動力どうりょく集中しゅうちゅう方式ほうしき

機関きかん車しゃ牽引けんいんの客車きゃくしゃ列車れっしゃの例れい（JR東日本ひがしにっぽんEF510形かたち500番台ばんだい北斗星ほくとせい）

準じゅん動力どうりょく集中しゅうちゅう方式ほうしきの列車れっしゃの例れい (TGV Duplex)
両りょう先頭せんとう車しゃは運転うんてん席せきと動力どうりょく部分ぶぶんのみであるが、切きり離はなして他たの列車れっしゃに使つかわれることはない。

動力どうりょく集中しゅうちゅう方式ほうしき（どうりょくしゅうちゅうほうしき）とは、列車れっしゃが1両りょうないし2両りょう程度ていどの動力どうりょく車しゃ（車両しゃりょう内部ないぶに客室きゃくしつ・荷物にもつ室しつ等ひとしが全まったくない、または半分はんぶん程度ていどかそれ以下いかの機関きかん車しゃ）によって、牽引けんいんまたは推進すいしんされる方式ほうしきのことである。日本にっぽんでは貨物かもつ列車れっしゃを除のぞいて数かずを大幅おおはばに減へらしているが、世界せかい中なかの多おおくの鉄道てつどうを走はしる列車れっしゃのうち、貨物かもつ列車れっしゃはほぼすべてこの方式ほうしきで、旅客りょかく列車れっしゃもこの方式ほうしきによるものが多おおい。

動力どうりょく集中しゅうちゅう方式ほうしきを採用さいようしている旅客りょかく列車れっしゃの例れいとして、日本にっぽんのブルートレインやフランスのTGVなどがあげられる。

フランスのTGVやドイツのICE 1、イギリスのHSTなどでは両りょう端はしの動力どうりょく車しゃの間あいだに付随ふずい客車きゃくしゃを配置はいちした固定こてい編成へんせいが採用さいようされており、この方式ほうしきについては準じゅん動力どうりょく集中しゅうちゅう方式ほうしきとも呼称こしょうされる。

対たいをなす形態けいたいは動力どうりょく分散ぶんさん方式ほうしきである。

長所ちょうしょと短所たんしょ

動力どうりょく分散ぶんさん方式ほうしきに比ひして述のべる。

長所ちょうしょ

• 自じ車くるまで動力どうりょく装置そうちをもたないため、車両しゃりょう増ぞう備のコストが廉価れんかである。
  • 編成へんせいが長ながい場合ばあい、コスト的てきに有利ゆうりになる。過去かこ（1975年ねんごろ）の日本にっぽんの研究けんきゅうでは次つぎのように算定さんていされたことがある。
    • 直流ちょくりゅう電化でんか区間くかんでは12両りょう以上いじょうの場合ばあい。
    • 交流こうりゅう電化でんか区間くかんでは10両りょう以上いじょうの場合ばあい。
    • 非ひ電化でんか区間くかんでは5両りょう以上いじょうの場合ばあい。
  • ただし、これは旅客りょかく輸送ゆそう、貨物かもつ輸送ゆそうおよび郵便ゆうびん荷物にもつ輸送ゆそうという大おおきく性格せいかくの異ことなる3種類しゅるいの輸送ゆそう事業じぎょうを兼業けんぎょうで行おこなっていた当時とうじの国鉄こくてつが昭和しょうわ40年代ねんだいの輸送ゆそう事情じじょうおよび動力どうりょく車しゃの性能せいのうに基もとづいて算定さんていしたものであり、21世紀せいきになった現代げんだいにおいては日本にっぽんの法令ほうれいで認みとめられた15両りょう程度ていどの編成へんせいでは高こうコストになることがほとんどである。
• 客車きゃくしゃ・貨車かしゃ当あたりの有効ゆうこう積載せきさい量りょうに優すぐれている。
• 動力どうりょくが機関きかん車しゃに集中しゅうちゅうしているので点検てんけんの手間てまが省はぶけ、車両しゃりょうのメンテナンスに多おおくの労力ろうりょくを要ようしない。
  したがって長期間ちょうきかん使用しようしない車両しゃりょうがあっても維持いじしやすく、時期じきに応おうじて輸送ゆそうの波なみが激はげしい路線ろせんに対応たいおうしやすい。
• 客室きゃくしつでの騒音そうおんや振動しんどうが少すくない。
• 客車きゃくしゃに走行そうこう機器ききがないため、柔軟じゅうなんに増結ぞうけつ・減車げんしゃができ、超ちょう低てい床ゆか車しゃや2階かい建けん車両しゃりょうの導入どうにゅうも比較的ひかくてき容易ようい。
• 機関きかん車しゃの交換こうかんにより、異ことなる電化でんか方式ほうしきの区間くかんや非ひ電化でんか区間くかんへの乗のり入いれが容易よういで、国際こくさい列車れっしゃの運行うんこうにも適てきする。
• 正面しょうめん衝突しょうとつ時ときでも乗客じょうきゃく被害ひがいを軽減けいげんできる（機関きかん車しゃが先頭せんとうにある場合ばあい）。

短所たんしょ

• 列車れっしゃ重量じゅうりょうや軸じく重おもが動力どうりょく分散ぶんさん方式ほうしきより大おおきくなりやすい。
  • 動力どうりょく車しゃ（機関きかん車しゃ）が極端きょくたんに重おもく、客車きゃくしゃが逆ぎゃくに軽かるくなる。また、機関きかん車しゃの重量じゅうりょうゆえに、地盤じばんの軟弱なんじゃくな地域ちいきでの高速こうそく走行そうこうでは線路せんろの狂くるいや振動しんどうの問題もんだいが発生はっせいするほか、橋梁きょうりょうも許容きょよう荷重かじゅうを大おおきくとる必要ひつようがある。
• 原理げんり的てきに全体ぜんたいの牽引けんいん力りょくが許容きょよう軸じく重じゅうと機関きかん車しゃの動どう軸じく数すうで制約せいやくされるため、起動きどう加速度かそくどが動力どうりょく分散ぶんさん方式ほうしきより低ひくくなり、特とくに上のぼり勾配こうばい（上のぼり坂ざか）では動力どうりょく分散ぶんさん方式ほうしきに比くらべて速度そくどを出だしにくい。動力どうりょく分散ぶんさん方式ほうしき#長所ちょうしょも参照さんしょう。
• 動力どうりょく源げんをソースとしたブレーキ作用さようを有効ゆうこうに用もちいることができない。
  • 電気でんき動力どうりょく車しゃの（広義こうぎの）発電はつでんブレーキ、内燃ないねん動力どうりょく車しゃのエンジンブレーキ/排気はいきブレーキ/コンバーターブレーキがこれにあたる。特とくに電気でんき動力どうりょく車しゃの場合ばあいは近年きんねんは回生かいせいブレーキが主体しゅたいのため、省しょうエネルギー面めんの不利ふりはより一層いっそう強つよまる。
  • 機関きかん車しゃにはこれらのブレーキが搭載とうさいされている場合ばあいが多おおいが、多おおくの客車きゃくしゃ・貨車かしゃには搭載とうさいされていない。そのため、編成へんせい全体ぜんたいでは空気くうきブレーキ主体しゅたいで停止ていしするので、エネルギーの無駄むだが多おおく、ブレーキシューの消耗しょうもうなどの問題もんだいも出でる。日本にっぽんの場合ばあいは、曲線きょくせん（カーブ）や下くだり勾配こうばい（下くだり坂ざか）、高速こうそく通過つうか困難こんなんな分岐ぶんき器きなどが多おおく、ブレーキ操作そうさを多おおく必要ひつようとするため、なお一層いっそう不利ふりである。新幹線しんかんせんのような高速こうそく専用せんよう軌道きどうでも連続れんぞく下くだり勾配こうばいのため常用じょうようブレーキとしてこれらが使つかえないことは性能せいのう上じょうの不利ふりばかりでなく安全あんぜん上じょうのネックにもなる。
  • 一方いっぽうで最もっとも重おもい機関きかん車しゃのみに複雑ふくざつなブレーキ装置そうちを必要ひつようとし、軽量けいりょうな客車きゃくしゃではメンテナンス性せいに優すぐれた永久えいきゅう磁石じしゃく式しきリターダを摩擦まさつ制動せいどうと併用へいようする方法ほうほうもあり、維持いじ費ひとメンテナンスの面めんでは未いまだに有利ゆうりな点てんも多おおい。
• 日本にっぽん式しきのワンマン運転うんてんが困難こんなんである。
• 終着駅しゅうちゃくえきやスイッチバックで折おり返かえす際さい、機関きかん車しゃの交換こうかんや機き回まわしが必要ひつよう。
  • 煩雑はんざつな作業さぎょうを要ようし、機き回まわし線せんを別べつに設もうける必要ひつようがある。対策たいさく例れいとしては上野うえの駅えき - 尾久おぎゅう車両しゃりょうセンター間あいだでは推進すいしん回送かいそうを実施じっししている。
  • 西にしヨーロッパ諸国しょこくなどでは、機関きかん車しゃが最さい後尾こうびでも牽引けんいん時じと同等どうとうな運転うんてんが可能かのうなプッシュプル方式ほうしきの列車れっしゃが増ふえている。
  • 後述こうじゅつのプッシュプル方式ほうしきを除のぞき常つねに機関きかん車しゃが先頭せんとうに来くるため、先頭せんとうに来くる客車きゃくしゃでの前面ぜんめん展望てんぼうが不可能ふかのうである。

プッシュプル方式ほうしき

詳細しょうさいは「プッシュプル列車れっしゃ」を参照さんしょう

ドイツ鉄道てつどう ICE 2

オーストリア連邦れんぽう鉄道てつどうのプッシュプル列車れっしゃ

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくシカゴ・メトラのプッシュプル列車れっしゃ

台湾たいわん鉄路てつろ管理かんり局きょく E1000型がた電車でんしゃ

大井川鐵道おおいがわてつどうのペンデルツーク式しきのプッシュプル列車れっしゃ

DD51形かたちによるプッシュプル列車れっしゃ

編成へんせいの一端いったんに動力どうりょく車しゃ、もう一端いったんに運転うんてん席せきを設もうけた制御せいぎょ客車きゃくしゃを組くみ合あわせるか、動力どうりょく車しゃを両りょう端はしに組成そせいする方式ほうしき。両りょう端はしに運転うんてん席せきを配はいすることで短所たんしょの一ひとつとされる「折おり返かえし運転うんてんを行おこなう際さいの、機関きかん車しゃの交換こうかん・機き回まわし」が解消かいしょうされる形かたちとなる。

本来ほんらいのプッシュプルとは前者ぜんしゃの形態けいたいを指さしていたが、後のちに高こう出力しゅつりょく化かといずれの方向ほうこうにも安定あんていして高速こうそく走行そうこうを行おこなうという必要ひつようが生しょうじる高速こうそく列車れっしゃ向むけに両りょう端はしに動力どうりょく車しゃを連結れんけつした後者こうしゃの形式けいしきが考案こうあんされた。ドイツ語ご圏けんでは前者ぜんしゃの方式ほうしきによる列車れっしゃを左右さゆうに行いき来きする様子ようすから振ふり子こに喩たとえ、「ペンデルツーク」 (Pendelzug) と称しょうする（曲線きょくせんの通過つうか速度そくどを高たかめる目的もくてきで車体しゃたいを傾斜けいしゃさせる「振ふり子こ式しき車両しゃりょう」とは意味いみが異ことなる）。英語えいごでは後者こうしゃをトップ・アンド・テイル (en:Top and tail) と呼よぶ。

後者こうしゃは、主おもに欧州おうしゅうの高速こうそく列車れっしゃ（TGV、ICE 1、ETR500、インターシティー125など）が採用さいようしている。列車れっしゃの両りょう端はしを動力どうりょく車しゃにして客車きゃくしゃを挟はさみ込こむようにしており、10両りょう編成へんせいであれば実際じっさいに乗客じょうきゃくを扱あつかえるのは8両分りょうぶんだけであるため純粋じゅんすいな動力どうりょく分散ぶんさん形がたよりも旅客りょかく定員ていいんは少すくなく、また前後ぜんごを片かた運転うんてん台だい付づけの機関きかん車しゃに挟はさまれた場合ばあいは事実じじつ上じょう、固定こてい編成へんせいとなるため、編成へんせいを前後ぜんごに分割ぶんかつしない限かぎり、長所ちょうしょ「柔軟じゅうなんに増結ぞうけつ・減車げんしゃ」は難むずかしくなる。

前者ぜんしゃは、欧州おうしゅうおよび米国べいこく各地かくちの都市とし圏けんの普通ふつう列車れっしゃを中心ちゅうしんに採用さいようされている。客車きゃくしゃの運転うんてん台だいからもう一端いったんの動力どうりょく車しゃ（機関きかん車しゃ）を遠隔えんかく操作そうさするため、組くみ合あわされる機関きかん車しゃは限定げんていされる。力学りきがく的てきに不安定ふあんていで高速こうそく運転うんてんには向むかないが、スウェーデンのX2やドイツのICE 2、イギリスのインターシティー225など、機関きかん車しゃが最さい後尾こうびとなる場合ばあいでも最高さいこう速度そくど200 km/hで運行うんこうしている例れいがある。ただしこれについては、線形せんけいが良よく、高速こうそく運転うんてん区間くかんに急きゅう勾配こうばいや急きゅう曲線きょくせんがないことに加くわえ、ヨーロッパの車両しゃりょうは連結れんけつ面めんに大だい容量ようりょうの緩衝かんしょう器き（バッファー）を装備そうびしていることなど、日本にっぽんに比ひして走行そうこう安定あんてい性せいを確保かくほしやすいという条件じょうけんの差さもある。日本にっぽんでのこの運転うんてん方式ほうしきは、連結れんけつ両りょう数かずは多おおくはなく、最高さいこう速度そくども低ひくい。一方いっぽう、日本にっぽんと同おなじ自動じどう連結れんけつ器きを採用さいようする米国べいこくでは、通勤つうきん列車れっしゃを中心ちゅうしんにヨーロッパのような本線ほんせんでのプッシュプル運転うんてんが一般いっぱん的てきであり、終端しゅうたん式しきの駅えきでの長距離ちょうきょり列車れっしゃの扱あつかい（上野うえの - 尾久おぎゅう間あいだの推進すいしん回送かいそうと同おなじ）を別べつにすれば、一般いっぱんの列車れっしゃと同等どうとうの条件じょうけんで運転うんてんされる場合ばあいが多おおく、中なかにはキーストーン・サービスのように110 mph (180 km/h)という高速こうそくで運転うんてんされている列車れっしゃもある。同どう列車れっしゃでの高速こうそく運転うんてんは2006年ねん夏なつにキーストーン回廊かいろうで実施じっしされた信号しんごう・架線かせんの更新こうしん強化きょうか工事こうじを経へて可能かのうになった。 米国べいこくの制御せいぎょ客車きゃくしゃを用もちいたプッシュプル運転うんてんは、1950年代ねんだい末すえにシカゴ・ノースウェスタン鉄道てつどう（現げん・メトラ）で通勤つうきん列車れっしゃの運行うんこう合理ごうり化かの一環いっかんとして開始かいしされたものまで遡さかのぼる。当初とうしょは推進すいしん運転うんてん時じの脱線だっせんを心配しんぱいする向むきもあったものの、結果けっか的てきには杞憂きゆうに終おわり、全米ぜんべいの通勤つうきん鉄道てつどうに広ひろまった。

日本にっぽんでは前者ぜんしゃの方式ほうしきが大井川鐵道おおいがわてつどう井川線いかわせんの全ぜん列車れっしゃ、釧網本線せんもうほんせん・富良野線ふらのせんで観光かんこう用ようトロッコ列車れっしゃ「ノロッコ号ごう」や京都きょうと市し・嵐山あらしやまにある嵯峨野さがの観光かんこう鉄道てつどうのトロッコ列車れっしゃなどに見みられるようになったが、欧州おうしゅうに比くらべると歴史れきしは浅あさい。

また、JR東日本ひがしにっぽん215系けい電車でんしゃやJR貨物かもつM250系けい電車でんしゃは動力どうりょく分散ぶんさん方式ほうしきであるが、前後ぜんごに2両りょうずつの動力どうりょく車しゃを集中しゅうちゅう配置はいちしており、後者こうしゃの方式ほうしきに類似るいじした点てんもある。国鉄こくてつ211系けい電車でんしゃの1000・3000番台ばんだいは、5両りょう編成へんせいの片側かたがわに3両りょうの非ひ動力どうりょく車しゃが連つらなる日本にっぽんでは稀まれな例れいとなっている。

プッシュプル方式ほうしきでは動力どうりょく車しゃの客車きゃくしゃ寄よりの半分はんぶん程度ていどまたはそれ以下いかの部分ぶぶんを機器きき搭載とうさいスペースとせず、客室きゃくしつや荷物にもつ室しつ等ひとしを設もうけている場合ばあいもあり、その例れいには韓国かんこくの「セマウル号ごう」 (DHC) 、往年おうねんの西にしドイツのTEE用よう車両しゃりょうであった西にしドイツ国鉄こくてつVT11.5型がた気動車きどうしゃが挙あげられる。

出典しゅってん

• 安保あぼ彰夫あきお『RM LIBRARY89　西大寺さいだいじ鉄道てつどう』株式会社かぶしきがいしゃネコ・パブリッシング、2007年ねん。ISBN 978-4-7770-5189-2。 
• 萩原はぎはら政男まさお『学研がっけんの図鑑ずかん　機関きかん車しゃ・電車でんしゃ』株式会社かぶしきがいしゃ学習がくしゅう研究けんきゅう社しゃ、（改訂かいてい）1977。