灰吹はいふき銀ぎん

灰吹はいふき銀ぎんを材料ざいりょうとした石いし州しゅう銀ぎん

灰吹はいふき銀ぎん（はいふきぎん）は、銀山ぎんざんから山出やまだしされ、灰吹はいふき法ほうにより製せい錬ねされた銀ぎん地金じがねである。山吹やまぶき銀ぎんあるいは山出やまだし銀ぎんとも呼よばれる。

灰吹はいふき法ほうによる製せい錬ね

銀ぎん黒くろと呼よばれる自然しぜん銀ぎんや輝てる銀鉱ぎんこうの微粒子びりゅうしを含ふくむ鉱石こうせき、あるいは少量しょうりょう銀ぎんを含有がんゆうする黄銅こうどう鉱こうなどの鉱石こうせきに鉛なまりまたは方ほう鉛なまり鉱こうを加くわえ、溶融ようゆうすると銀ぎんは溶融ようゆう鉛なまりのなかに溶とけ込こむ。これを荒あら吹と呼よぶ。この銀ぎんを溶とかし込こんだ鉛なまりは貴き鉛なまり（きえん）と呼よばれ、溶融ようゆうした状態じょうたいで分離ぶんりされ、骨灰こっかい製せいの灰吹はいふき炉ろあるいは坩堝るつぼで空気くうきを吹ふきつけながら溶解ようかいすると、鉛なまりは空気くうき中ちゅうの酸素さんそと反応はんのうし酸化さんか鉛なまりとなり骨灰こっかいに吸収きゅうしゅうされ、酸化さんかされにくい銀ぎんが残のこる。これが灰吹はいふき銀ぎんである。

また銀ぎんを含有がんゆうする荒あら銅どう（粗銅そどう）を溶融ようゆうし鉛なまりを加くわえ、徐々じょじょに冷却れいきゃくし800℃前後ぜんこうに保たもつと、鉛なまりに対たいする溶解ようかい度どの小ちいさい精せい銅どうが固体こたいとして析出せきしゅつし、依然いぜん溶融ようゆうしている鉛なまりの中なかには溶解ようかい度どの大おおきい銀ぎんが溶とけ込こみ、精銅せいどうから分離ぶんりすると貴き鉛なまりが得えられる。荒あら銅どうから灰吹はいふき法ほうにより銀ぎんを取とり出だす作業さぎょうは特とくに南みなみ蛮吹（なんばんぶき）あるいは南みなみ蛮絞（なんばんしぼり）と呼よばれ、取とり出だされた灰吹はいふき銀ぎんは絞しぼ銀ぎん（しぼりぎん）と呼よばれた。

さらに鉛なまりの鉱石こうせきである方ほう鉛なまり鉱こうも0.1 - 0.2%程度ていどの銀ぎんを含ふくんでいるのが普通ふつうであり、取とり出だされた粗そ鉛なまり地金じがねにも少量しょうりょうの銀ぎんが含ふくまれ貴き鉛なまりに加くわわる。日本にっぽん最古さいこの銀ぎん産出さんしゅつの記録きろくが残のこる対馬つしま銀山ぎんざんにおいては、含銀方かた鉛なまり鉱こうを山上さんじょうに運はこび数すう十じゅう日間にちかん焼やき続つづけて銀ぎんを残のこすという酸化さんか製せい錬ね法ほうが用もちいられた。

近世きんせい日本にっぽんにおける灰吹はいふき銀ぎんの流通りゅうつう

天文てんもん2年ねん（1533年ねん）、 石見いわみ国こくの石見いわみ銀山ぎんざんで初はじめて導入どうにゅうされる。やがて蒲生がもう銀山ぎんざん、生野いくの銀山ぎんざん、多田ただ銀山ぎんざん、院内銀山いんないぎんざんなど各地かくちの銀山ぎんざんに灰吹はいふき法ほうが導入どうにゅうされ産さん銀ぎんは著いちじるしく増大ぞうだいし江戸えど時代じだい初期しょきに最盛さいせい期きを迎むかえる。また佐渡さど金山かなやまも金かねよりも寧むしろ銀ぎんを多おおく産出さんしゅつした。産さん銀ぎんの増大ぞうだいにより江戸えど時代じだい前半ぜんはんに掛かけて、ソーマ銀ぎん（佐摩さま、石見いわみ）、ナギト銀ぎん（長門ながと）、セダ銀ぎん（佐渡さわたり）等とうといわれる灰吹はいふき銀ぎんが貿易ぼうえき決済けっさいのため多量たりょうに国外こくがいへ流出りゅうしゅつし、幕府ばくふは長崎ながさきにおいて良質りょうしつ灰吹はいふき銀ぎんの輸出ゆしゅつを監視かんししたが、17世紀せいきの間あいだに丁ちょう銀ぎんを合あわせて110万まん貫ぬき（4,100トン）を超こえる銀ぎんが流出りゅうしゅつしたという。

地名ちめい、稼敷などの極印ごくいんが打うたれた灰吹はいふき銀ぎん、また灰吹はいふき銀ぎんを打うち延のばした銀ぎん判ばんは、それぞれ極印ごくいん銀ぎん（極印ごくいん灰吹はいふき銀ぎん）および古丁ふるちょう銀ぎんと呼よばれる秤量ひょうりょう銀貨ぎんかとして流通りゅうつうし、領国りょうごく貨幣かへいとして江戸えど時代じだいの丁ちょう銀ぎんの原型げんけいとなった。しかし灰吹はいふき銀ぎんの品位ひんいは産地さんちにより様々さまざまであったため全国ぜんこく的てきな秤量ひょうりょう貨幣かへいとしての流通りゅうつうの発展はってんは望のぞめず、寛文ひろふみ年間ねんかんから元禄げんろくの吹替ふきかえ期きまでに漸次ぜんじ丁ちょう銀ぎん遣づかいに切きり替かえられていった。中国ちゅうごくにおいても灰吹はいふき法ほうにより製せい錬ねされた銀ぎんは銀ぎん錠じょうと呼よばれる銀塊ぎんかいに鋳造ちゅうぞうされ、やはり秤量ひょうりょう貨幣かへいとして広ひろく流通りゅうつうした。

各地かくち銀山ぎんざんの産さん銀ぎんは銀座ぎんざに集積しゅうせきされ丁ちょう銀ぎんの材料ざいりょうとされたが、銀座ぎんざによる銀地ぎんじ金きんの調達ちょうたつ法ほうには二に通とおりあり、幕まく領りょう銀山ぎんざんからの上納じょうのう灰吹はいふき銀ぎんは公儀こうぎ灰吹はいふき銀ぎん（こうぎはいふきぎん）または御ご灰吹はいふき銀ぎん（おはいふきぎん）と呼よび、これを御ご金蔵きんぞうから預あずかり吹元にして丁ちょう銀ぎんを鋳造ちゅうぞうし吹立高だかの3%を銀座ぎんざの収入しゅうにゅうとし、残のこりを御ご金蔵きんぞうへ上納じょうのうした御用達ごようたし形式けいしきがあり、他方たほう、銀座ぎんざが幕まく領りょう以外いがいの銀山ぎんざん、私わたし領りょう銀山ぎんざんから諸国しょこく灰吹はいふき銀ぎんを買入かいいれ、丁ちょう銀ぎんを鋳造ちゅうぞうする自家じか営業えいぎょう方式ほうしきは買かい灰吹はいふき銀ぎん（かいはいふきぎん）と称しょうした。

灰吹はいふき銀ぎんの銀ぎん品位ひんい

銀座ぎんざによる灰吹はいふき銀ぎんの買取かいとり価格かかくは銀ぎん品位ひんいに応おうじて定さだめられた。最上級さいじょうきゅうの銀地ぎんじ金きんは、1.1倍ばいの慶長けいちょう丁ひのと銀ぎんでもって買かい入いれられたため、「一いち割わり入いれレ」と呼よばれた。慶長けいちょう丁ひのと銀ぎんは銀ぎんを80%含有がんゆうするため、1.1倍ばいであれば0.8×1.1=0.88となり、この12%分ぶんが銀座ぎんざの鋳造ちゅうぞう手数料てすうりょうなど入用にゅうように相当そうとうした。90.91%の銀ぎんを含有がんゆうする地金じがねは0.9091×1.1=1.00となり、同どう質量しつりょうの慶長けいちょう丁ひのと銀ぎんで買かい入いれられるため、「釣つり替がえ」（つりかえ）と呼よばれた。85%の銀ぎんを含有がんゆうする地金じがねであれば、0.85×1.1=0.935となり、「六ろく分ふん五ご厘りん引ケ」となった。

純度じゅんどの高たかい上うえ銀ぎんは「南鐐なんりょう」（なんりょう）と呼よばれ、さらに精製せいせい度どの高たかいものは「花はな降くだ銀ぎん」（はなふりぎん）と呼よばれた。純銀じゅんぎんは溶融ようゆうすると空気くうき中ちゅうの酸素さんそを溶とかし込こみ、凝固ぎょうこ時ときにこれを放出ほうしゅつして花はなが咲さくように痘痕いもになるからである。

『明和めいわ諸国しょこく灰吹はいふき銀ぎん寄よせ』による各かく銀山ぎんざんより山出やまだしされた灰吹はいふき銀ぎんの品位ひんいの例れいを挙あげると、津軽つがる銀ぎんは三さん分引ぶびきケ（88%）、院内銀山いんないぎんざんの秋田あきた銀ぎんは二分にぶん入にゅうレ（93%）、佐渡さわたり印しるし銀ぎんは一いち割わり入いれレ（上うえ銀ぎん）、因幡いなば銀ぎんは五ご分引ぶびきケ（86%）、雲くも州しゅう銀ぎんは一いち割引わりびきケ（82%）となっている。

『官かん中ちゅう秘策ひさく』にある銀座ぎんざの書しょ上じょうの記述きじゅつには佐渡さど、但馬たじまの御ご銀ぎん（公儀こうぎ灰吹はいふき銀ぎん）は100貫かんにつき銅どう20貫かん加くわえ、石見いわみ御ご銀ぎんは100貫目かんめにつき銅どう22貫かんを加くわえ丁ひのと銀ぎんを吹立たとあり、計算けいさん上じょうの品位ひんいは佐渡さど、但馬たじまの灰吹はいふき銀ぎんは銀ぎん含有がんゆう率りつ96.0%、石見いわみの石いし州しゅう銀ぎんは97.6%ということになる。

明治めいじ15年ねん（1882年ねん）度どに造幣局ぞうへいきょくに納入のうにゅうされた朝鮮ちょうせん産さんの灰吹はいふき銀ぎんの内うち、脆弱ぜいじゃくなものを分析ぶんせきした結果けっかは、銀ぎん98.10%、金きむ0.015%、蒼鉛そうえん0.756%、鉛なまり0.857%、銅どう0.058%、鉄てつ0.022%であり、その他た、亜鉛あえん、砒素ひそ、アンチモンは検出けんしゅつ限界げんかい以下いかであった。このうち蒼鉛そうえんは国産こくさんの灰吹はいふき銀ぎんにも多少たしょう含有がんゆうしており地金じがねの脆性ぜいせいに著いちじるしく影響えいきょうを与あたえるという。