テルトゥリアヌス

テルトゥリアヌス

クイントゥス・セプティミウス・フロレンス・テルトゥリアヌス（Quintus Septimius Florens Tertullianus, 160年ねん? - 220年ねん?）は、2世紀せいきのキリスト教きりすときょう神学しんがく者しゃ。ラテン語らてんごで著述ちょじゅつを行おこなったいわゆるラテン教父きょうふの系統けいとうに属ぞくする最初さいしょの一人ひとり。テルトリアヌスとも。

概要がいよう

カルタゴ（現げんチュニジア）に生うまれる。その生涯しょうがいについてはほとんど知しられていない。197年ねんにはローマにおいて洗礼せんれいを受うけていたことがわかっている。彼かれは法学ほうがくと修辞しゅうじ学がくを学まなび、その知識ちしきをキリスト教きりすときょう擁護ようごに活いかした。カルタゴに戻もどった彼かれは、キリスト教きょう信仰しんこうを異教徒いきょうとに対たいして弁明べんめいするための文書ぶんしょ、正統せいとう主義しゅぎ信仰しんこうを異端いたんから擁護ようごするための論駁ろんばく書しょを数多かずおおく著あらわした。

テルトゥリアヌスは神学しんがくや弁べん証しょう学がくを聖書せいしょ以外いがいのものに基礎きそづけることに激はげしく反対はんたいした。彼かれは聖書せいしょの充たかし全ぜん性せいの原理げんりを唱となえた古代こだいの人々ひとびとの中なかでも、最もっとも強力きょうりょくにそれをした人物じんぶつの一人ひとりに数かぞえられる。「アテネとエルサレムと何なんの関係かんけいがあろうか。アカデメイアと教会きょうかいと何なんの関係かんけいがあろうか」と問とい、真しんの神かみの知識ちしきを得えるために世俗せぞくの哲学てつがくを引ひき合あいに出だそうとする人々ひとびとに激はげしい批判ひはんをしている。

厳格げんかくなキリスト教徒きりすときょうととして生いきようとした彼かれは最終さいしゅう的てきに、モンタノス派はに加くわわった。このため重要じゅうような神学しんがく者しゃであるにもかかわらず、聖人せいじん崇敬すうけいを行おこなう各かく教派きょうは（正教会せいきょうかい・東方とうほう諸しょ教会きょうかい・カトリック教会きょうかい・聖せい公会こうかい）のいずれにおいても列聖れっせいされていない。後のちにモンタノス派はの中なかでも衝突しょうとつを起おこし、自みずからのグループ（テルトゥリアヌス派は）を形成けいせいしたようである。

テルトゥリアヌスはキリスト論ろん、三位一体さんみいったい論ろんを系統的けいとうてきに論ろんじた最初さいしょの人物じんぶつであり、『護まもる教きょう論ろん』など31編へんの著作ちょさくが現存げんそんする。

「殉教者じゅんきょうしゃの血ちは教会きょうかいの種たね」ということばが有名ゆうめい。

本人ほんにんはそのままの形かたちでは述のべていない有名ゆうめいな文言もんごん

「不条理ふじょうりなるが故ゆえに我わが信しんじず」（別べつの訳わけ例れいとしては「不合理ふごうりなるが故ゆえに我わが信しんじず」等とう、ラテン語らてんご: Credo quia absurdum）という言葉ことばが、しばしばテルトゥリアヌスに帰かえせられる言葉ことばとして言及げんきゅうされるが、実際じっさいにはそれは誤あやまりで、テルトゥリアヌスはその通とおりには述のべていない。

テルトゥリアヌスが実際じっさいに述のべた文言もんごんは以下いかの通とおりである。

日本語にほんご訳やく	原文げんぶん
神かみの子こが死しんだということ、これはそのまま信しんずるに値あたいする。何故なぜならそれは不条理ふじょうりだからだ。そして、墓はかに葬ほうむられ、彼かれは復活ふっかつした。この事実じじつは確たしかだ。何故なぜなら、それは不可能ふかのうだからだ。 テルトゥリアヌス『キリストの肉にくについて』	et mortuus est dei filius: prorsus credibile est, quia ineptum est. et sepultus resurrexit: certum est, quia impossibile. "De Carne Christi", Quintus Septimius Florens Tertullianus

ヤロスラフ・ペリカンは、イエス・キリストに（新約しんやく聖書せいしょ・ヨハネによる福音ふくいん書しょにおいて）「ロゴス」という名なが与あたえられたことは、キリスト信仰しんこうの逆説ぎゃくせつ性せいを、信仰しんこうの非合理ひごうり性せいを讃たたえ美びするほどに重おもんずる傾向けいこうに歯止はどめをかけるはたらきを持もつものであるとし、これを前提ぜんていとした上うえで、テルトゥリアヌスによる本来ほんらいの文言もんごんを紹介しょうかい。テルトゥリアヌスの文言もんごんが直ちょく解かい主義しゅぎ・反はん知性ちせい主義しゅぎといったかたちで独自どくじに権威けんい主義しゅぎ的てきに取とり上あげられることについて批判ひはん的てきに述のべている。

主おもな著作ちょさく

Opera omnia, 1598

• 『護まもる教きょう論ろん』
• 『ユダヤ人じん反駁はんばく』
• 『魂たましいの証あかしについて』人間にんげんの魂たましいを裁判さいばんの場ばに立たたせる内容ないよう。
• 『見世物みせものについて』
• 『祈いのりについて』
• 『女性じょせいの服装ふくそうについて』
• 『ヘルモゲネス反駁はんばく』
• 『マルキオン反駁はんばく』
• 『慎つつしみについて』
• 『プラクセアス反駁はんばく』モンタノス運動うんどうに加くわわっている時期じきに書かかれた最もっとも重要じゅうような著作ちょさくで、後ごの三位一体さんみいったい論ろん、キリスト論ろんをめぐる論争ろんそうにとって極きわめて重要じゅうようとなる「一ひとつの本質ほんしつにおける三みっつの位い格かく」という定式ていしきを示しめした。彼かれは「位い格かく」や「本質ほんしつ」という語かたりを法的ほうてきな概念がいねんに基もとづいて用もちいたが、後ごの神学しんがく者しゃたちはこれらの用語ようごを形而上学けいじじょうがく的てきに論ろんじた。
• 『キリストの肉体にくたいについて』
• 『異端いたん者しゃへの抗弁こうべん』　テルトゥリアヌスの精神せいしんが最もっともよく発揮はっきされている著作ちょさく。

関連かんれん文献ぶんけん

• テルトゥリアヌス著ちょ、金井かない寿男としお訳わけ『護まもる教きょう論ろん』水府すいふ出版しゅっぱん、1984年ねん。ISBN 491550400X
• テルトゥリアヌス著ちょ、土岐とき正策しょうさく訳わけ『キリスト教きょう教父きょうふ著作ちょさく集しゅう　第だい13巻かん　テルトゥリアヌス1　プラクセアス反論はんろん / パッリウムについて』教きょう文ぶん館かん、1987年ねん。ISBN 978-4764229136
• テルトゥリアヌス著ちょ、鈴木すずき一郎いちろう訳わけ『キリスト教きょう教父きょうふ著作ちょさく集しゅう　第だい14巻かん　テルトゥリアヌス2　護まもる教きょう論ろん（アポロゲティクス）』教きょう文ぶん館かん、1987年ねん。ISBN 978-4764229143
• テルトゥリアヌス著ちょ、木き寺てら廉れん太ふとし訳わけ『キリスト教きょう教父きょうふ著作ちょさく集しゅう　第だい16巻かん　テルトゥリアヌス4　倫理りんり論ろん文集ぶんしゅう』教きょう文ぶん館かん、2002年ねん。ISBN 978-4764229167
• テルトゥリアヌスほか著ちょ、佐藤さとう吉昭よしあきほか訳やく、上智大学じょうちだいがく中世ちゅうせい思想しそう研究所けんきゅうじょ編へん訳やく・監修かんしゅう『初期しょきラテン教父きょうふ』平凡社へいぼんしゃ、1999年ねん。ISBN 4582734146

関連かんれん項目こうもく

• 神学しんがく者しゃの一覧いちらん
• 教父きょうふ
• キプリアヌス