インク

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インキから転送てんそう
カラーインクとペン
万年筆まんねんひつ文字もじ

インク英語えいご: ink)またはようすみ(ようぼく)とは顔料がんりょう染料せんりょうふくんだ液体えきたいジェル固体こたいで、文字もじいたり表面ひょうめん色付いろづけするためにもちいられるものである。油性ゆせい水性すいせいなどの種類しゅるいがある。

インキ」という表記ひょうきもあり、これは明治めいじによく使つかわれたが、やがて「インク」が一般いっぱんした[1]技術ぎじゅつ用語ようごとしては現代げんだいでも「インキ」は正式せいしき使つかわれるが、用語ようごによっては「インクジェット」など、定着ていちゃくしている表記ひょうきれがある[2][3][4]

日本にっぽん中国ちゅうごくふるくから使つかわれているすみもインクの一種いっしゅである。

油性ゆせいインクは長時間ちょうじかん使用しようのまま保存ほぞんするとインクがかたまってしまう、水性すいせいインクは保存ほぞんにはすぐれているがみずれるとにじんでしまう弱点じゃくてんがある。近年きんねんボールペンプリンターなどで「水性すいせい顔料がんりょうインク」が多用たようされている。長期ちょうき保存ほぞんえ、みずれてもにじみにくくについても水洗みずあらいでとせるなどといった利点りてんっている。

種類しゅるい[編集へんしゅう]

初期しょきのインクは鉱物こうぶつ種子しゅしまめなどのからイカよう海洋かいよう生物せいぶつからられる天然てんねん染料せんりょうおもなものであった。すみ黒色こくしょくアジア発祥はっしょうである。没食子もっしょくしインクIron gall ink)は古来こらい図面ずめんおおもちいられた。ウォルナット・インクは巨匠きょしょうたち名作めいさくにも使用しようされたとかんがえられるが、その証拠しょうこ存在そんざいしない。もしウォルナット・インクが使用しようされたとすれば、それはすぐに退色たいしょくしたとかんがえられる。

顔料がんりょうインク[編集へんしゅう]

顔料がんりょうインクは顔料がんりょう溶剤ようざい分散ぶんさんさせたインクで、印刷いんさつめん顔料がんりょう付着ふちゃくすることで印刷いんさつおこなわれる。顔料がんりょうインクは比較的ひかくてきたい水性すいせいすぐれ、屋外おくがい用途ようとなどに多用たようされる。ジェルじょうインクは摩擦まさつたい水性すいせいとくすぐれている。

染料せんりょうインク[編集へんしゅう]

染料せんりょうインクは染料せんりょう溶剤ようざいかしたインクで、顔料がんりょうインクにくらべておおくのいろつくすことができる。印刷いんさつめん浸透しんとうすることで印刷いんさつおこなわれるがたい水性すいせいたいこうせい顔料がんりょうインクにくらおとる。

印刷いんさつインク[編集へんしゅう]

印刷いんさつようのインクは顔料がんりょうなかだちざい添加てんかざいからなり印刷いんさつ素材そざいはん形式けいしきなどからこうねばたびのジェルじょうのもの、ていねばたび液状えきじょうのものが存在そんざいする。グーテンベルク15世紀せいき活版かっぱん印刷いんさつ開発かいはつしたのにわせて、筆記ひっきよう液体えきたいインクとはことなったはん付着ふちゃくできるこうねばたびのインクが開発かいはつされた。現在げんざいでも大量たいりょう発行はっこう目的もくてきとした商業しょうぎょう印刷いんさつにおいて使用しようされるインクはこうねばたびのジェルじょうインクが多用たようされる。近年きんねんでは環境かんきょう対応たいおうしたインクとして大豆だいずインク多用たようされており新聞しんぶんインク、平版へいはんインクの64%に使用しようされている。

えないインク[編集へんしゅう]

えないインクは使用しようされる溶剤ようざい性質せいしつにより寿命じゅみょう非常ひじょうみじかく、急速きゅうそく蒸発じょうはつする。

インドフィリピンインドネシアなどでは選挙せんきょにおける不正ふせい行為こういふせぐためえないインク英語えいごばん使用しようした。インドの選挙せんきょ委員いいんかいおおくの選挙せんきょにおいてえないインクを使用しようしている。インドネシアではアチェしゅう選挙せんきょ使用しようしている。マリ共和きょうわこく選挙せんきょでは、インクはつめ塗布とふされた。

金属きんぞくインク[編集へんしゅう]

インクの歴史れきし[編集へんしゅう]

すみすずりふで

およそ5000ねんまえに、いし表面ひょうめん文字もじきざむためのすみ中国ちゅうごく開発かいはつされた。すみ油煙ゆえんまつけむりにかわ混合こんごうぶつで、固形こけいすみすずりみずとともにりおろして黒色こくしょくのインクをる。地域ちいき初期しょき文明ぶんめいにおいても植物しょくぶつたね鉱物こうぶつから様々さまざまいろのインクがつくされた。

インクは古代こだいインド紀元前きげんぜん4世紀せいきから使用しようされ、それはいくつかの化学かがく成分せいぶん混合こんごうぶつであった。カローシュティー文字もじ記述きじゅつされた古文書こもんじょ新疆しんきょうウイグル自治じち発見はっけんされている。インド南部なんぶにおいては、はりとインクを使つかって文字もじくことは一般いっぱんてきであった。いくつかのジャイナきょう教典きょうてんはインクによって記述きじゅつされている。インドではすみすすほねやタール、ピッチなどをやすことでていた。

古代こだいローマではすすイカすみからられた黒色こくしょくのインクや、硫酸りゅうさんどうふくんだかわくろしみえきアスファルトふくむとかんがえられる黒色こくしょくワニスなどがアトラメンタムとばれてもちいられた[5][6][7]

エジプトカリフムイッズ衣服いふくけがすことのないペンを要求ようきゅうした。その要求ようきゅうこたえて953ねん万年筆まんねんひつ原型げんけいといえるペンが開発かいはつされた。

15世紀せいきドイツヨハネス・グーテンベルク活版かっぱん印刷いんさつ実用じつようすることに成功せいこうすると、それにてきしたあたらしいタイプのインクが開発かいはつされることとなった。当時とうじ、ギリシャ・ローマの筆記ひっきようインク(すすのりみずからる)および12世紀せいき開発かいはつされた硫酸りゅうさんてつ没食子もっしょくしゴムみずからる2種類しゅるいのインクが普及ふきゅうしておりこれらはどちらもはんめん付着ふちゃくせず、印刷いんさつにはてきさなかった。結局けっきょくすすテレビン油てれびんゆおよびクルミあぶらからなるニスじょうのインクが印刷いんさつよう開発かいはつされた。

1908ねん12月7にち日本にっぽん内閣ないかくは、公文書こうぶんしょにインキの使用しようみとめた(かくれい)。

現代げんだいのインク[編集へんしゅう]

パソコンに接続せつぞくしてもちいるプリンターようのインク。写真しゃしんれいではブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4しょくえる

筆記ひっきよう[編集へんしゅう]

市販しはんされる筆記ひっきようインクとしては、つぎのようなものがある。

現代げんだいにおいては、インクを内蔵ないぞうする使つかしき筆記具ひっきぐ普及ふきゅうとともに、びんりインクをあつかうつけペンや万年筆まんねんひつ実用じつよう筆記ひっきにほとんど使つかわれなくなった。ただし署名しょめい手紙てがみなどのフォーマル・プライベートな用途ようとや、カリグラフィー漫画まんがイラストレーションなどの芸術げいじゅつ用途ようとでは依然いぜん使つかわれる。

毛筆もうひつもちいられるすみ筆記ひっきようインクの一種いっしゅであり、近世きんせいまで筆記ひっき日用にちようされたが、硬筆こうひつ普及ふきゅうする近代きんだい以降いこうでは書道しょどうなど芸術げいじゅつ用途ようとおもとなっている。

印刷いんさつよう[編集へんしゅう]

ホーム・コンピューティングの普及ふきゅうにより、インクジェットプリンターもちいた家庭かていでの印刷いんさつ普及ふきゅうし、プリンターようインクカートリッジの購入こうにゅうは、かつての消費しょうひしゃがペンよう補充ほじゅうインクボトルを購入こうにゅうするのとおなじようになった。

しかし印刷いんさつコストを低減ていげんしようとする消費しょうひしゃはプリンターようインクカートリッジにようインクもちいようとするが、プリンタメーカーは消耗しょうもうひんであるインクカートリッジのげで収益しゅうえきようとするため、カートリッジにICチップをけて使用しよう回数かいすう制限せいげんしたり互換ごかんカートリッジメーカーにたいして訴訟そしょうこしたりするなど、純正じゅんせいインク問題もんだいきている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ "インク". 精選せいせんばん 日本にっぽん国語こくごだい辞典じてん. コトバンクより2021ねん10がつ4にち閲覧えつらん
  2. ^ 根本ねもと雄平ゆうへい印刷いんさつインキ基礎きそ講座こうざだいIこう総論そうろん」『いろざい協会きょうかいだい60かんだい6ごういろざい協会きょうかい、1987ねん、348-355ぺーじdoi:10.4011/shikizai1937.60.348 
  3. ^ 戸津川とつかわすすむインキのはなし だい14かい インキかインクか」『ぷりんとぴあ(1994ねん-1997ねん発刊はっかん保存ほぞんばん日本にっぽん印刷いんさつ産業さんぎょう連合れんごうかい、33-35ぺーじhttps://www.jfpi.or.jp/files/user/%E3%81%B7%E3%82%8A%E3%82%93%E3%81%A8%E3%81%B4%E3%81%82%E3%80%80part3_03_008.pdf#page=33 
  4. ^ JIS Z 8123-1:2013「印刷いんさつ技術ぎじゅつ用語ようご-だい1:基本きほん用語ようご日本にっぽん産業さんぎょう標準ひょうじゅん調査ちょうさかい経済けいざい産業さんぎょうしょう
  5. ^ Atramentum”. Conservation and Art Materials Encyclopedia Online. Museum of Fine Arts Boston. 2017ねん1がつ30にち閲覧えつらん
  6. ^ Allen, Alexander (1875). “Atramentum”. A Dictionary of Greek and Roman Antiquities. John Murray. pp. 170-171. http://penelope.uchicago.edu/Thayer/E/Roman/Texts/secondary/SMIGRA*/Atramentum.html 
  7. ^ “Atramentum”. A Dictionary of Greek and Roman Antiquities. John Murray. (1890). http://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.04.0063%3Aentry%3Datramentum-cn 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]