DAPI

DAPI
	IUPAC名めい 2-(4-amidinophenyl)-1H -indole-6-carboxamidine
識別しきべつ情報じょうほう
CAS登録とうろく番号ばんごう	28718-90-3
PubChem	2954
ChemSpider	2848
ChEMBL	CHEMBL48217
	SMILES [N@H]=C(N)c3ccc(c2cc1ccc(cc1n2)C(=[N@H])N)cc3; [H]/N=C(/c1ccc(cc1)c2cc3ccc(cc3[nH]2)/C(=N/[H])/N)\N;
	InChI InChI=1S/C16H15N5/c17-15(18)10-3-1-9(2-4-10)13-7-11-5-6-12(16(19)20)8-14(11)21-13/h1-8,21H,(H3,17,18)(H3,19,20) Key: FWBHETKCLVMNFS-UHFFFAOYSA-N ; InChI=1/C16H15N5/c17-15(18)10-3-1-9(2-4-10)13-7-11-5-6-12(16(19)20)8-14(11)21-13/h1-8,21H,(H3,17,18)(H3,19,20) Key: FWBHETKCLVMNFS-UHFFFAOYAH;
特性とくせい
化学かがく式しき	C16H15N5
モル質量しつりょう	277.324
	特記とっきなき場合ばあい、データは常温じょうおん (25 °C)・常つね圧あつ (100 kPa) におけるものである。

DAPI（ダピ、ダーピー、4',6-diamidino-2-phenylindole）は染色せんしょくに用もちいられる蛍光けいこう色素しきその一種いっしゅで、DNAに対たいして強力きょうりょくに結合けつごうする物質ぶっしつである。蛍光けいこう顕微鏡けんびきょう観察かんさつに広ひろく利用りようされている。

概要がいよう

DAPIは1977年ねん、当初とうしょはトリパノソーマに対たいする薬剤やくざいとして合成ごうせいされた。その後ご、蛍光けいこう顕微鏡けんびきょうとの組くみ合あわせにより血ち中ちゅうのマラリア原虫げんちゅうの検出けんしゅつなどに利用りようされたが、今日きょうでは細胞さいぼう生物せいぶつ学がくの分野ぶんやに欠かかせない試薬しやくとなっている。DAPIは浸透しんとう速度そくどは遅おそいものの細胞さいぼう膜まく透過とうか性せいの色素しきそであり、生いきた細胞さいぼう・固定こていされた細胞さいぼうの両方りょうほうに対たいして使つかうことができる。生なま細胞さいぼう染色せんしょくが可能かのうなDAPIは観察かんさつ試料しりょうの調製ちょうせいが容易よういなため、広ひろく普及ふきゅうしている蛍光けいこう色素しきそである。

色素しきそ特性とくせい

DAPIはDNA二に重じゅう螺旋らせんの小ちいさい溝みぞ、特とくにAT（アデニン・チミン）に富とんだ領域りょういきに優先ゆうせん的てきに結合けつごうする。蛍光けいこう顕微鏡けんびきょう観察かんさつにおいて、DAPIは紫むらさき外がい光こう（UV）によって励起れいきすることができる。二に本ほん鎖くさりDNAに結合けつごうしたDAPIは、励起れいき光こうの波長はちょう 358nm に吸収きゅうしゅう極大きょくだいを持もち、放出ほうしゅつされる蛍光けいこうは 461nm が極大きょくだいである。DAPIの蛍光けいこうの波長はちょう域いきは広ひろく^[1]、色いろとしては青あお～水色みずいろに見みえる。なおDAPIはRNAにも結合けつごうするが、その場合ばあいの蛍光けいこう波長はちょうは 500nm 前後ぜんこうであり、蛍光けいこう強度きょうどは小ちいさい^[2]。従したがって、RNA結合けつごう由来ゆらいの蛍光けいこうは適切てきせつなダイクロイックミラーで除外じょがいすることができる。また高こう濃度のうどのDAPIは細胞さいぼう内ないのポリリン酸さんを染色せんしょくすることができ、この場合ばあいの蛍光けいこうは526nmで黄色きいろに見みえる^[3]。また、微小びしょう管かんに結合けつごうして蛍光けいこう強度きょうどが増大ぞうだいすることから、濁にご度たび測定そくていより高こう感度かんどなチューブリンの重合じゅうごう試験しけんの蛍光けいこう指示しじ薬やくとして用もちいられることがある^[4]。

利用りよう

DAPIが放出ほうしゅつする青あおい蛍光けいこうは、観察かんさつ試料しりょうを多重たじゅう染色せんしょくする際さいに便利べんりである。青色あおいろの蛍光けいこうは、（若干じゃっかんのクロストークはあるものの）GFPが放はなつ緑色みどりいろ蛍光けいこうやテキサスレッドの赤色あかいろ蛍光けいこう、その他たのフルオレセイン誘導体ゆうどうたいやAlexaと波長はちょう域いきが離はなれており、スペクトル分離ぶんりや画像がぞう撮影さつえい後ごのイメージング処理しょりによって容易よういに選別せんべつが可能かのうである。DNAを含ふくむ細胞さいぼう核かくの染色せんしょく以外いがいに、DAPIは培養ばいよう細胞さいぼう中なかのマイコプラズマやウイルスのDNAを染そめてこれらを検出けんしゅつする用途ようとに良よく用もちいられる。

DAPIの励起れいきに必要ひつようなUVの照射しょうしゃはラジカルの生成せいせいを促うながすため、他たの色素しきそを退色たいしょくさせてしまう。これは退色たいしょく防止ぼうし剤ざいを併用へいようすることである程度ていど抑止よくしでき、顕微鏡けんびきょう下かでの観察かんさつ時間じかんを引ひき延のばすことが可能かのうである。しかし、退色たいしょく防止ぼうし剤ざいによっては生いきた細胞さいぼうに悪影響あくえいきょうを及およぼす点てん、さらにUV照射しょうしゃ自体じたいが細胞さいぼうにダメージを与あたえる点てんなどは注意ちゅういを要ようする。

DAPIの他ほかにも、ヘキスト染色せんしょく（Hoechst stain）によってDNAを青色あおいろ蛍光けいこうで可視かし化かすることができ、これも生なま細胞さいぼう染色せんしょく・死し細胞さいぼう染色せんしょくともに可能かのうとなっている。AT選択せんたく性せいもDAPIと同おなじである。

染色せんしょく例れい

左ひだり：内皮ないひ細胞さいぼうの蛍光けいこう顕微鏡けんびきょう像ぞう。青色あおいろがDAPI染色せんしょくした細胞さいぼう核かく、緑色みどりいろが微小びしょう管かん、赤色あかいろがファロイジン染色せんしょくしたアクチン繊維せんい。
中なか：ラット膵臓すいぞうのランゲルハンス島とう。青色あおいろがDAPI染色せんしょくした細胞さいぼう核かく、緑色みどりいろがβべーた細胞さいぼう（抗こうインスリン抗体こうたい染色せんしょく）、赤色あかいろがαあるふぁ細胞さいぼう（抗こうグルカゴン抗体こうたい染色せんしょく）。
右みぎ：ヒトリンパ球だまの核かくをDAPIで染そめたもの。赤色あかいろは13番ばん染色せんしょく体たい、緑色みどりいろは21番ばん染色せんしょく体たい（FISH法ほうによる）。

毒性どくせい

DAPIは生なま細胞さいぼう、固定こてい後ご細胞さいぼうの両方りょうほうを核かく染色せんしょくできるが、生なま細胞さいぼうの核かく染色せんしょくに必要ひつような濃度のうどは、固定こてい後ご細胞さいぼうのそれと比較ひかくして著いちじるしく高たかい^[5]。メーカー作成さくせいのMSDSには非ひ毒性どくせいと記載きさいされており^[6]、大腸菌だいちょうきんを用もちいた実験じっけんではDAPIに変異へんい原ばら性せいがあるとは認みとめられなかった^[7]。変異へんい原ばらであるとの記載きさいもあるが、エビデンスは不明ふめいである^[2]。DAPIは遺伝子いでんしの本体ほんたいであるDNAと結合けつごうするため、ある程度ていど低ひくいレベルで変異へんい原ばらとして作用さようするかもしれない。DAPIを扱あつかう作業さぎょうは慎重しんちょうに行おこなうとともに、使つかい捨すて手袋てぶくろの使用しようが推奨すいしょうされる。

取とり扱あつかい及および保存ほぞん

科学かがく的てき、身体しんたい的てき、毒物どくぶつ学がく的てきな詳くわしい特性とくせいについては、不明ふめいな部分ぶぶんが多おおい。肌はだ、目め、呼吸こきゅう器き系けいとの接触せっしょくを避さけること。密閉みっぺい式しきの容器ようきなどに入いれ、冷蔵れいぞう保存ほぞんすること。^[8]

参考さんこう文献ぶんけん

^ Laser Photomedicine and Biomedical Optics at the Oregon Medical Laser Center
^ ^a ^b Invitrogen, DAPI Nucleic Acid Stain. reviewed 2006-4-24.
^ Tijssen, T.P.F. et al. (1982). “Localization of polyphosphates in Saccharomyces fragilis, as revealed by 4',6-diamidino-2-phenylindole fluorescence”. Biochimica et Biophysica Acta 721 (4): 394-398. doi:10.1016/0167-4889(82)90094-5.
^ Bonne D et al. (1985). “4',6-Diamidino-2-phenylindole, a fluorescent probe for tubulin and microtubules”. J Biol Chem 260 (5): 2819-25. PMID 3972806.
^ Zink D, Sadoni N, Stelzer E. (2003). “Visualizing Chromatin and Chromosomes in Living Cells.”. Methods 29 (1): 42–50. doi:10.1016/S1046-2023(02)00289-X. PMID 12543070.
^ [1]
^ Ohta T, Tokishita S, Yamagata H. (2001). “Ethidium bromide and SYBR Green I enhance the genotoxicity of UV-irradiation and chemical mutagens in E. coli.”. Mutat Res. 492 (1-2): 91–7. doi:10.1016/S1383-5718(01)00155-3. PMID 11377248.
^ TECHNICAL DATA SHEET 315 at Polysciences,Inc.(pdf)

Chandra P, Mildner B, Dann O, Metz A. (1977). “Influence of 4'-6'-diamidino-2-phenylindole on the secondary structure and template activities of DNA and polydeoxynucleotides”. Mol Cell Biochem 18 (2-3): 81-6.
Hyman BC, MacInnis AJ (1979). “Rapid Detection of Malaria and Other Bloodstream Parasites by Fluorescence Microscopy with 4'6 Diamidino-2-Phenylindole (DAPI)”. The Journal of Parasitology 65 (3): 421-5.
Tanious FA et al. (1992). “DAPI (4',6-diamidino-2-phenylindole) binds differently to DNA and RNA: minor-groove binding at AT sites and intercalation at AUえーゆー sites”. Biochemistry 31 (12): 3103-12. PMID 1372825

外部がいぶリンク

Polysciences,Inc.（ペンシルベニア州しゅうワーリントン市し）

[1] Laser Photomedicine and Biomedical Optics at the Oregon Medical Laser Center

[DAPI_Nucleic_Acid_Stain-2] Invitrogen, DAPI Nucleic Acid Stain. reviewed 2006-4-24.

[3] Tijssen, T.P.F. et al. (1982). “Localization of polyphosphates in Saccharomyces fragilis, as revealed by 4',6-diamidino-2-phenylindole fluorescence”. Biochimica et Biophysica Acta 721 (4): 394-398. doi:10.1016/0167-4889(82)90094-5.

[4] Bonne D et al. (1985). “4',6-Diamidino-2-phenylindole, a fluorescent probe for tubulin and microtubules”. J Biol Chem 260 (5): 2819-25. PMID 3972806.

[5] Zink D, Sadoni N, Stelzer E. (2003). “Visualizing Chromatin and Chromosomes in Living Cells.”. Methods 29 (1): 42–50. doi:10.1016/S1046-2023(02)00289-X. PMID 12543070.

[6] [1]

[7] Ohta T, Tokishita S, Yamagata H. (2001). “Ethidium bromide and SYBR Green I enhance the genotoxicity of UV-irradiation and chemical mutagens in E. coli.”. Mutat Res. 492 (1-2): 91–7. doi:10.1016/S1383-5718(01)00155-3. PMID 11377248.

[8] TECHNICAL DATA SHEET 315 at Polysciences,Inc.(pdf)

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