自衛 権
概説
[沿革
[まず、
国連 憲章 における自衛 権
[第 五 十 一 条 この憲章 のいかなる規定 も、国際 連合 加盟 国 に対 して武力 攻撃 が発生 した場合 には、安全 保障 理事 会 が国際 の平和 及 び安全 の維持 に必要 な措置 をとるまでの間 、個別 的 又 は集団 的 自衛 の固有 の権利 を害 するものではない。この自衛 権 の行使 に当 って加盟 国 がとった措置 は、直 ちに安全 保障 理事 会 に報告 しなければならない。また、この措置 は、安全 保障 理事 会 が国際 の平和 及 び安全 の維持 または回復 のために必要 と認 める行動 をいつでもとるこの憲章 に基 く権能 及 び責任 に対 しては、いかなる影響 も及 ぼすものではない。
このように、
自衛 権 行使 の要件 と効果
[急迫 不正 の侵害 があること(急迫 性 、違法 性 )他 にこれを排除 して、国 を防衛 する手段 がないこと(必要 性 )必要 な限度 にとどめること(相当 性 、均衡 性 )
この
また、19
日本 政府 による要件 の解釈
[個別 的 自衛 権 と集団 的 自衛 権
[自衛 権 の類型
[ 武力 攻撃 とそれに至 らない武力 行使 に対 する自衛 権 の行使 について
[これに
最 も重大 な形態 の武力 の行使 (武力 攻撃 )
[- いわゆる
国連 憲章 第 51条 の「武力 攻撃 」に該当 する武力 の行使 であるとし、「正規 軍 による越境 軍事 攻撃 」や「正規 軍 の越境 攻撃 に匹敵 するほどの武力 行為 を行 う武装 集団 等 の派遣 ・援助 等 」を例示 している。 - これに
対 しては被害 国 による個別 的 自衛 権 の行使 に加 え、第三国 による集団 的 自衛 権 の行使 が許 されるとした。ただし、集団 的 自衛 権 の行使 については被害 国 の「被害 の発生 宣言 」及 び「援助 要請 」が必要 と判決 された[20]。
武力 攻撃 に至 らない武力 の行使
[国連 憲章 第 51条 の「武力 攻撃 」に該当 しない武力 の行使 であり、「武器 や兵站 物資 の提供 による、正規 軍 の越境 攻撃 に匹敵 しない程度 の叛徒 への支援 」などが例示 されている。- これに
対 しては、集団 的 自衛 権 の行使 は「許 されない」としたうえで、「被害 国 による均衡 性 のとれた対抗 措置 」は可能 と判 じられた。「対抗 措置 」の内容 ・程度 についてはICJは判決 を避 けており、武力 攻撃 に至 らない武力 の行使 に対 し被害 国 が武力 を行使 可能 かどうか(個別 的 自衛 権 の発動 が可能 かどうか)については学説 上 の争 いが存在 する[21]。 - また、「
武力 攻撃 に至 らない武力 の行使 」が連続 して発生 した場合 に、これが累積 して武力 攻撃 に認定 され得 る累積 理論 (Accumulation of Events Theory)という学説 が存在 し、これの支持 が増加 しているものの、安保理 決議 やICJにおいて明確 に肯定 された事 はない[21][22]。
武力 攻撃 の発生 が予測 ・切迫 される場合 の自衛 権 発生 の時期 について
[ 予防 的 自衛
[予防 的 自衛 (preventive self-defense)とは、「武力 攻撃 の脅威 が明確 でなく、切迫 していない段階 で自衛 権 を行使 する」という、先制 的 自衛 、迎撃 的 自衛 とは区別 される概念 であり、アメリカ同時 多発 テロ事件 の発生 を受 けてアメリカ合衆国 大統領 (当時 )ジョージ・W・ブッシュが発表 したブッシュ・ドクトリンの基幹 となる概念 である。- ブッシュ・ドクトリンにおいて「
発生 しつつある脅威 に対 して、それが十分 に明確 になる前 に行動 する」[23]と発表 した。しかしながら、この予防 的 自衛 の考 えを肯定 する意見 は少 ない[24]。
先制 的 自衛
[先制 的 自衛 (anticipatory self-defense又 はpreemptive self-defense)とは、「武力 攻撃 の発生 が真 に急迫 している場合 に、その発生 前 に自衛 権 を行使 する」概念 であり、武力 攻撃 が急迫 していない段階 で攻撃 を行 う予防 的 自衛 、予防 攻撃 とは区別 される。このうち、anticipatory self-defenseは相手 の武力 攻撃 発生 以前 の自衛 権 行使 全般 を指 し、preemptive self-defenseは急迫 した武力 攻撃 に対 する自衛 行為 を指 す場合 が多 いが、これについては明確 な定義 が確立 されておらず、論者 により異 なる点 に留意 が必要 である[25]。下記 の「迎撃 的 自衛 」との相違 は、相手方 の武力 攻撃 が発生 した前 か後 かという点 であり、相手方 の同一 の行動 (一 例 として、爆 撃 機 が作戦 実行 地点 に向 け飛行 中 である場合 [26])について「武力 攻撃 の発生 前 だが自衛 権 を行使 する」と解釈 するか「武力 攻撃 が発生 したので自衛 権 を行使 する」と解釈 するかで、実際 の自衛 権 行使 のタイミングについては重 なる場合 も存在 する武力 紛争 法 を専門 とする国際 法学 者 マイケル・N・シュミット (Michael N. Schmitt) は、先制 的 自衛 権 行使 の要件 として「実行 可能 な最後 の機会 (last feasible window of opportunity)」という、「今 この瞬間 に対処 しなければ、事後 の国家 防衛 が困難 になる」というレッドラインを提唱 している[27][28]。- また、
元 英 外務省 法律 顧問 で法廷 弁護士 のダニエル・ベツレヘム (Daniel Bethlehem) は、「敵対 者 の武力 攻撃 が切迫 しているか否 か」の評価 基準 として、下記 に示 す「ベツレヘム原則 」を提唱 した[29]。これはイギリスおよびアメリカにおいても武力 攻撃 の切迫 性 の判断 基準 として参考 とされている[30][31]。
- (1)
脅威 の性質 と急迫 性 はどうか - (2)
攻撃 の発生 する蓋然性 は高 いか低 いか - (3)
予期 される攻撃 は継続 的 な軍事 活動 の一致 したパターンの一部 か否 か - (4)
予期 される攻撃 の規模 とそれに対 する行動 がとられない場合 に生 じるであろう被害 、損失 あるいは損害 は - (5) より
低 度 の付随 的 被害 、損失 あるいは損害 が想定 される効果 的 な自衛 行動 をとる他 の機会 の可能 性 は無 いのか
- アメリカ
同時 多発 テロ事件 以降 、急迫 する武力 攻撃 に対 する自衛 権 の行使 を支持 する国家 が増加 傾向 にあるものの、それに反対 する国家 も少 なくなく、国際 法 上 確立 された概念 とは言 い難 いのが現状 であるる[29]。
迎撃 的 自衛
[迎撃 的 自衛 (interceptive self-defense)とは、イスラエルの国際 法学 者 であり戦時 国際 法 の権威 であるヨーラム・ディンシュタイン (Yoram Dinstein)教授 が提唱 した概念 [32]であり、「国家 が自衛 権 を行使 するにあたり、現実 の被害 が発生 してからでなければならないというのは不合理 である」という考 えから、国連 憲章 第 51条 の武力 攻撃 の「発生 」を広 く解釈 し、「敵対 勢力 が攻撃 への不 可逆 的 な軍事 行動 に着手 した(committed itself to an armed attack in an ostensibly irrevocable way)」時点 を「初期 の武力 攻撃 (incipient armed attack)」と認定 し、これに対 して自衛 権 を行使 するという考 えであり、日本 政府 が採用 した「着手 論 」に類似 する国際 法 上 の考 えである[33]。現実 に被害 が発生 する前 に自衛 権 を行使 するという点 では先制 的 自衛 権 と基本 的 に同一 であるが、先制 的 自衛 が「武力 攻撃 の発生 が真 に急迫 している場合 に、その発生 前 に自衛 権 を行使 する」[25]概念 である一方 、迎撃 的 自衛 は「既 に引 き金 が引 かれ、武力 攻撃 が発生 し、しかしまだ被害 が発生 していない」段階 で自衛 権 を行使 する[32]という点 で違 いがある。- ディンシュタインは
具体 例 として「発射 前後 のICBMへの対応 」や「真珠湾 攻撃 に向 かう途中 の艦隊 に対 する迎撃 」を例示 しており、「日本 海軍 の真珠湾 攻撃 第 一 波 空中 攻撃 隊 が発 艦 し、爆 弾 を投下 する前 に迎撃 する事 」は迎撃 的 自衛 であるとし、また「日本 海軍 が出航 してから第 一 波 空中 攻撃 隊 発 艦 までの間 に迎撃 する事 」もまた(先制 的 自衛 に近 いものの)迎撃 的 自衛 であるとした。一方 、仮 に日本 海軍 が真珠湾 攻撃 に向 け出港 する前 にアメリカが攻撃 を加 えたならばそれはアメリカ側 の「予防 攻撃 」になるとしている[32]。 武力 攻撃 がいつ発生 し、どのタイミングで自衛 権 を行使 できるかについては国際 連合 総会 第 6委員 会 第 282回 会合 (1952年 1月 7日 ~1月 21日 )においても「真珠湾 攻撃 に向 かう日本 海軍 に対 しアメリカ合衆国 はどの段階 で自衛 権 を行使 できるか」と議論 されており[34]、一 例 として「夜 、他者 の家 の塀 によじ登 る侵入 者 を家主 が射殺 したとしても、侵入 者 に危害 意思 が無 いと立証 されない限 り家主 が罪 に問 われることは無 い」として、真珠湾 攻撃 に向 かう日本 艦隊 を公海 上 で米 軍 が迎撃 したとしても米国 は侵略 者 とみなされず自衛 行為 とされる、と米 ソ両国 で共通 見解 が得 られている[35]。これにより、「実害 が生 じた時点 ではないが、単 に攻撃 のおそれがある場合 でもなく、武力 攻撃 の目的 をもった軍事 行動 が現実 に開始 されたとき」に武力 攻撃 の発生 が認 められるとされ[36]、これについて「ニイタカヤマノボレ」の暗号 が発 された瞬間 にアメリカが自衛 権 を行使 できると解 されている[37]。- いずれにしても、
国際司法裁判所 のオイル・プラットフォーム事件 (英語 : Oil Platforms case)審理 において「自衛 権 を行使 する側 が、敵対 勢力 からの武力 攻撃 があったことを証明 しなければならない」と判決 されているため[26][38]、迎撃 的 自衛 に基 づき自衛 権 を行使 するためには「自国 に対 する攻撃 の意図 は明確 である」という証拠 を収集 し、さらにどのような攻撃 手段 (どこに配備 した何 の種類 のミサイルか等 )を使用 するのかまで明確 に証明 できる場合 に限 られるとされる[33]。
非 国家 主体 に対 する自衛 権 について
[国際 連合 憲章 第 51条 は自衛 権 の発動 条件 を「武力 攻撃 が発生 した時 」と規定 しているが、武力 攻撃 が「国家 」によるものなのか、反 政府 勢力 やテロリストのような「非 国家 主体 (non-state actor)」によるものも含 むのかについて明確 な記述 はない」[24]。これに対 して、9.11の米 同時 多発 テロを受 けて採決 された安保理 決議 1368及 び安保理 決議 1373[39]において、テロ攻撃 に対 する「個別 的 又 は集団 的 自衛 の固有 の権利 」が認 められた。- しかしながら、「
非 国家 主体 」が所在 する国家 主体 [注釈 2]がその武力 攻撃 に直接 関与 している場合 は当該 領域 国 の武力 攻撃 と見 なせるため問題 ない[注釈 3]ものの、当該 非 国家 主体 がその所在 する国家 主体 の国家 意思 に反 して武力 攻撃 を実施 した場合 、当該 非 国家 主体 に対 する被害 国 の自衛 権 行使 は武力 攻撃 に無関係 な国家 主体 に対 する武力 の行使 になるという点 で、自衛 権 が正当 化 される得 るかという問題 が生 じる[40]。これに対 しては国際司法裁判所 も含 めて明確 な回答 を与 えておらず、「非 国家 主体 が実施 した武力 攻撃 が、当該 国家 主体 に帰属 する事 が条件 である」と判断 したにとどまり、当該 国家 主体 領域 内 の当該 非 国家 主体 に対 して限定 して実施 される武力 の行使 は必 ずしも否定 されていない[24]。 - また、
多 国籍 にまたがるテロ組織 ISILに対 する各国 の軍事 活動 において、非 国家 主体 及 びその所在 する国家 主体 に対 する自衛 権 の行使 を正当 化 する条件 として、「その所在 する国家 主体 が、非 国家 主体 の違法 な武力 攻撃 に対 し対応 する『能力 及 び意思 が欠如 (nuable or unwilling)する場合 』」が挙 げられるようになりつつあるものの、必 ずしも慣習 国際 法 として確立 したと断言 できるまでには至 っていない[41][42]。
脚注
[注釈
[- ^ 1837
年 に英国 領 カナダと米国 との国境 を流 れるナイアガラ川 で発生 した米 船籍 カロライン号 攻撃 事件 に関 する国際 紛議 についてウェブスター米 国務 長官 が提示 した見解 。参考 :(島田 征夫 「カロライン号 事件 再論 -事実 の検証 を中心 に-」『早稲田 法学 』第 82巻 第 3号 、早稲田大学 法 学会 、2007年 7月 、21-57頁 、CRID 1050001202467736320、hdl:2065/29552、ISSN 0389-0546、NAID 120001941691。) - ^
国家 又 は国家 に準 ずる組織 - ^ 9.11
米 同時 多発 テロにおける非 国家 主体 アルカーイダに対 するターリバーンの関与 がこれにあたる。
出典
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関連 項目
[外部 リンク
[防衛 白書 -防衛 省 安全 保障 と防衛 力 に関 する懇談 会 -首相 官邸 安全 保障 の法的 基盤 の再 構築 に関 する懇談 会 - ウェイバックマシン(2007年 5月 26日 アーカイブ分 ) -首相 官邸 松葉 真美 「集団 的 自衛 権 の法的 性質 とその発達 ―国際 法 上 の議論 ―」 -国立 国会図書館 調査 及 び立法 考査 局 外交 防衛 課