ヒューゴー賞しょう

ヒューゴー賞しょう Hugo Award
1991年ねんヒューゴー賞しょうのトロフィ
受賞じゅしょう対象たいしょう	前ぜん暦年れきねんのSFおよびファンタジー
国くに	アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく
主催しゅさい	ワールドSFソサエティ
初回しょかい	1953
公式こうしきサイト	http://www.thehugoawards.org/

ヒューゴー賞しょう（ヒューゴーしょう、The Hugo Awards）は、前年ぜんねんに発表はっぴょうされたSFやファンタジーの作品さくひんおよび関連かんれん人物じんぶつに贈おくられる賞しょうである。小説しょうせつ、映像えいぞう、コミックなど複数ふくすうの部門ぶもんがあり、各かく受賞じゅしょう者しゃは毎年まいとしの世界せかいSF大会たいかい（ワールドコン）中ちゅうに開催かいさいされるヒューゴー賞しょう授賞じゅしょう式しきにおいて発表はっぴょうされる。選考せんこう委員いいんや審査しんさ員いんは存在そんざいせず、ワールドコン参加さんか者しゃ（つまり一般いっぱんのファン）の投票とうひょうによって受賞じゅしょうが決きまる。運営うんえいしているのは、ワールドコンの運営うんえい母体ぼたいでもあり、SFファンが会員かいいんとなる非ひ営利えいり団体だんたい、ワールドSFソサエティ（世界せかいSF協会きょうかいとも。World Science Ficton Society, WSFS）である。

概要がいよう

1953年ねんの世界せかいSF大会たいかい（ワールドコン）において創設そうせつされた。現存げんそんする中なかで最もっとも歴史れきしの古ふるいSF・ファンタジー文学ぶんがく賞しょうである。アカデミー賞しょうをヒントとして提案ていあんされ、アメリカSF界かい最初さいしょ期きの功労こうろう者しゃであるヒューゴー・ガーンズバックにちなんだ「ヒューゴー賞しょう」というニックネームが与あたえられた。

SF・ファンタジー作品さくひんに与あたえられる賞しょうとしては、アメリカSFファンタジー作家さっか協会きょうかい (SFWA) の会員かいいん投票とうひょうで選えらばれるネビュラ賞しょうと知名度ちめいどを二分にぶんする。ヒューゴー賞しょうとネビュラ賞しょうの同時どうじ受賞じゅしょうはダブル・クラウンと呼よばれることがある（同時どうじ受賞じゅしょう作さくの一覧いちらんについてはこちらを参照さんしょう）。

賞しょうの創設そうせつ以来いらい、受賞じゅしょう者しゃには流線型りゅうせんけいのロケットを象かたどったトロフィーが授与じゅよされている。1984年ねんにロケットのデザインが公式こうしきに変更へんこうされて以降いこうは、台座だいざ部分ぶぶんのみが毎年まいとし新あたらしくデザインされている。

対象たいしょうジャンル

WSFSの規約きやくには「SFおよびファンタジー作品さくひんを対象たいしょうとする」と明記めいきされている。また、ヒューゴー賞しょう公式こうしきサイトでは以下いかのように説明せつめいされている。

Q. ヒューゴー賞しょうの対象たいしょうはサイエンス・フィクションだけですか？
A. いいえ。主催しゅさい団体だんたいは「ワールドSFソサエティ」と名乗なのっていますが、規約きやくにはSFもファンタジーも対象たいしょうとすることを明記めいきしています。ファンタジー作品さくひんはヒューゴー賞しょうをよく受賞じゅしょうしていますし、それだけでなくホラーやメインストリームだと見みなす人ひとがいるような作品さくひんも実際じっさいに受賞じゅしょうしています。ジャンルやサブジャンルの正確せいかくな定義ていぎについて普遍ふへん的てきな合意ごういがなされることは決けっしてないでしょうから、WSFSは作品さくひんの受賞じゅしょう資格しかくの判断はんだんを投票とうひょう者しゃに一任いちにんしています。優すぐれたSF編集へんしゅう者しゃ・作家さっかであるデーモン・ナイトの発言はつげんをパラフレーズするならば、「ヒューゴー賞しょうにふさわしい作品さくひんとは、投票とうひょう者しゃたちがヒューゴー賞しょうを贈おくることによって示しめされる」のです。 —  ヒューゴー賞しょう公式こうしきサイト FAQページ

ヒューゴー賞しょうの部門ぶもん

半はん世紀せいき以上いじょうの歴史れきしの中なかで、部門ぶもん数すう・名称めいしょう・内容ないようは数々かずかずの変遷へんせんを重かさねている。下記かきは2018年ねん現在げんざいの部門ぶもんである。

現在げんざいの部門ぶもん名めい	開始かいし年ねん	対象たいしょう、備考びこう
長編ちょうへん小説しょうせつ部門ぶもん (Best Novel)	1953年ねん	40001語ご以上いじょう（ノヴェル）
中ちゅう長編ちょうへん小説しょうせつ部門ぶもん (Best Novella)	1968年ねん	17501語ごから40000語ご（ノヴェラ）
中編ちゅうへん小説しょうせつ部門ぶもん (Best Novelette)	1955年ねん	7501語ごから17500語ご（ノヴェレット）
短編たんぺん小説しょうせつ部門ぶもん (Best Short Story)	1955年ねん	7500語ご未満みまん（ショート・ストーリー）
シリーズ部門ぶもん (Best Series)	2017年ねん	小説しょうせつのシリーズ作品さくひん。
関連かんれん書籍しょせき部門ぶもん (Best Related Work)	1980年ねん	ノンフィクションなど、小説しょうせつ以外いがいのテキストを中心ちゅうしんとした創作そうさく物ぶつ。
グラフィックストーリー部門ぶもん (Best Graphic Story)	2009年ねん	グラフィックノベル、コミックなど。
映像えいぞう部門ぶもん (Best Dramatic Presentation)	1958年ねん	映像えいぞうだけでなくスピーチ、ラジオドラマ、音楽おんがく、演劇えんげきなども対象たいしょう。 2003年ねんから長ながさ90分ふんを境さかいに長編ちょうへん部門ぶもん（Long Form）と短編たんぺん部門ぶもん（Short Form）に分割ぶんかつ。
セミプロジン部門ぶもん (Best Semiprozine)	1984年ねん	半はん商業しょうぎょう誌し
ファンジン部門ぶもん (Best Fanzine)	1955年ねん	非ひ商業しょうぎょう誌し（同人どうじん誌しなど）
編集へんしゅう者しゃ部門ぶもん (Best Professional Editor)	1973年ねん	文章ぶんしょうで書かかれた作品さくひんの編集へんしゅう者しゃ。2007年ねんから長編ちょうへん編集へんしゅう者しゃ部門ぶもん（Long Form、長編ちょうへん小説しょうせつの編集へんしゅう者しゃ）と 短編たんぺん編集へんしゅう者しゃ部門ぶもん（Short Form、雑誌ざっしやアンソロジーの編集へんしゅう者しゃ）に分割ぶんかつ。
プロアーティスト部門ぶもん (Best Professional Artist)	1953年ねん
ファンアーティスト部門ぶもん (Best Fan Artist)	1967年ねん
ファンライター部門ぶもん (Best Fan Writer)	1967年ねん
ファンキャスト部門ぶもん (Best Fancast)	2012年ねん	オーディオ/ビデオ形式けいしきのファンジン（ポッドキャストなど）。

• 各かく年としのワールドコン実行じっこう委員いいん会かいの判断はんだんにより、授賞じゅしょう式しき上じょうにおいて特別とくべつ賞しょうが授与じゅよされることがある（この場合ばあい投票とうひょうは経へない）。これは正式せいしきにはヒューゴー賞しょうには含ふくまれず、トロフィーも与あたえられない（かつては与あたえられたこともある）。
• 各かく年としのワールドコン実行じっこう委員いいん会かいの権限けんげんにおいて、その年とし限かぎりの条件じょうけんで特別とくべつ部門ぶもんが設定せっていされることがある（これは正式せいしきなヒューゴー賞しょうとして扱あつかわれる）。

関連かんれんする賞しょう

アスタウンディング新人しんじん賞しょう

→「アスタウンディング新人しんじん賞しょう」も参照さんしょう

新進しんしん作家さっかを対象たいしょうとする賞しょう。ヒューゴー賞しょうからは独立どくりつした賞しょうという扱あつかいだが、ヒューゴー賞しょうとまったく同おなじプロセスで選出せんしゅつされ、ヒューゴー賞しょうセレモニーで授賞じゅしょうされる。

ロードスター賞しょう

→「ロードスター賞しょう」も参照さんしょう

2018年ねんに、ヤングアダルト読者どくしゃ向むけのSF・ファンタジー作品さくひんの書籍しょせきを対象たいしょうとして創設そうせつされた。ヒューゴー賞しょうからは独立どくりつした賞しょうという扱あつかいだが、ヒューゴー賞しょうとまったく同おなじプロセスで選出せんしゅつされ、ヒューゴー賞しょうセレモニーで授賞じゅしょうされる。

賞しょう名めいは2019年ねんより The Lodestar Award for Best Young Adult Book となる（初年度しょねんどはWSFS Award for Best Young Adult Bookとして実施じっしされた）。「ロードスター」は「導みちびきの星ほし」という意味いみ。

レトロ・ヒューゴー賞しょう

レトロ・ヒューゴー賞しょう（遡及そきゅう的てきヒューゴー賞しょう、Retrospective Hugo AwardsまたはRetro Hugos）は、ヒューゴー賞しょうが授与じゅよされなかった草創そうそう期きのワールドコンの各かく年度ねんどの有ゆう資格しかく作品さくひんを対象たいしょうとして、通常つうじょうのヒューゴー賞しょうと同おなじ手順てじゅんを経へて選えらばれる。1990年代ねんだい中盤ちゅうばんに規則きそくが制定せいていされた。

当初とうしょは該当がいとう年ねん（1939年ねん - 1941年ねん、1946年ねん - 1952年ねん、1954年ねん）の50・75・100年ねん後ごに開催かいさいされるワールドコンにおいて実施じっし可能かのうとされた。2017年ねん以降いこうは「1939年ねん以降いこうでヒューゴー賞しょうが授与じゅよされなかった年とし」の25の倍ばい数すう年ねん後ごに実施じっし可能かのうとなった。

実施じっしするかどうかは有ゆう資格しかく年ねんのワールドコン実行じっこう委員いいん会かいの判断はんだんによる。これまでに実施じっしされたのは1996年ねん（1946年ねん）、2001年ねん（1951年ねん）、2004年ねん（1954年ねん）、2014年ねん（1939年ねん）、2016年ねん（1941年ねん）、2018年ねん（1943年ねん）、2019年ねん（1944年ねん）、2020年ねん（1945年ねん）である。

候補こうほ・受賞じゅしょう資格しかく

毎年まいとしのワールドコンで行おこなわれるWSFSビジネス・ミーティングにおいて、規約きやくは随時ずいじ変更へんこうされている。下記かきは2023年ねん現在げんざいの規定きていである。

• 前ぜん暦年れきねんに世界せかいのどこかで発表はっぴょうされた作品さくひん。言語げんご・刊行かんこう地ちは問とわない。

• 英語えいご以外いがいの言語げんごで発表はっぴょうされたものは、英訳えいやく版ばんが発表はっぴょうされた年としも対象たいしょうとなる。アメリカ国外こくがいで発表はっぴょうされた作品さくひんはアメリカで初はじめて刊行かんこうされた年としも対象たいしょうとなる。
• 作品さくひんや連続れんぞく刊行かんこう物ぶつを対象たいしょうとする部門ぶもんでは、発表はっぴょう形態けいたい（紙かみ媒体ばいたい、電子でんし書籍しょせき、自費じひ出版しゅっぱん、ウェブサイトに発表はっぴょうされた作品さくひん、ブログなど）は問とわない。ただしセミプロジン部門ぶもん・ファンジン部門ぶもん・ファンキャスト部門ぶもんのように媒体ばいたいを資格しかく定義ていぎに含ふくむ部門ぶもんは、それぞれの定義ていぎに従したがって区分くわけされる。
• 個人こじん（アーティスト、編集へんしゅう者しゃなど）を対象たいしょうとする部門ぶもんは、作品さくひん個々ここではなく個人こじんを対象たいしょうとする。ただし該当がいとう年ねんにまったく活動かつどうしていない人物じんぶつは資格しかくを持もたない。

「プロ」の定義ていぎ

• ヒューゴー賞しょうの関連かんれん部門ぶもん（プロアーティスト・ファンアーティスト部門ぶもんなど）においては、下記かきのどちらかを満みたす場合ばあいに、professional（プロ）と定義ていぎされる。

1. 誰だれか一人ひとりの年収ねんしゅうの1/4以上いじょうを賄まかなっていること
2. 対象たいしょうとなる媒体ばいたい等とうを所有しょゆうする団体だんたいが、そのスタッフもしくはオーナーのうち誰だれか一人ひとりの年収ねんしゅうの1/4以上いじょうを支払しはらっていること

連続れんぞく刊行かんこう物ぶつの定義ていぎと資格しかく

セミプロジン部門ぶもん、ファンジン部門ぶもん、ファンキャスト部門ぶもんは連続れんぞく刊行かんこう物ぶつを対象たいしょうとする。個別こべつの号ごうではなく、対象たいしょう年ねんの刊行かんこう物ぶつすべてが対象たいしょうとなる。

• セミプロジン部門ぶもんのノミネート資格しかくは、これまでに最低さいてい4号ごう以上いじょうかつ対象たいしょう年ねんに1号ごう以上いじょうを発表はっぴょうした上うえで、下記かきの条件じょうけんをすべて満みたす場合ばあいである。
  • 前述ぜんじゅつの「プロ」の定義ていぎに当あてはまらないこと
  • 寄稿きこう者しゃやスタッフに対たいし、掲載けいさい号ごうの提供ていきょう以外いがいの何なんらかの利益りえき（金銭きんせんなど）が適用てきようされていること
  • 刊行かんこう/発表はっぴょう/公開こうかい物ぶつの入手にゅうしゅ方法ほうほうが基本きほん的てきに有料ゆうりょうのみであること
• ファンジン部門ぶもんのノミネート資格しかくは、これまでに最低さいてい4号ごう以上いじょうかつ対象たいしょう年ねんに1号ごう以上いじょうを発表はっぴょうした上うえで、対象たいしょうが上述じょうじゅつの「プロ」「セミプロジン」および下記かきの「ファンキャスト」に該当がいとうしない場合ばあいである。
• ファンキャスト部門ぶもんのノミネート資格しかくは、これまでに少すくなくとも4エピソードを配信はいしんしかつ対象たいしょう年ねんに1エピソードを発表はっぴょうしたオーディオ・ビデオ配信はいしん物ぶつで、かつ「プロ」に該当がいとうしない場合ばあいである。

過去かこに存在そんざいしたヒューゴー賞しょうの常設じょうせつ部門ぶもん

部門ぶもん名めい	期間きかん	対象たいしょう、備考びこう
商業しょうぎょう誌し部門ぶもん (Best Professional Magazine)	1953年ねん – 1972年ねん	1973年ねんより編集へんしゅう者しゃ部門ぶもんに改編かいへん
Best Original Art Work	1990年ねん、 1992年ねん – 1996年ねん	アートワーク

過去かこに個別こべつのワールドコンで贈おくられたことのあるヒューゴー賞しょうの部門ぶもん

部門ぶもん名めい	期間きかん	備考びこう
カバーアーティスト部門ぶもん （Best Cover Artist)	1953年ねん
挿絵さしえイラストレーター部門ぶもん (Best Interior Illustrator)	1953年ねん
Excellence in Fact Articles	1953年ねん	ノンフィクション作品さくひん・記事きじの執筆しっぴつ者しゃ
Best New SF Author or Artist	1953年ねん	新人しんじん作家さっかまたはアーティスト
#1 Fan Personality	1953年ねん	ファン
Best Feature Writer	1956年ねん	雑誌ざっしへの執筆しっぴつ者しゃ
Best Book Reviewer	1956年ねん	書評しょひょうの執筆しっぴつ者しゃ
Most Promising New Author	1956年ねん	新人しんじん作家さっか
Outstanding Actifan	1958年ねん	ファン
Best New Author	1959年ねん	新人しんじん作家さっか
Best SF Book Publisher	1964年ねん、1965年ねん	出版しゅっぱん社しゃ
Best All-Time Series	1966年ねん	アイザック・アシモフ「ファウンデーション」3部ぶ作さくが受賞じゅしょうした
Other Forms	1988年ねん	小説しょうせつ4部門ぶもんに当あてはまらない、印刷いんさつされたフィクション作品さくひん
Best Web Site	2002年ねん、2005年ねん	ウェブサイト
Best Art Book	2019年ねん	アートブック
Best Video Game	2021年ねん	ビデオゲーム

選出せんしゅつ方法ほうほう

ヒューゴー賞しょうは、ワールドコンに登録とうろくしたファンの投票とうひょうによって決定けっていされる。ワールドコンの登録とうろくカテゴリは複数ふくすうあるので、大会たいかい会場かいじょうへの入場にゅうじょう権けんがない比較的ひかくてき安価あんかなカテゴリでも投票とうひょう権けんを得えられる。

投票とうひょうは2回かいに分わけて行おこなわれる。まず、1月がつから3月がつに最終さいしゅう候補こうほを決きめるための「予備よび投票とうひょう」が行おこなわれる。有権者ゆうけんしゃは前年ぜんねんと当年とうねんのワールドコン登録とうろく者しゃである。

こうして4月がつに発表はっぴょうされる最終さいしゅう候補こうほを対象たいしょうとして、受賞じゅしょうを決きめる「本ほん投票とうひょう」が当年とうねんのワールドコン登録とうろく者しゃによって行おこなわれる。本ほん投票とうひょうでは優先ゆうせん順位じゅんい付づけ投票とうひょう制せいを採用さいようしている。

なお、予備よび投票とうひょうおよび本ほん投票とうひょうの票数ひょうすうと集計しゅうけい結果けっかは、受賞じゅしょう作さく発表はっぴょう後ごに公開こうかいされる。2017年ねん時点じてんでの本ほん投票とうひょうでの投票とうひょう数すうベスト3は2015年ねんの5950票ひょう、2014年ねんの3587票ひょう、2017年ねんの3319票ひょうである。

候補こうほからは辞退じたいすることができる。辞退じたいや発表はっぴょう後ごに欠格けっかくが判明はんめいした場合ばあいは、次点じてんが繰くり上あがる。

予備よび投票とうひょう制度せいど

2016年ねんまで、投票とうひょう者しゃは各かく部門ぶもんごとに最大さいだい5作さくに投票とうひょうし、得票とくひょう数すうを単純たんじゅん集計しゅうけいした上位じょうい5作さくを最終さいしゅう候補こうほとしていた。だが予備よび投票とうひょうでは投票とうひょう先さきが分散ぶんさんしやすいため、2015年ねん・2016年ねんに少数しょうすうの組織そしき票ひょうが最終さいしゅう候補こうほ枠わくを独占どくせんするという問題もんだいが起おこった。これを解決かいけつするため、2017年ねんから新あらたな予備よび投票とうひょう制度せいどが採用さいようされた。概要がいようは以下いかの通とおりである。

1. 予備よび投票とうひょうでは最下位さいかいの作品さくひんから脱落だつらくさせていくが、脱落だつらくした作品さくひんの得票とくひょうを、同おなじ投票とうひょう者しゃの他ほかの投票とうひょう先さきに振ふり分わける。
2. 予備よび投票とうひょうの最大さいだい投票とうひょう先さきは一人ひとり5作さくのまま変かわらないが、最終さいしゅう候補こうほは6作さくとする。
3. 従来じゅうらい存在そんざいした5%足あし切ぎり条項じょうこうの廃止はいし（確実かくじつに最終さいしゅう候補こうほが6作さく以上いじょうになるようにする）。
4. 同おなじ人物じんぶつ・集団しゅうだん・映像えいぞうシリーズの作品さくひんについては、ひとつの部門ぶもんで最大さいだい2作さくしか最終さいしゅう候補こうほとしない。

この方式ほうしきの提案ていあん者しゃたちは主おもなメリットとして、これまでと投票とうひょうの手間てまが変かわらず、多様たよう性せいと公平こうへい性せいを担保たんぽしたうえで、組織そしき票ひょうによる候補こうほ独占どくせんという事態じたいを防ふせげることなどを挙あげている。なお、1については専門せんもん的てきにはSDV-LPE（single divisible vote with least popular elimination）方式ほうしきと呼よばれる。

この方式ほうしきでは組織そしき票ひょうかどうかを恣意しい的てきに判定はんていする危険きけんがなく、また試算しさんによれば組織そしき票ひょうが問題もんだい化かする以前いぜんの予備よび投票とうひょう結果けっかともほぼ一致いっちする。一方いっぽうで、組織そしき票ひょうリストの作品さくひんはたいていリスト中ちゅうの一ひとつしか残のこらなくなり、最終さいしゅう候補こうほ枠わくを独占どくせんするようなケースはほぼなくなる。また、充分じゅうぶんに得票とくひょうした作品さくひんを組織そしき票ひょうだからという理由りゆうだけで排除はいじょすることもない。加くわえて、最終さいしゅう候補こうほにならなかった作品さくひんに投とうじた票ひょうが死票しひょうになりにくい、という利点りてんもある。

「受賞じゅしょうなし」

本ほん投票とうひょうにおいて最終さいしゅう候補こうほのいずれも受賞じゅしょうに値あたいしないと考かんがえる場合ばあい、投票とうひょう者しゃはただ棄権きけんするのではなく、積極せっきょく的てきに「受賞じゅしょうなし」に投票とうひょうすることもできる。「受賞じゅしょうなし」という結果けっかになる場合ばあいは、2通とおりある。

1. まず、「受賞じゅしょうなし」を他たの候補こうほと同等どうとうの選択肢せんたくしとみなして開票かいひょうする。ここで「受賞じゅしょうなし」が1位いになった場合ばあいは、そのまま「受賞じゅしょうなし」で確定かくていする。
2. 「受賞じゅしょうなし」以外いがいの候補こうほが1位いになった場合ばあいで、全ぜん投票とうひょうを再さい集計しゅうけいして「その候補こうほよりも“受賞じゅしょうなし”を下位かいにした投票とうひょう数すう」が「その候補こうほよりも“受賞じゅしょうなし”を上位じょういにした投票とうひょう数すう」を下回したまわる場合ばあいは、「受賞じゅしょうなし」となる。

「受賞じゅしょうなし」はいくつかの実例じつれいがある。1977年ねんの映像えいぞう部門ぶもんの後のち、40年ねん近ちかく「受賞じゅしょうなし」という結果けっかが出でたことはなかったが、組織そしき票ひょう問題もんだいに揺ゆれた2015年ねんは、全ぜん16部門ぶもん中ちゅう5部門ぶもんが「受賞じゅしょうなし」という結果けっかになった。

歴史れきし

1950年代ねんだい

第だい1回かいのヒューゴー賞しょうは1953年ねん、フィラデルフィアで開催かいさいされた第だい11回かいワールドコンにおいて授与じゅよされた。この時ときは全ぜん7部門ぶもんであった。当時とうじのワールドコン実行じっこうスタッフはこの賞しょうが継続けいぞくされることを望のぞんでいたが、元々もともとはこの年とし一いち回かい限かぎりのイベントとして構想こうそうされたものである。当時とうじのワールドコンは、それぞれの実行じっこう委員いいん会かいが回かいごとに独立どくりつして運営うんえいするイベントであり、継続けいぞく的てきに監督かんとくされてはいなかった。そのため、翌年よくねん以降いこうのワールドコンにはヒューゴー賞しょうを実施じっしする義務ぎむはなく、そのための方法ほうほうを定さだめる規則きそくも作つくられなかった。

1954年ねんのワールドコンではヒューゴー賞しょうは実施じっしされなかったが、1955年ねんに復活ふっかつし、以来いらい毎年まいとしの恒例こうれい行事ぎょうじとなった。当初とうしょの正式せいしき名称めいしょうは「年次ねんじSF功労賞こうろうしょう（the Annual Science Fiction Achievement Award）」で、「ヒューゴー賞しょう」は非公式ひこうしきニックネームだったが、後者こうしゃのほうがよく知しられていた。1958年ねんに「ヒューゴー賞しょう」は別べつ名称めいしょうとして公認こうにんされ、1992年ねんからは正式せいしき名称めいしょうとなった。

1959年ねん、賞しょうを運営うんえいする公式こうしきなガイドラインはいまだに存在そんざいしなかったが、のちに引ひき継つがれるいくつかの規則きそくが制定せいていされた。候補こうほ作さくを決定けっていするための予備よび投票とうひょうを本ほん投票とうひょうとは別べつに行おこなうこと、前ぜん暦年れきねんに出版しゅっぱんされた作品さくひんを対象たいしょうとすること（それ以前いぜんは「前年ぜんねん」だった）、選択肢せんたくしに「受賞じゅしょうなし」を加くわえること（この年としには2部門ぶもんで「受賞じゅしょうなし」となった）、などである。

1960年代ねんだい

1961年ねん、各回かくかいのワールドコン実行じっこう委員いいん会かいを監督かんとくするワールドSFソサエティー（WSFS）が結成けっせいされると、賞しょうの公式こうしき規則きそくをWSFSで定さだめ、各回かくかいのワールドコン実行じっこう委員いいん会かいの責任せきにんにおいて賞しょうを授与じゅよすることが義務ぎむづけられた。この規則きそくでは、受賞じゅしょう作さくを決定けっていする投票とうひょう権けん者しゃは各かくワールドコンの参加さんか者しゃのみに限定げんていされていたものの、候補こうほ作さく選出せんしゅつには自由じゆうに参加さんかできることとなっていた（1963年ねんのワールドコンで、候補こうほ作さく選出せんしゅつ投票とうひょうはその回かいと前回ぜんかいのワールドコン参加さんか者しゃのみに限定げんていされた）。

また、この公式こうしき規則きそくでは常設じょうせつの受賞じゅしょう部門ぶもんも定さだめられ、これを変更へんこうできるのはWSFSのみとされた。1961年ねんの部門ぶもんは長編ちょうへん部門ぶもん、短編たんぺん部門ぶもん、映像えいぞう部門ぶもん、商業しょうぎょう誌し部門ぶもん、プロアーティスト部門ぶもん、ファンジン部門ぶもんだった。

1964年ねん、各回かくかいのワールドコンが個別こべつに、追加ついかの特別とくべつ部門ぶもん（最大さいだい2部門ぶもん）を制定せいていできるように公式こうしき規則きそくが改定かいていされた。これらの追加ついか部門ぶもんは正式せいしきなヒューゴー賞しょうに含ふくまれるが、翌年よくねん以降いこうも継続けいぞくする義務ぎむはないとされた。のちに追加ついか部門ぶもんは1部門ぶもんまでと改定かいていされた。特別とくべつ部門ぶもんの例れいは数多かずおおいが、年としに1部門ぶもんより多おおかったことは数すう回かいしかない。

1967年ねんに中編ちゅうへん（ノヴェレット）部門ぶもん、ファンライター部門ぶもん、ファンアーティスト部門ぶもんが追加ついかされ、1968年ねんに中ちゅう長編ちょうへん（ノヴェラ）部門ぶもんが追加ついかされた。これによって小説しょうせつ部門ぶもんの長ながさによる区別くべつが明記めいきされた（中編ちゅうへん部門ぶもんは1955年ねんから断続だんぞく的てきに行おこなわれていたが、長ながさの判断はんだんは投票とうひょう者しゃに委ゆだねられていた）。ファン関連かんれんの2部門ぶもんは（ヒューゴー賞しょうファンジン部門ぶもんも廃止はいし・統合とうごうしたうえで）ヒューゴー賞しょうとは別べつの賞しょうとする構想こうそうもあったが、ヒューゴー賞しょうの常設じょうせつ部門ぶもんとなった。

1970年代ねんだい

慣例かんれい的てきに各かく部門ぶもんの最終さいしゅう候補こうほはそれぞれ5作さくとされていたが、1971年ねんに公式こうしき規則きそくが定さだめられ、同数どうすう得票とくひょう作さくの除外じょがい基準きじゅんが明記めいきされた。1973年ねん、WSFSは商業しょうぎょう誌し部門ぶもんを廃止はいしし、代かわりに編集へんしゅう者しゃ部門ぶもん（Best Professional Editor）を設置せっちした。これは「書かき下おろしアンソロジーの重要じゅうよう性せいが増ましつつある」ことを反映はんえいした判断はんだんだった。

1974年ねんの規則きそく改定かいていでは、常設じょうせつ部門ぶもんという概念がいねんが廃止はいしされ、各回かくかいにおいて最大さいだい10部門ぶもんを設置せっちすること、ただしそれらは前年ぜんねんのカテゴリーと似にたものにすること、とされた。しかしこれによって追加ついか・廃止はいしされた部門ぶもんはなく、1977年ねんには常設じょうせつ部門ぶもんを明記めいきするように規則きそくが再さい改定かいていされた 。

1980年ねん～1990年代ねんだい

1980年ねんに関連かんれん書籍しょせき部門ぶもんが、1984年ねんにはセミプロジン部門ぶもんが追加ついかされた。1990年ねんには特別とくべつ部門ぶもんとしてオリジナルアートワーク部門ぶもんが実施じっしされた。同どう部門ぶもんは1991年ねんにも行おこなわれ（ただし受賞じゅしょう作さくはなかった）、1992～1996年ねんは常設じょうせつ部門ぶもんとなった。

1990年代ねんだい中盤ちゅうばんにはレトロ・ヒューゴー賞しょうが制定せいていされた。

2000年ねん～2010年代ねんだい

2003年ねん、映像えいぞう部門ぶもん（Dramatic Presentation）が長編ちょうへん（Long Form）と短編たんぺん（Short Form）に分割ぶんかつされた。2007年ねんには編集へんしゅう者しゃ部門ぶもんが2つに分割ぶんかつされた。2009年ねんにグラフィックストーリー部門ぶもんが、2012年ねんにはファンキャスト部門ぶもんが、2017年ねんにはシリーズ部門ぶもんが追加ついかされた。2018年ねんにはヤングアダルト作品さくひんを対象たいしょうとする新あらたな賞しょう（ロードスター賞しょう）が始はじまった。

2015年ねん、長編ちょうへん部門ぶもんの劉りゅう慈欣『三さん体たい』（原語げんご：中国ちゅうごく語ご）と中編ちゅうへん部門ぶもんのトマス・オルディ・フーヴェルト "The Day The World Turned Upside Down"（邦訳ほうやく「天地てんちがひっくり返かえった日ひ」、原語げんご：オランダ語ご）が、英語えいご以外いがいの言語げんごから英訳えいやくされた小説しょうせつとしては初はじめての受賞じゅしょうを果はたした。

2013年ねんから2016年ねんは一部いちぶのグループが組織そしき的てき投票とうひょうを公然こうぜんと呼よびかけ、議論ぎろんとなった。2015年ねんの予備よび投票とうひょうでは、サッド・パピーズ（Sad Puppies）とラビッド・パピーズ（Rabid Puppies）という2つのグループ（白人はくじん男性だんせいの保守ほしゅ派はを中心ちゅうしんとし、受賞じゅしょう者しゃに女性じょせいとマイノリティが続つづいたことに抗議こうぎし、大だい出版しゅっぱん社しゃによる陰謀いんぼう論ろんを唱となえる）がそれぞれ、ウェブ上じょうで公開こうかいした「推薦すいせんリスト」（一部いちぶ重複じゅうふくしている）に沿そった組織そしき的てき投票とうひょうを呼よびかけた。その結果けっか、全ぜん候補こうほ85件けん中ちゅう61件けんが両りょうリストの作品さくひんで占しめられ、また、望のぞまずしてリストに掲載けいさいされた複数ふくすうの最終さいしゅう候補者こうほしゃがノミネートを辞退じたいするという事態じたいになった。本ほん投票とうひょうでは「受賞じゅしょうなし」への投票とうひょう数すうがほぼ全ぜん部門ぶもんでリストに掲載けいさいされた候補こうほを上回うわまわり、リスト掲載けいさい作品さくひん/人物じんぶつが最終さいしゅう候補こうほを独占どくせんした5部門ぶもんはすべて「受賞じゅしょうなし」となった。2016年ねんも同様どうようの事態じたいが繰くり返かえされた。

こうした問題もんだいを受うけて、SFファンは予備よび投票とうひょうシステムの改革かいかくについて議論ぎろんした。そして、暗号あんごう学者がくしゃブルース・シュナイアーらが中心ちゅうしんとなった、組織そしき票ひょうの効力こうりょくを減げんずる改革かいかく案あんが2017年ねんから採用さいようされた。

2017年ねんの予備よび投票とうひょうでは、サッド・パピーズは組織そしき票ひょうを予告よこくしながら結局けっきょくは活動かつどうしなかった。Rabid Puppiesは（前年ぜんねんまでのような各かく部門ぶもんの投票とうひょう先さき5点てんをすべて指定していするリストではなく）各かく部門ぶもんにつき1〜2点てんの「推薦すいせんリスト」を提示ていじしたが、最終さいしゅう候補こうほは11部門ぶもんに1点てんずつにとどまり（なおこの年としから最終さいしゅう候補こうほは1枠わく増加ぞうかしている）、長編ちょうへん部門ぶもんなどでは1点てんも最終さいしゅう候補こうほに入はいらなかった。大手おおてWebファンジンFile 770のマイク・グライアーの分析ぶんせきによれば、2017年ねんにこの「推薦すいせんリスト」に従したがった予備よび投票とうひょうは80〜90票ひょう程度ていどとみられる。なお、2017年ねんの予備よび投票とうひょう総数そうすうは2464票ひょう、本ほん投票とうひょう総数そうすうは3319票ひょうであった。

2015年ねんと2016年ねんには組織そしき票ひょう問題もんだいを受うけて、作家さっかジョージ・R・R・マーティンがアルフィー賞しょう（The Alfie Awards）という賞しょうを個人こじん的てきに設もうけ、ヒューゴー賞しょう授賞じゅしょう式しき当日とうじつの晩ばんのアフターパーティ（Hugo Losers Party）席上せきじょうで、組織そしき票ひょうがなければ最終さいしゅう候補こうほに残のこっていたはずの人ひと（ジョー・ウォルトンなど）や、組織そしき票ひょうリストに載のせられたことを理由りゆうに最終さいしゅう候補こうほを辞退じたいした人ひと（マルコ・クロウスなど）に、独自どくじのトロフィーを贈おくった。「アルフィー」の名なは第だい1回かいヒューゴー賞しょう長編ちょうへん部門ぶもんの受賞じゅしょう者しゃアルフレッド・ベスターから取とられている。なお、マーティンは1976年ねんに最初さいしょのHugo Losers Partyを開ひらいた人物じんぶつでもある。この賞しょうは2018年ねん、2024年ねんにも贈おくられた。

2020年代ねんだい以降いこう

2024年ねん1月がつ、中国ちゅうごく・成都せいとでワールドコンが開催かいさいされた2023年ねんのヒューゴー賞しょうにおいて、本来ほんらい最終さいしゅう候補こうほになるべき複数ふくすうの作品さくひんを正当せいとうな理由りゆうなく除外じょがいするなど、ヒューゴー賞しょう管理かんり小しょう委員いいん会かい主導しゅどうで中国ちゅうごく政府せいふに「配慮はいりょ」する形かたちでの不正ふせい行為こういがあった、とする内部ないぶ告発こくはつがなされた。2024年ねん9月がつ、正当せいとうな理由りゆうなく候補こうほから除外じょがいされた人々ひとびとに対たいしてWSFSからの公式こうしき謝罪しゃざいがなされた。

関連かんれん項目こうもく

• サッド・パピーズ

参考さんこう文献ぶんけん

• 『SFマガジン』2007年ねん7月がつ号ごう

外部がいぶリンク

• ヒューゴー賞しょう公式こうしきサイト（英語えいご）