小ちいさな異変いへんからだった。

　千葉ちば県けんに住すんでいた張ちょう香理かおり（チャンヒャンリ）さん（52）は大学だいがくを卒業そつぎょうしたばかりの23歳さいで結婚けっこん。25歳さいで第だい1子しの長男ちょうなんを出産しゅっさんした。

　ニコニコとよく笑わらう赤あかちゃんだった。成長せいちょうするにつれて、少すこしずつ気きになることが増ふえていった。半年はんとしが経たっても首くびがすわらず、寝返ねがえりも打うたない。足あしをバタバタと動うごかすこともなかった。

　香理かおりさんは、顔かおをじっと見みつめた。「どこかで、成長せいちょうが遅おくれちゃったのかなあ」。生後せいご1カ月かげつや半年はんとしの定期ていき健診けんしんでは、病気びょうきや異常いじょうは見みつかっていなかった。

　10カ月かげつの定期ていき検診けんしん。担当たんとう医師いしの様子ようすがおかしい。慌あわてたように、告つげられた。「この子この体からだ、何なにかがあるよ」

抱だっこしてベランダから…

　病院びょういんを次々つぎつぎに移うつり、大おおがかりな検査けんさを重かさねた。1歳さい5カ月かげつの時ときに下くだされた診断しんだんは「脊髄せきずい（せきずい）性せい筋すじ萎縮いしゅく症しょう（SMA）」。生うまれつき遺伝子いでんしに変異へんいがあり、手足てあしが動うごかなくなるなど筋肉きんにくが萎縮いしゅくしていく国くに指定していの難病なんびょうだ。新生児しんせいじ2万まん人にんに1人ひとりが患者かんじゃになるとされ、当時とうじは治療ちりょう方法ほうほうもなかった。

　香理かおりさんは頭あたまが真まっ白しろになった。医師いしから病気びょうきについて説明せつめいを聞きいたとき、とっさに言葉ことばが出でた。「この子こは将来しょうらい、学校がっこうに行いけますか？」

　返かえってきた言葉ことばは残酷ざんこくだった…