草刈くさかり

草刈くさかり（くさかり）とは草くさを刈かること。特とくに飼料しりょうや肥料ひりょうとするために草くさを刈かり取とること^[1]。鎌かまや草刈くさかり機きを使つかい、まとまった面積めんせきの草くさを根元ねもとに近ちかい茎くきの部分ぶぶんで切きり取とる作業さぎょうのことである。刈かり取とった草くさを役立やくだてる場合ばあいもあれば、切きり捨すてるのを目的もくてきとする場合ばあいもあり、後者こうしゃは雑草ざっそう取とり、草取くさとりともいう^{[要よう出典しゅってん]}。また、根ねまで引ひき抜ぬき取とり除のぞくことは草くさひき、草くさむしり、除草じょそうという^[1]。

目的もくてき[編集へんしゅう]

草刈くさかりを目的もくてきで分わけると、ひとつは草本そうほんを牛馬ぎゅうばの飼料しりょう（まぐさ）や肥料ひりょうなど資源しげんとして確保かくほするためである。日本にっぽんでは、特とくに化学かがく肥料ひりょうが普及ふきゅうする前まえの長ながい時代じだい、草くさは堆肥たいひの主おもな原料げんりょうであった。茅ちがやは茅かや葺屋根やねの材料ざいりょうにもなった。農民のうみんは自みずからの耕作こうさく地ち周辺しゅうへんだけでなく、入会地いりあいちで草刈くさかりをしていた。こうした有用ゆうよう性せいから、採草さいそう地ちを指さす「草刈くさかり場じょう」は、選挙せんきょや企業きぎょう間あいだ競争きょうそう、国際こくさい政治せいじなどで争奪そうだつ戦せんの対象たいしょうを意味いみする比喩ひゆ表現ひょうげんとしても定着ていちゃくしている。

もう一ひとつは、草くさの伸のび過すぎた部分ぶぶんや、人間にんげんにとって望のぞましからぬ雑草ざっそうを除去じょきょするためである。農作物のうさくもつや観賞かんしょう用よう花卉かきといった有用ゆうよう植物しょくぶつの生育せいいくを助たすけたり、美観びかんや野道のみちの歩あるきやすさを確保かくほしたり、昆虫こんちゅうや野生やせい動物どうぶつを隠かくれにくくして人間にんげん居住きょじゅうエリアへの接近せっきんを防ふせいだりする効果こうかを期待きたいしている。刈かり取とった草くさは上記じょうきのように肥料ひりょうなどとして有効ゆうこう利用りようできるが、現代げんだいではごみとして処分しょぶんが必要ひつようになる場合ばあいが多おおい。

東京とうきょうの荒川あらかわ土手どてでは1938～1944年ねん、「全日本ぜんにほん草刈くさかり選手権せんしゅけん大会たいかい」が開ひらかれていた。雑草ざっそう取とりと肥料ひりょう確保かくほを農作業のうさぎょうの基本きほんをとらえ、「農民のうみん魂たましいは先さきづ草刈くさかりから」と謳うたった記念きねん石碑せきひが水門すいもん公園こうえんに建たっている。

後者こうしゃの草刈くさかりは、人間にんげんが土地とちを利用りようする場合ばあいのもっとも基本きほん的てきな管理かんり法ほうの一ひとつであり、遷移せんいの進行しんこうを止とめるための作業さぎょうである。日本にっぽんでは更地さらちはほぼ1年ねんで草地くさちと化かし、数すう年間ねんかん放置ほうちすればススキなどが侵入しんにゅうして背丈せたけが2mにも達たっするようになる。このため、公園こうえんや河川かせんの堤防ていぼうなど、空あき地ち状態じょうたいを維持いじする必要ひつようがある箇所かしょについては、年間ねんかんに1 - 2回かいの草刈くさかりを行おこなわなければならない。

日本にっぽんで最もっとも組織そしき化かかつ頻繁ひんぱんに行おこなわれている草刈くさかり作業さぎょうは、水田すいでんの畔ほとりや土手どての草刈くさかり作業さぎょうである。これは水稲すいとう等とうの生育せいいく障害しょうがいを起おこすカメムシの侵入しんにゅうを遮断しゃだんするという目的もくてきのためにも行おこなわれるものである^[2]。カメムシ注意報ちゅういほうにより、草刈くさかりの指示しじが行おこなわれている期間きかんには、潔癖けっぺきという表現ひょうげんに相応ふさわしい草刈くさかりが集中しゅうちゅう的てきに行おこなわれる。また、人工じんこう林りんなど樹木じゅもくの生はえた下したの草くさを刈かる場合ばあいも草刈くさかりということもあるが、むしろ下草したくさ狩かり（したくさがり）というのが普通ふつうである。

草刈くさかりは背丈せたけの高たかい植物しょくぶつの侵入しんにゅうを押おさえる効果こうかがあるが、それを繰くり返かえすことで既存きそんの植物しょくぶつ群落ぐんらくの草丈くさたけそのものを抑おさえることもできる。芝生しばふはその極端きょくたんなものである。

草刈くさかりの方法ほうほう[編集へんしゅう]

草刈くさかりは、重要じゅうようかつ頻度ひんどの高たかい作業さぎょうなので、草刈くさかり鎌かまや刈かり払はらい機きといった器具きぐがある。狭せまい範囲はんいなら、鎌かまを使つかって地道じみちに刈かれば済すむが、広ひろい範囲はんいであるならば、刈かり払はらい機きが効率こうりつ的てきである。

表面ひょうめんに背せの高たかい草くさが無なければよいだけであれば、刈かり取とるだけでよいが、畑地はたちのように草くさそのものの存在そんざいを許ゆるせない場合ばあいには、根ねまで引ひき抜ぬく必要ひつようがある。

通常つうじょうは草刈くさかりとは呼よばれないが、除草じょそう剤ざいを散布さんぷすれば、全すべてまたは特定とくていの草くさだけを枯からすさせることができ、能率のうりつが上あがる。ただし、除草じょそう剤ざいの使用しようが知しられると、農作物のうさくもつなら購入こうにゅう者しゃから、公園こうえんでは住民じゅうみんから忌避きひの対象たいしょうになりうる。除草じょそう剤ざいが好このましくない場合ばあいで、家庭かてい菜園さいえんで小規模しょうきぼな場合ばあいは、沸騰ふっとうさせた熱湯ねっとうをまんべんなくかけるだけでも、除草じょそうと土壌どじょうの殺菌さっきん効果こうかが期待きたいできる。

火ひで焼やき払はらう方法ほうほうもある。古代こだいより対象たいしょう地ちに直接ちょくせつ放火ほうかして焼やき畑ばたや野焼のやきとして広範囲こうはんいに実施じっしされてきた他ほか、小規模しょうきぼなところでは製品せいひんにもよるが火炎かえん放射ほうしゃ器きにも似にた大型おおがたのバーナーで炎ほのおを吹ふき付つける場合ばあいもある。乾季かんきには火災かさいのリスクが大おおきく、逆ぎゃくに湿潤しつじゅん状態じょうたいではうまく焼やけない作業さぎょう時期じきの制約せいやく、燃料ねんりょうコストや煤煙ばいえんの発生はっせい等とうの問題もんだいがあるが、機械きかい的てきな除草じょそうよりも作業さぎょう負担ふたんが小ちいさく除草じょそう後ごの処分しょぶんも不要ふようで、雑草ざっそうの根元ねもと付近ふきんまでダメージを与あたえて根ねこそぎや除草じょそう剤ざいほどではないが除草じょそう効果こうかの長続ながつづきが期待きたいできる。根ねがあまり深ふかくないものであれば、熱湯ねっとうでも除草じょそうできる。

または馬うまや牛うし、ヤギなどの家畜かちくを草地くさちに連つれ出だし、雑草ざっそうをエサとして食たべさせて処理しょりすることもある。

高こう刈がり: 低ひくい位置いちで草刈くさかりするとイネ科かが繁茂はんもしやすくなるため、10cm程度ていどの高たかさで草刈くさかりする。これにより、イネ科か以外いがいの雑草ざっそうがイネ科か雑草ざっそうを抑制よくせいし、イネ科かの草くさをエサとする害虫がいちゅうのカメムシも抑制よくせいする^[3]。

刈かった草くさの処理しょり[編集へんしゅう]

かつては、刈かり取とった草くさは家畜かちくの餌えさや田畑たはたの肥料ひりょうとして広ひろく使用しようされた。水田すいでん周辺しゅうへんの草地くさじでは、秋あきから冬ふゆに草刈くさかりをして、それを田たに鋤すき込こむなどの作業さぎょうがあった。今日きょうでも九州きゅうしゅうの阿蘇あそや九重ここのえ、多良岳たらだけなどの大だい規模きぼなススキ草原そうげんは大おおきな手間てまをかけて維持いじ管理かんりされ、そこで得えられるススキは文化財ぶんかざいの古こ民家みんかの屋根やねの修復しゅうふくや、茶畑ちゃばたの地面じめんに敷しき込こむ資材しざいなどとして、高価こうかに取引とりひきされている。

一級いっきゅう河川かせんなどでは、牧場ぼくじょうで使用しようする敷じき草そうや農業のうぎょう用ようの堆肥たいひなどに有効ゆうこう利用りようする希望きぼう者しゃに無償むしょうで譲渡じょうとする^[4]。

草刈くさかり時じの芳香ほうこう[編集へんしゅう]

草刈くさかりをしたとき独特どくとくの芳香ほうこうがある。これは草本そうほんの体内たいないにある揮発きはつ性せいの化合かごう物ぶつ（芳香ほうこう化合かごう物ぶつ）の芳香ほうこうである。

他たの生物せいぶつとの関連かんれん[編集へんしゅう]

規模きぼの大おおきい草刈くさかりを行おこなっていると、その上空じょうくうにトンボやツバメなどの鳥とりが集あつまることがある。これは草くさを刈かり取とることで追おい出だされた小しょう昆虫こんちゅうを餌えさとするためと考かんがえられる。

長期ちょうき的てきには、定期ていき的てきに草刈くさかりが行おこなわれる土手どてや堤防ていぼうは、遷移せんいの進行しんこうが抑おさえられるために背丈せたけが低ひくく、小柄こがらな草花くさばなの生育せいいくに都合つごうがよい。アマナやツルボ、あるいは秋あきの七草ななくさに並ならぶような植物しょくぶつはこれに依存いぞんしている面めんがあり、定期ていき的てきな管理かんりが滞とどこおるようになると減少げんしょうする。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

^ ^a ^b 『広辞苑こうじえん』（第だい四よん版はん）岩波書店いわなみしょてん〈岩波書店いわなみしょてん〉、1992年ねん。
^ “草刈くさかりは、やりすぎに注意ちゅうい草刈くさかり高だかが問題もんだい雑草ざっそうの発生はっせいに及およぼす影響えいきょう” (PDF). 静岡しずおか県けん農林のうりん技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょ. 2019年ねん6月がつ27日にち閲覧えつらん。
^ “イネ科か雑草ざっそうの発生はっせいを抑おさえる畦あぜ畔ほとりの草刈くさかり方法ほうほう - 新潟にいがた県けんホームページ”. www.pref.niigata.lg.jp. 2024年ねん5月がつ30日にち閲覧えつらん。
^ “堤防ていぼうの刈かり草くさ提供ていきょうします” (PDF). 国土こくど交通省こうつうしょう川内川かわうちがわ河川かせん事務所じむしょ. 2019年ねん6月がつ27日にち閲覧えつらん。