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Smad

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SmadまたはSMADは、TGF-βべーたスーパーファミリーに対たいする受容じゅよう体たいからのシグナルの主要しゅような伝達でんたつ因子いんしとなる、構造こうぞう的てきに類似るいじしたタンパク質たんぱくしつ群ぐんからなるタンパク質たんぱくしつファミリーである。Smadは細胞さいぼうの発生はっせいや成長せいちょうの調節ちょうせつに非常ひじょうに重要じゅうようである。Smadという名称めいしょうは、線せん虫ちゅうCaenorhabditis elegansのSMA（"small" worm phenotype）やショウジョウバエDrosophilaのMADファミリー（英語えいご版ばん）（"Mothers Against Decapentaplegic"）との相あい同性どうせいに由来ゆらいする。

Smadには、R-Smad（英語えいご版ばん）（receptor-regulated Smad）、Co-Smad（common partner Smad）、I-Smad（英語えいご版ばん）（inhibitory Smad）という3つのサブタイプが存在そんざいする。Smadファミリーの8種類しゅるいのメンバーは、この3つのグループのいずれかに分類ぶんるいされる。2つのR-Smadと1つのCo-Smadからなる三さん量りょう体たいは転写てんしゃ因子いんしとして作用さようし、特定とくていの遺伝子いでんし群ぐんの発現はつげんを調節ちょうせつする[1][2]。

サブタイプ[編集へんしゅう]

R-SmadはSMAD1（英語えいご版ばん）、SMAD2（英語えいご版ばん）、SMAD3、SMAD5（英語えいご版ばん）、SMAD8/9（英語えいご版ばん）から構成こうせいされ[3]、TGF-βべーた受容じゅよう体たい（英語えいご版ばん）からのシグナル伝達でんたつに直接ちょくせつ関与かんよする[4]。

SMAD4はヒトでは既知きちの唯一ゆいいつのCo-Smadであり、R-Smadのパートナーとして複ふく合体がったいへ共きょう調節ちょうせつ因子いんしをリクルートする[5]。

SMAD6（英語えいご版ばん）とSMAD7はI-Smadであり、R-Smadの活性かっせいを抑制よくせいする[6][7]。SMAD7はTGF-βべーたシグナルの一般いっぱん的てきな阻害そがい因子いんしであり、SMAD6はBMPシグナルに対たいしてより特異とくい的てきに関係かんけいしている。R/Co-Smadは主おもに細胞さいぼう質しつに位置いちしているが、TGF-βべーたシグナルを受うけて核かく内うちに蓄積ちくせきし、そこでDNAに結合けつごうして転写てんしゃを調節ちょうせつする。一方いっぽうでI-Smadは主おもに核かく内ないに存在そんざいし、そこで直接的ちょくせつてきな転写てんしゃ調節ちょうせつ因子いんしとして機能きのうする[8]。

発見はっけんと命名めいめい[編集へんしゅう]

Smadが発見はっけんされるまで、TGF-βべーたシグナルの伝達でんたつを担になう下流かりゅうのエフェクターは不明ふめいであった。Smadはショウジョウバエで最初さいしょに発見はっけんされ、Mothers against decapentaplegic（Mad）[注釈ちゅうしゃく 1]として知しられていた。MadはショウジョウバエのTGF-βべーたであるdecapentaplegic（dpp）の弱よわい変異へんい表現ひょうげん型がたを強化きょうかする因子いんしのスクリーニングから発見はっけんされた[9]。Madのヌル変異へんいはdppの変異へんい体たいと同様どうようの表現ひょうげん型がたを示しめし、Madはdppシグナル伝達でんたつ経路けいろの一部いちぶで重要じゅうような役割やくわりを果はたしていることが示唆しさされた[9]。

同様どうようのスクリーニングはC. elegansでも行おこなわれ、3つの遺伝子いでんしsma-2、sma-3、sma-4がTGF-βべーた様さま受容じゅよう体たいDaf-4と同様どうようの変異へんい体たい表現ひょうげん型がたを示しめすことが明あきらかにされた[10]。MadとSmaのヒトホモログは、これらの遺伝子いでんしのかばん語ごからSMAD1と命名めいめいされた。SMAD1をツメガエルXenopus胚はいの動物どうぶつ極きょくに注入ちゅうにゅうすると、TGF-βべーたファミリーのメンバーであるBMP4（英語えいご版ばん）が持もつ、中ちゅう胚葉はいようの腹はら側がわ化か作用さようを再現さいげんすることが示しめされた。さらに、SMAD1のC末端まったん領域りょういきにはトランス活性かっせい化か作用さようがあり、その作用さようはBMP4の添加てんかによって強化きょうかされることが示しめされた。このことは、SMAD1がTGF-βべーたシグナル伝達でんたつの一部いちぶを担になっていることを示唆しさしていた[11]。

タンパク質たんぱくしつ[編集へんしゅう]

Smadは約やく400–500アミノ酸あみのさん長ちょうで、N末端まったんとC末端まったんの2つの球状きゅうじょうドメインがリンカー領域りょういきで連結れんけつされた構成こうせいをしている。これらの球状きゅうじょうドメインは R-SmadとCo-Smadで高度こうどに保存ほぞんされており、N末端まったん側がわのものはMH1（Mad homology 1）、C末端まったん側がわのものはMH2と呼よばれている。MH2ドメインはI-Smadでも保存ほぞんされている。MH1ドメインは主おもにDNAへの結合けつごうに関与かんよし、MH2ドメインは他たのSmadとの相互そうご作用さようや、転写てんしゃコアクチベーターやコリプレッサーの認識にんしきを担になう[12]。R-SmadとSMAD4は、MH1ドメインを介かいしてDNAのいくつかのモチーフと相互そうご作用さようする。こうしたモチーフにはCAGACやCAGCC、5塩基えんき対たいのコンセンサス配列はいれつGGC(GC)|(CG)などがある[13][14]。受容じゅよう体たいによってリン酸化さんかされたR-Smadは、in vitroでMH2ドメインを介かいしてホモ三さん量りょう体からだまたはSMAD4とのヘテロ三さん量りょう体からだを形成けいせいする。受容じゅよう体たいによってリン酸化さんかされた2分子ぶんしのR-Smadと1分子ぶんしのSMAD4との三さん量りょう体たいがTGF-βべーたの転写てんしゃ調節ちょうせつの主要しゅようなエフェクターであると考かんがえられている[12]。MH1とMH2の間あいだのリンカー領域りょういきは単たんに両者りょうしゃを連結れんけつしているだけでなく、タンパク質たんぱくしつの機能きのうと調節ちょうせつにも関与かんよしている。具体ぐたい的てきには、R-Smadのリンカー領域りょういきは核かく内ないでCDK8（英語えいご版ばん）とCDK9によってリン酸化さんかされ、このリン酸化さんかはSmadタンパク質たんぱくしつと転写てんしゃアクチベーターやリプレッサーとの相互そうご作用さようを調節ちょうせつする。さらに、このリン酸化さんかの後のち、リンカー領域りょういきはGSK3によって2段階だんかい目めのリン酸化さんかが行おこなわれる。このリン酸化さんかはSmadをユビキチンリガーゼによる認識にんしきの標的ひょうてきとし、プロテアソームを介かいした分解ぶんかいの標的ひょうてきとする[15]。転写てんしゃアクチベーターとユビキチンリガーゼはどちらもWWドメインのペアを持もっている[16]。これらのドメインはR-Smadのリンカー領域りょういきに存在そんざいするPYモチーフ、そして近接きんせつして位置いちするリン酸化さんか残ざん基もとと相互そうご作用さようする。CDK8/9とGSK3によって形成けいせいされる異ことなるリン酸化さんかパターンは、転写てんしゃアクチベーターとユビキチンリガーゼのどちらと相互そうご作用さようするかを決定けっていする[17][18]。リンカー領域りょういきは後生ごしょう動物どうぶつの間あいだで最もっともアミノ酸あみのさんの差異さいが大おおきい領域りょういきであるが、リン酸化さんか部位ぶいとPYモチーフは高度こうどに保存ほぞんされている。

配列はいれつ保存ほぞん性せい[編集へんしゅう]

TGF-βべーた経路けいろの構成こうせい要素ようそ、特とくにR-Smad、Co-Smad、I-Smadは、これまで配列はいれつ決定けっていが行おこなわれたすべての後生ごしょう動物どうぶつのゲノムで発見はっけんされている。Co-SmadとR-Smadの生物せいぶつ種しゅ間あいだでの配列はいれつ保存ほぞん性せいは極きわめて高たかい。構成こうせい要素ようそと配列はいれつの保存ほぞん性せいの高たかさは、TGF-βべーた経路けいろの一般いっぱん的てき機能きのうがそのまま維持いじされていることを示唆しさしている[19][20]。R-SmadやCo-Smad比較ひかくして、I-SmadのMH2ドメインは保存ほぞんされているものの、MH1ドメインは多様たよう化かしている[21]。

TGF-βべーたシグナル伝達でんたつ経路けいろにおける役割やくわり[編集へんしゅう]

R/Co-Smad[編集へんしゅう]

TGF-βべーたリガンドはI型がたとII型がたのセリン/スレオニンキナーゼからなるTGF-βべーた受容じゅよう体たいに結合けつごうし、この受容じゅよう体たいを介かいして細胞さいぼう内ないへのシグナルの伝播でんぱが行おこなわれる。リガンドの結合けつごうは、2分子ぶんしのI型がた受容じゅよう体たいと2分子ぶんしのII型がた受容じゅよう体たいからなる受容じゅよう体たい複ふく合体がったいを安定あんてい化かする[22]。その後ご、II型がた受容じゅよう体たいはI型がた受容じゅよう体たいのキナーゼドメインのN末端まったん側がわに位置いちするGSドメインをリン酸化さんかする[22]。このリン酸化さんかはI型がた受容じゅよう体たいを活性かっせい化かし、Smadを介かいしたTGF-βべーたシグナルのさらなる伝播でんぱを可能かのうにする。I型がた受容じゅよう体たいはR-SmadのC末端まったんのSSXSモチーフの2つのセリンをリン酸化さんかする。SmadはSARA（英語えいご版ばん）（Smad anchor for receptor activation）タンパク質たんぱくしつを介かいして細胞さいぼう表面ひょうめんに局在きょくざいし、SARAはSmadをI型がた受容じゅよう体型たいけいキナーゼの近傍きんぼうに配置はいちすることでリン酸化さんかを促進そくしんする[23]。R-Smadのリン酸化さんかはSARAからの解離かいりを引ひき起おこし、核かく移行いこう配列はいれつを露出ろしゅつするとともにCo-Smadとの結合けつごうを促進そくしんする。こうして形成けいせいされたSmad複ふく合体がったいは核かく内ないに局在きょくざいし、そこで他たの結合けつごうタンパク質たんぱくしつの助たすけを借かりて標的ひょうてきに遺伝子いでんしに結合けつごうする[24]。

I-Smad[編集へんしゅう]

I-Smadは、R-SmadのI型がた受容じゅよう体たいやCo-Smadへの結合けつごうの阻害そがい、I型がた受容じゅよう体たいのダウンレギュレーション、核かく内ないの転写てんしゃの変化へんかなど、さまざまな機構きこうでTGF-βべーたシグナルの伝達でんたつを阻害そがいする。I-Smadの保存ほぞんされたMH2ドメインはI型がた受容じゅよう体たいに対たいする結合けつごう能のうを持もち、R-Smadの結合けつごうを競合きょうごう的てきに阻害そがいする。R-Smadが活性かっせい化かされた後のちも、I-Smadが結合けつごうすることで、Co-Smadの結合けつごうが阻害そがいされる。さらに、I-Smadはユビキチンリガーゼをリクルートし、R-Smadを分解ぶんかいの標的ひょうてきとすることで効率こうりつ的てきにTGF-βべーたシグナルをサイレンシングする[8]。核かく内ないにおいても、I-SmadはDNA上じょうの結合けつごうエレメントへの結合けつごうをめぐってR/Co-Smad複ふく合体がったいと競合きょうごうする[25]。レポーターアッセイでは、転写てんしゃ因子いんしのDNA結合けつごうドメインをI-Smadと融合ゆうごうさせることでレポーター遺伝子いでんしの発現はつげんが低下ていかすることが示しめされており、 I-Smadの転写てんしゃリプレッサーとしての機能きのうが示唆しさされている[26]。

細胞さいぼう周期しゅうきの制御せいぎょにおける役割やくわり[編集へんしゅう]

成熟せいじゅく細胞さいぼうではTGF-βべーたは細胞さいぼう周期しゅうきの進行しんこうを阻害そがいし、G1/S期きの移行いこうを防ふせぐ[27]。この現象げんしょうは多おおくの器官きかんの上皮じょうひ細胞さいぼうでみられ、その一部いちぶはSmadシグナル伝達でんたつ経路けいろによって調節ちょうせつされている。制御せいぎょの正確せいかくな機構きこうは細胞さいぼう種しゅによってわずかに異ことなる。

SmadがTGF-βべーたによるcytostasis（細胞さいぼう静止せいし、細胞さいぼう活動かつどう停止ていし、細胞さいぼう性せい塞ふさが栓せん）を促進そくしんする機構きこうの1つは、細胞さいぼう成長せいちょうを促進そくしんする転写てんしゃ因子いんしMycのダウンレギュレーションである。Mycはp15INK4bとp21CIP1も抑制よくせいし、これらはそれぞれCDK4とCDK2の阻害そがい因子いんしである[28]。TGF-βべーたが存在そんざいしない場合ばあいには、SMAD3と転写てんしゃ因子いんしE2F4（英語えいご版ばん）、p107（英語えいご版ばん）からなるリプレッサー複ふく合体がったいは細胞さいぼう質しつに存在そんざいしている。しかし、TGF-βべーたシグナルが存在そんざいする場合ばあいには、この複ふく合体がったいは核かくに局在きょくざいし、SMAD4と結合けつごうしてMycのプロモーターのTGF-βべーた阻害そがいエレメント（TGF-βべーた inhibitory element、TIE）に結合けつごうすることで転写てんしゃを抑制よくせいする[29]。

Myc以外いがいにも、SmadはIDタンパク質たんぱくしつ（英語えいご版ばん）のダウンレギュレーションにも関与かんよしている。IDタンパク質たんぱくしつは細胞さいぼう分化ぶんかに関与かんよする遺伝子いでんしを調節ちょうせつする転写てんしゃ因子いんしで、幹みき細胞さいぼうの多能たのう性せいを維持いじし、細胞さいぼう周期しゅうきの継続けいぞくを促進そくしんする[30]。そのため、IDタンパク質たんぱくしつのダウンレギュレーションはTGF-βべーたシグナルによって細胞さいぼう周期しゅうきを停止ていしする経路けいろの1つである。DNAマイクロアレイによるスクリーニングでは、ID2（英語えいご版ばん）とID3（英語えいご版ばん）はTGF-βべーたによって抑制よくせいされるが、BMPシグナルによって誘導ゆうどうされる因子いんしであることが発見はっけんされている。上皮じょうひ細胞さいぼうでのID2とID3の遺伝子いでんしのノックアウトはTGF-βべーたによる細胞さいぼう周期しゅうきの阻害そがいを強化きょうかし、細胞さいぼう静止せいし作用さようの媒介ばいかいに重要じゅうようであることが示しめされている[31]。SmadはIDタンパク質たんぱくしつの発現はつげんを直接的ちょくせつてきにも間接かんせつ的てきにも阻害そがいする。TGF-βべーたシグナルはSMAD3のリン酸化さんかを誘導ゆうどうし、それによって細胞さいぼうストレス時じに誘導ゆうどうされる転写てんしゃ因子いんしATF3（英語えいご版ばん）が活性かっせい化かされる。その後ご、SMAD3とATF3は協きょう働はたらけ的てきにID1（英語えいご版ばん）の転写てんしゃを抑制よくせいし、ダウンレギュレーションする[32]。IDタンパク質たんぱくしつのダウンレギュレーションは、SMAD3によるMycの抑制よくせいの二に次じ的てき影響えいきょうとしても生しょうじる。MycはID2のインデューサーであるため、MycのダウンレギュレーションはID2シグナルの低下ていかをもたらし、細胞さいぼう周期しゅうきの停止ていしに寄与きよする[30]。

TGF-βべーたの細胞さいぼう静止せいし作用さように必要ひつよう不可欠ふかけつなエフェクターとなるのは、SMAD2ではなくSMAD3であることが研究けんきゅうから示しめされている。RNAiによる内在ないざい性せいのSMAD3の欠かけ失しつは、TGF-βべーたによる細胞さいぼう静止せいしを妨さまたげるの十分じゅうぶんである。しかしながら、同様どうようの方法ほうほうでSMAD2を欠かけ失しっさせると、TGF-βべーたによる細胞さいぼう周期しゅうきの停止ていしは終了しゅうりょうするのではなく、むしろ強化きょうかされる。このことは、SMAD3がTGF-βべーたによる細胞さいぼう静止せいし作用さように必要ひつようであるのに対たいし、SMAD2とSMAD3の比率ひりつが応答おうとうの強度きょうどを調節ちょうせつしていることを示唆しさしている。しかしながら、SMAD2の過剰かじょう発現はつげんによってこの比率ひりつを変化へんかさせても細胞さいぼう静止せいし応答おうとうに影響えいきょうは見みられない。そのため、SMAD2とSMAD3の比率ひりつがTGF-βべーたに応答おうとうした細胞さいぼう静止せいし作用さようの強度きょうどを調節ちょうせつしていることを証明しょうめいするためには、さらなる実験じっけんが必要ひつようである[33]。

Smadタンパク質たんぱくしつはCDK4の転写てんしゃの直接的ちょくせつてきな調節ちょうせつ因子いんしであることも判明はんめいしている。ルシフェラーゼレポーターアッセイでは、siRNAによるSMAD4の抑制よくせいによって、CDK4プロモーター制御せいぎょ下かに置おかれたルシフェラーゼの発現はつげんが増加ぞうかすることが示しめされている。SMAD2とSMAD3の抑制よくせいでは有意ゆういな影響えいきょうは見みられず、CDK4はSMAD4によって直接ちょくせつ調節ちょうせつされていることが示唆しさされる[34]。

臨床りんしょう的てき意義いぎ[編集へんしゅう]

がんにおける役割やくわり[編集へんしゅう]

Smadシグナル伝達でんたつの欠陥けっかんはTGF-βべーたに対たいする抵抗ていこう性せいをもたらし、細胞さいぼう成長せいちょうの調節ちょうせつ異常いじょうを引ひき起おこす場合ばあいがある。TGF-βべーたシグナル伝達でんたつの調節ちょうせつ異常いじょうは、膵がん、結腸けっちょうがん、乳にゅうがん、肺はいがん、前立腺ぜんりつせんがんなど多おおくのタイプのがんへの関与かんよが示唆しさされている[35]。SMAD4はヒトのがん、特とくに膵がんと結腸けっちょうがんで最もっとも一般いっぱん的てきに変異へんいしており、膵がんでは約やく半数はんすうで不ふ活性かっせい化かされている。SMAD4は、発見はっけん時じにはDeleted in Pancreatic Cancer Locus 4（DPC4）と命名めいめいされていた[36]。 生殖せいしょく細胞さいぼう系列けいれつでのSMAD4の変異へんいは、家族かぞく性せい若年じゃくねん性せいポリポーシスの遺伝いでん的てき素因そいんの一部いちぶを担になっている。Smad4のヘテロ接合せつごう型がたノックアウトマウスは100週しゅう以内いないに一様いちように消化しょうか管かんポリープを発症はっしょうする[37]。家族かぞく性せいのSMAD4の変異へんいの多おおくはMH2ドメインに生しょうじており、それによってホモオリゴマーやヘテロオリゴマーの形成けいせい能力のうりょくが破壊はかいされ、TGF-βべーたシグナルの伝達でんたつに影響えいきょうが生しょうじる[38]。

TGF-βべーたシグナル伝達でんたつにおいてSMAD2よりもSMAD3の重要じゅうよう性せいを示しめす証拠しょうこが存在そんざいするにもかかわらず、がんでのSMAD3の変異へんいはSMAD2よりも低率ていりつである[39][40]。絨毛じゅうもうがんの腫瘍しゅよう細胞さいぼうはTGF-βべーたシグナルに対たいする抵抗ていこう性せいがあり、またSMAD3の発現はつげんを欠かいている。絨毛じゅうもうがん細胞さいぼうへのSMAD3の再さい導入どうにゅうは、TGF-βべーたの抗こう侵おかせ襲かさね作用さようの媒介ばいかい因子いんしであるTIMP1（英語えいご版ばん）のレベルの増加ぞうかをもたらし、これによってTGF-βべーたシグナル伝達でんたつが再開さいかいされることが研究けんきゅうから示しめされている。しかしながら、SMAD3の再さい導入どうにゅうはTGF-βべーたの抗こう侵おかせ襲かさね作用さようのレスキューには不十分ふじゅうぶんである。このことからは、絨毛じゅうもうがんのTGF-βべーた抵抗ていこう性せいにはSMAD3に加くわえて他たのシグナル伝達でんたつ機構きこうの欠陥けっかんが関与かんよしていることが示唆しさされる[36]。

アルツハイマー病びょうにおける役割やくわり[編集へんしゅう]

アルツハイマー病びょう患者かんじゃの海馬かいばの神経しんけい細胞さいぼうでは、TGF-βべーたレベルとSMAD2のリン酸化さんかレベルの増加ぞうかがみられる[41]。このことはアルツハイマー病びょう患者かんじゃに対たいするTGF-βべーたの神経しんけい保護ほご効果こうかと一見いっけん矛盾むじゅんするようであるが、アルツハイマー病びょう患者かんじゃではTGF-βべーたシグナル伝達でんたつの一部いちぶの側面そくめんに欠陥けっかんが生しょうじ、TGF-βべーたの神経しんけい保護ほご効果こうかの喪失そうしつが引ひき起おこされていることが示唆しさされる。アルツハイマー病びょう患者かんじゃの海馬かいば神経しんけい細胞さいぼうでは、リン酸化さんかSMAD2は核かく内ないではなく、細胞さいぼう質しつの顆粒かりゅうに異こと所しょ的てきに局在きょくざいしていることが研究けんきゅうで示しめされている。具体ぐたい的てきには、異こと所しょ的てきに局在きょくざいするリン酸化さんかSMAD2はアミロイド斑まだらの内部ないぶに存在そんざいし、神経しんけい原げん線維せんい変化へんか（英語えいご版ばん）（NFT）に結合けつごうしている。こうしたデータはSMAD2がアルツハイマー病びょうの発症はっしょうに関与かんよしていることを示唆しさしている[42]。近年きんねんの研究けんきゅうでは、PIN1（英語えいご版ばん）がSMAD2の異常いじょうな局在きょくざいの促進そくしんに関与かんよしていることが示しめされている。PIN1は細胞さいぼう質しつ顆粒かりゅう内ないでSmad2/3やリン酸化さんかタウタンパク質たんぱくしつと共きょう局在きょくざいしていることが示しめされており、相互そうご作用さようの可能かのう性せいが示唆しさされる。SMAD2を発現はつげんしている細胞さいぼうにPIN1をトランスフェクションすると、プロテアソームを介かいしたSMAD2の分解ぶんかいとともに、SMAD2とリン酸化さんかタウとの結合けつごうの増加ぞうかが引ひき起おこされる。また、SMAD2もPIN1のmRNAの合成ごうせいの増加ぞうかを引ひき起おこす。そのため、2つのタンパク質たんぱくしつは調節ちょうせつの悪循環あくじゅんかんに陥おちいることとなる。PIN1は自身じしんとSMAD2の不溶性ふようせいNFTへの結合けつごうを引ひき起おこし、双方そうほうの可溶性かようせいタンパク質たんぱくしつレベルの低下ていかをもたらす。SMAD2はPIN1のmRNA合成ごうせいを促進そくしんすることで補償ほしょうを試こころみ、その結果けっかSMAD2の分解ぶんかいとNFTへの結合けつごうがさらに駆動くどうされる[43]。

腎じん疾患しっかんにおけるTGF-βべーた/Smadシグナル伝達でんたつ経路けいろ[編集へんしゅう]

TGF-βべーた/Smadシグナルの調節ちょうせつ異常いじょうは慢性まんせい腎臓じんぞう病びょうの発症はっしょう機構きこうである可能かのう性せいがある。腎臓じんぞうではTGF-βべーた1は細胞さいぼう外がいマトリックス（ECM）の産さん生せいの増加ぞうかと分解ぶんかいの阻害そがいによりECMの蓄積ちくせきを促進そくしんする。これは腎じん線維せんい症しょうの特徴とくちょうである[44]。TGF-βべーた1のシグナルはR-SmadであるSMAD2とSMAD3によって伝達でんたつされ、そのどちらも腎臓じんぞう病びょうでは過剰かじょう発現はつげんしている[45]。Smad3のノックアウトマウスは腎じん線維せんい症しょうの進行しんこうの低下ていかを示しめすことから、疾患しっかんの調節ちょうせつにおける重要じゅうよう性せいが示唆しさされる[46]。逆ぎゃくに、腎じん細胞さいぼうでSmad2を阻害そがいすると（Smad2の完全かんぜんなノックアウトは胚はい性せい致死ちしである）、より重おも篤あつな線維せんい化かが引ひき起おこされ、腎じん線維せんい症しょうの進行しんこうにおいてSMAD2はSMAD3に拮抗きっこう的てきに機能きのうしていることが示唆しさされる[47]。R-Smadとは異ことなり、一般いっぱん的てきに腎臓じんぞう病びょうの腎じん細胞さいぼうではSMAD7の発現はつげんは低下ていかしている。このTGF-βべーたシグナルの阻害そがいの喪失そうしつは活性かっせいを持もつSMAD2/3の量りょうを増大ぞうだいさせ、上述じょうじゅつの腎じん線維せんい症しょうの進行しんこうに寄与きよする[48]。

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ dppの母性ぼせい効果こうか（英語えいご版ばん）を強化きょうかするためこの名称めいしょうが付つけられた[9]。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

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外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

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