太ふとし学がく

太ふとし学がく（たいがく、拼音: tàixué）とは、古代こだいの中国ちゅうごくや朝鮮ちょうせん・ベトナムに設置せっちされた官立かんりつの高等こうとう教育きょういく機関きかん。古代こだいの教育きょういく体系たいけいにおいては最高さいこう学府がくふにあたり、官僚かんりょうを養成ようせいする機関きかんであった。

中国ちゅうごく

経書けいしょにおいて

「太ふとし学がく」という言葉ことばは、経書けいしょに見みられる。

『礼れい記き』によれば、舜しゅん（虞おそれ）は「上うえ庠」という学校がっこうを作つくったといい、周しゅうの時代じだいには「辟雍」という学校がっこうがあった。こうした貴族きぞく子弟していのための高等こうとう教育きょういく機関きかんは「国学こくがく」 (zh) と総称そうしょうされ、また「太ふとし学がく」「大学だいがく」といった語かたりでも呼よばれた。

ただし、「太ふとし学がく」が確実かくじつな制度せいどとして現あらわれるのは、漢かん代だい以降いこうとされる。

漢かん代だい以後いご

熹平石経いしきょう残ざん石せき。後こう漢かん時代じだいの石経いしきょう（儒学じゅがくの経典きょうてんを刻きざんだ碑いしぶみ）の一部いちぶ。1922年ねんに洛陽らくようの太たい学がくの遺跡いせきから発見はっけんされた。同おなじ遺跡いせきからは三さん体たい石経いしきょうも見みつかっている。

漢かんの時代じだいに「太ふとし学がく」は首都しゅとに所在しょざいする高等こうとう教育きょういく機関きかんの正式せいしき名称めいしょうとなった。前漢ぜんかんの武たけ帝みかどが董ただし仲なか舒の献策けんさくによって設置せっちしたのがはじめとされている。「太ふとし学がく」は儒教じゅきょうを正統せいとう学問がくもんとした。

前漢ぜんかんの時代じだいの「太ふとし学がく」は長安ながやす（現在げんざいの西安しーあん市し）に設もうけられ、後こう漢かんの時代じだいには洛陽らくよう（現在げんざいの洛陽らくよう市し）に設もうけられた。学生がくせいたちは地方ちほうから選抜せんばつされ、試験しけんに応おうじて官かんに任用にんようされた。後こう漢かんの時代じだいに学生がくせい（弟子でし員いん）の数かずは3万まん人にんを越こえたとされ、「清流せいりゅう派は」（党とう錮の禁きん参照さんしょう）の拠点きょてんとして一大いちだい政治せいじ勢力せいりょくとなった。

魏たかしや蜀しょくにも太たい学がくが置おかれており、呉ごにも同様どうようのものがあったとみられている。

西にし晋すすむは洛陽らくように太たい学がくを設もうけ、東あずま晋すすむは建たて康やすし（現在げんざいの南京なんきん市し）に太たい学がくを置おいた。

西にし晋すすむの咸寧2年ねん（276年ねん）、公卿くぎょう・大夫たいふの子弟してい（国子くにこ）の教育きょういく機関きかんとして、太ふとし学がくとは別べつに「国子くにこ学がく」が設もうけられた。国子くにこ学がくと太ふとし学がくの双方そうほうは国子くにこ祭さい酒しゅが管掌かんしょうした。

隋ずい唐とう以後いご

詳細しょうさいは「国子くにこ監かん」を参照さんしょう

唐とう代だいには太ふとし学がくと国子くにこ学がくが並置へいちされており、他たの教育きょういく機関きかんとともに行政ぎょうせい機関きかん「国子くにこ監かん」の下したに置おかれた「六ろく学がく」のひとつであった。六ろく学卒がくそつ業者ぎょうしゃには、科挙かきょの最終さいしゅう試験しけんにあたる省しょう試ためしの受験じゅけん資格しかくが認みとめられた。なお、唐とう代だいの太たい学がくでは、遣唐使けんとうしとして唐とうに留学りゅうがくした阿倍仲麻呂あべのなかまろが学まなんでいる。

太ふとし学がくの官僚かんりょう養成ようせい機関きかんとしての役割やくわりは、宋そう代だいに科挙かきょ制度せいどが整備せいびされるとともに失うしなわれていった。

明あきら代だいに諸しょ教育きょういく機関きかんと教育きょういく行政ぎょうせい機関きかんは「国子くにこ監かん」という名なで一本いっぽん化かされ、以後いご清きよし末すえまでこの名なで続つづいた。

朝鮮半島ちょうせんはんとう

高句麗こうくりの時代じだいに「太ふとし学がく」（태학）が設もうけられた。『三さん国史こくし記き』によれば、372年ねんに小しょう獣しし林りん王おうが太ふとし学がくを設立せつりつし、儒教じゅきょうによる教育きょういくをおこなったという。高句麗こうくりでは、小しょう獣しし林りん王代おうだいに太たい学がくが建たてられ、儒教じゅきょうによる教育きょういくをおこなったとされるが、太ふとし学がくや儒教じゅきょうと対たいを成なす仏教ぶっきょうが前ぜん秦はたの順じゅん道どうの高句麗こうくり入国にゅうこくによって齎もたらされたように、高句麗こうくりの太たい学がくの整備せいびも中国ちゅうごく系けい移民いみんの関与かんよが想定そうていされ、中国ちゅうごく系けい移民いみんは高句麗こうくりの対内たいない的てき・対外たいがい的てき国家こっか的てき発展はってんに多方面たほうめんで活躍かつやくした。一方いっぽう、中国ちゅうごく系けい移民いみんの役割やくわりがあっても、太ふとし学がくの設置せっちや儒教じゅきょうによる教育きょういくが可能かのうだったのは、中国ちゅうごくが朝鮮ちょうせんに設置せっちした植民しょくみん地ちである楽らく浪なみ郡ぐん・帯おび方かた郡ぐんの郡ぐん民みんという基礎きそ的てき土台どだいが存在そんざいしていたことが大おおきく、太ふとし学がくの設置せっちや儒教じゅきょうによる教育きょういくを整備せいびできたのは、それらを受容じゅようできるほど社会しゃかいが発展はってんしていなければならず、その為ためには、中国ちゅうごく王朝おうちょうの支配しはいを長期間ちょうきかん経験けいけんしている楽らく浪なみ郡ぐん・帯おび方かた郡ぐん民みんを高句麗こうくりが接収せっしゅうできたことによる。この関係かんけいを垣間かいまみれるのは高句麗こうくりにおける仏教ぶっきょう受容じゅようと太ふとし学がく設置せっちである。順じゅん道どうの高句麗こうくり入国にゅうこくの3年ねん後ご、高句麗こうくりは肖あやか門もん寺てらと伊い弗どる蘭らん寺てらを建立こんりゅうし、各々おのおの順じゅん道どうと阿おもね道みちを住すまわせており、高句麗こうくりでは、仏教ぶっきょう受容じゅようをめぐって殉教者じゅんきょうしゃ（異い次つぎ頓とみ）をだした新しん羅らのような葛藤かっとうが起おきなかった可能かのう性せいが高たかい。その背景はいけいには、仏教ぶっきょうを信奉しんぽうしていた楽らく浪なみ郡ぐん・帯おび方かた郡ぐん民みんを通つうじて仏教ぶっきょう受容じゅようの土台どだいが形成けいせいされていたからであり、また、貴族きぞくの子弟してい教育きょういくを通つうじて官吏かんりを養成ようせいする太ふとし学がく設置せっちも高句麗こうくり社会しゃかいの漢かん文化ぶんかが高水準こうすいじゅんに達たっしていなければならず、これにも楽らく浪なみ郡ぐん・帯おび方かた郡ぐん民みんを接収せっしゅうできたことが大おおきい。

中国ちゅうごくから百済くだらに移住いじゅうしていた中国ちゅうごく系けい百済くだら人じん貴族きぞくの陳ちん法子のりこの墓誌ぼしが中国ちゅうごくで出土しゅつどし、墓誌ぼしから百ひゃく済ずみでも太たい学がくが設置せっちされていたことが明あきらかになっている。太たい学がくの長官ちょうかんは「太ふとし学がく正ただし」と称しょうされ、中国ちゅうごく系けい百済くだら人じん貴族きぞくの陳ちん春はるが務つとめていた。

官立かんりつ高等こうとう教育きょういく機関きかんとして、新しん羅らは「国学こくがく」（국학）を、高こう麗うららは「国子くにこ監かん」（국자감）を設もうけた。

詳細しょうさいは「成なり均ひとし館かん」を参照さんしょう

高麗こうらい王朝おうちょう末期まっき、「国子くにこ監かん」は「成なり均ひとし館かん」に改称かいしょうされた。朝鮮ちょうせん王朝おうちょうでもその名称めいしょうは引ひき継つがれ、漢かん城府じょうふ（現在げんざいのソウル市し）に置おかれた最高さいこう教育きょういく機関きかんは「成なり均ひとし館かん」と呼よばれた。

ベトナム

陳ひね朝あさ太ふとし宗むねは建けん中ちゅう8年ねん（1232年ねん）に科挙かきょ（Khoa bảng）を行おこなったが、その実施じっし方法ほうほうは「太ふとし学がく」（Thái học）を設立せつりつし、太ふとし学生がくせい（Thái học sinh）に試験しけんを受うけさせ、これによって進士しんしの資格しかくを取とらせるというものであった。

黎はじむ利りが黎はじむ朝あさ皇帝こうていに即位そくいすると（1428年ねん）、首都しゅと昇龍しょうりゅう（タンロン、現在げんざいのハノイ）に「国子くにこ監かん」（Quốc Tử Giám）を置おいた。制度せいどは阮朝にも引ひき継つがれ、1803年ねんにフエに国子くにこ監かん（Quốc Tử Giám）が置おかれた。阮朝の科挙かきょは1919年ねんを最後さいごとして廃止はいしされ、国子くにこ監かんも廃止はいしされた。

関連かんれん項目こうもく

• 大だい学寮がくりょう - 日本にっぽんで律令制りつりょうせいのもと置おかれた機関きかん。

外部がいぶリンク

• 『太ふとし学がく』 - コトバンク