郡代ぐんだい

郡代ぐんだい（ぐんだい）とは室町むろまち時代ときよから江戸えど時代じだいにかけての幕府ばくふ・諸もろ藩はんに置おかれた職名しょくめい。郡ぐん奉行ぶぎょう（こおりぶぎょう）とも。時代じだいによって厳密げんみつな意味合いみあいは異ことなるが、一般いっぱんには、その土地とちの領主りょうしゅに代かわって徴税ちょうぜい・司法しほう・軍事ぐんじ等とうの職務しょくむを、郡ぐんといった広ひろい単位たんいで担当たんとうした地方ちほう行政ぎょうせい官かん、すなわち郡ぐん単位たんいの代官だいかん（郡ぐん奉行ぶぎょうなら奉行ぶぎょう）のことを指さす。

室町むろまち・戦国せんごく期きの「郡代ぐんだい」

中世ちゅうせいの郡代ぐんだいは鎌倉かまくら時代ときよに郡ぐんを単位たんいとして軍事ぐんじ・警察けいさつ権けんを行使こうししていた守護しゅご代だい（在京ざいきょう守護しゅごが現地げんちに派遣はけんした代官だいかん）が室町むろまち時代ときよに入はいり、租税そぜい関係かんけい（年貢ねんぐの徴収ちょうしゅう）も行おこなうようになったことに始はじまる。一般いっぱん的てきには守護しゅご代だいの支配しはいを受うけて郡ぐん単位たんいで支配しはいした代官だいかんを郡代ぐんだい・郡ぐん奉行ぶぎょうと呼よんでいたが、守護しゅご代だいそのものを郡代ぐんだい・郡ぐん奉行ぶぎょうと呼よぶ場合ばあいもある。支配しはい地域ちいきは1〜2郡ぐんであった。

戦国せんごく期きには守護しゅごをはじめとする地域ちいき勢力せいりょくが一いち国こく以上いじょうの領域りょういきを支配しはいする戦国せんごく大名だいみょうが出現しゅつげんし、戦国せんごく大名だいみょうの領国りょうごくは本国ほんごくと新規しんきに獲得かくとくした分ぶん国くににより形成けいせいされた。戦国せんごく大名だいみょうの領域りょういき支配しはいは、東国とうごくにおいては相模さがみ国こくの後のち北条ほうじょう氏しや甲斐かい国こくの武田たけだ氏しにおいて「郡代ぐんだい」の存在そんざいが確認かくにんされ、後こう北条ほうじょう領国りょうごくにおいては「郡ぐん」単位たんいで公事こうじ収おさむ取とが行おこなわれ、やがて群ぐん代だい支配しはいが支ささえ城じょう制せいに展開てんかいしていく過程かていが指摘してきされている。

一方いっぽうで、戦国せんごく大名だいみょうの支配しはい領域りょういきは一様いちようではなく本国ほんごくと分ぶん国こくの地域ちいき的てき背景はいけいや自立じりつ的てきな国くに衆しゅの存在そんざい、支配しはい領域りょういきとなった時期じきの差異さいなどにより多様たよう性せいがあり、郡司ぐんじ支配しはいや支ささえ城じょう制せいによる均一きんいつ支配しはいでなかった点てんも指摘してきされ、後こう北条ほうじょう領国りょうごくにおいては公事こうじ賦課ふか・収おさむ取とのための地域ちいき区分くぶんである「郡ぐん」のほか知行ちぎょう単位たんいとしての「領りょう」が存在そんざいし、「領りょう」単位たんいで軍事ぐんじ指揮しき権けんを司つかさどる城代しろだいが郡代ぐんだいの権限けんげんを兼任けんにんしていたことも指摘してきされている。

武田たけだ領国りょうごくにおいては後こう北条ほうじょう領国りょうごくと同様どうように城代しろだいが郡代ぐんだいを兼任けんにんし諸しょ役やく賦課ふか・収おさむ取と権けんと軍事ぐんじ指揮しき権けんを兼かねていることが指摘してきされ、一方いっぽうで郡代ぐんだい（城代じょうだい）は郡ぐん域いき全体ぜんたいを掌握しょうあくしておらず支ささえ城じょう領りょうの管轄かんかつ外がい地域ちいきにおついては郡ぐん担当たんとうの奉たてまつ者しゃが存在そんざいしていたと考かんがえられている。一方いっぽうで、武田たけだ領国りょうごくにおいては地域ちいき支配しはいに複数ふくすうの奉たてまつ者しゃが関与かんよしている点てんから「郡代ぐんだい」・郡ぐん担当たんとう奉行ぶぎょうの存在そんざいを否定ひていする指摘してきも見みられる。

『甲きのえ陽よう軍ぐん鑑かん』においては「郡代ぐんだい」の記述きじゅつが見みられるが、文書ぶんしょ上じょうにおいては武田たけだ領国りょうごくの初期しょき形成けいせい過程かていにおいて城じょう将すすむを兼かねた「郡司ぐんじ」の存在そんざいが確認かくにんされ、その位置いちづけが検討けんとうされている。

江戸えど時代じだい

江戸えど時代じだいに、幕府ばくふおよび諸しょ藩はんに置おかれた役職やくしょくで比較的ひかくてき広域こういきの幕府ばくふ領りょうを支配しはいする代官だいかんのことをいう。江戸えど中期ちゅうき以降いこうは関東かんとう郡ぐん代だい・美濃みの郡代ぐんだい・西国さいこく筋すじ郡代ぐんだい・飛騨ひだ郡ぐん代だい。

江戸えど幕府ばくふ

江戸えど時代じだい初期しょきには上方かみがた、尼崎あまがさき、三河みかわ、丹波たんば、河内かわうちなどほぼ1国こく単位たんいに郡代ぐんだいが置おかれた。寛永かんえい19年ねん（1642年ねん）勘定かんじょう頭あたま制せいの施行しこうに伴ともない、郡代ぐんだい・代官だいかんはその管轄かんかつ下かに置おかれた。

江戸えど時代じだい中期ちゅうき以降いこうは、関東かんとう・美濃みの・西国さいごく・飛騨ひだの4郡代ぐんだいとなった。郡代ぐんだいは、身分みぶん・格式かくしきが代官だいかんよりも上うえであるが、職務しょくむ内容ないようについては代官だいかんとほぼ同おなじであった。また、近年きんねんの研究けんきゅうでは関東かんとう郡ぐん代だいの設置せっちは寛政かんせい4年ねん（1792年ねん）のことであり、それ以前いぜんに伊奈いな氏しが就ついていたとされる「関東かんとう郡ぐん代だい」は「関東かんとう代官だいかん」であった伊奈いな氏しによる自称じしょうに過すぎなかったことが明あきらかにされている。なお、江戸えど幕府ばくふ初期しょきには老中ろうじゅう支配しはいの郡代ぐんだい官かんが設置せっちされて郡代ぐんだいとほぼ同様どうようの職掌しょくしょうを扱あつかったが、寛文ひろふみ8年ねん（1668年ねん）に廃止はいしされている。

諸しょ藩はん

諸しょ藩はんでも直轄ちょっかつ地ち支配しはいを行おこなうため郡代ぐんだいあるいは郡ぐん奉行ぶぎょうを置おいている場合ばあいもあるが、郡ぐん奉行ぶぎょうのみで郡代ぐんだいを置おかない場合ばあいが多おおい。後述こうじゅつのように郡ぐん奉行ぶぎょうにあたる職しょくを郡ぐん役やくと呼よぶ藩はんもあった。また、郡代ぐんだいあるいは郡ぐん奉行ぶぎょうの配下はいかには代官だいかんがいることが多おおかった。

諸しょ藩はんの郡代ぐんだい

米沢よねざわ藩はんでは上杉うえすぎ重定しげさだ治下ちかで森もり利とし真しんが郡ぐん奉行ぶぎょうを置おいた。後のちに郡ぐん奉行ぶぎょうを廃止はいしし、郡代ぐんだいを置おいたが、森もり暗殺あんさつ後ごに郡代ぐんだいは廃止はいしされ、郡ぐん奉行ぶぎょうが復活ふっかつした。

諸しょ藩はんの郡ぐん奉行ぶぎょう

郡ぐん奉行ぶぎょうは郡ぐん方かたまたは郡ぐん役所やくしょに属ぞくし、家老がろうの統括とうかつを受うけ、代官だいかんを支配しはいする場合ばあいが多おおい。柳河やなかわ藩はん（11万まん9,000石せき）では奉行ぶぎょう職しょく（後ごの中老ちゅうろう）との混同こんどうを避さけるためか郡ぐん役やくと呼称こしょうしている。

郡ぐん奉行ぶぎょうの人員じんいんは会津あいづ松平まつへい家か時代じだいの会津あいづ藩はん（23万まん石せき）で4人にん、戸田とだ家か時代じだいの大垣おおがき藩はん（10万まん石せき）で4人にん、越後えちご長岡ながおか藩はん（7万まん4,000石せき）で3人にん、備後びんご福山ふくやま藩はん(10万まん石せき)で3人にんであった。

著名ちょめいな諸しょ藩はんの郡代ぐんだい・郡ぐん奉行ぶぎょう経験けいけん者しゃ

• 東郷とうごう重しげる方かた（薩摩さつま藩はん。同どう藩はん初代はつよ郡ぐん奉行ぶぎょうの一人ひとり）
• 宇留野うるの勝明かつあき（久保田くぼた藩はん。同どう藩はん初代はつよ郡ぐん奉行ぶぎょうの一人ひとり）
• 森もり利とし真しん（平ひら右みぎ衛門えもん・米沢よねざわ藩はん）
• 中安なかやす盛もり乗じょう（久保田くぼた藩はん）
• 玉木たまき文ぶん之の進すすむ（長州ちょうしゅう藩はん）
• 河井かわい継之助つぐのすけ（越後えちご長岡ながおか藩はん）
• 藤田ふじた東湖とうこ（水戸みと藩はん）
• 安井やすい政章まさあき（川越かわごえ藩はん）
• 山田やまだ三川さんせん（安中あんなか藩はん）

参考さんこう文献ぶんけん

• 『新版しんぱん日本にっぽん史し辞典じてん』（角川書店かどかわしょてん）
• 『山川やまかわ日本にっぽん史し小しょう事典じてん』（山川やまかわ出版しゅっぱん社しゃ）
• 『日本にっぽん歴史れきし大だい事典じてん』（小学館しょうがくかん）