SFファンダム

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SFファンダムは、サイエンス・フィクションファンタジーとく熱心ねっしん人々ひとびとあつまる同人どうじんのコミュニティあるいはファンダム。SFファンダムはおおくの場合ばあい公式こうしき組織そしきかたちをとらないが、有名ゆうめい団体だんたいとしてフューチャリアンズ英語えいごばん (1937 - 1945)、ロサンゼルス・サイエンス・ファンタジー協会きょうかい英語えいごばん (1934 - )、全国ぜんこくファンタジーファン同盟どうめい英語えいごばん (1941 - ) などがある。

コミュニティないではたんに「ファンダム」とばれ、独自どくじサブカルチャーることもでき[1]独自どくじ慣習かんしゅう隠語いんごもある。ファン同士どうし結婚けっこんしたり友人ゆうじんになったりということもめずらしくなく、複数ふくすう世代せだいにまたがってファンだという家族かぞくもいる。

起源きげん歴史れきし[編集へんしゅう]

SFファンダムの起源きげんの1つとして、ヒューゴー・ガーンズバックのフィクション雑誌ざっしでの読者どくしゃからのお便たよらんがある。ファン掲載けいさいされた小説しょうせつについてコメントしただけでなく、かれらは手紙てがみ住所じゅうしょいていたので、ガーンズバックはそれも雑誌ざっしにそのまませた。あいだもなくファン同士どうし直接ちょくせつ手紙てがみをやりりするようになり、ちかくにんでいる場合ばあい旅行りょこうちかくまでくときには直接ちょくせつったりするようになった。ガーンズバックの雑誌ざっし編集へんしゅうちょうつとめていたデイヴィッド・ラッサー英語えいごばんは、ニューヨークでちいさなSF同好どうこうかい Scienceers の創設そうせつたすけ、どうかいは1929ねん12月11にちにハーレムのアパートの一室いっしつ最初さいしょ会合かいごうひらいた。ほとんどの参加さんかしゃ思春期ししゅんき少年しょうねんだった。このころ、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく各地かくち大都市だいとしちいさなSFファンのグループがいくつか結成けっせいされようとしており、そのおおくは Science Correspondence Club(SCC、科学かがく文通ぶんつうクラブ)[2]同好どうこうつけていった。1930ねん5がつ、SCCシカゴ支部しぶ世界せかいはつのSF同人どうじん The Cometつくられた。編集へんしゅうしゃのちアメージング・ストーリーズ編集へんしゅうちょうとなるレイモンド・A・パーマーとウォルター・デニスである[3]。1932ねん1がつ、ニューヨークの Scienceers でジュリアス・シュワルツ英語えいごばんモート・ワイジンガー英語えいごばんともDCコミックス編集へんしゅうしゃ)らがSF同人どうじん The Time Traveller創刊そうかんごう完成かんせいさせた。これには西海岸にしかいがんでSF同好どうこうかい結成けっせいしていたフォレスト・J・アッカーマン参加さんかしている。

1934ねん、ガーンズバックはファンのための文通ぶんつうクラブ Science Fiction League (SFL) を創設そうせつ。これが世界せかいはつのファン組織そしきべるもので、申込もうしこみしょ記入きにゅうするだけで各地かくちのSF同好どうこうかい参加さんかできた。LASFS(ロサンゼルス・サイエンス・ファンタジー協会きょうかい英語えいごばん)もSFLの支部しぶとしてそのころ結成けっせいされ、ニューヨークにはいくつかの支部しぶ乱立らんりつする事態じたいとなってたがいに反目はんもくしあう状況じょうきょう発生はっせいした。

もなくファン同士どうし直接ちょくせつはなうようになり、同人どうじん(ファンジン)が各地かくち制作せいさくされるようになった。サイエンス・フィクションをろんじたものもそうでないものもあるが、そういったアマチュア出版しゅっぱんぶつ売買ばいばいされるより交換こうかんされることがおおかった。商用しょうよう雑誌ざっしけをらないものもあれば、まったくのアマチュアの創作そうさくぶつもある。ファンダムにおける表現ひょうげん方法ほうほう最近さいきんでは印刷物いんさつぶつすくなくなり、ネットニュースの rec.arts.sf.fandom などのニュースグループや、ウェブサイトやブログ主流しゅりゅうとなっている。しかし、有名ゆうめいなファンジンのおおくは出版しゅっぱん継続けいぞくしている。SFファンはいちはやパーソナルコンピュータ電子でんしメールインターネットなどを利用りようはじめた。

SF作家さっかにも元々もともとSFファンだったというひとおおく、プロとなってからもファンジンを出版しゅっぱんしたり、のファンジンに寄稿きこうしたりする作家さっかもいる。

1930年代ねんだいのSFファンダムとしては、サム・モスコウィッツ英語えいごばんThe Immortal Storm: A History of Science Fiction Fandom(Hyperion Press 1988 ISBN 0-88355-131-4原版げんばんは The Atlanta Science Fiction Organization Press, Atlanta, Georgia 1954)がひろ評価ひょうかされている(ただし、間違まちがいがまったくないわけではない)。モスコウィッツ自身じしんかれている事件じけんなどに当事とうじしゃとしてかかわっており、主観しゅかんじっているてん批判ひはんされることもある。

日本にっぽんのファンダム[編集へんしゅう]

日本にっぽんでは1957ねん柴野しばの拓美たくみ主宰しゅさいする「科学かがく創作そうさくクラブ」が日本にっぽんはつのSF同人どうじん宇宙塵うちゅうじん」を創刊そうかん矢野やのとおる当初とうしょから参加さんかしていた。1958ねんにはSFファンダムの有名人ゆうめいじんとなる野田のだ昌宏まさひろ参加さんか。この同好どうこうかいからはおおくのプロのSF作家さっか輩出はいしゅつしている。日本にっぽんSFの黄金おうごん時代じだいささえたSF専門せんもん雑誌ざっしS-Fマガジンは1959ねん創刊そうかんであり、このころの日本にっぽんのSFファンダムはアメリカでの黎明れいめいとはことなり、大人おとながほとんどだった。

1962ねんだい1かい日本にっぽんSF大会たいかい宇宙塵うちゅうじん創刊そうかん5周年しゅうねんおよび「SFマガジン同好どうこうかい発足ほっそく記念きねんとして開催かいさいされた。1965ねん日本にっぽんSFファングループ連合れんごう会議かいぎ結成けっせいされ、野田のだ昌宏まさひろ初代しょだい議長ぎちょう就任しゅうにんした。SFマガジン同好どうこうかいいちにちかい)のメンバーには横田よこたじゅんわたるかがみあきら川又かわまた千秋ちあき森下もりした一仁かずひとかめ和田わだたけし今岡いまおかきよし野口のぐち幸夫ゆきお黒丸くろまるしょうらがいた。

1960年代ねんだい後半こうはん昭和しょうわ40年代ねんだい)になるとわかいSFファンがえ、「青少年せいしょうねんファンダム」とばれるあらたな勢力せいりょくとなる。このころから活動かつどうしている有名ゆうめいなSFファンとしては、安田やすだひとし難波なんば弘之ひろゆきたつみ孝之たかゆき永瀬ながせゆい新戸しんとまさあきら志賀しが隆生たかお永田ながた弘太郎こうたろう高橋たかはし良平りょうへいなどがいる。

1970年代ねんだい後半こうはん昭和しょうわ50年代ねんだい)には、『宇宙うちゅう戦艦せんかんヤマト』(1974)、『スター・ウォーズ』(1978)、『機動きどう戦士せんしガンダム』(1979) などの影響えいきょうあらたなSFファンが急増きゅうぞうした。この世代せだい有名ゆうめいなSFファンとしては、小川おがわたかし水鏡みずかがみ大野おおのまん菊池きくちまこと大森おおもりのぞむ山岸やまぎししんまき眞司しんじ岡田おかだおっと武田たけだ康廣やすひろ中村なかむらとおる山形やまがたひろしせい柳下やぎした毅一郎きいちろう小谷おたに真理まりなどがいる。

関西かんさい海外かいがいSF研究けんきゅうかい (KSFA) が1977ねんに「海外かいがいSFセミナー」を開催かいさいし、1980ねんには東京理科大学とうきょうりかだいがくSF研究けんきゅうかいまき眞司しんじらがSFセミナー開催かいさい、その毎年まいとしおこなわれるようになった。京都大学きょうとだいがくSF研究けんきゅうかいは1982ねん大森おおもりのぞむらによりだい1かい京都きょうとSFフェスティバル開催かいさい、こちらも毎年まいとしおこなわれている。また、SF作家さっか石原いしはら藤夫ふじおハードSF研究所けんきゅうじょ設立せつりつしたのも1982ねんである。1980年代ねんだい前半ぜんはんには、渋谷しぶや喫茶店きっさてん「ウエスト」でおこなわれていた、SFファンの会合かいごう金曜きんようかい」があった。

SF大会たいかい[編集へんしゅう]

1930年代ねんだい後半こうはんから、SFファンやプロの作家さっかあつまって議論ぎろんするとしてSF大会たいかい開催かいさいされるようになった。だい1かい世界せかいSF大会たいかい通称つうしょうワールドコン1939ねんのニューヨーク万博ばんぱくわせて開催かいさいされ、だい世界せかい大戦たいせんこう毎年まいとし開催かいさいされるようになった。ワールドコンはSFファンダム最大さいだいのイベントであり、ヒューゴーしょう授賞じゅしょうしき開催かいさいされる。参加さんかしゃおおむね8,000にん以上いじょうである。

SF作家さっかコリイ・ドクトロウはSFファンダムを「おそらくすべての文学ぶんがくジャンルのなかもっと社会しゃかいてき」だとし、「サイエンス・フィクションは組織そしきされたファンダム、地球ちきゅうのどこかで毎週まいしゅうのようにSF大会たいかい開催かいさいしているボランティアによってうごかされている」とべている[4]

SF大会たいかいは、ひゃくにん程度ていどしょう人数にんずうおこなうものから、様々さまざまなイベントをんで大々的だいだいてきおこなうものまで様々さまざまで、後者こうしゃれいとしてはワールドコン以外いがいWisCon がある。

営利えいり目的もくてきでSF関連かんれんのショーを「SF大会たいかい」としょうして開催かいさいすることもある。一般いっぱん小説しょうせつ無視むしされ、映画えいが、テレビドラマ、コミック、ゲームなどの受動じゅどうてき視聴しちょうしゃなどを観客かんきゃくとして想定そうていし、開催かいさいされる。たとえば、2000ねんからアトランタ毎年まいとし開催かいさいされている Dragon*Con は2まんにん以上いじょう参加さんかしゃあつまる。

SFファンの団体だんたい組織そしき[編集へんしゅう]

アメリカでは、おおくのSFファン団体だんたいが Science Fiction League (SFL) の支部しぶとして発足ほっそくした。SFLが歴史れきしなかえていったときも、支部しぶのいくつかは存続そんぞくし、独立どくりつした団体だんたいとして運営うんえいされていった。SFLの支部しぶから発展はってんした団体だんたいとしてもっと有名ゆうめいなのがフィラデルフィアSF協会きょうかい英語えいごばんで、のち各地かくちでSFファン団体だんたい組織そしきするさい手本てほんとなった。

SFファン団体だんたいはSF大会たいかい開催かいさいすることを目的もくてきとすることがおおいが、地域ちいき文化ぶんか機関きかんとしての存在そんざい保持ほじすることもある。なかには施設しせつ購入こうにゅうし、そこに研究けんきゅうようにSF書籍しょせきあつめている団体だんたいもあり、ロサンゼルス・サイエンス・ファンタジー協会きょうかい英語えいごばんニューイングランドSF協会きょうかい英語えいごばんボルチモアSF協会きょうかい英語えいごばんなどがげられる。おおくのSFファン団体だんたいはそれほど公式こうしきなものではなく、会合かいごう街中まちじゅう会員かいいん自宅じたく開催かいさいしている。

分化ぶんか[編集へんしゅう]

コミュニティとして目新めあたらしいものをさがしては議論ぎろんする熱心ねっしんさがあるため、SFファンダムは様々さまざま特別とくべつ興味きょうみつグループをそだてることになった。その一部いちぶはSF小説しょうせつとは無関係むかんけい独立どくりつしたコミュニティを確立かくりつしていった。たとえば、コミックのファンダム、映画えいがやテレビのファンダム、テレビゲームのファンダム、ファーリー・ファンダム[5]Society for Creative Anachronism などがあり、SFファンダムが中心ちゅうしんだという意味いみをこめて総称そうしょうして「フリンジ・ファンダム (fringe fandoms)」などとばれることもある。ファンダムはまた、あらたなかんがかたやライフスタイルにかかわるほかのグループとも関心かんしん共有きょうゆうし、歓迎かんげいしている。たとえば、LGBTコミュニティ、リバタリアニズムネオペイガニズムL5協会きょうかいのような宇宙うちゅう開発かいはつ活動かつどうグループなどである。SFファンダムない完全かんぜんふくまれるグループもあるが、filkersコスチューム、(SMOFなどともばれる)SF大会たいかい請負うけおなど独自どくじのサブカルチャーをつグループもある。

SFファンダムには特定とくてい作家さっかやサブジャンルのファンからなるサブセットがふくまれ、トールキンのファンダム、スタートレックのファンダム(トレッキー)などがある。なかにはもっとみじかいドラマシリーズのファンもおり、たとえばジョス・ウィードンの『ファイヤーフライ 宇宙うちゅう大戦たいせんそう』と『セレニティー』のファンは Browncoatsばれている。

SFファンダムの人々ひとびとは、ロールプレイングゲーム漫画まんがアニメなど関心事かんしんじていることがおおく、それらもふくめて広義こうぎのSFファンダムとすることもある。

SFファンダムは世界中せかいじゅうにある。英語えいごけん以外いがいのファンダムは、その地域ちいき文学ぶんがくやメディアにもとづいており、SF大会たいかい要素ようそ英語えいごけんのファンダムとているが、地域ちいき独特どくとく特徴とくちょうもある。たとえば、フィンランドのSF大会たいかい Finncon政府せいふ資金しきん援助えんじょしているし、日本にっぽんではアニメや漫画まんが影響えいきょうつよい。

フィクションにおけるSFファンダム描写びょうしゃ[編集へんしゅう]

SFファンがプロの作家さっかになると、ファンダムない友人ゆうじん名前なまえ物語ものがたりすべませることがある。ウィルスン・タッカー友人ゆうじん作品さくひん多数たすう使つかったことでられ、そのような行為こういをタッカリゼーション(tuckerization)とぶようになった。

ロバート・ブロックの1956ねん短編たんぺん人間にんげんみち[6]では、SFファンダムだけがかく戦争せんそうのホロコーストをのこり、文明ぶんめい復興ふっこう基礎きそとなる。K・M・オドネル(バリイ・N・マルツバーグのペンネーム)の Gather in the Hall of the Planets (1971) は、ニューヨークのSF大会たいかい舞台ぶたいとし、おおくのSFファンや作家さっかのパロディをひろげている。ラリー・ニーヴンジェリー・パーネルとマイクル・フリンの『天使てんし墜落ついらく』はSFファンダムへの賛辞さんじとなっている。氷河期ひょうがきおとず科学かがくやSFが軽視けいしされている時代じだいなか非合法ひごうほうワールドコンミネアポリス開催かいさいされる。ロサンゼルス近辺きんぺん実在じつざいのファンが多数たすう登場とうじょうしている。シャーリン・マクラムの『暗黒あんこく太陽たいよう浮気うわきむすめ』(1987) は、SF大会たいかい殺人さつじん事件じけん発生はっせいするという設定せっていであり、ファンの気質きしつ誇張こちょうされユーモアたっぷりにえがかれている。

A・E・ヴァン・ヴォークト長編ちょうへん『スラン』(1940) は普通ふつう人類じんるいから迫害はくがいされる超人ちょうじんてき能力のうりょくミュータントはなしである。ファンダムとは無関係むかんけい物語ものがたりだが、おおくのSFファンは主人公しゅじんこう感情かんじょう移入いにゅうし、ミュータントたちとSFファンを同一どういつした。そのため、「ファンはスランだ!」というスローガンがまれ、SFファンの建物たてものを "slan shack"(スラン小屋こや)とぶようになった。

SFファンダム史上しじょう重要じゅうよう人物じんぶつ[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ Bacon-Smith, Camille (2000). Science Fiction Culture. University of Pennsylvania Press. ISBN 0812215303 
  2. ^ SCC Fancyclopedia
  3. ^ Moskowitz, Sam; Sanders, Joe (1994). "The Origins of Science Fiction Fandom: A Reconstruction". Science Fiction Fandom. Westport, CT: Greenwood Press. pp. 17–36. {{cite conference}}: |access-date=指定していする場合ばあい|url=指定していしてください。 (説明せつめい)
  4. ^ “Giving It Away”. Forbes. (2006ねん12月1にち). http://www.forbes.com/2006/11/30/cory-doctorow-copyright-tech-media_cz_cd_books06_1201doctorow.html 
  5. ^ Patten, Fred (2006). Furry! The World's Best Anthropomorphic Fiction. ibooks 
  6. ^ fantasticfiction.co.uk

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • Jenkins, Henry (1992). Textual Poachers: Television Fans & Participatory Culture. Studies in culture and communication. New York: Routledge. pp. 343. ISBN 0415905710 
  • Kozinets, Robert V. (2007), "Inno-tribes: Star Trek as Wikimedia" in Cova, Bernard, Robert V. Kozinets, and Avi Shankar Consumer Tribes, Oxford and Burlington, MA: Butterworth-Heinemann, 194-211.
  • Kozinets, Robert V. (2001), "Utopian Enterprise: Articulating the Meanings of Star Trek's Culture of Consumption," Journal of Consumer Research, 28 (June), 67-88.
  • In Memory Yet Green by Isaac Asimov (1979)
  • The Futurians by Damon Knight (1977)
  • The Way the Future Was by Frederik Pohl (1978)
  • All Our Yesterdays by Harry Warner, Jr. (1969)
  • The Immortal Storm: A History of Science Fiction Fandom by Sam Moskowitz. Hyperion Press 1988 ISBN 0-88355-131-4 (original edition The Atlanta Science Fiction Organization Press, Atlanta, Georgia 1954)

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]