砂川すなかわ事件じけん

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砂川すなかわ闘争とうそう > 砂川すなかわ事件じけん
最高裁判所さいこうさいばんしょ判例はんれい
事件じけんめい 日本にっぽんこくアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくとのあいだ安全あんぜん保障ほしょう条約じょうやくだいさんじょうもとづく行政ぎょうせい協定きょうていともな刑事けいじ特別とくべつほう違反いはん被告ひこく事件じけん
事件じけん番号ばんごう 昭和しょうわ34ねん(あ)だい710ごう
1959ねん(昭和しょうわ34ねん)12月16にち
判例はんれいしゅう けいしゅう13かん13ごう3225ぺーじ
裁判さいばん要旨ようし
  1. 刑訴けいそ規則きそくだいよんじょう跳躍ちょうやく上告じょうこく事件じけんにおいて、審判しんぱん迅速じんそく終結しゅうけつせしめる必要ひつようじょう被告人ひこくにん選任せんにんすべき弁護人べんごにんかず制限せいげんしたところ、その公判こうはん期日きじつおよび答弁とうべんしょ提出ていしゅつ期日きじつがきまり、かつ弁護人べんごにん公判こうはん期日きじつ弁論べんろんをする弁護人べんごにんかず自主じしゅてきに〇にん以内いない制限せいげんするむね申出もうしでたため、審理しんり迅速じんそく終結しゅうけつせしめる見込みこみがついたときは、刑訴けいそだいさんじょう但書ただしがき特別とくべつ事情じじょうはなくなつたものとみとめることができる。
  2. 憲法けんぽうだいきゅうじょうは、わがくに敗戦はいせん結果けっか、ポツダム宣言せんげん受諾じゅだくしたことにともない、日本にっぽん国民こくみん過去かこにおけるわがくにあやまつておかすにいたりつた軍国ぐんこく主義しゅぎてき行動こうどう反省はんせいし、政府せいふ行為こういによつてふたた戦争せんそう惨禍さんかおこることのないようにすることを決意けついし、ふか恒久こうきゅう平和へいわ念願ねんがんして制定せいていしたものであつて、前文ぜんぶんおよびだいきゅうはちじょうだいこう国際こくさい協調きょうちょう精神せいしんあいまつて、わが憲法けんぽう特色とくしょくである平和へいわ主義しゅぎ具体ぐたいしたものである。
  3. 憲法けんぽうだいきゅうじょうだいこう戦力せんりょく保持ほじ規定きていしたのは、わがくにがいわゆる戦力せんりょく保持ほじし、みずからその主体しゅたいとなつて、これに指揮しきけん管理かんりけん行使こうしすることにより、どうじょうだいいちこうにおいて永久えいきゅう放棄ほうきすることをさだめたいわゆる侵略しんりゃく戦争せんそうおこすことのないようにするためである。
  4. 憲法けんぽうだいきゅうじょうはわがくに主権しゅけんこくとしてゆうする固有こゆう自衛じえいけんなん否定ひていしてはいない。
  5. わがくにが、自国じこく平和へいわ安全あんぜんとを維持いじしその存立そんりつまっとうするために必要ひつよう自衛じえいのための措置そちることは、国家こっか固有こゆう権能けんのう行使こうしであつて、憲法けんぽうなんらこれを禁止きんしするものではない。
  6. 憲法けんぽうは、みぎ自衛じえいのための措置そちを、国際こくさい連合れんごう機関きかんである安全あんぜん保障ほしょう理事りじかいとう軍事ぐんじ措置そちとう限定げんていしていないのであつて、わがくに平和へいわ安全あんぜん維持いじするためにふさわしい方式ほうしきまたは手段しゅだんであるかぎり、国際こくさい情勢じょうせい実情じつじょうそく適当てきとうみとめられる以上いじょう他国たこく安全あんぜん保障ほしょうもとめることをなんきんずるものではない。
  7. わがくに主体しゅたいとなつて指揮しきけん管理かんりけん行使こうしない外国がいこく軍隊ぐんたいはたとえそれがわがくに駐留ちゅうりゅうするとしても憲法けんぽうだいきゅうじょうだいこうの「戦力せんりょく」には該当がいとうしない。
  8. 安保あんぽ条約じょうやくごとき、主権しゅけんこくとしてのわがくに存立そんりつ基礎きそ重大じゅうだい関係かんけい高度こうど政治せいじせいゆうするものが、違憲いけんであるか法的ほうてき判断はんだんは、じゅん司法しほうてき機能きのう使命しめいとする司法しほう裁判所さいばんしょ審査しんさ原則げんそくとしてなじまない性質せいしつのものであり、それが一見いっけんきわめて明白めいはく違憲いけん無効むこうであるとみとめられないかぎりは、裁判所さいばんしょ司法しほう審査しんさけん範囲はんいがいにあるとするを相当そうとうとする。
  9. 安保あんぽ条約じょうやく(またはこれにもとづ政府せいふ行為こうい)が違憲いけんであるかかが、本件ほんけんのように(行政ぎょうせい協定きょうていともな刑事けいじ特別とくべつほうだいじょう違憲いけんであるか)前提ぜんてい問題もんだいとなつている場合ばあいにおいても、これにたいする司法しほう裁判所さいばんしょ審査しんさけん前項ぜんこう同様どうようである。
  10. 安保あんぽ条約じょうやく(およびこれにもとづアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく軍隊ぐんたい駐留ちゅうりゅう)は、憲法けんぽうだいきゅうじょうだいきゅうはちじょうだいこうおよび前文ぜんぶん趣旨しゅしはんして違憲いけん無効むこうであることが一見いっけんきわめて明白めいはくであるとはみとめられない。
  11. 行政ぎょうせい協定きょうていとく国会こっかい承認しょうにんていないが違憲いけん無効むこうとはみとめられない
だい法廷ほうてい
裁判さいばんちょう 田中たなかこう太郎たろう
陪席ばいせき裁判官さいばんかん 小谷おたに勝重かつしげ しまたもつ 齋藤さいとうゆう 藤田ふじた八郎はちろう 河村かわむらまたかい 入江いりえ俊郎としお 池田いけだかつ 垂水たるみ克己かつみ 河村かわむら大助だいすけ 下飯坂しもいいざかじゅんおっと 奥野おくの健一けんいち 高橋たかはしきよし 高木たかぎつねなな 石坂いしざか修一しゅういち
意見いけん
多数たすう意見いけん 田中たなかこう太郎たろう しまたもつ 齋藤さいとうゆう輔 藤田ふじた八郎はちろう 河村かわむらまたかい 入江いりえ俊郎としお 池田いけだかつ 垂水たるみ克己かつみ 河村かわむら大助だいすけ 下飯坂しもいいざかじゅんおっと 高木たかぎつねなな 石坂いしざか修一しゅういち
意見いけん 小谷おたに勝重かつしげ 奥野おくの健一けんいち 高橋たかはしきよし
反対はんたい意見いけん なし
参照さんしょう法条ほうじょう
憲法けんぽう9じょう98じょう2こう日本にっぽんこくアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくとのあいだ安全あんぜん保障ほしょう条約じょうやく日本にっぽんこくアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくとのあいだ安全あんぜん保障ほしょう条約じょうやくだいさんじょうもとづ行政ぎょうせい協定きょうていともな刑事けいじ特別とくべつほう
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砂川すなかわ事件じけん(すながわじけん)は、東京とうきょう北多摩きたたまぐん砂川いさがわまちげん立川たつかわ付近ふきんにあったざい日米にちべいぐん立川たちかわ飛行場ひこうじょう拡張かくちょうめぐ闘争とうそう砂川すなかわ闘争とうそう)における一連いちれん訴訟そしょうである。とくに、1957ねん昭和しょうわ32ねん7がつ8にち特別とくべつ調達ちょうたつちょう東京とうきょう調達ちょうたつきょく強制きょうせい測量そくりょうをしたさいに、基地きち拡張かくちょう反対はんたいするデモたい一部いちぶが、アメリカぐん基地きち禁止きんし境界きょうかいしがらみこわし、基地きちないすうメートルったとして、デモたいのうち7めい日本にっぽんこくアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくとのあいだ安全あんぜん保障ほしょう条約じょうやくだいさんじょうもとづ行政ぎょうせい協定きょうてい現在げんざい地位ちい協定きょうてい前身ぜんしん違反いはん起訴きそされた事件じけん[1]

当時とうじ住民じゅうみん一般人いっぱんじんあいだではおもに「砂川すなかわ紛争ふんそう」とばれている。全学ぜんがくれん参加さんかし、その安保あんぽ闘争とうそう全共闘ぜんきょうとう運動うんどうのさきがけとなった学生がくせい運動うんどう原点げんてんとなった事件じけんである。

砂川すなかわ事件じけん(1955ねんごろ撮影さつえい

だいいちしん判決はんけつ[編集へんしゅう]

東京とうきょう地方裁判所ちほうさいばんしょ裁判さいばんちょう判事はんじ伊達だて秋雄あきお)は、1959ねん昭和しょうわ34ねん3月30にち、「日本にっぽん政府せいふがアメリカぐん駐留ちゅうりゅう許容きょようしたのは、指揮しきけん有無うむ出動しゅつどう義務ぎむ有無うむかかわらず、日本国にっぽんこく憲法けんぽうだい9じょう2こう前段ぜんだんによって禁止きんしされる戦力せんりょく保持ほじにあたり、違憲いけんである。したがって、刑事けいじ特別とくべつほう罰則ばっそく日本国にっぽんこく憲法けんぽうだい31じょうデュー・プロセス・オブ・ロー規定きてい)に違反いはんする不合理ふごうりなものである」と判定はんていし、全員ぜんいん無罪むざい判決はんけつくだした(東京とうきょうばん昭和しょうわ34.3.30 下級かきゅう裁判所さいばんしょ刑事けいじ裁判さいばんれいしゅう1・3・776)ことで注目ちゅうもくされた(伊達だて判決はんけつ)。これにたいし、検察けんさつがわただちに最高裁判所さいこうさいばんしょ跳躍ちょうやく上告じょうこくしている[1]

最高さいこう裁判所さいばんしょ判決はんけつ[編集へんしゅう]

最高裁判所さいこうさいばんしょだい法廷ほうてい裁判さいばんちょう田中たなかこう太郎たろう長官ちょうかん)は、同年どうねん12月16にち、「憲法けんぽうだい9じょう日本にっぽん主権しゅけんくにとして固有こゆう自衛じえいけん否定ひていしておらず、どうじょう禁止きんしする戦力せんりょくとは日本にっぽんこく指揮しき管理かんりできる戦力せんりょくのことであるから、外国がいこく軍隊ぐんたい戦力せんりょくにあたらない。したがって、アメリカぐん駐留ちゅうりゅう憲法けんぽうおよ前文ぜんぶん趣旨しゅしはんしない。他方たほうで、日米にちべい安全あんぜん保障ほしょう条約じょうやくのように高度こうど政治せいじせいをもつ条約じょうやくについては、一見いっけんしてきわめて明白めいはく違憲いけん無効むこうみとめられないかぎり、その内容ないようについて違憲いけんかどうかの法的ほうてき判断はんだんくだすことはできない」(統治とうち行為こういろん採用さいよう)としてはら判決はんけつ破棄はき地裁ちさいもどした(最高裁さいこうさいだい法廷ほうてい判決はんけつ昭和しょうわ34.12.16 最高裁判所さいこうさいばんしょ刑事けいじ判例はんれいしゅう13・13・3225)[1]

差戻さしもどしん確定かくてい判決はんけつ[編集へんしゅう]

田中たなか差戻さしもど判決はんけつもとづき再度さいど審理しんりおこなった東京とうきょう地裁ちさい裁判さいばんちょうきし盛一もりいち)は1961ねん昭和しょうわ36ねん3月27にち罰金ばっきん2,000えん有罪ゆうざい判決はんけつをいいわたした。この判決はんけつにつき上告じょうこくけた最高裁さいこうさい1963ねん昭和しょうわ38ねん12月7にち上告じょうこく棄却ききゃく決定けっていし、この有罪ゆうざい判決はんけつ確定かくていした。

砂川すなかわ事件じけん判決はんけつ論点ろんてん[編集へんしゅう]

最高裁さいこうさい判決はんけつ背景はいけい[編集へんしゅう]

機密きみつ指定してい解除かいじょされたアメリカがわ公文書こうぶんしょ日本にっぽんがわ研究けんきゅうしゃやジャーナリストが分析ぶんせきしたことにより、2008ねん平成へいせい20ねん)から2013ねん平成へいせい25ねん)にかけてあらたな事実じじつ次々つぎつぎ判明はんめいしている。

まず、東京とうきょう地裁ちさいの「べいぐん駐留ちゅうりゅう憲法けんぽう違反いはん」との判決はんけつけて当時とうじちゅうにち大使たいしダグラス・マッカーサー2せいが、どう判決はんけつ破棄はきねらって外務がいむ大臣だいじん藤山ふじやま愛一郎あいいちろう最高裁さいこうさいへの跳躍ちょうやく上告じょうこくうなが外交がいこう圧力あつりょくをかけたり、最高裁さいこうさい長官ちょうかん田中たなか密談みつだんしたりするなどの介入かいにゅうおこなっていた[2]跳躍ちょうやく上告じょうこくうながしたのは、通常つうじょう控訴こうそでは訴訟そしょう長引ながびき、1960ねん昭和しょうわ35ねん)に予定よていされていた条約じょうやく改定かいてい日本にっぽんこくアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくとのあいだ安全あんぜん保障ほしょう条約じょうやくから日本にっぽんこくアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくとのあいだ相互そうご協力きょうりょくおよ安全あんぜん保障ほしょう条約じょうやくへ)に反対はんたいする社会党しゃかいとうなどの「武装ぶそう中立ちゅうりつとなえる左翼さよく勢力せいりょくえきするだけ」という理由りゆうからだった。そのため、1959ねん昭和しょうわ34ねんちゅうに(べいぐん合憲ごうけんの)判決はんけつさせるよう要求ようきゅうしたのである。これについて、どう事件じけんもと被告人ひこくにん一人ひとりが、日本にっぽんがわにおける関連かんれん情報じょうほう開示かいじ最高裁さいこうさい外務省がいむしょう内閣ないかくの3しゃたい請求せいきゅうしたが、3しゃはいずれも「記録きろくのこされていない」などとして開示かいじ決定けってい[3]不服ふふく申立もうしたてたい外務省がいむしょうは「関連かんれん文書ぶんしょ」の存在そんざいみとめ、2010ねん4がつ2にち藤山ふじやま外相がいしょうとマッカーサー大使たいしが1959ねん4がつにおこなった会談かいだんについての文書ぶんしょ公開こうかいした[4][5]

また田中たなか自身じしんが、マッカーサーちゅうにち大使たいし面会めんかいしたさいに「伊達だて判決はんけつまったくのあやまり」といちしん判決はんけつ破棄はきもどしを示唆しさしていたこと[6]上告じょうこくしん日程にっていやこの結論けつろん方針ほうしんをアメリカがわらしていたこと[7]あきらかになった。ジャーナリストのすえなみ靖司やすしアメリカ国立こくりつ公文こうぶん書記しょきろく管理かんりきょく公文書こうぶんしょ分析ぶんせきをして結論けつろんによれば、この田中たなか判決はんけつはジョン・B・ハワード国務こくむ長官ちょうかん特別とくべつ補佐ほさかんによる“日本にっぽんこく以外いがいによって維持いじされ使用しようされる軍事ぐんじ基地きち存在そんざいは、日本国にっぽんこく憲法けんぽうだい9じょう範囲はんいないであって、日本にっぽん軍隊ぐんたいまたは「戦力せんりょく」の保持ほじにはあたらない”という理論りろんによりみちびされたものだという[8]当該とうがい文書ぶんしょによれば、田中たなかちゅうにち首席しゅせき公使こうしウィリアム・レンハートにたいし、「結審けっしん評議ひょうぎは、実質じっしつてき全員ぜんいん一致いっちし、世論せろんさぶるもとになる少数しょうすう意見いけん回避かいひするやりかたはこばれることをねがっている」とはなしたとされ、最高裁さいこうさいだい法廷ほうてい早期そうき全員ぜんいん一致いっちべいぐん基地きち存在そんざいを「合憲ごうけん」とする判決はんけつることをのぞんでいたアメリカがわ意向いこう沿発言はつげんをした[9]田中たなか砂川すながわ事件じけん上告じょうこくしん判決はんけつにおいて、「かりに…それ(駐留ちゅうりゅう)が違憲いけんであるとしても、とにかく駐留ちゅうりゅうという事実じじつげん存在そんざいする以上いじょうは、その事実じじつ尊重そんちょうし、これにたい適当てきとう保護ほごこうずることは、立法りっぽう政策せいさくじょうじゅうふん是認ぜにんできる」、あるいは「既定きてい事実じじつ尊重そんちょう法的ほうてき安定あんていせいたもつのがほう建前たてまえである」との補足ほそく意見いけんべている[10]古川ふるかわじゅん専修大学せんしゅうだいがく名誉めいよ教授きょうじゅは、田中たなか上記じょうき補足ほそく意見いけんたいして、「このような現実げんじつ政治せいじ追随ついずいてき見解けんかい論外ろんがい[11]だんじており、また、憲法けんぽう学者がくしゃ早稲田大学わせだだいがく教授きょうじゅ水島みずしまちょうは、判決はんけつ既定きてい方針ほうしんだったことや日程にっていらされていたことに「司法しほうけん独立どくりつるがす[注釈ちゅうしゃく 1]もの。ここまでたいべい追従ついしょうがされていたかと唖然あぜんとする」とコメントしている[12]

集団しゅうだんてき自衛じえいけん根拠こんきょ[編集へんしゅう]

だい2安倍あべ内閣ないかくは、2014ねん7がつ1にち閣議かくぎ決定けっていにおいて憲法けんぽう解釈かいしゃく一部いちぶ変更へんこうし、集団しゅうだんてき自衛じえいけん行使こうし限定げんていてき可能かのうとする武力ぶりょく行使こうしの「しんさん要件ようけんさだめた。集団しゅうだんてき自衛じえいけん行使こうし容認ようにんについて安倍晋三あべしんぞう首相しゅしょうは、ほん判決はんけつの「わがくにが、自国じこく平和へいわ安全あんぜん維持いじしその存立そんりつまっとうするために必要ひつよう自衛じえいのための措置そちをとりうることは、国家こっか固有こゆう権能けんのう行使こうしとして当然とうぜんのことといわなければならない」を根拠こんきょの1つとした[13]

有権ゆうけん解釈かいしゃくへの影響えいきょう[編集へんしゅう]

田中たなかこう太郎たろう判決はんけつは「わがくに主権しゅけんくにとして固有こゆう自衛じえいけんなん否定ひていされたものではなく、わが憲法けんぽう平和へいわ主義しゅぎけっして防備ぼうび無抵抗むていこうさだめたものではないのである」としている[14]

この判決はんけつ直接的ちょくせつてきには外国がいこく軍隊ぐんたい日本にっぽん国内こくないへの駐留ちゅうりゅう合憲ごうけんせいについて判断はんだんしたものである。「わがくにが、自国じこく平和へいわ安全あんぜん維持いじしその存立そんりつまっとうするために必要ひつよう自衛じえいのための措置そちをとりうることは、国家こっか固有こゆう権能けんのう行使こうしとして当然とうぜん[14]とし、「外国がいこく軍隊ぐんたいは、たとえそれがわがくに駐留ちゅうりゅうするとしても、ここにいう戦力せんりょくには該当がいとうしない」[14]結論けつろんしている。

ただし、ほん判決はんけつは、駐留ちゅうりゅうまいぐんかんする事案じあんであったこともあり、日本にっぽん独自どくじ自衛じえいりょく保持ほじについて憲法けんぽうじょう許容きょようされているかかはあきらかにしていない[15]砂川すながわ事件じけん最高裁さいこうさい判決はんけつ判決はんけつぶん憲法けんぽう9じょう2こうについて「その保持ほじ禁止きんしした戦力せんりょくとは、わがくにがその主体しゅたいとなってこれに指揮しきけん管理かんりけん行使こうし戦力せんりょくをいう」[14]べている。

下級かきゅうしんでは、長沼ながぬまナイキ事件じけんだいいちしん判決はんけつ砂川すながわ事件じけん最高裁さいこうさい判決はんけつ引用いんようしつつ「自衛じえいけん保有ほゆうし、これを行使こうしすることは、ただちに軍事ぐんじりょくによる自衛じえい直結ちょっけつしなければならないものではない」とした[15]長沼ながぬまナイキ事件じけん最高裁さいこうさい判決はんけつでは原告げんこく適格てきかくについて判断はんだんしており、このてん憲法けんぽう判断はんだん回避かいひした。

一方いっぽう政府せいふ見解けんかいは、自衛じえいのための必要ひつよう最小さいしょう限度げんど実力じつりょく憲法けんぽう9じょうの「戦力せんりょく」に該当がいとうせず、自衛隊じえいたい軍隊ぐんたいたらないという構成こうせいをとる[16]。また、自衛じえい措置そちについて、1972ねん昭和しょうわ47ねん)の政府せいふ見解けんかいは「国民こくみん権利けんり根底こんていからくつがえされる急迫きゅうはく不正ふせい事態じたい」について「必要ひつよう最小さいしょう限度げんど」にかぎ発動はつどうできるとしている[17]

ただ、1972ねん昭和しょうわ47ねん)の政府せいふ見解けんかい結論けつろんとしては「集団しゅうだんてき自衛じえいけん行使こうし憲法けんぽうじょうゆるされない」とした[17]。これは集団しゅうだんてき自衛じえいけんくに攻撃こうげきされていない場合ばあいであり、自衛じえいのための必要ひつよう最小限さいしょうげんえるもので憲法けんぽうじょう禁止きんしされているという論理ろんりもとづく[18]

砂川すなかわ事件じけん最高裁さいこうさい判決はんけつは、2014ねん平成へいせい26ねん以降いこう集団しゅうだんてき自衛じえいけん容認ようにんをめぐる議論ぎろんふたたげられるようになった。

2014ねん平成へいせい26ねん)4がつ参議院さんぎいん議員ぎいん公明党こうめいとう代表だいひょう山口やまぐちおとこ砂川すながわ事件じけん最高裁さいこうさい判決はんけつについて「集団しゅうだんてき自衛じえいけん視野しやれたものとはおもっていない」との認識にんしきしめしたのにたい[19]同年どうねん5がつ衆議院しゅうぎいん議員ぎいん自民党じみんとうふく総裁そうさい高村たかむら正彦まさひこ砂川すながわ事件じけん最高裁さいこうさい判決はんけつ自衛じえいけんれた唯一ゆいいつ最高裁さいこうさい判決はんけつ集団しゅうだんてき自衛じえいけん除外じょがいしていないという認識にんしきしめした[19]

2014ねん平成へいせい26ねん)5がつ15にち、「安全あんぜん保障ほしょう法的ほうてき基盤きばんさい構築こうちくかんする懇談こんだんかい(だい7かい)」の報告ほうこくしょ[20]にて言及げんきゅうされ、同年どうねん7がつ1にちだい2安倍あべ内閣ないかくによる臨時りんじ閣議かくぎ[21]での憲法けんぽう解釈かいしゃく変更へんこうの1つの根拠こんきょとされた。

2015ねん平成へいせい27ねん)6がつ4にち衆議院しゅうぎいん憲法けんぽう審査しんさかいでは自民党じみんとう推薦すいせん憲法けんぽう学者がくしゃふくめて憲法けんぽう学者がくしゃ3にん全員ぜんいん集団しゅうだんてき自衛じえいけん行使こうしなどをんだ関連かんれん法案ほうあん憲法けんぽう違反いはん指摘してき[22]。これにたいし、2015ねん6がつ10日とおか安全あんぜん保障ほしょう関連かんれん法案ほうあん審議しんぎする衆議院しゅうぎいん特別とくべつ委員いいんかいよこはたけ裕介ゆうすけ内閣ないかく法制ほうせいきょく長官ちょうかんあらたな政府せいふ見解けんかいについて砂川すなかわ事件じけん最高裁さいこうさい判決はんけついて「これまでの政府せいふ憲法けんぽう解釈かいしゃくとの論理ろんりてき整合せいごうせいたもたれている」と説明せつめいした[19]

衆議院しゅうぎいん憲法けんぽう審査しんさかいでは、自民党じみんとうふく総裁そうさい高村たかむら正彦まさひこ砂川すながわ事件じけん最高裁さいこうさい判決はんけつ自衛じえい措置そちみとめていると指摘してきしたうえで「従来じゅうらい政府せいふ見解けんかいにおける憲法けんぽう9じょう法理ほうりわくないで、合理ごうりてきてはめの帰結きけつみちびいた」と主張しゅちょうした[22]。これにたいして、民主党みんしゅとう幹事かんじちょう枝野えだの幸男ゆきお砂川すながわ判決はんけつ日本にっぽん集団しゅうだんてき自衛じえいけん合憲ごうけんせいあらそったものではないとべた[22]。また、安全あんぜん保障ほしょう関連かんれん法案ほうあん審議しんぎする衆議院しゅうぎいん特別とくべつ委員いいんかいではつじもと清美きよみ先述せんじゅつの「安全あんぜん保障ほしょう法的ほうてき基盤きばんさい構築こうちくかんする懇談こんだんかい」で座長ざちょう代理だいりつとめた北岡きたおか伸一しんいち発言はつげんげ「北岡きたおかは『砂川すながわ判決はんけつべいぐん基地きちかんする裁判さいばんで、そこに展開てんかいされている法理ほうりかならずしも拘束こうそくりょくたない』とっている。こじつけようとするから、憲法けんぽう学者がくしゃがおかしいとっている」と指摘してきした[19]

事件じけん[編集へんしゅう]

そのべいぐん首都しゅとけんいき空軍くうぐん拠点きょてん横田よこた基地きち東京とうきょう福生ふっさほか)に一本いっぽんする方針ほうしん変更へんこうし、1977ねん11月30にち立川たちかわ基地きち日本にっぽん全面ぜんめん返還へんかんされた。跡地あとち東京とうきょう防災ぼうさい基地きち陸上りくじょう自衛隊じえいたい立川駐屯地たちかわちゅうとんち国営こくえい昭和しょうわ記念きねん公園こうえんができたほか、くに施設しせつなどが移転いてんしてきている。

2014ねん6月17にち当時とうじ被告ひこく4にんが、有罪ゆうざい判決はんけつあやまりであり破棄はきして免訴めんそとするよう再審さいしん請求せいきゅうおこなった。今次こんじ請求せいきゅうについて「だい2安倍あべ内閣ないかく集団しゅうだんてき自衛じえいけん合憲ごうけん解釈かいしゃくを、田中たなか判決はんけつきし判決はんけつ根拠こんきょにしようとしているため。抗議こうぎ意味いみめて」と説明せつめいしている[23]再審さいしん請求せいきゅうたいし、東京とうきょう地方裁判所ちほうさいばんしょ2016ねん3月8にちに「しん証拠しょうこ免訴めんそをいいわたあきらかな証拠しょうことはみとめられない」として棄却ききゃくした。これにたいし、もと被告ひこくがわ東京とうきょう高等こうとう裁判所さいばんしょ即時そくじ抗告こうこくする方針ほうしんである[24]。2017ねん11月15にちもと被告ひこく3めいおよ故人こじんとなった1めい遺族いぞくおこなった再審さいしん請求せいきゅう即時そくじ抗告こうこくしんで、東京とうきょう高裁こうさい即時そくじ抗告こうこく棄却ききゃくする決定けっていをした[25]もと被告ひこくらは東京とうきょう高裁こうさい判決はんけつ不服ふふくとして最高さいこう裁判所さいばんしょ特別とくべつ抗告こうこくしたが、最高裁さいこうさいは2018ねん7がつ18にち棄却ききゃく。これにより再審さいしん棄却ききゃく確定かくていした[26]。なお、原告げんこく一人ひとりは「司法しほうのかばいいで、権利けんり侵害しんがい救済きゅうさいけた不当ふとう決定けっていだ」と非難ひなんしている[27]

2024ねん1がつ15にち最高裁さいこうさい判決はんけつまえ最高裁さいこうさい田中たなかこう太郎たろう長官ちょうかんべいがわ評議ひょうぎ状況じょうきょうなどをつたえたことで「公平こうへい裁判さいばんける権利けんり侵害しんがいされた」として、もと被告ひこくら3にんくに損害そんがい賠償ばいしょうもとめた訴訟そしょう判決はんけつで、東京とうきょう地方裁判所ちほうさいばんしょは「具体ぐたいてき評議ひょうぎ内容ないよう予想よそうされる判決はんけつ内容ないようまでつたえた事実じじつみとめられず、公平こうへい裁判さいばんでないとはえない」として請求せいきゅう棄却ききゃくした[28]

関連かんれんする訴訟そしょう[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c 砂川すなかわ事件じけん(すながわじけん)とは”. コトバンク. 2020ねん3がつ30にち閲覧えつらん
  2. ^ “「べいぐん違憲いけん破棄はき圧力あつりょく 砂川すながわ事件じけん公文書こうぶんしょ判明はんめい. 47NEWS (共同通信社きょうどうつうしんしゃ). (2008ねん4がつ29にち). https://web.archive.org/web/20100404064911/http://www.47news.jp/CN/200804/CN2008042901000464.html 2009ねん2がつ2にち閲覧えつらん 
  3. ^ 野口のぐち由紀ゆき (2009ねん5がつ9にち). 砂川すなかわ裁判さいばんべい大使たいしとの密談みつだん最高裁さいこうさいなど「開示かいじ」--「記録きろくなし」”. 毎日新聞まいにちしんぶん(ウェブ魚拓ぎょたく. https://megalodon.jp/2009-0513-0001-01/mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2009/05/09/20090509dde001040040000c.html 2009ねん5がつ11にち閲覧えつらん 
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関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]