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T7ファージ

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T7から転送てんそう
T7ファージ
T7 ファージ
分類ぶんるい
ぐん : だい1ぐん(2ほんくさりDNA)
: カウドウイルス Caudovirales
: ポドウイルス Podoviridae
ぞく : T7ようウイルス T7-like virus
たね : T7 Phage

T7ファージバクテリオファージT7T7えい:Bacteriophage T7)はポドウイルスぞくし、ほんくさりDNAゲノムとしてち、大腸菌だいちょうきん宿主しゅくしゅとするバクテリオファージたねである。溶源せずにかなら溶菌ようきんサイクルをおくるとかんがえられている。T7ファージのRNAポリメラーゼ転写てんしゃ速度そくどはやく、T7プロモーターにたいたか特異とくいせいしめすという特徴とくちょうち、タンパク質たんぱくしつ発現はつげんけいなどに応用おうようされている。

構造こうぞう

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T7ファージの構造こうぞうしき。gp10はカプシドタンパクしつそとから形成けいせいし、内部ないぶほんくさりDNAのゲノムを保持ほじする。gp14、gp15、gp16はコアを形成けいせいする。gp17はあし構成こうせいする。(ひだり)ウイルスが大腸菌だいちょうきん付着ふちゃくするとgp14、gp15、gp16は大腸菌だいちょうきんそとまくうちまく貫通かんつうするチャネルを形成けいせいし、きん体内たいないへのゲノムDNAのとおみちとなる。(みぎ

1945ねん大腸菌だいちょうきん宿主しゅくしゅとするファージの基準きじゅんしゅひとつとして定義ていぎされたT7ファージはポドウイルスぞくするエンベロープたないDNAウイルスで、せい20面体めんていカプシド内部ないぶに、ちょくくさりじょうの2ほんくさりDNAをゲノムとして[1][2][3]。カプシドの頭部とうぶち、頭部とうぶ直径ちょっけいは60 - 61nm、カプシドのあつさは2nmである[4]。ゲノムは1983ねん解読かいどくされており[5]やく40kbp配列はいれつは55の遺伝子いでんしふく[3]必須ひっす遺伝子いでんし整数せいすう番号ばんごうけられており、必須ひっすでない遺伝子いでんしにはその相対そうたいてき位置いち反映はんえいする少数しょうすう番号ばんごうあたえられた。しかし現在げんざいではgp2.5、gp6.7、gp7.3が必須ひっす一方いっぽうでgp7は必須ひっすでないとかんがえられている[6]

gp1はDNA依存いぞんせいRNAポリメラーゼで、感染かんせん初期しょき大腸菌だいちょうきん由来ゆらいRNAポリメラーゼによって転写てんしゃされたのち、それ以降いこうのウイルス遺伝子いでんし転写てんしゃ複製ふくせいになう。gp5はDNAポリメラーゼでDNAの複製ふくせいおこなう。gp10はフレームシフトによって2種類しゅるいタンパク質たんぱくしつをコードする遺伝子いでんしで、カプシドの主成分しゅせいぶんとして外郭がいかく構成こうせいする。gp14、gp15、gp16はふく合体がったい形成けいせいして、内郭ないかく形成けいせいする[1]。また、これら3つのタンパク質たんぱくしつおなじく構造こうぞうタンパク質たんぱくしつであるgp6.7、gp7.3とともに、感染かんせん大腸菌だいちょうきんきん体内たいない挿入そうにゅうされる[4]。gp17はからびる繊維せんいタンパク質たんぱくしつ(tail fiber protein)で、3分子ぶんし一本いっぽん繊維せんい形成けいせいし、これが6ほんびている[7]

生活せいかつたまき

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T7ファージの宿主しゅくしゅ大腸菌だいちょうきんとくO抗原こうげんみじかいものに感染かんせんする。生活せいかつたまきみじかく、37℃では17ふん感染かんせん完了かんりょうする[1]きんえんしゅにはちょうない細菌さいきん感染かんせんするものもあるが、これまでにグラム陽性ようせいきん感染かんせんするT7ようファージが発見はっけんされたことはない[1][7]

溶菌ようきんサイクルをおくるファージの生活せいかつたまきは、おおきく吸着きゅうちゃく侵入しんにゅう、DNA複製ふくせいてといったステージで構成こうせいされ、最終さいしゅうてき細菌さいきん細胞さいぼうかべやぶる(溶菌ようきん)ことで細胞さいぼうがい放出ほうしゅつされる[6]。ファージがgp17を大腸菌だいちょうきんLPS付着ふちゃくさせることで吸着きゅうちゃくすると、gp14、gp15、gp16が大腸菌だいちょうきんうちまくそとまく貫通かんつうするチャネルを形成けいせいする。gp15、gp16のはたらきによってゲノムDNAのはしがまずきん体内たいないおくまれ、それ以降いこう転写てんしゃによってDNAの侵入しんにゅうすす[8]侵入しんにゅうしたDNAは大腸菌だいちょうきん防御ぼうぎょ機構きこうである制限せいげん酵素こうそRecBCDによる切断せつだんけるが、gp0.3やgp5.9はこれを阻害そがいする。同様どうよう細菌さいきん獲得かくとく免疫めんえき機構きこうであるCRISPRたいしてもT7ファージは対抗たいこうする機構きこうっている可能かのうせい指摘してきされている[6]

侵入しんにゅうしたDNAは転写てんしゃけるが、T7ファージの遺伝子いでんし感染かんせん発現はつげんするタイミングによって初期しょき遺伝子いでんし中期ちゅうき遺伝子いでんし後期こうき遺伝子いでんし分類ぶんるいされる。初期しょき遺伝子いでんし感染かんせん初期しょき段階だんかい大腸菌だいちょうきん由来ゆらいのRNAポリメラーゼによって転写てんしゃされる遺伝子いでんしぐんである。このなかでT7 RNAポリメラーゼは唯一ゆいいつT7ファージの増殖ぞうしょく必須ひっすとなる。中期ちゅうき以降いこう遺伝子いでんし大腸菌だいちょうきん由来ゆらいのRNAポリメラーゼではなく、T7 RNAポリメラーゼによって転写てんしゃされる。一旦いったんT7 RNAポリメラーゼが転写てんしゃされると、宿主しゅくしゅのRNAポリメラーゼはT7ファージ増殖ぞうしょく阻害そがい要因よういんにしかならず、RNAポリメラーゼβべーた'サブユニットに結合けつごうするgp2によってその機能きのう阻害そがいされる[1]。また、T7ファージは自前じまえタンパク質たんぱくしつ増殖ぞうしょく多用たようするため、宿主しゅくしゅ由来ゆらいタンパク質たんぱくしつをほとんど必要ひつようとしない。T7ファージの増殖ぞうしょく必要ひつよう宿主しゅくしゅタンパク質たんぱくしつは、RNAポリメラーゼをのぞくと、DNAの複製ふくせいとう必要ひつようチオレドキシンと(デオキシ)シチジン1リンさんキナーゼのみである[1][7]

T7ファージのゲノム複製ふくせいはゲノムの左端ひだりはしから15%の位置いち開始かいしし、双方向そうほうこうせいにDNAの複製ふくせい進行しんこうする。この複製ふくせいにはT7 DNAポリメラーゼにくわえ、T7 RNAポリメラーゼが必要ひつようである。大腸菌だいちょうきん感染かんせん15ふんでT7ファージ由来ゆらいのDNA分子ぶんしは200ばい増幅ぞうふくされる[2]急速きゅうそくなDNAの複製ふくせいには多量たりょう基質きしつ確保かくほ必要ひつようとするが、T7ファージはこれを宿主しゅくしゅのゲノムDNAの分解ぶんかいによって達成たっせいしている。gp3とgp6はそれぞれエンドヌクレアーゼ活性かっせいエクソヌクレアーゼ活性かっせいっており、宿主しゅくしゅゲノムの分解ぶんかいおこな[6]

増幅ぞうふくてウイルス粒子りゅうしとなったむすめウイルスは複数ふくすうタンパク質たんぱくしつさんし、宿主しゅくしゅ細胞さいぼうまくやぶり、きん体外たいがい拡散かくさんしてつぎ感染かんせんたまき開始かいしさせる。あるしゅ細菌さいきんからT7ようのプロファージがつかることはあるが、原則げんそくてきにT7ファージは溶源こさないとかんがえられており、かなら溶菌ようきんサイクルをおく[7]

T7ファージの応用おうよう

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T7 RNAポリメラーゼ(あお)がDNA(オレンジ)を鋳型いがたとしてmRNA(みどり)を合成ごうせいする様子ようす

1945ねん大腸菌だいちょうきん感染かんせんするファージとして定義ていぎされたT7ファージは、1969ねん遺伝子いでんし地図ちず報告ほうこくされて以来いらい、DNAの複製ふくせい転写てんしゃかかわる酵素こうそ生化学せいかがくてき解析かいせきされ、T7ファージは脚光きゃっこうびた。T7ファージやそのタンパク質たんぱくしつ転写てんしゃ機構きこうや、DNA複製ふくせい機構きこう解明かいめい利用りようされてきたほかタンパク質たんぱくしつ発現はつげんけいDNAシークエンシングファージディスプレイほうなどの様々さまざま研究けんきゅう手法しゅほう応用おうようされている[1][2][7]。また、1945ねん同定どうていされる以前いぜんにも1920年代ねんだいに、デレーユによって治療ちりょう目的もくてき研究けんきゅうがなされていたとかんがえられている[1][9]

T7 RNAポリメラーゼ

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T7ファージに由来ゆらいするRNAポリメラーゼ、T7 RNAポリメラーゼは転写てんしゃ速度そくど宿主しゅくしゅである大腸菌だいちょうきんのRNAポリメラーゼにくら非常ひじょうはやく、また、T7プロモーターを特異とくいてき認識にんしきするという特徴とくちょう[10][11]。T7プロモーターとT7 RNAポリメラーゼの特異とくいせいたかい。T7ファージのきんえんT3ファージがあり、両者りょうしゃのRNAポリメラーゼはアミノ酸あみのさん配列はいれつで82%のあい同性どうせいしめすが、両者りょうしゃのRNAポリメラーゼはたがいのプロモーターを利用りようできない[12][13]。このT7 RNAポリメラーゼのたか特異とくいせい応用おうようして分子生物学ぶんしせいぶつがく研究けんきゅうにおいては、T7プロモーターとT7 RNAポリメラーゼをわせる、T7発現はつげんけい外来がいらい遺伝子いでんし発現はつげんけい応用おうようされている[10][11]代表だいひょうれいが1985ねん[14]と1986ねん[15]報告ほうこくされたけい発展はってんさせた、大腸菌だいちょうきん宿主しゅくしゅとするpETシステムであり、このけいタンパク質たんぱくしつ大量たいりょう発現はつげんもちいられる[16]

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ a b c d e f g h Häuser, R; Blasche, S; Dokland, T; Haggård-Ljungquist, E; von Brunn, A; Salas, M; Casjens, S; Molineux, I et al. (2012). “Bacteriophage Protein–Protein Interactions”. Bacteriophage protein-protein interactions. Advances in Virus Research. 83. pp. 219–98. doi:10.1016/B978-0-12-394438-2.00006-2. ISBN 9780123944382. PMC 3461333. PMID 22748812 
  2. ^ a b c Richardson CC (1983). “Bacteriophage T7: minimal requirements for the replication of a duplex DNA molecule”. Cell 33 (2): 315-7. PMID 6344999. 
  3. ^ a b T7virus”. ViralZone. 2017ねん10がつ12にち閲覧えつらん
  4. ^ a b Kemp P, Garcia LR, Molineux IJ (2005). “Changes in bacteriophage T7 virion structure at the initiation of infection”. Virology 340 (2): 307-17. PMID 16054667. 
  5. ^ Dunn, J. J.; Studier, F. W. (1983). “Complete nucleotide sequence of bacteriophage T7 DNA and the locations of T7 genetic elements”. Journal of Molecular Biology 166 (4): 477–535. doi:10.1016/S0022-2836(83)80282-4. PMID 6864790. http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022283683802824. 
  6. ^ a b c d Qimron, Udi; Tabor, Stanley; Richardson, Charles C. (2010). “New Details about Bacteriophage T7-Host Interactions”. Microbe Magazine 5 (3): 117–122. doi:10.1128/microbe.5.117.1. ISSN 1558-7452. 
  7. ^ a b c d e Molineux I (2006). “The T7 group”. The bacteriophages. The Oxford University Press. p. 277–301 
  8. ^ Molineux IJ, Panja D (2013). “Popping the cork: mechanisms of phage genome ejection”. Nat Rev Microbiol 11 (3): 194-204. PMID 23385786. 
  9. ^ Molineux IJ (2006). “Fifty-three years since Hershey and Chase; much ado about pressure but which pressure is it?”. Virology 344 (1): 221-9. PMID 16364752. 
  10. ^ a b 廣瀬ひろせ 遵 (1997). “T7ファージRNAポリメラーゼを利用りようしたあたらしい外来がいらい遺伝子いでんし発現はつげんけい開発かいはつ”. 生物せいぶつ工学こうがく 75 (4): 282. NAID 110002951603. 
  11. ^ a b 東端ひがしばた けいとうと (2013). “大腸菌だいちょうきん宿主しゅくしゅとした異種いしゅタンパク質たんぱくしつだか発現はつげんのイロハ(生物せいぶつ工学こうがく基礎きそ講座こうざ-バイオよもやまばなし-)”. 生物せいぶつ工学こうがく 91 (2): 96-100. NAID 110009597773. 
  12. ^ Raskin CA, Diaz G, Joho K, McAllister WT. (1992). “Substitution of a single bacteriophage T3 residue in bacteriophage T7 RNA polymerase at position 748 results in a switch in promoter specificity”. J Mol Biol 228 (2): 506-15. PMID 1453460. 
  13. ^ Bull JJ, Molineux IJ (2008). “Predicting evolution from genomics: experimental evolution of bacteriophage T7”. Heredity 100 (5): 453-63. PMID 18212807. 
  14. ^ Tabor S, Richardson CC (1985). “A bacteriophage T7 RNA polymerase/promoter system for controlled exclusive expression of specific genes”. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 82 (4): 1074–8. PMC 397196. PMID 3156376. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC397196/. 
  15. ^ Studier FW, Moffatt BA (1986). “Use of bacteriophage T7 RNA polymerase to direct selective high-level expression of cloned genes”. J. Mol. Biol. 189 (1): 113–30. PMID 3537305. 
  16. ^ Michael R. Green, Joseph Sambrook (2012). “Expressing Cloned Genes”. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 3 (4 ed.). Cold Spring Harbor Laboratory. pp. 1495. ISBN 1936113422