離はなれ、身みを窶やつして家族かぞく共々ともども通つう化かを離はなれ石いし人じん鎮（当時とうじは石いし人じんと呼称こしょう・現在げんざいは吉林きつりん省しょう白山はくさん市しの一部いちぶ）に潜伏せんぷくしていた。同年どうねん11月がつ頃ごろには中国共産党ちゅうごくきょうさんとう側がわに発見はっけんされ、藤田ふじたに利用りよう価値かちを見出みいだす劉りゅう司令しれいによって、しばらくは自由じゆうが認みとめられていたとする説せつもあるが、最終さいしゅう的てきには八はち路ろ軍ぐんの軍人ぐんじんが藤田ふじたの許もとを訪おとずれて連行れんこうされ、司令しれい部ぶのある龍泉りゅうせんホテルに監禁かんきんされた。彼かれと個人こじん的てきに会あった時ときの思おもい出でから藤田ふじたに思おもい入いれのある作家さっかの松原まつばら一枝かずえは、藤田ふじたはこのような無謀むぼうな企くわだては止とめさせようと考かんがえていたに違ちがいないと信しんじ、流言りゅうげんを知しった藤田ふじたは説得せっとくに行いくとして八はち路ろ軍ぐん関係かんけい者しゃと共ともに通つう化かへ向むかったに違ちがいないとする。これが藤田ふじたと家族かぞくとの別わかれになった。

日本人にっぽんじん居留民きょりゅうみん大会たいかい

11月4日にちとも12月23日にちともする説せつがあるが、「中国共産党ちゅうごくきょうさんとう万まん歳さい。日本にっぽん天皇てんのう制せい打倒だとう。民族みんぞく解放かいほう戦線せんせん統一とういつ」などのスローガンのもとで日本にっぽん人民じんみん解放かいほう連盟れんめいと日にち僑管理かんり委員いいん会かいの主催しゅさいで通つう化か日本人にっぽんじん居留民きょりゅうみん大会たいかいが通つう化か劇場げきじょうで開ひらかれた。大会たいかいには劉りゅう東元ひがしもと司令しれいを始はじめとする中国共産党ちゅうごくきょうさんとう幹部かんぶ、日本にっぽん人民じんみん解放かいほう連盟れんめい役員やくいんらが貴賓きひんとして出席しゅっせきし、日本人にっぽんじん居留民きょりゅうみん3000人にんが出席しゅっせきした。大会たいかいに先立さきだって、日本人にっぽんじん居留民きょりゅうみんたちは、「髭ひげの参謀さんぼう」として愛あいされ、その後ご消息しょうそく不明ふめいとされていた藤田ふじた実彦さねひこ大佐たいさが大会たいかいに参加さんかすると伝つたえ聞きいており、大会たいかいの日ひを待まちかねていた。

大会たいかいでは、元満もとみつ洲しゅう国こく官吏かんり井手いで俊太郎しゅんたろうが議長ぎちょうを務つとめた。冒頭ぼうとう、議長ぎちょうから「自由じゆうに思おもうことを話はなして、日本人にっぽんじん同士どうしのわだかまりを解といてもらいたい」との発言はつげんがなされると、日にち解かい連れん通どおり化か支部しぶの幹部かんぶたちからは、自分じぶんたちのこれまでのやり方かたを謝罪しゃざいするとともに、「我々われわれが生いきていられるのは中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんのお陰かげである」などの発言はつげんがなされた。日本人にっぽんじん居留民きょりゅうみんたちは発言はつげんを求もとめられると、日にち解かい連れんへの非難ひなんや明治天皇めいじてんのうの御製ぎょせいを読よみ上あげ「日本にっぽんは元来がんらい民主みんしゅ主義しゅぎである」などの発言はつげんが続つづいた。臨江から避難ひなんしてきた山口やまぐち嘉一郎かいちろう老人ろうじんは岡野おかの進すすむ（野坂のさか参さん三さん）の天皇てんのう批判ひはんを万死ばんしに値あたいすると痛撃つうげきした。山口やまぐち嘉一郎かいちろう老人ろうじんが「宮城みやぎ遥拝ようはいし、天皇陛下てんのうへいか万歳ばんざい三唱さんしょうをさせていただきたい」と提案ていあんすると満座まんざの拍手はくしゅが沸わき起おこった。議長ぎちょうが動議どうぎに賛意さんいを示しめす者ものに起立きりつをお願ねがいすると、全員ぜんいんが起立きりつしたため動議どうぎが成立せいりつし、宮城みやぎ遙拝ようはいと天皇陛下てんのうへいか万まん歳さい三唱さんしょうが行おこなわれた。次つぎに山口やまぐち老人ろうじんは、「我々われわれは天皇陛下てんのうへいかを中心ちゅうしんとした国体こくたいで教育きょういくされ来きたので、いきなり180度ど変かえた生いき方かたにはなれませんので、徐々じょじょに教育きょういくをお願ねがいしたい」旨むねを述のべた。石川いしかわ二郎じろうの私家しか版ばんである『朝あさ踏ふみ』(1986年ねん10月がつ）によると、この開催かいさいは12月23日にちのことで、この後のち、藤田ふじた大佐たいさは演説えんぜつを行おこなったが、中国共産党ちゅうごくきょうさんとうへの謝意しゃいと協力きょうりょくを述のべるにとどまったとし、さらに、この時とき登壇とうだんした人ひとらはことごとく捕とらえられたり、銃殺じゅうさつされたという。山田やまだ一郎いちろうの『通つう化か幾いく山河さんが』によるとこの開催かいさいは11月4日にちで、ほとんどの説せつはこれを採とっており、また、藤田ふじたの演説えんぜつが先さきに行おこなわれ、その後ご山口やまぐち老人ろうじん提唱ていしょうの万歳ばんざい三唱さんしょうにより、劉りゅう司令しれいらは怒おこって退場たいじょう、興奮こうふんした聴衆ちょうしゅうの中なかには壇上だんじょうに駆かけ上のぼって主催しゅさい者しゃ側がわのビラをむしりとった者ものもいたという。

蜂起ほうき直前ちょくぜんの状況じょうきょう・旧きゅう満まん洲しゅう国こく幹部かんぶ処刑しょけい（一いち月がつ十じゅう日にち事件じけん）

朱しゅ瑞みずほ

• 1946年ねん1月がつ1日にち、中共ちゅうきょう軍ぐん（東北とうほく民主みんしゅ連れん軍ぐん）後方こうほう司令しれいの朱しゅ瑞みずほ(zh)を隊長たいちょう、林はやし弥一郎やいちろうを副ふく隊長たいちょうとした東北とうほく民主みんしゅ連れん軍ぐん航空こうくう総そう隊たいが設立せつりつされる。同日どうじつ、中国ちゅうごく共産きょうさん軍ぐん側がわ工作こうさく員いんの内海うつみ薫かおるが何者なにものかに殺害さつがいされた。
• 松原まつばら一枝かずえの説せつによれば、佐々木ささきの証言しょうげんに基もとづき、1月がつ5日にちに藤田ふじた大佐たいさは中共ちゅうきょう軍ぐんに呼よび出だされ、龍泉りゅうせんホテルにある中共ちゅうきょう軍ぐん司令しれい部ぶに出頭しゅっとうしたとされる。劉りゅう東元ひがしもと司令しれいは藤田ふじたに関東軍かんとうぐんが隠かくしている武器ぶきを出だすよう要求ようきゅうしたが、参謀さんぼう職しょくである藤田ふじたは「大隊だいたい長ちょうや中隊ちゅうたい長ちょうではないので知しらない」と返答へんとうしたため、監禁かんきんされた。これ以降いこう藤田ふじたは、薬くすりを渡わたしに来くる看護かんご婦ふ柴田しばた朝江あさえを介かいして有志ゆうしからの情報じょうほうを秘密裏ひみつりに知しることになる。
• 1月がつ10日とおか、日本人にっぽんじんの通行つうこうが禁止きんしされ、非常ひじょう警戒けいかいのさなか日本人にっぽんじん管理かんり委員いいん会かい主任しゅにん委員いいん趙ちょう文ぶん卿きょうの署名しょめい入いりの逮捕たいほ状じょうを持もった兵士へいしたちが、旧きゅう満まん洲しゅう国こくの高級こうきゅう官吏かんり・旧きゅう日本人にっぽんじん居留民きょりゅうみん会かいばかりか日にち解かい連れん幹部かんぶを含ふくむ指導しどう者しゃら140名めいを、内海うちうみを殺害さつがいに関連かんれんし国民党こくみんとうと通謀つうぼうした容疑ようぎで連行れんこうされ、専せん員いん公おおやけ署しょの建物たてものに抑留よくりゅう。日本人にっぽんじん民みん解放かいほう連盟れんめい通どおり化か支部しぶは解散かいさんさせられる。
• 1月がつ15日にち午前ごぜん4時じ、龍泉りゅうせんホテルに監禁かんきんされていた藤田ふじた大佐たいさが3階かいの窓まどから脱出だっしゅつし、叛乱はんらん首謀しゅぼう者しゃらの隠かくれ家がとなっていた栗林くりばやし家かに潜伏せんぷく。柴田しばたは、藤田ふじた大佐たいさの脱出だっしゅつが発覚はっかくすれば自身じしんの身みの危険きけんがあるためホテルの裏口うらぐちから赤十字せきじゅうじ病院びょういんへ向むかい、病院びょういんに着つくと頭あたまをバリカンで刈かり上あげて男性だんせいになりすまし、直すぐに八はち路ろ軍ぐんが病院びょういんの捜索そうさくを始はじめたため柴田しばた久ひさ軍医ぐんい大尉たいいの手引てびきを得えて栗林くりばやし家かへ潜伏せんぷくした。龍泉りゅうせんホテルで藤田ふじた大佐たいさの碁ごの相手あいてをしていた北田きただ光男みつおも、脱出だっしゅつの手引てびきをしたとして拘束こうそくされた。
• 1月がつ某ぼう日びに負傷ふしょうの身みながら林はやし少佐しょうさが、日本人にっぽんじん居留民きょりゅうみんを束たばねていた桐越きりこし一二三ひふみの許もとを訪問ほうもん。自みずからが桐越きりこしの名なを彫ほり込こんだ軍刀ぐんとうを桐越きりこし夫人ふじんに土産みやげとして渡わたしている。これは、後のちに林はやし少佐しょうさが叛乱はんらん者しゃと通謀つうぼうしていた証拠しょうことされた。
• 1月がつ21日にち、菅原すがわら達郎たつお通つう化か省しょう次長じちょう、河内かわうち亮あきら通つう化か県けん副ふく県けん長ちょう、川瀬かわせ警務けいむ庁ちょう長ちょう、林はやし通とおる化か市し副ふく市長しちょうは中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんによって市中しちゅう引ひき回まわしの上うえで、渾江の河原かわらで公開こうかい処刑しょけいされた。処刑しょけいされた河内かわうち亮あきらの遺体いたいは何なん度ども撃うたれ銃剣じゅうけんで突つきされハチの巣すにされた。穏おだやかで信頼しんらいが厚あつく中国人ちゅうごくじんからの評判ひょうばんの良よい河内かわうち副ふく県けん長ちょうの銃殺じゅうさつは日本人にっぽんじんへの衝撃しょうげきは大おおきく、不安ふあんを決定けっていづけたとされる。後日ごじつ、日本人にっぽんじん居留民きょりゅうみんは通つう化か劇場げきじょうに集あつめられ、前田まえだ光ひかり繁しげるから河内かわうち亮あきら通どおり化か県けん副ふく県けん長ちょうたちの処刑しょけいについて日本にっぽん支配しはい当時とうじの責任せきにん者しゃであるから仕方しかたのないことであるとした旨むねの説明せつめいがなされた。

蜂起ほうきから鎮圧ちんあつ後ごの虐殺ぎゃくさつまで

一いち月がつ十じゅう日にち事件じけんのあと、元もと関東軍かんとうぐん関係かんけい者しゃが蜂起ほうきするという流言りゅうげんが流ながれていた。計画けいかくは中華民国ちゅうかみんこく政府せいふ与党よとうの国民こくみん党員とういんと元もと在郷ざいきょう軍人ぐんじん等とうで練ねられていた。

前日ぜんじつ（情報じょうほう漏洩ろうえい）

劉りゅう東元ひがしもと

2月がつ2日にち、正午しょうご過すぎに林はやし少佐しょうさは蜂起ほうきの情報じょうほうを前田まえだ光ひかり繁しげるに電話でんわで伝つたえた。前田まえだは中国人ちゅうごくじん政治せいじ委員いいんの黄き乃一を通つうじて航空こうくう総そう隊たい隊長たいちょうの朱しゅ瑞みずほ(zh)に報告ほうこくした。同おなじ頃ごろ、藤田ふじた大佐たいさの作戦さくせん司令しれい書しょを持もった中華民国ちゅうかみんこく政府せいふの工作こうさく員いんが2名めい逮捕たいほされており、劉りゅう東元ひがしもと中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐん司令しれい立会たちあいの下したで尋問じんもんが行おこなわれた。工作こうさく員いんは拷問ごうもんを加くわえられても口くちを割わらなかったが、日本語にほんごの司令しれい書しょは前田まえだによって翻訳ほんやくされ、夕刻ゆうこくには中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんは緊急きんきゅう配備はいびを行おこなった。

通つう化か市内しないは午後ごご8時じに外出がいしゅつ禁止きんしのサイレンが鳴なることになっていたが、この日ひはサイレンが鳴ならず日本人にっぽんじんは時計とけいを持もっていなかったことから外出がいしゅつ中ちゅうの人々ひとびとは次々つぎつぎに拘束こうそくされたともいう。午後ごご8時じには、蜂起ほうきに向むけて会合かいごうを開ひらいていた孫まご耕こう暁あかつき通つう化か国民党こくみんとう部ぶ書記しょき長ちょうを始はじめとする中華民国ちゅうかみんこく政府せいふ関係かんけい者しゃ数すう十じゅう人にんが朝鮮ちょうせん人民じんみん義勇軍ぎゆうぐんによって拘束こうそくされ、拷問ごうもんを伴ともなう尋問じんもんが行おこなわれた。また、一いち月がつ十じゅう日にち事件じけんで連行れんこうされた日本人にっぽんじんらには、状況じょうきょう次第しだいでは即時そくじ射殺しゃさつも可能かのうなよう牢ろうの外そとに機関きかん銃じゅうが据すえ付つけられた。

蜂起ほうき

婉容

一般いっぱん日本人にっぽんじんの多おおくは、隣組となりぐみや会社かいしゃ組織そしき等とうを通つうじて参加さんかを打診だしんされた者ものが多おおかったと見みられるが、参加さんかを断ことわろうとすると、それでも日本人にっぽんじんかと怒号どごうを浴あびせられ、あるいは、隣組となりぐみを通つうじたものであるため（いつ何なん時じ、配給はいきゅうに頼たよらねばならない生活せいかつに陥おちいるかもしれないことを考かんがえれば）とても断ことわりきれなかった者もの、また、二道ふたみち江地えじ区くでは、在郷ざいきょう軍人ぐんじん会かいの指導しどう者しゃは参加さんかしないことを決きめていたが、叛乱はんらんグループの使つかいが、二道ふたみち江えには就職しゅうしょく口こうがないが城内じょうないに行いけば職しょくがあり賃金ちんぎんも高たかい、今いまがチャンスだと言いって、人ひと集あつめをしているところが目撃もくげきされていた。このように、圧倒的あっとうてきに不利ふりな状況じょうきょう下かでの柴田しばたらの「勇敢ゆうかんな」蜂起ほうき計画けいかくは大だい多数たすうの一般いっぱんの日本人にっぽんじん居きょ民みんにとっては、たんなる迷惑めいわく以外いがいの何なに物ぶつでもなかったともいえる。2月がつ3日にち、中国共産党ちゅうごくきょうさんとう側がわは日本人にっぽんじん協力きょうりょく者しゃからとも捕とらえた国民党こくみんとう側がわの密使みっしの決起けっき指令しれい書しょからともされるが、既すでにかなりの情報じょうほうを入手にゅうしゅし、一部いちぶ関係かんけい者しゃの拘束こうそくを進すすめるとともに、要所ようしょには重点的じゅうてんてきに重火器じゅうかきを装備そうびして日本人にっぽんじんの襲撃しゅうげきに、ほぼ完璧かんぺきに備そなえていた。

柴田しばたらは深夜しんやに病院びょういんを抜ぬけ出だすと変電へんでん所しょを占拠せんきょした。午前ごぜん4時じに電灯でんとうを3度ど点滅てんめつさせたのを合図あいずに、在留ざいりゅう日本人にっぽんじんは中華民国ちゅうかみんこく政府せいふ軍ぐん・林はやし航空こうくう隊たい・戦車せんしゃ隊たいの支援しえんを「期待きたい」して、元もと関東軍かんとうぐん将校しょうこうなどの指揮しき下かで蜂起ほうきした。

柴田しばたらは病院びょういんに戻もどり、病院びょういん警備けいびの八はち路ろ軍ぐん兵士へいしを不意ふいをついて襲おそった（他たの病院びょういん職員しょくいんが柴田しばたの変電へんでん所しょ襲撃しゅうげき中ちゅうに行いっていたという説せつもある）。さらに、現地げんち人じん職員しょくいんの動向どうこうを把握はあくするため、共産党きょうさんとう軍ぐん側がわ連絡れんらく員いんの一人ひとりにスパイとなるよう要求ようきゅうしたが当然とうぜん拒否きょひされたため、これを殺害さつがい。また、病院びょういんはソ連それん軍ぐんによって一般人いっぱんじんの診療しんりょう･治療ちりょうにもあたることとして日本にっぽん陸軍りくぐんの病院びょういんから赤十字せきじゅうじ病院びょういんに変かえられており、敵てき味方みかた問とわずに治療ちりょうにあたるという赤十字せきじゅうじの理念りねん通どおりに八はち路ろ軍ぐん兵士へいしの入院にゅういん者しゃもいたため、なんと病院びょういんの蜂起ほうき者しゃグループは八はち路ろ軍ぐんの入院にゅういん者しゃらを殺害さつがいして回まわっていった（気きに入いらない政府せいふや地方ちほう政権せいけんを住民じゅうみんが武力ぶりょくで倒壊とうかいさせることは組織そしき命令めいれい系統けいとうに服ふくしており失敗しっぱい危険きけんを自己じこが引受ひきうけるのであれば米べい合衆国がっしゅうこく憲法けんぽうにも規定きていされた基本きほん的てき人権じんけん（抵抗ていこう権けん）行使こうしの範疇はんちゅう内ないであり、蜂起ほうき戦闘せんとう行為こうい自体じたいは是認ぜにんされうる。しかし柴田しばたらによる今回こんかいのような赤十字せきじゅうじ病院びょういんの襲撃しゅうげき・治療ちりょう中ちゅうの患者かんじゃ殺害さつがいは明白めいはくな国際こくさい法ほう違反いはんの行為こういであり、事後じご中共ちゅうきょう軍ぐんが勝かった場合ばあいには戦闘せんとう行為こうい自体じたいが「違法いほうな」戦争せんそう犯罪はんざいであるとの名目めいもくで現行げんこう犯はん射殺しゃさつ・逮捕たいほ連行れんこう・尋問じんもん・取調とりしらべ・起訴きそ・人民じんみん裁判さいばん・死刑しけい判決はんけつ・処刑しょけいなど陸戦りくせん法ほうによる「断罪だんざい」がありうることにも注意ちゅういが必要ひつようであろう）。

蜂起ほうきした日本人にっぽんじんにはわずかな小銃しょうじゅうと刀かたながあるのみで、大だい部分ぶぶんはこん棒ぼうやスコップなどで武装ぶそうしており、蜂起ほうき成功せいこう後ごに敵てきから武器ぶきを奪うばうことになっていた。一方いっぽう、瀋陽しんようの遼寧りょうねい政府せいふ（中華民国ちゅうかみんこく政府せいふ）からは「中華民国ちゅうかみんこく政府せいふ軍ぐんの増援ぞうえんの連絡れんらくがつかないから計画けいかくを延期えんきせよ」との無線むせん連絡れんらくがなされたが、当日とうじつ「たまたま」無線むせん機きが故障こしょうして日本人にっぽんじんには伝つたわらなかったとされる。つまり当時とうじの中華民国ちゅうかみんこく政府せいふ側がわからも明白めいはくに引ひき止とめられていたのにごく一いち握にぎりの「勇敢ゆうかんな」日本人にっぽんじん有志ゆうしのみが勝手かってに、不利ふりな状況じょうきょう下かでの蜂起ほうきを強行きょうこうした形かたちに、結果けっかとしてはなってしまっていた。

日本人にっぽんじんは中隊ちゅうたいごとに分わかれて市内しないの中国共産党ちゅうごくきょうさんとう側がわの拠点きょてんを襲撃しゅうげきした。佐藤さとう率ひきいる第だい一いち中隊ちゅうたい150名めいが専せん員いん公おおやけ署しょめがけて突撃とつげきすると情報じょうほう漏もれのまずさから、待まち構かまえていた八はち路ろ軍ぐんの機関きかん銃じゅうや手榴弾しゅりゅうだんによって次々つぎつぎとなぎ倒たおされた。佐藤さとう以下いか10名めいが建物たてものに侵入しんにゅうし、一いち月がつ十じゅう日にち事件じけんで連行れんこうされた日本人にっぽんじんが収監しゅうかんされている牢ろうに到達とうたつしたが、待まち構かまえていた機関きかん銃じゅうによって射殺しゃさつされ、これにより第だい一いち中隊ちゅうたいは壊滅かいめつ、佐藤さとうは逮捕たいほされた。牢ろう内ないの日本人にっぽんじん140名めいも中国ちゅうごく共産きょうさん軍ぐん側がわの一斉いっせい射撃しゃげきによりほぼ全員ぜんいんが射殺しゃさつされた。

阿部あべ率ひきいる第だい二に中隊ちゅうたい100名めいは中共ちゅうきょう軍ぐん司令しれい部ぶの龍泉りゅうせんホテルを襲撃しゅうげきしたが、待まち構かまえていた中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんの攻撃こうげきにより建物たてものに近ちかづく前まえに壊滅かいめつした。

滝口たきぐち率ひきいる部隊ぶたいが襲おそった県けん公おおやけ署しょでは、伊沢いさわが外そとからカンテラで内通ないつう者しゃに合図あいずしているところを発見はっけんされるという失策しっさくにより、銃撃じゅうげきを受うけたため、そのまま退去たいきょ、襲撃しゅうげきは不発ふはつに終おわった。

寺田てらだ（耕三こうぞう? 前記ぜんき寺てら田山たやま助すけとの関係かんけいは不明ふめい）率ひきいる第だい三さん中隊ちゅうたいは元もと通つう化か市し公おおやけ署しょに駐屯ちゅうとんしている県けん大隊だいたいを襲撃しゅうげきした。ここでは国民党こくみんとう支持しじ者しゃら400名めいが内応ないおうする「はず」であったが、斬きり込こみ隊たいは銃撃じゅうげきを受うけ犠牲ぎせい者しゃを出だして引ひき上あげた。

中山なかやま菊松きくまつ率ひきいる遊ゆう撃げき隊たいは、公安こうあん局きょく（日本にっぽんの警察けいさつにあたる）に監禁かんきんされている婉容皇后こうごう・浩ひろし皇すめらぎ弟おとうと妃ひ・皇女おうじょ嫮生（皇すめらぎ弟おとうと溥傑の次女じじょ）を始はじめとする満まん洲しゅう国こく皇室こうしつの救出きゅうしゅつに向むかい、一時いちじは公安こうあん局きょくを占拠せんきょすることに成功せいこうした。中山ちゅうざんは皇室こうしつが捕とらわれている部屋へやに飛とび込こむと皇すめらぎ弟おとうと妃ひ嵯峨さが浩ひろしの誰何すいかに対たいし「国民党こくみんとう」「一番乗いちばんのりの中山なかやま、お助たすけに上あがりました」と答こたえ、宮内くない府ふ憲兵けんぺいの工藤くどうが救出きゅうしゅつに向むかっていること、女中じょちゅう達たちが数すう軒けん先さきの家いえで風呂ふろの用意よういをしていることを告つげた。だがまもなく公安こうあん局きょくは八はち路ろ軍ぐんに包囲ほういされ、機関きかん銃じゅうや大砲たいほうによる砲撃ほうげきが行おこなわれた。遊ゆう撃げき隊たいは倒たおされ、皇后こうごうを守まもろうとした満まん洲しゅう国こく皇帝こうてい愛あい新しん覚さとし羅ら溥儀ふぎの乳母うばも砲撃ほうげきで手首てくびを吹ふき飛とばされ、失しつ血ちで死亡しぼうした。嵯峨さが浩ひろしの著述ちょじゅつによれば、公安こうあん局きょくのメンバーの9割わりは旧きゅう満まん洲しゅう国こくの警察けいさつ学校がっこうの出身しゅっしん者しゃで、彼かれらとの日頃ひごろの関係かんけいは良好りょうこうで、公安こうあん局員きょくいんらは皇后こうごうらの見張みはりでもあったが同時どうじに警備けいびにあたっていたという意識いしきからか、浩ひろしや嫮生に布団ふとんをかぶせ覆おおいかぶさるように守まもってくれたという。

つまり、中山なかやま遊ゆう撃げき隊たいらによる蜂起ほうき・占拠せんきょ・「救出きゅうしゅつ」劇げきは善意ぜんいからきたものであるとはいえ結果けっか的てきに、単たんに皇后こうごうらの命いのちを危険きけんにさらしただけのものであったことがわかる。

林はやし航空こうくう隊たいでは、鈴木すずき、小林こばやしを筆頭ひっとうに両りょう中尉ちゅうい率ひきいる下士官かしかんたちが蜂起ほうきに参加さんかしようとしたが、やはりこれも情報じょうほう漏もれのまずさから蜂起ほうき合図あいず前まえに八はち路ろ軍ぐんに拘束こうそくされ、木村きむら戦車せんしゃ隊たいも出発しゅっぱつ直前ちょくぜんに包囲ほういされ八はち路ろ軍ぐんに拘束こうそくされた。

篠塚しのづか良雄よしおによると、篠塚しのづかたちは竜泉りゅうせん街がいにある龍泉りゅうせんホテルを占拠せんきょしたとしている。

連行れんこう

襲撃しゅうげき者しゃらは失敗しっぱいすると、他たの都市としを目指めざして落おち延のびていく者もの、もと居いた住民じゅうみん･難民なんみんの住すまいに戻もどろうとする者もの、様々さまざまであったが、住民じゅうみん･難民なんみんの居住きょじゅう地区ちくに戻もどった者ものがいた事ことが新あらたな事態じたいを引ひき起おこした。午前ごぜん8時じになると、日本人にっぽんじんの住すまいは改あらためられ、16歳さいから60歳さいまでの日本人にっぽんじん男性だんせいはその場ばで許ゆるされた若干じゃっかんの者ものを除のぞき事件じけんとの関係かんけいを問とわず、多おおくの者ものが拘束こうそくされ、連行れんこうされた。また、事件じけんに関与かんよしたとみなされた女性じょせいも連行れんこうされた。八はち路ろ軍ぐんは連行れんこうする際さい、日本人にっぽんじんを一人ひとり一いち人にん首くびを針金はりがねでつなぎ合あわせて連行れんこうした。寝間着ねまき、素足すあしに下駄げた履くつの者ものや病人びょうにんまでも零下れいか二に十じゅう度どになる戸外こがいを数珠繋じゅずつなぎで行進こうしんさせられた。通つう化か市しから15km離はなれた郊外こうがいの二に道江みちえでは当初とうしょ近辺きんぺんに収容しゅうようされたうえで取とり調しらべがあったが、手洗てあらいに立たった者ものが窓まどから脱出だっしゅつして脱走だっそうを図はかったものの逃にげ損そこなって射殺しゃさつされたばかりか、同時どうじに手洗てあらいに行いった者ものが脱走だっそうを見逃みのがしたという事ことでやはり射殺しゃさつされた。その後ご、この二道ふたみち江えでは、収容しゅうようされていた人々ひとびとは通つう化か城じょう区内くないに連行れんこうされたが、それまでの拘束こうそくで衰弱すいじゃくしていたため、途中とちゅうで力尽ちからつきて落伍らくごするものもいて、その場ばで射殺しゃさつされた。八はち路ろ軍ぐんの連行れんこう時じに加来かく・田代たしろ・森もりが射殺しゃさつされた。加来かく繁しげる（佐藤さとう和明かずあきは賀来かくとしている）は行進こうしん中ちゅうに倒たおれると引ひきずり出だされて右股みぎまた、胸むねを撃うたれて銃殺じゅうさつ。田代たしろの遺骸いがいは事件じけん後ごに殺害さつがいされた場所ばしょで雪ゆきに埋うずもれた状態じょうたいで発見はっけんされるが衣服いふくは剥はぎ取とられた状態じょうたいであった。集団しゅうだん的てきに連行れんこうされ被害ひがいを受うけた者ものは主おもに、城内きうちの市街地しがいちと二に道江みちえに住すんでいた者ものらだが、同おなじく八はち路ろ軍ぐんの支配しはい下かにあった石いし人じん地区ちくでも取とり調しらべが行おこなわれ、拷問ごうもんに耐たえ切きれず数すう名めいの自殺じさつ者しゃ、人民じんみん裁判さいばんで処刑しょけいされる者ものもいたという。

第だい一いち中隊ちゅうたいの襲おそった専せん員いん公おおやけ署しょには死体したいが散乱さんらんし、第だい二に中隊ちゅうたいの襲おそったホテルの周囲しゅういには命めいじられるまま突撃とつげきしていった者ものたちの死体したいが路上ろじょうに転ころがっていたという。しかし、襲撃しゅうげきの指揮しき者しゃクラスらは襲撃しゅうげき部隊ぶたいの後うしろで指揮しきをとっていた者ものが多おおかったためか、専せん員いん公おおやけ署しょの襲撃しゅうげきグループを除のぞいて、襲撃しゅうげきの失敗しっぱい後ごその殆ほとんどがいったんは逃走とうそう･潜伏せんぷくに成功せいこうしている。叛乱はんらん中心ちゅうしん者しゃクラスに至いたっては殆ほとんどが初はじめから隠かくれ家がに潜ひそんでおり、引揚者しゃからの報告ほうこくをもとに纏まとめられた厚生省こうせいしょう資料しりょうによれば、定さだめられた日本人にっぽんじん側がわの指揮しき所しょには、藤田ふじた大佐たいさ自身じしんも含ふくめて殆ほとんどが最後さいごまで現あらわれず、白河しらかわ（変名へんめい）が一人ひとりで指揮しきを執とっていた状態じょうたいだったという。叛乱はんらん首謀しゅぼう者しゃらは、東ひがし辺べ道どう開発かいはつの元もと社員しゃいんであった栗林くりばやしの長屋ながや状じょうの屋敷やしきの天井てんじょう裏うらに潜伏せんぷくしていたが、結局けっきょく、2月がつ5日にち（4日にちとも）家宅かたく捜査そうさを受うける。捜査そうさにきた兵士へいしらの指揮しき官かんが機関きかん銃じゅうを天井てんじょうに向むけて撃うつと脅おどしたところ、女性じょせい数すう名めいを含ふくむ29名めいが屋根裏やねうらから降おりてきたが、その中なかの27番目ばんめに降おりてきた人物じんぶつが当初とうしょ偽名ぎめいを名乗なのっていたものの藤田ふじた実彦さねひこ大佐たいさであった。柴田しばた朝江あさえによると、女性じょせいらはタイピストで事件じけんの首謀しゅぼう者しゃらとそれぞれ男女だんじょ関係かんけいにあることを、彼かれらの会話かいわの内容ないようから知しっていたと述のべている。

強制きょうせい収容しゅうよう

一部いちぶに中国人ちゅうごくじんを含ふくむものの大だい部分ぶぶんが日本人にっぽんじんである3000人にん余あまりとされる拘束こうそく者しゃは小銃しょうじゅうで殴なぐりつけられるなどして、城内きうちの元もと料亭りょうていであった新しん八はち路ろ軍ぐん本部ほんぶや旧きゅう通運つううん会社かいしゃの社宅しゃたくなどの建物たてものの各かく部屋へやに押おし込こまれた。専せん員いん公おおやけ署しょでは8畳じょうほどの部屋へやに120人にんが強引ごういんに押おし込こめられた。

特とくに専せん員いん公おおやけ署しょに拘束こうそくされた日本人にっぽんじんは、あまりの狭せまさに身動みうごきが一切いっさいとれず、大だい小便しょうべん垂たれ流ながしのまま5日間にちかん立たったままの状態じょうたいにされた。抑留よくりゅう中ちゅうは酸さん欠かけで「口くちをパクパクしている人達ひとたち」や、精神せいしんに異常いじょうをきたし声せいを出だすものなどが続出ぞくしゅつしたが、そのたびに窓まどから銃撃じゅうげきされ、窓際まどぎわの人間にんげんが殺害さつがいされた。殺害さつがいされた者ものは立たったままの姿勢しせいで放置ほうちされるか、他たの抑留よくりゅう者しゃの足元あしもとで踏ふみ板いたとされた。足元あしもとが血ちの海うみになったが死体したいを外そとに出だすこともできなかった。山中さんちゅうの倉庫そうこに三さん日間にちかんに渡わたって収容しゅうようされた中西なかにし隆たかしも同様どうようの体験たいけんをしている。中西なかにしを始はじめとする90人にん余あまりの日本人にっぽんじんは数すう日間にちかんに渡わたって立たったまますし詰づめ状態じょうたいで監禁かんきんされたため、発狂はっきょう者しゃが出でるにいたった。朝鮮ちょうせん人じん兵士へいし達たちは黙だまらせるよう怒鳴どなるとともに窓際まどぎわの6人にんを射殺しゃさつし、「お前まえたちはそのうち銃殺じゅうさつだ。ぱっと散ちる同期どうきの桜さくらじゃないか。36年ねんの恨うらみを晴はらしてやろう」とい放いはなった。

虐殺ぎゃくさつ

拘束こうそくから5日にち後ごに部屋へやから引ひき出だされると、朝鮮ちょうせん人民じんみん義勇軍ぎゆうぐんの兵士へいしたちに棍棒こんぼうで殴なぐりつけられ、拷問ごうもんや冬ふゆの寒さむい中なかで劣悪れつあくな環境かんきょう下かで放置ほうちされることで凍傷とうしょうや病気びょうきで死しぬ者ものも多おおく出でた。死しを免まぬかれた者ものの中なかにも不具ふぐや廃疾はいしつを負おった者ものも多おおかった。中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんによる拷問ごうもんと尋問じんもんの後のち、容疑ようぎが固かたまったのか、従来じゅうらいの人民じんみん裁判さいばんの形かたちでともかくも公開こうかいの形かたちで処刑しょけいが決定けっていされるばかりでなく、空あき地ちや凍結とうけつした渾江（鴨かも緑みどり江こうの支流しりゅう）の上うえに引ひき出だされて、即決そっけつのいわば秘密ひみつ処刑しょけいのような形かたちで処刑しょけいがなされたものも多おおかった（川岸かわぎしに一人ひとりずつ並ならべられた日本人にっぽんじんが銃殺じゅうさつされて行いく姿すがたは元満もとみつ洲しゅう国こくの皇すめらぎ弟おとうと妃ひ浩ひろしによっても目撃もくげきされている。渾江の下流かりゅうの桓仁では、中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんの兵器へいき工場こうじょうで働はたらいていた中村なかむら良一りょういちが連日れんじつに渡わたって上流じょうりゅうから流ながれてくる遺体いたいを目撃もくげきしている。また、凍こおった川かわの上うえにも服ふくをはぎ取とられた裸はだかの遺体いたいが転ころがっていて、春はるになって氷こおりが溶とけると流ながれていったものや、流ながれずに澱よどみに滞とどこおり、其そのそばで慣なれてしまった日本人にっぽんじんの子こが平気へいきで水遊みずあそびをしていた場合ばあいもあったという。また、事件じけん中ちゅう、たまたま逃にげ込こんだ蜂起ほうき側がわの負傷ふしょう者しゃに手当てあてを施ほどこしていた女性じょせいが、近ちかくにいた子供こどもとともに仲間なかまと思おもわれて銃殺じゅうさつされたケースがある。これは引揚者しゃに大田黒おおたぐろの姓せいで記憶きおくされている家いえで負傷ふしょうした男性だんせいを手当てあてした女性じょせいと12歳児さいじが射殺しゃさつされ、銃傷じゅうしょうを負おった5歳児さいじのみが一命いちめいを取とりとめたというものである。藤田ふじた脱出だっしゅつ幇助ほうじょの疑うたがいで龍泉りゅうせんホテルで監禁かんきんされていた北田きただ光男みつおの生後せいご一いち週間しゅうかんになる乳児にゅうじは軍服ぐんぷく姿すがたの男おとこに首くびを絞しめられて殺害さつがいされた。林はやし少佐しょうさには銃殺じゅうさつ命令めいれいが3度ど出だされたが、そのたびに政治せいじ委員いいん黄き乃一の嘆願たんがんによって助命じょめいされた。作家さっかの松原まつばら一枝かずえによれば、李り紅くれない光こう支隊したいは男おとこらの逮捕たいほ後ご、男性だんせいがいなくなった家いえを家宅かたく捜索そうさくをして掠奪りゃくだつし、女性じょせいたちを強姦ごうかんした例れいも多おおくあるという。ただし、これはそれまでの通つう化か事件じけんに関かんする著作ちょさくで知しられるようになった松原まつばらの元もとに、引揚者しゃを名乗なのる者ものから手紙てがみが来きて、それによると家族かぞくが見みている前まえで引ひき立たてられ強姦ごうかんされ自殺じさつした女性じょせいもいたというものである。

死者ししゃ数すうについて

蜂起ほうきでの戦闘せんとう者しゃから蜂起ほうき計画けいかくに関与かんよしなかった一般いっぱん市民しみんの処刑しょけい、劣悪れつあくな環境かんきょう下かでの拘留こうりゅうによる病死びょうし･凍死とうしまで含ふくめて、少すくないものでは800人にん、多おおいものでは2千せん人にん～3千せん人にんが殺ころされたとする。新宿しんじゅくの平和へいわ祈念きねん館かんの資料しりょうには、新しん八はち路ろ軍ぐんの本部ほんぶに拘束こうそくされた鎌田かまた昌夫まさおの証言しょうげんで、後日ごじつ、二に千せんから三さん千せんの犠牲ぎせい者しゃが出でたと聞きいたとする話はなしが収録しゅうろくされている。

『通つう化か幾いく山河さんが』では、戦闘せんとう時じの死者ししゃは200名めい、逮捕たいほ後ごの死者ししゃは、拷問ごうもんで罪つみを認みとめ（あるいは叛乱はんらん者しゃと名指なざされ）て処刑しょけいされた者ものが200名めい、元満もとみつ洲しゅう国こく時代じだいの警察官けいさつかんや憲兵けんぺいは処刑しょけいされ、それが100名めい、拷問ごうもんや劣悪れつあくな環境かんきょうからの病気びょうき･凍死とうしした者ものが200名めい、端はし数すうも集計しゅうけいしては計けい600名めいとする。この他ほかに『通つう化か幾いく山河さんが』では、取とり調しらべ中ちゅうの拷問ごうもんや凍傷とうしょうで不具ふぐや廃はい室しつに疾病しっぺいになった者ものも300名めい、軽かるいものも入いれれば500名めいいたとされる。戦闘せんとう中ちゅうの死者ししゃには国民党こくみんとう関係かんけい者しゃもいたものの、これら逮捕たいほ後ごの犠牲ぎせい者しゃは大だい部分ぶぶんが日本人にっぽんじんであったと見みられる。1952年ねん12月九州きゅうしゅうの引揚者しゃを集あつめての通つう化か事件じけんの調査ちょうさのために福岡ふくおかに来きた厚生省こうせいしょう引揚援護えんご庁ちょう復員ふくいん局きょくの吉田よしだ元久もとひさ 留守るす業務ぎょうむ部長ぶちょうは外務省がいむしょうと協力きょうりょくしてそれまでの4年間ねんかんの調査ちょうさで判わかった死亡しぼう者しゃは約やく1190名めいとし、死亡しぼう公報こうほうの済すんだものは72名めいとした。その後ごの同月どうげつ4～5日にちの調査ちょうさで新あらたに58名めいの氏名しめいが判明はんめいしたとして公表こうひょうされているので、この時点じてんでは計けい130名めいの名前なまえが死亡しぼう者しゃとして判明はんめいしていたようである。これに対たいし、自身じしんも通つう化かにいて事件じけんに遭遇そうぐう、引揚後ごに厚生省こうせいしょう引揚局きょくに入はいった佐々木ささき係長かかりちょうは、1000人にんも死しねば（日本人にっぽんじんの）一いち割わりが死しんだことになり大変たいへんだ、実際じっさいには死亡しぼう者しゃ数すうは謂いわれているより少すくないと、松原まつばら一枝かずえに語かたっている。

8畳じょうに120人にんが拘束こうそくされて最もっとも状態じょうたいが過酷かこくであったと見みられる専せん員いん公おおやけ署しょの監獄かんごくの場合ばあい、紙かみ田た治ち一いちによれば、120人にんの内うち3名めいが銃弾じゅうだんを受うけて死しに、12名めいが監獄かんごくで凍死とうし、餓死がし、病死びょうしし、この15名めいの死体したいは踏ふみ砕くだかれまるで煎餅せんべいのように平ひらたく横よこたわっており、別べつに15名めいが戻もどって来くることはなく、90名めい足たらずになったという。

中国ちゅうごく側がわでは死亡しぼう者しゃは約やく1200名めいとされているとする情報じょうほうも以前いぜんからあったが、1991年ねん10月がつには中国ちゅうごく側がわ資料しりょう『彼かれらはなぜ中国ちゅうごくで死しんだか』の存在そんざいが判明はんめい、通信つうしん社しゃを通つうじて幾いくつかの地方ちほう紙しで報ほうじられ、その資料しりょうでは1200名めいとされている。また、国共こっきょう内戦ないせんが激はげしくなり、通つう化かの精鋭せいえい部隊ぶたいはそちらに駆かり出だされ、通つう化かに当時とうじ残のこっていたのは、最近さいきんになって志願しがんして八はち路ろ軍ぐんに入はいった、まだ戦闘せんとう経験けいけんのない朝鮮ちょうせん人じん兵士へいしが大半たいはんで、さらに彼かれらもかなりが旧きゅう正月しょうがつ前まえの匪賊ひぞく狩かりで農村のうそん地帯ちたいに出でていたため、当日とうじついたのは400名めいだけであったとされる。そのため、朝鮮ちょうせん人じん兵士へいしらの恐怖きょうふも強つよく、その反動はんどうが出でたとする説せつもある。なお、日本人にっぽんじん側がわ首謀しゅぼう者しゃグループも叛乱はんらん成功せいこうのあかつきには処刑しょけい予定よていの日本人にっぽんじんを決きめており、それら処刑しょけい予定よてい者しゃを逃にがさないように見張みはりまでつけていたと見みられる。

百貨店ひゃっかてんでの藤田ふじた大佐たいさらの「展示てんじ」

3月5日にち、11月17日にちに逮捕たいほされていた元満もとみつ鉄てつ総裁そうさいの大村おおむら卓たく一いちが海竜かいりゅうの獄舎ごくしゃで獄死ごくしする。3月がつ10日とおかになると市内しないの百貨店ひゃっかてんで中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐん主催しゅさいの2・3事件じけん展示てんじ会かいが開ひらかれ、戦利せんり品ひんの中央ちゅうおうに藤田ふじた大佐たいさが見みせしめとして3日間にちかんに渡わたり立たったまま晒さらし者しゃにされた。中国ちゅうごく側がわ資料しりょうではこのとき国民党こくみんとう側がわ責任せきにん者しゃとして劉りゅう慶けい栄さかえがともに晒さらされたとされているが、日本人にっぽんじん側がわでは晒さらされていたのは孫まご耕こう暁あかつきであったと考かんがえて伝つたえる証言しょうげんが多おおい。2月がつ5日にちに拘束こうそくされた藤田ふじたは痩やせてやつれた体からだに中国ちゅうごく服ふくをまとい、風邪かぜをひいているのか始終しじゅう鼻水はなみずを垂たらしながら「許ゆるしてください。自分じぶんの不ふ始末しまつによって申もうし訳わけないことをしてしまいました」と謝あやまり続つづけた。これは、現地げんちの習慣しゅうかんで、再犯さいはんを防ふせぐために犯罪はんざいを犯おかした者ものに晒さらしものにしてそのように言いわせるものだが、藤田ふじたはその前まえの留置とめおき中ちゅうにおいても小声こごえで周まわりの者ものに謝あやまり続つづけていたという話はなしもあり、本心ほんしんからの謝罪しゃざいであった可能かのう性せいもある。一方いっぽうで、判断はんだんを誤あやまったと謝罪しゃざいしていたとするものもあり、であれば、単たんに失敗しっぱいしたのがまずかったのだとしか考かんがえていなかったかもしれない。反乱はんらん軍ぐん鎮圧ちんあつ展示てんじ品ひんとされたものには林はやし弥一郎やいちろう少佐しょうさが桐越きりこし一二三ひふみに送おくった桐越きりこしの銘めい入いりの軍刀ぐんとうも展示てんじされた。3月15日にちに藤田ふじたが肺炎はいえんで獄死ごくしした。藤田ふじた大佐たいさの死因しいんについては毒殺どくさつされたものだと疑うたがう者ものも日本人にっぽんじん側がわにいたようだが、松原まつばら一枝かずえの押川おしかわ医師いし（二に道江みちえの満まん洲しゅう製鉄せいてつの元もと勤務きんむ医い。終戦しゅうせん後ご、通つう化か市街しがいに出でて他たの医師いしと民主みんしゅ病院びょういんを営いとなんでいた）への調査ちょうさで、肺炎はいえんによる病死びょうしであることが明あきらかになっている。その遺体いたいは顔かおが覆おおわれた形かたちで兵舎へいしゃ前まえにしばらく横よこたわっていた。ある婦人ふじんが、お前まえのおかげで婿むこは帰かえってこない、婿むこを返かえしてくれと、座すわり込こんで泣なきながら迫せまっていたという。その後ご、何なん日にちかして兵舎へいしゃからほど近ちかい場所ばしょで彼かれの名なを書かいた棺桶かんおけが晒さらし物ぶつにされた。実際じっさいに遺体いたいが中なかに入はいっていたかは分わからない。

事件じけん以後いご

この事件じけん後ご、八はち路ろ軍ぐんによる日頃ひごろの警備けいびが厳きびしくなり、皮肉ひにくなことに日常にちじょうの通つう化かの治安ちあんは急きゅう改善かいぜんしたという。また、この頃ころ延のべ安やすの中国共産党ちゅうごくきょうさんとう本部ほんぶの方針ほうしんの変更へんこうがあり、それが伝つたえられて通つう化かの中国共産党ちゅうごくきょうさんとうの日本人にっぽんじんへの対応たいおうも改善かいぜんされたという。生存せいぞん者しゃは中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんへの徴兵ちょうへい、シベリア抑留よくりゅうなどさまざまな運命うんめいを辿たどった。この後のち、9月にごく短期間たんきかん、国共こっきょう間あいだの一時いちじ的てきな停戦ていせんが行おこなわれ、一部いちぶながら帰国きこく作業さぎょうも行おこなわれた。これを蜂起ほうき参加さんか者しゃの中なかには、これが後こうの本格ほんかく的てきな帰国きこく作業さぎょうに繋つながった、蜂起ほうきの成果せいかだと主張しゅちょうする者ものもいるが、犠牲ぎせい者しゃ遺族いぞくの中なかからは、帰国きこくはもともとポツダム宣言せんげんでも決きまっており国共こっきょう内戦ないせんで滞とどこおっていただけで、また、事件じけん後ごかえって些細ささいなことで朝鮮ちょうせん人じん兵士へいしに射殺しゃさつされた日本人にっぽんじんもいたとして反発はんぱつする声こえも強つよい。後のちに発見はっけんされた当時とうじの中国ちゅうごく側がわ資料しりょうによれば、日本人にっぽんじん側がわから、蜂起ほうき成功せいこう後ごには日にち中ちゅう双方そうほうからなる政権せいけん（つまり、日本人にっぽんじんの首謀しゅぼう者しゃ・有力ゆうりょく者しゃらと漢人かんどの国民党こくみんとう関係かんけい者しゃらで、現地げんちの多数たすうの満まん人じんを統治とうちする政権せいけん）を立たて、邦人ほうじんを帰国きこくさせず、中華民国ちゅうかみんこくの国籍こくせきと職しょくを与あたえることが要求ようきゅうされ、国民党こくみんとう側がわにそれが認みとめられていたという。これは、当時とうじの情勢じょうせいでは、邦人ほうじんを日本人にっぽんじんであることを理由りゆうに日本にっぽんに送還そうかんすることはせずに、満まん洲しゅうでの居住きょじゅう権けんを認みとめ、中国人ちゅうごくじんと同おなじ資格しかくで其その財産ざいさん権けんを保障ほしょうすることを意味いみする。しかし一方いっぽうで、これは帰国きこくを希望きぼうする邦人ほうじんの帰国きこくの途とまで鎖とざすことになり、多数たすうの難民なんみんを含ふくめた"持もたざる者もの"にとっては、これからも通つう化か市しで安やすい労働ろうどう力りょくとして暮くらしていくしかないことを意味いみする。このことから、蜂起ほうき自体じたいは、財閥ざいばつまで出来できているとされた当時とうじの満まん洲しゅうで、資産しさんを持もつ一部いちぶの有力ゆうりょく者しゃが、自身じしんらの資産しさんと自己じこに都合つごうの良よい社会しゃかい構造こうぞうと社会しゃかい階層かいそうの維持いじを狙ねらい、在郷ざいきょう軍人ぐんじんらを使嗾しそうし、藤田ふじた大佐たいさを担かついで起おこそうとしたものである可能かのう性せいが高たかい。なお、藤田ふじた大佐たいさ自身じしんは、国民党こくみんとう側がわから軍事ぐんじ部長ぶちょう（日本にっぽんの軍務ぐんむ大臣だいじんにあたる）の地位ちいを認みとめられていた。

関東軍かんとうぐん第だい二に航空こうくう団だん第だい四よん錬成れんせい飛行ひこう部隊ぶたいはそのメンバーが集団しゅうだんで八はち路ろ軍ぐんに入はいり、中国共産党ちゅうごくきょうさんとうの航空こうくう総そう隊たいとなっていたが、うち、航空こうくう技術ぎじゅつをもたない100名めい余あまりの隊員たいいんは部隊ぶたいから離はなされ炭鉱たんこうや兵器へいき工場こうじょうに送おくられた。航空こうくう総そう隊たいは航空こうくう学校がっこうと改あらためられ、林はやし弥一郎やいちろうは副ふく隊長たいちょうから参議さんぎとなり、教官きょうかんに専念せんねん。学校がっこうは国民党こくみんとう軍ぐんの攻撃こうげきを避さけて転々てんてんとしたものの、数すう多おおくのパイロットや整備せいび士しを養成ようせいし、現在げんざいの中国ちゅうごく空軍くうぐんの母体ぼたいの一ひとつとなった。叛乱はんらんに加担かたんすることを計画けいかくしていた2名めいの士官しかんは、労働ろうどう改造かいぞう教育きょういくを受うけることになったらしく、労働ろうどうに就ついているところを目撃もくげきされている。

篠塚しのづか良雄よしおは龍泉りゅうせんホテルで共産きょうさん軍ぐんに逮捕たいほされたが包囲ほういされた際さいに熱病ねつびょうにかかり、9月がつまで意識いしきを失うしなっており回復かいふく後ごは人民じんみん解放かいほう軍ぐんに入隊にゅうたいし、1953年ねんに撫なで順じゅん戦犯せんぱん管理かんり所しょに送おくられたと述のべている。帰国きこく後ごは撫なで順じゅんの奇蹟きせきを受うけ継つぐ会かいなどで731部隊ぶたいの証言しょうげんを行おこなっている。

1946年ねん末すえに中華民国ちゅうかみんこく政府せいふ軍ぐんが通つう化かを奪還だっかんすると事件じけん犠牲ぎせい者しゃの慰霊いれい祭さいが行おこなわれたともいう。1947年ねんには中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんが通つう化かを再ふたたび占領せんりょうした。

事件じけんの生存せいぞん者しゃの1人ひとりだった中山なかやま菊松きくまつは1952年ねん頃ごろ通どおり化か遺族いぞく会かいを設立せつりつし、遺族いぞくに援護えんご法ほう対象たいしょうとするための署名しょめい活動かつどうや陳情ちんじょう活動かつどうを始はじめるなど全国ぜんこく的てきな運動うんどうを展開てんかいした。1954年ねんには川内せんだい通どおり化か県けん副ふく県けん長ちょうの妻つまとともに、大野おおの伴睦ばんぼくらの仲介ちゅうかいで川崎かわさき秀二しゅうじ厚生こうせい大臣だいじんに対たいし、遺族いぞく援護えんご法ほうを通つう化か事件じけん犠牲ぎせい者しゃにも適用てきようすることを嘆願たんがんし、特例とくれいのような形かたちで認みとめられた。他たに波及はきゅうすることを怖こわれる厚生省こうせいしょうによって認定にんてい作業さぎょうは密ひそかに進すすめるよう要請ようせいされ、そのため個別こべつに申請しんせいを勧すすめるために行いった先さきで、そんなうまい話はなしがあるわけはない、何なんらかの詐欺さぎだろう、追おい返かえせと罵ののしられたこともあったという。通つう化か遺族いぞく会かいは1955年ねん以降いこう、毎年まいとし2月がつ3日にちに靖国神社やすくにじんじゃで慰霊いれい祭さいを行おこなっている。

前田まえだ光ひかり繁しげる（当時とうじ、通つう化かで名乗なのっていた名前なまえは杉野すぎの一夫かずお）は日本にっぽんに帰国きこく後ご、日にち中ちゅう友好ゆうこう会かい理事りじを務つとめるなどし、2005年ねんには北京ぺきんで開ひらかれた「中国ちゅうごく人民じんみん抗日こうにち戦争せんそう・世界せかい反はんファシズム戦争せんそう勝利しょうり60周年しゅうねん記念きねん」に出席しゅっせきし、胡錦濤こきんとう主席しゅせきの統治とうちを称たたえるとともに日にち中ちゅう関係かんけいの友好ゆうこう的てき発展はってんのために努つとめることを表明ひょうめいした。林はやし弥一郎やいちろうは日にち中ちゅう平和へいわ友好ゆうこう会かいを創設そうせつし会長かいちょうを務つとめた。

赤十字せきじゅうじ病院びょういんの柴田しばた大尉たいいは蜂起ほうき失敗しっぱい後ご、逃走とうそう。通つう化か県境けんきょうにさしかかったところで捜索そうさく隊たいに見みつかり、追おわれて野菜やさい蔵ぞうに潜ひそんだ所ところを発見はっけんされ、逮捕たいほされた。中国ちゅうごく側がわ資料しりょうでは赦ゆるされ釈放しゃくほうされたようにも思おもえるが、邦人ほうじん社会しゃかいでは、その後ご臨江で捕とらえられ9月がつに銃殺じゅうさつされたとも伝つたえられており、実態じったいははっきりしない。藤田ふじた大佐たいさとともに栗山くりやま邸ていで捕つかまった柴田しばた朝江あさえ（柴田しばた大尉たいいとは単たんに同姓どうせいで、特段とくだんの親族しんぞく関係かんけいはない）については、死刑しけいかと思おもわれたものの、龍泉りゅうせんホテルでの看護かんご婦ふとしての仕事しごとぶりを劉りゅう司令しれいが評価ひょうかしていたためか、いったん釈放しゃくほうされ、その後ご、9月の引揚のチャンスを捉とらえて帰国きこくした。松原まつばら一枝かずえの事件じけんを取とり上あげた著作ちょさくが出でると、自みずから連絡れんらくをとり、その著述ちょじゅつの誤あやまりを指摘してきしている。

通つう化かの中国共産党ちゅうごくきょうさんとう側がわの日本人にっぽんじん工作こうさく員いんの元締もとじめである山田やまだ参謀さんぼう（元もと鉱山こうざん技師ぎしで、中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんの参謀さんぼう部ぶに籍せきをおいた為ためこのように通称つうしょうされた。実際じっさいの参謀さんぼうではない。元もといた鉱山こうざんに妻子さいしを置おいて、八はち路ろ軍ぐんとともに通つう化かに来きたという。）は、共産党きょうさんとう軍ぐん側がわ工作こうさく員いんでありながら、穏便おんびんに処理しょりするため懸命けんめいに叛乱はんらん防止ぼうしに努力どりょくしていたのではないかと考かんがえる向むきも多おおい。多おおくの説せつでは、邦人ほうじんが叛乱はんらんを企たくらんでいることを報告ほうこくしなかったことで、共産党きょうさんとう軍ぐんに疑うたがわれ処刑しょけいされたとされているものの、日本にっぽんに無事ぶじ帰かえることが出来できたとする者ものもいる。山田やまだの部下ぶからには、日本人にっぽんじん側がわの叛乱はんらんが成功せいこうすれば、山田やまだ自身じしんは必かならず日本人にっぽんじんらに処刑しょけいされると見みて、自身じしんらの生いき残のこりの途とを策さくして、両りょう陣営じんえいに二股ふたまたをかける者ものもいた。事件じけん後ご、山田やまだの部下ぶからで劉りゅう司令しれいに取とり縋すがるようにして弁明べんめいしているを目撃もくげきされた者ものもおり、部下ぶからは多おおくが思想しそう教育きょういくを受うけ直なおすことで助たすかったようだ。

日本人にっぽんじん首謀しゅぼう者しゃらについては、松原まつばら一枝かずえの確認かくにんした厚生省こうせいしょうの記録きろくによると、結局けっきょく、多おおくの者ものが中国共産党ちゅうごくきょうさんとうに釈放しゃくほうされて日本にっぽんに無事ぶじ帰還きかんしている。ただし、柴田しばた大尉たいいについては日本人にっぽんじん引揚者しゃの間あいだで消息しょうそくが聞きかれず、処刑しょけいされたと信しんじられ、そのように引揚者しゃから厚生省こうせいしょうに報告ほうこくされたためか、戦死せんしと記録きろくされていたという。前田まえだ光ひかり繁しげるは、中国共産党ちゅうごくきょうさんとう側がわは藤田ふじた大佐たいさを殺ころさず生いかして利用りようする方針ほうしんだったというが、中国ちゅうごく側がわ資料しりょうによると、中国共産党ちゅうごくきょうさんとう側がわの方針ほうしんもあり、藤田ふじたに限かぎらず多おおくの首謀しゅぼう者しゃ格かくの者ものも取とり調しらべ後ご、他たの者ものらとともに釈放しゃくほうされたように見みえる。彼かれらの一部いちぶには、1946年ねん11月がつ以降いこうの国民党こくみんとうの通つう化か奪回だっかい後ご国民党こくみんとうに協力きょうりょくし、さらにその後ごの国共こっきょう内戦ないせんの継続けいぞくと最終さいしゅう的てきな共産党きょうさんとう勝利しょうりの中なかで逮捕たいほされ処刑しょけいされた者ものもいたようであるが、かなりの数かずの者ものは、それ以前いぜんの1946年ねん9月がつからの国共こっきょう内戦ないせんの一時いちじ休戦きゅうせん時じに日本にっぽんへの帰還きかんを果はたしたのであろうか。

藤田ふじた大佐たいさの家族かぞくについては、夫人ふじんが次女じじょ、双子ふたごの息子むすことともに石いし人じんから先さきに引揚ひきあげ、長女ちょうじょは当地とうちでの（共産きょうさん側がわの）民主みんしゅ化か運動うんどうへの参加さんかで知しられるようになっていたため、帰路きろに国民党こくみんとう支配しはい地域ちいきを通とおることから不測ふそくの事態じたいを避さけるため、いったん残のこり、別べつに北朝鮮きたちょうせんを経由けいゆして帰国きこくした（なお、佐藤さとう和明かずあきは、民主みんしゅ化か運動うんどうをしていたのを次女じじょとしていることから、当時とうじ通どおり化かにいたのは藤田ふじた大佐たいさの娘むすめは次女じじょと三さん女じょと考かんがえているようである）。柴田しばた朝江あさえは、栗林くりばやし宅たくにいたタイピスト佐々木ささききぬ江えと奉天ほうてんの駅えきで偶然ぐうぜん会あい、彼女かのじょに知しらされて、ともに居いた藤田ふじた夫人ふじんに藤田ふじた大佐たいさの遺品いひんを渡わたしている。

国民党こくみんとう側がわ首謀しゅぼう者しゃらについては、事件じけん前まえに逮捕たいほされていたトップの孫まご耕こう暁あかつきについては中国ちゅうごく側がわ資料しりょうによれば事件じけんのさなかに処刑しょけいされた。ナンバー2、3の劉りゅう亦また天てん、姜きょう基はじめ隆たかしらをはじめ逃走とうそうに成功せいこうした国民こくみん党員とういんらは奉天ほうてんに逃亡とうぼう、亡命ぼうめい本部ほんぶを自称じしょう、反はん共産きょうさん政権せいけん活動かつどうを続つづけた。政権せいけんメンバーについては、孫まご耕こう暁あかつき、藤田ふじた実彦さねひこを生存せいぞんしているよう見みせかけるため、そのままトップに据すえ、日本人にっぽんじんメンバー名めいは偽名ぎめいを使つかって埋うめたという。やがて国民党こくみんとうが1946年ねん11月がつ通どおり化かを奪回だっかい、彼かれら国民党こくみんとう関係かんけい者しゃらは事件じけん後ご釈放しゃくほうされていた日本人にっぽんじんメンバーの一部いちぶとも結むすんだものの、その後ごの国共こっきょう内戦ないせんと最終さいしゅう的てきな共産党きょうさんとう勝利しょうりの中なかで多おおくが逮捕たいほされ、劉りゅう亦また天てん・姜きょう基はじめ隆たかしは処刑しょけいされ、其その他ほかのメンバーも、一部いちぶは処刑しょけい、あるいは有期ゆうき刑けいを受うけた。

なお、姜きょう基はじめ隆たかしについては、1946年ねん9月がつ通どおり化かからの12名めいの日本人にっぽんじん引揚者しゃが国民党こくみんとう支配しはい地域ちいきに来きた際さい、共産きょうさん側がわにも二股ふたまたをかけていた者ものがいたために捉とらえられ、一部いちぶは拷問ごうもんにかけられ、処刑しょけいされる可能かのう性せいもあった際さいに、釈放しゃくほうに尽力じんりょくしてくれたという（ただし、12名めい全員ぜんいんが救すくわれたのかどうかは不ふ明確めいかくである)。

備考びこう

• 門田かどた隆たかし将しょうは1984年ねん、未み開放かいほう地区ちくだった通つう化かに人民じんみん服ふくで潜入せんにゅうし、事件じけんで殺害さつがいされた伯父おじを弔とむらうために通つう化かの石いしを持もち帰かえったと述のべている。
• 船戸ふなと与一よいちの著書ちょしょ『残夢ざんむの骸むくろ 満州まんしゅう国こく演義えんぎ』シリーズのクライマックスは通つう化か事件じけんとなっている。
• ケント・ギルバートは、『夕刊ゆうかんフジ』のコラムで世界せかい抗日こうにち戦争せんそう史実しじつ維護連合れんごう会かいによる南京なんきん大だい虐殺ぎゃくさつ、慰安いあん婦ふ強制きょうせい連行れんこうなどの虚偽きょぎ拡散かくさんに対たいする戦争せんそう真実しんじつの引ひき合あいとして通つう化か事件じけんを通とおり州しゅう事件じけん、黄河こうが決壊けっかい事件じけんとともに例示れいじすることでアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく内ないの虚偽きょぎの反日はんにち宣伝せんでんの問題もんだい性せいの指摘してきとその行為こういを取とり締しまれるよう法ほう改正かいせいを主張しゅちょうした。

関連かんれん項目こうもく

• 間島まじま省しょう
• 間島まじま問題もんだい
• 二に・二に八はち事件じけん
• 延吉のぶよし普通ふつう学校がっこう事件じけん

参考さんこう文献ぶんけん

• 松原まつばら一枝かずえ『藤田ふじた大佐たいさの最後さいご』文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう、1972年ねん10月がつ15日にち。全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:75015852。 
• 松原まつばら一枝かずえ『電灯でんとうが三さん回かい点滅てんめつした―通つう化か事件じけんと藤田ふじた大佐たいさ』エイジ出版しゅっぱん、1982年ねん3月がつ1日にち。ISBN 4-900225-09-6。 
• 松原まつばら一枝かずえ『通つう化か事件じけん―“関東軍かんとうぐんの反乱はんらん”と参謀さんぼう・藤田ふじた実彦さねひこの最期さいご』チクマ秀しゅう版ばん社しゃ、2003年ねん8月がつ8日にち。ISBN 4-8050-0420-7。 
• 佐藤さとう和明かずあき『通つう化か事件じけん―無条件むじょうけん降伏ごうぶく下か、武装ぶそう蜂起ほうきした日本人にっぽんじん』新しん評論ひょうろん、1989年ねん7月がつ20日はつか。ISBN 4-7948-0038-X。 
• 佐藤さとう和明かずあき『通つう化か事件じけん―共産きょうさん軍ぐんによる日本人にっぽんじん虐殺ぎゃくさつ事件じけんはあったのか? いま日び中ちゅう双方そうほうの証言しょうげんで明あきらかにする』新しん評論ひょうろん、1993年ねん4月がつ25日にち。ISBN 4-7948-0174-2。 
• 佐藤さとう和明かずあき『少年しょうねんは見みた―通つう化か事件じけんの真実しんじつ』新しん評論ひょうろん、1998年ねん2月がつ3日にち。ISBN 4-7948-0386-9。 
• 北野きたの憲二けんじ『満州まんしゅう国こく皇帝こうていの通つう化か落おち』新人物往来社しんじんぶつおうらいしゃ、1992年ねん5月がつ1日にち。ISBN 4-404-01910-6。 
• 大村おおむら卓たく一いち追悼ついとう録ろく編纂へんさん会かい『大村おおむら卓たく一いち』大村おおむら卓たく一いち追悼ついとう録ろく編纂へんさん会かい、1974年ねん8月がつ1日にち。ISBN 4-404-01910-6。 
• 山田やまだ一郎いちろう（著ちょ）、田村たむら吉雄よしお（編へん）「通つう化か幾いく山河さんが」『秘録ひろく大だい東亜とうあ戦史せんし 満まん洲しゅう篇へん (下した)』、富士ふじ書しょ苑えん、1953年ねん6月がつ10日とおか、9～74頁ぺーじ。 
• 古川ふるかわ万太郎まんたろう『凍いてつく大地だいちの歌うた: 人民じんみん解放かいほう軍ぐん日本人にっぽんじん兵士へいしたち』三省堂さんせいどう、1984年ねん8月がつ。ISBN 4385349142。 
• 愛あい新しん覚さとし羅ら浩ひろし『流転るてんの王妃おうひの昭和しょうわ史し』新潮社しんちょうしゃ〈〈新潮しんちょう文庫ぶんこ〉〉、1992年ねん。ISBN 4-10-126311-6。 

関連かんれん項目こうもく

• 連合れんごう軍ぐんによる戦争せんそう犯罪はんざい (第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん)
• 尼あま港みなと事件じけん
• 小山こやま克かつ事件じけん
• 葛根かずらね廟びょう事件じけん
• 敦あつし化か事件じけん
• 牡丹ぼたん江こう事件じけん
• 仁義じんぎ佛ふつ立りつ講こう開拓かいたく団だん
• 真岡もおか郵便ゆうびん電信でんしん局きょく事件じけん
• 三船みふね殉難じゅんなん事件じけん
• 引ひき揚あげ
• シベリア抑留よくりゅう
• 通とおり州しゅう事件じけん
• チベット動乱どうらん

外部がいぶリンク

• 紙かみ田た治ち一いち 遺稿いこう【通つう化か事件じけん】 医師いし・紙し田た治ち一いちの記録きろく
• 山下やました好之よしゆき氏し 第だい4回かい 8.通つう化かから牡丹ぼたん江こう・桂木かつらぎ斯へ撤退てったい OralHistoryProject
• 中共ちゅうきょう空軍くうぐん創設そうせつ秘話ひわその3 軍事ぐんじ評論ひょうろん家か佐藤さとう守まもる 2005-11-08
• 中国ちゅうごく空軍くうぐん創設そうせつにつくした日本人にっぽんじん教官きょうかん元もと空軍くうぐん司令しれい官かんが回想かいそうする 『人民じんみん中国ちゅうごく』

国共こっきょう内戦ないせん

主要しゅよう戦闘せんとう・事件じけんの一覧いちらん

• 第だい一いち次じ国共こっきょう内戦ないせん
  

  • 上海しゃんはいクーデター
  • 南みなみ昌あきら蜂起ほうき
  • 秋あき収おさむ蜂起ほうき
  • 広州こうしゅう蜂起ほうき
  • 長ちょう沙すな暴動ぼうどう
  • 第だい一いち次じ囲かこえ剿
  • 第だい二に次じ囲かこえ剿
  • 第だい三さん次じ囲かこえ剿
  • 第だい四よん次じ囲かこえ剿
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  • 西安しーあん事件じけん

  国共こっきょう摩擦まさつ
  

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  第だい二に次じ国共こっきょう内戦ないせん
  

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