メガウイルス・キレンシス

メガウイルス・キレンシス
メガウイルス・キレンシスの断面だんめん。六角形ろっかっけいに見みえる正せい二に十じゅう面体めんていのカプシドにエンベロープを持もつ。
分類ぶんるい
群ぐん : 第だい1群ぐん（2本ほん鎖くさりDNA） 階級かいきゅうなし : 巨大きょだい核質かくしつDNAウイルス Nucleocytoplasmic large DNA viruses 科か : メガウイルス科か Megaviridae 属ぞく : メガウイルス属ぞく Megavirus 種たね : メガウイルス・キレンシス Megavirus chilensis
学名がくめい
Megavirus chilensis Defne Arslan et al., 2011

メガウイルス・キレンシス (Megavirus chilensis・MGVC) とは、メガウイルス科かメガウイルス属ぞくに属ぞくする唯一ゆいいつのウイルスである。見みかけの直径ちょっけいとゲノムサイズが共ともに巨大きょだいなウイルスであり、これらの値ねはパンドラウイルス属ぞくの2種しゅに次つぐもので、いくつかの生物せいぶつよりも大おおきい。

分類ぶんるいと名称めいしょう

メガウイルス・キレンシスは、ウイルスの分類ぶんるいにおいては第だい1群ぐんに属ぞくする2本ほん鎖くさりDNAウイルスである。現在げんざいの階級かいきゅう分類ぶんるいでは、その下したに巨大きょだい核質かくしつDNAウイルス、メガウイルス科か、メガウイルス属ぞくと続つづく。現在げんざいのところメガウイルス科かとメガウイルス属ぞくを構成こうせいするのはメガウイルス・キレンシス1種しゅのみであるため、メガウイルス・キレンシスはしばしば省略しょうりゃくされてメガウイルスと呼よばれる。なお、よく似にているウイルスのミミウイルスおよびママウイルスはミミウイルス科かに属ぞくするため、両者りょうしゃ間あいだの類似るいじ性せいはメガウイルス・キレンシスと両者りょうしゃいずれかよりは近ちかい。

メガウイルスの名称めいしょうは、その名なの通とおり巨大きょだいなウイルスであることに因ちなんでいる。キレンシスは発見はっけん地ちのチリに因ちなむ。

発見はっけん

メガウイルス・キレンシスは、2010年ねん4月がつにチリのラスクルーセス沖おきで採集さいしゅうされた海水かいすいの試料しりょうから、ジャン・ミシェル・クラブリー (Jean-Michel Claverie) と Chantal Abergel によって発見はっけんされ、2011年ねん10月がつ10日とおかに成果せいかが発表はっぴょうされた。

宿主しゅくしゅ

メガウイルス・キレンシスは、発見はっけん時じには海水かいすいから直接ちょくせつ分離ぶんりされた。また、現在げんざいのところ野生やせい環境かんきょうでの宿主しゅくしゅは不明ふめいである。ティモシー・ローバトム (Timothy Rowbotham) による実験じっけんでは、アカントアメーバ属ぞくに属ぞくする A. polyphaga 、A. castellanii 、A. griffini の3種しゅに生息せいそくする共生きょうせい細菌さいきんに感染かんせんすることが確認かくにんされている。アカントアメーバ属ぞくからは以前いぜんにもミミウイルスのような巨大きょだいなゲノムをもつウイルスが発見はっけんされている。

また、発見はっけん者しゃの1人ひとりの Jean-Michel Claverie によれば、メガウイルス・キレンシスは人間にんげんに対たいしては有害ゆうがいではないという。

構造こうぞう

メガウイルス・キレンシスは、直径ちょっけい430nmから450nmの正せい二に十じゅう面体めんていのカプシドを、厚あつさ70nmから80nmのエンベロープで包つつむ構造こうぞうを持もっている。最大さいだいで680nmに達たっするその大おおきさは、可視かし光線こうせんの赤あかに相当そうとうする波長はちょうと等ひとしい大おおきさで、インフルエンザウイルスの8倍ばい近ちかくもあり、巨大きょだいであることで知しられる天然痘てんねんとうウイルスの2倍ばい以上いじょうの大おおきさを持もつ。また、この大おおきさは生物せいぶつであるマイコプラズマ・ゲニタリウムの250nmやナノアルカエウム・エクウィタンスの400nmなど、いくつかの生物せいぶつより大おおきい。通常つうじょうウイルスの観察かんさつには電子でんし顕微鏡けんびきょうが必要ひつようだが、メガウイルス・キレンシスは光学こうがく顕微鏡けんびきょうで観察かんさつできるほどサイズが大おおきい。

エンベロープには毛け状じょうの構造こうぞうがあり、恐おそらく宿主しゅくしゅとなる単細胞たんさいぼう生物せいぶつを引ひき寄よせる機能きのうを持もっていると考かんがえられている。

良よく似にたウイルスであるミミウイルスの場合ばあい、カプシド径みちは380nmから400nmと小ちいさいものの、エンベロープは115nmから125nmとより厚あついため、混合こんごう培養ばいようでも容易よういに認識にんしきできるとされる。

ゲノムサイズ

メガウイルス・キレンシスのゲノムサイズは125万まん9179塩基えんき対たいであり、遺伝子いでんしの数かずは1120である。これはウイルスでは最大さいだい級きゅうであり、パンドラウイルス属ぞく、ママウイルス、ミミウイルスと並ならんで1000を超こえる遺伝子いでんし数すうを持もつウイルスである。またこの数かずは、ナスイア・デルトケパリニコラ、ナノアルカエウム・エクウィタンス、マイコプラズマ･ゲニタリウムといった一部いちぶの真正しんしょう細菌さいきんや古こ細菌さいきんを上回うわまわる。

ほかの生物せいぶつに依存いぞんしない、完全かんぜんな独立どくりつ生活せいかつを送おくるMethanothermus fervidusの124万まん3342塩基えんき対たいすら上回うわまわっている。遺伝子いでんし数すうでもこの生物せいぶつは1283とほとんど差さがない。

あまりにも巨大きょだいであることから、メガウイルス・キレンシスなどの一部いちぶのウイルスは、ウイルスと生物せいぶつとの境界きょうかいに位置いちするという説せつや、真ま核かく生物せいぶつ、真正しんしょう細菌さいきん、古こ細菌さいきんに次つぐ第だい4のドメインに分類ぶんるいされる真しんの生物せいぶつであるという説せつもある。現在げんざいの分類ぶんるいでは、単独たんどくで自己じこ増殖ぞうしょく出来できず、細胞さいぼう壁かべを持もたないことからウイルスと分類ぶんるいされているが、近年きんねんではウイルスと似にたような性質せいしつを持もつ生物せいぶつも発見はっけんされており、境界きょうかいが曖昧あいまい化かしている。

いくつかのウイルスと生物せいぶつとのゲノムサイズの比較ひかく

名称めいしょう	分類ぶんるい	塩基えんき対数たいすう	遺伝子いでんし数すう	直径ちょっけい (nm)
メガウイルス・キレンシス	ウイルス	1,259,197	1120	680
ママウイルス	ウイルス	1,191,693	1023	630
ミミウイルス	ウイルス	1,181,549	1018	630
Cafeteria roenbergensis virus	ウイルス	617,435	544	300
Candidatus ナスイア・デルトケパリニコラ	真正しんしょう細菌さいきん	112,091	137	?
ナノアルカエウム・エクウィタンス	古こ細菌さいきん	490,855	536	400
マイコプラズマ･ゲニタリウム	真正しんしょう細菌さいきん	582,970	521	250
シアニディオシゾン・メロラエ	真ま核かく生物せいぶつ	16,546,747	5335	1500

関連かんれん項目こうもく

• パンドラウイルス属ぞく
• ブタサーコウイルス1 - 最小さいしょうのゲノムサイズのウイルス
• 生命せいめいの起源きげん
• 原始げんし生命せいめい体たい