火星かせい人じん

火星かせい人じん（かせいじん、英語えいご:Martian）とは、火星かせいにすむとかつて考かんがえられていた知的ちてき生命せいめい体たいであり、架空かくうの宇宙うちゅう人じんである。

実在じつざいの火星かせい人じんの探求たんきゅう

初期しょき

18世紀せいき前半ぜんはん、カール・フリードリヒ・ガウスやC・クロスは、ランタンと鏡かがみを使つかって火星かせい人じんに光学こうがく的てきな信号しんごうを送おくることを構想こうそうした。遅おそくともこの時期じきまでには、火星かせい人じんの存在そんざいが意識いしきされ取とりざたされていたことがわかる。

運河うんがの発見はっけん

1877年ねんの火星かせい大だい接近せっきんの際さい、イタリア王国おうこくのミラノの天文台てんもんだい長ちょうである天文学てんもんがく者しゃジョヴァンニ・スキアパレッリが、火星かせいを口径こうけい22cm屈折くっせつ望遠鏡ぼうえんきょうで観測かんそくしているときに、火星かせい全体ぜんたいの表面ひょうめんに線せん状じょう模様もようがあることを発見はっけんした（なお線せん状じょう模様もようについてはこれ以前いぜんにも複数ふくすうの観測かんそく者しゃによってみいだされている）。それを発表はっぴょうの際さい Canali（イタリア語ごで「溝みぞ・水路すいろ」の意い）と記述きじゅつしたものを、英語えいごに翻訳ほんやくされた際さい Canal（英語えいごで「運河うんが」の意い）と誤訳ごやくされ、「それは運河うんがである」という説せつになった。模様もようが直線ちょくせんや円えんなどのなす幾何きか学がく模様もようで、とても自然しぜんに造つくられたようには見みえないことからも、そう考かんがえられるようになった。

また、（人工じんこう物ぶつの）運河うんががあるのならそれを作つくったものがいなければならないということで、火星かせい人じんが存在そんざいするに違ちがいないという説せつが広ひろまり始はじめた。また、運河うんがは火星かせい全体ぜんたいを覆おおうように縦横じゅうおうに張はり巡めぐらされており、これほど大だい規模きぼな施設しせつを建造けんぞうできるなら、火星かせい人じんは地球人ちきゅうじんよりはるかに進すすんだ文明ぶんめいを持もっている、という説せつも出だされた。

火星かせい人じんが存在そんざいするという説せつを強つよく支持しじした人々ひとびとのうちの1人ひとりが、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの天文学てんもんがく者しゃパーシヴァル・ローウェルで、火星かせいおよび火星かせい人じんの研究けんきゅうに大おおいに貢献こうけんした。彼かれは実業じつぎょう界かいの出身しゅっしんで、火星かせい観測かんそくのため私財しざいを投とうじて、ローウェル天文台てんもんだいをアリゾナに建設けんせつした。

探査たんさ機きによる探査たんさ

20世紀せいき後半こうはんには多おおくの火星かせい探査たんさ機きが火星かせいを直接ちょくせつ観測かんそくし、また地上ちじょうからも大だい口径こうけいの望遠鏡ぼうえんきょうによる観測かんそくが可能かのうとなったことで、線せん状じょう模様もように見みえたものはより微細びさいな状態じょうたいとして観測かんそくされるようになった。その結果けっか、運河うんがも発見はっけんされておらず、火星かせい表面ひょうめんにはほとんど水みずが存在そんざいしないことも判明はんめいした。また惑星わくせい形成けいせい理論りろんに照てらしても、火星かせいでの生物せいぶつの存在そんざいは確認かくにんされておらず、当然とうぜんながら火星かせい人じんの存在そんざいは天文学てんもんがくでは証明しょうめいされてはいない。

フィクションの火星かせい人じん

歴史れきし

イギリスのSF作家さっか、H・G・ウェルズが1897年ねんに小説しょうせつ『宇宙うちゅう戦争せんそう』を発表はっぴょうし、そこに登場とうじょうしたタコのような火星かせい人じんのイメージが世間せけんに定着ていちゃくした。異常いじょうに発達はったつした頭脳ずのうに対たいして四肢ししは退化たいかしており、消化しょうか器官きかんも退化たいかしていて動物どうぶつの血液けつえきを直接ちょくせつ摂取せっしゅして栄養えいようを得える。これらの特徴とくちょうは、一応いちおうは火星かせいの環境かんきょうを考慮こうりょしている。すなわち、重力じゅうりょくが地球ちきゅうより小ちいさいから体からだを支ささえる構造こうぞうが軟弱なんじゃくで、空気くうきが薄うすいから空気くうきを吸すい込こむ部分ぶぶんが大おおきい。「トライポッド」（3本ほん脚あしの意い）と呼よばれる巨大きょだい戦闘せんとう機械きかいによって地球ちきゅう上じょうを蹂躙じゅうりんするが、地球ちきゅうの病原びょうげん体たいに対たいして抵抗ていこう力りょくを持もたなかったために全滅ぜんめつする。タコ型がた火星かせい人じんはその後ごも様々さまざまな作品さくひんに頻々ひんぴんと登場とうじょうすることになる。

しかし、ウェルズ以降いこうに火星かせい人じんのイメージが「タコ型がた」に統一とういつされたわけではなく、むしろ、ウェルズ以外いがいにタコ型がた異い星ほし人じんを描えがいた有名ゆうめいな作品さくひんを探さがすほうが難むずかしい。エドガー・ライス・バローズの『火星かせいシリーズ』(1912–1941) やレイ・ブラッドベリの『火星かせい年代ねんだい記き』(1950) に登場とうじょうする火星かせい人じんは、非常ひじょうに人間にんげんに近ちかい。また、フレデリック・ブラウンの『火星かせい人じんゴーホーム』(1955) には、異い星ほし人じんのもうひとつのステレオタイプである「緑みどりの小人こども」型がた火星かせい人じんが登場とうじょうする。当とうの『宇宙うちゅう戦争せんそう』自体じたい、2005年ねんの映画えいが化かでは侵略しんりゃく者しゃの姿すがたがタコ型がたではなくヒューマノイド型がたに変更へんこうされている。

代表だいひょう的てきな作品さくひん

『火星かせい年代ねんだい記き』（レイ・ブラッドベリ）
『火星かせい兵団へいだん』（海野うみの十三じゅうざ）※火星かせい人じんは外見がいけん的てきにはタコに似にているが、植物しょくぶつが進化しんかしたもの。地球ちきゅう上じょうで活動かつどうする場合ばあいには人間にんげん型がたの抗こう重力じゅうりょく装具そうぐをかぶる（作中さくちゅうでは「ロボットの中なかに入はいっている」と表現ひょうげんされている）。
『火星かせいのプリンセス』 / 火星かせいシリーズ（エドガー・ライス・バローズ）
『火星かせい人じんゴーホーム』（フレドリック・ブラウン）
『キャプテンKen』（手塚てづか治虫おさむ）
『キャプテン・フューチャー』（エドモンド・ハミルトン）
『火星かせい王国おうこく』（小松崎こまつざき茂しげる）※未完みかんの絵え物語ものがたりだが、ウェルズの火星かせい人じんによく似にたタコ型がたの火星かせい人じんが登場とうじょうする。「ピラス人じん」という謎なぞの侵略しんりゃく者しゃに苦くるしめられていた。
『火星かせい人類じんるいの逆襲ぎゃくしゅう』（横田よこた順じゅん彌わたる）※ウェルズの『宇宙うちゅう戦争せんそう』の実質じっしつ的てきな続編ぞくへん。ただし、本当ほんとうの火星かせい人じんは三脚さんきゃく型がたの機械きかいが歩あるいたあとに群生ぐんせいした植物しょくぶつの方ほうで、それまで火星かせい人じんだと信しんじられていたタコの様ような生物せいぶつは植物しょくぶつから発はっせられるテレパシーによって操あやつられた下等かとう動物どうぶつだったという設定せっていが加くわえられている。
『人間にんげんそっくり』（安部あべ公房こうぼう）
「Martian Hop（邦題ほうだい：ゴキゲン火星かせいちゃん）」（The Ran-Dells（ラン・デルズ））※1963年ねんにヒットしたノベルティ・ソング。