勝田かつた銀次ぎんじ郎ろう

勝田かつた銀次ぎんじ郎ろうの肖像しょうぞう写真しゃしん

勝田かつた 銀次ぎんじ郎ろう（かつた ぎんじろう、1873年ねん（明治めいじ6年ねん）10月1日にち - 1952年ねん（昭和しょうわ27年ねん）4月がつ24日にち）は、日本にっぽんの政治せいじ家か、実業じつぎょう家か。勝田かつた商会しょうかい創業そうぎょう者しゃ。山下やました亀三郎かめさぶろう、内田うちだ信也しんやと並ならぶ「三さん大船おおぶね成金なりきん」の一人ひとり。神戸こうべ市し会議かいぎ員いん、衆議院しゅうぎいん議員ぎいん、貴族きぞく院いん議員ぎいん、第だい8代だい神戸こうべ市長しちょう（在任ざいにん：1933年ねん12月21日にち - 1941年ねん12月がつ20日はつか）。準じゅん戦時せんじ体制たいせい下かの神戸こうべ市政しせいを担にない「鉄腕てつわん市長しちょう」と呼よばれた。愛媛えひめ県けん出身しゅっしん。

生涯しょうがい

1873年ねん（明治めいじ6年ねん）10月がつ、愛媛えひめ県けん松山まつやまで米穀べいこく商しょうの長男ちょうなんとして生うまれる。中学校ちゅうがっこう（松山まつやま中学校ちゅうがっこう）卒業そつぎょう前まえに父親ちちおやを亡なくした勝田かつたは19歳さいの時ときに北海道ほっかいどうへ移住いじゅうし一旗揚ひとはたあげようとするが、その道中どうちゅうで出会であった東京とうきょう英和えいわ学校がっこう（青山学院あおやまがくいんの前身ぜんしん）校長こうちょうの本多ほんだ庸一よういちに学問がくもんとりわけ外国がいこく語ごを身みに着つけることの大切たいせつさを説とかれ、同校どうこう予備よび学部がくぶに入学にゅうがくした。

1894年ねん（明治めいじ27年ねん）に同校どうこうを中退ちゅうたいした後のち、大阪おおさかと神戸こうべで貿易ぼうえき店てんに勤務きんむし、1900年ねん（明治めいじ33年ねん）に独立どくりつして勝田かつた商会しょうかいを設立せつりつした。1914年ねん（大正たいしょう3年ねん）の第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせん勃発ぼっぱつを機きに同社どうしゃを勝田かつた汽船きせんに発展はってんさせた勝田かつたは神戸こうべを代表だいひょうする海運かいうん事業じぎょう主ぬしとなり、山下やました亀三郎かめさぶろう（山下やました汽船きせん）、内田うちだ信也しんや（内田うちだ汽船きせん）とともに「三さん大船おおぶね成金なりきん」の一人ひとりに数かぞえられた。しかし終戦しゅうせん後ごの海運かいうん不ふ況きょうにより凋落ちょうらくし、1929年ねん（昭和しょうわ4年ねん）に勝田かつた汽船きせんは倒産とうさんした。この間あいだ、1918年ねん（大正たいしょう7年ねん）兵庫ひょうご県けん多額たがく納税のうぜい者しゃとして貴族きぞく院いん議員ぎいんに互選ごせんされ、同年どうねん9月がつ29日にちから1925年ねん（大正たいしょう14年ねん）9月がつ28日にちまで1期き在任ざいにんした。また、1917年ねん（大正たいしょう6年ねん）から1929年ねん（昭和しょうわ4年ねん）まで神戸こうべ市し会議かいぎ員いんを3期き務つとめ、1925年ねん（大正たいしょう14年ねん）から1929年ねん（昭和しょうわ4年ねん）まで議長ぎちょうを務つとめた。

1928年ねん（昭和しょうわ3年ねん）の第だい16回かい衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょにおいて兵庫ひょうご1区く（当時とうじ）から中立ちゅうりつ（無所属むしょぞく）で立候補りっこうほし、落選らくせん。1930年ねん（昭和しょうわ5年ねん）の第だい17回かい衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょにおいて立憲りっけん政友せいゆう会かい公認こうにんで立候補りっこうほし、当選とうせん。衆議院しゅうぎいん議員ぎいんを1期き務つとめ、1932年ねん（昭和しょうわ7年ねん）の第だい18回かい衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょは不ふ出馬しゅつば。

1933年ねん（昭和しょうわ8年ねん）12月21日にち、2期き8年ねんをもって退任たいにんした黒瀬くろせ弘志ひろしの後のちを受うけ、第だい8代だい神戸こうべ市長しちょうに就任しゅうにん。灘なだ埠頭ふとうの埋うめ立たて、道路どうろ建設けんせつ、道路どうろ舗装ほそう工事こうじなど公共こうきょう事業じぎょうを積極せっきょく的てきに行おこない、後のちに第だい12代だい神戸こうべ市長しちょう原口はらぐち忠次郎ちゅうじろうは自身じしんの都市とし計画けいかくを「勝田かつたさんの志こころざしを継つぐ範囲はんいを出でていない」と評ひょうしている。1938年ねん（昭和しょうわ13年ねん）7月がつに阪神はんしん大だい水害すいがいが発生はっせいした際さいには「神戸こうべ進軍しんぐん」と称しょうして不眠ふみん不休ふきゅうで陣頭じんとう指揮しきをとり、復興ふっこう予算よさんの計上けいじょうについて政府せいふへの陳情ちんじょうを行おこなった。

1941年ねん（昭和しょうわ16年ねん）12月がつ20日はつかに神戸こうべ市長しちょうを退任たいにん。退任たいにんを表明ひょうめいすると周囲しゅういからは慰留いりゅうの声こえも上あがったが、「男子だんしの一言ひとこと、金鉄きんてつのごとし」と固辞こじした。その後ごは公職こうしょく追放ついほうを受うけた上じょう、脳出血のうしゅっけつに倒たおれるなど不遇ふぐうであったが、1951年ねん（昭和しょうわ26年ねん）に公職こうしょく追放ついほうが解除かいじょされ、神戸こうべ市し最高さいこう顧問こもんに就任しゅうにんした。1952年ねん（昭和しょうわ27年ねん）4月がつ24日にち死去しきょ。同月どうげつ30日にちに王子おうじ公園こうえん体育館たいいくかんで市民しみん葬そうが執とり行おこなわれ、5000人にん余あまりが参列さんれつした。

人物じんぶつ

神戸こうべ市し元もと職員しょくいんの原はら忠明ただあきによると、勝田かつたは気性きしょうが激はげしかった。市会しかい議員ぎいんを相手あいてに額がくに青筋あおすじを立たてて怒おこったエピソードから「青筋あおすじ市長しちょう」とも呼よばれた。一方いっぽうで信義しんぎに厚あつく義侠ぎきょう心しんに強つよいところがあり、勝田かつた汽船きせん時代じだいには船ふね価かが下さがったことを受うけて取引とりひき相手あいての造船ぞうせん所しょが受注じゅちゅう価格かかくを下さげる提案ていあんをしたところ、「男おとこがいったん約束やくそくしたことだ」と突つっぱねたという逸話いつわを残のこしている。風貌ふうぼうはイギリス風ふうの紳士しんしであったという。

エピソード

陽明ようめい丸まる

大正たいしょう7年ねん(1918年ねん)、ロシア革命かくめい後ごの内戦ないせんから逃のがれる為ため、4歳さいから18歳さいぐらいまでの子供こどもたち約やく800人にんが難民なんみんとなり、ウラジオストクでアメリカ赤十字せきじゅうじ社しゃに保護ほごされていた。さらに戦火せんかが及およぶことを心配しんぱいしたアメリカ赤十字せきじゅうじ社しゃからの要請ようせいにより、日本にっぽんの貨物かもつ船せんが子供こどもたちの受うけ入いれを決きめた。その船ふねが勝田かつた汽船きせん所有しょゆうの『陽明ようめい丸まる』であった。

陽明ようめい丸まるは貨物かもつ船せんだった為ため、勝田かつた銀次ぎんじ郎ろうが多額たがくの改造かいぞう費ひを寄付きふして子供こどもたちが航海こうかいできる客船きゃくせん仕様しように改造かいぞうされた。

陽明ようめい丸まる（船長せんちょう：茅原かやはら基はじめ治ち）は大正たいしょう9年ねん（1920年ねん）7月がつ、ウラジオストクまで子供こどもたちを迎むかえに行いき、太平洋たいへいようと大西おおにし洋ひろしを約やく3か月げつかけて航海こうかいした後のち、フィンランドへ送おくり届とどけた。子供こどもたちは同年どうねん10月がつ、無事ぶじに故郷こきょうのペトログラードへ戻もどることができたという。2014年ねん、日本にっぽんで開ひらかれた「第だい2回かい日本にっぽん・ロシアフォーラム」にて、森もり喜朗よしろう元もと首相しゅしょう等ひとしの講演こうえんでも「陽明ようめい丸まる」は取とり上あげられ、ロシアの下院かいん議長ぎちょうらに伝つたえられた。

勝田かつた館かん

勝田かつた館かん

青山学院あおやまがくいん青山あおやまキャンパス内ないの勝田かつたホール碑ひ

1916年ねん、勝田かつたは青山学院あおやまがくいんの高等こうとう学部がくぶ校舎こうしゃと院長いんちょう館かんの建設けんせつ費ひを全額ぜんがく負担ふたんすることを表明ひょうめいした。高等こうとう学部がくぶ校舎こうしゃは勝田かつた銀次ぎんじ郎ろうの名なにちなんで「勝田かつた館かん（ホール）」と命名めいめいされた。

• 煉瓦れんが造づくり地上ちじょう2階かい、地下ちか1階かい建だて
• 総そう坪数つぼすう：600坪つぼ4合ごう6勺しゃく（1,980m²）
  • 階上かいじょう - 教室きょうしつ（11室しつ）
  • 階下かいか - 院長いんちょう室しつ、教員きょういん室しつ、事務じむ室しつ、応接おうせつ室しつ、図書としょ室しつ、商品しょうひん陳列ちんれつ室しつ、卒業生そつぎょうせい室しつ、教室きょうしつ（2室しつ）
• 設計せっけい：辰野たつの金吾きんご、片岡かたおか安やすし
• 起工きこう：1917年ねん1月がつ
• 竣工しゅんこう：1918年ねん11月
• 総そう工費こうひ：25万まん円えん

煉瓦れんが造づくりの荘厳そうごんな建築けんちくで「東京とうきょう市しの名物めいぶつ」と称しょうされることもあったが、1923年ねんの関東大震災かんとうだいしんさいにより大破たいはした。青山学院あおやまがくいんの教職員きょうしょくいんと全ぜん学生がくせいは1925年ねん5月14日にちに「勝田かつた館かん袂たもと別べつ式しき」を行おこない、取とり壊こわされる勝田かつた館かんへの別わかれを惜おしんだ。

一方いっぽう、院長いんちょう館かんは関東大震災かんとうだいしんさいでは奇跡きせき的てきに倒壊とうかいを免まぬかれたが、これも太平洋戦争たいへいようせんそうの空襲くうしゅうによって焼失しょうしつし、現存げんそんしない。

参考さんこう文献ぶんけん

• 『貴族きぞく院いん要覧ようらん（丙へい）』昭和しょうわ21年ねん12月がつ増ぞう訂てい、貴族きぞく院いん事務じむ局きょく、1947年ねん。
• 総理そうり庁ちょう官房かんぼう監査かんさ課か 編へん『公職こうしょく追放ついほうに関かんする覚書おぼえがき該当がいとう者しゃ名簿めいぼ』日比谷ひびや政経せいけい会かい、1949年ねん。NDLJP:1276156。 
• 神戸こうべ市会しかい 編へん『神戸こうべ市会しかい史し 第だい2巻かん (大正たいしょう編へん)』神戸こうべ市し会かい事務じむ局きょく、1970年ねん。NDLJP:9768768。 
• 日本にっぽん国政こくせい調査ちょうさ会かい編へん『衆議院しゅうぎいん名鑑めいかん 第だい1回かい・1890年ねん～第だい34回かい・1976年ねん総そう選挙せんきょ』国政こくせい出版しゅっぱん室しつ、1977年ねん。
• 衆議院しゅうぎいん・参議院さんぎいん編へん『議会ぎかい制度せいど百ひゃく年ねん史し - 衆議院しゅうぎいん議員ぎいん名鑑めいかん』大蔵省おおくらしょう印刷いんさつ局きょく、1990年ねん。
• 衆議院しゅうぎいん・参議院さんぎいん編へん『議会ぎかい制度せいど百ひゃく年ねん史し - 貴族きぞく院いん・参議院さんぎいん議員ぎいん名鑑めいかん』大蔵省おおくらしょう印刷いんさつ局きょく、1990年ねん。
• 原はら忠明ただあき『激動期げきどうき六ろく人にんの神戸こうべ市長しちょう 原はら忠明ただあき回想かいそう録ろく』1988年ねん。 
• 神戸新聞社こうべしんぶんしゃ（編へん） 編へん『神戸こうべ市長しちょう14人にんの決断けつだん』神戸こうべ新聞しんぶん総合そうごう出版しゅっぱんセンター、1994年ねん。ISBN 978-4-343-00656-1。 
• 上岡うえおか一史かずし「第だい一いち次じ大戦たいせん期きにおける船ふね成金なりきんの出現しゅつげん -内田うちだ信也しんやと山下やました亀三郎かめさぶろう-」（PDF）、法政大学ほうせいだいがくイノベーション・マネジメント研究けんきゅうセンター、2012年ねん9月がつ。 
• “シリーズ大学だいがく探訪たんぼう8 勝田かつた銀次ぎんじ郎ろう”. AGUニュース. 青山学院大学あおやまがくいんだいがく. 2013年ねん10月がつ19日にち閲覧えつらん。
• 松田まつだ重夫しげお『評伝ひょうでん勝田かつた銀次ぎんじ郎ろう』青山学院あおやまがくいん資料しりょうセンター、1980年ねん。 全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:80026527