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塩化水銀(I)(えんかすいぎん いち、calomel)は、水銀の塩化物の1つ。水銀の塩化物である塩化水銀は2種類あり、もう1つは塩化水銀(II) である。Hg2Cl2 という組成をもち、塩化第一水銀(えんかだいいちすいぎん)、甘汞(かんこう)、カロメルとも言う。水銀原子同士が共有結合により結合しているため HgCl とは表記しない。
光に当たると塩化水銀(II) と金属水銀に分解する。毒性は塩化水銀(II)よりは弱いが、毒物及び劇物取締法で劇物に指定されている。白色またはやや黄ばんだ白色をしていて水には溶けにくい。
アンモニア水と反応すると黒色に変わる。反応式は次の通りである。
![{\displaystyle {\ce {{Hg2Cl2}+2NH3->{Hg}+{Hg(NH2)Cl}+{NH4^{+}}+Cl^{-}}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/da54ab21c15e674b8d37bc420e954295305c2c4c)
水銀は第12族元素では唯一 M-M 結合を形成する元素で、Cl-Hg-Hg-Clの単位構造をとる。
![単位格子の球棒モデル](https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/ac/Calomel-unit-cell-3D-balls.png/300px-Calomel-unit-cell-3D-balls.png) |
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単位格子 |
八面体構造の球棒モデル
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Hg-Hgの結合長は253 pmで、Hg-Clの結合長は243 pmである[1]。全体的に水銀原子を中心とした八面体形構造をとり、2番目に近い4個の塩素原子との距離は321 pmである。
かつては化粧品(白粉)や下剤・利尿剤として利用されていたが、水銀中毒の危険があるために現在は使用されていない。塩化水銀(I) は基準電極として利用されることがある。
- ^ Wells A.F. (1984) Structural Inorganic Chemistry 5th edition Oxford Science Publications ISBN 0-19-855370-6