声楽せいがく

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

声楽せいがく(せいがく)とは、器楽きがく対語たいごであり、人声ひとごえ中心ちゅうしんとした音楽おんがくす。通常つうじょう浪曲ろうきょく演歌えんかふくまない[1]

概要がいよう[編集へんしゅう]

人間にんげんこえによって人生じんせい哀歓あいかん悲壮ひそう崇高すうこうなどを聴衆ちょうしゅうかんじさせる音楽おんがく分野ぶんやである[1]本来ほんらいてきには西洋せいよう音楽おんがく用語ようごであり、器楽きがくたいして人間にんげんこえによる音楽おんがく[2]

西洋せいよう音楽おんがくにおける声楽せいがく[編集へんしゅう]

うた歌曲かきょく合唱がっしょうきょくオペラカンタータなど人間にんげんこえによる音楽おんがく[2]であり、しばしば楽器がっき伴奏ばんそうくわわる。声楽せいがく専攻せんこうし、生業せいぎょうとしている音楽家おんがくか声楽せいがくぶが、この用語ようごおもクラシック音楽おんがく歌手かしゅしてもちいられる。

なお、人声ひとごえがあってもベートーヴェンだい9交響こうきょうきょく合唱がっしょうき」グスタフ・マーラー交響曲こうきょうきょくのように、関心かんしん器楽きがくてき演奏えんそうけられている場合ばあい声楽せいがくきょくとはよばない[3]

こえしゅ[編集へんしゅう]

こえ音域おんいきによる区別くべつこえしゅという。現在げんざい声楽せいがくにおけるこえしゅとしては6つにけられる。

このほかに、カウンターテノール(ファルセットで女声じょせい音域おんいきうた男性だんせい歌手かしゅ)、ソプラニスタ(ソプラノの音域おんいきこえをもつ男性だんせい歌手かしゅ)、変声期へんせいきまえのソプラノの音域おんいきうた少年しょうねんこえとしてボーイソプラノがある。

また、16世紀せいき中頃なかごろから18世紀せいきにはカストラート少年しょうねんこえたもつために去勢きょせいした男性だんせい歌手かしゅ)がいた。代表だいひょうてき歌手かしゅとしてファリネッリ(Farinelli 1705-1782)がげられる。

声質せいしつによる分類ぶんるい[編集へんしゅう]

おなじソプラノでも、声質せいしつ性格せいかくによってさらにこまかく分類ぶんるいされる。おなじように、メッゾ・ソプラノ、アルト、テノール、バリトン、バスもこまかく分類ぶんるいされる。これは、オペラにおいてこれまでに様々さまざまやく登場とうじょうし、それぞれのやくによってうた音域おんいき声質せいしつ必要ひつようなテクニックがおおきくちがってきているため、こまかく分類ぶんるいする必要ひつようてきたとかんがえられる[4]

ソプラノ

(soprano)

こえ特徴とくちょう
コロラトゥーラ[5]・ソプラノ 劇的げきてき表現ひょうげんのためのトリルや跳躍ちょうやく音程おんていめるはやはしなどをこえころがすようにうた技術ぎじゅつ(アジリタ agilità)をもちいるこえしゅさい高音こうおんときさんてんファ(通称つうしょうハイF)にたっする。
ソプラノ・レッジェーロ かるくてたかこえこう音域おんいきこまかい技巧ぎこうてきうた得意とくいとする。コロラトゥーラ・ソプラノとして活躍かつやくする場合ばあいもある。
ソプラノ・リリコ・レッジェーロ レッジェーロとリリコの中間ちゅうかんこえ。スーブレットとばれる機知きちんだ小間使こまづかやくもこのこえやくどころである。
ソプラノ・リリコ もっと一般いっぱんてきなソプラノのこえ叙情じょじょうてき表情ひょうじょうゆたかなこえで、オペラにおいてはこのこえやく一番いちばんおおい。
ソプラノ・リリコ・スピント リリコよりも力強ちからづよ強靭きょうじんこえ。ヴェルディ後期こうきからヴェズリモ・オペラの作品さくひんおお登場とうじょうするこえ
ソプラノ・ドラマティコ スピントよりも強靭きょうじん重量じゅうりょうかんのあるこえ。ワーグナーやリヒャルト・シュトラウスなどドイツ・オペラに登場とうじょうする重量じゅうりょうかんのあるこえ
ソプラノ・ドラマティコ・ダジリタ ドラマティコのこえでありながら、アジリタの卓越たくえつした技巧ぎこう駆使くししてコロラトゥーラのはやこまかい音符おんぷうたうことができるこえ。マリア・カラスがこのこえである。
メッゾ・ソプラノ

(mezzo soprano)

こえ特徴とくちょう
メッゾ・ソプラノ・リリコ  比較的ひかくてきかるこえで、ソプラノよりすこくら音色ねいろとなる。コロラトゥーラ(アジリタ)の超絶ちょうぜつ技巧ぎこう要求ようきゅうされる役柄やくがらおおい。
メッゾ・ソプラノ・ドラマティコ 比較的ひかくてきふとくてあつみのあるこえ。ドラマッティックな表現ひょうげん得意とくいとするこえ
アルト(コントラルト) contralto    こえ特徴とくちょう
アルト        

(コントラルト)  

女声じょせいなかもっとひく音域おんいきうたこえ。このこえをもつ歌手かしゅはあまりいないので、メッゾ・ソプラノの歌手かしゅがアルトのやくうた場合ばあいもある。
テノール(tenore)   こえ特徴とくちょう
テノーレ・レッジェーロ もっとかるたかひびきのテノールのこえ。コロラトゥーラ(アジリタ)の超絶ちょうぜつ技巧ぎこう要求ようきゅうされるやくや、繊細せんさい表現ひょうげんもとめられるやくがある。
テノーレ・リリコ もっと一般いっぱんてきなテノールのこえ役柄やくがら一番いちばんおおく、表情ひょうじょうんだ叙情じょじょうてき旋律せんりつうたう。
テノーレ・スピント リリコよりもおもみがあって、かがやかしく強靭きょうじんこえ
テノーレ・ドラマティコ もっと重量じゅうりょうきゅう強靭きょうじんこえで、ドラマティックな表現ひょうげん得意とくいとする。そのなかでもワーグナーの楽劇がくげきうた歌手かしゅをヘルデンテノールとぶ。
バリトン(baritono) こえ特徴とくちょう
バリトノ・リリコ テノールとバスの中間ちゅうかん音域おんいきで、抒情じょじょうてきうつくしい旋律せんりつうたうことを得意とくいとするこえ。            
バリトノ・ブッフォ オペラ・ブッファ(歌劇かげき)において比較的ひかくてきかるこえ早口はやくちうたうことを得意とくいとするこえ
バリトノ・ドラマティコ 強靭きょうじんこえでドラマティックな表現ひょうげん得意とくいとするこえ
バス(basso) こえ特徴とくちょう
バッソ・ブッフォ コミカルなやく得意とくいとする。
バッソ・カンタンテ 抒情じょじょうてきうつくしい旋律せんりつ得意とくいとする。
バッソ・プロフォンド ふか音色ねいろひく音域おんいき得意とくいとする。

備考びこう

ロッシーニの時代じだいのソプラノのこえしゅとしてソプラノ・ドラマティコ・ダシリタ(soprano drammatico d'agilità)が使つかわれてきたが、最近さいきん研究けんきゅうにおいては、ソプラノの声質せいしつだがひく音域おんいきうたい、ドラマティックなアジリタにくわえてロッシーニのメッゾ・ソプラノやアルトのやくうたえるこえとして、ソプラノ・スフォガート(soprano sfogato)と分類ぶんるいされる場合ばあいもある。また、これとはぎゃくに、コントラルトの声質せいしつをもちながら2てんシまでうたい、アジリタを駆使くしして華麗かれいなコロラトゥーラをかせるこえとしてメッゾ・コントラルトがあった。

おなじくロッシーニの時代じだいのテノールにおいては、バリトンてき声質せいしつでありながらテノールの音域おんいきかがやかしいこえうたいアジリタもかせるこえとしてバリテノーレがあった。これにたい通常つうじょうのテノールよりテッシトゥーラたかかるこえでアジリタをかせるこえとしてテノーレ・コントラルティーノ(tenore contraltino)があった[6]

声楽せいがく種類しゅるい[編集へんしゅう]

伝統でんとうてき日本にっぽん音楽おんがくにおける声楽せいがく[編集へんしゅう]

声楽せいがくは、伝統でんとうてき日本にっぽん音楽おんがく邦楽ほうがく)において、そのだい部分ぶぶんめている[7]日本にっぽん音楽おんがくにおける声楽せいがくは、「うたいもの」と「かたりもの」におおきくけられる[7]

うたいもの」は、旋律せんりつやリズムなど、その音楽おんがくてき要素ようそ重視じゅうしされる楽曲がっきょくであるのにたいし、「かたりもの」は詞章ししょうなんらかの物語ものがたりせいをもつ楽曲がっきょくであり、かたられる内容ないよう表現ひょうげん重点じゅうてんかれる音楽おんがくである[7]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b しん明解めいかい国語こくご辞典じてん』(2010)
  2. ^ a b 旺文社おうぶんしゃ国語こくご辞典じてん』(1965)
  3. ^ いし (2004)
  4. ^ こえ種類しゅるいについて”. テノール歌手かしゅ 酒向さこう隆憲たかのり TAKANORI SAKO TENORE. 2022ねん8がつ20日はつか閲覧えつらん
  5. ^ coloratura:イタリア色付いろづけ、脚色きゃくしょく彩色さいしきなどの意味いみ
  6. ^ 研究けんきゅう論文ろんぶん論考ろんこう(2)ベルカント、歌手かしゅ歌唱かしょう演奏えんそう解釈かいしゃく”. akira642 ページ!. 2022ねん8がつ20日はつか閲覧えつらん
  7. ^ a b c こもでん (1990) p.116

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]