x87

x87はx86アーキテクチャー命令めいれいセットのうち浮動ふどう小数点しょうすうてん数すう関係かんけいのサブセットのことである。もともとはx86系けいCPUと協調きょうちょうして動作どうさするオプションの浮動ふどう小数点しょうすうてん数すうコプロセッサ (FPU) でサポートされる、8086命令めいれいセットの拡張かくちょう機能きのうであった。これらのマイクロチップは型番かたばんの末尾まつびが"87"となっていた。これはNPX (Numeric Processor Extension) としても知しられる。基本きほん命令めいれいセットに対たいする他たの拡張かくちょうと同様どうよう、x87命令めいれいは動作どうさするプログラムを構築こうちくするのに必須ひっすのものではないが、頻出ひんしゅつする数値すうち処理しょりのハードウェアおよびマイクロコード実装じっそうにより、これらの処理しょりを対応たいおうする機械きかい語ごルーチンが行おこなうよりもはるかに高速こうそくに行おこなうことができる。x87命令めいれいセットは加算かさん、減算げんざん、比較ひかくの基本きほん的てきな浮動ふどう小数点しょうすうてん演算えんざんだけでなく、タンジェント関数かんすうやその逆ぎゃく関数かんすうなどの超越ちょうえつ関数かんすうの数値すうち演算えんざんを含ふくむ。

Intel 80486以降いこうのほとんどのx86プロセッサーはこれらのx87命令めいれいをメインCPUに含ふくんでいるが、この用語ようごは今いまでも命令めいれいセットの一部いちぶを指さすのに用もちいられることがある。PCにおいてx87命令めいれいが標準ひょうじゅんになる前まえ、コンパイラやプログラマは浮動ふどう小数点しょうすうてん演算えんざんを実行じっこうするためにかなり遅おそい浮動ふどう小数点しょうすうてん演算えんざんライブラリを使用しようしていた。この手法しゅほうは（低てい価格かかくの）組くみ込こみシステムでは依然いぜん一般いっぱん的てきである。

取とり扱あつかう浮動ふどう小数点しょうすうてんデータのフォーマットならびに演算えんざんの仕様しようはIntel 8087, Intel 80287は概おおむねIEEE-754に準拠じゅんきょしているが、非ひ互換ごかんの部分ぶぶんがある。これは、IEEE-754 の策定さくていにIntelが参画さんかくしていたものの、仕様しようが確定かくていしないうちに製品せいひん化かされたためである。Intel 80187, Intel 80387, ならびにIntel 80486以降いこうのCPUに内蔵ないぞうされるFPUは、完全かんぜんにIEEE-754に準拠じゅんきょしている。

開発かいはつ・製造せいぞうを行おこなった企業きぎょう

Intel 8087またはそれ以降いこうのモデルと互換ごかん性せいがあるFPUを設計せっけいまたは製造せいぞうした企業きぎょうを掲かかげる。

AMD (80287互換ごかんチップとしてAMD 80C287^[1], 387, 486DX, 5x86, K5, K6, K7, K8)
- AMD 80C287は、Intel社しゃのマイクロコードを使用しようすることで100%の互換ごかん性せいを維持いじしている^[1]。
チップス・アンド・テクノロジーズ (Super MATHコプロセッサ)
Cyrix (FasMath, Cx87SLC, Cx87DLC他た, 6x86, Cyrix MII)
富士通ふじつう (初期しょきのPentium Mobile他た)
Harris Semiconductor（英語えいご版ばん） (80387 486DX)
IBM (様々さまざまな387や486の設計せっけい)
IDT (WinChip, C3, C7, Nano, 他た)
Integrated Information Technology（英語えいご版ばん） (2C87, 3C87, 他た), LC Technology (Green MATHコプロセッサ)
ナショナルセミコンダクター (Geode GX1, Geode GXm, 他た)
NexGen (Nx587)
Rise Technology (mP6)
STマイクロエレクトロニクス (486DX, 5x86, 他た)
テキサス・インスツルメンツ (486DX 他た)
トランスメタ (TM5600 TM5800)
ULSI (Math·Coコプロセッサ)
VIA (C3, C7, Nano, 他た), Xtend (83S87SX-25他たコプロセッサ).

アーキテクチャーの世代せだい

Intel 8087

詳細しょうさいは「Intel 8087」を参照さんしょう

8087はインテルによって設計せっけいされた最初さいしょの16ビットプロセッサ用よう数値すうち演算えんざんコプロセッサ（インテルでの呼称こしょうはNDP; Numeric Data Processor）。これはIntel 8088または8086と接続せつぞくできる様ように設計せっけいされている。以下いかのような演算えんざんが可能かのうである。

算術さんじゅつ演算えんざん

加算かさん、減算げんざん、乗算じょうざん、除算じょざん、平方根へいほうこん、絶対ぜったい値ちなど

超越ちょうえつ関数かんすう

tan, arctan, 2^x-1, y*log₂x, y*log₂(x+1)

定数ていすうのロード

0, 1, πぱい, log₁₀2, log_e2, log₂10, log₂e

Intel 80187

80187(80C187)^[2]はIntel 80186 CPU用ようの数値すうち演算えんざんコプロセッサ。80188は8ビットデータバスを持もっているため8087しか使用しようできない。80187は80186や80188と同どう時期じきには登場とうじょうせず、80287や80387の後のちに登場とうじょうした。8087と同おなじメインプロセッサへのインターフェイスを持もっているにもかかわらず、コアは80387のもので、IEEE 754に完全かんぜんに準拠じゅんきょし、また全すべての80387拡張かくちょう命令めいれいを実行じっこうすることができた^[3]。

Intel 80287

Intel 80287は、80286のために用意よういされていた数値すうち演算えんざんコプロセッサ。

8086同様どうよう80286は整数せいすう計算けいさんの命令めいれいしか備そなえていないため、80286だけで浮動ふどう小数点しょうすうてん演算えんざんを行おこなうには別途べっとライブラリを用意よういする必要ひつようがあった。80287を80286の搭載とうさいされたコンピュータにセットすると、浮動ふどう小数点しょうすうてん計算けいさんの命令めいれいを使つかうことができるようになる。また、互換ごかん性せいのため、アプリケーションからはNDPがあるように見みせかけて、実際じっさいは割わり込こみルーチン内ないに浮動ふどう小数点しょうすうてん演算えんざんライブラリを組くみ込こむ手段しゅだんも用意よういされていた。これは、NDPの有無うむに係かかわらずアプリケーションからは同一どういつの方法ほうほうで浮動ふどう小数点しょうすうてん演算えんざんを行おこなえる様ようにする仕組しくみであったが、この方法ほうほうは非常ひじょうに遅おそいため、あまり使つかわれる事ことは無なかった。この手段しゅだんを使つかわず、浮動ふどう小数点しょうすうてん演算えんざん命令めいれいをエミュレーションライブラリにより実行じっこうしていた場合ばあいは、NDPを利用りようするためにはアプリケーションソフトウェア自体じたいも再さいコンパイルが必要ひつようであった。

80287は、当初とうしょ、協調きょうちょうして動作どうさする80286と同一どういつクロック周波数しゅうはすうで同期どうきして動作どうさする見込みこみが立たたなかったため、厳密げんみつな意味いみでのコプロセッサではなく、単たんなる入出力にゅうしゅつりょくプロセッサとして設計せっけいされた。このため、逆ぎゃくに、より高速こうそくなクロックで動作どうささせる事こともできた。また、このことにより、あまり意味いみはないがソフトウェア及および外部がいぶ回路かいろの工夫くふうにより、1つの80286に複数ふくすうの80287を接続せつぞくしたり、他たの種類しゅるいのCPU、例たとえば386や、Vシリーズなどに80287を接続せつぞくする事こともできた。逆ぎゃくに、80286に、他たの種類しゅるいのNDPを接続せつぞくする事ことも可能かのうであった。 NECのPC-9801VXなど、80286を搭載とうさいしたコンピュータには、80287を挿入そうにゅうすることができるソケットが用意よういされていた。

後のちにIEEE 754への対応たいおう度どを改善かいぜんした80287XLが登場とうじょうした。

Intel 80387

Intel 80387は、インテルの32ビットCPUである80386用ようの数値すうち演算えんざんコプロセッサ。インテル最初さいしょのIEEE 754対応たいおう品ひんとなった。原理げんり的てきにはこれ以前いぜんのプロセッサである8087や80287と同おなじである。80386を搭載とうさいしたコンピュータには、80387を挿さすことができる専用せんようのソケットが用意よういされていた。80386SX用ようには80387SXがある。

80387では、FSIN, FCOS, FSINCOS, FPREM1, FUCOM, FUCOMP, FUCOMPP命令めいれいが追加ついかされた。

コプロセッサとのインターフェイスには特許とっきょが取得しゅとくされていなかったため、IDTやサイリックスが、さらに高速こうそくに演算えんざんを行おこなう互換ごかん品ひんを製造せいぞうしていた。

i387
i387SX
i386DXとi387DX
16ビットバレルシフタとCORDIC（英語えいご版ばん）ユニット付つきi387マイクロアーキテクチャ

Intel487

Intel487は、Intel486の、内蔵ないぞうFPUをオミットした廉価れんか版ばんである486SX用ようの外そと付づけFPUコプロセッサという名目めいもくで発売はつばいされたプロセッサである。実態じったいは、486SXの全ぜん機能きのうを乗のっ取とり、フル機能きのうの486DXとして働はたらくものであり、コプロセッサというよりは、後ごのオーバードライブプロセッサに近ちかい。

486は最初さいしょから数値すうち演算えんざんコプロセッサの機能きのうが統合とうごうされて開発かいはつされたため、コプロセッサは必要ひつようなかった。しかし、後のちに数値すうち演算えんざん機能きのうのない廉価れんか製品せいひんの486SXが発売はつばいされると、それ用ようの487SXが用意よういされた。内部ないぶは、486DXとほとんど同等どうとうである。

クロックダブラを搭載とうさいしたSX2が発売はつばいされると、487SX2が追加ついかされた。こちらの内部ないぶはDX2である。

原理げんり

従来じゅうらいのx87シリーズは、x86シリーズCPU用ようの数値すうち演算えんざんコプロセッサとして開発かいはつされているが、486は数値すうち演算えんざんコプロセッサの機能きのうを内蔵ないぞうする形かたちで開発かいはつされ、浮動ふどう小数点しょうすうてん演算えんざん機能きのうのみを後ごから追加ついかする必要ひつようがなく、外部がいぶの数値すうち演算えんざんコプロセッサと通信つうしんする機能きのうを持もたない。

しかし、廉価れんか版ばんとして内蔵ないぞうFPUを持もたない486SXが登場とうじょうしたため、別べつの方法ほうほうで浮動ふどう小数点しょうすうてん演算えんざん機能きのうを追加ついかする必要ひつようができた。このため487SXは486DXと同等どうとうのCPU機能きのうを搭載とうさいし、システムは、487SXが装着そうちゃくされた場合ばあいには従来じゅうらいのCPUを停止ていしさせて487SXをCPUとして動作どうささせることとした。このようにしてシステムへの数値すうち演算えんざんコプロセッサ機能きのうの追加ついかを実現じつげんしたが、増設ぞうせつにより従来じゅうらいの80x87シリーズと同等どうとうの役割やくわりを果はたしているように見みえることから、従前じゅうぜんの命名めいめい規則きそくによる487SXという名称めいしょうにされている。

487SX用ようスロットが用意よういされていない486SX搭載とうさい機きでは、（それが可能かのうなように設計せっけいされていれば）CPUを単たんに486DXに乗のせ変かえることで浮動ふどう小数点しょうすうてん演算えんざん機能きのうに対応たいおうできる。このような考かんがえはオーバードライブプロセッサに引ひき継つがれた。また、486SX2を最後さいごにFPU非ひ内蔵ないぞうモデルは消きえたため、x86用よう数値すうち演算えんざんコプロセッサは消滅しょうめつした。

マルチプロセッサに対応たいおうするための機能きのうは無ないので、486SXと増設ぞうせつした487SXを同時どうじに使用しようすることはできない。

Pentium Pro

Pentium Pro世代せだいから内蔵ないぞうのFPUにFCMOV, FCOMI命令めいれいが追加ついかされた。これらの命令めいれいはCPUIDのCMOVビットがセットされていれば使用しようできる。

Pentium III

Pentium III世代せだいからFXSAVE, FXRSTOR命令めいれいが追加ついかされた。これらの命令めいれいはCPUIDのFXSRビットがセットされていれば使用しようできる。

Pentium 4 (Prescott)

Pentium 4 (Prescott)世代せだいから内蔵ないぞうのFPUにFISTTP命令めいれいが追加ついかされた。この命令めいれいはCPUIDのSSE3ビットがセットされていれば使用しようできる。

Haswell

CPUIDで「Deprecates FPU CS and FPU DS」ビットがセットされているとFXSAVE命令めいれいなどで、FPU CS, FPU DSを保存ほぞんしない。

脚注きゃくちゅう

Intel 64 and IA-32 Architectures Software Developer’s Manual Volume 1: Basic Architecture. Intel

参考さんこう文献ぶんけん

Robert L.Hummel著ちょ槌づち田でん浩一こういち訳やく 80x86/80x87ファミリー・テクニカルハンドブック　技術評論社ぎじゅつひょうろんしゃ　ISBN 4-87408-588-1
「SuperASCII 1991年ねん3月がつ号ごう」第だい2巻かん第だい3号ごう、株式会社かぶしきがいしゃアスキー出版しゅっぱん、1991年ねん3月がつ1日にち。

外部がいぶリンク

[FOOTNOTESuperASCII_1991年3月号41-1] SuperASCII 1991年ねん3月がつ号ごう, p. 41.

[2] CPU Collection - Model 80187

[3] ttp://www.datasheetcatalog.org/datasheet/Intel/mXryvuw.pdf

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