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判例 - Wikipedia

判例はんれい(はんれい、英語えいご: judicial precedents)は、裁判さいばんにおいて具体ぐたいてき事件じけんにおける裁判所さいばんしょしめした法律ほうりつてき判断はんだん日本にっぽんほうにおいてはとく最高裁判所さいこうさいばんしょしめした判断はんだんをいう。これにたいし、下級かきゅうしん判断はんだん実務じつむじょう裁判さいばんれい」とばれ区別くべつされる[1]えいべいほうにおいては裁判所さいばんしょ判断はんだんのうち「レイシオ・デシデンダイ」(ラテン語らてんご: ratio decidendi)として法的ほうてき拘束こうそくりょくゆうするものをいう。

判例はんれい意義いぎ

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概論がいろん

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判例はんれいは、「先例せんれい」としてのおもけがなされ、それ以後いご判決はんけつ拘束こうそくりょくち、影響えいきょうおよぼす。その根拠こんきょとしては、「ほう公平こうへいせい維持いじ」がげられる。つまり、「同類どうるいどう系統けいとう訴訟そしょう事件じけんたいして、裁判官さいばんかんによって判決はんけつことなることは不公平ふこうへいである」というかんがかたである。なお、同類どうるいどう系統けいとう事例じれいたいして同様どうよう判決はんけつかえされてかさなっていくと、その裁判さいばんたいする拘束こうそくりょく一層いっそうつよまり、不文法ふぶんほう一種いっしゅである「判例はんれいほう」を形成けいせいすることになる。

えいべいほう

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えいべいほうくにでは、判例はんれいだいいちてきほうげんとされている。ただし、制定せいていほうだいてきほうげんである。

判例はんれいは、法的ほうてき拘束こうそくりょく (doctrine of stare decisis)をゆうするとされ、成文法せいぶんほうまったく、あるいはほとんどないにもかかわらず、判例はんれいのみでひとつのほう分野ぶんや形成けいせいすることもある。法的ほうてき拘束こうそくりょくについて、英国えいこくでは1898ねん貴族きぞくいん厳格げんかく先例せんれい拘束こうそくせい確立かくりつされ(London Tramways Co., Ltd. v. London County Council [1898] A.C.375事件じけんによる[2])、1966ねん決別けつべつ表明ひょうめいされるまで英語えいごばん先例せんれい拘束こうそくせい原理げんりがとられていたのにたいし、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくにおいては厳格げんかく先例せんれい拘束こうそくせい原理げんり成立せいりつしておらず、比較的ひかくてきゆるやかに判例はんれい変更へんこうみとめられている。

大陸たいりくほう

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大陸たいりくほうくにでは、判例はんれいえいべいほうくにほどの法的ほうてき拘束こうそくりょくがなく、ほうげんひとつでなく、制定せいていほう慣習かんしゅうほうのみがほうげんであるとするのが、伝統でんとうてき理解りかいである。しかし、ほう解釈かいしゃくについて最終さいしゅう判断はんだんゆだねられる最上級さいじょうきゅう裁判所さいばんしょ判例はんれいは、下級かきゅう裁判所さいばんしょにとって拘束こうそくりょくゆうするだけでなく、あらゆる法律ほうりつ実務じつむたいして事実じじつじょう拘束こうそくりょくゆうする。したがって、大陸たいりくほうくににおいても、ひろ意味いみでの判例はんれいほう存在そんざいするとえる。

日本にっぽんにおける判例はんれい

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日本にっぽんにおける判例はんれい射程しゃてい

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日本にっぽんにおける判例はんれいは、その射程しゃてい広狭こうきょうにより、以下いかのように法理ほうり判例はんれい場合ばあい判例はんれいおよび事例じれい判例はんれいの3種類しゅるい分類ぶんるいされる[3]かく判例はんれいがどの類型るいけいぞくするかは、最高裁さいこうさい公式こうしき判例はんれいしゅう判示はんじ事項じこう判例はんれい要旨ようし記載きさいぶりからある程度ていど判断はんだん可能かのうである[4]

  • 法理ほうり判例はんれいとは、一般いっぱんてき法理ほうり判示はんじするものである。
  • 事例じれい判例はんれいとは、当該とうがい事案じあん個別こべつ具体ぐたいてき事情じじょうにおいてのみ適用てきようされる法理ほうり判示はんじするものである。ただし、どの程度ていど事案じあん類似るいじせいがあれば同様どうよう法理ほうり適用てきようされるかはかならずしもあきらかにならない。なお、事例じれい判例はんれい判示はんじ内容ないよう一般いっぱんろんふくまれていたとしても、それが当該とうがい事案じあん解決かいけつするものでないのであればはたろん評価ひょうかされる。
  • 場合ばあい判例はんれいとは、事例じれい判例はんれいよりも抽象ちゅうしょうされた一定いっていの「場合ばあい」において一般いっぱんてき適用てきようされる法理ほうり判示はんじするものであり、法理ほうり判例はんれい事例じれい判例はんれい中間ちゅうかん位置いちするものである。

日本にっぽんにおける判例はんれいほうげんせい

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日本にっぽんにおける判例はんれいほうげんせいについては学説がくせつかれている。

裁判所さいばんしょほうだい10じょうだい3ごうは「憲法けんぽうその法令ほうれい解釈かいしゃく適用てきようについて、意見いけんまえ最高さいこう裁判所さいばんしょのした裁判さいばんはんするとき」はだい法廷ほうてい判断はんだんすることが必要ひつようであるとさだめる。すなわち、現行げんこう制度せいど最高さいこう裁判所さいばんしょ判例はんれいにつきその変更へんこう慎重しんちょう手続てつづきもうけて、容易ようい変更へんこうができないようにしているのである。また、最高裁さいこうさい判例はんれいはんする下級かきゅうしん裁判さいばんがあったときには法令ほうれい解釈かいしゃく違背いはいがあるとしてすことができる。法令ほうれい安定あんていてき解釈かいしゃく事件じけんとおしての事後じごてき法令ほうれい解釈かいしゃく統一とういつはかるためであり、最高さいこう裁判所さいばんしょ判例はんれいには裁判所さいばんしょ判断はんだんたい事実じじつじょうほうげんせいがあるものと解釈かいしゃくされている。

どういち事件じけんについて上級じょうきゅう裁判所さいばんしょくだした判断はんだんは、当該とうがい事件じけんかぎりにおいて下級かきゅう裁判所さいばんしょ拘束こうそくする(裁判所さいばんしょほう4じょう)。これは、日本にっぽんほうじょう判例はんれいまたは裁判さいばんれいゆうする法的ほうてき拘束こうそくりょくいちれいであるが、しんきゅうせい採用さいようされている以上いじょう当然とうぜん帰結きけつであるとされる[5]

ある判決はんけつ最高裁判所さいこうさいばんしょ判例はんれい大日本帝国だいにっぽんていこく憲法けんぽうした大審院だいしんいん高等こうとう裁判所さいばんしょ判例はんれいはんする場合ばあい刑事けいじ訴訟そしょう上告じょうこく理由りゆうとなり(刑事けいじ訴訟そしょうほう405じょう2ごう3ごう)、民事みんじ訴訟そしょう上告じょうこく受理じゅり申立もうしたて理由りゆうとなり(民事みんじ訴訟そしょうほう318じょう1こう[注釈ちゅうしゃく 1]、また許可きょか抗告こうこく事由じゆう民訴みんそほう337じょう2こう[注釈ちゅうしゃく 2]となる。

上級じょうきゅう裁判所さいばんしょは、法令ほうれい解釈かいしゃくあやまりがある場合ばあいげん裁判さいばん破棄はきすることができる(刑訴法けいそほうだい397じょうだい1こうだい2こうだい400じょう民訴みんそほうだい325じょうだい1こうだい337じょうだい5こう)。

日本にっぽんにおける公式こうしき判例はんれいしゅう

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一般いっぱん公式こうしき判例はんれいしゅう登載とうさいする裁判さいばん選択せんたくは、最高さいこう裁判所さいばんしょかれている判例はんれい委員いいんかいでなされる(判例はんれい委員いいんかい規程きていだい1じょうどうだい2じょう)。7にん以下いか裁判官さいばんかん委員いいんとなり、調査官ちょうさかんおよび事務じむ総局そうきょく職員しょくいん幹事かんじとなり、原則げんそくとしてつき1かいひらかれている。そこで、判例はんれいしゅう登載とうさいされることが決定けっていされた判例はんれいについては、幹事かんじ起案きあんした判示はんじ事項じこう判例はんれい要旨ようし参照さんしょう条文じょうぶんなども審議しんぎ決定けっていされる[6]判例はんれい委員いいんかいは、なにかが判例はんれいであるかを公的こうてき決定けっていするものではないが、この判例はんれい委員いいんかい決定けってい重要じゅうようがかりになるとなされている[7]。また判例はんれいしゅう記述きじゅつがなんらかの確定かくていてき事実じじつべたものではないことには注意ちゅういすべきだとされる[注釈ちゅうしゃく 3]

大陸たいりくほうけい訴訟そしょう手続てつづきをとる日本にっぽんでは、判例はんれい法律ほうりつ政令せいれいおなじような価値かちはない。国会こっかいさだめる法律ほうりつ(あるいはより下位かい存在そんざいである条例じょうれい)がほうげんとして採用さいようされることが原則げんそくである。一方いっぽうで、法的ほうてき安定あんていせいほうした平等びょうどうといった要請ようせいから、判例はんれい制定せいていほう慣習かんしゅうほうとはことなるてきなものとしてのほうげんせいみとめるべきであるという有力ゆうりょくせつもある[9]

判例はんれい一覧いちらん

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判例はんれいしゅう判例はんれい一覧いちらん英語えいごばん

カテゴリによる一覧いちらん

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脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ 上告じょうこく受理じゅり申立もうしたては「はら判決はんけつ最高さいこう裁判所さいばんしょ判例はんれい相反あいはんする判断はんだんがある事件じけんその法令ほうれい解釈かいしゃくかんする重要じゅうよう事項じこうふくむものとみとめられる事件じけん」について申立もうしたてがされる。
  2. ^ 高等こうとう裁判所さいばんしょ決定けっていおよ命令めいれいについて「最高さいこう裁判所さいばんしょ判例はんれい相反あいはんする判断はんだんがある場合ばあいその法令ほうれい解釈かいしゃくかんする重要じゅうよう事項じこうふくむとみとめられる場合ばあい」について申立もうしたてがされ、高等こうとう裁判所さいばんしょがこれを許可きょかしたときにすることができる(民訴みんそほう337じょうだい1こうだい2こう)。
  3. ^ 中野なかの次雄つぐお 2002, p. 30によれば、「判例はんれいとそのかた改訂かいていばん)」P.30によれば、「(判例はんれいしゅうの)作成さくせいしゃとしては、その裁判さいばんの「判例はんれい」だとみずかかんがえたものを要旨ようしとしていたわけで、それはたしかに「判例はんれい」を発見はっけんするのに参考さんこうになり、よいがかりにはなる。すくなくとも、索引さくいんてき価値かちがあることは十分じゅうぶんみとめなければならない。しかし、なにが「判例はんれい」かは・・おおいに問題もんだいがあるところで、作成さくせいしゃ判例はんれいだとおもったこととそれがしん判例はんれいだということとはべつである。げん要旨ようしなかには、どうみてもはたろんとしかいえないものをかかげたものもあるし・・まれ過去かこれいではあるが、裁判さいばん理由りゆうとくいちがった要旨ようししめされたことすらないではない・・。判決はんけつ決定けってい要旨ようしとしてかれたものをそのまま「判例はんれい」だとおもうのはきわめて危険きけんで、判例はんれいはあくまで裁判さいばん理由りゆうなかからひと自身じしんあたまられなければならない」のであるという[8]

出典しゅってん

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  1. ^ はた佳秀よしひで 2019, p. 45.
  2. ^ London Street Tramways Co Ltd v London County Council [1898] AC 375”. e-lawsource.co.uk. 2021ねん12月8にち閲覧えつらん
  3. ^ はた佳秀よしひで 2019, pp. 46–47.
  4. ^ はた佳秀よしひで 2019, pp. 52–53.
  5. ^ はた佳秀よしひで 2019, pp. 45–46.
  6. ^ 村林むらばやし隆一りゅういち 2003, p. 81.
  7. ^ 今村いまむらたかし 2009, p. 52, 脚注きゃくちゅう45.
  8. ^ 村林むらばやし 2003, p. 81.
  9. ^ 土屋つちや文昭ふみあき 2011, p. 224, 脚注きゃくちゅう23.
  10. ^ a b 染谷そめや, まさみゆき石川いしかわ, ゆうけい内記ないき, 香子きょうこ海外かいがい法令ほうれい判例はんれい情報じょうほう(<特集とくしゅう>法令ほうれい判例はんれい情報じょうほう)」2001ねんdoi:10.18919/jkg.51.3_156 
  11. ^ 中国ちゅうごく一般いっぱん市民しみん裁判さいばんれい検索けんさく可能かのうしんプラットフォーム公開こうかい”. www.afpbb.com (2024ねん2がつ29にち). 2024ねん7がつ2にち閲覧えつらん

参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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