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細胞呼吸 - Wikipedia

細胞さいぼう呼吸こきゅう(さいぼうこきゅう、英語えいご: Cellular respiration)またはうち呼吸こきゅう(ないこきゅう)は、生物せいぶつにおける呼吸こきゅういち過程かていで、酸素さんそ栄養素えいようそからアデノシンさんリンさん(ATP)として化学かがくエネルギーし、老廃ろうはいぶつ排出はいしゅつする生物せいぶつかく細胞さいぼうこる一連いちれん代謝たいしゃはんおうである[1][2]。また人間にんげんなどがはいなどでおこな呼吸こきゅうそと呼吸こきゅう)とは区別くべつされるが、以下いか呼吸こきゅうしょうする。呼吸こきゅうかかわる反応はんのう異化いか反応はんのうであり、酸素さんそのようなこうエネルギーの結合けつごう解離かいりさせて生成せいせいぶつ安定あんてい結合けつごうえ、エネルギーにえる[3]細胞さいぼう呼吸こきゅう一連いちれん生化学せいかがくてき反応はんのうからっており、細胞さいぼうからの化学かがくエネルギーの放出ほうしゅつによって細胞さいぼう活動かつどう促進そくしんする体内たいないにおける重要じゅうよう反応はんのうの1つとなっている。細胞さいぼう呼吸こきゅう燃焼ねんしょう反応はんのうの1つであるが、エネルギーがゆっくりと放出ほうしゅつされるために生体せいたいないほか燃焼ねんしょう反応はんのうとは明確めいかくことなる反応はんのうとなっている。動植物どうしょくぶつ細胞さいぼう呼吸こきゅうでは、だい部分ぶぶん酸素さんそ分子ぶんし酸化さんかざいとした反応はんのうこり、化学かがくエネルギーを生産せいさんしている[1]。また、とうアミノ酸あみのさん脂肪酸しぼうさんなどの栄養素えいようそからも化学かがくエネルギーが生産せいさんされる。細胞さいぼう使用しようするエネルギーはリンさんもととATP分子ぶんしほか部分ぶぶんとの結合けつごうれて、より安定あんていなアデノシンリンさん(ADP)が形成けいせいされることで放出ほうしゅつされる[4]放出ほうしゅつされたエネルギーはなま合成ごうせい運動うんどう細胞さいぼうまくかいした分子ぶんし輸送ゆそうなどに使つかわれる。狭義きょうぎにはこう呼吸こきゅう(こうきこきゅう)、酸素さんそ呼吸こきゅう(さんそこきゅう)など酸素さんそもちいる呼吸こきゅうとなる。広義こうぎには酸素さんそもちいない嫌気いやけ呼吸こきゅうふくめ、細胞さいぼうおこな異化いか代謝たいしゃけいすべてをすが、狭義きょうぎもちいられる場合ばあいおおい。

こう呼吸こきゅう概略がいりゃく

こう気性きしょう生物せいぶつ誕生たんじょう

編集へんしゅう

酸素さんそ地球ちきゅう誕生たんじょう大気たいきにはいまよりすくない濃度のうどしか存在そんざいしていなかった。しかし、植物しょくぶつのような光合成こうごうせいおこなうものが出現しゅつげんしたことで大気たいきには徐々じょじょ酸素さんそ蓄積ちくせきされた。

本来ほんらい酸素さんそつよ酸化さんかちからをもったどくせいつよ気体きたいである。しかし、一部いちぶ生物せいぶつ酸素さんそ利用りようした酸化さんか過程かていつうじておおきなエネルギーを利用りようできるようになった。現在げんざい酸素さんそ利用りようした代謝たいしゃのできる生物せいぶつ細胞さいぼううちミトコンドリアにより炭水化物たんすいかぶつ酸化さんかし、最終さいしゅう産物さんぶつとして二酸化炭素にさんかたんそ (CO2) とみず排出はいしゅつする。青酸せいさんシアン化水素しあんかすいそさん)はミトコンドリアの電子でんし伝達でんたつけい阻害そがいするため、こうてき生物せいぶつにとって猛毒もうどくである。

細胞さいぼう呼吸こきゅう代謝たいしゃけい

編集へんしゅう

呼吸こきゅう代謝たいしゃにはおおきくけて以下いかの3つの代謝たいしゃかかわる。糖類とうるいはこれらの代謝たいしゃけいによって二酸化炭素にさんかたんそ (CO2) およびみずにまで分解ぶんかいされ、その過程かていで「ATP」が生産せいさんされる。

かいとうけい
細胞さいぼうしつ基質きしつおこなわれる酸素さんそ使つかわないとう酸化さんか過程かてい
クエン酸くえんさん回路かいろ
ピルビンさんなどから変換へんかんされたアセチルCoA二酸化炭素にさんかたんそ分解ぶんかいする酸化さんか過程かていかく生物せいぶつではミトコンドリア基質きしつで、原核げんかく生物せいぶつでは細胞さいぼうまく近辺きんぺんおこなわれる。
酸化さんかてきリン酸化さんか
NADHなどの水素すいそ受容じゅようたい酸化さんかし、酸素さんそ電子でんしつたえてみず生成せいせいする過程かてい電子でんし伝達でんたつけいぶ(光合成こうごうせい電子でんし伝達でんたつけい区別くべつするため、呼吸こきゅうくさりともばれる)。それと共役きょうやくしてATP合成ごうせい酵素こうそによりATP生成せいせいする。かく生物せいぶつではミトコンドリアないまくで、原核げんかく生物せいぶつでは細胞さいぼうまくおこなわれる。高校こうこう生物せいぶつでは「酸化さんかてきリン酸化さんか」という言葉ことばもちいず、呼吸こきゅうくさりATP合成ごうせい酵素こうそ反応はんのう全体ぜんたいふくめて「電子でんし伝達でんたつけい」とぶ。

なお、脂肪酸しぼうさんなどの有機ゆうきさん酸化さんかにおいては、かいとうけいわりにβべーた酸化さんかだい部分ぶぶん反応はんのうがミトコンドリア基質きしつおこなわれる)がかかわる。

細胞さいぼう呼吸こきゅう

細胞さいぼう呼吸こきゅうによるATP生成せいせいりょう

編集へんしゅう

以下いかグルコース1分子ぶんし代表だいひょうとして、ミトコンドリアをゆうするかく生物せいぶつ細胞さいぼう呼吸こきゅうにおける物質ぶっしつ収支しゅうししめす(こうエネルギーリンさん結合けつごう形成けいせいにおける脱水だっすいと、NADHをのぞpHバランスにともなうプロトンの収支しゅうし省略しょうりゃく)。

かいとうけい(10段階だんかい酵素こうそ反応はんのうよりる)
グルコース   ピルビンさん  
ピルビンから乳酸にゅうさんエタノールへと発酵はっこうする過程かていかいとうけいふくむのが普通ふつうである。
クエン酸くえんさん回路かいろ
ピルビンさんだつ炭酸たんさん反応はんのう
2 ピルビンさん   アセチル 
かいとうけいクエン酸くえんさん回路かいろむす反応はんのうで、しばしばクエン酸くえんさん回路かいろにもかいとうけいにも分類ぶんるいされる。
狭義きょうぎクエン酸くえんさん回路かいろ (10段階だんかい酵素こうそ反応はんのうよりる)
2 アセチル 
スクシニルCoA合成ごうせい酵素こうそつうじてGTPからはとうりょうのATPが合成ごうせいされる。
酸化さんかてきリン酸化さんか
電子でんし伝達でんたつけい(4種類しゅるい呼吸こきゅうくさりふく合体がったいによる3段階だんかい酸化さんか還元かんげん反応はんのう関与かんよする)
 
ATP合成ごうせい酵素こうそによるATP合成ごうせい反応はんのう
(10 NADH由来ゆらい):  
(2 FADH2由来ゆらい):  
NADHからはやく3とうりょう、FADH2からはやく2とうりょうのATPが合成ごうせいされるとされてきた。[5]

以上いじょう反応はんのうをすべてまとめると

グルコース  

このしき高校こうこう生物せいぶつ学習がくしゅうする呼吸こきゅう収支しゅうししきばれる。酵素こうそによるやく25の反応はんのうがこの代謝たいしゃにはかかわっており、グルコースのつエネルギーの有効ゆうこう利用りよう役立やくだっている。グルコースの酸化さんか反応はんのう(C6H12O6+ 6O2 (g) → 6CO2 (g) + 6H2O (l))における標準ひょうじゅん反応はんのうギブズ自由じゆうエネルギー(ΔでるたG´°)は–2873.4 kJ/molであるのにたいし、ATPの加水かすい分解ぶんかい反応はんのう(ATP + H2O → ADP + Pi, pMg = 3)ではΔでるたG´° = –31.56 kJ/molであり、38 ATPの生成せいせいによりやく41.7%の効率こうりつでグルコースの自由じゆうエネルギーを変換へんかんしていることになる。

ただし、近年きんねん測定そくてい結果けっか理論りろんめんからは、グルコース1分子ぶんしから38とうりょうATP合成ごうせいされるとする解釈かいしゃく支持しじされていない。以下いか問題もんだいてん列挙れっきょすると:

  • 心筋しんきん肝臓かんぞうなどの細胞さいぼうでは、かいとうけい合成ごうせいされたNADHはリンゴさんアスパラギンさんシャトル(Glu/Aspシャトル)をつうじてミトコンドリアないでのとうりょうのNADH合成ごうせい利用りようされるが、通常つうじょう細胞さいぼうでは、NADHはグリセロリンさんシャトルαあるふぁGPシャトル)をつうじてミトコンドリアないでのとうりょうのFADH2合成ごうせい利用りようされる。そのため最終さいしゅうてき合成ごうせいされるATPが2とうりょうすくなくなる。
  • 従来じゅうらい電子でんし伝達でんたつけいにおいてNADH や FADH2などの水素すいそ供与きょうよたい電子でんし酸素さんそわた過程かていでATPが合成ごうせいされるとかんがえられたが、今日きょうでは電子でんし伝達でんたつによるまくがいへのプロトンの放出ほうしゅつと、プロトン濃度のうど勾配こうばいによりまれたまく電位でんい駆動くどうりょくとするATP合成ごうせい別個べっこのシステムでおこなわれることが判明はんめいし、P/O合成ごうせいされたリンと消費しょうひした酸素さんそのモル)は整数せいすうである必要ひつようがなくなった。かく生物せいぶつにおいてはNADHの酸化さんかからは10とうりょうのプロトンが、FADH2酸化さんかからは6とうりょうのプロトンがミトコンドリア基質きしつからミトコンドリアまくあいだ放出ほうしゅつされる。
  • ミトコンドリアない合成ごうせいされたATPを細胞さいぼうしつ基質きしつ輸送ゆそうする段階だんかいとうりょうのプロトンのミトコンドリア基質きしつないへの流入りゅうにゅうこり、ATP合成ごうせいのためのプロトンの消失しょうしつつながる。同様どうようにGlu/AspシャトルによるNADHの生成せいせいにおいてもとうりょうのプロトンがミトコンドリア基質きしつない流入りゅうにゅうする。
  • ATP合成ごうせい酵素こうそにおいては3とうりょうプロトン流入りゅうにゅうでATP合成ごうせい酵素こうそが1かいころがし、ATPが1分子ぶんし合成ごうせいされるとかんがえられている。さらにミトコンドリアない合成ごうせいしたATPを細胞さいぼうない輸送ゆそうするさいに1とうりょうのプロトンを消費しょうひするため、細胞さいぼうしつ基質きしつ消費しょうひするためのATPの合成ごうせい必要ひつようなプロトンのとうりょう(H+/ATP)は4となる。理論りろんじょうのP/O 合成ごうせいは、NADHで2.5 (= 10/4)、FADH2で1.5 (= 6/4)となり、グルコース1分子ぶんしたり31または29.5分子ぶんしのATPが合成ごうせいされることになる(Glu/AspシャトルやGTP由来ゆらいのATP輸送ゆそうによるプロトン消費しょうひともに2 H+、0.5 ATP相当そうとう消失しょうしつ)を無視むしすると32または30分子ぶんし)。[6] 最近さいきん生化学せいかがく教科書きょうかしょではこちらのせつ解説かいせつするようになってきている。
  • ごく最近さいきんになって、1個いっこのプロトンの流入りゅうにゅうでATP合成ごうせい酵素こうそが1/3回転かいてんではなく、3/10回転かいてんすることが構造こうぞう詳細しょうさい解析かいせきからしめされており、[7] H+/ATP整数せいすうではない(H+/ATP = 4.33 (= 13/3 = 10/3 + 1))と指摘してきされている。この場合ばあい理論りろんじょうのP/O 合成ごうせいが、NADHでやく2.31 (= 10/(13/3))、FADH2やく1.38 (= 6/(13/3))となり、グルコースたりやく28.92またはやく27.54とうりょうのATPが合成ごうせいされる。[8] なおグルコースにたいして28.92, 27.54とうりょうのATPが生成せいせいしたとすると標準ひょうじゅん状態じょうたいにおける自由じゆうエネルギー変換へんかん効率こうりつは31.8%, 30.2%と計算けいさんされるが、実際じっさい生体せいたい反応はんのうでは反応はんのう基質きしつ濃度のうど調整ちょうせいにより最大さいだいで60%前後ぜんごのエネルギー変換へんかん効率こうりつされていると推定すいていされている。

以下いかひょう哺乳ほにゅう動物どうぶつにおけるグルコース (C6H12O6)、貯蔵ちょぞうとう代表だいひょうとしてモノマーたりのグリコーゲン ((C6H10O5)n)、代表だいひょうてき脂肪酸しぼうさんとしてパルミチンさん (C15H3COOH) から合成ごうせいされるATPの理論りろんじょう最大さいだいとうりょうを、古典こてんてき解釈かいしゃく最新さいしん理論りろんもとづくとしてそれぞれまとめる。[9]

反応はんのう シャトル 細胞さいぼうしつ基質きしつない

かいとうけい

ミトコンドリア基質きしつない

クエン酸くえんさん回路かいろβべーた酸化さんか

まくあいだ腔内へ放出ほうしゅつ

されたプロトンりょう

1分子ぶんし、モノマーたりの理論りろんじょうのATP合成ごうせい最大さいだいりょう
古典こてんてき解釈かいしゃく[5] H+/ATP = 4[6] H+/ATP = 13/3[8]
   Glu/Asp 2 NADH + 2 ATP 8 NADH + 2 FADH2 + 2 GTP 112 (10×10+2×6) 38 (10×3+2×2+4) 31 ((112–4))/4+4) 28.92 ((112–4)/(13/3)+4)
αあるふぁGP 104 (8×10+4×6) 36 (8×3+4×2+4) 29.5 ((104–2)/4+4) 27.54 ((104–2)/(13/3)+4)
   Glu/Asp 2 NADH + 3 ATP 8 NADH + 2 FADH2 + 2 GTP 112 (10×10+2×6) 39 (10×3+2×2+5) 32 ((112–4)/4+5) 29.92 ((112–4)/(13/3)+5)
αあるふぁGP 104 (8×10+4×6) 37 (8×3+4×2+5) 30.5 ((104–2)/4+5) 28.54 ((104–2)/(13/3)+5)
   – ATP (2 ATP 相当そうとう,

ATP → AMP + PPi)

31 NADH + 15 FADH2 + 8 GTP

(7 NADH + 7 FADH2 + 8 AcCoA)

400 (31×10+15×6) 129 (31×3+5×2+6) 104 ((400–8)/4+6) 96.46 ((400–8)/(13/3)+6)

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ a b Schmidt-Rohr, K. (2020). "Oxygen Is the High-Energy Molecule Powering Complex Multicellular Life: Fundamental Corrections to Traditional Bioenergetics” ACS Omega 5: 2221-2233. https://doi.org/10.1021/acsomega.9b03352
  2. ^ Bailey, Regina. “Cellular Respiration”. 2012ねん5がつ5にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2020ねん12月11にち閲覧えつらん
  3. ^ Schmidt-Rohr, K. (2015). "Why Combustions Are Always Exothermic, Yielding About 418 kJ per Mole of O2", J. Chem. Educ. 92: 2094-2099. https://doi.org/10.1021/acs.jchemed.5b00333
  4. ^ アデノシンさんリンさん / ATP e-ヘルスネット”. 厚生こうせい労働ろうどうしょう. 2021ねん10がつ18にち閲覧えつらん
  5. ^ a b Ochoa, S. J. Biol. Chem. 1943, 151, 493–505.
  6. ^ a b Hinkle, P. C.; Kumar, M. A.; Resetar, A.; Harris, D. L. Biochemistry 1991, 30, 3576–3582.
  7. ^ Stock, D.; Leslie, A. G. W.; Walker, J. E. Science 1999, 286, 1700–1705.
  8. ^ a b Hinkle, P. C. Biochim. Biophys. Acta 2005, 1706, 1–11.
  9. ^ Brand, M. D. Biochem. Soc. Trans. 2005, 33, 897–904.

関連かんれん項目こうもく

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