古こフランク語ご

古こフランク語ご（こフランクご、蘭らん: Oudfrankisch 独どく: Altfränkisch 英えい: Old Frankish）とは、古代こだいフランク人じんの言語げんご。西にしゲルマン語ごに属ぞくし、現在げんざいのオランダとその周辺しゅうへんに当あたる地域ちいきでメロヴィング朝あさ時代じだい（7世紀せいき以前いぜん）に使つかわれた。フランク語ごともいうが、現代げんだいのこれらの地域ちいきで用もちいられている言語げんごなどと区別くべつするために古ふるの字じをつける。

フランク人じんはもと現在げんざいのオランダ・フランドルに住すんでいたが、南みなみに進出しんしゅつしてフランク王国おうこくを建たてた。のちに古こフランク語ごは北部ほくぶでは古こ低ていフランク語ご（古こオランダ語ご wikidata）となり、南部なんぶ（すなわちフランスの北きた半分はんぶん）では古こフランス語ふらんすごに取とって代かわられたが、この古こフランス語ふらんすご、さらに現代げんだいフランス語ふらんすごにも大おおきな影響えいきょうを遺のこしたのである。

古こフランク語ごは直接ちょくせつ書かき残のこされているものではなく、古こフランス語ふらんすごへの借用しゃくよう語ごと古こ低ていフランク語ごとから再建さいけんされたものである。

フランス語ふらんすごなどへの影響えいきょう

フランス語ふらんすごにあるゲルマン語ご起源きげんの単語たんごのほとんど（英語えいごからの借用しゃくよう語ごを除のぞく）は古こフランク語ごに由来ゆらいし、かつて使つかわれていたであろうラテン語らてんご（俗ぞくラテン語らてんご）の単語たんごに取とって代かわったものも多おおい。例れいを下したの表ひょうに示しめす。

古こフランク語ご	古こフランス語ふらんすご	現代げんだいフランス語ふらんすご	ラテン語らてんご	現代げんだいオランダ語ご	意味いみ[英語えいご]
*warding	guardenc	gardien	(custōs)	verweerder	保護ほご・管理かんり者しゃ[warden/guardian]
*skirmjan (動詞どうし)	escarmouche (名詞めいし)	escarmouche (名詞めいし)	(leve proelium) (名詞めいし)	schermutseling (名詞めいし)	小競こぜり合あい[skirmish]
*bera	biere	bière	(cervīsia)	bier	ビール[beer]
*scoc (名詞めいし)	choc (名詞めいし) choquer (動詞どうし)	choquer (動詞どうし)	(perculsus) (名詞めいし)	schok (名詞めいし)	ショック[to shock / shock]
*grappon (動詞どうし)	graper (動詞どうし)	graper (動詞どうし)	(comprehendo) (動詞どうし)	(be)grijpen (動詞どうし)	つかむ[to grasp <OFrk.] 理解りかいする[to comprehend <Lat.]

英語えいごにも（たいてい古こフランス語ふらんすごを通つうじて）多おおくの古こフランク語ご起源きげんの単語たんごがある："random"、"standard"、"grape"、"stale" など。warden/guardianなどは同どう語源ごげんの単語たんごが共存きょうぞんする「二に重じゅう語ご」（古こ英語えいご/古こフランク語ご起源きげん）の例れいである。

現代げんだいフランス語ふらんすごの有ゆう音おんのh（h aspiré）はフランク語ご起源きげんであり、初期しょきには発音はつおんされていた。

古こフランク語ごはフランス語ふらんすごのみならずラテン語らてんご自体じたいにも影響えいきょうを与あたえた。フランク王国おうこくはイタリアをも支配しはい下かに置おき、この時期じきに影響えいきょうしたものであろう。フランク起源きげんのラテン語らてんごあるいはロマンス語ごの単語たんごには次つぎのようなものがある。

• 古こフランク語ご*sekjan > ラテン語らてんごsacire（見みつめる、英語えいご: "seek"と同どう語源ごげん）
• 古こフランク語ご*blanch > フランス語ふらんすご blanc（女おんな: blanche）、ティグリニャ語ご: bianco、スペイン語ご: blanco、ポルトガル語ご: branco（白しろい、英語えいご: "blank"と同どう語源ごげん）

ゲルマン語ご（特とくに古こフランク語ご）起源きげんでwを含ふくむ単語たんごのほとんどは、ロマンス語ごではguに変化へんかしている。例たとえば古こフランク語ごwerra（撃退げきたいする；英語えいご"war"と同どう語源ごげん）は現代げんだいフランス語ふらんすごでguerre、イタリア語ご、スペイン語ごやポルトガル語ごではguerra（戦たたかい；ゲリラの語源ごげん）になっている。上うえに示しめしたフランス語ふらんすごのgardienや、人名じんめいGuillaumeもその例れい（"英語えいご: William"も）。

関連かんれん項目こうもく

• 下しもロトリンギア
• 文献ぶんけん学がく
• ロレーヌ地域ちいき圏けん

参考さんこう文献ぶんけん

脚注きゃくちゅうの典拠てんきょ。主おもな執筆しっぴつ者しゃ名めい順じゅん。

• 上野うえの 貴史たかし「ロマンス語ご語彙ごいにおけるゲルマン語ごの通つう時じ的てき影響えいきょう : 10世紀せいきまでのロマンス語ご語彙ごいと古こ英語えいご」『広島大学ひろしまだいがく大学院だいがくいん文学ぶんがく研究けんきゅう科か論集ろんしゅう』第だい76巻かん、広島大学ひろしまだいがく大学院だいがくいん文学ぶんがく研究けんきゅう科か、東広島ひがしひろしま、2016年ねん12月、17-40頁ぺーじ、doi:10.15027/42980、ISSN 1347-7013、国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん書誌しょしID:028216467。 。別べつ題だい「The Diachronic Influence of Germanic Languages on Romance Vocabulary : The Lexicography of Old English and the Romance Languages Prior to the 10th Century」。口頭こうとう「ロマンス語ご語彙ごいにおけるゲルマン語ごの通つう時じ的てき影響えいきょう」に加筆かひつ・修正しゅうせい、初出しょしゅつは「欧州おうしゅう学がくフォーラム2016：ヨーロッパの言語げんごと文化ぶんかと社会しゃかい」（創立そうりつ10周年しゅうねん記念きねん専門せんもん研究けんきゅう者しゃ会議かいぎ・2016年ねん8月がつ7日にち・神戸こうべ市立しりつ六甲道ろっこうみち勤労きんろう市民しみんセンター）。

関連かんれん資料しりょう

本文ほんぶんの典拠てんきょではない資料しりょう。分類ぶんるい内ないは出版しゅっぱん年ねん順じゅん。

日本語にほんご資料しりょう

• 島岡しまおか 茂しげる『ロマンス語ごの話はなし』大学だいがく書林しょりん、1967年ねん。
• 直ちょく野の 敦あつし『ルーマニア語ご辞典じてん』大学だいがく書林しょりん、1984年ねん。
• 小学館しょうがくかんロベール仏ふつ和大かずひろ辞典じてん編集へんしゅう委員いいん会かい『小学館しょうがくかんロベール仏ふつ和大かずひろ辞典じてん』、小学館しょうがくかん、1988年ねん。
• 山田やまだ 秀男ひでお『フランス語ふらんすご史し』駿河台するがだい出版しゅっぱん、2003年ねん。
• 寺崎てらさき 英樹ひでき『スペイン語ご史し』大学だいがく書林しょりん、2011年ねん。

洋書ようしょ

• Stürtz, H. Freunde Mainfränkischer Kunst und Geschichte and Gesellschaft für Fränkische Geschichte. Altfränkische Bilder und Wappenkalender. 19--, NCID AA11107180. フランコニアの古ふるい絵画かいが、紋章もんしょうの歴史れきし。フランコニア歴史れきし協会きょうかい、マイン・フランク語ご芸術げいじゅつ・歴史れきし友とも会かい（監修かんしゅう）
• Frommhold, Georg（著ちょ）Der altfränkische Erbhof : ein Beitrag zur Erklärung des Begriffs der terra salica. 1938, Untersuchungen zur deutschen Staats- und Rechtsgeschichte Heft 148. Breslau：G. Märtin, M. & H. Marcus, NCID BA05691605. ドイツの州しゅうおよび法ほう史し問題もんだい研究けんきゅうシリーズ第だい148巻かん。
• Wartburg, Walther von. Französisches etymologisches Wörterbuch, Basel, 1944.
  • Wartburg, Walther von. (1948) Französisches etymologisches Wörterbuch: eine Darstellung des galloromanischen Sprachschatzes. Tübingen: Mohr. OCLC 3488833. ガロ・ローマ文化ぶんかの語彙ごいの表現ひょうげん。
• Franck, Johannes ; Schützeichel, Rudolf. Altfränkische Grammatik : Laut- und Flexionslehre 2. Aufl. Freunde Mainfränkischer Kunst und Geschichte, with Gesellschaft für Fränkische Geschichte. Vandenhoeck & Ruprecht, 1971. NCID BA05155289. 古ふるい古こフランク語ごの文法ぶんぽう：音韻おんいん論ろんと語尾ごび変化へんか理論りろん、第だい2版はん。フランコニア歴史れきし協会きょうかい、マイン・フランク語ご芸術げいじゅつ・歴史れきし友とも会かい（監修かんしゅう）。