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Myc

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア（Wikipedia）』
MYC proto-oncogene, bHLH transcription factor
識別子しきべつし
略号りゃくごう MYC
他たの略号りゃくごう c-Myc, v-myc
Entrez（英語えいご版ばん） 4609
HUGO 7553
OMIM 190080
RefSeq NM_001354870.1
UniProt P01106
他たのデータ
遺伝子いでんし座ざ Chr. 8 q24.21
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MYCL proto-oncogene, bHLH transcription factor
識別子しきべつし
略号りゃくごう MYCL
他たの略号りゃくごう LMYC, MYCL1, bHLHe38, L-Myc, v-myc
Entrez（英語えいご版ばん） 4610
HUGO 7555
OMIM 164850
RefSeq NM_005376
UniProt P12524
他たのデータ
遺伝子いでんし座ざ Chr. 1 p34.2
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MYCN proto-oncogene, bHLH transcription factor
識別子しきべつし
略号りゃくごう MYCN
Entrez（英語えいご版ばん） 4613
HUGO 7559
OMIM 164840
RefSeq NM_005378
UniProt V
他たのデータ
遺伝子いでんし座ざ Chr. 2 p24.3
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Mycは、転写てんしゃ因子いんしをコードする遺伝子いでんしファミリーであり、調節ちょうせつ遺伝子いでんし（英語えいご版ばん）かつがん原げん遺伝子いでんしのファミリーである。Mycファミリーは、関連かんれんする3つのヒト遺伝子いでんしc-Myc（MYC（英語えいご版ばん））、l-Myc（MYCL（英語えいご版ばん））、n-Myc（MYCN）から構成こうせいされる。c-Myc（単たんにMyc、MYCと呼よばれることもある）はこのファミリーで最初さいしょに発見はっけんされた遺伝子いでんしであり、名称めいしょうはウイルス遺伝子いでんしv-mycとの相あい同性どうせいに由来ゆらいする。

がんでは、c-Mycはしばしば恒常こうじょう的てきに発現はつげんしている。c-Mycによって多おおくの遺伝子いでんしの発現はつげんが上昇じょうしょうし、その一部いちぶは細胞さいぼう増殖ぞうしょくに関与かんよしているため、がんの形成けいせいに寄与きよすることとなる[1]。c-Mycと関係かんけいした染色せんしょく体たい転てん座ざは、バーキットリンパ腫りんぱしゅの症例しょうれいの大だい部分ぶぶんで重要じゅうような役割やくわりを果はたしている[2]。c-Myc遺伝子いでんしの恒常こうじょう的てきなアップレギュレーションは頸部、大腸だいちょう、胸部きょうぶ、肺はい、胃いの癌腫がんしゅでも観察かんさつされている[1]。そのため、Mycは抗こうがん剤ざいの有望ゆうぼうな標的ひょうてきであると考かんがえられている[3]。残念ざんねんながら、Mycは抗こうがん剤ざいの標的ひょうてきとして適てきさないいくつかの特徴とくちょうを持もっているため、タンパク質たんぱくしつ自身じしんを標的ひょうてきとする低てい分子ぶんし化合かごう物ぶつではなく、MycをコードするmRNAを標的ひょうてきとするなど、間接かんせつ的てきにタンパク質たんぱくしつに作用さようすることが必要ひつようである[4][5]。

ヒトゲノムでは、c-Mycは8番ばん染色せんしょく体たい（英語えいご版ばん）に位置いちしており、E-box（英語えいご版ばん）への結合けつごうを介かいして全ぜん遺伝子いでんしの15%の発現はつげんを調節ちょうせつしていると考かんがえられている[6]。

典型てんけい的てきな転写てんしゃ因子いんしとしての役割やくわりに加くわえて、N-Mycはヒストンアセチル化か酵素こうそをリクルートする可能かのう性せいがある。これによって、ヒストンのアセチル化かを介かいして全体ぜんたい的てきなクロマチン構造こうぞうの調節ちょうせつが可能かのうとなる[7]。

発見はっけん

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鳥類ちょうるいのウイルス（avian myelocytomatosis virus）にコードされるがん遺伝子いでんし（v-myc）の発見はっけん後ご、相あい同どうな遺伝子いでんし（c-Myc）が正常せいじょう細胞さいぼうにも存在そんざいすることが発見はっけんされた。後のちに、さらに他たの相あい同どう遺伝子いでんしn-Mycとl-Mycが発見はっけんされ、Mycファミリーへ加くわえられた[8]。

バーキットリンパ腫りんぱしゅのがん細胞さいぼうでは染色せんしょく体たい転てん座ざが生しょうじており、8番ばん染色せんしょく体たいと14番ばん染色せんしょく体たい（英語えいご版ばん）間あいだの転てん座ざ [t(8;14)] が最もっとも一般いっぱん的てきである。この転てん座ざによってc-Mycは非常ひじょうに活性かっせいの高たかい免疫めんえきグロブリン（Ig）プロモーター領域りょういきの下流かりゅうに配置はいちされ、c-Mycの過剰かじょう発現はつげんが引ひき起おこされる[2][8]。

構造こうぞう

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Mycファミリーの遺伝子いでんしはすべてMycファミリーの転写てんしゃ因子いんしをコードしており、塩基えんき性せいヘリックスループヘリックス（bHLH）とロイシンジッパー（LZ）モチーフを含ふくんでいる。bHLHモチーフはMycのDNAへの結合けつごうを担にない、LZモチーフは他たのbHLH型がた転写てんしゃ因子いんしであるMax（英語えいご版ばん）との二に量りょう体からだ化かを担になう[9]。

MycのmRNAはIRESを含ふくんでおり、ウイルス感染かんせん時じなど5'キャップ依存いぞん的てきな翻訳ほんやくが阻害そがいされた際さいにもタンパク質たんぱくしつへの翻訳ほんやくを行おこなうことが可能かのうとなる[10]。

機能きのう

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Mycタンパク質たんぱくしつは、E-box配列はいれつへの結合けつごうとヒストンアセチル化か酵素こうそのリクルートによって多おおくの増殖ぞうしょく促進そくしん遺伝子いでんしの発現はつげんを活性かっせい化かする転写てんしゃ因子いんしである。Mycは転写てんしゃ伸長しんちょう因子いんしのリクルートによって、活発かっぱつに転写てんしゃされている遺伝子いでんしの転写てんしゃ伸長しんちょう反応はんのうをアップレギュレーションすると考かんがえられている[11]。また、Mycはリプレッサーとして機能きのうすることもある。MycはMiz-1転写てんしゃ因子いんしに結合けつごうすることで、p300（英語えいご版ばん）転写てんしゃコアクチベーターと置おき換かわることで、Miz-1の標的ひょうてき遺伝子いでんしの発現はつげんを阻害そがいする。さらに、MycはDNA複製ふくせいの制御せいぎょに直接的ちょくせつてき役割やくわりを持もち[12]、この活性かっせいはがん細胞さいぼうでのDNA増幅ぞうふくに寄与きよしている可能かのう性せいがある[13]。

Mycは血清けっせい刺激しげきやWnt、Shh、EGF（MAPK/ERK経路けいろ（英語えいご版ばん）を介かいして）などさまざまな分裂ぶんれつ促進そくしんシグナルによって活性かっせい化かされる[14]。Mycの活性かっせい化かは、標的ひょうてき遺伝子いでんしの発現はつげん変化へんかによって多おおくの生物せいぶつ学がく的てき影響えいきょうを引ひき起おこす。最初さいしょに発見はっけんされたのは細胞さいぼう増殖ぞうしょくを駆動くどうする能力のうりょく（サイクリンのアップレギュレーションとp21のダウンレギュレーション）であるが、それだけでなく細胞さいぼう成長せいちょう（rRNAとリボソームタンパク質しつのアップレギュレーション）、アポトーシス（Bcl-2のダウンレギュレーション）、分化ぶんか、幹みき細胞さいぼうの自己じこ複製ふくせいなどの調節ちょうせつにも重要じゅうような役割やくわりを果はたす。ヌクレオチドの代謝たいしゃに関与かんよする遺伝子いでんしもMycによってアップレギュレーションされ[15]、この作用さようはMyc誘導ゆうどう性せいの細胞さいぼう増殖ぞうしょく[16]や細胞さいぼう成長せいちょう[17]に必要ひつようである。

細胞さいぼう競合きょうごうにおけるMycの役割やくわりを明確めいかくに示しめす研究けんきゅうがいくつか存在そんざいする[18]。

c-MycはB細胞さいぼうの増殖ぞうしょくに大おおきな影響えいきょうを与あたえ、MYCの遺伝子いでんし増幅ぞうふくはB細胞さいぼうの悪性あくせい化か、そして組織そしき学がく的てき形質けいしつ転換てんかんを含ふくむ悪性あくせい度ど（aggressiveness）の増大ぞうだいと関係かんけいしている[19]。

Myc-nick

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Myc-Nick

Myc-nickは、全長ぜんちょうのc-MycとN-Mycの切断せつだんによって産さん生むされる細胞さいぼう質しつ型がたのMycである[20]。Mycの切断せつだんはカルシウム依存いぞん的てきな細胞さいぼう質しつプロテアーゼであるカルパインファミリーによって行おこなわれる。

カルパインによるMycの切断せつだんは恒常こうじょう的てきな過程かていであるが、終末しゅうまつ分化ぶんかなどMycレベルの迅速じんそくなダウンレギュレーションが必要ひつような状況じょうきょう下かで増加ぞうかする。切断せつだんに伴ともなってDNA結合けつごうドメインを含ふくむC末端まったん領域りょういきが分解ぶんかいされるが、N末端まったんの298残ざん基もとの断片だんぺんは細胞さいぼう質しつにとどまり続つづける。Myc-nickはヒストンアセチル化か酵素こうそやユビキチンリガーゼの結合けつごうドメインを含ふくんでいる。

Myc-nickの機能きのうは現在げんざい研究けんきゅう中ちゅうであるが、この新あらたなMycファミリーのメンバーは細胞さいぼうの形態けいたいを調節ちょうせつし、少すくなくとも一部いちぶはアセチル基もと転移てんい酵素こうそと相互そうご作用さようすることで、αあるふぁ-チューブリンのアセチル化かを促進そくしんすることが示しめされている。Myc-nickの異こと所しょ性せい発現はつげんは筋すじ芽め細胞さいぼうへの分化ぶんかを加速かそくする。

臨床りんしょう的てき意義いぎ

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最初さいしょ期き遺伝子いでんしを除のぞいて、Mycは遺伝子いでんし発現はつげんを全体ぜんたい的てきにアップレギュレーションする。アップレギュレーションの効果こうかは非線形ひせんけい的てきであり、Myc非ひ存在そんざい下かですでにアップレギュレーションされている遺伝子いでんしの発現はつげんはMycの存在そんざいによって強つよくブーストされるが、Myc非ひ存在そんざい下かでの発現はつげんレベルが低ひくい遺伝子いでんしはMycの存在そんざい下かでも小ちいさなブースト効果こうかしか見みられない[21]。

Mycの過剰かじょう活性かっせい化か下かでのSUMO活性かっせい化か酵素こうそ（SAE1（英語えいご版ばん）/SAE2）の不ふ活性かっせい化かは、がん細胞さいぼうの分裂ぶんれつ期き崩壊ほうかい（英語えいご版ばん）と細胞さいぼう死しを引ひき起おこす。したがって、SUMO化かの阻害そがい剤ざいはがん治療ちりょう薬やくとなる可能かのう性せいがある[22]。

MYC遺伝子いでんしの増幅ぞうふくは上皮じょうひ性せい卵巣らんそうがんの症例しょうれいの多おおくでみられる[23]。TCGA（英語えいご版ばん）のデータによると、MYCの増幅ぞうふくは乳にゅうがん、大腸だいちょうがん、膵臓すいぞうがん、胃いがん、子宮しきゅうがんを含ふくむいくつかのがんで生しょうじている[24]。

正常せいじょう細胞さいぼうからがん細胞さいぼうへの実験じっけん的てきな形質けいしつ転換てんかん過程かていでは、MYC遺伝子いでんしはRAS遺伝子いでんしと協きょう働はたらけ的てきに機能きのうする[25][26]。

一部いちぶのがんでは、Mycの発現はつげんはBRD4の機能きのうに大おおきく依存いぞんしている[27][28]。BET阻害そがい剤ざいは臨床りんしょう前ぜんがんモデルでMycの機能きのうをブロックすることに成功せいこうしており、現在げんざい臨床りんしょう試験しけんでの評価ひょうかが行おこなわれている[29]。

動物どうぶつモデル

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ショウジョウバエではMycはdiminutive遺伝子いでんし座ざにコードされており、1935年ねん以前いぜんから遺伝いでん学者がくしゃに知しられていた[30]。diminutive変異へんい体たいは生存せいぞん可能かのうであるが、体からだのサイズが小ちいさくなる。その後ご、ショウジョウバエはMycの細胞さいぼう競合きょうごう[31]、核かく内ない倍加ばいか[32]、細胞さいぼう成長せいちょう[33]における役割やくわりを示しめすために利用りようされた。

Myc遺伝子いでんしの発見はっけんを通つうじて、バーキットリンパ腫りんぱしゅで8番ばん染色せんしょく体たいへ転うたて座ざした染色せんしょく体たいの切断せつだん部ぶには免疫めんえきグロブリン遺伝子いでんしが含ふくまれることが明あきらかにされた。バーキットリンパ腫りんぱしゅにおけるMycの発現はつげんパターンを模倣もほうすることで腫瘍しゅよう形成けいせい機構きこうを研究けんきゅうするため、トランスジェニックマウスモデルが開発かいはつされた。トランスジェニックマウスでIgM重じゅう鎖くさりエンハンサーの制御せいぎょ下かに置おかれたMyc遺伝子いでんしは、主おもにリンパ腫りんぱしゅを形成けいせいした[34]。マウスの研究けんきゅうでは、Mycの発現はつげん低下ていかが長寿ちょうじゅを誘導ゆうどうすることが示しめされ、両性りょうせいで寿命じゅみょうの中央ちゅうおう値ちと最大さいだい値ちの延長えんちょう、そして全ぜん年齢ねんれい層そうでの致死ちし率りつの低下ていか、健康けんこうの改善かいぜん、がんの進行しんこうの低下ていか、代謝たいしゃの改善かいぜんがみられ、体からだのサイズは小ちいさくなった。また、AMPK活性かっせいの上昇じょうしょう、TOR、AKT、S6Kの活性かっせい低下ていかや他たのエネルギーや代謝たいしゃに関かんする経路けいろの変化へんか（酸素さんそ消費しょうひの増加ぞうか、運動うんどうの増加ぞうかなど）がみられた[35]。この研究けんきゅうではCre-loxPリコンビナーゼによってMycの1コピーがノックアウトされたハプロ不全ふぜん型がたのマウス（Myc+/-）が用もちいられた。このマウスの表現ひょうげん型がたは通常つうじょうの加か齢よわいの影響えいきょうに抗こうするもので、カロリー制限せいげん、Ames dwarf、ラパマイシン、メトホルミン、レスベラトロール処理しょりマウスなどの他ほかの長寿ちょうじゅマウスモデルの多おおくと共通きょうつうしていた。他たの研究けんきゅうでは、Mycとp53の遺伝子いでんしが慢性まんせい骨髄こつづい性せい白血病はっけつびょう（CML）細胞さいぼうの生存せいぞんに重要じゅうようであることが示しめされている。薬剤やくざいによるMycとp53の標的ひょうてき化かはCMLマウスで良好りょうこうな結果けっかが得えられた[36][37]。

幹みき細胞さいぼうとの関係かんけい

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c-Mycは人工じんこう多能たのう性せい幹みき細胞さいぼう（iPS細胞さいぼう）の形成けいせいに大おおきな役割やくわりを果はたす。c-Mycは、山中やまなか伸しん弥わたるらによって発見はっけんされた、細胞さいぼうが幹みき細胞さいぼう様さま状態じょうたいを回復かいふくするために必要ひつような4つのオリジナル因子いんしの1つである（他たの3つの転写てんしゃ因子いんしはOct4、Sox2、Klf4）。その後ご、c-MycなしでもiPS細胞さいぼうの形成けいせいが可能かのうであることが示しめされている[38]。

相互そうご作用さよう

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MYCは次つぎに挙あげる因子いんしと相互そうご作用さようする。

アポトーシスに関係かんけいするシグナル伝達でんたつ経路けいろの概要がいよう

出典しゅってん

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