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パンドラウイルス属 ぞく (Pandoravirus ) とは、ウイルス の1属 ぞく である[1] 。単 たん にパンドラウイルス とも呼 よ ばれる。2013年 ねん 時点 じてん で2種 たね が発見 はっけん されているが、いずれもカプシド 径 みち が長 なが さ1μ みゅー m、幅 はば 0.5μ みゅー m、ゲノム が約 やく 200万 まん 塩基 えんき 対 たい と、共 とも に既知 きち のウイルスの中 なか で最大 さいだい である。(一般 いっぱん 的 てき なウイルス は0.05μ みゅー mから0.1μ みゅー m程度 ていど である。)そのため、新 あたら しいドメイン を構成 こうせい する生物 せいぶつ ではないかとする説 せつ もある[2] 。
パンドラウイルス属 ぞく は、2013年 ねん にエクス・マルセイユ大学 だいがく の Nadège Philippe らの研究 けんきゅう チームによって発見 はっけん されたウイルスである[1] 。2種 しゅ が記載 きさい されており、それぞれパンドラウイルス・サリヌス (Pandoravirus salinus ) とパンドラウイルス・ドゥルキス (Pandoravirus dulcis ) という学名 がくめい が付 つ けられている[1] [2] 。この2種 しゅ をもってパンドラウイルス科 か (Pandoraviridae) とパンドラウイルス属 ぞく を構成 こうせい する。発見 はっけん の成果 せいか は同年 どうねん 7月 がつ 19日 にち にサイエンス に掲載 けいさい され、電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう によって撮影 さつえい されたパンドラウイルスの写真 しゃしん が同誌 どうし の表紙 ひょうし を飾 かざ った[1] 。
パンドラウイルス属 ぞく はアメーバ に寄生 きせい するウイルスである。サリヌスはチリ のトゥンケン川 がわ 河口 かこう から、ドゥルキスはオーストラリア のメルボルン 近郊 きんこう にある淡水 たんすい 湖 みずうみ から発見 はっけん された。どちらも水中 すいちゅう の堆積 たいせき 物 ぶつ 中 ちゅう に豊富 ほうふ に生息 せいそく するアメーバを調査 ちょうさ した結果 けっか である[2] 。アメーバが研究 けんきゅう 対象 たいしょう となったのは、2003年 ねん に巨大 きょだい なウイルスとしては初 はじ めて記載 きさい されたミミウイルス (Acanthamoeba polyphaga mimivirus ) をはじめとして、しばしばアメーバから寄生 きせい する巨大 きょだい なウイルスが発見 はっけん された[3] ためである。メガウイルス・キレンシス (Megavirus chilensis ) のように宿主 しゅくしゅ は不明 ふめい であるが、実験 じっけん 室 しつ の中 なか ではアメーバに寄生 きせい することが確認 かくにん されているものもある[4] 。これらの巨大 きょだい なウイルスはアメーバに感染 かんせん する事 こと でアメーバを餌 えさ にしていると考 かんが えられており、ヒトには感染 かんせん しない[2] 。
2013年 ねん 以後 いご は、世界 せかい 各地 かくち でパンドラウイルスの発見 はっけん が相次 あいつ いでいる。2019年 ねん には武村 たけむら 政春 まさはる と明石 あかし 基 はじめ 洋 よう が荒川 あらかわ (関東 かんとう ) の河川敷 かせんしき で採取 さいしゅ した土壌 どじょう からパンドラウイルスの2種 しゅ を発見 はっけん し、それぞれパンドラウイルス・ハデス、パンドラウイルス・ペルセポネと命名 めいめい している[5] 。
パンドラウイルス属 ぞく は電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう 下 か ではおよそ楕円 だえん 形 がた の見 み かけをしている。非常 ひじょう に巨大 きょだい であり、ウイルスとしては最大 さいだい のカプシド径 みち を有 ゆう している。大 おお きさは、長 なが さ1μ みゅー m、幅 はば 0.5μ みゅー mと、これまで最大 さいだい であったメガウイルス・キレンシス の0.68μ みゅー mを上回 うわまわ り[6] 、ウイルスとしては初 はじ めて1μ みゅー mを超 こ える大 おお きさを記録 きろく した。これは0.05μ みゅー mから0.1μ みゅー mのサイズが多 おお いウイルスより[2] 、むしろ細菌 さいきん のサイズである[6] 。例 たと えば大腸菌 だいちょうきん (Escherichia coli ) は長 なが さ2μ みゅー mである事 こと と比較 ひかく すれば、パンドラウイルス属 ぞく がいかに巨大 きょだい であるかが分 わ かる。また、マイコプラズマ・ゲニタリウム (Mycoplasma genitalium ) やナノアルカエウム・エクウィタンス (Nanoarchaeum equitans ) など、一部 いちぶ の生物 せいぶつ の大 おお きさを上回 うわまわ っている。一般 いっぱん にウイルスは光学 こうがく 顕微鏡 けんびきょう では見 み えない大 おお きさであるが、パンドラウイルスは見 み えることになる[6] 。にもかかわらず、パンドラウイルス属 ぞく が生物 せいぶつ ではなくウイルスと分類 ぶんるい されたのは、カプシドにDNAが包 つつ まれていることや、タンパク質 たんぱくしつ の翻訳 ほんやく やアデノシン三 さん リン酸 さん の合成 ごうせい に関 かか わる遺伝子 いでんし などが欠如 けつじょ していることからである[1] 。このように巨大 きょだい であるために、過去 かこ の調査 ちょうさ でもパンドラウイルス属 ぞく が発見 はっけん されていながら細菌 さいきん として見逃 みのが されていたという可能 かのう 性 せい がある。実際 じっさい 、発見 はっけん した研究 けんきゅう チームの調査 ちょうさ では、アカントアメーバ (Acanthamoeba ) に寄生 きせい する生物 せいぶつ に関 かん する2000年 ねん に書 か かれた文献 ぶんけん で、パンドラウイルス属 ぞく と良 よ く似 に た小片 しょうへん についての記載 きさい がある。また、微生物 びせいぶつ 学者 がくしゃ のジャン・ミシェル・クラブリー とシャンタル・アベルジェル によれば、ウイルスは単独 たんどく で増殖 ぞうしょく する能力 のうりょく がないので培養 ばいよう することは出来 でき ないが、仮 かり にパンドラウイルスを細菌 さいきん だと思 おも い込 こ んで培養 ばいよう に挑戦 ちょうせん し、失敗 しっぱい しても、海中 かいちゅう に生息 せいそく する細菌 さいきん の約 やく 60%は培養 ばいよう に成功 せいこう していないため、細菌 さいきん であるという思 おも い込 こ みに疑問 ぎもん を抱 いだ くことはないだろうと述 の べている[2] 。過去 かこ の同様 どうよう の例 れい として、あまりに巨大 きょだい であるため、約 やく 9年間 ねんかん 細菌 さいきん に分類 ぶんるい されていたミミウイルスがある[6] 。
また、パンドラウイルス属 ぞく は見 み かけだけでなくゲノム サイズも非常 ひじょう に巨大 きょだい である。サリヌスは約 やく 247万 まん 塩基 えんき 対 たい [7] のDNAを有 ゆう し、これはウイルスでは最大 さいだい の数 かず である。ドゥルキスは約 やく 191万 まん 塩基 えんき 対 たい [7] とサリヌスより約 やく 50万 まん 塩基 えんき 対 たい 少 すく ないものの、それでもこれまで最大 さいだい であったメガウイルス・キレンシスの約 やく 126万 まん 塩基 えんき 対 たい よりはるかに大 おお きい[4] 。
パンドラウイルス属 ぞく は遺伝子 いでんし も巨大 きょだい であり、タンパク質 たんぱくしつ をコードしている遺伝子 いでんし 数 すう は、サリヌスが2556個 こ [8] 、ドゥルキスが約 やく 1500個 こ [7] である。サリヌスは既知 きち のウイルスで最 もっと も大 おお きい遺伝子 いでんし である。比較 ひかく として、典型 てんけい 的 てき なウイルスが約 やく 10個 こ 、これまで最大 さいだい であったメガウイルス・キレンシスは1120個 こ [7] 、自由 じゆう 生活 せいかつ 性 せい の生物 せいぶつ として最小 さいしょう のゲノムを持 も つ古 こ 細菌 さいきん メタノテルムス・フェルウィドゥス (Methanothermus fervidus ) が1311個 いっこ [9] である。
遺伝子 いでんし の配列 はいれつ そのものも極 きわ めて特徴 とくちょう 的 てき であり、例 たと えばサリヌスの遺伝子 いでんし は約 やく 93%が既知 きち のいかなる遺伝子 いでんし 配列 はいれつ とも共通 きょうつう 点 てん を見出 みいだ す事 こと が出来 でき なかった。また、パンドラウイルス属 ぞく は生態 せいたい も既知 きち のほとんどのウイルスとは非常 ひじょう に異 こと なっている。典型 てんけい 的 てき なウイルスの場合 ばあい 、入 い れ物 もの となるカプシドと中 なか に入 はい るウイルス核酸 かくさん が別々 べつべつ に合成 ごうせい され、その後 ご カプシドの中 なか にウイルス核酸 かくさん が入 はい り込 こ んで満 み たされることでウイルスが組 く み立 た てられる。しかしパンドラウイルス属 ぞく の場合 ばあい は、合成 ごうせい と同時 どうじ に組 く み立 た ても行 おこな われている。これらの性質 せいしつ から、パンドラウイルス属 ぞく はウイルスではなく生物 せいぶつ であり、しかも遺伝子 いでんし 的 てき 共通 きょうつう 性 せい の少 すく なさから、新 あたら しいドメイン を構成 こうせい しているのではないかと発見 はっけん した研究 けんきゅう チームは考 かんが えている[2] 。また、既知 きち の生物 せいぶつ と数 すう 十 じゅう 億 おく 年 ねん 前 まえ に分岐 ぶんき して進化 しんか した子孫 しそん がパンドラウイルス属 ぞく をはじめとした巨大 きょだい なウイルスなのでは無 な いかとする説 せつ もある。このパンドラの箱 はこ を開 あ けたような様 よう から、このウイルスはパンドラウイルスと命名 めいめい されている[8] 。
^ a b c d e f Philippe, Nadège; Legendre, Matthieu; Doutre, Gabriel; Couté, Yohann; Poirot, Olivier; Lescot, Magali; Arslan, Defne; Seltzer, Virginie et al. (2013). “Pandoraviruses: Amoeba Viruses with Genomes Up to 2.5 Mb Reaching That of Parasitic Eukaryotes” . Science 341 (6143): 281–286. doi :10.1126/science.1239181 . ISSN 0036-8075 . http://science.sciencemag.org/content/341/6143/281 .
^ a b c d e f g h i “パンドラウイルス、第 だい 4のドメインに? ”. ナショナル ジオグラフィック . ナショナル ジオグラフィック協会 きょうかい (2013年 ねん 7月 がつ 19日 にち ). 2023年 ねん 11月26日 にち 閲覧 えつらん 。
^ Scola, Bernard La; Audic, Stéphane; Robert, Catherine; Jungang, Liang; Lamballerie, Xavier; Drancourt, Michel; Birtles, Richard; Claverie, Jean-Michel et al. (2003). “A Giant Virus in Amoebae” . Science 299 (5615): 2033–2033. doi :10.1126/science.1081867 . ISSN 0036-8075 . http://science.sciencemag.org/content/299/5615/2033 .
^ a b Arslan, Defne; Legendre, Matthieu; Seltzer, Virginie; Abergel, Chantal; Claverie, Jean-Michel (2011). “Distant Mimivirus relative with a larger genome highlights the fundamental features of Megaviridae” . Proceedings of the National Academy of Sciences 108 (42): 17486–17491. doi :10.1073/pnas.1110889108 . http://www.pnas.org/content/108/42/17486.abstract .
^ Motohiro Akashi, Masaharu Takemura. "Co-Isolation and Characterization of Two Pandoraviruses and a Mimivirus from a Riverbank in Japan." Viruses. 2019, Vol.11, No.12, p.1123.
^ a b c d 研究 けんきゅう 史上 しじょう 最大 さいだい のウイルス発見 はっけん =遺伝子 いでんし 2500個 こ 、チリ沖 おき で新種 しんしゅ -細菌 さいきん 並 な み・仏 ふつ 大学 だいがく 、時事 じじ ドットコム、2013年 ねん 7月 がつ 19日 にち
^ a b c d Jumbo viruses hint at 'fourth domain' of life 、Fox News、2013年 ねん 7月 がつ 18日 にち
^ a b Changing View on Viruses: Not So Small After All 、New York Times、2013年 ねん 7月 がつ 18日 にち
^ Podar, Mircea; Anderson, Iain; Makarova, Kira S.; Elkins, James G.; Ivanova, Natalia; Wall, Mark A.; Lykidis, Athanasios; Mavromatis, Kostantinos et al. (2008). “A genomic analysis of the archaeal system Ignicoccus hospitalis-Nanoarchaeum equitans” . Genome Biology 9 (11): 1–18. doi :10.1186/gb-2008-9-11-r158 . ISSN 1474-760X . https://doi.org/10.1186/gb-2008-9-11-r158 .