控訴こうそ

控訴こうそ（こうそ）とは、第だい一いち審しんの判決はんけつに対たいして不服ふふくがある場合ばあいに、上級じょうきゅうの裁判所さいばんしょに対たいしてその判決はんけつの確定かくていを遮断しゃだんして新あらたな判決はんけつを求もとめる不服ふふく申立もうしたてをいう。上訴じょうその一ひとつ。

日本にっぽん法ほうなど大陸たいりく法ほう系けい訴訟そしょう法ほうにおいてみられる概念がいねんであり、控訴こうそ審しん判決はんけつに不服ふふくがある場合ばあいにさらになされる不服ふふく申立もうしたてである上告じょうこくとは厳密げんみつに区別くべつされる。

日本にっぽんの場合ばあい

日本にっぽん法ほうにおいては、裁判所さいばんしょ法ほう16条じょう1号ごう、24条じょう3号ごう、民事みんじ訴訟そしょう法ほう281条じょう以下いか、刑事けいじ訴訟そしょう法ほう372条じょう以下いかに規定きていがある。

民事みんじ訴訟そしょうの場合ばあい

第だい一いち審しん裁判所さいばんしょの判決はんけつに不服ふふくの有ある当事とうじ者しゃは、上訴じょうそ権けんの放棄ほうきや不ふ上訴じょうその合意ごういがなく、上訴じょうそ人じんが不服ふふくの利益りえきを持もつ場合ばあい、期間きかんの定さだめに従したがい適てき式しきの提起ていきをすることで再度さいど裁判さいばんを受うけることができる。

一般いっぱんに、第だい一いち審しんが簡易かんい裁判所さいばんしょであれば地方裁判所ちほうさいばんしょに、第だい一いち審しんが地方裁判所ちほうさいばんしょ又または家庭かてい裁判所さいばんしょであれば高等こうとう裁判所さいばんしょに控訴こうそすることができる（民事みんじ訴訟そしょう法ほう281条じょう、裁判所さいばんしょ法ほう16条じょう1号ごう・24条じょう3号ごう）。控訴こうその提起ていきは民事みんじ訴訟そしょう法ほう281条じょうにより、第だい一いち審しん判決はんけつに対たいしてすることができる。控訴こうそ審しんの審理しんりは第だい一いち審しんの口頭こうとう弁論べんろんの続行ぞっこう（続ぞく審しん制せい）と考かんがえられ、控訴こうそおよび付帯ふたい控訴こうそ提出ていしゅつされた不服ふふくの主張しゅちょうが審判しんぱんの対象たいしょうとなる（そのため、控訴こうそ人じんには利益りえき変更へんこう禁止きんしの原則げんそくがはたらく）。

控訴こうそ期間きかんは、判決はんけつ書しょの送達そうたつを受うけてから2週間しゅうかんの不変ふへん期間きかん（天変地異てんぺんちい以外いがい裁判所さいばんしょが変更へんこうできない期間きかん）である（民事みんじ訴訟そしょう法ほう285条じょう）。この期間きかん内ないに、控訴こうそ審しんを担当たんとうする裁判所さいばんしょ（控訴こうそ裁判所さいばんしょ）宛あての控訴こうそ状じょうを、第だい一いち審しんの裁判所さいばんしょに提出ていしゅつして、控訴こうその提起ていきをする。控訴こうそ状じょうに、控訴こうその理由りゆうが記載きさいされていない場合ばあいは、控訴こうそ状じょう提出ていしゅつから50日にち以内いないに、控訴こうそ理由りゆう書しょを提出ていしゅつしなければならないと規定きていされている（民事みんじ訴訟そしょう規則きそく182条じょう。もっとも、理由りゆう書しょの提出ていしゅつが期間きかんに遅おくれても、316条じょう1項こう2号ごうで却下きゃっか理由りゆうとなる上告じょうこく理由りゆう書しょと異ことなり、287条じょうが却下きゃっか理由りゆうとはしていないため、受理じゅりする場合ばあいもある。

控訴こうそは控訴こうそ審しんの終局しゅうきょく判決はんけつがあるまで取とり下さげる事ことが出来できる（民訴みんそ292条じょう1項こう）。控訴こうそ審しん第だい一いち回かい口頭こうとう弁論べんろんが開始かいしするまでに控ひかえ訴取下書したがきの提出ていしゅつを行おこなった場合ばあい、相手方あいてがたの同意どういを要ようさずに控訴こうその取下とりさげが行おこなわれ、控訴こうそ人じんは裁判所さいばんしょに支払しはらった手数料てすうりょうの半額はんがくの還付かんぷの申立もうしたてを行おこなえる（民事みんじ訴訟そしょう費用ひよう法ほう9条じょう3項こう1号ごう）。

刑事けいじ訴訟そしょうの場合ばあい

被告人ひこくにんまたは検察官けんさつかんが控訴こうそすることができる（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう351条じょう）。また、第だい一いち審しんにおける弁護人べんごにん、被告人ひこくにんの法定ほうてい代理人だいりにん・保ほ佐さ人じんも、被告人ひこくにんのために控訴こうそすることができる（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう355条じょう・353条じょう）。通常つうじょうの控訴こうそ審しんは、高等こうとう裁判所さいばんしょが担当たんとうする（裁判所さいばんしょ法ほう16条じょう1号ごう）。

控訴こうそ期間きかんは、判決はんけつの言渡いいわたしを受うけてから14日間にちかんである（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう373条じょう）。この期間きかん内ないに、控訴こうそ審しんを担当たんとうする裁判所さいばんしょ（控訴こうそ裁判所さいばんしょ）宛あての控訴こうそ申立もうしたて書しょを、第だい一いち審しんの裁判所さいばんしょに提出ていしゅつして、控訴こうその提起ていきをする（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう374条じょう）。さらに、控訴こうそ申立もうしたて人じんは、提出ていしゅつ期限きげん（通知つうちの翌日よくじつから21日にち以後いごの日ひで、控訴こうそ裁判所さいばんしょが定さだめた日ひ）までに、控訴こうそ趣意しゅい書しょを提出ていしゅつする（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう376条じょう、刑事けいじ訴訟そしょう規則きそく236条じょう）。期間きかん経過けいか後ごの提出ていしゅつである場合ばあいは、控訴こうそ棄却ききゃくの決定けっていがなされる（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう386条じょう1項こう1号ごう）。ただし、期限きげん後ごの提出ていしゅつがやむを得えない事情じじょうに基もとづくと認みとめられる場合ばあいは、期間きかん内ないに提出ていしゅつしたものと取とり扱あつかうことができる（刑事けいじ訴訟そしょう規則きそく238条じょう）。

検察官けんさつかん・被告人ひこくにんともいったん控訴こうそしても取とり下さげることができるが（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう359条じょう）、いったん控訴こうそを取とり下さげた者ものはその事件じけんについてさらに上訴じょうそすることはできない（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう361条じょう）。そのため、例たとえば死刑しけい判決はんけつを受うけた被告人ひこくにんが控訴こうそしたものの後のちに自みずから取とり下さげた場合ばあいはそのまま死刑しけい判決はんけつが確定かくていし、弁護人べんごにんが「控訴こうそ取とり下さげは無効むこう」と異議いぎを申もうし立たてても棄却ききゃくされるケースが多おおいが（マブチモーター社長しゃちょう宅たく殺人さつじん放火ほうか事件じけん・奈良なら小しょう1女児じょじ殺害さつがい事件じけん・闇やみサイト殺人さつじん事件じけんなど）、例外れいがい的てきに最高裁判所さいこうさいばんしょが弁護人べんごにんの異議いぎ申もうし立たてを認みとめて控訴こうそ審しんが再開さいかいされた事例じれいも存在そんざいする（藤沢ふじさわ市し母はは娘むすめら5人にん殺害さつがい事件じけん）。

刑事けいじ訴訟そしょうの場合ばあいは、控訴こうそ事由じゆうが限定げんていされている（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう384条じょう）。

• 法律ほうりつに従したがって判決はんけつ裁判所さいばんしょを構成こうせいしなかったこと。ただし、裁判さいばん員いん裁判さいばんで事件じけんが取とり扱あつかわれた場合ばあいで、裁判さいばん員いんの構成こうせいにのみ違法いほうがある場合ばあいであって、裁判さいばん員いんの関与かんよする判断はんだんを含ふくまないものであるとき、またはその違法いほうが裁判さいばん員いんの就職しゅうしょく禁止きんし事由じゆうに該当がいとうするときはこの限かぎりでない（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう377条じょう1号ごう、裁判さいばん員いん法ほう64条じょう1項こう）。
• 法令ほうれいにより判決はんけつに関与かんよすることができない裁判官さいばんかん又または裁判さいばん員いんが判決はんけつに関与かんよしたこと（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう377条じょう2号ごう、裁判さいばん員いん法ほう64条じょう1項こう）。
• 審判しんぱんの公開こうかいの規定きていに違反いはんしたこと（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう377条じょう3号ごう）。
• 不法ふほうに管轄かんかつまたは管轄かんかつ違ちがいを認みとめたこと（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう378条じょう1号ごう）。
• 不法ふほうに、公訴こうそを受理じゅりし、またはこれを棄却ききゃくしたこと（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう378条じょう2号ごう）。
• 審判しんぱんの請求せいきゅうを受うけた事件じけんについて判決はんけつをせず、または審判しんぱんの請求せいきゅうを受うけない事件じけんについて判決はんけつをしたこと（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう378条じょう3号ごう）。
• 判決はんけつに理由りゆうを附ふせず、または理由りゆうにくいちがいがあること（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう378条じょう4号ごう）。
• 刑事けいじ訴訟そしょう法ほう377条じょう、378条じょうの場合ばあいを除のぞいて、訴訟そしょう手続てつづきに法令ほうれいの違反いはんがあってその違反いはんが判決はんけつに影響えいきょうを及およぼすことが明あきらかであること（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう379条じょう）。
• 法令ほうれいの適用てきように誤あやまりがあってその誤あやまりが判決はんけつに影響えいきょうを及およぼすことが明あきらかであること（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう380条じょう）。
• 刑けいの量刑りょうけいが不当ふとうであること（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう381条じょう）。
• 事実じじつの誤認ごにんがあってその誤認ごにんが判決はんけつに影響えいきょうを及およぼすことが明あきらかであること（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう382条じょう）。ただし、原審げんしんが、即決そっけつ裁判さいばん手続てつづきの場合ばあいを除のぞく（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう403条じょうの2）。
• 再審さいしんの請求せいきゅうができる場合ばあいに当あたる事由じゆうがあること（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう383条じょう1号ごう）。
• 判決はんけつがあった後のちに刑けいの廃止はいしもしくは変更へんこうまたは大赦たいしゃがあったこと（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう383条じょう2号ごう）

なお民事みんじ・刑事けいじのどちらの場合ばあいでも、控訴こうそ趣意しゅい書しょ・理由りゆう書しょを期限きげんまでに提出ていしゅつできないなどの理由りゆうで判決はんけつではなく、決定けっていにより棄却ききゃくされた場合ばあいは上告じょうこくが許ゆるされず、原はら判決はんけつがそのまま確定かくていする。

→詳細しょうさいは「裁判さいばん § 裁判さいばんの形式けいしき」、および「三さん行ぎょう決定けってい § 三さん行ぎょう決定けっていの例れい」を参照さんしょう

実態じったい

特とくに、刑事けいじ訴訟そしょうでは、「やむを得えない事由じゆうによって第だい一いち審しんの弁論べんろん終結しゅうけつ前まえに取調とりしらべを請求せいきゅうすることができなかった」場合ばあいでない限かぎり、新あたらしい証拠しょうこを取調とりしらべないという刑事けいじ訴訟そしょう法ほう382条じょうの2、393条じょう第だい1項こうを厳格げんかくに適用てきようし、被告人ひこくにんの証拠しょうこ申請しんせいを全すべて却下きゃっかする一方いっぽうで、検察官けんさつかんの証拠しょうこ申請しんせいは認みとめるという不公平ふこうへいな取とり扱あつかいがあるともいわれている。

日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい39条じょうで同一どういつの犯罪はんざいについて重かさねて刑事けいじ上じょうの責任せきにんは問とわれないのに、検察官けんさつかんが控訴こうそできるのは、最高裁さいこうさいの昭和しょうわ25年ねん9月がつ27日にちの判決はんけつで、一いち審しん、二に審しん、上告じょうこく審しんを通つうじて一いち度どの危険きけんであり、検察官けんさつかん控訴こうそは憲法けんぽう第だい39条じょうに反はんしないとされている。今村いまむら核かくは、検察官けんさつかん控訴こうそにより一いち審しん無罪むざいが破棄はきされると、その裁判官さいばんかんは裁判所さいばんしょ組織そしき内ないで冷遇れいぐうされる傾向けいこうがあり、これが無罪むざい率りつを減少げんしょうさせていると主張しゅちょうしている。

→詳細しょうさいは「日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい39条じょう § 解説かいせつ」;および「上訴じょうそ § 冤罪えんざい疑惑ぎわくがあったことで、検察官けんさつかんの上訴じょうそが問題もんだいとなった事件じけん」を参照さんしょう

→「名張なばり毒どくぶどう酒しゅ事件じけん § 確定かくてい判決はんけつ」、および「藤波ふじなみ孝生たかお § 来歴らいれき・人物じんぶつ」も参照さんしょう

海外かいがいの制度せいど

イギリス、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくでは検察官けんさつかんの控訴こうそは被告人ひこくにんを二に重じゅうの危険きけんにさらすものとして憲法けんぽう上じょう許ゆるされていない(アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく憲法けんぽう修正しゅうせい5条じょう…何人なんにんも同一どういつの犯罪はんざいについて重かさねて生命せいめいまたは身体しんたいの危険きけんにさらされることはない」。

正式せいしきな裁判さいばん以外いがいの控訴こうそ

正式せいしきな裁判さいばん以外いがいに、俗ぞくにスポーツ全般ぜんぱんにおけるスポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ等とうへの仲裁ちゅうさい申立もうしたてや、モータースポーツの世界せかいにおけるレース中ちゅうのペナルティに対たいする統括とうかつ団体だんたいへの不服ふふく申立もうしたててなども「控訴こうそ」と表現ひょうげんされることがあるが、それらについてはスポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ、ペナルティ (モータースポーツ)#抗議こうぎと控訴こうそ等ひとしを参照さんしょうのこと。

脚注きゃくちゅう

関連かんれん項目こうもく

• 三さん審しん制せい
• 日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい39条じょう