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ゐ - Wikipedia

は、日本語にほんご音節おんせつのひとつであり、仮名かめいのひとつである。 元来がんらいは、/wi/(現代げんだい表記ひょうき「ウィ」に相当そうとう)と発音はつおんされた。

平仮名ひらがな
文字もじ
字源じげん ためくさ書体しょたい
JIS X 0213 1-4-80
Unicode U+3090
片仮名かたかな
文字もじ
字源じげん 変形へんけい
JIS X 0213 1-5-80
Unicode U+30F0
言語げんご
言語げんご ja, ain
マ字まじ
ヘボンしき I(WI)
訓令くんれいしき I
JIS X 4063 wyi
アイヌ WI
発音はつおん
IPA i むかしβべーた̞i
種別しゅべつ
おと 清音せいおん

音声おんせい言語げんご

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奈良なら時代じだい

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奈良なら時代じだいには、ヰは /wi/と発音はつおんされ、イは/i/ と発音はつおんされて区別くべつされていた。 漢字かんじおんでは、ごう拗音ようおんの「ク」「グ」という字音じおんがあり、それぞれ [kʷi][ɡʷi]発音はつおんされ、「キ」「ギ」とは区別くべつされていた。

平安へいあん時代じだい

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平安へいあん時代じだいには、まだ「ゐ」と「い」は別個べっこ発音はつおん仮名かめい文字もじとして認識にんしきされていた。11世紀せいき中期ちゅうきから後期こうきごろ成立せいりつかんがえられるいろはうたには、

いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす
いろにおいへど りぬるを だれぞ つねならむ 有為ゆうい奥山おくやま 今日きょうえて あさ夢見ゆめみじ ひもせず)

とあり、アぎょうのイとワぎょうのヰは区別くべつされている。またひろしさとしによる『悉曇しったんようしゅう』(うけたまわ2ねん1075ねん成立せいりつ)には、以下いかのようにヤぎょうのイ、ヤぎょうのエ、ワぎょうのウ、ワぎょうのヲがはぶかれている。

アカサタナハマヤラワいちいん
イキシチニヒミリヰいちいん
ウクスツヌフムユルいちいん
オコソトノホモヨロいちいん
エケセテネヘメレヱいちいん

このことから当時とうじまでの音韻おんいん状態じょうたいは、アぎょうのオとワぎょうのヲおよびアぎょうのイ・エとヤぎょうのイ・エは区別くべつうしな同音どうおんとなっていたが、アぎょうのイとワぎょうのヰは依然いぜんとして区別くべつされていた状態じょうたいだったことがかる。ただしよしみただし2ねん1236ねん)に貫之つらゆき自筆じひつほんよりうつされた系統けいとう写本しゃほんであるあお谿書ほんひだり日記にっき』(原本げんぽんうけたまわひらた5ねん935ねんごろ成立せいりつ)には、「海賊かいぞくむくいせむ」が「かいそくむくゐせむ」と「い」とくべきところが「ゐ」となっている。このように徐々じょじょにヰとイを混同こんどうするれいてきてはいたが、平安へいあん時代じだい中期ちゅうき以前いぜんまではこうした混同こんどうはあまりおおくなかった。

しかし語頭ごとう以外いがいのハぎょうおんがワぎょう発音はつおんされる現象げんしょうぎょうてんよび)が奈良ならから散発さんぱつてきられ、11世紀せいき初頭しょとうにはそれが一般いっぱんしたことにより、かたりちゅう語尾ごびのヒの発音はつおんが /ɸi/ から /wi/ へと変化へんかしヰと同音どうおんになり、仮名かめいにおけるかたりちゅう語尾ごびの「ひ」と「ゐ」の使つかけに動揺どうようられるようになった。さらに12世紀せいきすえには『さんきょうゆびちゅう』(中山法華経寺なかやまほけきょうじぞう院政いんせい末期まっき加点かてん)に「ひきいて」(ゐて)を「イテ」とするれいがあるなど、語頭ごとうでもヰとイを混用こんようするれい散見さんけんするようになる。なお、平安へいあん文献ぶんけんでは漢字かんじおんとして「クヰヤウ」「ヰヤウ」のような特殊とくしゅ表記ひょうきられたが、定着ていちゃくはしなかった。

鎌倉かまくらから室町むろまち時代じだいごろまで

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藤原ふじわら定家さだいえ1162ねん - 1241ねん)は『したかんしゅう』の「いや文字もじごと」で60ほどのかたりれいし、「を・お」「え・へ・ゑ」「ひ・ゐ・い」の仮名遣かなづかいについての基準きじゅんしめした。藤原ふじわら定家さだいえ仮名遣かなづかいは11世紀せいき後半こうはんから12世紀せいきにかけて書写しょしゃされた仮名かめい作品さくひん基準きじゅんとしたものとられるが、「ゐ」と「い」については本来ほんらいは「ひ」である「とげ」(つひ)、「よい」(よひ)が「つゐ」、「よゐ」とされ、歴史れきしてき仮名遣かなづかいで「い」である「い」(おい)が「おひ」や「おゐ」とされるなど、音韻おんいん変化へんかする以前いぜんのものとはことなる表記ひょうき採用さいようされたものもあった。

13世紀せいきなかばにはいるとイとヰは統合とうごうした。ヰが /wi/ から /i/ に変化へんかすることによって、イと合流ごうりゅうしたとかんがえられている。また漢字かんじおんの「ク」「グ」もそれぞれ /ki/ 、/ɡi/ と発音はつおんされるようになり、「キ」「ギ」に合流ごうりゅうした。南北なんぼくあさ時代じだいくだりおもねが『したかんしゅう』をもとに仮名遣かなづかいのれい増補ぞうほした『仮名かめい文字もじ』(1363ねん以降いこう成立せいりつ)をあらわし、以後いごこの『仮名かめい文字もじ』が一般いっぱんに「定家さだいえ仮名遣かなづかい」としてとく和歌わか連歌れんがなど歌道かどう世界せかいひろ使つかわれたが(定家さだいえ仮名遣かなづかいこう参照さんしょう)、それ以外いがい分野ぶんやでは「ゐ」「い」およびちゅう語尾ごびの「ひ」のけについて混用こんようするれいがしばしばられた。16世紀せいき室町むろまち時代ときよ後期こうき)のキリシタン資料しりょうにおけるマ字まじ表記ひょうきでは、ヰとイはいずれも 「i」 、「j」、「y」でしるされており、発音はつおんがいずれも [i] だったことがわかる。

江戸えど時代じだい

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江戸えど時代じだい契沖けいちゅう1640ねん - 1701ねん)は、『万葉集まんようしゅう』、『日本書紀にほんしょき』などの上代じょうだい文献ぶんけん仮名遣かなづかい定家さだいえ仮名遣かなづかいことなることに気付きづき、源順みなもとのしたごうの『和名わみょう類聚るいじゅうしょう』(うけたまわひらた年間ねんかん931ねん - 938ねんころ成立せいりつ以前いぜん文献ぶんけんでは仮名遣かなづかい混乱こんらんられないことを発見はっけんした。そこで、契沖けいちゅうは『和字わじせい濫鈔』(元禄げんろく8ねん1695ねんかん)をあらわし、上代じょうだい文献ぶんけん具体ぐたいれいげながらやく3000仮名遣かなづかいあきらかにし、音韻おんいん変化へんかするまえ上代じょうだい文献ぶんけんもとづく仮名遣かなづかい回帰かいきすることを主張しゅちょうした。またほんきょ宣長のりなが漢字かんじおん仮名遣かなづかい研究けんきゅうし、『字音じおんかりようかく』(安永やすなが5ねん1776ねんかん)で字音仮名遣じおんかなづかい完成かんせいさせたが、このなかごう拗音ようおんのうち直音ちょくおんとの発音はつおん区別くべつ当時とうじまだのこっていた「クヮ」「グヮ」のみをのこし、「ク」「グ」「ク」「グ」はそれぞれ現実げんじつ発音はつおんしたがって直音ちょくおんの「キ」「ギ」「ケ」「ゲ」に統合とうごうさせた。一方いっぽうほんきょ宣長のりながはこのしょなかで、「スヰ」「ズヰ」「ツヰ」「ユヰ」「ルヰ」という字音じおん規定きていした。

明治めいじ以降いこう

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明治めいじ6ねん1873ねん)には契沖けいちゅう仮名遣かなづかい基礎きそに、文献ぶんけん基準きじゅんとした歴史れきしてき仮名遣かなづかいが『小学しょうがく教科書きょうかしょ』に採用さいようされ、これ以降いこう学校がっこう教育きょういくによって普及ふきゅう一般いっぱんひろもちいられた。字音仮名遣じおんかなづかいほんきょせんちょうのものを基本きほんとしたものが使つかわれた。

昭和しょうわ以降いこう

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しかし昭和しょうわ21ねん1946ねん)には表音ひょうおんしき基本きほんとした『現代げんだいかなづかい』が公布こうふされ、現代げんだい発音はつおん反映はんえいした仮名遣かなづかいが採用さいようされた。これにより、歴史れきしてき仮名遣かなづかいにおける「ゐ」はすべて「い」にえられ、たとえば福井ふくいけん福井ふくいの「ふくゐ」は「ふくい」に変更へんこうされるなど「ゐ」は一般いっぱんには使つかわれなくなった。現代げんだい仮名遣かなづかいの制定せいてい以降いこうふる資料しりょうもとづく歴史れきしてき仮名遣かなづかいの訂正ていせいすすみ、たとえば「もちいる」はながらく使つかわれてきた「もちひる」ではなく「もちゐる」とするのが適切てきせつであるとのせつや、ほんきょせんちょうさだめた「スヰ」「ズヰ」「ツヰ」「ユヰ」「ルヰ」は適切てきせつでなく「スイ」「ズイ」「ツイ」「ユイ」「ルイ」とすべきとするせつなどが通説つうせつとなるにいた進展しんてんがあった。

文字もじ言語げんご

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  • 万葉仮名まんようがな
    • ヰをあらわすための万葉仮名まんようがなとして「」「」「ため」「いのしし」「いい」「あい」などがもちいられた。イは万葉仮名まんようがなでは「やめ」「」「以」「」「怡」「」「うつり」「こと」などがもちいられ、ヰと混用こんようされることはなかった。
  • 平仮名ひらがな
画像がぞう 文字もじ 字源じげん
  草書そうしょの「ため
画像がぞう 文字もじ 字源じげん
  - 楷書かいしょの「
  楷書かいしょの「
 
「ゐ」の筆順ひつじゅん
 
「ヰ」の筆順ひつじゅん

現代げんだい用法ようほう

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現代げんだい仮名遣かなづかでは、歴史れきしてき仮名遣かなづかいにおける「ゐ」をすべて「い」にえるため、「ゐ」の仮名かめい通常つうじょうもちいられることはない。とく自動車じどうしゃようナンバープレートでは発音はつおんが「い」とおなじであるうえ字形じけいが「」によくているのでもちいられないことになっている。ただし固有名詞こゆうめいしでは井関農機いせきのうきのブランドめい略称りゃくしょう表記ひょうき「ヰセキ」のように、ふるいブランドめい使つかわれていることがある。ニッカウヰスキー代表だいひょうされるように、固有名詞こゆうめいしなどでウイスキー表記ひょうきもちいられることもある。日本にっぽん競馬けいばでは競走きょうそう名前なまえ使用しようできたが(スウヰイスーなど)、1986ねんからは使用しよう不可ふかになっている。また俗語ぞくごてき用法ようほうとして、よゐこ(おわらいコンビ)のようにわざと「い」からえて使つか場合ばあい使用しようされることがある。この場合ばあい歴史れきしてき仮名遣かなづかいで「ゐ」でないものでも「ゐ」にえられることがある(たとえば「い」の「い」は「き」のイ音便いおんびんであるため、歴史れきしてき仮名遣かなづかいでも「い」である)。 現代げんだい「ゐ・ヰ」の文字もじもちいられるさいおおくは「い」と同様どうよう/i/に発音はつおんされ、外国がいこくの「ウィ」のおと転写てんしゃもちいられたときは/wi/と発音はつおんされる。あくだりの「い」と区別くべつする意図いとで(「ゐ」の文字もじ単独たんどくむときなど)ふるおとりて/wi/と発音はつおんされることもある。また、歴史れきしてきにはただしくないが、ぞくにやくだり子音しいん/j/をたてて/ji/とまれることもある。

外国がいこくでの土産物みやげものとうでの日本語にほんご表記ひょうきでは、本来ほんらいでは「」のはずの部分ぶぶんに「ゐ」がしばしば誤用ごようされる。

  

歴史れきしてき仮名遣かなづかいで 「ゐ」がふくまれるかたり

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歴史れきしてき仮名遣かなづかいにもとづいた五十音ごじゅうおんじゅんしめす。以下いかしめしたかたりの「ゐ」は、現代げんだい仮名遣かなづかいではすべて「い」にえる。発音はつおん標準ひょうじゅん東京とうきょう方言ほうげんでは語頭ごとうちゅう語尾ごびかかわらずすべ[i] である。また、漢字かんじおんにおける「ク」「グ」は江戸えど時代じだい以降いこう字音仮名遣じおんかなづかい、および現代げんだい仮名遣かなづかいではそれぞれ「キ」「ギ」にえ、発音はつおん[kʲi][ɡʲi] である。「ヰャウ」は鎌倉かまくら時代じだい以降いこうは「ヤウ」とかれ、現代げんだい仮名遣かなづかいでは「ヨウ」と[joː]発音はつおんする。

紫陽花あじさい(あぢさゐ)、あい(あゐ)、いぬい(いぬゐ)、くらい(くらゐ)、~ぐらい(ぐらゐ)、べに(くれなゐ)、慈姑くわい(くわゐ)、敷居しきい(しきゐ)、芝居しばい(しばゐ)、潮騒しおさい(しほさゐ)、所為しょい(せゐ)、鳥居とりい(とりゐ)、地震じしん(なゐ)、ひきいる(ひきゐる)、まいる(まゐる)、もちいる(もちゐる)、もと(もとゐ)、せき(ゐ)、いの(ゐ)、(ゐ)、きょ(ゐ)、(ゐ)、藺草いぐさ(ゐぐさ)、居丈高いたけだか(ゐたけだか)、田舎いなか(ゐなか)、威張いばる(ゐばる)、井守いもり(ゐもり)、る(ゐる)、ひきいる・はたる(ゐる)

漢字かんじおん

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軌・おにたか・毀・喟・詭・愧・あきらおどけ・麾・燬・虧・瞶・燹(ク)、あに・礦(クャウ)、掴・硅・幗・ひかがみくび・钁(クャク)、危・にせ・馗・逵・跪・匱・ひつ・簣・餽・饋・たかし(グ)、くらいたけしやまと・韋・じょうあまどころとばりえらため・渭・逶・たがえあし・痿・幃・彙・痿・蔚・慰・のし・蝟・ぬきいいまぐろ・鰄(ヰ)、いき・閾(ヰキ)、いく・囿・おう・澳・おき・礇(ヰク)、ひさしおよげ・咏・えい(ヰャウ)、隕・殞(ヰン)

漢音かんおん

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卉・むし・軌・皈・おに・逵・たか・毀・喟・揮・詭・愧・あきら・跪・おどけてる・麾・匱・燬・虧・瞶・徽・燹・ひつ・簣・餽・饋(ク)、ただし・况・きょうきょうかたみ・筺(クャウ)、矍・攫(クャク)、洫(クョク)、危・にせたかしたかし(グ)、囗・かこえたけしかしこやまと・韋・じょうあまどころとばりただおもんみえらため・渭・逶・たがえあし・痿・幃・彙・のこ・痿・蔚・維・慰・のし・蝟・ぬきいいまぐろ・鰄(ヰ)、いく・囿・おくおう・澳・おき・礇(ヰク)、いん・隕・殞・贇(ヰン)

慣用音かんようおん

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痿(ヰ)、ひとしいん・韵・いん(ヰン)

出典しゅってん

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関連かんれん項目こうもく

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