畳語じょうご

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畳語じょうご(じょうご)とは、単語たんごまたはその一部いちぶをなす形態素けいたいそなどの単位たんい反復はんぷくしてつくられた単語たんごをいい、合成ごうせい一種いっしゅである。畳語じょうご形成けいせいすることを重畳ちょうじょう(ちょうじょう)または重複じゅうふく(ちょうふく)ともいう。

つぎのような俗語ぞくごてき表現ひょうげんとしてもちいられる畳語じょうご世界せかい言語げんごられる。

  • 幼児ようじ(「おめめ」)や、それにるいする愛称あいしょう(「タンタン」)など
  • オノマトペ(「ガタガタ」)
  • 強調きょうちょう(「とってもとっても」)(「ながなが」)(「ゆるゆる」)
  • びかけ(「おいおい」「こっちこっち」)

言語げんごによっては、畳語じょうごがこれ以外いがいにも様々さまざま文法ぶんぽうてき機能きのうつことがある。

形式けいしき[編集へんしゅう]

ある単位たんい全体ぜんたい反復はんぷくする「完全かんぜん畳語じょうご」、一部いちぶ反復はんぷくする「部分ぶぶん畳語じょうご」、またふくまれる子音しいん母音ぼいん変化へんかをつけて反復はんぷくする「おと交替こうたいてき畳語じょうご」にけられる。

かく言語げんご[編集へんしゅう]

日本語にほんご[編集へんしゅう]

日本語にほんごではうえげたほかに、つぎのような機能きのうをもった畳語じょうごがある。

  • 名詞めいし複数ふくすうあらわす:「山々やまやま」「人々ひとびと(ひとびと)」「国々くにぐに(くにぐに)」「むら々」「ほし々(ほしぼし)」「我々われわれ」「かみ々(かみがみ)」「日々ひび(ひび)」「一人ひとり々々(ひとりびとり)」「交代こうたい々々(こうたいごうたい)」
  • 副詞ふくしてき表現ひょうげん:「時々ときどき(ときどき)」「更々さらさら(さらさら)」「高々たかだか(たかだか)」「寒々さむざむ(さむざむ)」「かえがえす(かえすがえす)」「る(みるみる)」「ますます」「び(とびとび)」「べ」

名詞めいし複数ふくすうあらわ畳語じょうご少数しょうすうかたりかぎられ、「山々やまやま」はあっても、「*おか々」のようないいかたはできない。

ほんほん(がベストセラーになる)」「くところくところ(だい歓迎かんげいける)」のように名詞めいし畳語じょうごとなることもめずらしくない。

地域ちいき地域ちいき時代じだい時代じだい風習ふうしゅうことなる」「一人ひとりいちにん自覚じかくつ」などのように、たんなる複数ふくすうではなく、個別こべつせいあらわすこともある。

副詞ふくしてき表現ひょうげんには、名詞めいし(「時々ときどき」)、副詞ふくし(「さらに」をかさねた「更々さらさら」)、形容詞けいようし語幹ごかんまたは語根ごこん(「寒々さむざむ」「しろ々(しらじら)」)、漢字かんじおと(「揚々ようよう」)、また動詞どうし由来ゆらいするものなどがある。動詞どうしについては終止しゅうしがたによるもの(「かえがえす」など、あまりおおくはなく慣用かんようまと)と連用形れんようけいによるもの(「べ」は「ながら」という接続せつぞく助詞じょしわりという文法ぶんぽう機能きのうつ)がある。

名詞めいし畳語じょうごに「する」をくわえた動詞どうし(「子供こども子供こどもしたひと」「官僚かんりょう官僚かんりょうしていない」)は、そのものがあらわ典型てんけいてき性質せいしつをもつ、といった意味いみとなる。形容詞けいようし部分ぶぶん畳語じょうごでは「すがすがしい」「あらあらしい」など畳語じょうごに「しい」をくわえたものがある。

動詞どうし連用形れんようけいによるもの以外いがいは、「ひとびと」のように連濁れんだくきることがある。

なお、動詞どうしには「つづく」「とどく」「ひびく」のように部分ぶぶん畳語じょうごおもわれるものがおおく、ふるくこのような造語ぞうごほうがあったかもしれない(「たたく」など一部いちぶオノマトペアかもしれない)。

かえされる形態素けいたいそ漢字かんじ1文字もじ場合ばあい、2文字もじは「」で略記りゃっきされる。かつては、その場合ばあいにもさまざまなおど使つかわれたが、現在げんざいはほとんど使つかわれない。

中国ちゅうごく[編集へんしゅう]

中国ちゅうごく擬音ぎおん擬態語ぎたいごには畳語じょうごおおい。このなかには完全かんぜん畳語じょうごおと交替こうたいてき畳語じょうご双方そうほうがある。おと交替こうたいてき畳語じょうごにはこえはは音節おんせつあたま子音しいん)をおなじくする「そうこえ」といんははしゅ母音ぼいん音節おんせつまつ子音しいん)をおなじくする「畳韻じょういん」の2しゅがある。

  • 完全かんぜん畳語じょうご:「呱呱ここ guāguā」(カラスやかえるのごえ)「嘩嘩 huāhuā」(あめのざあざあおと
  • そうこえ:「叮当 dīngdāng」(金属きんぞく磁器じきのぶつかるおと)「忐忑 tǎntè」(でない様子ようす
  • 畳韻じょういん:「咕噜 gūlū」(空腹くうふくでおなかがおと)「とどろきたかし hōnglōng」(かみなり爆発ばくはつおと

現在げんざい口語こうごでは使つかわれない古典こてん漢文かんぶん語彙ごいなかにも擬音ぎおん擬態語ぎたいご由来ゆらいするとかんがえられる畳語じょうごがあるが、現在げんざい使つかわれる場合ばあいには擬音ぎおん擬態ぎたいてき語感ごかんうすれている。

  • 霹靂へきれき pīlì」(霹靂へきれき
  • 矍鑠かくしゃく juéshuò」(矍鑠かくしゃく カクシャク。ちゅう古音こおんではどちらも入声にっしょうであり、畳韻じょういんであった)

このほか、形容詞けいようし畳語じょうごすることによって意味いみ描写びょうしゃせいたかめる強調きょうちょう用法ようほうがある。(しばしば副詞ふくし転用てんようされる)

  • このみ」(よい) →「こうこう儿(てき」(よい、元気げんきだ、ぴんぴんしている、しっかりと)
  • 熱鬧ねっとう」(にぎやかだ)→「熱熱あつあつ鬧鬧」(わいわいにぎやかな)

また、一部いちぶの1音節おんせつ名詞めいし重畳ちょうじょうすると「すべての」という意味いみになることがある。

  • 人人ひとびと」(すべてのひと、みんな。≠人々ひとびと
  • 家家いえいえ」(すべてのいえ。≠家々いえいえ

なお、動詞どうしを2かいかさねて「ちょっと~する」という意味いみあらわ用法ようほう(「(ちょっとる)」「こう虑考虑検討けんとうしてみる)」など)は、厳密げんみつには畳語じょうごではなく、動作どうさりょうあらわ補語ほごりょう動詞どうしそのものを転用てんようした形式けいしき省略形しょうりゃくけいである。(「いちいちかいる)」→「」)

インドネシア[編集へんしゅう]

マライ・ポリネシア語族ごぞくでは文法ぶんぽうてき機能きのうった重畳ちょうじょうおおもちいられるが、もっともよくられるのはインドネシア複数ふくすうあらわすものである。たとえば「Orang」(ひと)が「Orang-orang」(人々ひとびと)になる。この方法ほうほう日本語にほんごとはちがっておおくの名詞めいし適用てきようでき、たとえば、外来がいらいである「Sekolah」(学校がっこう)も「Sekolah-sekolah」という複数ふくすうがたにできる。

インド・ヨーロッパ語族ごぞく[編集へんしゅう]

インド・ヨーロッパ語族ごぞくではあまり畳語じょうご使つかわず、現在げんざいのヨーロッパ言語げんごではほぼ俗語ぞくごてき表現ひょうげんかぎられる。英語えいごなどのオノマトペアには母音ぼいんえた「アプラウトてき畳語じょうご」(Zigzag、Flip-flop、Cling-clangなど)がおおい。

上記じょうきとはべつに、古代こだいラテン語らてんご古代こだいギリシアゴートなどでは、動詞どうし完了かんりょうしょう表現ひょうげんするために動詞どうし語根ごこん最初さいしょ子音しいん母音ぼいんeをくわえた音節おんせつ語頭ごとうえることがある。これをとく古典こてん文法ぶんぽう用語ようごではたたみおん(じょうおん)とぶ。ギリシア動詞どうし完了かんりょうしょうではたたみおん規則きそくてき出現しゅつげんする。たたみおんはまた、ごく一部いちぶ動詞どうし現在げんざいがたあらわれることがある。

ラテン語らてんご
現在げんざいかたち tango「わたしれる」、完了かんりょうがた tetigi「わたしれた」
ギリシア
現在げんざいかたち κλείω (kleiō)「わたしめる」、完了かんりょうがた κέκλεικα (kekleika)「わたしめた」:

エスペラント[編集へんしゅう]

造語ぞうごほう発達はったつしている国際こくさい補助ほじょひとつであるエスペラント構文こうぶん語彙ごいめんにおいてヨーロッパの言語げんご密接みっせつ関係かんけいがあるものの、畳語じょうご忌避きひされる傾向けいこうはない。

  • 副詞ふくし fojfoje「時々ときどき」(foje いつか、一度いちど、かつて)
  • 副詞ふくし finfine「とうとう、やっと」(fine わりに、最後さいごに、ついに)

トルコ[編集へんしゅう]

トルコ畳語じょうご日本語にほんごのそれと同様どうように、副詞ふくしてきはたらきと、名詞めいし複数ふくすうあらわはたらきがある。しかし、名詞めいし複数ふくすうあらわ場合ばあいまったおながた重複じゅうふくさせるれいすくなく、番目ばんめ動詞どうし語頭ごとうをmに変換へんかんまたは追加ついかすることであらわれいおおい。

  • 副詞ふくしてき時間じかんせいあらわす:sık sık (ちょくちょく)、ayrı ayrı (別々べつべつに)、ara ara(時折ときおり
  • 副詞ふくしてき擬態ぎたいあらわす:pırıl pırıl(きらきら)、 fısıl fısıl(ひそひそ)
  • 名詞めいし複数ふくすうあらわす:çesit çesit(種々しゅじゅの)、 <口語こうご>kim kim(人々ひとびとの)

 ※動詞どうしをやや変形へんけいさせて複数ふくすうあらわす:ekmek mekmek(パンやらなんやら)、gazete mazate(新聞しんぶんやら雑誌ざっしやら)

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]