秋元あきもと才ざい加か、“川かわの流ながれ”に導みちびかれて出会であった舞台ぶたいとミュージカルの世界せかい（前編ぜんぺん）

取材しゅざい・文ぶん / 中川なかがわ朋子ともこ

洋楽ようがくとごっこ遊あそびが好すきだった子供こども時代じだい、コンプレックスが芸能げいのう界かいに向むかわせた

──秋元あきもとさんは2006年ねんに18歳さいで芸能げいのう界かいデビューしました。子供こども時代じだいから人前ひとまえでパフォーマンスをすることが好すきだったのですか？

歌うたったり踊おどったりするのが大好だいすきで注目ちゅうもくされたいのに実じつは恥はずかしがり屋や、というひねくれた子供こども時代じだいでした。幼稚園ようちえんの頃ころの発表はっぴょう会かいで、確かくか「シンデレラ」だったかな？ ヒロイン役やくに手てを挙あげたのになれなくて、子こブタ役やくをやりました。でも当時とうじはすごく自信じしんがあって、堂々どうどうと演えんじたのを覚おぼえています（笑）。

──歌うたやダンスを習ならったことはあったのでしょうか。

あまり裕福ゆうふくな家いえではなかったので、ありませんでした。でも家いえではずっといろいろなジャンルの海外かいがいアーティストの曲きょくがかかっていて、マライア・キャリーさんやマイケル・ジャクソンさん、サイモン＆ガーファンクルさんとかを聴きいていました。親おやがいないときは、CDプレイヤーで曲きょくをかけて大声おおごえで歌うたって。私わたしの親おやには変へんなこだわりがあって、「洋楽ようがくは何なにを聴きいてもいいけど、邦楽ほうがくは美空みそらひばりさんだけOK」というルールがありました。あの頃ころは隠かくれてJ-POPも聴きいていましたけど、親おやには自分じぶんたちが考かんがえる“本物ほんもの”に触ふれてほしいという気持きもちがあったのかもしれないですね。

──芸能げいのう界かいを目指めざしたのはなぜなのでしょう。

昔むかしからいろいろな人ひとに成なり切きることが好すきだったんです。1人ひとり遊あそびが得意とくいで、小学校しょうがっこうから下校げこう中ちゅうはキャラクター設定せっていを決きめて「今日きょうは泥棒どろぼうに追おわれているつもりで」とか考かんがえながら帰かえっていました。国語こくごの授業じゅぎょうでは、そのキャラクターになったつもりで一生懸命いっしょうけんめい音読おんどくして。それで小学しょうがく5年ねんか6年生ねんせいくらいのとき「歌うたうのも好すきだし、歌うたったり演えんじたりできる仕事しごとをしたい」とぼんやり考かんがえ始はじめて。テレビで「芸能人げいのうじんのお宅たく拝見はいけん！」みたいな番組ばんぐみを観みて、豪邸ごうていに憧あこがれたのもありますけど（笑）。私わたしは父ちちが日本人にっぽんじん、母ははがフィリピン人じんのミックスなので、周まわりの子こよりも体からだが大おおきかったり、見みた目めが違ちがったりしたことで、子供こども時代じだいはいじめられていました。だけど芸能げいのう界かいなら、人ひとと違ちがうことも個性こせいとして肯定こうていされて、コンプレックスだらけの自分じぶんものびのびと生いきられるんじゃないかなと思おもったんです。

──子供こどものときに憧あこがれていたスターは？

マイケル・ジャクソンさんです！ それに祖母そぼと両親りょうしんの影響えいきょうで、美空みそらひばりさんも大好だいすき。私わたしがAKB48のオーディションを受うけようと思おもった理由りゆうは、秋元あきもと康やすし先生せんせいが「川かわの流ながれのように」を作詞さくししていたから。「そんな方ほうならきっと大丈夫だいじょうぶ！」と思おもったんです。

エンタテインメントの基準きじゅんはMJ、アイドル活動かつどうと舞台ぶたいの両立りょうりつに悩なやむ日々ひび

──秋元あきもとさんは2006年ねん、高校こうこう2年生ねんせいのときにAKB48のオーディションに合格ごうかくしました。合格ごうかく後ご1カ月かげつでAKB48劇場げきじょうデビューを果はたし、初はじめてお仕事しごととしてパフォーマンスをしてどのようなお気持きもちでしたか？

パニックで全然ぜんぜん覚おぼえてない（笑）。でもデビューしたその日ひに、意識いしきの変化へんかを感かんじました。人前ひとまえに立たつとはこういうことかと実感じっかんしたし、ステージの持もつ素晴すばらしさと恐怖きょうふの両方りょうほうを知しりましたね。自分じぶんには全然ぜんぜん技術ぎじゅつがありませんでしたが、お金かねをもらった時点じてんで「これだけのパフォーマンスをお客様きゃくさまにお返かえしできるか？」という意識いしきが芽生めばえて。そのときに、昔むかしの何なんでもなかった自分じぶんと決別けつべつした感覚かんかくになりました。

──初はつのステージが、明確めいかくな転機てんきになったのですね。

唯一ゆいいつ、「芸能げいのう界かいに入はいらなかったときのほうが楽たのしかったな」と感かんじることがあって……それは、ライブや観劇かんげきに行いくと、つい舞台ぶたいに立たつ側がわの目線めせんでいろいろ考かんがえてしまうことなんです。何なにを観みても「こういうお客様きゃくさまがいらっしゃるのか」とか「音響おんきょうこうなってるんだ」とか考かんがえちゃう。私わたしが人生じんせいで初はじめて観みたライブは小学しょうがく5年生ねんせいのとき、マイケル・ジャクソンの東京とうきょうドーム公演こうえんでした。思おもえば何なにも知しらなかったときのあのライブが一番いちばん楽たのしかった（笑）。マイケルのパフォーマンスは、今いまでも私わたしがエンタテインメントを観みる基準きじゅんになっています。

──2008年ねんには演劇えんげき集団しゅうだんアーバンフォレスト「おいしいタイミング」で初はじめて演劇えんげきの初舞台はつぶたいを踏ふみます。

AKB48のメンバーたちと一緒いっしょにゲスト出演しゅつえんしました。忙いそがしくて当時とうじのことはよく覚おぼえていませんが（笑）、自前じまえの衣装いしょうを用意よういするよう言いわれて驚おどろいた記憶きおくがあります。私わたしたちにはAKB48の制服せいふくの衣装いしょうがあるのが当あたり前まえでしたが、そのときに、演劇えんげきにも大だい規模きぼなものから小ちいさなものまでいろいろあると知しりましたね。

──2009年ねんにはAKB歌劇かげき団だん「∞・Infinity」で初はじめてのミュージカルを経験けいけんされました。初はつのミュージカル出演しゅつえんを通とおして、ご自身じしんの中なかで変化へんかはありましたか？

「∞・Infinity」はAKB48の楽曲がっきょくを集あつめた作品さくひんだったので、いわゆるミュージカルとはちょっと違ちがう感かんじかもしれませんが、いつもは大だい人数にんずうで分担ぶんたんしていた曲きょくを1人ひとりで歌うたったのを覚おぼえています。観客かんきゃくの多おおくはAKBファンの方ほうでしたが、AKB歌劇かげき団だんに興味きょうみを持もってくださった舞台ぶたいファンの方ほうも観劇かんげきしてくださって。私わたしはこの作品さくひんで「自分じぶんにはまだまだ実力じつりょくがない」「何なにか技術ぎじゅつを身みに付つけないと、半端はんぱな気持きもちじゃミュージカルや舞台ぶたいはできない」と確信かくしんしました。あの頃ころはAKBのライブを日々ひびやりながら、ほかのお仕事しごともしていて。外部がいぶの舞台ぶたいでは舞台ぶたい1本ほんでやられている方ほうとご一緒いっしょしながら、自分じぶんはライブのためにお稽古けいこを休やすむことが頻繁ひんぱんにあって。仕方しかたないことですが、特とくに舞台ぶたいはのどにも負担ふたんがかかりますし、「AKBとそれ以外いがいの活動かつどうは両立りょうりつできないかも」と思おもい始はじめていました。

舞台ぶたいは人間にんげんとして、生いき物ものとして輝かがやける場所ばしょ

──2013年ねんには「女優じょゆうを目指めざしていきたい」とAKB48を卒業そつぎょうされました。

卒業そつぎょうのときは「いつか演技えんぎのお仕事しごとを中心ちゅうしんにできたら」と思おもっていました。ただ“アイドル”ではなくなったあと、どういう肩書かたがきで活動かつどうしたら良よいかわからなくて。実じつは当時とうじは「“役者やくしゃ”を名乗なのってがんばりたい」という気持きもちもあったんです。でもアイドルグループを卒業そつぎょうしたばかりで“役者やくしゃ”や“俳優はいゆう”を掲かかげることにためらいがありましたし、キャリアを積つんだうえで、観みてくださる方ほうに「この子こは役者やくしゃだね」と思おもってもらえて初はじめて“役者やくしゃ”を名乗なのりれるんじゃないかと考かんがえていました。だけど今いまは、自分じぶんがそう思おもうならどんな肩書かたがきでも名乗なのればいいと思おもっています。

──秋元あきもとさんはAKB時代じだいから今いまに至いたるまで、翻訳ほんやくミュージカルから三谷幸喜みたにこうきさんの作品さくひんまでさまざまな舞台ぶたいに出演しゅつえんされています。今後こんごも舞台ぶたいをやろうと思おもったきっかけがあれば教おしえてください。

私わたし、自分じぶんがあるようでなくて……秋元あきもと康やすし先生せんせいにも、「お前まえは“川かわの流ながれ”に沿そっていけば、自分じぶんに合あう道みちに誰だれかが導みちびいてくれるはず。だから最初さいしょは全部ぜんぶトライしてみろ」と言いわれたんです。昔むかしは何なにも知しらなかったから「とにかく映像えいぞうに出でたい」と考かんがえていて。でもAKB48劇場げきじょうのライブに来きてくださった舞台ぶたい関係かんけい者しゃの方ほうが、私わたしに舞台ぶたいのお仕事しごとをくださいました。それでいくつかの舞台ぶたいに出でるうちに、コツコツ鍛錬たんれんして作つくり上あげる舞台ぶたいの良よさを知しり、「もっとやりたい。舞台ぶたいが好すきだな」と思おもうようになって。私わたしはAKBでいつも“センター”にいたわけではありませんでした。でも舞台ぶたいでは、端はしにいる人ひとでも輝かがやいて見みえる瞬間しゅんかんがある。私わたしはその人ひとの“人間にんげん”が全部ぜんぶ出でるのが舞台ぶたいだと思おもっています。だから「舞台ぶたいで輝かがやいている」と言いわれるのが一番いちばんうれしい。私わたしも人間にんげんとして、生いき物ものとして輝かがやけているのかなって。

「ゴースト」で味あじわった悔くやしさが、歌うたと向むき合あうきっかけになった

──秋元あきもとさんがこれまでに経験けいけんされてきたミュージカルで、特とくに印象いんしょうに残のこっている作品さくひんはありますか？

パッと浮うかぶのは、2013年ねんの「ロックオペラ モーツァルト」。山本やまもと耕史こうじくんと中川なかがわ晃あきら教きょうさんがモーツァルトとサリエリを交互こうごに演えんじ、私わたしはコンスタンツェ役やくで、演出えんしゅつはフィリップ・マッキンリーさんでした。耕史こうじくんに「般若はんにゃみたいな顔かおで演出えんしゅつ家かの話はなしを聞きいていたよね。その表情ひょうじょうで演出えんしゅつ家かの話はなしを聞きく役者やくしゃ、いないよ」と言いわれたのを覚おぼえています（笑）。AKBの活動かつどうが忙いそがしく、あまり稽古けいこに出でられないという負おい目めもあったんでしょうか。慣なれない舞台ぶたいで戸惑とまどっていた部分ぶぶんもあったんだと思おもいます。いろいろなことが目めまぐるしくて、ついていくのに必死ひっしでした。それから、2018年ねんの「ゴースト」も印象いんしょうに残のこっています。私わたしは子供こどものときから歌うたが大好だいすきでしたが、人ひとに評価ひょうかされることを考かんがえて歌うたっていたわけではありませんでした。だからデビューしてから、人前ひとまえで歌うたうことに怖こわさやコンプレックスを感かんじるようになった。それで「苦手にがて意識いしきを克服こくふくできたら」という思おもいもあって、「ゴースト」のオーディションを受うけました。でも出演しゅつえんが決きまってからすごく苦戦くせんしたのを覚おぼえています。

──秋元あきもとさんが「ゴースト」で演えんじたモリーが歌うたう楽曲がっきょく群ぐんは、音域おんいきが広ひろくてロングトーンも多おおく、とても難むずかしそうです。

当時とうじはあまり知識ちしきがなく、どこまで歌うたえるのか自分じぶんの限界げんかいをわかっていませんでした。「ゴースト」は、オーディションで「歌うたえます。いけます。練習れんしゅうします！」と言いってたら合格ごうかくしてしまった（笑）。だから決きまってからが本当ほんとうに大変たいへんで。ただ、出演しゅつえんのチャンスをくれた方々かたがたには本当ほんとうに感謝かんしゃしています。私わたしはいろいろなジャンルのお仕事しごとをしていますが、急きゅうに“舞台ぶたいに立たてる体からだ”に切きり替かえることはできません。「ゴースト」をきっかけにボイストレーニングを本格ほんかく的てきに始はじめました。いつでも舞台ぶたいに立たてる心身しんしんを、日々ひびの生活せいかつから作つくろうと思おもったんです。「ゴースト」のあとには三谷幸喜みたにこうきさんの「日本にっぽんの歴史れきし」初演しょえんも控ひかえていましたし、そこからは「歌うたうことに本気ほんきで向むき合あおう！」と決きめた1年ねんになりましたね。

前編ぜんぺんでは芸能げいのう界かいを目指めざした理由りゆう、舞台ぶたいやミュージカルとの出会であい、アイドル活動かつどうとほかの仕事しごとを両立りょうりつさせることの葛藤かっとうについて語かたってもらった。後編こうへんでは「日本にっぽんの歴史れきし」を中心ちゅうしんに、同どう作さくの初演しょえんの思おもい出で、ミュージカルにおける音楽おんがくの魅力みりょく、俳優はいゆうとしての今後こんごの目標もくひょうなどを聞きく。

プロフィール

1988年ねん、千葉ちば県けん出身しゅっしん。2013年ねんまでAKB48のメンバーとして活動かつどうした。多数たすうのバラエティ番組ばんぐみや映像えいぞう作品さくひんで活躍かつやくし、映画えいが「山猫やまねこは眠ねむらない8 暗殺あんさつ者しゃの終幕しゅうまく」ではハリウッドデビューを果はたす。また舞台ぶたい出演しゅつえんも続つづけており、主おもな出演しゅつえん作さくに三谷幸喜みたにこうき作さく・演出えんしゅつの「国民こくみんの映画えいが」や、「にんじん」「ゴースト」といったミュージカルがあるほか、“即興そっきょうミュージカル”を作つくる無む観客かんきゃく配信はいしん公演こうえん「あなたと作つくる～etude The 美び4」、オンライン演劇えんげき「スーパーフラットライフ」などにも参加さんかした。近年きんねんではテレビ東京てれびとうきょう系けいの「アイカツプラネット！」に出演しゅつえん。同おなじくテレビ東京とうきょう系けいのドラマparavi「にぶんのいち夫婦ふうふ」が放送ほうそう中ちゅうだ。