(Translated by https://www.hiragana.jp/)
n-ブチルリチウム - Wikipedia コンテンツにスキップ

n-ブチルリチウム

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
ブチルリチウムから転送てんそう
n-ブチルリチウム

n-ブチルリチウム4りょうからだ

n-ブチルリチウム6りょうからだ
{{{画像alt2}}}
n-ブチルリチウム6りょうたいちゅうのブチルもととリチウムとのあいだ局在きょくざい結合けつごう
識別しきべつ情報じょうほう
CAS登録とうろく番号ばんごう 109-72-8
PubChem 61028
ChemSpider 10254339
J-GLOBAL ID 200907048859068700
特性とくせい
化学かがくしき C4H9Li
モル質量しつりょう 64.06 g mol−1
外観がいかん 褐色かっしょく液体えきたい
通常つうじょう溶液ようえきもちいる
密度みつど 0.765 g/cm³(液体えきたい、25 ℃)
融点ゆうてん

−76 °C

沸点ふってん

分解ぶんかい
80 - 90 °C (0.0001 mmHg)

みずへの溶解ようかい はげしく反応はんのうする
シクロヘキサンへの溶解ようかい
ジエチルエーテルへの溶解ようかい
さん解離かいり定数ていすう pKa > 35
構造こうぞう
分子ぶんしかたち よんりょうたい溶液ようえきちゅう
双極そうきょくモーメント 0.97 D
危険きけんせい
おも危険きけんせい 空気くうきちゅう発火はっか
腐食ふしょくせいLiOHへと分解ぶんかい
関連かんれんする物質ぶっしつ
関連かんれんする有機ゆうきリチウム化合かごうぶつ sec-ブチルリチウム
tert-ブチルリチウム
ヘキシルリチウム
メチルリチウム
関連かんれん物質ぶっしつ 水酸化すいさんかリチウム
出典しゅってん
Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis; Vol. 1, pp. 899–907.
特記とっきなき場合ばあい、データは常温じょうおん (25 °C)・つねあつ (100 kPa) におけるものである。

n-ブチルリチウムえい: n-butyllithium)は有機ゆうき合成ごうせいじょう重要じゅうよう有機ゆうきリチウム化合かごうぶつである。n-BuLi略記りゃっきされる。ポリブタジエンスチレン・ブタジエンゴムなどをるアニオン重合じゅうごう開始かいしざいとしてひろもちいられている。有機ゆうき合成ごうせい化学かがくにおいてはつよ塩基えんき、プロトンざいやリチオざいとしてひろもちいられている。n-ブチルリチウムをふく有機ゆうきリチウム化合かごうぶつ全体ぜんたいの、世界せかいでの年間ねんかん生産せいさんりょうおよ消費しょうひりょうやく1,800トンと見積みつもられている。

性質せいしつ

[編集へんしゅう]
ガラス瓶がらすびんはいったブチルリチウム溶液ようえき

ブチルリチウムおよびその溶液ようえき発火はっかせいつため、空気くうきさらさないよう注意ちゅういしなければならない。みずはげしく反応はんのうしてブタン水酸化すいさんかリチウムあたえる。

二酸化炭素にさんかたんそ () とも反応はんのうし、よしくささんリチウムを生成せいせいする。

炭素たんそとリチウムの電気でんき陰性いんせいおおきくことなるため、炭素たんそ−リチウム結合けつごう非常ひじょうおおきく分極ぶんきょくしているが、イオンせい結合けつごうではない(電気でんき陰性いんせい: C = 2.55, Li = 0.98)。電荷でんか分離ぶんり正確せいかく状態じょうたいられていないが、55–90% と推測すいそくされている。それにもかかわらず、ブチルリチウムはしばしばブチルアニオンとリチウムイオンのようにうとかんがえられることがある(下図したず参照さんしょう)。

n-ブチルリチウムのイオンモデル

しかしながらこのモデルは、n-BuLiがイオンせいではないというてん厳密げんみつにはただしくない。固体こたい状態じょうたいではもちろん、溶液ようえきちゅうにおいてもn-BuLiは炭素たんそ−リチウム結合けつごうほか有機ゆうきリチウム化合かごうぶつおなじようにクラスター形成けいせいしている。n-BuLiの場合ばあいジエチルエーテルなかでは4りょうからだを、シクロヘキサンなかでは6りょうからだ形成けいせいしている。炭素たんそ−リチウム相互そうご作用さようは2中心ちゅうしん2電子でんし結合けつごうではない。4りょうたいクラスターではリチウムとCH2Rが立方体りっぽうたい頂点ちょうてん交互こうご配置はいちされている。等価とうか表現ひょうげんとしてLi4と[CH2R]4とがそれぞれよん面体めんていをなしたがいに交差こうさしているともあらわせる。このような固体こたい状態じょうたいでの構造こうぞうは、極性きょくせい溶媒ようばいちゅうでも維持いじされている。4りょうからだリチウムクラスターのまわりにある電子でんし不足ふそくおおくの炭素たんそくさりは、4中心ちゅうしん2電子でんし結合けつごうによりリチウムを安定あんていしている。リチウムが占有せんゆう軌道きどう使つかっておおくの炭素たんそくさりはいくらいするという性質せいしつおなじく、n-BuLiは溶液ようえきちゅうσしぐまドナーにはい可能かのうである。

生産せいさん

[編集へんしゅう]

標準ひょうじゅんてき生産せいさんほうにおいブチル塩化えんかブチル金属きんぞくリチウムとを反応はんのうさせるというものである。

ただし X = Cl, Br

この反応はんのう金属きんぞくリチウムちゅうに 1% のナトリウムれておくことで加速かそくされる。この反応はんのうではベンゼン、シクロヘキサン、ジエチルエーテルなどが溶媒ようばいとしてもちいられる。においブチルが前駆ぜんくたいとなった場合ばあい反応はんのうぶつにおいリチウムとブチルリチウムが混在こんざいしてクラスターを形成けいせいした、一様いちよう溶液ようえきとなる。一方いっぽう塩化えんかリチウムとの錯形成能なるのう比較的ひかくてきよわいため、塩化えんかブチルとリチウムの反応はんのうでは塩化えんかリチウムの沈殿ちんでん生成せいせいする。

反応はんのう

[編集へんしゅう]

ハロゲン - リチウム交換こうかん反応はんのう

[編集へんしゅう]

n-BuLiはハロゲンアルキルハロゲンアリールなどの有機ゆうきハロゲン化物ばけものとく臭化物しゅうかぶつ交換こうかん反応はんのうこし、あらたな有機ゆうきリチウム化合かごうぶつ生成せいせいする。

このようにして生成せいせいした有機ゆうきリチウム化合かごうぶつ (RLi) は通常つうじょうたんはなされることなくもちいられる。RLiはもとめかくせいのある炭素たんそ原子げんしつこととなる。これらの反応はんのうはエーテルけい溶媒ようばいちゅう、−78 ℃でおこなわれることがおおい。

トランスメタル反応はんのう

[編集へんしゅう]

たような反応はんのうとして、2つの有機ゆうき金属きんぞく化合かごうぶつがその金属きんぞく交換こうかんするトランスメタル反応はんのうげられる。このような反応はんのうれいとしておおげられるのはリチウムとスズ交換こうかん反応はんのうである。

ただし Ar: アリールもと芳香ほうこうぞく置換ちかんもと)、Me: メチルもと

リチオ

[編集へんしゅう]

n-BuLiのもっと特徴とくちょうてき性質せいしつの1つは、その塩基えんきせいである。tert-ブチルリチウム (t-BuLi) と sec-ブチルリチウム (s-BuLi) はよりつよ塩基えんきとしてもちいられる。n-BuLiは、電子でんし局在きょくざいにより共役きょうやく塩基えんき多少たしょう安定あんていされている炭化たんか水素すいそ水素すいそ原子げんしくことができる。アセチレン (H−C≡C−R) やメチルホスフィン (H−CH2PR2)、フェロセン (H−C5H4) などがそのれいとしてげられる。ブタンの安定あんていせい揮発きはつせいから、このだつ水素すいそ反応はんのう便利べんりであるとえる。n-BuLiの速度そくどろんてき塩基えんきせい反応はんのう溶媒ようばい依存いぞんする。

テトラメチルエチレンジアミン (TMEDA) やDABCOといったリチウムイオンへのはいのう化合かごうぶつ炭素たんそ-リチウム結合けつごう分極ぶんきょくさせ、リチオ促進そくしんする。このような添加てんかざいはリチオされた化合かごうぶつたんはなれするのに有用ゆうようである。有名ゆうめいれいとしてジリチオフェロセンがげられる。

THFの分解ぶんかい

[編集へんしゅう]

テトラヒドロフラン(THF)はブチルリチウムによって分解ぶんかいする。とくにTMEDAの存在そんざいでは、THFの酸素さんそ隣接りんせつする4つのプロトンのうちのひとつをく。この過程かていは、ブチルリチウムが消費しょうひされてブタンになり、ぎゃくきのたまき付加ふか反応はんのうこしてアセトアルデヒドエノラートエチレンあたえる。そのため、THF溶液ようえきちゅうでのn-ブチルリチウムの反応はんのうドライアイス/アセトン冷却れいきゃくバスで-78 ℃のようなごく低温ていおんおこなうことがおおいが、0℃や-20℃でおこなうことも可能かのうである。

アルデヒドやケトンの生成せいせい

[編集へんしゅう]

n-BuLiをふく有機ゆうきリチウム化合かごうぶつ特定とくていのアルデヒドやケトンの生成せいせいにももちいられる。1つのれいとして、有機ゆうきリチウム化合かごうぶつと2置換ちかんアミドとの反応はんのうげられる。

アルケン合成ごうせい

[編集へんしゅう]

有機ゆうきリチウム化合かごうぶつアルケン生成せいせいにももちいられる。加熱かねつするとβべーた水素すいそだつはなれこし、アルケンと水素すいそリチウム生成せいせいする。

用途ようと

[編集へんしゅう]

ブチルリチウムの最大さいだい用途ようと上述じょうじゅつのようにアニオン重合じゅうごうにおける重合じゅうごう開始かいしざいである。とく近年きんねんはエコタイヤけの溶液ようえき重合じゅうごうスチレン-ブタジエンゴム(Solution styrene-butadiene rubber、S-SBR)けの重合じゅうごう開始かいしざいとしての需要じゅよう増加ぞうかしている[1]

プロトンざいとして医薬いやく農薬のうやく、また様々さまざまなファインケミカル製品せいひん製造せいぞう利用りようされている。一般いっぱんてきにはごく低温ていおん反応はんのう装置そうち必要ひつようであるが、近年きんねんはマイクロリアクターの利用りようによりごく低温ていおん回避かいひした反応はんのうれい増加ぞうかしている。

最近さいきん増加ぞうかしている用途ようと半導体はんどうたいケミカルである。モリブデンアミド、ジルコニウムアミドやハフニウムアミドなどALD (原子げんしそう堆積たいせき)よう金属きんぞくモノマーがHigh-K材料ざいりょうこう誘電ゆうでんりつまく素材そざいとしてもちいられており、これらの合成ごうせいにブチルリチウムが使用しようされている。

安全あんぜんせい

[編集へんしゅう]

ブチルリチウムは空気くうきみず非常ひじょう敏感びんかんであり、空気くうきさらすとしばしば発火はっかする。あつかさいには活性かっせいガスで、活性かっせいとさないように保存ほぞん取扱とりあつかいおこなわなければいけない。

参考さんこう文献ぶんけん

[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう

[編集へんしゅう]
  1. ^ 溶液ようえき重合じゅうごうゴムのイノベーション“ https://arc.asahi-kasei.co.jp/report/arc_report/pdf/rs-989.pdf

関連かんれん項目こうもく

[編集へんしゅう]