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RNAポリメラーゼ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

RNAポリメラーゼ[注釈ちゅうしゃく 1] (RNA polymerase) とは、リボヌクレオチド重合じゅうごうさせてRNA合成ごうせいする酵素こうそRNA合成ごうせい酵素こうそ)。

DNAの鋳型いがたくさり一本いっぽんくさり)の塩基えんき配列はいれつって相補そうほてきなRNAを合成ごうせいする反応はんのう(転写てんしゃ)を触媒しょくばいする中心ちゅうしんとなる酵素こうそDNA依存いぞんせいRNAポリメラーゼという(たんに「RNAポリメラーゼ」ともぶ)。かく生物せいぶつでは、DNA鋳型いがたにしてmRNAsnRNA遺伝子いでんしおおくを転写てんしゃするRNAポリメラーゼIIがよくられる。このほかに35S rRNA前駆ぜんくたい転写てんしゃするRNAポリメラーゼItRNAU6 snRNA5S rRNA前駆ぜんくたいとう転写てんしゃするRNAポリメラーゼIIIなどがあり、この三種さんしゅはDNA依存いぞんせいRNAポリメラーゼとばれる。

また、RNAを鋳型いがたにRNAを合成ごうせいするRNA依存いぞんせいRNAポリメラーゼもあり、おおくのRNAウイルス重要じゅうよう機能きのうたす以外いがいに、microRNA増幅ぞうふく過程かていにも利用りようされる。

鋳型いがた必要ひつようとしないものもあり、はじめて発見はっけんされたRNA ポリメラーゼであるポリヌクレオチドホスホリラーゼ(ポリヌクレオチドフォスフォリレース、ポリニュークリオタイドフォスフォリレース)もそのひとつとしてあげられる。この酵素こうそ実際じっさいには細菌さいきん細胞さいぼううちヌクレアーゼとしてはたらくが、試験管しけんかんないではRNAを合成ごうせいすることができる。これを利用りようしていち種類しゅるいヌクレオチドからなるRNAを合成ごうせいし、それから翻訳ほんやくされるタンパク質たんぱくしつ調しらべることではじめて遺伝いでん暗号あんごう決定けっていおこなわれた。かく生物せいぶつのもつpoly(A)ポリメラーゼも同様どうよう鋳型いがた必要ひつようとせず、Pol II転写てんしゃ産物さんぶつの3'末端まったんにpoly(A)くさり付加ふかすることで転写てんしゃ遺伝子いでんし発現はつげん制御せいぎょ機構きこう一端いったんになっている。

かく生物せいぶつ転写てんしゃ装置そうちRNAポリメラーゼ)は、Pol I、Pol II、Pol IIIの3しゅがある。それぞれ10種類しゅるい以上いじょうものサブユニットから構成こうせいされる(基本きほんてきには12しゅ)。また、細菌さいきんのRNAポリメラーゼもサブユニットすうおおく、9-14しゅのサブユニットから構成こうせいされている。ユーリ細菌さいきんではいくつかのサブユニットがはぶかれているが、一部いちぶクレン細菌さいきんにはかく生物せいぶつの12種類しゅるいのサブユニットがすべ保存ほぞんされており、かく生物せいぶつつ3しゅのRNAポリメラーゼの祖先そせんがたかんがえられている。細菌さいきんのRNAポリメラーゼは、Aサブユニットが2つにかれている特徴とくちょうがある。

一方いっぽうで、真正しんしょう細菌さいきんのRNAポリメラーゼは全体ぜんたいてきかく生物せいぶつ細菌さいきんのものより単純たんじゅん構成こうせいである。ααββ'ωおめがの4しゅ5サブユニットからなるコアエンザイムに、σしぐま会合かいごうしたホロエンザイムとばれる形態けいたい正常せいじょうなプロモーターを認識にんしきする。シグマ因子いんし遺伝子いでんし上流じょうりゅうプロモーター配列はいれつ認識にんしきして転写てんしゃ開始かいしする役割やくわりになっている。

真正しんしょう細菌さいきんのRNAポリメラーゼサブユニット[編集へんしゅう]

大腸菌だいちょうきんRNAポリメラーゼホロ酵素こうそRNA polymerase holoenzyme は2分子ぶんしαあるふぁ (αあるふぁ1, 2) および1分子ぶんしずつのβべーたβべーたσしぐまωおめが サブユニットふく[1]σしぐまサブユニット以外いがいだけでもふく合体がったい形成けいせいし、これをRNAポリメラーゼコア酵素こうそ (RNA polymerase core enzyme, コアポリメラーゼ (core polymerase))とぶ。コア酵素こうそ実際じっさいにRNAを合成ごうせいする部位ぶいで、σしぐまサブユニット(σしぐま因子いんし)はコア酵素こうそ特定とくてい遺伝子いでんしみちびき、ホロ酵素こうそ特異とくいせい specificity (σしぐまギリシャ文字もじのs) をになうといえる[2]

それぞれのこうかくサブユニットを紹介しょうかいする。

αあるふぁサブユニット[編集へんしゅう]

RNAポリメラーゼホロ酵素こうそにおいて2つ存在そんざいするαあるふぁサブユニットは、開始かいし段階だんかいではプロモーターのUPエレメント認識にんしきになう。一方いっぽう伸長しんちょう段階だんかいになるとコア酵素こうそ会合かいごうふく様々さまざま活性かっせいしめす。

リチャード・グルース (Richard Grouse) らはαあるふぁ235 (C末端まったんの94アミノ酸あみのさん欠損けっそん正常せいじょうαあるふぁサブユニットのアミノ酸あみのさんすうは329であるため、94アミノ酸あみのさんうしない235) およびR265C (N末端まったんから265番目ばんめアルギニンシステイン置換ちかん) という2つのαあるふぁサブユニット変異へんいたいについて実験じっけんおこなった。これにより、RNAポリメラーゼホロ酵素こうそがUPエレメントを認識にんしきしないことがあきらかにされた[3]。また、グルースとリチャード・エブライト (Richard Ebright) らはタンパク質たんぱくしつ限定げんてい分解ぶんかいほうもちいて、αあるふぁサブユニットのN末端まったんおよびC末端まったんがそれぞれ独立どくりつしてαあるふぁ-NTD (amino terminal domain of the αあるふぁ subunit) およびαあるふぁ-CTD (carboxyl terminal domain of the αあるふぁ subunit) というドメイン形成けいせいすることをめた[4]実験じっけんもちいられた生物せいぶつ大腸菌だいちょうきんである。N末端まったんドメインは8〜241付近ふきんふくむ28 kD、C末端まったんドメインは249〜329(末端まったん)付近ふきんふくむ8 kDである。グルースとエブライトらはまた、両者りょうしゃ明確めいかく構造こうぞう (モチーフ) をとらない、すくなくとも239〜251の13アミノ酸あみのさんによる連結れんけつくさりでつながっていることも発見はっけんした[5]

このことから、αあるふぁ-CTDの機能きのうについてひとつの仮説かせつかんがえられる。RNAコア酵素こうそにおいてほかのタンパク質たんぱくしつ相互そうご作用さようするのはαあるふぁ-NTDであり、αあるふぁCTDは連結れんけつくさりさきでコア酵素こうそからはなれている。しかし、UPエレメントにたいして強力きょうりょく結合けつごうし、DNAとホロ酵素こうそとのつながりをさらに強固きょうこおぎな[5][6]後述こうじゅつするRFふく合体がったい立体りったい構造こうぞう解析かいせきから、2つあるUPエレメントのうち-40付近ふきんのものはαあるふぁ1が、-60付近ふきんのものはαあるふぁ2が連結れんけつすることがしめされている。

βべーたサブユニット[編集へんしゅう]

βべーた'サブユニットとともに転写てんしゃ産物さんぶつ伸長しんちょうになう。どちらもDNAとの結合けつごう部位ぶいつが、βべーたサブユニットのそれはN末端まったん[注釈ちゅうしゃく 2]ちかくのMet30〜Met102の領域りょういきである[7]しずかでん相互そうご作用さようよわ結合けつごうする。エフゲニー・ナドラー (Evgeny Nudler) の1996ねん実験じっけんによると、DNAの-6〜+1が結合けつごう標的ひょうてきであり、転写てんしゃちゅうこの部位ぶい融解ゆうかいしている[8]。DNAとの接続せつぞく中心ちゅうしんになるのはべつβべーた'サブユニットの結合けつごう部位ぶいであるが、βべーたサブユニットのそれはその上流じょうりゅう位置いちする。このため、上流じょうりゅうへとされる転写てんしゃ産物さんぶつ鋳型いがたくさりとの結合けつごうおどかしたとしても、RNAポリメラーゼの活性かっせいおおきな影響えいきょうはない。また、ナドラーのべつ実験じっけんによると、βべーたサブユニットはβべーた’の結合けつごうにもかかわるようである[7]

ホロ酵素こうそ活性かっせい部位ぶい構成こうせいするタンパク質たんぱくしつひとつであり、因子いんしであるMg+結合けつごうする3つのアスパラギンさんつ。

βべーたサブユニットは微生物びせいぶつたいする代表だいひょうてき抗生こうせい物質ぶっしつであるリファンピシンストレプトリジギン直接的ちょくせつてき作用さよう標的ひょうてきである[9]。したがってこの2つの抗生こうせい物質ぶっしつ転写てんしゃ伸長しんちょう阻害そがいする。ただし、ストレプトリジギンは開始かいし段階だんかい効果こうかがあるとされている。これは、開始かいし段階だんかいにも10ntのRNA(アボーティブ転写てんしゃ産物さんぶつ)を合成ごうせいする過程かてい[注釈ちゅうしゃく 3]があり、これを阻害そがいするためである[9]

βべーた'サブユニット[編集へんしゅう]

βべーた'サブユニットは、転写てんしゃ開始かいし段階だんかいにおいてRNAポリメラーゼホロ酵素こうそが-11〜+1もどすことをたすける[9]。このもどしはいわゆる開放かいほうがたふく合体がったい形成けいせい[注釈ちゅうしゃく 4]であるが、そのさい鋳型いがたくさり[注釈ちゅうしゃく 5]の-10領域りょういきちゅうにRNAポリメラーゼの結合けつごう必要ひつようである。キャロル・グロス (Carol Gross) らの研究けんきゅうによると、結合けつごうβべーた'の262〜309のアミノ酸あみのさん領域りょういきうなが[3]

伸長しんちょう段階だんかいにおいてはRNAポリメラーゼホロ酵素こうそのDNA結合けつごうになう。すなわち、C末端まったん[注釈ちゅうしゃく 2]ちかくのMet1230〜Met1273で+2〜+11の領域りょういきつよ疎水そすいせい相互そうご作用さようする[8]。このDNA領域りょういきβべーたサブユニットとの結合けつごう部位ぶいことなり、転写てんしゃちゅうじゅうらせんのままである。

σしぐまサブユニット[編集へんしゅう]

σしぐま70 領域りょういき1.1
識別子しきべつし
略号りゃくごう Sigma70_r1_1
Pfam PF03979
InterPro IPR007127
利用りよう可能かのう蛋白質たんぱくしつ構造こうぞう:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
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σしぐま70 領域りょういき1.2
Thermus aquaticus のRNAポリメラーゼにおける、領域りょういき1.2から3.1までのσしぐま因子いんし断片だんぺん結晶けっしょう構造こうぞう
識別子しきべつし
略号りゃくごう Sigma70_r1_2
Pfam PF00140
InterPro IPR009042
PROSITE PDOC00592
SCOP 1sig
SUPERFAMILY 1sig
利用りよう可能かのう蛋白質たんぱくしつ構造こうぞう:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
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σしぐま70 領域りょういき2
Escherichia coli のRNAポリメラーゼにおけるσしぐま70断片だんぺん結晶けっしょう構造こうぞう
識別子しきべつし
略号りゃくごう Sigma70_r2
Pfam PF04542
Pfam clan CL0123
InterPro IPR007627
PROSITE PDOC00592
SCOP 1sig
SUPERFAMILY 1sig
利用りよう可能かのう蛋白質たんぱくしつ構造こうぞう:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
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σしぐま70 領域りょういき3
識別子しきべつし
略号りゃくごう Sigma70_r3
Pfam PF04539
Pfam clan CL0123
InterPro IPR007624
SCOP 1ku2
SUPERFAMILY 1ku2
利用りよう可能かのう蛋白質たんぱくしつ構造こうぞう:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
PDBsum structure summary
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σしぐま70 領域りょういき4
Thermotoga maritimaσしぐま70における領域りょういき4の溶液ようえきちゅう構造こうぞう
識別子しきべつし
略号りゃくごう Sigma70_r4
Pfam PF04545
Pfam clan CL0123
InterPro IPR007630
SCOP 1or7
SUPERFAMILY 1or7
利用りよう可能かのう蛋白質たんぱくしつ構造こうぞう:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
PDBsum structure summary
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σしぐま70 領域りょういき4.2
-35ボックス結合けつごうした、Escherichia coliσしぐま70における領域りょういき4
識別子しきべつし
略号りゃくごう Sigma70_r4_2
Pfam PF08281
Pfam clan CL0123
InterPro IPR013249
SCOP 1or7
SUPERFAMILY 1or7
利用りよう可能かのう蛋白質たんぱくしつ構造こうぞう:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
PDBsum structure summary
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とく転写てんしゃ開始かいし段階だんかい[注釈ちゅうしゃく 3]活躍かつやくするようである。σしぐま因子いんしがあるとRNAポリメラーゼは特定とくていのDNA部位ぶいゆる結合けつごう部位ぶい、loose binding site)によわ結合けつごうする。すべって移動いどうし、プロモーターに出会であうかそのまま遊離ゆうりする。これにより、RNAポリメラーゼによる転写てんしゃおこな遺伝子いでんし発見はっけん加速かそくされる。速度そくど定数ていすうにして1010 M-1 s-1で、すべらずにDNAへ差別さべつ結合けつごう解離かいりかえ場合ばあいの100ばいである[10][11]結合けつごうしたとき安定あんていせいでいえば、解離かいりまでの半減はんげんやく60ふんなが[11]σしぐま因子いんしがなければ1びょう以下いかである[11]σしぐまサブユニットはまたRNAポリメラーゼとプロモーターを、半減はんげん数時間すうじかんになるほど強固きょうこ結合けつごうさせる。ホロ酵素こうそとプロモーターの会合かいごう定数ていすうはほかの配列はいれつ比較ひかくして平均へいきんやく107ばいであり、コア酵素こうそ平均へいきん1000ばいにもなる[11]。プロモーターによって結合けつごう定数ていすうは106〜1012幅広はばひろく、rRNAのようなやく1びょうに1かいからlacI 遺伝子いでんしのようなやく30ふんに1かいという転写てんしゃ頻度ひんどちがいを[12]。それだけではなく、伸長しんちょう段階だんかいへの移行いこう必要ひつようなDNAのもどしもにな[注釈ちゅうしゃく 4][13]

伸長しんちょう段階だんかい移行いこうするとき、RNAポリメラーゼは構造こうぞうえるが、このときσしぐま因子いんし結合けつごう極端きょくたんよわくなる。トラバーズ (Travers) とバージェス (Burgess) の研究けんきゅうによると、σしぐま因子いんし伸長しんちょう促進そくしんすることはない[14]二人ふたりの1969ねん論文ろんぶんでは、はなれたσしぐま因子いんしべつのコア酵素こうそ結合けつごうし、なおかつそれはDNAの正常せいじょう転写てんしゃおこなうことが証明しょうめいされた[14]。このことから、σしぐま因子いんしさい利用りようされるとかんがえられる。σしぐまサイクルという循環じゅんかんなかでは当初とうしょ伸長しんちょうまえかならはなれるものとかんがえられていたが、現在げんざいでは結合けつごうよわくなるだけというせつ有力ゆうりょくである[15]実際じっさい伸長しんちょう段階だんかいいたったホロ酵素こうその70%はσしぐま因子いんし保有ほゆうしたままである[13]。すなわち、σしぐま因子いんし通常つうじょう伸長しんちょうまったときに、べつのコア酵素こうそ利用りようされるためはなれる。

特別とくべつ遺伝子いでんし専任せんにんするσしぐま因子いんしもある。あらゆる真正しんせい細菌さいきんは、成長せいちょう機能きのうかんする遺伝子いでんし(通常つうじょう増殖ぞうしょく必要ひつよう遺伝子いでんし)を転写てんしゃする主要しゅようσしぐま因子いんし (primary σしぐま factor, σしぐまA) をつ。たとえば、大腸菌だいちょうきんではσしぐま70であり、枯草かれくさきん ではσしぐま43である[16]。それぞれ70 kDと43 kDで、みぎじょう番号ばんごう分子ぶんしりょう由来ゆらいする。ほかにも、ねつショック遺伝子いでんし胞子ほうし形成けいせい遺伝子いでんしなども特別とくべつσしぐま因子いんし担当たんとうする[16]おおくの種類しゅるいがあるのは、環境かんきょう条件じょうけんによって適切てきせつ遺伝子いでんしぐん発現はつげんするためで、この使つかけはとく枯草かれくさきんもちいた研究けんきゅうによってあきらかとなった。普段ふだんσしぐま43転写てんしゃ制御せいぎょたっているが、栄養えいよう状態じょうたいわるくなった場合ばあいなどにはσしぐま因子いんしσしぐまHなど)が発現はつげんし、胞子ほうし形成けいせい準備じゅんびはじめる。そのはは細胞さいぼうではE、Kと変化へんかし、胞子ほうしではF、Gが使用しようされる。

σしぐま因子いんし領域りょういき[編集へんしゅう]

あらゆる真正しんせい細菌さいきんにおけるσしぐま因子いんしアミノ酸あみのさん配列はいれつ領域りょういき1から4に分類ぶんるいできる。ハーマン (Helmann) とチェンバーリン (Chamberlin) はかく領域りょういき機能きのう以下いかのように提唱ていしょうした[17]

領域りょういき1は主要しゅようσしぐま因子いんしにしか存在そんざいしない。σしぐま因子いんしがRNAポリメラーゼをともなわずにプロモーターと結合けつごうすることを阻害そがいする。このため、DNAと結合けつごうするためにはRNAポリメラーゼコア酵素こうそ結合けつごうして、後述こうじゅつする領域りょういき2.4と4.2のドメイン露出ろしゅつさせなければならない。σしぐま因子いんし単独たんどく結合けつごうはコア酵素こうそとプロモーターあいだ結合けつごう阻害そがいにつながるためこの機能きのう重要じゅうようである。

領域りょういき2はすべてのσしぐま因子いんし存在そんざいし、あらゆる生物せいぶつもっと共通きょうつうせいたか[18]。さらに領域りょういき2.1から2.4に分類ぶんるいされる。とく重要じゅうようなのは領域りょういき2.4で、これは-10ボックスに特異とくいてきつよ結合けつごうする。DNAとの結合けつごう最適さいてきαあるふぁヘリックス形成けいせいすると予測よそくされるアミノ酸あみのさん配列はいれつふくんでいるが、実際じっさいに-10ボックスを認識にんしきすることはリチャード・ロジック (Richard Losick) が代償だいしょう変異へんい実験じっけん証明しょうめいした[18]

領域りょういき3はコア酵素こうそとDNA両方りょうほう結合けつごう関与かんよする。領域りょういき3と4をつなげる連結れんけつくさりは、ほとんどの転写てんしゃ最初さいしょ合成ごうせいされるアデニンとの特異とくいてき結合けつごうかかわり[19]、また、RNA出口でぐち通路つうろふさぐ (#真正しんしょう細菌さいきんのホロ酵素こうそ-DNAふく合体がったいの(3)で詳述しょうじゅつ)。合成ごうせいされたばかりのアデニンはDNAとの2ほんよわ水素すいそ結合けつごうでしかささえられておらず、ホロ酵素こうそとの特異とくいてき結合けつごう必要ひつようである。連結れんけつくさりいたホロ酵素こうそもちいた実験じっけんでは、最初さいしょの2つのリボヌクレオチド一方いっぽう、または両方りょうほう通常つうじょうよりはるかにこう濃度のうどでなければ転写てんしゃはじまらないことが確認かくにんされた[19]

領域りょういき4は4.1と4.2にけられ、ホロ酵素こうそのプロモーター認識にんしきにおいて重要じゅうようかんがえられている。領域りょういき4.2はヘリックスターンヘリックスというDNA結合けつごうドメインふくみ、-35ボックスにつよ結合けつごうする。

真正しんしょう細菌さいきん伸長しんちょうふく合体がったい[編集へんしゅう]

伸長しんちょう段階だんかい実行じっこうするDNAポリメラーゼを中心ちゅうしんとしたふく合体がったい立体りったい構造こうぞうについての研究けんきゅうは、1999ねんセス・ダースト (Seth Darst) によるThermus aquaticusのDNAポリメラーゼ結晶けっしょうのXせん回折かいせつぞうもとづいている。2008ねん現在げんざい真正しんしょう細菌さいきんのモデル生物せいぶつである大腸菌だいちょうきんのDNAポリメラーゼのXせん結晶けっしょう構造こうぞう解析かいせきには成功せいこうしていない。しかしながら、次元じげん結晶けっしょう電子でんし顕微鏡けんびきょう観察かんさつした大腸菌だいちょうきんコアポリメラーゼの全体ぜんたい形状けいじょう酷似こくじしているため、詳細しょうさい構造こうぞうているとかんがえられている[20]

真正しんしょう細菌さいきんのコア酵素こうそ[編集へんしゅう]

T. Aquaticus のRNAポリメラーゼコア酵素こうそカニはさみのようである。おもにツメのひとつはβべーたサブユニット、もうひとつはβべーた'サブユニットがめる。αあるふぁ1と2はヒンジにあり、それぞれβべーたβべーた'に結合けつごうしている。ちいさなωおめがサブユニットはβべーた'サブユニットのC末端まったん[注釈ちゅうしゃく 2]きついており、はさみでいうみね存在そんざいする。触媒しょくばい活性かっせい中心ちゅうしん (catalytic center, 活性かっせい部位ぶい) は、βべーたβべーた'サブユニットの内部ないぶである活性かっせい中心ちゅうしんみぞ (channel) におけるにある[21]ひろやく25 Å空間くうかんである[22][23]。ここにはマグネシウムイオン (Mg2+) がβべーたサブユニットちゅうの3つのアスパラギンさんキレート結合けつごうしている。この3つはアミノ酸あみのさん配列はいれつ NADFDGD(Dがアスパラギンさん)にふくまれており、すべての細菌さいきん保存ほぞんされている[20]

真正しんしょう細菌さいきんのホロ酵素こうそ[編集へんしゅう]

2002ねんのダーストらのXせん結晶けっしょう構造こうぞう解析かいせきから3つの結論けつろんされた[24]。(1) σしぐま因子いんしσしぐまA)とβべーたおよびβべーた’サブユニットとのあいだにはひろ範囲はんい相互そうご作用さようがある。(2) σしぐま因子いんしのN末端まったん[注釈ちゅうしゃく 2]にある91個いっこアミノ酸あみのさん (ドメイン1.1) が欠損けっそんしているホロ酵素こうそにはDNAをとおがあったが、それにしてはちいさい。このことから、91個いっこアミノ酸あみのさんをこじけてDNAを結合けつごうさせると推測すいそくされている。(3) σしぐま因子いんしちゅうのドメインのうちの2つ (ドメイン3と4) をつなぐ、明確めいかくさん構造こうぞうのないループはRNAポリメラーゼホロ酵素こうそ活性かっせい部位ぶいちかく、また転写てんしゃ産物さんぶつ出口でぐち存在そんざいしている。

2番目ばんめ欠損けっそんしている部位ぶい解釈かいしゃくしているのは、ダーストらは完全かんぜんなホロ酵素こうそ結晶けっしょうすることができず、ドメイン1.1を欠損けっそんしたσしぐまのそれを撮影さつえいもちいたからである[25]。よって、完全かんぜん構造こうぞうあきらかでないが、その予測よそくはできる。たとえば、回折かいせつぞうによると切断せつだんされたN末端まったんαあるふぁサブユニットのはし位置いちし、活性かっせい部位ぶいにまっすぐく。また、ドメイン1.1は中性ちゅうせいpHやく3ぶんの1のざんもと電荷でんかとなるほど酸性さんせいアミノ酸あみのさん非常ひじょうおおい。塩基えんきせいアミノ酸あみのさんなら活性かっせい部位ぶいにいかにもつよ結合けつごうできそうである。ダーストらはこれを、ドメイン1.1はちいさすぎる入口いりくちをこじけてDNAを内部ないぶ結合けつごうさせるためとかんがえた[25]。そして、内部ないぶでDNAは融解ゆうかいし、ホロ酵素こうそ閉鎖へいさがたふく合体がったい[注釈ちゅうしゃく 3]になるのとかんがえられる。そのさいにドメイン1.1は解離かいりし、内部ないぶのDNA周辺しゅうへん活性かっせい部位ぶいじるとかんがえられる。この解離かいりは、閉鎖へいさがたふく合体がったい保護ほごされていたのが、開放かいほうがたふく合体がったいへの移行いこうでドメイン1.1がヒドロキシルラジカルにさらされるためのようである。リチャード・エブライト閉鎖へいさがたふく合体がったいのドメイン1.1が開放かいほうがたふく合体がったいではえていることを蛍光けいこう共鳴きょうめいエネルギー移動いどう実験じっけん証明しょうめいした[25]

3番目ばんめ見解けんかいには2つの解釈かいしゃくがある。だいいちに、σしぐま因子いんし活性かっせい部位ぶいちかづくことでリンさんジエステル結合けつごう形成けいせいたずさわる。だいに、ループの連結れんけつくさり転写てんしゃ産物さんぶつ出口でぐちふさぐことで、アボーティブ転写てんしゃ産物さんぶつ形成けいせいおこな[注釈ちゅうしゃく 3]。アボーティブ転写てんしゃ産物さんぶつ形成けいせいについては、連結れんけつくさり開始かいし段階だんかい合成ごうせいされるRNAは出口でぐち占有せんゆうするための競合きょうごうをするという仮説かせつがある[26]連結れんけつくさりつとRNAの伸長しんちょう中断ちゅうだんされ、みじかいアボーティブ転写てんしゃ産物さんぶつとして放出ほうしゅつされる。アボーティブ転写てんしゃ産物さんぶつ完成かんせいした転写てんしゃ産物さんぶつより過剰かじょう合成ごうせいされる (大腸菌だいちょうきんでは11ばい過剰かじょう[26]) ので、この過程かていはおそらくなんかえされる。やく12nt以上いじょうにうまく成長せいちょうできたときにRNAはようやく競合きょうごうつ。連結れんけつくさりはRNAにどかされ、結果けっか、コア酵素こうそσしぐま因子いんしとの結合けつごうよわくなる。もしくはコア酵素こうそから解離かいりして伸長しんちょうへの移行いこうそなえる。ダーストらは、連結れんけつくさり欠損けっそんしたσしぐま因子いんしでアボーティブ転写てんしゃ産物さんぶつ多量たりょう生産せいさんされないことを確認かくにんした[26]。アボーティブ転写てんしゃ産物さんぶつσしぐま因子いんし活性かっせい部位ぶい存在そんざいするための副産物ふくさんぶつであると推測すいそくされる。伸長しんちょういしずえとなるみじかいDNAを結合けつごうさせるためσしぐま因子いんし活性かっせい部位ぶい接近せっきんすることで、必然ひつぜんてき連結れんけつくさり出口でぐちふさいでいるとかんがえられる[26]

真正しんしょう細菌さいきんのホロ酵素こうそ-DNAふく合体がったい[編集へんしゅう]

T. aquaticus のRNAポリメラーゼ伸長しんちょうふく合体がったい。DNAはあお、RNAはあか活性かっせい部位ぶいにあるマグネシウムイオン黄色おうしょくしめす。

ホロ酵素こうそとDNAによって形成けいせいされるふく合体がったいは、転写てんしゃ状態じょうたいであるためRFふく合体がったい (replicative form complex、RFは複製ふくせいがた) とばれる。ダーストらは下図したずフォークジャンクションDNAT. aquaticus のDNAポリメラーゼホロ酵素こうそ結合けつごうさせた、RFふく合体がったい作成さくせいした。このDNAは、-35ボックスふくむほとんどがほんくさりだが、-10ボックスなか鋳型いがたくさり[注釈ちゅうしゃく 5]に-11からはじまる一本いっぽんくさり突出とっしゅつ部分ぶぶんつ。これは開放かいほうがたふく合体がったいにおける状態じょうたい模倣もほうしたものである (くわしくは#真正しんしょう細菌さいきんβべーたサブユニット)。

RFふく合体がったい立体りったい構造こうぞうから、様々さまざま事実じじつ判明はんめいした。ホロ酵素こうそ結合けつごうするDNAはσしぐまサブユニットがある場所ばしょ横切よこぎる。大腸菌だいちょうきんプロモーターにおいては、-12塩基えんきσしぐま70因子いんし領域りょういき2.4のGln437およびThr440と相互そうご作用さようしている。T. aquaticusσしぐまAで2つのアミノ酸あみのさんはGln260とAsn263とに相当そうとうする。

Trp256は-10ボックス直前ちょくぜんの-12非常ひじょうちかい。T. aquaticus σしぐまAPhe248、Tyr253、Trp256や大腸菌だいちょうきんσしぐま70における一部いちぶの3 芳香ほうこうぞくアミノ酸あみのさん高度こうど保存ほぞんされている。これらは開放かいほうがたふく合体がったいの-10ボックスの鋳型いがたくさり結合けつごうすることで、プロモーターの融解ゆうかい関与かんよすると予測よそくされる。観察かんさつされたTrp256の位置いちから-11塩基えんきたいわりとなり、融解ゆうかい促進そくしんする可能かのうせいたかい。

σしぐま領域りょういき2.2と2.3における2つの保存ほぞんされた塩基えんきせいアミノ酸あみのさん(Arg237とLys241)が しずかでん相互そうご作用さよう結合けつごうしていることが観察かんさつされた。しかし、領域りょういき4.2のざんもと35ボックス結合けつごうしていない。ダーストらは、RFふく合体がったい結晶けっしょうさいに、-35ボックスが領域りょういき4.2にたいする正常せいじょう位置いちからされてしまったと結論けつろんけた[27]。ダーストらは自身じしん撮影さつえいしたRFふく合体がったい構造こうぞうやその証拠しょうこから以下いか仮説かせつ提唱ていしょうした[27]。DNAの上流じょうりゅうほんくさりDNAががることによって、DNaseⅠ標的ひょうてき部位ぶいしょうじる。一方いっぽう下流かりゅう領域りょういきではじゅうらせんが融解ゆうかいする。こうして閉鎖へいさがたから開放かいほうがたへとふく合体がったい移行いこうする。開放かいほうがたふく合体がったいでのDNAやかくタンパク質たんぱくしつ相互そうご作用さよう立体りったいてき解析かいせきされた。-10ボックスがβべーたβべーた‘サブユニットのあいだ融解ゆうかいするが、これはβべーたかじがた構造こうぞうによって維持いじされる。この構造こうぞうβべーた’サブユニットの表面ひょうめんから隣接りんせつするβべーたサブユニットにけて、また分離ぶんりした2つのDNAくさり間隙かんげきす。これによって、DNAのさい会合かいごう阻止そしされる。

活性かっせい部位ぶいには2つのMg+が3つのアスパラギンさんによってささえられる。

             鋳型いがたくさり
  -40        -30        -20       -10
5' GGCCGC|TTGACA|AAAGTGTTAAATTG|TG|C|TATACT 3'
3' CCGGCG|AACTGT|TTTCACAATTTAAC|AC|G|A      5'
        -35ボックス      ↑ -10ボックス
                         拡張かくちょうした-10ボックス
             鋳型いがたくさり
:RFふく合体がったい作成さくせい使用しようしたDNA

すくなくとも開放かいほうがたふく合体がったいになった時点じてんで、ホロ酵素こうそには内部ないぶつうじる5つの通路つうろがある[21]NTP通路つうろ基質きしつであるリボヌクレオチドを触媒しょくばい活性かっせい中心ちゅうしんむかれる。RNA出口でぐち通路つうろ伸長しんちょう段階だんかい合成ごうせいしたRNAくさり部分ぶぶんすためにある。ほかの3つの通路つうろはDNAが出入でいりするために使つかう。下流かりゅうのDNAは下流かりゅうDNAよう通路つうろからじゅうらせんのまま活性かっせい中心ちゅうしんみぞはいる。そこでDNAは+3から2ほん一本いっぽんくさりかれる[28]鋳型いがたくさり鋳型いがたくさりよう通路つうろ(NT通路つうろ)をけてホロ酵素こうそ表面ひょうめん沿ってすすむ。一方いっぽう鋳型いがたくさり触媒しょくばい活性かっせいみぞすすみ、鋳型いがたくさりよう通路つうろ(T通路つうろ)からそとる。2つの一本いっぽんくさりはホロ酵素こうそ後方こうほうにある上流じょうりゅうDNAの-11の位置いちじゅうらせんにもど[28]

かく生物せいぶつのRNAポリメラーゼ[編集へんしゅう]

αあるふぁ-アマニチン(あか)が結合けつごうしたかく生物せいぶつのRNAポリメラーゼII。このどくはmRNA合成ごうせい阻害そがいする。

かく生物せいぶつにはRNAポリメラーゼIIIIIIといった3種類しゅるいのRNAポリメラーゼがある。1969ねんロバート・ローダー (Robert Roeder) とウィリアム・ラター William Rutter が発見はっけんした[29]。3つは合成ごうせいするRNAがことなり、RNAポリメラーゼⅠはrRNA前駆ぜんくたい合成ごうせいする。RNAポリメラーゼIIは、タンパク質たんぱくしつをコードするmRNAのほか、いまだなぞおおヘテロかくないRNA (heterogeneous nuclear RNA, hnRNA) やだい部分ぶぶんかくないてい分子ぶんしRNA (small nuclear RNA, snRNA) を合成ごうせいする。hnRNAとsnRNAは成熟せいじゅくmRNA合成ごうせいかかわる。RNAポリメラーゼIIIはtRNAや5S rRNA、前述ぜんじゅつとはべつのいくつかのsnRNAの前駆ぜんくたいになう。また、細胞さいぼうない分布ぶんぷべつで、RNAポリメラーゼIはかく小体こていにだけ、IIとIIIが核質かくしつにだけ存在そんざいする。

細菌さいきん開始かいし因子いんしが1つ (σしぐま因子いんし) だけだったが、かく生物せいぶつでは複数ふくすう基本きほん転写てんしゃ因子いんし (general transcription factor, GTF) を必要ひつようとする。しかし、実際じっさいにはヌクレオソームがあるためさらにDNA結合けつごう調節ちょうせつタンパク、いわゆる介在かいざいふく合体がったい、ヌクレオソーム修飾しゅうしょく酵素こうそをはじめとしたいくつかのタンパク質たんぱくしつ必要ひつようとする[30]

RNAポリメラーゼIIのサブユニット[編集へんしゅう]

RNAポリメラーゼIIのサブユニット構成こうせいは、1971ねんピエール・シャンボン (Pierre Chambon) らとラターらのグループから独立どくりつ報告ほうこくされた[31]。このとき不完全ふかんぜんだったが、1975ねんマウス由来ゆらいすべてのRNAポリメラーゼから、ローダーらがほぼ完全かんぜん情報じょうほうあきらかにした[31]現在げんざいではぜん3しゅのサブユニットについて正確せいかく判明はんめいしている。

ヒト酵母こうぼにおけるポリメラーゼIIの12のサブユニットについてしたひょうにまとめた。これらは各々おのおの単独たんどく遺伝子いでんしにコードされている。かくサブユニットの名前なまえはその遺伝子いでんし名前なまえ由来ゆらいする。RPBという名称めいしょうは、シャンボンがもちいたRNAポリメラーゼB (すなわちII) というにちなむ。

リチャード・ヤング (Richard Young) はエピトープタグほう同定どうていした10のサブユニットを3つに分類ぶんるいした[31]真正しんしょう細菌さいきんのRNAポリメラーゼコア酵素こうそ構造こうぞう機能きのうともに類似るいじするコアサブユニットすくなくとも酵母こうぼでは3種類しゅるいかくないRNAポリメラーゼすべてにある共通きょうつうサブユニット (common subunits)、かならずしも酵素こうそ活性かっせいにいつも必要ひつようではない必須ひっすサブユニットの3つである。

電気でんきおよげどう結果けっかから、Rpb1サブユニットには215 kDのIIaと240 kDと測定そくていされたIIoの2つの形態けいたい存在そんざいする。IIaのC末端まったんにはCTD (carboxyl-terminal domain) とばれる、7アミノ酸あみのさんheptad)から共通きょうつう配列はいれつ Tyr-Ser-Pro-Thr-Ser-Pro-Ser反復はんぷくした配列はいれつがある。IIoはCTDのヒドロキシもとったアミノ酸あみのさん(セリン、スレオニン、チロシン)がリン酸化さんかしたものである。しかし、哺乳類ほにゅうるいのhaptadは52かい反復はんぷくするが、これがすべてリン酸化さんかしたとしてもIIaとIIo分子ぶんしりょうめることはできない。実際じっさい分子ぶんしりょうおおきくえるよう、およげどうおそくなるよう、リン酸化さんか立体りったい構造こうぞう変化へんかこすとかんがえられている。ことなるRpb1サブユニットを所有しょゆうするRNAポリメラーゼIIをそれぞれRNAポリメラーゼIIA (RNA polymerase IIA) およびRNAポリメラーゼIIO (RNA polymerase IIO) と区別くべつする。前者ぜんしゃプロモーター最初さいしょ結合けつごうするときの形態けいたいで、後者こうしゃ伸長しんちょう反応はんのうおこなう。

ヒトと酵母こうぼにおけるRNAポリメラーゼIIのサブユニット[32]
サブユニット 酵母こうぼ遺伝子いでんし 酵母こうぼタンパク質たんぱくしつモル質量しつりょう(kD) 特徴とくちょう
hRPB1 RPb1 192 コアサブユニット。CTDをふくみ、DNAと結合けつごうする。プロモーターの選別せんべつ関与かんよβべーた’とあいどう
hRPB2 RPb2 139 活性かっせい部位ぶいふくむコアサブユニット。プロモーターの認識にんしき伸長しんちょう速度そくど関与かんよβべーた’にあいどう
hRPB3 RPb3 35 コアサブユニット。原核げんかく生物せいぶつαあるふぁサブユニットとあいどうで、Rpb11と機能きのうする可能かのうせいあり。
hRPB4 RPb4 25 必須ひっすサブユニット。Rpb7とふく合体がったい形成けいせいし、ストレス応答おうとう関与かんよする。
hRPB5 RPb5 25 共通きょうつうサブユニット。転写てんしゃアクチベーター標的ひょうてき
hRPB6 RPb6 18 共通きょうつうサブユニット。ふく合体がったい形成けいせい安定あんてい寄与きよ
hRPB7 RPb7 19 定常ていじょうのRpb4とふく合体がったい形成けいせい
hRPB8 RPb8 17 共通きょうつうサブユニット。オリゴヌクレオチドオリゴとう結合けつごうドメイン
hRPB9 RPb9 14 伸長しんちょう関与かんよする可能かのうせいがあるZnリボンモチーフふくむ。プロモーターを認識にんしき
hRPB10 RPb10 8 共通きょうつうサブユニット。
hRPB11 RPb11 14 原核げんかく生物せいぶつαあるふぁサブユニットとあいどうで、Rpb3と機能きのうする可能かのうせいあり。
hRPB12 RPb12 8 共通きょうつうサブユニット。

RNAポリメラーゼIIの立体りったい構造こうぞう[編集へんしゅう]

ロジャー・コーンバーグらは2001ねんXせん構造こうぞう解析かいせき結果けっか発表はっぴょうした[33]。RNAポリメラーゼIIの結晶けっしょうむずかしく、撮影さつえいもちいたのはRpb4とRpb7をいた酵母こうぼ変異へんいかぶのもの(polII Δでるた4/7)だった。これは転写てんしゃ開始かいしできないが、伸長しんちょう反応はんのう問題もんだいなくできる。

全体ぜんたい構造こうぞう巨大きょだいあごのようで、酸性さんせいのDNAをくわえるふかみぞがある。このためのこりの酵素こうそ表面ひょうめん酸性さんせいであるのにたいし、みぞには塩基えんきせいざんもとならぶ。上顎じょうがくはRpb1とRpb9、しもあごはRpb5である。そこ触媒しょくばい活性かっせい中心ちゅうしんには2Mg2+があり、コーンバーグらはメタルA (metal A) とメタルB (metal B) に区別くべつした[34]。メタルAはRpb1のD481、D483、D485といった3アスパラギンさん強固きょうこ結合けつごうしている。一方いっぽう、メタルBはRpb1のD481、Rpb2のE836とD837にかこまれているものの、はい結合けつごうするには距離きょりがある。触媒しょくばい反応はんのう過程かていでこれら酸性さんせいアミノ酸あみのさんちかづくとかんがえられる。メタルBは基質きしつのリボヌクレオチドさんリンさん結合けつごうする。

真正しんしょう細菌さいきん同様どうよう、RNAポリメラーゼIIにもポア1 (pore 1) という、合成ごうせいしたRNAを出口でぐち存在そんざいする。漏斗ろうとじょうのポア1外縁がいえんには、てきたRNAを切断せつだんするTFIIS結合けつごうするアミノ酸あみのさんなら[34]一方いっぽうくちは14 Åにもおよクランプモジュール (clamp module) が回転かいてんすることによって開閉かいへいされる[35]。プロモーターは酵素こうそ表面ひょうめんでほどかれ、相補そうほくさりそとのこして鋳型いがたくさりみぞなか誘導ゆうどうされる。

RNAポリメラーゼIIの伸長しんちょうふく合体がったい[編集へんしゅう]

コーンバーグらはDNAと合成ごうせいしたRNA両方りょうほう結合けつごうしたRNAポリメラーゼIIの撮影さつえいにも成功せいこうした[35]単独たんどくでクランプモジュールはひらいてそとから活性かっせい中心ちゅうしんちかづけたが、伸長しんちょうふく合体がったいのクランプモジュールはじ、鋳型いがたくさり転写てんしゃ産物さんぶつおお[36]後述こうじゅつするように、転写てんしゃちゅうのDNAは内部ないぶがらなければならない。しかし、転写てんしゃ開始かいしするまえのDNAは比較的ひかくてき強固きょうこなまっすぐな構造こうぞうをしている[37]最初さいしょにDNAをれるときはひらいているが、途中とちゅうからDNAが酵素こうそからはなれないようにじるのである。メタルAは、最近さいきん付加ふかされた2つのリボヌクレオチドあいだリンさん結合けつごうできる位置いちにある[36]活性かっせい中心ちゅうしんちかくにはみぞにまたがったブリッジヘリックス (bridge helix) が観察かんさつされる。まっすぐにびた状態じょうたいでは基質きしつのリボヌクレオチドさんリンさんれるようポア1はひらいている。一方いっぽうで、Thr831とAla832の付近ふきんがる状態じょうたいもあり、活性かっせい中心ちゅうしんざされる[36]

内部ないぶのDNAは入口いりくちところでそのさきにあるかべのために無理むりやりげられる。酵素こうそ表面ひょうめんでほどかれた鋳型いがたくさりはRNAとじゅうらせん形成けいせいするが、このながさはラダー (rudder, かじ) とばれるタンパク質たんぱくしつ障害しょうがいぶつとなり9bpに制限せいげんされる[37]。それ以上いじょう付加ふかされると、塩基えんきたい形成けいせいしている最後さいごのリボヌクレオチドがDNAからはなれ、RNAの出口でぐちからす。DNAもべつ出口でぐち脱出だっしゅつし、鋳型いがたくさり鋳型いがたくさりじゅうらせんにもどる。RNAポリメラーゼの進路しんろ、DNAの下流かりゅうまえとするなら、うしろのかべからうえにRNA・DNA出口でぐちが、したにポア1がひらいている[37]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ 「ポリメラーゼ」は、より英語えいご発音はつおんちかい「ポリメレース」と表記ひょうきされることもある。
  2. ^ a b c d タンパク質たんぱくしつ様々さまざま立体りったい構造こうぞうをとっているが、本来ほんらいアミノ酸あみのさんくさりのようにつながったちょくくさりじょう高分子こうぶんしである。このちょくくさり末端まったんざんもとアミノもと酢酸さくさんかでそれぞれN末端まったん、C末端まったん区別くべつする。RNAポリメラーゼおよびDNAポリメラーゼの酵素こうそ活性かっせい、すなわち転写てんしゃとDNA複製ふくせいはN末端まったんからC末端まったんへとすすむ。したがって、タンパク質たんぱくしつアミノ酸あみのさん構成こうせいしめすとき、N末端まったんひだり順番じゅんばんアミノ酸あみのさんならべる。このなか特定とくていアミノ酸あみのさん位置いちおよび区間くかんはN末端まったんからかぞえた番号ばんごうしめす。
  3. ^ a b c d 転写てんしゃ開始かいし伸長しんちょう終了しゅうりょうの3段階だんかいからなる。開始かいし段階だんかいでは、RNAポリメラーゼがホロ酵素こうそ形成けいせいしてDNAのプロモーター結合けつごうする。はじめ、DNAはじゅうらせんを形成けいせいしたままで、このときのホロ酵素こうそ閉鎖へいさがたふく合体がったいぶ。そのじゅうらせんはほどかれ、開放かいほうがたふく合体がったいになる。アボーティブ転写てんしゃ産物さんぶつすうヌクレオチドのRNAが合成ごうせいされる。伸長しんちょう段階だんかいはいって遺伝子いでんし本格ほんかくてき転写てんしゃされる。
  4. ^ a b 転写てんしゃ開始かいし段階だんかいにおいて、DNAポリメラーゼがRNA合成ごうせいをできるようにするべく本来ほんらいじゅうらせんであるDNAを一本いっぽんもどす。まず、DNAポリメラーゼはじゅうらせんDNAに結合けつごうしてする。つぎもどしをおこなうが、このときいちほんくさりDNAとホロ酵素こうそとを開放かいほうがたふく合体がったいぶ。
  5. ^ a b DNAはじゅうらせんを形成けいせいしているが、RNAポリメラーゼが転写てんしゃおこなうのはこのうち1ほんである。転写てんしゃされるほうを鋳型いがたくさり、されないほうを鋳型いがたくさりぶ。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ 『ウィーバー 分子生物学ぶんしせいぶつがく』、化学かがく同人どうじん著者ちょしゃ:Robert F. Weaver、監訳かんやくしゃ杉山すぎやまひろし、2008、p136
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  32. ^ the Annual Review of Genetics, Volume 34, 2000 by Annual Reviews
  33. ^ 『ウィーバー 分子生物学ぶんしせいぶつがくだい4はん』、p280
  34. ^ a b 『ウィーバー 分子生物学ぶんしせいぶつがくだい4はん』、p281
  35. ^ a b 『ウィーバー 分子生物学ぶんしせいぶつがくだい4はん』、p282
  36. ^ a b c 『ウィーバー 分子生物学ぶんしせいぶつがくだい4はん』、p283
  37. ^ a b c 『エッセンシャル遺伝子いでんし』、p176

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]