西にしゲルマンぐん

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西にしゲルマンぐん
はなされる地域ちいき本来ほんらい北海ほっかいラインがわエルベがわアルプス山脈あるぷすさんみゃくかこまれた地域ちいき現在げんざいでは世界中せかいじゅう
言語げんご系統けいとうインド・ヨーロッパ語族ごぞく
下位かい言語げんご
ISO 639-5gmw

西にしゲルマンぐん(にしゲルマンごぐん)とは、インド・ヨーロッパ語族ごぞくゲルマンちゅう最大さいだい分派ぶんぱである。英語えいごドイツオランダフリジアルクセンブルクアフリカーンスイディッシュなどがぞくする。

歴史れきし[編集へんしゅう]

ゲルマン民族みんぞくだい移動いどう推移すいい紀元前きげんぜん750ねん-1ねん(ペンギン世界せかい歴史れきし地図ちずちょう1988から引用いんよう):
  • あか移動いどうぜん 紀元前きげんぜん750ねん
  • だいだい紀元前きげんぜん500ねん
  • 紀元前きげんぜん250ねん
  • みどり:1ねん

起源きげん特徴とくちょう[編集へんしゅう]

ゲルマン伝統でんとうてきひがし西にしきたゲルマンぐんみっつのかたりぐん分類ぶんるいされる[1]。これらの詳細しょうさい系統けいとうルーン文字もじとぼしい資料しりょうから決定けっていするのはむずかしく、そのため現在げんざいでもいくつかの言語げんごはその系統けいとう分類ぶんるいについて論争ろんそうられる。民族みんぞく移動いどう時代じだいのころはまだこれらさんぐんたがいに意思いし疎通そつう可能かのうであったとみられる。現在げんざい西にしゲルマンぐん分類ぶんるいされるしょ言語げんごもととなった方言ほうげん紀元前きげんぜん1世紀せいきころ後期こうきヤストルフ文化ぶんかなかでゲルマン祖語そごから分化ぶんかしたとされる。このときかれた西にしゲルマンぐん以下いかてんにおいて音韻おんいんろんまとにも形態けいたいろんまとにもひがしきたゲルマンぐん特徴とくちょうことにしている[2]

しかしながら、おおくの学者がくしゃ西にしゲルマンぐん直接ちょくせつゲルマン祖語そごからかれたのではなくゲルマン祖語そご直結ちょっけつするなんらかの言語げんごかいして分化ぶんかしたのではないかとかんがえた。すなわち"西にしゲルマン祖語そご"が存在そんざいしたのではないかということである[2]。それどころか、一部いちぶ学者がくしゃはゲルマン祖語そごからひがしゲルマンぐん分化ぶんかしたのちのこったほかのゲルマン諸語しょごつまりは北西ほくせいゲルマンぐんよっつの方言ほうげん[3]かれ、ひとつはきたゲルマンぐんのこりのみっつは"西にしゲルマンぐん"とばれるにいたったとろんじたのである。つまりは、

  1. 北海ほっかいゲルマン諸語しょご(North Sea Germanic languages):インガエウォネース英語えいごばん、そのながれをアングロ・フリジアぐん低地ていちドイツていザクセン
  2. エルベゲルマン諸語しょご(Elbe Germanic languages):ヘルミノーネース英語えいごばん、そのながれを高地たかちドイツ中部ちゅうぶドイツ上部うわべドイツ
  3. ヴェーザー・ラインゲルマン諸語しょご(Weser-Rhine Germanic languages):イスタエウォネース英語えいごばん、そのながれをフランク低地ていちフランクオランダ

みっつの方言ほうげんである。 この見解けんかい根拠こんきょきたゲルマンぐん西にしゲルマンぐん共通きょうつうして見受みうけられる以下いかてんふくめたおおくの言語げんごてき現象げんしょうからるものである[2]

この見解けんかいでは西にしゲルマンぐん特徴とくちょうきたゲルマンぐんから分離ぶんりしたさいにできたもので、西にしゲルマン祖語そごからがれたものとはされない。それらの特徴とくちょうちゅうおうのゲルマン諸語しょごあいだ言語げんご接触せっしょくによりひろまったがスカンジナビアまでは到達とうたつしなかった。しかし、このぐんあいだ構文こうぶんほう類似るいじてんから判断はんだんすると古代こだい西にしゲルマンぐんきたゲルマンぐんたがいに意思いし疎通そつう可能かのうであったほどちか存在そんざいであると主張しゅちょうされた[4]

中世ちゅうせい[編集へんしゅう]

中世ちゅうせいあいだ西にしゲルマンぐん島嶼とうしょにおけるちゅう英語えいご発展はってん大陸たいりくにおけるだい子音しいん推移すいいによって明確めいかくかれた。 だい子音しいん推移すいい高地たかちドイツとその西にしゲルマン諸語しょご区別くべつし、その差異さい近代きんだいまでに相当そうとうひろがったとされ、たとえばみなみ高地たかちアレマン残存ざんそんする言語げんごでは最南端さいなんたんはヴァリス方言ほうげん)ときたきた低地ていちザクセン場合ばあいりょう言語げんごとも現代げんだい単一たんいつドイツ国内こくないはなされているにかかわらず意思いし疎通そつう不可能ふかのうである。最南端さいなんたんしょ方言ほうげんだい子音しいん推移すいい完了かんりょうしたが、北部ほくぶしょ方言ほうげんはその影響えいきょうけずにのこってしまったのである。

現在げんざいのドイツ方言ほうげん」のうち、低地ていちドイツだい部分ぶぶん近代きんだい英語えいご類似るいじしている。これはアングルじん発祥はっしょうきたドイツのアンゲルン半島はんとうであり、サクソンじんがドイツちゅう北部ほくぶひろがるザクセン地域ちいき(そのなかでもおおむね現在げんざいシュレースヴィヒ=ホルシュタインしゅうニーダーザクセンしゅうにあたる)であり、さらにジュートじんんでいたのが、その名前なまえ由来ゆらいとなったユトランド半島はんとう北部ほくぶであるためである。かれみっつのゲルマン民族みんぞく中心ちゅうしんに、その雑多ざったきたドイツしょ民族みんぞくアングリアみなみ入植にゅうしょくして成立せいりつしたアングロ・サクソンじんは、すなわちユトランド半島はんとうからたのである。

分類ぶんるい[編集へんしゅう]

西にしゲルマンぐん分類ぶんるいは、伝統でんとうてきには以下いかのようにするのが一般いっぱんてきであった。

近年きんねんでは、先述せんじゅつのとおり以下いかのような分類ぶんるいかんがえられている。

所属しょぞく言語げんご[編集へんしゅう]

現代げんだいヨーロッパのゲルマン:
  きた西にしける境界きょうかいせん
きたゲルマンぐん 西にしゲルマンぐん

細分さいぶんされた分類ぶんるいについてはまだ確定かくていされたものではないこと注意ちゅうい

比較ひかく[編集へんしゅう]

したひょう近代きんだい西にしゲルマン諸語しょご相互そうご関係かんけいしるしたもので密接みっせつ関係かんけいにありゲルマン祖語そご語根ごこん *se/*þe、*hwa、*heに起源きげんみっつの単語たんごしめしてある。これを西にしゲルマンぐん主要しゅようさん言語げんご(英語えいご、オランダ、ドイツ)をれいにとってていこう。

おも西にしゲルマン諸語しょごにおけるどう語源ごげんさん単語たんご比較ひかくひょう
英語えいご オランダ ドイツ
*Se/*þe *Hwa *He *Se/*þe *Hwa *He *Se/*þe *Hwa *He
主格しゅかく 男性だんせい the who he de wie hij, ie der wer er
中性ちゅうせい that what it dat wat het das was es
女性じょせい she (who) ME/西にし中部ちゅうぶイギリス方言ほうげん hoo zij, ze (wie) sie, die (wer)
複数ふくすう they (who) zij, ze (wie) sie, die (wer)
指示しじ this dit, deze dies-
副詞ふくし名詞めいしてき用法ようほう so, thus while zo, dus wijl so Weile
関係かんけい such which each zulk welke elk solch- welch- MHG elch-
そうすう whether weder
  英語えいご オランダ ドイツ
与格よかく おとこ/中性ちゅうせい whom him hem dem wem ihm
女性じょせい (whom) her haar der (wem) ihr
複数ふくすう them (whom) 'em hen/hun den (wem) ihnen
ぞくかく おとこ/中性ちゅうせい whose his wiens des(sen) wessen
女性じょせい/複数ふくすう their her wier haar der(en) ihr-
しょかく there where here daar waar hier da, dar- wo, war- hier
むかいかく thither whither hither der her her
だつかく thence whence hence (von) dannen
かく why, how hoe wie
時制じせい/接続せつぞくほう I then when dan wanneer dann wann
II than (when) (dan) (wanneer) denn wenn
*Se/*þe *Hwa *He *Se/*þe *Hwa *He *Se/*þe *Hwa *He
英語えいご オランダ ドイツ

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ Hawkins, John A. (1987). “Germanic languages”. In Bernard Comrie. The World's Major Languages. Oxford University Press. pp. 68–76. ISBN 0-19-520521-9 
  2. ^ a b c Robinson, Orrin W. (1992). Old English and Its Closest Relatives. Stanford University Press. ISBN 0-8047-2221-8 
  3. ^ Kuhn, Hans (1955–56). “Zur Gliederung der germanischen Sprachen”. Zeitschrift für deutsches Altertum und deutsche Literatur 66: 1–47. 
  4. ^ Graeme Davis (2006:154) notes "the languages of the Germanic group in the Old period are much closer than has previously been noted. Indeed it would not be inappropriate to regard them as dialects of one language. They are undoubtedly far closer one to another than are the various dialects of modern Chinese, for example. A reasonable modern analogy might be Arabic, where considerable dialectical diversity exists but within the concept of a single Arabic language." In: Davis, Graeme (2006). Comparative Syntax of Old English and Old Icelandic: Linguistic, Literary and Historical Implications. Bern: Peter Lang. ISBN 3-03910-270-2