ハンス・ホッター

ハンス・ホッター Hans Hotter
（1940年ねん）
基本きほん情報じょうほう
生誕せいたん	(1909-01-19) 1909年ねん1月がつ19日にち
出身しゅっしん地ち	ドイツ帝国ていこく オッフェンバッハ・アム・マイン
死没しぼつ	(2003-12-06) 2003年ねん12月6日にち（94歳さい没ぼつ） ドイツ ミュンヘン
学歴がくれき	ミュンヘン大学だいがく ミュンヘン音楽おんがく大学だいがく
ジャンル	クラシック音楽おんがく
職業しょくぎょう	声楽せいがく家か（バスバリトン） オペラ歌手かしゅ 音楽おんがく教育きょういく者しゃ オペラ演出えんしゅつ家か

ハンス・ホッター（ドイツ語ご：Hans Hotter, 1909年ねん1月がつ19日にち - 2003年ねん12月6日にち）は、ドイツの声楽せいがく家か（バスバリトン）、オペラ歌手かしゅ、音楽おんがく教育きょういく者しゃ、オペラ演出えんしゅつ家か。

略歴りゃくれき

ドイツ帝国ていこくのオッフェンバッハ・アム・マインで生うまれる。高校こうこうを卒業そつぎょう後ご、ミュンヘン大学だいがくで哲学てつがくと音響おんきょう学がくを学まなび、宗教しゅうきょう音楽家おんがくかを目指めざしてミュンヘン音楽おんがく大学だいがくでピアノとオルガンを学まなんでいたが、1929年ねんにヘンデル『メサイア』のバス独唱どくしょうの代役だいやくを務つとめた際さいに、マッテウス・レーマーに歌手かしゅとしての才能さいのうを認みとめられ、声楽せいがくを師事しじした。1930年ねんトロッパウ（現げん：チェコ領りょうオパヴァ）でモーツァルト『魔ま笛ふえ』の弁べん者しゃを歌うたってオペラデビュー。すでに22歳さいのとき、ワーグナー『ジークフリート』で「さすらい人じん（ヴォータン）」を歌うたっている。

1932年ねんにはブレスラウ（現げんポーランド領りょうヴロツワフ）とプラハ国立こくりつ歌劇かげき場じょうで歌うたう。その後ご1934年ねんにハンブルク州立しゅうりつ歌劇かげき場じょうに出演しゅつえんしている。1937年ねんにはバイエルン国立こくりつ歌劇かげき場じょうと契約けいやく。ここで彼かれは、ワーグナーの全すべてのバリトン役やくを務つとめただけでなく、リヒャルト・シュトラウス『平和へいわの日ひ』『カプリッチョ』『ダナエの愛あい』の初演しょえんにも参加さんかしている。彼かれは35年ねん以上いじょう在籍ざいせきし、50年ねんにわたって実質じっしつ的てきに出演しゅつえん。モーツァルトとヴェルディも数多かずおおく歌うたった。彼かれはミュンヘン、ウィーン、シュトゥットガルト、ハンブルク、シカゴなど主要しゅような歌劇かげき場じょうを中心ちゅうしんに活躍かつやくした。

1947年ねんにはロンドンのコヴェント・ガーデン王立おうりつ歌劇かげき場じょうでデビュー。1950年ねんメトロポリタン歌劇かげき場じょうにデビューし、ワーグナーの諸しょ役やくをその後ご数すうシーズンにわたり演えんじた。

1952年ねんから1966年ねんの間あいだ、彼かれはバイロイト音楽おんがく祭さいに15年ねん連続れんぞくして出演しゅつえんしている。そこで彼かれは1952-1958年ねん、1961年ねん、1963年ねん、1965年ねんに『ニーベルングの指ゆび環たまき』ヴォータン、1955年ねんと1965年ねんに『さまよえるオランダ人じん』オランダ人じん、1953-1954年ねんに『パルジファル』アムフォルタス、1960-1966年ねんに『パルジファル』グルネマンツ、1952年ねんと1957年ねんに『トリスタンとイゾルデ』クルヴェナル、1956年ねんに『ニュルンベルクのマイスタージンガー』ハンス・ザックス、1958年ねんと1960年ねんに『マイスタージンガー』ポーグナー、1955年ねんに『神かみ々の黄昏たそがれ』グンターを歌うたっている。

また、ザルツブルク音楽おんがく祭さいやエディンバラ音楽おんがく祭さいにも出演しゅつえんし、大だい成功せいこうを収おさめた。ザルツブルクでは、1942年ねんにモーツァルト『フィガロの結婚けっこん』アルマヴィーヴァ伯爵はくしゃく、1943年ねんに『魔ま笛ふえ』弁べん者しゃ、1946年ねんにモーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』タイトルロール、1947年ねんにリヒャルト・シュトラウス『アラベラ』マンドリーカ、1959年ねんにはリヒャルト・シュトラウス『無口むくちな女おんな』モロズス、1969年ねんにはベートーヴェン『フィデリオ』ドン・フェルナンド（大臣だいじん）を歌うたっている。

オペラ演出えんしゅつ家かの分野ぶんやにも進出しんしゅつし、1961年ねんから1964年ねんにかけてロンドンのコヴェント・ガーデンで『ニーベルングの指ゆび環たまき』全曲ぜんきょくを演出えんしゅつした。また、ウィーンやハンブルクでも演出えんしゅつ家かを務つとめた。

1972年ねんにはパリ国立こくりつオペラ座ざで再ふたたび舞台ぶたいに立たち『ワルキューレ』ヴォータンを歌うたったが、その後ごも時折ときおり舞台ぶたいに立たつ（1983-1984年ねんウィーン国立こくりつ歌劇かげき場じょうでアルバン・ベルク『ルル』シゴルヒ、1985年ねんスカラ座すからざで『魔ま笛ふえ』弁べん者しゃ）。高齢こうれいになっても、ホッターのカリスマ的てきな姿すがたはシゴルヒ（1992年とし）のようなつかみどころのない人物じんぶつにさえ印象いんしょう的てきな存在そんざい感かんを与あたえていた。ホッターが最後さいごに演えんじたのは2001年ねん2月がつリヒャルト・ホイベルガー『オペラボール』王子おうじリージェントである。

さらに、ホッターは歌曲かきょくの分野ぶんやにおいても彼かれの世代せだいの最もっとも重要じゅうような歌手かしゅであった（詳細しょうさいは後述こうじゅつ）。

1955年ねんにホッターはバイエルンの宮廷きゅうてい歌手かしゅの称号しょうごうを受うけている。

1977年ねんにはウィーン国立音楽大学くにたちおんがくだいがくの教授きょうじゅに任命にんめいされた。1979年ねんにミュンヘンガスタイクスの小ちいさなホールで開催かいさいされた若わかい歌手かしゅのためのマスタークラスは、ザールラント放送ほうそうで録画ろくがされ、 ヴォルフ＝エバーハルト・フォン・レヴィンスキ（ドイツの音楽おんがく評論ひょうろん家か）のドキュメンタリー映画えいが『ハンス・ホッター』としてARD（ドイツ公共こうきょう放送ほうそう）で放送ほうそうされた。

1996年ねんには彼かれの自伝じでん『5月がつは私わたしをもてなしてくれた…』„Der Mai war mir gewogen ...“（『冬ふゆの旅たび』の一いち節せつである）がKindler出版しゅっぱん社しゃから出版しゅっぱんされた。

1985年ねん、ホッターはミュンヒナー・タームシュライバー（Münchner Turmschreiber:南みなみドイツの著名ちょめいな作家さっか、劇げき作家さっか、エッセイスト、ジャーナリスト、評論ひょうろん家か、歴史れきし家か、教授きょうじゅなどによるグループ）から「バイエルンの詩人しじん賞しょう（Bayerischen Poetentaler）」を与あたえられた。また、1998年ねんには「ウィーン市しの名誉めいよの指輪ゆびわ（Ehrenring der Stadt Wien）」を授与じゅよされた。

2003年ねん12月6日にち、ミュンヘンで死去しきょ。94歳さい没ぼつ。ミュンヘンのゾルン森林しんりん墓地ぼちに埋葬まいそうされている。

歌唱かしょうなど

ホッターは幅広はばひろいレパートリーを持もっていたが、とりわけ偉大いだいなワーグナー歌うたいとして広ひろく認みとめられ、『ニーベルングの指ゆび環たまき』の神々こうごうしいヴォータン、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の慈愛じあいに満みちたハンス・ザックス、『パルジファル』のグルネマンツ、オランダ人じんなど主要しゅよう作品さくひんの要ようとなる役柄やくがらにおいて高たかい評価ひょうかを受うけた。

また、ホッターはオペラの舞台ぶたいのほか、バッハの宗教しゅうきょう曲きょく、シューベルト、シューマン、レーヴェ、ヴォルフ、リヒャルト・シュトラウスなどのドイツ歌曲かきょくにおいても、その洞察どうさつ力りょくに富とんだ解釈かいしゃくで深ふかい感動かんどうを与あたえた。特とくに1954年ねんにジェラルド・ムーアのピアノ伴奏ばんそうで歌うたったフランツ・シューベルトの連作れんさく歌曲かきょく『冬ふゆの旅たび』の解釈かいしゃく・歌唱かしょうは世界せかい的てきに著名ちょめいであり、まさに「世紀せいきの録音ろくおん」と言いっても過言かごんではない。1962年ねん以来いらい、日本にっぽんでもたびたびリサイタルを行おこない、多おおくの聴衆ちょうしゅうの支持しじを受うけた。1990年代ねんだいまで彼かれは高たかい水準すいじゅんの歌唱かしょう力りょくを保たもち続つづけ、リサイタルを開催かいさいし続つづけた。

彼かれの力強ちからづよく比類ひるいないバス・バリトンの声こえは、楽曲がっきょくにふさわしい洗練せんれんされたテクニックをも併あわせ持もつものであった。さらに、卓越たくえつした知性ちせいと想像そうぞう力りょくも伴ともなっていた。

特とくに前述ぜんじゅつの『冬ふゆの旅たび』、シューベルトの『白鳥はくちょうの歌うた』が広ひろく愛あい聴されているが、バス・バリトンという自身じしんの声域せいいきからレパートリーを制限せいげんし、『美うつくしき水車みずぐるま小屋こやの娘むすめ』などは歌うたわなかった。

ミュンヘンのホッターのもとにはさまざまな歌手かしゅが勉強べんきょうに訪おとずれ、クリスタ・ルートヴィヒが女性じょせいが『冬ふゆの旅たび』を歌うたう事ことについて尋たずねた際さいには「良よいと思おもうよ。私わたしは『女おんなの愛あいと生涯しょうがい』を歌うたおうとは思おもわないけど」と語かたった。後のちにナタリー・シュトゥッツマンも『冬ふゆの旅たび』を勉強べんきょうしにホッターのもとを訪おとずれた。

エピソード

1956年ねんコヴェントガーデン王立おうりつ歌劇かげき場じょうでの『ワルキューレ』上演じょうえんの際さい、ヴォータン役やくのホッターのマントから、ピンクのヒラヒラの付ついたコート・ハンガーがにょっきり突つき出でていた。ホッターは幕まくの間あいだじゅう、その姿すがたで堂々どうどうとのし歩あるき、その威厳いげんに満みちた態度たいどに、聴衆ちょうしゅう一同いちどうはまもなく「コート・ハンガー無なしのヴォータンなどはヴォータンとは言いえない」と思おもい始はじめたほどだった。アーネスト・ニューマン（英国えいこくの音楽おんがく評論ひょうろん家か）は、ホッターこそ「舞台ぶたいに出でて、自みずからが神かみその人ひとであることを、聴衆ちょうしゅうに納得なっとくさせることのできる、世界せかいにただ一人ひとりの人物じんぶつ」と評ひょうしたという。

ディスコグラフィー

オペラ、コンサート、オラトリオ、歌曲かきょく等とう、きわめて数すう多おおくの録音ろくおん・映像えいぞうを残のこしており、日本にっぽん版ばんAmazonだけでも2020年ねん8月がつ現在げんざいも1000点てん以上いじょうのアイテムが存在そんざいする。

Audio examples

• [1] Richard Wagner: Der fliegende Holländer - 1. act
• [2] Richard Wagner: Der fliegende Holländer - 2. act
• [3] Richard Wagner: Der fliegende Holländer - 3. act

Daland: Kurt Böhme, Senta: Helene Werth, Erik: Bernd Aldenhoff, Mary: Res Fischer, Steuermann: Helmut Krebs, Holländer: Hans Hotter - Chor und Sinfonieorchester des Norddeutschen Rundfunks - Wilhelm Schüchter - Hamburg 1951

参考さんこう文献ぶんけん

• ハンス・ホッター:『5月がつは私わたしをもてなしてくれた…』„Der Mai war mir gewogen ...“『回想かいそう録ろく』Kindler出版しゅっぱん社しゃ、ミュンヘン 1996 ISBN 3-463-40266-1
• ミヒャエル・ヤーン「ヴェルディとワーグナーの表現ひょうげん者しゃとしてのハンス・ホッター」『ウィーンのヴェルディとワーグナー』第だい4巻かん Der Apfel 出版しゅっぱん社しゃ、ウィーン 2015 p.95-102 ISBN 978-3-85450-325-5

外部がいぶリンク

• Werke von und über - ドイツ国立こくりつ図書館としょかんの蔵書ぞうしょ目録もくろく（ドイツ語ご）より。

• Hans Hotter Operissimo のサイト。Großen Sängerlexikons による（ドイツ語ご）。
• バイロイト音楽おんがく祭さいのウェブサイトのハンスホッター（ドイツ語ご）
• 「履歴りれき書しょ」インタビュー（き手きて:クラウス・シュルツ）パート1（PDF,45 kB）パート2（PDF,39kB）1999年ねんバイエルン放送ほうそうアルファフォーラム（ドイツ語ご）
• 1999年ねんのヴィルヘルムピッツ賞しょう受賞じゅしょうのスピーチ（ドイツ語ご）
• ハンス・ホッターの死亡しぼう記事きじ（ドイツ語ご）
• オーストリア・メディア・ライブラリーのオンライン所蔵しょぞうにおけるハンス・ホッターのオーディオ録音ろくおん （インタビュー、レコード録音ろくおん 、ラジオレポート）
• ZeitZeichen 西にしドイツ放送ほうそう(WDR)のラジオ番組ばんぐみ:1909年ねん1月がつ19日にち－歌手かしゅハンスホッターの誕生たんじょう日び（ドイツ語ご）