異い星ほしの客きゃく

『異い星ほしの客きゃく』（いせいのきゃく、Stranger in a Strange Land）は、アメリカのSF作家さっかR.A.ハインラインが1961年ねんに書かいたSF小説しょうせつ。ヒューゴー賞しょう（1962年ねん）、ローカス賞しょう（1975年ねん）受賞じゅしょう作さく。日本にっぽんでは東京とうきょう創そう元もと社しゃが創つく元もとSF文庫ぶんこの一いち冊さつとして井上いのうえ一夫かずお訳わけで刊行かんこうしている。

ブライアン・アッシュの『SF百科ひゃっか事典じてん』によれば、「SF界かいで最もっとも有名ゆうめいな、というよりおそらくは最もっとも悪名あくめい高たかい作品さくひんの一ひとつに急速きゅうそくにのし上あがってしまった長編ちょうへん」。

成立せいりつ

アスタウンディング・サイエンス・フィクションへ1948年ねんに載のせた『深淵しんえん』(Gulf)という短編たんぺんを書かくためにブレインストーミングしているときに、ハインラインはあるアイデアを得えた。しかしこのアイデアは短編たんぺんにするには長ながすぎるものだったので、結局けっきょく『深淵しんえん』として別べつの話はなしを載のせ、この時ときに得えたアイデアを後のちに『異い星ほしの客きゃく』として発表はっぴょうした。ハインラインは当初とうしょ80万まん語ごにもおよぶ長編ちょうへんを書かいたが、編集へんしゅう者しゃに「長ながい」と文句もんくを言いわれたので削けずりに削けずって22万まん語ごまで落おとした。しかしそれでも長ながいと言いわれたのでさらに削けずって17万まん語ごにした。現在げんざい出版しゅっぱんされている『異い星ほしの客きゃく』はこの17万まん語ごのバージョンである。アメリカでは『異い星ほしの客きゃく』の「完全かんぜん版ばん」が出版しゅっぱんされているが、これは22万まん語ごのバージョンである。

内容ないよう

火星かせいに到着とうちゃくしたチャンピオン号ごうは火星かせいで一人ひとりの青年せいねんを発見はっけんする。彼かれの名なはヴァレンタイン・マイケル・スミス。25年ねん前まえ、エンヴォイ号ごうによる第だい1次じ火星かせい探検たんけん隊たいの8人にんが消息しょうそくを絶たった際さいの遺児いじで、火星かせい人じんによって育そだてられた。

火星かせい人じんの教育きょういくを受うけて育そだったヴァレンタイン・マイケル・スミス（マイク）は地球ちきゅうとは大おおきく異ことなる思想しそうを持もっていた。地球ちきゅうに帰かえったマイクはジュバル・ハーショー、ジリアン・ボードマン等とうの友人ゆうじん・恋人こいびとを得える。彼等かれらとの議論ぎろんを通つうじて地球人ちきゅうじんを理解りかいした彼かれは、世界せかいの全すべての教会きょうかい (Church of All World) という、火星かせい人じんの影響えいきょうを色濃いろこく受うけた独自どくじの宗教しゅうきょうを開ひらく。

しかし、地球ちきゅう（のアメリカ）における既存きそんのモラル、常識じょうしき、ドグマに反はんした彼かれの教義きょうぎは人類じんるいに受うけ入いれられず、迫害はくがいを受うけ、批判ひはん者しゃ達たちに嬲なぶり殺ころされる。

章あきら構成こうせい

1. その汚よごれた起源きげん
2. その途方とほうもない遺産いさん
3. その風変ふうがわりな教育きょういく
4. そのひどい経歴けいれき
5. その幸福こうふくな宿命しゅくめい

主要しゅよう登場とうじょう人物じんぶつ

マイクとその水みず兄弟きょうだい

• ヴァレンタイン・マイケル・スミス（マイク） - 主人公しゅじんこう。「火星かせいから来きた男おとこ」
• ジリアン・ボードマン（ジル） - 看護かんご婦ふ、カクストンの恋人こいびとを経へて、マイクの恋人こいびとになる。最初さいしょの教徒きょうとでもある。
• ベン・カクストン- 新聞しんぶん記者きしゃ
• ジュバル・ハーショー - 弁護士べんごし兼けん医師いし兼けん作家さっか。ハインラインの意見いけんの代弁だいべん者しゃとしての側面そくめんが強つよい。
• アン - ジュバルの秘書ひしょ兼けん公証こうしょう人じん
• ドーカス - ジュバルの秘書ひしょ
• ミリアム - ジュバルの秘書ひしょ
• デューク - ジュバルの使用人しようにん
• ラリー - ジュバルの使用人しようにん

フォスタライト教きょうの人々ひとびと

• ディグビー - フォスタライト教きょうの最高さいこう指導しどう者しゃ
• トーマス・ブーン - フォスタライト教きょうの教徒きょうと。上院じょういん議員ぎいん。
• パトリシア・ベイウォンスキー - フォスタライト教きょうの教徒きょうと。入墨いれずみをしている。
• フォスター - フォスタライト教きょうの教祖きょうそ。
• ドーン・アーデント - フォスタライト教きょうの教徒きょうと。ストリッパー。

宇宙船うちゅうせんチャンピオン号ごうの船員せんいん

• ファン・トロンプ - チャンピオン号ごうの船長せんちょう
• ネルソン博士はかせ - チャンピオン号ごうの医師いし
• マームド博士はかせ（スティンスキー） - チャンピオン号ごうの言語げんご学者がくしゃ

その他た

• マダム・アレクサンドラ・ヴザン - 占星術せんせいじゅつ師し
• ジョセフ・エージェトン・ダグラス - 自由じゆう世界せかい連邦れんぽう事務じむ総長そうちょう

「世界せかいの全すべての教会きょうかい」の教義きょうぎ

彼かれの宗教しゅうきょうは汎神論はんしんろん的てきな考かんがえを極限きょくげんまで推おし進すすめたもので、生いきとし生いけるものはみな神しんであると考かんがえている。マイクはこの考かんがえ方かたを「汝なんじは神かみなり」という言葉ことばで表現ひょうげんした。「猫ねこが雀すずめを狙ねらえば、その両方りょうほう（=猫ねこと雀すずめ）が神かみ」であり、だから猫ねこと雀すずめは「神かみの考かんがえを実行じっこうしている」のである。表面ひょうめん的てきな理解りかいではない内面ないめん的てきな理解りかい（「グロク(grok)」）を得える事ことを重視じゅうしする。またフォスタライト派はの影響えいきょうを受うけた彼かれの宗教しゅうきょうは快楽かいらく主義しゅぎ的てきな側面そくめんが強つよく、フリーセックス（セックスの事ことを「和合わごう生成せいせい」と呼よぶ）を肯定こうていしている。巣す（ネスト）と呼よばれる場所ばしょでイヌイットのような共同きょうどう体たい的てき生活せいかつをし、和合わごう生成せいせいの結果けっか産うまれてきた子供こどもは共同きょうどう体たいの皆みなで育そだてられる。また彼かれの宗教しゅうきょうでは宗教しゅうきょう儀式ぎしきとして蛇へび踊おどりを重視じゅうしする。さらに彼かれの宗教しゅうきょうは食しょく人じんに肯定こうてい的てきで、信者しんじゃが死しんだ（「分裂ぶんれつした」と言いう）時じは、「故人こじんを懐なつかしみ、いとおしみながら」故人こじんを食たべる。入信にゅうしんの際さいには、信者しんじゃから一いち杯はいの水みずをもらい、それを飲のむ。この為ためこの宗教しゅうきょうの信者しんじゃは他たの信者しんじゃの事ことを「水みず兄弟きょうだい」と呼よぶ。

火星かせい人じん達たちが水みずを重視じゅうししたり食しょく人じんを好このんだりする理由りゆうは作中さくちゅうでは語かたられていないが、SF作家さっかブライアン・W・オールディスはその著書ちょしょ『十じゅう億おく年ねんの宴うたげ』で、火星かせいでは水みずと食糧しょくりょうが少すくないので、水みずが重視じゅうしされたり食糧しょくりょう調達ちょうたつ手段しゅだんとして食しょく人じんが行おこなわれたりしたのではないかと述のべている。

火星かせい語ご

• グロク：認識にんしきする、水みずを飲のむ、愛あいする
• 水みず兄弟きょうだい：自分じぶんと同おなじコップから水みずを飲のんだ人物じんぶつ
• 和合わごう生成せいせい：性行為せいこうい
• 分裂ぶんれつする：死しぬ
• 汝なんじは神かみなり：生いけとし生いけるものは全すべて神かみである

社会しゃかいへの影響えいきょう

『異い星ほしの客きゃく』の反響はんきょうは大おおきく、ヒッピーの経典きょうてんとあがめられ、『異い星ほしの客きゃく』中ちゅうの「グロク」という言葉ことばがオックスフォード英語えいご辞典じてんに載のったりした。

作中さくちゅうの宗教しゅうきょうが現実げんじつのものに

1961年ねんにはミズーリ州しゅうのウェストミンスター単科大学たんかだいがくの学生がくせい2人にん（Oberon Zell-Ravenheartとその妻つまMorning Glory Zell-Ravenheart）が『異い星ほしの客きゃく』に影響えいきょうを受うけ、マイクの宗教しゅうきょうと同名どうめいのChurch of All Worldという宗教しゅうきょう団体だんたいを設立せつりつした。ちなみにミズーリ州しゅうはハインラインが生うまれた土地とちでもある。現在げんざいでもこの教団きょうだんは活動かつどうしており、本部ほんぶはオハイオ州しゅうのToledoにある。

この宗教しゅうきょう団体だんたいの信者しんじゃ達たちは、マイクが説とくように神かみであり、マイクの宗教しゅうきょうと同おなじく「汝なんじは神かみなり」と挨拶あいさつする。この為ため信者しんじゃ達たちは神かみとしての責任せきにんを持もち、彼かれらの主張しゅちょうによれば、彼かれらは「世界せかいが荒廃こうはいし死滅しめつするか、あるいは美うつくしい女神めがみ(すなわち地球ちきゅうの全ぜん生命せいめい領域りょういき)がこの惑星わくせいに置おいて意識いしきを取とり戻もどすかどうかはひとえに私わたし達たちの手てにかかっている」のである。

参考さんこう：ミルチア・エリアーデ、『オカルティズム、魔術まじゅつ、文化ぶんか流行りゅうこう』、未み來社らいしゃ。および英語えいご版ばんwikipedia。「世界せかいが...」の部分ぶぶんは『オカルティズム…」から引用いんよう

マンソンのカルト教団きょうだんに影響えいきょう?

さらに『異い星ほしの客きゃく』はチャールズ・マンソンに影響えいきょうを与あたえたと噂うわさされている。マンソンとは売春ばいしゅん斡旋あっせんや窃盗せっとうを始はじめとする様々さまざまな犯罪はんざいに手てを染そめ、その後ご「ファミリー」というカルト教団きょうだんを作つくり、教徒きょうと達たちに自分じぶんはイェスの生うまれ変かわりだと信しんじさせ、人種じんしゅ対立たいりつによって最終さいしゅう戦争せんそうが起おこると説とき、快楽かいらく主義しゅぎを肯定こうていして、LSDを使つかったフリーセックスを行おこない、教徒きょうとに教唆きょうさしてハリウッドの女優じょゆうシャロン・テートを含ふくむ数すう名めいを殺害さつがいさせた人物じんぶつである。ただし『異い星ほしの客きゃく』がマンソンに影響えいきょうを与あたえたと言いうのはあくまで噂うわさに過すぎない可能かのう性せいが高たかい。ハインラインの死後しご出版しゅっぱんされたGrumbles from the Graveによると、ハインラインは自分じぶんの弁護士べんごしにこの件けんに付ついて調査ちょうささせた。しかし、弁護士べんごしはマンソンが『異い星ほしの客きゃく』の愛読あいどく者しゃであるという証拠しょうこを見付みつける事ことができなかった。実際じっさい、マンソンはほとんど文字もじが読よめなかったらしい。

ウォーターベッド

『異い星ほしの客きゃく』はウォーターベッドを描えがいた小説しょうせつとしても知しられる。ハインラインはすでに『太陽系たいようけい帝国ていこくの危機きき』（1956年ねん）でもウォーターベッドを描えがいている。実際じっさいにウォーターベッドが作つくられたのは『異い星ほしの客きゃく』が書かかれた7年ねん後ごの1968年ねんの事ことで、発明はつめい者しゃはCharles Hallという人物じんぶつである。Charles Hallがそのアイデアを米国べいこく特許庁とっきょちょうに出願しゅつがんしたとき、特許庁とっきょちょうはハインラインがすでに小説しょうせつでこのアイデアを描えがいている事ことを理由りゆうに特許とっきょを拒絶きょぜつした。

関連かんれんする小説しょうせつ

小説しょうせつ『レッドプラネット』および『宇宙うちゅうの呼よび声ごえ』と同おなじ時間じかん線せんに属ぞくする（内容ないよう的てきには無関係むかんけい）。

関連かんれん項目こうもく

• ヒューゴー賞しょう 長編ちょうへん小説しょうせつ部門ぶもん

外部がいぶリンク

• 『異い星ほしの客きゃく』 - 東京とうきょう創そう元もと社しゃ