黒くろい霧きり事件じけん (政界せいかい)

黒くろい霧きり事件じけん（くろいきりじけん）とは、1966年ねんの政治せいじ不信ふしん事件じけん。

概要がいよう

1966年ねん後半こうはん、自民党じみんとうを中心ちゅうしんに相次あいついで発覚はっかくした不祥事ふしょうじ。一連いちれんの事件じけんで自民党じみんとうへの国民こくみんの信頼しんらいは失墜しっついし永田町ながたちょうを「黒くろい霧きり」が覆おおっていると批判ひはんされるようになった。

10月がつ20日はつか、佐藤さとう栄作えいさく首相しゅしょうは衆議院しゅうぎいん予算よさん委員いいん会かいで綱紀こうき粛正しゅくせいを所信しょしん表明ひょうめい。11月16日にち、自民党じみんとう綱紀こうき粛正しゅくせい調査ちょうさ会かい、「黒くろい霧きり」疑惑ぎわくの調査ちょうさ結果けっかをまとめる。

12月1日にち、自民党じみんとう総裁そうさい選せんで佐藤さとうは再選さいせんするが、対立たいりつ候補こうほの藤山ふじやま愛一郎あいいちろうが予想よそう外がいの善戦ぜんせんで注目ちゅうもくを浴あびる。12月3日にち、佐藤さとうが内閣ないかく改造かいぞう、福永ふくなが健司けんじと宮澤みやざわ喜一きいちを起用きようして旧きゅう池田いけだ派はを取とり込こむ。党とう人事じんじでは、幹事かんじ長ちょうの田中たなか角栄かくえいを福田ふくだ赳夫たけおに替かえた。

その後ご低下ていかした求心力きゅうしんりょくを回復かいふくするため、12月27日にち佐藤さとうは衆議院しゅうぎいんを解散かいさんした（黒くろい霧きり解散かいさん）。逆境ぎゃっきょう下かの選挙せんきょ戦せんとなった第だい31回かい総そう選挙せんきょは翌よく1月がつ29日にちに投票とうひょうが行おこなわれたが、自民じみんは善戦ぜんせんして予想よそう外がいの微減びげんにとどまり、佐藤さとうは勝利しょうりを宣言せんげん。大山おおやま鳴動めいどうして鼠ねずみ一いち匹ひきの結果けっかとなった。

一連いちれんの事件じけん

田中たなか彰治しょうじ事件じけん

吹原ふきはら産業さんぎょう事件じけんの捜査そうさの過程かていで1966年ねん8月がつ5日にち、田中たなか彰治しょうじ衆議院しゅうぎいん議員ぎいんが逮捕たいほされた。田中たなかは決算けっさん委員いいん長ちょうや決算けっさん委員いいん会かい理事りじとして決算けっさん委員いいん会かいを舞台ぶたいに職権しょっけんをフルに使つかって政財界せいざいかいの癒着ゆちゃくを粗ほぼ探さがしして表向おもてむきには追及ついきゅうする素振そぶりを見みせながら、その実みのその当事とうじ者しゃを脅おどして金品きんぴんをせしめていたが、捜査そうさによって田中たなかのマッチポンプの一部いちぶが以下いかの事件じけんとして明あきらかになった。

虎ノ門とらのもん国有こくゆう地ち払はらい下さげ事件じけん（恐喝きょうかつ） - ニューエンパイヤモーターが営業えいぎょうしていた旧きゅう虎ノ門とらのもん公園こうえん用よう跡あとの国有こくゆう地ちの国際こくさい興業こうぎょうへの払はらい下さげをめぐり、当時とうじ田中たなかが借金しゃっきんしていた同社どうしゃ社長しゃちょう・小佐野おさの賢治けんじに決算けっさん委いでの追及ついきゅうをちらつかせて手形てがた書かき換かえを強要きょうよう。更さらには借金しゃっきんを踏ふみ倒たおした。
深谷ふかや工業こうぎょう団地だんち二に重じゅう転売てんばい詐欺さぎ事件じけん（詐欺さぎ） - 埼玉さいたま県けん深谷ふかや市しに日本にっぽん住宅じゅうたく公団こうだんから購入こうにゅうした工場こうじょう用地ようちを、転売てんばいの際さいの公団こうだんへの許諾きょだくや工場こうじょう立地りっちのない場合ばあいの契約けいやく解除かいじょなど契約けいやく条件じょうけんを告つげずに大映だいえい社長しゃちょう・永田ながた雅一まさいちに売却ばいきゃく。1億おく円えんを詐取さしゅ。
習志野ならしの土地とち二に重じゅう担保たんぽ事件じけん（詐欺さぎ・背任はいにん） - 小佐野おさのに対たいし融資ゆうしの担保たんぽとして差さし出だした千葉ちば県けん習志野ならしの市しの土地とちを、その事実じじつを告つげずに許斐このみ氏し利り経営けいえいの東京とうきょう温泉おんせんから4772万まん5000円えんを詐取さしゅ。
丸善まるぜん石油せきゆ事件じけん（恐喝きょうかつ） - 江戸川えどがわ区く堀江ほりえ町まちの埋立うめたて地ち売却ばいきゃくを巡めぐって、丸善まるぜん石油せきゆ社長しゃちょう・和田わだ完二かんじに対たいし社内しゃないの不正ふせいを株主かぶぬし総会そうかいで追及ついきゅうすると脅おどし3000万まん円えんを受領じゅりょう。
大阪おおさか拘置こうち所しょ事件じけん（恐喝きょうかつ未遂みすい・偽証ぎしょう） - 大阪おおさか拘置こうち所しょの移転いてんに伴ともなう土地とちの等価とうか交換こうかんを巡めぐって、旧きゅう拘置こうち所しょの不動産ふどうさんを手てに入いれた会社かいしゃ役員やくいんを決算けっさん委員いいん会かいで追及ついきゅう。さらに秘書ひしょを使つかって役員やくいんを恐喝きょうかつするが未遂みすいに終おわり、起訴きそされた秘書ひしょの裁判さいばんで田中たなかは無関係むかんけいを主張しゅちょうした。
岡本おかもと町まち事件じけん（偽証ぎしょう） - 世田谷せたがや区く岡本おかもと町まちに借かりていた土地とちを（地主じぬしの承認しょうにんを得えぬまま）又貸またがししたことから地主じぬしが田中たなからを提訴ていそ。その裁判さいばんで田中たなか側がわの証人しょうにんが土地とちは賃借ちんしゃく名目めいもくによる購入こうにゅうとウソの証言しょうげんをし、土地とちの詐取さしゅを図はかったが未遂みすいに終おわる。
脱税だつぜい事件じけん（所得しょとく税法ぜいほう違反いはん） - 田中たなかが土地とち取引とりひきにおいて他人たにん名義めいぎでの取引とりひきや取引とりひきの事実じじつを隠かくす等とうの不正ふせいを行おこなって約やく4億おく1000万まん円えんの所得しょとくを隠かくし、所得しょとく税ぜい約やく2億おく7000万まん円えんの脱税だつぜい。

田中たなか自身じしんや田中たなか関係かんけい者しゃ5人にんが起訴きそされる。田中たなかは1974年ねんに東京とうきょう地裁ちさいで（深谷ふかや工業団地こうぎょうだんちでの詐欺さぎが証拠しょうこ不十分ふじゅうぶんで無罪むざいとなったのを除のぞき）起訴きそされた容疑ようぎについて懲役ちょうえき4年ねんの実刑じっけい判決はんけつを受うけ、控訴こうそ中なかの1975年ねんに死去しきょして公訴こうそ棄却ききゃくとなった。田中たなか関係かんけい者しゃ5人にんは執行しっこう猶予ゆうよ付つきの懲役ちょうえき刑けいが確定かくていした。

公私こうし混同こんどうお国くに入いり問題もんだい

1966年ねん9月2日にち、上林うえばやし山さん栄吉えいきち防衛庁ぼうえいちょう長官ちょうかんが、長官ちょうかん就任しゅうにん後ごに地元じもと選挙せんきょ区くの鹿児島かごしまへお国くに入いりの際さい、統幕とうばく議長ぎちょうの天野あまの良英よしひでと、吉江よしえ誠一せいいち、板谷いたや隆一りゅういち、牟田むた弘ひろし國こくら陸海空りくかいくうの三さん幕僚ばくりょう長ちょうを従したがえ航空こうくう自衛隊じえいたいのYS-11型かた機きで帰郷ききょう。しかも、陸上りくじょう自衛隊じえいたい音楽おんがく隊たいを連つらねて地元じもとをパレード。さらに同級生どうきゅうせいや後援こうえん者しゃを秘書ひしょ名目めいもくで同機どうきに同乗どうじょうさせた。10月19日にちに報道ほうどうされ、これらのことが公私こうし混同こんどうとして批判ひはんされた。

深谷ふかや駅えき急行きゅうこう停車ていしゃ問題もんだい

1966年ねん、荒あら舩清十じゅう郎ろう運輸うんゆ大臣だいじんが、自じ選挙せんきょ区くの埼玉さいたま県けん深谷ふかや市しの深谷ふかや駅えきに急行きゅうこう列車れっしゃが停とままるよう国鉄こくてつにダイヤ改定かいていをするように圧力あつりょくをかけた事件じけん。荒あら舩は「国鉄こくてつも俺おれの言いうことを一ひとつくらい聞きいてくれてもいいじゃないか」と発言はつげんしたとされる。^[1]

10月11日にち、深谷ふかや駅えきへの急行きゅうこう停車ていしゃ問題もんだいで荒あら舩運輸うんゆ相しょうが辞任じにん。このことについて石田いしだ礼助れいすけ国鉄こくてつ総裁そうさいは「武士ぶしの情なさけ」と国会こっかいで答弁とうべんした。

共和きょうわ製糖せいとう事件じけん

1966年ねん9月27日にちに共和きょうわ製糖せいとうが重政しげまさ誠之せいし農林のうりん大臣だいじん時代じだいに払はらい下かを受うけた国有こくゆう林りんを担保たんぽに農林中央金庫のうりんちゅうおうきんこから不正ふせい融資ゆうしを受うけていた事件じけんが発覚はっかく。社会党しゃかいとう、参議院さんぎいん決算けっさん委員いいん会かいで共和きょうわ製糖せいとうへの不当ふとう融資ゆうしについて政府せいふを追及ついきゅう。

1967年ねん2月がつ8日にち、東京とうきょう地検ちけん特捜とくそう部ぶは菅かん貞さだ人じん前ぜん共和きょうわ製糖せいとう社長しゃちょうら同社どうしゃ幹部かんぶ6人にんを業務ぎょうむ上じょう横領おうりょうなどの容疑ようぎで逮捕たいほ。

3月17日にち、重政しげまさ誠之せいしの秘書ひしょが代議士だいぎし後援こうえん会かい「政せい誠まこと会かい」の代表だいひょう兼けん会計かいけい責任せきにん者しゃだったが政治せいじ資金しきん規正きせい法ほう9条じょうの会計かいけい名簿めいぼを備そなえていなかった政治せいじ資金しきん規正きせい法ほう違反いはん容疑ようぎで逮捕たいほ。

3月18日にち、共和きょうわ製糖せいとう事件じけんに関連かんれんし相沢あいざわ重明しげあき社会党しゃかいとう参議院さんぎいん議員ぎいんに国会こっかい質問しつもんに絡からむ収賄しゅうわい容疑ようぎ（同社どうしゃに対たいする不正ふせい追及ついきゅうをめぐり同社どうしゃ及および対立たいりつする業界ぎょうかい団体だんたい「日本にっぽんぶどう糖とう工業こうぎょう会かい」双方そうほうから現金げんきんを受取うけとった疑惑ぎわく）が発覚はっかく、東京とうきょう地検ちけんが相沢あいざわ議員ぎいんを取とり調しらべ。

3月がつ20日はつか、社会党しゃかいとうは相沢あいざわ議員ぎいんを除名じょめい処分しょぶん。3月23日にち、東京とうきょう地検ちけん特捜とくそう部ぶ、共和きょうわ製糖せいとう事件じけんで相沢あいざわ参議院さんぎいん議員ぎいんを在宅ざいたく起訴きそ。

事件じけんの捜査そうさの結果けっか、共和きょうわ製糖せいとうが融資ゆうし金きんの中なかから政界せいかい人じんに金かねが渡わたっていたことが明あきらかになった。事件じけんの背景はいけいに砂糖さとうの輸入ゆにゅう自由じゆう化かに伴ともなう国内こくない砂糖さとう業界ぎょうかいの経営けいえい不振ふしんを背景はいけいに業界ぎょうかい保護ほごのための甘味あまみ資源しげん特別とくべつ措置そち法ほうや糖とう価か安定あんてい法ほうの立法りっぽうがあったとされ、「アリのように砂糖さとうに群むらがった政治せいじ家かたち」と批判ひはんを浴あびたが、職務しょくむ権限けんげんの壁かべに阻はばまれて政治せいじ家かは相沢あいざわ参議院さんぎいん議員ぎいん以外いがいは立件りっけんできなかった。

その後ご、9人にんに有罪ゆうざい判決はんけつ。相沢あいざわは懲役ちょうえき2年ねん・追徴金ついちょうきん150万まん円えんとなり、上告じょうこく中なかに死亡しぼうして公訴こうそ棄却ききゃくとなった。菅かんは懲役ちょうえき4年ねん6ヶ月かげつの有罪ゆうざい判決はんけつとなった。

公私こうし混合こんごう官費かんぴ旅行りょこう

松野まつの頼よりゆき三さん農林のうりん大臣だいじんが、新婚しんこんの娘むすめ夫婦ふうふとナッソー、ラスベガスなど外国がいこく観光かんこう地ち巡めぐりを官費かんぴ旅行りょこうとして申請しんせいしていた事ことが発覚はっかく、社会党しゃかいとうから衆議院しゅうぎいん決算けっさん及および農林のうりん水産すいさん委員いいん会かいで追及ついきゅうされた。

東京とうきょう大証だいしょう社長しゃちょう仲人なこうど問題もんだい

1966年ねん12月2日にち、山口やまぐち喜久一郎きくいちろう衆議院しゅうぎいん議長ぎちょう、当時とうじ、インチキ手形てがたにて3億おく円えんを詐欺さぎした容疑ようぎで問題もんだいとなっていた手形てがた割引わりびき業者ぎょうしゃ「東京とうきょう大証だいしょう」社長しゃちょう・水野みずの繁しげる彦の結婚式けっこんしきで仲人なこうどを務つとめていたことが発覚はっかく、衆議院しゅうぎいん議長ぎちょう辞任願じにんねがいを提出ていしゅつし翌よく3日にちの本ほん会議かいぎで辞任じにん。

山口やまぐちは1969年ねん総そう選挙せんきょに落選らくせんし、引退いんたいした。

注釈ちゅうしゃく

^ “第だい52回かい国会こっかい　参議院さんぎいん　運輸うんゆ委員いいん会かい　閉会へいかい後ご第だい1号ごう　昭和しょうわ41年ねん9月がつ12日にち”. 20231228閲覧えつらん。