通商つうしょう破壊はかい

通商つうしょう破壊はかい（つうしょうはかい）とは戦時せんじに、通商つうしょう物資ぶっしや人ひとを乗のせた商船しょうせんを攻撃こうげきすることによって、海運かいうんによる物資ぶっしの輸送ゆそうを妨害ぼうがいすることである。

概要がいよう

19世紀せいきまではフリゲート、20世紀せいきからは巡洋艦じゅんようかんが行おこなうようになったが、第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせんでは潜水せんすい艦かんにより行おこなわれたものが有名ゆうめいになった。第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんでは軍用ぐんよう機きでも行おこなうようになった。なお、通商つうしょう破壊はかいに対たいする護衛ごえい・防御ぼうぎょのことを通商つうしょう護衛ごえい（つうしょうごえい）と呼よび、通商つうしょう破壊はかいに対抗たいこうするために生うみ出だされた戦法せんぽうが護送ごそう船団せんだんである。

通商つうしょう破壊はかいの目的もくてき

交戦こうせん相手あいて国こくの物資ぶっしの輸送ゆそうが主おもに海運かいうんによる場合ばあいにおいて取とられる手段しゅだんであり、古来こらいから行おこなわれてきた。食料しょくりょうや産業さんぎょう活動かつどうに必要ひつような原材料げんざいりょうの輸送ゆそうを海運かいうんに依存いぞんする国家こっかにとって、海運かいうんによる通商つうしょう活動かつどうの停止ていしは、産業さんぎょう活動かつどうの崩壊ほうかい・国家こっかの崩壊ほうかいに結むすびつくため、そのような国家こっかに対たいする作戦さくせん行動こうどうとして非常ひじょうに有効ゆうこうとなる。

また通商つうしょう破壊はかい作戦さくせんは、対戦たいせん国こくよりも相対そうたい的てきに弱小じゃくしょうな海軍かいぐんを保有ほゆうする場合ばあいにもゲリラ的てきに実施じっしできるため、劣勢れっせい海軍かいぐんの主軸しゅじく戦術せんじゅつとして実施じっしされる。現代げんだいの通商つうしょう破壊はかいの主力しゅりょく兵器へいきは、潜水せんすい艦かん、航空機こうくうき、機雷きらい、武装ぶそう小しょう艇てい、自爆じばくボートなどである。

これに対たいして、海運かいうんが重要じゅうような国家こっかにおいて海軍かいぐんに求もとめられることはシーレーン（海上かいじょう通商つうしょう路ろ）の維持いじ・防衛ぼうえいとなる。その方策ほうさくとしては、通商つうしょう物資ぶっしを搭載とうさいした商船しょうせんに船団せんだんを組くませ、それを軍艦ぐんかんなどで護衛ごえいする護送ごそう船団せんだんや、通商つうしょう破壊はかいを行おこなう敵てき部隊ぶたい・根拠地こんきょちを直接ちょくせつ攻撃こうげきする方法ほうほうの二ふたつがある。しかし、このシーレーンの維持いじ・防衛ぼうえいは、戦時せんじにおいては現地げんち主義しゅぎの弊害へいがいから、後方こうほう支援しえんとして重要じゅうよう度どが低ひくくされる傾向けいこうにあり、優秀ゆうしゅうな指揮しき官かんがあたることは少すくない。また、兵士へいしも戦闘せんとう員いんではなく輸送ゆそう員いんと化かしてしまうことにより士気しきが低下ていかすることもあり、成功せいこうさせることは困難こんなんである。通商つうしょう破壊はかいを実施じっしする側がわはゲリラ的てきな作戦さくせんを実施じっしできるのに対たいし、防衛ぼうえいには各かく艦船かんせん・兵力へいりょくの連携れんけいや情報じょうほうの更新こうしん、護衛ごえいと同時どうじに撃退げきたいを行おこなうなど、非常ひじょうに多おおくの戦力せんりょくが必要ひつようとなるためである。

通商つうしょう破壊はかいの効果こうか

商船しょうせんを拿捕だほし、また沈しずめてしまえばその国家こっかの海運かいうんから直接ちょくせつその船ふねの分ぶんの輸送ゆそう力りょくを永続えいぞく的てきに奪うばうことになるが、間接かんせつ的てきにも大おおきい効果こうかを及およぼすことができる。すなわち、ある航路こうろが安全あんぜんでないとなれば、低速ていそくの単独たんどく船せんは出発しゅっぱつ港こうに引ひき返かえすか最寄もよりの港みなとに避難ひなんしてしまうため、長期ちょうきにわたってその航路こうろの効率こうりつを落おとすことになる。また通商つうしょう護衛ごえいのために船団せんだん方式ほうしきを採用さいようすれば、護衛ごえいがつくことにより船舶せんぱくそのものの被害ひがいは減少げんしょうするが、出港しゅっこうの準備じゅんびが早はやく整ととのった船ふねも最後さいごの船ふねの準備じゅんびができるまで港内こうないで待またざるを得えない。

少数しょうすうの通商つうしょう破壊はかい艦かんでもその出現しゅつげんによって多大ただいな影響えいきょうを与あたえることができる。それを排除はいじょするために相手あいて国こくの海軍かいぐんでは船団せんだん護衛ごえいのみならず、通商つうしょう破壊はかい艦かんを積極せっきょく的てきに索敵さくてき撃滅げきめつするために大だい兵力へいりょくを投入とうにゅうすることがある。

歴史れきし

近代きんだい以前いぜんでは地中海ちちゅうかいにおけるオスマン帝国ていこくとヴェネツィア共和きょうわ国こくの抗こう争そう、大だい航海こうかい時代じだいにおけるスペインの輸送ゆそう船団せんだんに対たいするイングランドの私わたし掠かすめ船せんの攻撃こうげきなどが著名ちょめいな通商つうしょう破壊はかい戦せんとして上あげられる。また後のちにオランダを建国けんこくすることになる16世紀せいきのスペイン領りょうネーデルラントの反乱はんらん軍ぐんは、一時期いちじき「海うみ乞食こじき（ゼーゴイセン）」を自称じしょうする通商つうしょう破壊はかい船団せんだんが部隊ぶたいの中核ちゅうかくであった。

20世紀せいきにおいては、第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせんにおいてドイツ帝国ていこくがイギリスに対たいして、第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんにおいてはドイツと大日本帝国だいにっぽんていこくがイギリス帝国ていこくとアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくに対たいして、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくが大日本帝国だいにっぽんていこく（日本にっぽん）に対たいして行いった。

2度どの世界せかい大戦たいせんを通つうじて、イギリス海軍かいぐんはアメリカ海軍かいぐんの援助えんじょを受うけながらも、シーレーン防衛ぼうえいには最大限さいだいげんの努力どりょくを払はらった。これは宿敵しゅくてきであるドイツ海軍かいぐんの作戦さくせん行動こうどう能力のうりょくが、イギリスに対たいして低ひくかったことを考慮こうりょしたとしても非常ひじょうに大おおきなものであった。

それに対たいし、第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんにおける日本にっぽん海軍かいぐんは、緒戦しょせんでその占領せんりょう範囲はんいを広範囲こうはんいに広ひろげたことや、海軍かいぐん自体じたいが艦隊かんたい決戦けっせんのためのものだったこともあり、シーレーン防衛ぼうえいを顧ることがなかった。その上うえ、インド洋いんどよう以外いがいでは同盟どうめい国こくの協力きょうりょくが無なかったことから、大戦たいせん末期まっきの1944年ねん末まつ以降いこうは、アメリカ海軍かいぐんとイギリス海軍かいぐんにより、日本にっぽん本土ほんどと占領せんりょう地ちそして資源しげん産出さんしゅつ地ちとを結むすぶシーレーンは戦況せんきょうが悪化あっかするごとに寸断すんだんされ、補給ほきゅうも資源しげんの輸送ゆそうもままならない状況じょうきょうとなり、終戦しゅうせん時じには石油せきゆを始はじめとする各種かくしゅ物資ぶっしの欠乏けつぼうに陥おちいり、産業さんぎょう活動かつどうがほぼ停止ていしするに至いたった。

日にち露ろ戦争せんそう

日にち露ろ戦争せんそうではウラジオストックを基地きちとしたロシア海軍かいぐん部隊ぶたい（ウラジオストク巡洋艦じゅんようかん隊たい）が常陸ひたち丸まる事件じけんなど日本にっぽん近海きんかいの通商つうしょう破壊はかい作戦さくせんを行おこなった。日本にっぽん海軍かいぐんは蔚山うるさん沖おき海戦かいせんでこの部隊ぶたいを捕捉ほそく、撃滅げきめつした。

第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせん

第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせんでは、主おもに大西おおにし洋ひろし・地中海ちちゅうかい・北海ほっかいにおいて、ドイツが連合れんごう国こく（主おもにイギリス）に対たいして通商つうしょう破壊はかい作戦さくせんを行おこなった。

大西おおにし洋ひろし・地中海ちちゅうかい・北海ほっかいにおいては、主おもに潜水せんすい艦かん（Uボート）による通商つうしょう破壊はかい戦せんが行おこなわれた。太平洋たいへいよう・インド洋いんどよう方面ほうめんにおいては、軽けい巡洋艦じゅんようかんエムデンによる通商つうしょう破壊はかい戦せんが有名ゆうめいである。それら以外いがいでは南みなみ大西洋たいせいようを中心ちゅうしんに活動かつどうした帆船はんせんゼーアドラーが知しられている。

第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん

第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんでは、主おもに大西洋たいせいようや地中海ちちゅうかい、カリブ海かりぶかいや北海ほっかいにおいて、ドイツが連合れんごう国こく（主おもにイギリスとアメリカ）に対たいして通商つうしょう破壊はかい作戦さくせんを行おこなった。また、日本にっぽんも連合れんごう国こくに対たいし、アメリカ本土ほんど沿岸えんがんやインド洋いんどよう、南太平洋みなみたいへいようで通商つうしょう破壊はかい作戦さくせんを行おこなった。アメリカも太平洋たいへいようや南シナ海みなみしなかい、東シナ海ひがししなかいにおいて日本にっぽんに対たいして通商つうしょう破壊はかい作戦さくせんを行おこなった。

ドイツ

主おもに群ぐん狼おおかみ作戦さくせんなどの潜水せんすい艦かんによる通商つうしょう破壊はかい戦せんを行おこなった。このほか、ポケット戦艦せんかん、仮装かそう巡洋艦じゅんようかん、航空機こうくうきでも積極せっきょく的てきに活動かつどうを行おこない、ポケット戦艦せんかん「アドミラル・シェーア」、仮装かそう巡洋艦じゅんようかん「コメート」など優秀ゆうしゅうな通商つうしょう破壊はかい艦かんを多おおく輩出はいしゅつした。その活動かつどう範囲はんいは、北海ほっかい・北大西洋きたたいせいようを中心ちゅうしんに、赤道せきどう以南いなんの大西洋たいせいよう、地中海ちちゅうかい、カリブ海かりぶかい、インド洋いんどよう、太平洋たいへいようからアメリカ本土ほんどのセントローレンス川がわにまでおよんでいる。特とくに大西洋たいせいようにおけるものは大西洋たいせいようの戦たたかい(Battle of the Atlantic)と呼よばれた。

日本にっぽん

対たい英えい米べい戦せん開戦かいせん後ごの1941年ねん12月から1942年ねん秋あきにかけて、アメリカ本土ほんど西海岸にしかいがんのカリフォルニア州しゅう沿岸えんがんからカナダ、アラスカ州しゅうにかける広ひろい範囲はんいで巡めぐ潜せん乙おつ型がた潜水せんすい艦かんにより通商つうしょう破壊はかい作戦さくせんを行おこなった（アメリカ本土ほんど攻撃こうげき）。また、通商つうしょう破壊はかい作戦さくせんに従事じゅうじしていた潜水せんすい艦かんの艦載かんさい機きがオレゴン州しゅうを空襲くうしゅうした。

南みなみ遣や艦隊かんたいや商船しょうせん改造かいぞうの特設とくせつ巡洋艦じゅんようかん、愛国あいこく丸まる・報国ほうこく丸まるで構成こうせいされた第だい24戦隊せんたいが1941年ねんから1942年ねんにかけて、インド洋いんどようでイギリスやオーストラリアの艦船かんせんに対たいして、通商つうしょう破壊はかい作戦さくせんを行おこなった。

アメリカ

アメリカ軍ぐんは、特とくに戦争せんそう後半こうはんにおいて、日本にっぽんに対たいし通商つうしょう破壊はかい作戦さくせんを行おこなった。その主力しゅりょくとなったものは、オーストラリアやハワイを基地きちとした潜水せんすい艦かんである。潜水艦せんすいかん3隻せきを一いち組くみとし、ウルフパックと名付なづけ太平洋たいへいようをはじめ、南シナ海みなみしなかい、東シナ海ひがししなかい、さらには日本海にほんかいで作戦さくせんを行おこなった。また、1944年ねんには空母くうぼ機動きどう部隊ぶたいの艦載かんさい機きも南シナ海みなみしなかいで作戦さくせん行動こうどうを行おこない、多数たすうの商船しょうせんを撃沈げきちんした。

末期まっきには「飢餓きが作戦さくせん」と命名めいめいされた大だい規模きぼな機雷きらい投下とうか作戦さくせんを、日本にっぽん列島れっとう周辺しゅうへんで行おこなった。ボーイングB-29爆ばく撃げき機きが、日本にっぽん列島れっとうや朝鮮半島ちょうせんはんとうの港湾こうわんに機雷きらいを投下とうかし、艦船かんせんの運航うんこうを妨さまたげた。ピーク時じには潜水せんすい艦かんなどの戦果せんかを上回うわまわり、日本にっぽん商船しょうせんの月間げっかん喪失そうしつ原因げんいんの過半数かはんすうを占しめた。

関連かんれん項目こうもく

• 海上かいじょう封鎖ふうさ
• 対馬つしま丸まる事件じけん

参考さんこう文献ぶんけん

• 有坂ありさか純じゅん｢帆走はんそう軍艦ぐんかん｣〈歴史れきし群ぐん像ぞうNo.70〉学習研究社がくしゅうけんきゅうしゃ2005年ねん4月がつ1日にち発行はっこう。