波多野はたの秋子あきこ

はたの あきこ 波多野はたの 秋子あきこ
『中央公論社ちゅうおうこうろんしゃの八はち十じゅう年ねん』（1965年ねん）より
生誕せいたん	1894年ねん10月 日本にっぽん
失踪しっそう	1923年ねん7月がつ
死没しぼつ	1923年ねん6月9日にち 日本にっぽん・長野ながの県けん軽井沢かるいざわ
死因しいん	自殺じさつ（縊死いし）
遺体いたい発見はっけん	1923年ねん7月がつ7日にち
職業しょくぎょう	雑誌ざっし記者きしゃ
著名ちょめいな実績じっせき	有島ありしま武郎たけおの愛人あいじんで心中しんちゅうの相手あいて
配偶はいぐう者しゃ	波多野はたの春はる房ぼう
親おや	林はやし謙吉けんきち郞ろう（父ちち）

波多野はたの 秋子あきこ（はたの あきこ、1894年ねん10月 - 1923年ねん6月9日にち）は、中央公論社ちゅうおうこうろんしゃの『婦人ふじん公論こうろん』記者きしゃ、有島ありしま武郎たけおの愛人あいじんで心中しんちゅうの相手あいて。

経歴けいれき

出自しゅつじは不明ふめいながら、当時とうじの新聞しんぶん報道ほうどうによれば、実業じつぎょう家かの林はやし謙吉けんきち郞ろうが新橋しんばしの芸者げいしゃに生うませた庶子しょしであるとされる。父親ちちおやが用意よういした麻布まふの別宅べったくに実母じつぼと暮くらし、月つきの7日間にちかんと夏なつ冬ふゆの休暇きゅうかを父親ちちおや宅たくで過すごす生活せいかつの中なかで育そだつ。実践じっせん女学校じょがっこうに入学にゅうがく後ご、その美貌びぼうから父親ちちおやは秋子あきこを園遊会えんゆうかいなどさまざまな会かいに同伴どうはん者しゃとして連つれ回まわした。大正たいしょう元年がんねん（1912年ねん）実践じっせん女学校じょがっこうを卒業そつぎょう。卒論そつろんにルターの宗教しゅうきょう改革かいかくを選えらび、その参考さんこう書しょを探さがしに友人ゆうじんの紹介しょうかいで、米国べいこく帰がえりの英語えいご塾じゅく経営けいえい者しゃであった波多野はたの春はる房ぼう（烏がらす峰ほう）の家いえを訪たずね、知しり合あう。

波多野はたのは前妻ぜんさいの安子やすこを離縁りえんして18歳さいの秋子あきこと同棲どうせいし、秋子あきこの母ははが亡なくなった翌よく1913年ねんに結婚けっこん。秋子あきこは春はる房ぼうの学費がくひ提供ていきょうにより女子学院じょしがくいん英文えいぶん科かに入学にゅうがく、1914年ねんに卒業そつぎょうし、青山学院あおやまがくいん英文えいぶん科かに入学にゅうがく。1917年ねん、『国民こくみん新聞しんぶん』が募集ぼしゅうした「戦後せんご教育きょういく論ろん」の２等とうに当選とうせんし、顔写真かおじゃしんとともに論文ろんぶん「女子じょしを国家こっか的てきに自覚じかくせしむる教育きょういく」が掲載けいさいされる。翌よく1918年ねんに卒業そつぎょう後ご、高島たかしま米峰べいほうの推薦すいせんで『婦人ふじん公論こうろん』の編集へんしゅう者しゃとなり、美人びじん記者きしゃとして文壇ぶんだんに知しれ渡わたる。芥川あくたがわ龍之介りゅうのすけや永井ながい荷風かふうはじめ、多おおくの作家さっかが秋子あきこに会あいたがった。1920年ねんには父ちちを亡なくし、この頃ころ石川いしかわ六郎ろくろう宛あての手紙てがみで、亡なき両親りょうしんへの思慕しぼ、脳病のうびょうへの恐おそれ、容貌ようぼうの衰おとろえなど不安ふあんの数々かずかずを書かき綴つづっていた。

16歳さい上じょうの有島ありしま武郎たけおとは劇場げきじょうで席せきを前後ぜんごしたことをきっかけに次第しだいに恋愛れんあい関係かんけいとなり、これを知しった春はる房ぼうが武郎たけおを呼よび出だし金きん銭ぜにを要求ようきゅう。また訴訟そしょうを起おこすとも告つげたため、大正たいしょう12年ねん6月がつ有島ありしまと二人ふたりで失踪しっそう、軽井沢かるいざわの別荘べっそうで心中しんじゅうした。7月がつ7日にちに遺体いたいが発見はっけんされ、当時とうじの新聞しんぶん紙上しじょうでセンセーションを巻まき起おこした。秋子あきこは胸むねを病やんでおり、夫おっとの春はる房ぼうのほか、友人ゆうじんの石本いしもと静枝しずえにも遺書いしょを残のこした。遺骨いこつは春はる房ぼうが引ひき取とり、赤坂あかさかの覚さとし永なが寺てら（現在げんざいは横浜よこはま市しに移転いてん）に波多野はたの家かの墓はかを造つくり、死亡しぼう日びでなく、家出いえでした日ひを命日めいにちとして埋葬まいそうされた。

研究けんきゅう者しゃの菅野かんの聡美さとみは、当時とうじの報道ほうどうや知人ちじんらの発言はつげんから、秋子あきこは死しにたい女おんな、有島ありしまは「面食めんくい」で知しられた男おとこ、波多野はたのは女おんなにだらしない男おとこと評ひょうしている

家族かぞく

父ちちとされる林はやし謙吉けんきち郞ろう（1865－1920）は丹波たんば国こく氷上ひかみ郡ぐん鴨庄かもしょう村むらで長井ながい策さく太郎たろうとして生うまれ、上京じょうきょう後ご、父ちちの知しり合あいだった田辺たなべ輝あきら実みの支援しえんにより学業がくぎょうを続つづけ、近衛このえ師団しだんに入隊にゅうたい。田辺たなべの紹介しょうかいで皮革ひかく商しょうと貿易ぼうえき商しょうで隆盛りゅうせいしていた林家はやしやの養子ようしとなり、林はやし謙吉けんきち郎ろうを襲名しゅうめい、久次ひさつぎ米べい銀行ぎんこう支配人しはいにんとなる。養父ようふが没ぼっしたたため養家ようかの家業かぎょうに専念せんねんし、1898年ねんに再さい来日らいにちしたエドウィン・ダンの信頼しんらいを得えてダンの事業じぎょうの総そう代理だいり店てんを務つとめる。1900年ねんに京浜けいひん銀行ぎんこう取締役とりしまりやくとなり、京阪電気鉄道けいはんでんきてつどうや千代田ちよだ瓦斯がすの設立せつりつに関かかわり、日本にっぽん活動かつどう写真しゃしん・東京瓦斯とうきょうがすなどの取締役とりしまりやくも務つとめた。正妻せいさいは足立あだち孫まご六ろくの四よん女じょたま（1875年生ねんせい）。長女ちょうじょ・眞砂まさご（1896年生ねんせい）の夫おっとは東京とうきょう地方裁判所ちほうさいばんしょ判事はんじの津島つしま憲一けんいち（津島つしま壽一ひさいちの兄あに）。 庶子しょしである秋子あきこは林はやしの第だい一いち子しに生うまれたが、実母じつぼ・青山あおやまたま（源氏名げんじな・新吉しんよし、1912年ねん没ぼつ）の養子ようしとなる。林はやしは星ほし亨とおるの取とり巻まきの一人ひとりで、秋子あきこ亡なきあと、夫おっと・春はる房ぼうに再婚さいこんを斡旋あっせんした横田よこた千せん之これ助すけもその仲間なかま。

夫おっとの波多野はたの春はる房ぼう（1885年生ねんせい）は、福岡ふくおか県けん（山形やまがた県けんとも）の神職しんしょく・波多野はたの春はる麿まろの長男ちょうなんとして生うまれ、明治めいじ義ぎ会かい中学校ちゅうがっこう修業しゅうぎょう、米国べいこくに留学りゅうがくし、太陽たいよう通信つうしん社しゃ社長しゃちょうを経へて、1920年ねんより大だい日本にっぽん総合そうごう火災かさい保険ほけん協会きょうかい、大だい日本にっぽん火災かさい保険ほけん協会きょうかい、日本にっぽん海上かいじょう保険ほけん協会きょうかいの書記しょき長ちょうを務つとめ、銀座ぎんざで画廊がろう「三さん段だん社しゃ」も経営けいえいしていた。波多野はたの烏がらす峯みねの名なで多おおくの著書ちょしょをものしたほか、雑誌ざっし『日本にっぽん魂たましい』の記者きしゃをしていた。春はる房ぼうの頼たのみで秋子あきこを婦人ふじん公論こうろんに紹介しょうかいした高島たかしま米峰べいほうによると、春はる房ぼうは6尺しゃくの大男おおおとこで非常ひじょうに美男びなんだったという。春はる房ぼうの前妻ぜんさいの安子やすこ（1880年生ねんせい）は男爵だんしゃく・日置ひおき健太郎けんたろうの娘むすめで、春はる房ぼうの英語えいごの生徒せいととして知しり合あい1908年ねんに結婚けっこんしたが、秋子あきこが現あらわれたことで実家じっかに帰きされたのち1913年ねんに離婚りこんした。1911年ねんには、インド人じんの汎ひろしイスラーム主義しゅぎ者もののバラカトゥッラー（en:Abdul Hafiz Mohamed Barakatullah）立たち合あいのもと、春はる房ぼうと安子やすこが安子やすこの父ちち・健太郎けんたろうとともにイスラム教いすらむきょうへの改宗かいしゅう式しきを行おこなったとイスラム系けい英字えいじ紙しで報ほうじられた。春はる房ぼうは秋子あきこが没ぼっした49日にち後ごに新橋しんばし芸者げいしゃの大隈おおくまれい子こと再婚さいこんした。晩年ばんねんまで内縁ないえんの妻つまだった波多野はたの静枝しずえによると、「自分じぶんの妻つまは秋子あきこひとり」と言いって亡なくなるまで弔とむらっていたという。

演えんじた俳優はいゆう

映画えいが「華はなの乱らん」（1988年ねん公開こうかい、深作ふかさく欣二きんじ監督かんとく）は、吉永よしなが小百合さゆり（与謝野よさの晶子あきこ役やく）、松田まつだ優作ゆうさく（有島ありしま武郎たけお役やく）主演しゅえんで、与謝野よさの晶子あきこの生涯しょうがいを描えがいた作品さくひん。作中さくちゅう、有島ありしまと愛人あいじん関係かんけいだった秋子あきこは夫おっとである春はる房ぼうによく扱あつかわれなかったことを苦くに、有島ありしま武郎たけおと自殺じさつを遂とげている。波多野はたの秋子あきこ役やくは池上いけがみ季実子きみこ。夫おっとである波多野はたの春はる房ぼう役やくは成田なりた三樹みき夫おっと。