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権利けんり

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

権利けんり(しぬけんり、英語えいご: Right to die)は、時期じき決定けっていする権利けんりさまえら権利けんりのこと[1]広義こうぎには自発じはつてき積極せっきょくてき安楽あんらく医師いしによる自殺じさつ幇助ほうじょ自殺じさつする権利けんり間接かんせつてき安楽あんらくふくみ、狭義きょうぎには医学いがくてき治療ちりょう拒絶きょぜつ停止ていしによって患者かんじゃいた状態じょうたいのときに治療ちりょう拒否きょひ停止ていしする権利けんり[2]たすかる見込みこみのない延命えんめい措置そち中止ちゅうしして尊厳そんげんもとめる権利けんり患者かんじゃ家族かぞくによっても行使こうしされうる[3]権利けんり関連かんれんして、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく一部いちぶ地域ちいきなどではリビング・ウィル生前せいぜん意思いし)という条件じょうけんのもとで尊厳そんげんみとめた尊厳そんげんほう制定せいていされている一方いっぽうで、自殺じさつ幇助ほうじょなどの観点かんてんから様々さまざま論議ろんぎんでいる[3]

世界せかい安楽あんらく合法ごうほうせい色分いろわけした地図ちず青色あおいろ積極せっきょくてき安楽あんらく合法ごうほうであること、水色みずいろ消極しょうきょくてき安楽あんらく合法ごうほうであること、灰色はいいろ積極せっきょくてき安楽あんらく違法いほう消極しょうきょくてき安楽あんらく法的ほうてき規制きせいされていないこと、赤色あかいろ安楽あんらく一律いちりつ違法いほうであることをしめす。

1981ねん世界せかい医師いしかいしたリスボン宣言せんげんでは、「患者かんじゃ尊厳そんげんのうちに権利けんりっている」として、医師いし尊厳そんげんという患者かんじゃ権利けんりひとつをあたえるために努力どりょくするべきであるというむね主張しゅちょうがなされた[4]。もっとも、どのようにすれば患者かんじゃ尊厳そんげんたもたれるのかについてはれられておらず、改定かいてい宣言せんげんぶん曖昧あいまいさをともなうものであり、各国かっこくそれぞれがことなる事情じじょうつこともあいまって、はっきりとした世界せかいてき統一とういつてき見解けんかいあらわれていない[5]

歴史れきし

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古代こだいギリシャでは自殺じさつ権利けんりとしてみとめたとする文献ぶんけんられたり、中世ちゅうせいキリスト教きりすときょう(カトリック)の全盛期ぜんせいきでは自殺じさつ犯罪はんざいとされるなど、権利けんり自分じぶん実行じっこうする自殺じさつ[6]人間にんげん歴史れきしともにあったかもしれない[1]

19世紀せいき生物せいぶつがく劇的げきてき進展しんてん背景はいけいに、医者いしゃ任務にんむには苦痛くつう緩和かんわのみならず生命せいめい短縮たんしゅくむことができるとかんがえられるようになり、このながれで安楽あんらくという発想はっそうまれた[4]

権利けんり

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権利けんりという言葉ことばアドルフ・ヨストドイツばん1895ねんはじめてもちいた[1]法律ほうりつのヨストは著書ちょしょへの権利けんり』(Das Recht auf den Tod)で不治ふじやまいじん安楽あんらく精神病せいしんびょう患者かんじゃ殺害さつがい同一どういつし、このなか不治ふち肉体にくたいやまいなや患者かんじゃには「苦痛くつうなき」への権利けんりつと主張しゅちょうした[7]

1950年代ねんだいから1960年代ねんだいにかけてアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく生命せいめい倫理りんりがく牽引けんいんしたジョセフ・フレッチャー英語えいごばんプロテスタント立場たちばから医療いりょう技術ぎじゅつ進歩しんぽ積極せっきょくてき安楽あんらくからめて権利けんりろんじた[8]

このように権利けんり議論ぎろん前々まえまえからすくなからずされてきたが、フレッチャーの権利けんりとは、積極せっきょくてき安楽あんらくつよむすびついた「みずかかう権利けんり」といいかえることができ、つぎべるカレン・クインラン事件じけん俎上そじょうせられた権利けんりとはちが意味合いみあいをゆうしていた[8]


1960年代ねんだいから1970年代ねんだいにかけては、情報じょうほう通信つうしん機器きき急速きゅうそく普及ふきゅうし、公開こうかい自殺じさつ様子ようす大衆たいしゅうとどくようになった。1963ねんには、ティック・クアン・ドックベトナム戦争せんそう抗議こうぎして大使館たいしかんまえ焼身しょうしん自殺じさつ1970ねん三島みしま由紀夫ゆきお自衛隊じえいたいまえ公開こうかい割腹かっぷく自殺じさつ1974ねんには、クリスティーン・チュバック世界せかいはじめてテレビの生放送なまほうそうちゅう自殺じさつげた。権利けんり唱導しょうどうするヘムロック協会きょうかい1982ねん自殺じさつマニュアルほん出版しゅっぱんし、1991ねんにも同様どうよう内容ないようの『Final Exit』を出版しゅっぱんした[9]。ただし、これは自殺じさつあおあく趣味しゅみ文脈ぶんみゃくではなく、苦痛くつうから解放かいほうされたいひとたちへのくるしまずに自殺じさつする方法ほうほうしゅうであった。

カレン・クインラン事件じけん

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アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくニュージャージーしゅう1975ねん4がつ15にち昏睡こんすい状態じょうたいとなったカレン・アン・クインランはニュートン記念きねん病院びょういん集中しゅうちゅう治療ちりょうしつ搬送はんそうされ、気管きかん切開せっかいのち大型おおがた人工じんこう呼吸こきゅう装着そうちゃくさせる措置そちがとられた。そのやく半年はんとし遷延せんえんせい植物しょくぶつ状態じょうたい診断しんだんされた[8]

家族かぞく議論ぎろんした結果けっか、カレンの養父ようふ人工じんこう呼吸こきゅう通常つうじょう以上いじょう手段しゅだんであると主張しゅちょうし、養父ようふ後見人こうけんにん資格しかくみとめて人工じんこう呼吸こきゅう停止ていしする権能けんのうあたえるようしゅう高等こうとう裁判所さいばんしょうったた。このうったえが退しりぞけられると養父ようふしゅう最高さいこう裁判所さいばんしょ上告じょうこくし、1976ねん3月31にちうったえがみとめられることになる[8][注釈ちゅうしゃく 1]

判決はんけつ先立さきだ1971ねんにはえら憲法けんぽうじょう権利けんりがないことがニュージャージーしゅう最高さいこう裁判所さいばんしょ明示めいじされていたが、カレン事件じけん裁判さいばん注目ちゅうもくされたのはプライバシーけんだった[8]。プライバシーけんみずからのせいがどうあるべきかという判断はんだんのもとで生活せいかつすることを保障ほしょうする権利けんりであり、養父ようふがわはプライバシーけん治療ちりょう通常つうじょう以上いじょう手段しゅだん介入かいにゅう拒否きょひする権利けんりとしてもはたらきうると主張しゅちょうし、判決はんけつでもプライバシーけんいち形態けいたいとして治療ちりょうひかええと中止ちゅうしみとめられたのである[8]

この判決はんけつをもって、権利けんりは「みずかかう権利けんり」から「みずからのあるべきなま干渉かんしょうされない権利けんり」へと変容へんようした[8]。また、この延命えんめい治療ちりょう中止ちゅうしする世界せかいはつ裁判さいばんをきっかけにして患者かんじゃ自己じこ決定けっていけんもとめるうごきがたかまった[10]

消極しょうきょくてき安楽あんらく

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アメリカ医師いしかい1972ねん時点じてんでは患者かんじゃ家族かぞく自己じこ決定けっていけんみとめながらも、権利けんりもとづいてなせることを第一義だいいちぎてき否定ひていしていたが、1982ねんにはつぎのように宣言せんげんしている。

人道的じんどうてき理由りゆうによって,十分じゅうぶん情報じょうほうあたえられたうえでの同意どういがあれば,えがたい苦痛くつう軽減けいげんしたり,末期まっき患者かんじゃなせる目的もくてき治療ちりょう措置そち停止ていししたりするために,医療いりょうじょう必要ひつようとされることを医師いしおこなってよい
アメリカ医師いしかい[11]

権利けんりとその実践じっせん正当せいとうについては、1970年代ねんだいなか時点じてんでは否定ひていてき消極しょうきょくてきにしかろんじられなかったが、1980年代ねんだいにかけて積極せっきょくてき正当せいとうろんへと展開てんかいされていった[11]問題もんだい争点そうてん延命えんめい至上しじょう主義しゅぎからクオリティ・オブ・ライフへとわっていき、これを背景はいけい欧米おうべい誕生たんじょうしたのが、ひんしたひとたいして積極せっきょくてき治療ちりょうをせず、やすらかな最期さいごむかえられるように支援しえんするホスピスである[12]

生命せいめい維持いじ技術ぎじゅつ進歩しんぽにより、判断はんだん主体しゅたい可逆かぎゃくてき消滅しょうめつしていても生命せいめいたいとしての個体こたいきているという状況じょうきょうまれ、その処遇しょぐうだれ決定けっていするのかという問題もんだいしょうじたが、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくではこのてん1990ねん患者かんじゃ自己じこ決定けっていほう治療ちりょう拒否きょひけん手続てつづきが整備せいびされた[13]どうほうでは患者かんじゃ病院びょういん施設しせつ入所にゅうしょ、ヘルスケアの判断はんだん委任いにんしたいものとリビング・ウィルをのこした先行せんこう指示しじしょ患者かんじゃくよう推奨すいしょうすることが施設しせつがわ義務付ぎむづけられている[14]

積極せっきょくてき安楽あんらく

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末期まっき患者かんじゃおおくの場合ばあい直前ちょくぜんまで不安ふあんがた苦痛くつう直面ちょくめんすることから、権利けんり実践じっせんかかわる臨床りんしょうてき処置しょち消極しょうきょくてき安楽あんらく限定げんていせず、積極せっきょくてき安楽あんらく医師いしによる自殺じさつ幇助ほうじょみとめることの是非ぜひわれるようになった[14]

また、安楽あんらく許容きょよう範囲はんい身体しんたいてき苦痛くつう限定げんていするのではなく、心理しんりてき苦痛くつうふくまれるべきと主張しゅちょうするこえあらわはじめた[14]1991ねんにはオランダ医師いし健常けんじょうとされる患者かんじゃ心理しんりてき苦痛くつう理由りゆう致死ちしてき薬物やくぶつ処方しょほうすることでその患者かんじゃ自殺じさつ幇助ほうじょする事件じけんきた[15]。この時期じきFinal Exit完全かんぜん自殺じさつマニュアルといった自殺じさつのハウツーほん注目ちゅうもくされ、自殺じさつする権利けんりろんじられるようにもなった[15]

権利けんりもとめるこえ世界せかい各地かくちひろがっており、積極せっきょくてき安楽あんらく医師いしによる自殺じさつ幇助ほうじょ合法ごうほうするうごきも相次あいついでいる[16]。それとともに対象たいしょうしゃ終末しゅうまつ患者かんじゃかぎらず、認知にんちしょう精神せいしん障害しょうがいものなどへ拡大かくだいしていったり、権利けんり根底こんていにある自己じこ決定けってい原則げんそく形骸けいがいするリスクが表面ひょうめんしつつあるなど、すべりざか現象げんしょう重層じゅうそうてきこっていると指摘してきするこえがある[17]

こくごとの状況じょうきょう

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2023ねん1がつ31にち時点じてんで、オーストラリアオランダカナダコロンビアスペインニュージーランドベルギールクセンブルク積極せっきょくてき安楽あんらく合法ごうほうされているほか、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく一部いちぶ地域ちいきイタリアオーストリアスイスドイツ自殺じさつ幇助ほうじょみとめられている[18]

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく

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アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくではまず1890ねんボストンで、生涯しょうがいわりにたっしたとかんがえられる激痛げきつう苦悩くのうする病人びょうにんたいして、苦痛くつうのないあたえられるよう援助えんじょすべきだと主張しゅちょうする外科げかあらわれ、いで1903ねんにはニューヨーク在住ざいじゅう医師いしらががん場合ばあいにおける安楽あんらく容認ようにんもとめた[19]

1906ねんにはオハイオしゅう議会ぎかいいでアイオワしゅう議会ぎかい安楽あんらくかんする法案ほうあん提出ていしゅつされたが、いずれも採択さいたくされるまでにいたらなかった[20]1938ねんには安楽あんらく立法りっぽう協会きょうかい設立せつりつされているが、とく目立めだった活動かつどうはできていなかった。1947ねんには同国どうこくにおける安楽あんらく問題もんだい先駆さきがけとして、ニューヨークしゅう議会ぎかい安楽あんらく法案ほうあん提出ていしゅつされるが、このころナチス・ドイツの遺伝いでんびょう子孫しそん予防よぼうほう1933ねん)や安楽あんらく法案ほうあん1939ねん)の実態じったい人口じんこう膾炙かいしゃしていたのが影響えいきょうしてか、安楽あんらく法案ほうあん否決ひけつされたのである[21]

しばらく表向おもてむきは目立めだったうごきはなかったが、1960年代ねんだいなかばになると公民こうみんけん女性じょせい権利けんり囚人しゅうじん精神せいしん障害しょうがいしゃ権利けんりなどを希求ききゅうするうごきにしたがい、自己じこ決定けっていけんたいする法的ほうてき関心かんしん個人こじん主義しゅぎ自立じりつせい尊重そんちょうたいする哲学てつがくてき関心かんしんたかまり、患者かんじゃ人権じんけん運動うんどうはじまった[21]。その最中さいちゅうきたのが1975ねんカレン事件じけんであり、それまで患者かんじゃ権利けんりかんする法案ほうあん提出ていしゅつされても採択さいたくされることはなかったが、1976ねんカリフォルニアしゅう国内こくないはつ権利けんりほうとしてカリフォルニア自然しぜんほう制定せいていされると、1977ねんなかばまでにはアーカンソーしゅうアイダホしゅうネバダしゅうニューメキシコしゅうノースカロライナしゅうオレゴンしゅうテキサスしゅう権利けんり関連かんれん法案ほうあん通過つうかし、同年どうねんまつ時点じてんで42しゅうで61法案ほうあん提出ていしゅつされた[22]。このうちアーカンソーしゅうとニューメキシコしゅう法律ほうりつ健常けんじょうしゃ終末しゅうまつまえでも法的ほうてき拘束こうそくりょく先行せんこう指示しじしょ作成さくせいできるさら先鋭せんえいてきなものであった[22]

1990ねんにはナンシー・クルーザン事件じけん英語えいごばんをめぐり、ミズーリしゅう最高さいこう裁判所さいばんしょ生命せいめい神聖しんせいせいそのものはしゅう権益けんえきの1つであるとして、交通こうつう事故じこ植物しょくぶつ状態じょうたいおちいったクルーザンからチューブはずすようもとめていた両親りょうしんうったえを退しりぞける判決はんけつした[23]うったえは連邦れんぽう最高さいこう裁判所さいばんしょまれることになる。

ミズーリ州法しゅうほうではリビング・ウィルがない場合ばあいについて、生命せいめい維持いじ治療ちりょう中断ちゅうだんのぞ患者かんじゃ意思いしについて高度こうどの「明白めいはくかつ確信かくしんいだくに証明しょうめい」をようしていたが、連邦れんぽう最高さいこう裁判所さいばんしょではこれが憲法けんぽう修正しゅうせいだい14じょう適正てきせい手続てつづき条項じょうこう違反いはんしていないかがあらそわれた[24]連邦れんぽう最高裁さいこうさいではミズーリしゅう最高裁さいこうさい主張しゅちょう支持しじする少数しょうすう意見いけんはあったが、栄養えいよう水分すいぶん補給ほきゅう中止ちゅうしみとめるという判決はんけつくだした[23]。この判決はんけつ連邦れんぽう最高裁さいこうさいとしてはじめて権利けんりについて判断はんだんしたなどのてんから重要じゅうようといえる[24]

最高さいこう裁判所さいばんしょ生命せいめい維持いじ治療ちりょうにも治療ちりょう拒否きょひけんおよぶことをみとめたとめられたこの判決はんけつは、各州かくしゅうでのほう整備せいび促進そくしんしたと評価ひょうかされ、国内こくない尊厳そんげん問題もんだいすで解決かいけつずみであるとの印象いんしょう内外ないがいあたえた[24]一方いっぽうで、人工じんこう栄養えいよう水分すいぶん補給ほきゅう中断ちゅうだんすることによってこされる尊厳そんげんあるべるのかというてんにはフォーカスがてられず、結果けっかとしてゆるされる尊厳そんげんゆるされざる医師いしによる自殺じさつ幇助ほうじょ区別くべつ問題もんだいがるようになる[25]

テリ・シャイボ事件じけん英語えいごばんではあらためて人工じんこう栄養えいよう水分すいぶん補給ほきゅう停止ていし是非ぜひ問題もんだいとなり、当初とうしょはテリという植物しょくぶつ状態じょうたい女性じょせい患者かんじゃ尊厳そんげんめぐ親族しんぞくあいだあらそいが、やがてジョージ・W・ブッシュ大統領だいとうりょう連邦れんぽう議会ぎかい介入かいにゅうまね全米ぜんべい規模きぼ論争ろんそう発展はってんした[26]人工じんこう栄養えいよう水分すいぶん補給ほきゅう中断ちゅうだんすることによってこされる尊厳そんげんあるえるか、これを疑問ぎもんするこえがり、世論せろん大勢おおぜいめるほどではなかったにせよ、尊厳そんげん対象たいしょうからの人工じんこう栄養えいよう水分すいぶん補給ほきゅう除外じょがいこころみる立法りっぽううごきがあった[27]

2018ねん5月、ヨーロッパの実態じったい#オランダなど参照さんしょう)からすべりざか懸念けねんされるとして、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく内科ないか学会がっかい倫理りんり法務ほうむ委員いいんかい医師いしによる自殺じさつ幇助ほうじょ反対はんたい立場たちば堅持けんじすべきであると提言ていげんした(翌月よくげつ否決ひけつ委員いいんかいもどし)[16]

イギリス

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イギリスでは1873ねん安楽あんらく問題もんだいげた論文ろんぶん発表はっぴょうされているが、この当時とうじ論者ろんしゃ学術がくじゅつてき関心かんしん対象たいしょうとしてしかていなかったようである[19]1907ねんにはゴッダードが安楽あんらく提唱ていしょうし、1935ねん12月10にちにはミラードによって安楽あんらく立法りっぽう運動うんどう推進すいしんする任意にんいてき安楽あんらく立法りっぽう協会きょうかい英語えいごばん設立せつりつされた[28]

1961ねん成立せいりつ自殺じさつほうでは自殺じさつ自殺じさつ未遂みすい合法ごうほうとされつつ、教唆きょうさ幇助ほうじょ犯罪はんざいとされている[29]

イタリア

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イタリアでは2009ねん前後ぜんご植物しょくぶつ状態じょうたい女性じょせい延命えんめい治療ちりょう中止ちゅうしめぐ尊厳そんげんたいする世論せろん関心かんしんたかまったものの、国会こっかい議論ぎろんつづけられた尊厳そんげんほう成立せいりつしなかった[30]2017ねん2がつには交通こうつう事故じこ後遺症こういしょうからスイスでの安楽あんらくえらんだ男性だんせい介助かいじょしゃ逮捕たいほされる事件じけんき、ふたた世論せろん尊厳そんげんたいする関心かんしんたかまった[30]結果けっかとして尊厳そんげんみとめる法律ほうりつ同年どうねん12がつ制定せいていされ、翌年よくねん1がつまつ施行しこうされた[30]

自殺じさつ幇助ほうじょ犯罪はんざいとされているが、憲法けんぽう裁判所さいばんしょ2019ねん自分じぶん意思いしもとづいた判断はんだん能力のうりょくち、がた苦痛くつうかかえるひとたいする自殺じさつ幇助ほうじょかならずしも犯罪はんざいでないと判断はんだんしており、2022ねん6がつにははじめて倫理りんり委員いいんかい承認しょうにん自殺じさつ幇助ほうじょおこなわれた[31]

オーストラリア

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ノーザンテリトリーでは1988ねん条件じょうけんきで治療ちりょう中止ちゅうしみとめる自然しぜんほう成立せいりつしており、1996ねんにはオランダと同様どうようすで慣行かんこうてきおこなわれていた安楽あんらく透明とうめいはかるため、終末しゅうまつ患者かんじゃ権利けんりほう英語えいごばん制定せいていした[32]。オランダよりもさらんで、医師いし致死ちしせい器具きぐ薬物やくぶつ患者かんじゃわたして患者かんじゃ自身じしんするという積極せっきょくてき援助えんじょまでみとめられていたが、オーストラリア連邦れんぽう議会ぎかい決議けつぎによりどうほう施行しこうからやく9かげつ1997ねん3月27にち廃止はいしされた[32][注釈ちゅうしゃく 2]

各州かくしゅう議会ぎかいではその安楽あんらく法案ほうあん提出ていしゅつされたが、議会ぎかい通過つうかしないという状況じょうきょうつづいていた。つぎうごきがあったのはビクトリアしゅうであり、終末しゅうまつ患者かんじゃ権利けんりほうから20ねんとき2017ねん安楽あんらくみとめる自発じはつてき幇助ほうじょほう成立せいりつした[33]内容ないよう原則げんそくとして医師いしによる自殺じさつ幇助ほうじょを、条件じょうけんきで医師いしによる積極せっきょくてき安楽あんらくみとめる内容ないようである[33]。ビクトリアしゅう法案ほうあん可決かけつ皮切かわきりに、2019ねん西にしオーストラリアしゅうで、2021ねん3がつタスマニアしゅうで、同年どうねん6がつみなみオーストラリアしゅうで、同年どうねん9がつクイーンズランドしゅうで、2022ねん5月にニューサウスウェールズしゅうで、おな趣旨しゅし法律ほうりつ成立せいりつした[33][34][35][注釈ちゅうしゃく 3]

ビクトリアしゅう自発じはつてき幇助ほうじょほう (Voluntary Assisted Dying Act)の名称めいしょうかんして、おおきな社会しゃかいてきスティグマがあるとして「自殺じさつ」という言葉ことばもちいず、患者かんじゃ自己じこ決定けってい行動こうどうよりも医師いし役割やくわり強調きょうちょうするとして「医師いしによる幇助ほうじょ」という言葉ことばもちいなかった。以降いこう各州かくしゅう法案ほうあんもこれを踏襲とうしゅうして自発じはつてき幇助ほうじょ言葉ことばもちい、オーストラリアでは安楽あんらく言葉ことばとして自発じはつてき幇助ほうじょもちいられるようになった[33]

ビクトリアしゅう法案ほうあん委員いいんかいから提案ていあんされた68項目こうもくのぼるセーフガードをたすきびしいほう規制きせい安全あんぜん基準きじゅんとしてれられており、法案ほうあん成立せいりつしたのもおもに「世界せかいもっと保守ほしゅてきもっと安全あんぜん安楽あんらくほう」だからだとほうじられている[39]

2022ねん時点じてんで、ノーザンテリトリーとオーストラリア首都しゅと特別とくべつ地域ちいき連邦れんぽうほう安楽あんらく法律ほうりつかんするほう (Euthanasia Laws Act 1997 (Cth))により安楽あんらくほう制定せいていする権限けんげん剥奪はくだつされている[40]安楽あんらく立法りっぽう権限けんげん回復かいふくするためのこころみはなんかなされている。2015ねん12月には問題もんだい法律ほうりつ廃止はいしする法案ほうあん連邦れんぽう上院じょういん提出ていしゅつされたものの、2018ねん8がつに36たい34の僅差きんさ否決ひけつされ、連邦れんぽう議会ぎかいにおける安楽あんらく合法ごうほうへの反対はんたい意見いけんいま根強ねづよいことをしめ結果けっかとなった[40]

オーストリア

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オーストリアでは刑法けいほう77じょう嘱託しょくたく殺人さつじんが、刑法けいほう78じょう自殺じさつ教唆きょうさ自殺じさつ幇助ほうじょきんじられている。このうち78じょうについて、憲法けんぽう裁判所さいばんしょ2020ねん12月に、自殺じさつ幇助ほうじょきんじる文言もんごん違憲いけんだとして、2022ねん1がつ削除さくじょするようめいじている[41]判決はんけつでは憲法けんぽう保障ほしょうされた個人こじん自由じゆう自己じこ決定けっていけんには人間にんげんとしての尊厳そんげんをもって権利けんり自殺じさつ志願しがんしゃ第三者だいさんしゃ援助えんじょもとめる権利けんりふくまれるとされた[41]

オランダ

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オランダではみずかうみ干拓かんたくして国土こくどつくってきたという歴史れきしじょう国民こくみん非常ひじょうたか自律じりつ意識いしきゆうしており、自分じぶんのことは自分じぶんめるという精神せいしんてき風土ふうどはぐくまれていた[42]従来じゅうらいから慈悲じひころせ慣行かんこうてきおこなわれていたが、法律ほうりつ社会しゃかいてき合意ごういはなく、透明とうめいせい確保かくほはか議論ぎろんがなされ、1993ねん遺体いたい処理しょりほう改正かいせいつながった[43]安楽あんらく処置しょちおこなった医師いし自身じしん被疑ひぎしゃとしてとど内容ないようだが、有罪ゆうざいになる可能かのうせい承知しょうちしたうえ自己じこ申告しんこくする医師いしすくなく、この不備ふび解消かいしょうするべく2002ねん安楽あんらく合法ごうほうされることになった[43]

要請ようせいもとづいた生命せいめい終結しゅうけつ自殺じさつ幇助ほうじょかんする審査しんさほう成立せいりつしたことで、医師いし注意深ちゅういぶかさの要件ようけんまもり、検死けんしにそのむね申告しんこくするという手順てじゅんめば、刑事けいじばつ対象たいしょうからはずされた[44]注意深ちゅういぶかさの要件ようけんとは、「自発じはつてきな、熟慮じゅくりょある、かつ、持続じぞくてき要請ようせいがあった」「支配しはいてき医療いりょうてき知見ちけんしたがって、患者かんじゃには見込みこみのない、かつがたくるしみが存在そんざいした」「医師いしは、すくなくとももう一人ひとり独立どくりつした医師いし相談そうだんした」「生命せいめい終焉しゅうえん行為こうい医療いりょうてき注意深ちゅういぶか実施じっしされた」の4てんである[44]

どうほう理由りゆうしょ安楽あんらく自殺じさつ幇助ほうじょについて、通常つうじょう医療いりょう行為こういではなく社会しゃかいてき統制とうせいされるべき行為こういだとしており、オランダでは安楽あんらく権利けんり行使こうしという社会しゃかいてき行為こういなされているとえる[44]

2012ねんには医師いし看護かんごくるま患者かんじゃ自宅じたく出向でむ機動きどう安楽あんらくチーム制度せいどはじまり、以来いらい精神せいしん障害しょうがいしゃ認知にんちしょう患者かんじゃ安楽あんらく死者ししゃすう急増きゅうぞうしている[45]2016ねんすえには75さい以上いじょう高齢こうれいしゃ安楽あんらくみとめるむね改正かいせいあん議会ぎかい提出ていしゅつされており、これは否決ひけつこそされたものの、2018ねん5月の安楽あんらく行為こうい準則じゅんそく改正かいせいにより事実じじつじょう解禁かいきんされたと指摘してきするこえがある[45]

カナダでは刑法けいほう14じょう嘱託しょくたく殺人さつじんが、刑法けいほう241じょうbで自殺じさつ幇助ほうじょきんじられている。このてんについて最高裁判所さいこうさいばんしょ2015ねん2がつ6にち、「生命せいめい終結しゅうけつ明確めいかく同意どういし、じゅうあつし改善かいぜん不能ふのう病状びょうじょうによりがた持続じぞくてきくるしみを成人せいじん」について、みずからの生命せいめいさい医師いし援助えんじょける権利けんりがあると判断はんだんし、嘱託しょくたく殺人さつじんかんしても条件じょうけんたせばほう範疇はんちゅう実施じっしできるようみちひらき、2016ねん策定さくていされたさい医学いがくてき援助えんじょほういしずえとなった[46]

さい医学いがくてき援助えんじょほう改正かいせいかさねられ、2020ねん3月17にちからは自然しぜんてき合理ごうりてき予見よけんできないひとでも最低さいてい90にち以上いじょう適格てきかくせい審査しんさという追加ついか条件じょうけんたすことで援助えんじょけられるようになり、2023ねん3月17にちからは精神せいしんてき苦痛くつう生命せいめい終結しゅうけつねがひと援助えんじょけるのに適格てきかくとなる[46]

コロンビア

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コロンビアでは1997ねん安楽あんらくほう公布こうふされ、2021ねん7がつまでに124にん安楽あんらく実行じっこうされてきた[47]。しかし、明確めいかく規則きそくさだめられておらず、なん規則きそくさだめる法案ほうあん提出ていしゅつされてきたものの、いずれも採決さいけついたらず、また実際じっさい安楽あんらくおこな医師いしキリスト教きりすときょう信者しんじゃとくにカトリック教徒きょうと)のおお国民こくみんによる反対はんたいこえ根強ねづよく、おおくの患者かんじゃ安楽あんらくことわられつづけているのが実情じつじょうである[47]

2021ねん7がつ高等こうとう裁判所さいばんしょ南米なんべいはじめて、末期まっき疾患しっかん患者かんじゃ以外いがいにも尊厳そんげんある権利けんり適用てきようされることをみとめる判断はんだんくだした[48]。この判断はんだん以降いこうすくなくとも3にん末期まっき症状しょうじょうでない患者かんじゃ安楽あんらく選択せんたくしている[48]2022ねん5月には憲法けんぽう裁判所さいばんしょ票決ひょうけつ自殺じさつ幇助ほうじょばっする刑法けいほう条項じょうこう廃止はいしされ、医師いしによる自殺じさつ幇助ほうじょ合法ごうほうされた[49]憲法けんぽう裁判所さいばんしょはこの判決はんけつなかで、議会ぎかいたいして尊厳そんげんをもって権利けんり法制ほうせいもとめている[49]

スイスでは刑法けいほう115じょう自殺じさつ幇助ほうじょ犯罪はんざいとして規定きていされているが、個人こじんてき利益りえき目的もくてきでないかぎりは合法ごうほうであるとして解釈かいしゃくされている[50]。そのためディグニタスやライフサークルといった自殺じさつ幇助ほうじょ団体だんたい合法ごうほうてき活動かつどうしており、終末しゅうまつでないひと自殺じさつ幇助ほうじょもいくらかなされている[45]

スペイン

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スペインではカトリック教会きょうかい影響えいきょうおおきかったが、時代じだいながれで国民こくみん信仰しんこうばなれがすすみ、人工じんこう妊娠にんしん中絶ちゅうぜつ同性どうせいこんといった普及ふきゅう運動うんどうさかんにおこなわれるようになった[51]安楽あんらくかんしても1998ねん支援しえんけて自殺じさつした全身ぜんしん麻痺まひラモン・サンペドロというれいをはじめ[52]当事とうじしゃ実態じったい話題わだいんで世論せろん圧力あつりょくたかまっていた[53]安楽あんらくほうペドロ・サンチェス政権せいけん優先ゆうせん事項じこうとして討議とうぎされ[53]2021ねん3月18にち下院かいんで202たい141で安楽あんらくほう可決かけつ[52]、6月25にち施行しこうされた[51]法律ほうりつ末期まっき患者かんじゃ重傷じゅうしょう患者かんじゃ苦痛くつう緩和かんわ理由りゆうとする医療いりょう従事じゅうじしゃによる安楽あんらく自殺じさつ幇助ほうじょ双方そうほうみとめるものである[53]

2021ねん12月、カタルーニャしゅうタラゴナで3にん発砲はっぽうして逃走とうそうしていた被疑ひぎしゃが、警察けいさつとの銃撃じゅうげきせんみぎあし切断せつだん四肢しし麻痺まひという重傷じゅうしょう事件じけんきた[51]被疑ひぎしゃ2022ねん6がつになって安楽あんらく申請しんせいし、その意向いこうどおりに8がつ安楽あんらくおこなわれたが、裁判さいばんまえということもあり、刑事けいじ事件じけん加害かがいしゃ権利けんり被害ひがいしゃ司法しほうアクセスけん英語えいごばんはどちらか優先ゆうせんされるのかというてん問題もんだいとなった[51]

1532ねんカール5せいにより公布こうふされたカロリナ刑事けいじ法典ほうてんでは自殺じさつ犯罪はんざいとされなかった。自殺じさつ幇助ほうじょ違法いほうとする地域ちいきもあった一方いっぽうで、18世紀せいきフリードリヒ大王だいおうにより合法ごうほうされ、このながれのなか成立せいりつした1872ねんのドイツ刑法けいほうでも自殺じさつ自殺じさつ幇助ほうじょ犯罪はんざいでないとされ、自殺じさつたいしてながあいだ寛容かんようでいた[54]

しかし、終末しゅうまつ患者かんじゃ自殺じさつ支援しえんする活動かつどう社会しゃかい問題もんだいすると、自殺じさつ幇助ほうじょ団体だんたいなどによる自殺じさつ支援しえん必要ひつよう以上いじょう末期まっき患者かんじゃ自殺じさつてると懸念けねんされ、これまで自殺じさつ関与かんよ原則げんそくばっせられなかったところ、2015ねん新設しんせつされた刑法けいほう217じょうにより一部いちぶ処罰しょばつ対象たいしょうとされた[55]。この217じょうかねてから刑法けいほう学者がくしゃから批判ひはんされ、違憲いけんではないかとするうったえもなされ、2020ねん2がつ26にちには憲法けんぽう裁判所さいばんしょは217じょう違憲いけんであるとする判決はんけつくだしている[55]

日本にっぽん

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日本にっぽん司法しほう安楽あんらくについて判断はんだんした事件じけん1962ねん山内やまうち事件じけん1991ねん東海大学とうかいだいがく安楽あんらく事件じけん1998ねん川崎かわさき協同きょうどう病院びょういん事件じけんなどがあるが、どれも有罪ゆうざい判決はんけつされており、安楽あんらくみとめることにたいしては慎重しんちょう立場たちばがとられている[56]

ニュージーランド

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ニュージーランドでは2019ねん議会ぎかい安楽あんらくほう可決かけつされ、2020ねん11月の国民こくみん投票とうひょうでも賛成さんせい多数たすうにより、2021ねん11月に施行しこうされる見込みこみとなっている[57]安楽あんらくみとめる条件じょうけんは、18さい以上いじょうのニュージーランド国民こくみんまたは永住えいじゅうけん保持ほじしゃであること、余命よめい6かげつ未満みまん終末しゅうまつはいり、緩和かんわ困難こんなん苦痛くつうかかえていること、みずかのぞんでいることなどがあり、主治医しゅじい第三者だいさんしゃ医師いし保健ほけん当局とうきょくなどの確認かくにんもっみとめられる[57]

フランス

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フランスでは安楽あんらくほう制定せいていされていないものの、世論せろんとしてはくるしみがつづくよりも緩和かんわ鎮静ちんせい過度かど投与とうよによるやすらかなのぞみたいという意見いけん大勢おおぜいめており、結果けっかとして政府せいふ2005ねん消極しょうきょくてき安楽あんらく治療ちりょうひかえ)および間接かんせつてき安楽あんらく苦痛くつう軽減けいげんのための過度かど鎮静ちんせいざい投与とうよ)をみとめるレオネッティほうフランス語ふらんすごばん成立せいりつさせている[58]

成立せいりつにレオネッティほう限界げんかい尊厳そんげんをめぐる事件じけん社会しゃかい問題もんだいすると、右派うは国民こくみん運動うんどう連合れんごう左派さは社会党しゃかいとうからそれぞれレオナッティとアラン・クレス議員ぎいん指名しめいされ、4条件じょうけんたすかぎりの緩和かんわてき鎮静ちんせい消極しょうきょくてき安楽あんらく)を合法ごうほうした2016ねんのクレス・レオネッティほう成立せいりついた[59]。この法律ほうりつ成立せいりつした同年どうねん4がつにはフランス国立こくりつ緩和かんわケア・終末しゅうまつ研究所けんきゅうじょ新設しんせつされ、終末しゅうまつ医療いりょうける権利けんり自己じこ決定けっていけん啓発けいはつ事前じぜん指示しじしょ信任しんにんしゃ普及ふきゅう医療いりょう現場げんばでの終末しゅうまつ医療いりょう支援しえん国内外こくないがい情報じょうほう収集しゅうしゅう公開こうかいについてんでいる[59]

2022ねんには映画えいが監督かんとくジャン=リュック・ゴダールがスイスで自殺じさつ幇助ほうじょけたことをがねにして安楽あんらくふたた議論ぎろんされるようになり、同年どうねん12がつ9にちには自殺じさつ幇助ほうじょ是非ぜひについて議論ぎろんする市民しみん評議ひょうぎかい開会かいかいした[18]世論せろんおおむ積極せっきょくてき安楽あんらく自殺じさつ幇助ほうじょ合法ごうほう賛成さんせいする傾向けいこうにある一方いっぽうで、患者かんじゃあたえる使命しめいはないと反対はんたいする医師いしこえかれる[60]

ベルギー

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ベルギーは1990年代ねんだいなかばから安楽あんらくほうについて議論ぎろんされていたが、政権せいけん与党よとう思惑おもわくなどで難航なんこうしていた[61]1999ねん選挙せんきょ結果けっかとしてにじ連立れんりつ政権せいけん樹立じゅりつされると、懸案けんあんとされた安楽あんらく関連かんれん法案ほうあん元老げんろういん提出ていしゅつされ、2001ねん元老げんろういんで、2002ねん代議だいぎいんでそれぞれ可決かけつされ、2002ねん9がつ施行しこうされた[61]

ベルギーの安楽あんらくほう精神せいしんてき苦痛くつうによる安楽あんらく合法ごうほう自殺じさつ幇助ほうじょみとめず安楽あんらくかなら医師いしによっておこなわれるべきとしていること、意識いしきのあるときにかれた事前じぜん意思いし表明ひょうめいしょみとめられているというてんから特徴とくちょうづけられる[61]

2002ねん安楽あんらくほうでは未成年みせいねんしゃ婚姻こんいんしている16さい以上いじょうのぞく)の安楽あんらくみとめていなかったが、制定せいてい当時とうじから未成年みせいねんしゃにもみとめられるべきではないかとするこえがった[62]2013ねん10月には元老げんろういん未成年みせいねんしゃ安楽あんらく関連かんれん法案ほうあん審議しんぎ着手ちゃくしゅされ、両院りょういん審議しんぎされた結果けっか2014ねん2がつ年齢ねんれい制限せいげん撤廃てっぱいした安楽あんらくほう可決かけつされ、翌月よくげつから施行しこうされた[62]

未成年みせいねんしゃ場合ばあい正常せいじょう判断はんだん能力のうりょくがあること、苦痛くつうはげしくけられないほど末期まっきであることを条件じょうけんとし、また精神せいしんてき苦痛くつうによる安楽あんらくみとめられておらず、要件ようけん成人せいじんよりもきびしいものだったが、年齢ねんれい制限せいげん撤廃てっぱいした安楽あんらくほう世界せかいはつのことであった[58]一方いっぽうで、安楽あんらく法定ほうてい代理人だいりにん意向いこう左右さゆうされるリスクを指摘してきするこえや、心理しんりカウンセラーや児童じどう心理しんり専門せんもん難病なんびょうくるしむ子供こども意思いし表明ひょうめい正確せいかく判断はんだんできるのかを疑問ぎもんするこえすくなくない[63]

ポルトガル

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ポルトガルでは2020ねん2がつ不治ふじやまい重度じゅうど身体しんたい障害しょうがいしゃたいする自殺じさつ幇助ほうじょみとめる法案ほうあん議会ぎかい可決かけつされたが、マルセロ・レベロ・デ・ソウザ大統領だいとうりょうはこれに拒否きょひけん行使こうしした[18]2022ねん12月にも同様どうよう法案ほうあん可決かけつされたが、よく2023ねん1がつ文言もんごん漠然ばくぜんとしすぎているとして憲法けんぽう裁判所さいばんしょにより議会ぎかいもどされた[18]

ルクセンブルク

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ルクセンブルクは2009ねんまでの20年間ねんかん安楽あんらくほうについて議論ぎろんされていたが、アンリ大公たいこうによる拒否きょひけん行使こうしなどで難航なんこうし、憲法けんぽう改正かいせいにまでっている[64]。2009ねん成立せいりつした安楽あんらくほうはベルギーの影響えいきょうけたものであり[65]安楽あんらく医者いしゃによりおこなわれること、実施じっしうえで4つの基本きほん条件じょうけん事前じぜんの7つの手続てつづき措置そち規定きていされている[66]

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ この判決はんけつ結果けっか、カレンは同年どうねん5がつ15にちから段階だんかいてき人工じんこう呼吸こきゅうから離脱りだつさせられ、5月22にち完全かんぜん離脱りだつさせられたあと、集中しゅうちゅう治療ちりょうしつから一般いっぱん病棟びょうとういでナーシングホームへと転院てんいんし、1985ねん6がつ11にち死亡しぼうした[8]人工じんこう呼吸こきゅうから完全かんぜん離脱りだつできたということは、ある程度ていど呼吸こきゅう能力のうりょく残存ざんそんしていたために、結局けっきょく人工じんこう呼吸こきゅう必要ひつようではかったということであり、この裁判さいばん争点そうてんである、「植物しょくぶつ状態じょうたいであり、人工じんこう呼吸こきゅうなしではきられない患者かんじゃへの治療ちりょう中止ちゅうしみとめるかか」の前提ぜんていである、「人工じんこう呼吸こきゅうなしではきられない」状況じょうきょうではなかったということになる。しかもカレンは結局けっきょく10ねん以上いじょう生存せいぞんしており、人工じんこう呼吸こきゅうはずしはみとめられても、それ以外いがい栄養えいようなどの生命せいめい維持いじ中断ちゅうだんすることまではみとめられなかったということになる。しかしながらこの裁判さいばんのこした社会しゃかいてき影響えいきょうおおきかった。
  2. ^ 廃止はいしまでに4にん安楽あんらくおこなわれた[33]
  3. ^ 施行しこうはビクトリアしゅうで2019ねん6がつ19にち西にしオーストラリアしゅうで2021ねん7がつ1にち、タスマニアしゅうで2022ねん10がつ23にち、クイーンズランドしゅうで2023ねん1がつ1にちみなみオーストラリアしゅうで2023ねん1がつ31にち、ニューサウスウェールズしゅうで2023ねん11月28にち[36][37][38][35][34]

出典しゅってん

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参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん文献ぶんけん

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