ガマズミ(莢蒾、学名: Viburnum dilatatum)は、山地や丘陵地の明るい林や草原に生えるガマズミ科[注 1]ガマズミ属に属する落葉低木。秋に赤く熟した果実は食用になり、薬酒にもなる。
和名「ガマズミ」の語源は諸説あり、赤い実という意味の「かがずみ」が転訛したもの、果実を頬張ると噛まずに種を吐き出すため「かまず実」の説がある。また、昔は熟した赤い果実を染料に使ったので「染め」がゾメからズミへ転訛したと説く人もいる。別名はアラゲガマズミ[1]、ヨスズ、ヨソゾメ、ヨツズミ、ヨウゾメともよばれる。中国名は「莢迷」[1]「莢蒾」(きょうめい)。
日本、朝鮮半島、中国などの東アジア地域に分布し、日本では北海道南西部、本州、四国、九州に分布する。平地から山地、丘陵地に分布し、雑木林や山野の日当たりのよい場所に自生する。
落葉広葉樹の低木で、樹高2 - 4メートル (m) 程度となる。樹皮は灰褐色。若い枝は星状毛や腺点があって、灰緑色で楕円形の皮目も多い。古枝は灰黒色で皮目がある。
葉は対生し、長さ6 - 15センチメートル (cm) 程度の円形や卵形から広卵形で、葉縁に細かい鋸歯がある。表面には羽状の葉脈がわずかに出っ張り、凹凸がある。表面は脈上にだけ毛があり触るとざらつくが、裏面では腺点や星状毛などが多い。秋には紅葉し、橙色からやや淡い赤色、時に複数の色が混じるが、紅葉初期は紫色が残って周辺部が黒ずむことも多い。
花期は5 - 6月。本年枝の先に散房花序を出して、白い小さな花が平頭状に多数咲く。花は直径約5ミリメートル (mm) で、花冠は深く5裂する。雄蕊は5個。
果期は晩夏から秋にかけて(9 - 10月)。果実は直径6 mm程度の球形で、赤く熟して食用できる。果実は最終的に晩秋のころに表面に白っぽい粉をふき、この時期がもっとも美味になる。冬になっても、赤い果実が残っていることがある。果実はヒヨドリやメジロなどの小鳥に食べられて運ばれ、排泄物と一緒に種子が散布されて分布域を広げる。
冬芽は卵形で粗い毛が多く生え、紅色を帯びた芽鱗は4枚ついて、外側の2枚は小さい。枝の先端につく頂芽は、よく頂生芽を伴ってつけている。枝の側芽は対生し、頂芽よりも小さい。冬芽わきに残る葉痕は、倒松形やV字形で、維管束痕は3個つく。
近縁のコバノガマズミ(Viburnum erosum Thunb.)やミヤマガマズミ(Viburnum wrightii Miq)の葉は比較的細長く先端が尖った楕円形であるので、区別できる(しかし葉は変異が多いため、区別しにくいこともある)。
秋以降の果実は食べられ、ワイン色が美しい果実酒になる。材は丈夫なことから、鎌や鍬など農具の柄に用いられる。染料や油も採られる。枝は柔らかく折れにくいので、昔から何かを束ねる時に使った。枝をよって縄をつくり、刈柴などを手際よくまとめた。
果実は甘酸っぱく食用になる。初秋には酸味が強くて生食できないが、秋が深まると透明感が出て甘くなる。ダイコンやカブなどの浅漬けを漬ける時に一緒に用いられ、「赤漬け」は長野県戸隠村でよく行うもので紅色に染まり、実の酸味がついた大根漬けとなる。生食するほか、ジュースやキャンディ、酢、ポン酢、果実酒、ジャム、ゼリー、健康ドリンクなどに商品化されている。鮮やかな赤色に完熟した果実は、焼酎やホワイトリカーに漬け込んで3か月以上たてば果実酒になり、ほぼ半年で実を取り出すと退色しない。同属のコバノガマズミ、ミヤマガマズミ、ヤブデマリ、オオカメノキなども同様に利用することができる。
丈夫でよく分枝するため、庭木として観賞用に植樹されることもある。
果実は「莢蒾子」(きょうめいし)とよんで、赤く熟した果実をとって薬用にする。果実を焼酎に漬けて果実酒にすると、疲労倦怠、動脈硬化予防などの薬用効果もある。ガマズミの薬酒は、果実を乾燥したもの、熟した生果実のどちらでもよく、容器の3分の1ほど入れて35度のホワイトリカーに1か月以上漬け込んで作る。1日に猪口1杯程度飲むとされるが、妊婦は服用しない。
- ^ 最新のAPG体系ではガマズミ科 (Viburnaceae) に分類される。2017年に採択される以前はレンプクソウ科 (Adoxaceae) に分類され、古いクロンキスト体系や新エングラー体系ではスイカズラ科 (Caprifoliaceae) に分類されていた[1]。
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- 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑・木本編I』保育社〈保育社の原色図鑑 49〉、1971年11月。