(Translated by https://www.hiragana.jp/)
黒色火薬 - Wikipedia コンテンツにスキップ

黒色こくしょく火薬かやく

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
黒色こくしょく火薬かやく

黒色こくしょく火薬かやく(こくしょくかやく えい: black powder)は、可燃かねんぶつとしての木炭もくたん硫黄いおう酸化さんかざいとしての硝酸しょうさんカリウム硝石しょうせき)の混合こんごうぶつからなる火薬かやく一種いっしゅである[1][2]。この3成分せいぶん配合はいごう比率ひりつ品種ひんしゅによってことなり、硫黄いおうふくまない2成分せいぶん黒色こくしょく火薬かやくもある。反応はんのうにはかなり大量たいりょう火薬かやくかすしろけむり発生はっせいさせる。

歴史れきし

[編集へんしゅう]
  • 火薬かやくなかではもっとふる歴史れきしっており、中国ちゅうごくで7世紀せいき前半ぜんはん発明はつめいされたといわれている。よんだい発明はつめいかみ印刷いんさつじゅつ火薬かやく羅針盤らしんばん)のひとつである。いずれもルネサンスごろまでにヨーロッパにつたえられ、実用じつようされた[3]黒色こくしょく火薬かやく不老不死ふろうふし神仙しんせんになるためのやく製造せいぞう(じゅつ)の過程かてい偶然ぐうぜん発見はっけんされた。とうだい医者いしゃまごおもえには、「千金せんきんようかた」「千金せんきんつばさかた」という医学いがくしょのほかに「けい」というやくかんする著書ちょしょがある。このなかの「ふく硫黄いおうほう」は黒色こくしょく火薬かやくおな原料げんりょう使つかわれており手順てじゅんあやまると爆発ばくはつしてしまう。これが火薬かやく発明はつめいにつながったと推定すいていされる。中国ちゅうごく発明はつめいされた火薬かやくはイスラムけんつうじてヨーロッパにつたわりヨーロッパ社会しゃかいおおきくえてゆく[4][5]
  • 中国ちゅうごく黒色こくしょく火薬かやく発明はつめいされたのは、中国ちゅうごく黒色こくしょく火薬かやく成分せいぶんひとつである硝酸しょうさんカリウムが産出さんしゅつされるためであり、天然てんねん硝酸しょうさんカリウムは世界中せかいじゅうでもかぎられた地域ちいきにしか存在そんざいしない[6]
  • 1045ねんには軍用ぐんようとしての黒色こくしょく火薬かやく類似るいじ配合はいごう組成そせい記述きじゅつ中国ちゅうごくきたそう政府せいふ編集へんしゅうの「たけけいそうよう」にあらわれている。このしょには、かさよう火薬かやく、蒺藜かさよう火薬かやくおよび毒薬どくやくけむりかさよう火薬かやくなどの配合はいごう組成そせいしるされている。これらは発射はっしゃやくとしてではなくて炸薬さくやくとしてもちいられた[5]
  • 1242ねんには「驚異きょうい博士はかせ」とよばれたイギリスの僧侶そうりょであり哲学てつがくしゃ科学かがくしゃロジャー・ベーコンによって黒色こくしょく火薬かやく組成そせい記録きろく(DesecretisおよびOpus Tertium)された。この黒色こくしょく火薬かやく組成そせい現在げんざいまでつづいている[7]
  • 14世紀せいき中期ちゅうきには鉄砲てっぽうそうやくとして使用しようされるようになる。
  • 1543ねん(天文てんもん12ねん)に種子島たねがしまに1せき中国ちゅうごくせん漂着ひょうちゃくし、わせていたポルトガルじん鉄砲てっぽうをもっていた。しまぬし種子島たねがしま大金たいきんんで2てい鉄砲てっぽうゆずけた。とき自身じしんその使用しようほうまなび、さらに小姓こしょう篠川しのかわ小四郎こしろうめいじて火薬かやく製法せいほうまなばせ、八板やいたきむ兵衛ひょうえせいじょう(せいさだとも)に鉄砲てっぽう研究けんきゅうさせた。篠川しのかわ小四郎こしろうは、ポルトガルじんより「搗篩・和合わごうほう」とよばれる黒色こくしょく火薬かやく製造せいぞうほうと、その原料げんりょう硝石しょうせき硫黄いおうおよび木炭もくたんであることをならった。かれはその努力どりょくによって、ポルトガルじんがもたらした火薬かやくよりさらに強力きょうりょく発射はっしゃやくとしての黒色こくしょく火薬かやくをつくることに成功せいこうした[5]
  • 1627ねんにはスロヴァキアバンスカー・シュチャヴニツァ鉱山こうざんはじめての発破はっぱおこなわれた。
  • 反応はんのう燃焼ねんしょうよりもばくとどろきであるため、性状せいじょう火薬かやくというより爆薬ばくやくちかく、燃焼ねんしょうガスの圧力あつりょくたま火器かきそうやくにはあまいていない。このため改良かいりょうひんとして、燃焼ねんしょう反応はんのう速度そくど緩和かんわさせた褐色かっしょく火薬かやく発明はつめいされている。
  • 19世紀せいきまつには無煙むえん火薬かやく発明はつめいにより軍事ぐんじ用途ようとではあまり使用しようされなくなっている。
  • 日本にっぽんでは20世紀せいき中盤ちゅうばん以降いこうもっぱ花火はなびそうやくや、消防しょうぼう消防しょうぼうだんいんもちいる信号しんごう拳銃けんじゅうさくとうじゅう)、あるいは火縄銃ひなわじゅう実演じつえん射撃しゃげきもちいられる程度ていどとなっており、銃器じゅうき用途ようとでの使用しよう極度きょくど減少げんしょうしている。朝日新聞あさひしんぶん(1988ねん3がつ15にちづけ朝刊ちょうかん)が日本にっぽん警察けいさつ捜査そうさ資料しりょうつうじてほうじたところでは、あかほうたい事件じけん発生はっせいした1980年代ねんだいすえ時点じてん全国ぜんこく猟銃りょうじゅう所持しょじしゃやく20まんにんのうち、火縄銃ひなわじゅう村田むらたじゅうもちいているとみられるりょうよう黒色こくしょく火薬かやく購入こうにゅうしゃは、全国ぜんこくでもやく300にん(0.15%程度ていど)にまで減少げんしょうしていた。

種類しゅるい

[編集へんしゅう]

標準ひょうじゅんてき比率ひりつ(化学かがくりょうろんてき組成そせい)は質量しつりょう硝酸しょうさんカリウム:硫黄いおう木炭もくたん=75:10:15。

種類しゅるい
種類しゅるい 硝酸しょうさんカリウム(%) 硫黄いおう(%) 木炭もくたん(%) つぶ直径ちょっけい性状せいじょう 用途ようと
黒色こくしょく火薬かやく 58 - 70 16 - 26 10 - 20 0.1mm以下いかほろ粉末ふんまつじょう 導火どうかせん
黒色こくしょく鉱山こうざん火薬かやく 65 - 70 10 - 20 10 - 20 3 - 7mmの球状きゅうじょう黒鉛こくえん光沢こうたく 砕石さいせき
狩猟しゅりょうよう黒色こくしょく火薬かやく 73 - 79 8 - 12 10 - 17 0.4 - 1.2mm以下いか黒鉛こくえん光沢こうたく 狩猟しゅりょう
黒色こくしょく小粒こつぶ火薬かやく 73 - 79 8 - 12 10 - 17 0.4 - 1.2mm以下いか黒鉛こくえん光沢こうたくなし 煙火えんか

[8]

性質せいしつ

[編集へんしゅう]

外観がいかんくろ粉末ふんまつであり、化学かがくてき安定あんてい自然しぜん分解ぶんかい心配しんぱいがなく、また吸湿きゅうしつせいもないので永年えいねん貯蔵ちょぞうえる[9][注釈ちゅうしゃく 1]

なお、玩具おもちゃよう花火はなび使用しようされている火薬かやく硝酸しょうさんカリウムのわりに塩素えんそさんカリウム使つかわれているものがおおく、塩素えんそさんカリウムは吸湿きゅうしつせいたかいため、湿度しつどたか環境かんきょう保管ほかんすると花火はなび湿気しっけ吸収きゅうしゅうしてしまう。また硝酸しょうさんカリウムのわりに硝酸しょうさんナトリウムチリ硝石ちりしょうせき)を使用しようした場合ばあい同様どうようであるが[6]厳密げんみつには硝酸しょうさんカリウム以外いがい酸化さんかざい使用しようしたものは黒色こくしょく火薬かやくには分類ぶんるいされない。

黒色こくしょく火薬かやくふくまれている硫黄いおう着火ちゃっか温度おんどげ、ほのおおおきくし、ガス発生はっせいりょう作用さようがあるが、とく反応はんのう途中とちゅう生成せいせいされる硫化りゅうか水素すいそ酸化さんか窒素ちっそ触媒しょくばい効果こうかによって、有害ゆうがい一酸化いっさんか炭素たんそ青酸せいさんガスの生成せいせいをおさえる作用さようがある[6][10]

ほのおたいして敏感びんかんで、衝撃しょうげき摩擦まさつ静電気せいでんき火花ひばなたいしても敏感びんかんである。燃焼ねんしょう速度そくど混合こんごうつぶおおきさなどの条件じょうけんによっておおきくことなり5cm/s - 400cm/sまでと幅広はばひろく、ばく発熱はつねつやく3MJ/kg(700 - 750kcal/kg)。

黒色こくしょく火薬かやく燃焼ねんしょう以下いか反応はんのうおこなわれると推定すいていされている[11]

爆発ばくはつすると、固体こたい物質ぶっしつやく55%、気体きたいやく45%、発生はっせいする[6]

よく「硝煙しょうえんくさい」などと表現ひょうげんされるにおいは硫化りゅうかカリウムが空気くうき反応はんのうして出来でき硫化りゅうか水素すいそなどのイオウ化合かごうぶつにおいである[11]。このため、黒色こくしょく火薬かやく時代じだい大砲たいほうなどの砲煙ほうえんむと中毒ちゅうどく症状しょうじょうることがおおかった。なお、黒色こくしょく火薬かやく黒色こくしょくとは、木炭もくたんぜたパウダーのいろ由来ゆらいするもので反応はんのうけむりいろではない。爆発ばくはつくろけむりさず、実際じっさいけむり白色はくしょくである

製法せいほう

[編集へんしゅう]
  • 材料ざいりょうれい
    • 硝酸しょうさんカリウム 純度じゅんど99.5%以上いじょう塩化えんかぶつ0.03%以下いか水分すいぶん0.2%以下いか
    • 硫黄いおう 純度じゅんど99.5%以上いじょう
    • 木炭もくたん やわらかくて灰分かいぶんすくないもの
  • 製造せいぞう手順てじゅんれい
  1. 木炭もくたん乳鉢にゅうばち(すりばち)ですりつぶす。
  2. 硫黄いおうくわえて混合こんごうする。
  3. 木炭もくたん硫黄いおう混合こんごうぶつ内側うちがわかわりの容器ようきうつして硝酸しょうさんカリウムをくわえる。このとき水分すいぶんくわえて水分すいぶんりょうが4.5 - 6.5%になるようにする。
  4. かしぼうでよくすりつぶす。これによって密度みつどおおきく、燃焼ねんしょうせい均一きんいつになりやくぜいがよくなる。
  5. 火薬かやく綿布めんぷつつんで鉄板てっぱんはさみ60 - 120Kgf/cm2圧搾あっさくして比重ひじゅうたかめる。
  6. 所望しょもうつぶになるように破砕はさいする。このとき水分すいぶん所定しょていりょう以下いかにならないように注意ちゅういする。
  7. 60以下いか温風おんぷう水分すいぶんが1%以下いかになるまでゆっくりと乾燥かんそうさせる。

脚注きゃくちゅう

[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく

[編集へんしゅう]
  1. ^ 吸湿きゅうしつせいがなく自然しぜん分解ぶんかいこさないことから、自然しぜん分解ぶんかいたいする抵抗ていこうせい調しらべる安定あんてい試験しけん法令ほうれいでは遊離ゆうりさん試験しけんたいねつ試験しけん加熱かねつ試験しけん)が不要ふようとなる。また黒色こくしょく火薬かやく湿気しっけよわいという一般いっぱんてき誤解ごかいがあることから、国家こっか資格しかくである火薬かやくるい取扱とりあつかい保安ほあん責任せきにんしゃ試験しけんでは黒色こくしょく火薬かやく吸湿きゅうしつせい有無うむについて出題しゅつだいされることがある(平成へいせい16、27、29年度ねんど試験しけん)。

出典しゅってん

[編集へんしゅう]
  1. ^ 日本にっぽんこく防衛ぼうえいしょう. “防衛ぼうえいしょう規格きかく 弾薬だんやく用語ようご”. 2017ねん11月24にち閲覧えつらん
  2. ^ カヤク・ジャパン株式会社かぶしきがいしゃ. “黒色こくしょく火薬かやく”. 2017ねん11月24にち閲覧えつらん
  3. ^ 精選せいせんばん 日本にっぽん国語こくご辞典じてん小学しょうがくかん 
  4. ^ 中国ちゅうごく科学かがく」『日本にっぽんだい百科全書ひゃっかぜんしょ小学しょうがくかん 
  5. ^ a b c 火薬かやく」『日本にっぽんだい百科全書ひゃっかぜんしょ小学しょうがくかん 
  6. ^ a b c d 新編しんぺん火薬かやくがく概論がいろん産業さんぎょう図書としょ株式会社かぶしきがいしゃ、2014ねん4がつ10日とおか 
  7. ^ 黒色こくしょく火薬かやく」『日本にっぽんだい百科全書ひゃっかぜんしょ小学しょうがくかん 
  8. ^ VOYAGE MARKETING, Inc.. “黒色こくしょく火薬かやくとは - コトバンク”. 2021ねん10がつ13にち閲覧えつらん
  9. ^ 一般いっぱん火薬かやくがく日本にっぽん火薬かやく工業こうぎょうかい平成へいせい3ねん4がつ1にち、24ぺーじ 
  10. ^ 火薬かやく工学こうがく森北もりきた出版しゅっぱん株式会社かぶしきがいしゃ、2001ねん7がつ20日はつか 
  11. ^ a b 瀧本たきもとしんとく硫黄いおうわたしたちの生活せいかつ(身近みぢか元素げんそ世界せかい) 化学かがく教育きょういく 2014ねん 62かん 1ごう p.30-33, doi:10.20665/kakyoshi.62.1_30

関連かんれん項目こうもく

[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク

[編集へんしゅう]
  • 板垣いたがき英治えいじ、「五箇山ごかさんしお硝」 大学だいがく教育きょういく開放かいほうセンター紀要きよう (1998) だい18ごう, p.31-42, hdl:2297/1467