大手おおて私鉄してつ

大手おおて私鉄してつ（おおてしてつ）は、日本にっぽんの民営みんえい鉄道てつどう事業じぎょう者しゃ（私鉄してつ）の分類ぶんるいの一ひとつで、特とくに経営けいえい規模きぼの大おおきなものの会社かいしゃを指さす。大手おおて民みん鉄てつともいう。英語えいごでは「Major Railway Companies^[1]」と呼称こしょうする。国土こくど交通省こうつうしょう鉄道てつどう局きょくなどでも統計とうけい資料しりょうでこの区分くぶんを用もちいており、他たの私鉄してつ（準じゅん大手おおて私鉄してつ・中小ちゅうしょう私鉄してつ）とは区別くべつされる。

大手おおて私鉄してつ各社かくしゃは、経営けいえい規模きぼ（資本しほん金きん、営業えいぎょうキロ、輸送ゆそう人員じんいんなど）が大おおきく^[2]^[3]、三さん大都市だいとし圏けん^{[注釈ちゅうしゃく 1]}および福岡ふくおか都市とし圏けん^[4]（四よん大都市だいとし圏けん）における基幹きかん的てきな公共こうきょう交通こうつう機関きかんとして旅客りょかく輸送ゆそうを担になっている^[5]。

概要がいよう

大手おおて私鉄してつではいずれも鉄道てつどう事業じぎょうを中核ちゅうかくとして、鉄道てつどうも含ふくめたバスやタクシーなどの運輸うんゆ事業じぎょう、沿線えんせんを中心ちゅうしんとした不動産ふどうさん事業じぎょう（マンションや商業しょうぎょう施設しせつの開発かいはつといったデベロッパー）や流通りゅうつう事業じぎょう（百貨店ひゃっかてんやスーパーマーケット）、レジャー事業じぎょう（旅行りょこう代理だいり店てんやプロ野球やきゅう）などを展開てんかいする多角たかく化か経営けいえいを行おこなっており、大手おおて私鉄してつグループは沿線えんせん住民じゅうみんのライフスタイルを担になう重要じゅうような存在そんざいでもある。日本にっぽんの私鉄してつにおける経営けいえい多角たかく化かは阪急電鉄はんきゅうでんてつの創業そうぎょう者しゃである小林こばやし一三かずみが考案こうあんしたとされ、この鉄道てつどう会社かいしゃの多角たかく経営けいえいは世界せかい的てきには日本にっぽん特有とくゆうの経営けいえいモデルである。非ひ鉄道てつどう事業じぎょうについては、不動産ふどうさん事業じぎょうなどを中心ちゅうしんに沿線えんせん以外いがいの地域ちいきや国内外こくないがいに及およぶ場合ばあいもある。

この「鉄道てつどう・不動産ふどうさん・流通りゅうつう」を3本ほん柱ばしらとした私鉄してつ経営けいえいモデルを、国鉄こくてつから民営みんえい化かしたJR各社かくしゃも採用さいようして非ひ鉄道てつどう事業じぎょうの成長せいちょうを目指めざしている^[6]^[7]^[8]。JRも不動産ふどうさん事業じぎょうを中心ちゅうしんに自社じしゃエリア外がいでの事業じぎょう展開てんかいを行おこなっている。

また、かつては多おおくの大手おおて私鉄してつが直営ちょくえいの自動車じどうしゃ事業じぎょう部ぶとしてバス事業じぎょう（乗合のりあいバス・貸切かしきりバス）を運営うんえいしていたが、モータリゼーションによる需要じゅよう衰退すいたいを受うけ、1990年代ねんだい以降いこうは経営けいえい合理ごうり化かのためバス事業じぎょうを分社ぶんしゃ化かする大手おおて私鉄してつが増加ぞうかした。

歴史れきし

「大手おおて」という区分くぶんの誕生たんじょう

私鉄してつにおける「大手おおて・中小ちゅうしょう」の区分くぶんは、日本にっぽん私鉄してつ労働ろうどう組合くみあい総そう連合れんごう会かい（私鉄してつ総連そうれん）における賃上ちんあげ交渉こうしょうの過程かていで生うまれた^[9]。

まず1951年ねん（昭和しょうわ26年ねん）の中央ちゅうおう労働ろうどう委員いいん会かいによる調停ちょうていにより、会社かいしゃ規模きぼ・立地りっち条件じょうけん・労働ろうどう生産せいさん性せい・人件じんけん費ひ率りつなどを考慮こうりょして個別こべつに賃金ちんぎんを決きめる方法ほうほうが提示ていじされた^[9]。さらに翌よく1952年ねん（昭和しょうわ27年ねん）の調停ちょうてい案あんではより具体ぐたい的てきに、関東かんとう私鉄してつ5社しゃ（東武鉄道とうぶてつどう・東京急行電鉄とうきょうきゅうこうでんてつ・京浜急行電鉄けいひんきゅうこうでんてつ・京王帝都電鉄けいおうていとでんてつ・京成電鉄けいせいでんてつ）、関西かんさい5社しゃ（阪急電鉄はんきゅうでんてつ・京阪電気鉄道けいはんでんきてつどう・近畿日本鉄道きんきにほんてつどう・阪神電気鉄道はんしんでんきてつどう・南海電気鉄道なんかいでんきてつどう）の計けい10社しゃの賃金ちんぎん増額ぞうがく率りつを他たと区別くべつした（10社しゃは24 - 26%、他たは20%増ぞう）^[9]。なお、西武鉄道せいぶてつどうと小田急電鉄おだきゅうでんてつはこの年としの春闘しゅんとうに参加さんかしていなかった^[10]。そして1953年ねん（昭和しょうわ28年ねん）の調停ちょうてい案あんでは、10社しゃに名古屋鉄道なごやてつどうと西日本鉄道にしにっぽんてつどうを加くわえて「大手おおて12社しゃ」と明示めいじした^[9]。

私鉄してつの春闘しゅんとうを報ほうじた新聞しんぶん各社かくしゃでも、1952年ねん頃ごろより「大手おおて筋すじ十じゅう社しゃ^[11]」（朝日新聞あさひしんぶん）、「十じゅう大だい私鉄してつ^[12]」（読売新聞よみうりしんぶん）などと表現ひょうげんされるようになり、1954年ねんの春闘しゅんとう報道ほうどうでは「大手おおて十じゅう三さん社しゃ^[13]^{[注釈ちゅうしゃく 2]}」（朝日新聞あさひしんぶん）、「東京とうきょうの大手おおて私鉄してつ^[14]」（読売新聞よみうりしんぶん）と、「大手おおて」「大手おおて私鉄してつ」といった表現ひょうげんが登場とうじょうしている。

このように、当初とうしょは労使ろうし交渉こうしょうにおける基準きじゅんでしかなかった「大手おおて・中小ちゅうしょう」の区分くぶんが、のちに他たの場面ばめんでも用もちいられるようになり、「大手おおて私鉄してつ」の語かたりが次第しだいに一般いっぱん化かしていった^[9]。

企業きぎょう数すうの変遷へんせん

労使ろうし交渉こうしょうで「大手おおて私鉄してつ」とされた12社しゃに西武せいぶ・小田急おだきゅうを加くわえた14社しゃの形成けいせいは、昭和しょうわ初期しょきに成立せいりつした陸上りくじょう交通こうつう事業じぎょう調整ちょうせい法ほうなどによって私鉄してつ各社かくしゃの統合とうごうが図はかられたことに端はしを発はっする。これにより1945年ねん（昭和しょうわ20年ねん）の終戦しゅうせん時点じてんでは東武とうぶ・西武せいぶ・京成けいせい・東急とうきゅう（大だい東急とうきゅう）・名鉄めいてつ・近鉄きんてつ（大だい近鉄きんてつ）・京阪神けいはんしん急行きゅうこう・阪神はんしん・西鉄にしてつの9社しゃとなっていたが、1947年ねん（昭和しょうわ22年ねん）に近鉄きんてつから南海なんかいが、1948年ねん（昭和しょうわ23年ねん）に東急とうきゅうから京王けいおう・小田急おだきゅう・京急けいきゅうの3社しゃが、1949年ねん（昭和しょうわ24年ねん）に京阪神けいはんしんから京阪けいはんが独立どくりつし、京阪けいはん独立どくりつの時点じてんで14社しゃとなった。

14社しゃは先述せんじゅつした経緯けいいによって大手おおて私鉄してつとされるようになったが、以後いごの認定にんていは業界ぎょうかい団体だんたいである日本にっぽん民営みんえい鉄道てつどう協会きょうかい（民鉄協みんてつきょう）が行おこなっており、鉄道てつどう事業じぎょう者しゃからの要望ようぼうを受うけて同どう協会きょうかい理事りじ会かいで審議しんぎの上うえ、承認しょうにんを受うければ大手おおて私鉄してつと認定にんていされる^[15]。この手続てつづきにより1990年ねん（平成へいせい2年ねん）5月31日にちには相模鉄道さがみてつどうが大手おおて私鉄してつに昇格しょうかくし^[16]、2004年ねん（平成へいせい16年ねん）4月がつ1日にちには特殊とくしゅ法人ほうじん帝都ていと高速度こうそくど交通こうつう営団えいだんから事業じぎょうを継承けいしょうした東京とうきょう地下鉄ちかてつ株式会社かぶしきがいしゃ（東京とうきょうメトロ）^{[注釈ちゅうしゃく 3]}が大手おおて私鉄してつに加くわわり、現在げんざいの16社しゃ体制たいせいに至いたっている。

なお1980年代ねんだい後半こうはんから1990年代ねんだい前半ぜんはんには、当時とうじ準じゅん大手おおて私鉄してつであった神戸電鉄こうべでんてつにおいても、前述ぜんじゅつの相模鉄道さがみてつどうに続つづいて大手おおて私鉄してつに昇格しょうかくする計画けいかくが存在そんざいした^[17]。これは神戸電鉄こうべでんてつグループであった北きた神しん急行きゅうこう電鉄でんてつの黒字くろじ転換てんかん時じに同社どうしゃを吸収きゅうしゅうし^[18]、これによって輸送ゆそう人員じんいんが大手おおて私鉄してつの基準きじゅんを満みたすため、大手おおて私鉄してつに昇格しょうかくするというもので、覚書おぼえがきも締結ていけつされていた^[19]。このため、1990年代ねんだいに神戸電鉄こうべでんてつの各部かくぶ署しょ名義めいぎで執筆しっぴつされた公刊こうかん書籍しょせき・雑誌ざっし記事きじなどにおいては「大手おおて私鉄してつになる」や「大手おおて民みん鉄てつへの道みちを加速度かそくど的てきに歩あゆんでいる」など大手おおて私鉄してつへの参入さんにゅうを示唆しさする文書ぶんしょが多おおく見みられた^{[注釈ちゅうしゃく 4]}。しかし実際じっさいには、その後ごの社内外しゃないがいの経営けいえい環境かんきょうの激変げきへんなどもあり、大手おおて私鉄してつへの昇格しょうかくが立たち消ぎえになったどころか、逆ぎゃくに2005年ねん4月がつ1日にちより中小ちゅうしょう私鉄してつへと格下かくさげされてしまうこととなった。

現在げんざいでは民鉄協みんてつきょうによる審査しんさが大手おおて私鉄してつの認定にんてい要件ようけんとなっているため、事業じぎょう規模きぼの大小だいしょうにかかわらず、民鉄協みんてつきょう非ひ加盟かめいの鉄道てつどう事業じぎょう者しゃは大手おおて私鉄してつとはみなされない^[15]^{[注釈ちゅうしゃく 5]}。例たとえば2018年ねん（平成へいせい30年ねん）4月がつ1日にちに大阪おおさか市し交通こうつう局きょくの鉄道てつどう・軌道きどう事業じぎょうを継承けいしょうした大阪おおさか市し高速こうそく電気でんき軌道きどう (Osaka Metro) は民鉄協みんてつきょうに加盟かめいしておらず、大手おおて私鉄してつとは見み做されていない^[15]ため、同社どうしゃの中期ちゅうき経営けいえい計画けいかくでは大手おおて私鉄してつの語かたりを用もちいず、自社じしゃを「大手おおて鉄道てつどう事業じぎょう者しゃ」と表現ひょうげんしている^[21]。一方いっぽう、国土こくど交通省こうつうしょうはOsaka Metroを大手おおて私鉄してつに含ふくめるか否ひかについては「特とくに何なにも決きまっていない」（2018年ねん当時とうじ）としており^[22]、2021年ねん（令れい和わ3年ねん）4月がつ時点じてんでは同社どうしゃを中小ちゅうしょう私鉄してつ（中小ちゅうしょう民みん鉄てつ）に区分くぶんしている^[23]。

このうち近畿日本鉄道きんきにほんてつどうは、中京ちゅうきょう圏けんにおいても路線ろせん網もうを持もつが、本社ほんしゃ所在地しょざいちが大阪おおさか府ふであることから、関西かんさい私鉄してつとして扱あつかわれる。