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自衛じえいけん

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自衛じえいけん(じえいけん)とは、急迫きゅうはく不正ふせい侵害しんがい排除はいじょするために、武力ぶりょくをもって必要ひつよう行為こういおこな国際こくさいほううえ権利けんり[1]であり、自己じこ保存ほぞん本能ほんのう基礎きそ合理ごうりてき権利けんりであるとかんがえられてきた[2]国内こくないほううえ正当せいとう防衛ぼうえいけん対比たいひされることもあるが[3]社会しゃかいてき条件じょうけんちがいから国内こくないほうじょう正当せいとう防衛ぼうえいけん自衛じえいけん完全かんぜん対応たいおうしているわけでもない[4]

自国じこくふく他国たこくたいする侵害しんがい排除はいじょするための行為こういおこな権利けんり集団しゅうだんてき自衛じえいけんといい、自国じこくたいする侵害しんがい排除はいじょするための行為こういおこな権利けんりである個別こべつてき自衛じえいけん区別くべつする[5][6]

概説がいせつ

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沿革えんかく

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歴史れきしじょう自衛じえいけん概念がいねんは、1837ねんカロラインごう事件じけん処理しょりにおいて、イギリス主張しゅちょうした抗弁こうべんなか最初さいしょ援用えんようされた[7][4]。カロラインごう事件じけんとは、イギリスりょうカナダきた反乱はんらんさいして、反乱はんらんぐんアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく船籍せんせきのカロラインごうもちいて人員じんいん物資ぶっし運搬うんぱんおこなったため、イギリス海軍かいぐんがアメリカ領内りょうないでこのふね破壊はかいした事件じけんである[7]。アメリカがわからの抗議こうぎたいし、イギリスがわは、自衛じえいけん行使こうしであるむね抗弁こうべんひとつとして主張しゅちょうした[1][7]。アメリカがわは、国務こくむ長官ちょうかんダニエル・ウェブスターが、自衛じえいけん行使こうし正当せいとうするためには「即座そくざに、圧倒的あっとうてきで、手段しゅだん選択せんたく余地よちがない」ことが必要ひつようであると主張しゅちょうし、本件ほんけんについてこれらの要件ようけんたされていることについての証明しょうめいもとめた[7][1]。この自衛じえいけん行使こうしかんする要件ようけんは「ウェブスター見解けんかい」とばれる[7]

まず、だいいち世界せかい大戦たいせん自衛じえいけん行使こうしは、1928ねん昭和しょうわ3ねん)に締結ていけつされた不戦ふせん条約じょうやく戰爭せんそう抛棄ほうきかんする條約じょうやく、パリ不戦ふせん条約じょうやく)のなかで、禁止きんしされるべき「戦争せんそう」から留保りゅうほされるとほぐされた[1]。そして、だい世界せかい大戦たいせん1945ねん昭和しょうわ20ねん)10がつ発効はっこうした国際こくさい連合れんごう憲章けんしょう国連こくれん憲章けんしょう)では、だい51じょうに「個別こべつてきまた集団しゅうだんてき自衛じえい固有こゆう権利けんり」が明記めいきされた[4]

国連こくれん憲章けんしょうにおける自衛じえいけん

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国際こくさい連合れんごう憲章けんしょう51じょうつぎのようにさだめる。

だいじゅういちじょう この憲章けんしょうのいかなる規定きていも、国際こくさい連合れんごう加盟かめいこくたいして武力ぶりょく攻撃こうげき発生はっせいした場合ばあいには、安全あんぜん保障ほしょう理事りじかい国際こくさい平和へいわおよ安全あんぜん維持いじ必要ひつよう措置そちをとるまでのあいだ個別こべつてきまた集団しゅうだんてき自衛じえい固有こゆう権利けんりがいするものではない。この自衛じえいけん行使こうしあたって加盟かめいこくがとった措置そちは、ただちに安全あんぜん保障ほしょう理事りじかい報告ほうこくしなければならない。また、この措置そちは、安全あんぜん保障ほしょう理事りじかい国際こくさい平和へいわおよ安全あんぜん維持いじまたは回復かいふくのために必要ひつようみとめる行動こうどうをいつでもとるこの憲章けんしょうもとづ権能けんのうおよ責任せきにんたいしては、いかなる影響えいきょうおよぼすものではない。

このように、自衛じえいけん国家こっかの「固有こゆう権利けんり」と規定きていされる。ただ、国際こくさい連合れんごう加盟かめいこくによる集団しゅうだん安全あんぜん保障ほしょう体制たいせいしたでは、その権利けんり行使こうしは、国際こくさい連合れんごう安全あんぜん保障ほしょう理事りじかい国連こくれん安保理あんぽり)の措置そちがとられるまでの時限じげんてき権利けんりとされている[1][8][9](なお憲章けんしょうだい7しょう参照さんしょう)。

国連こくれん憲章けんしょうだい51じょうの「自衛じえいけん」の解釈かいしゃくについては、おおくの問題もんだいしょうじているのも事実じじつである。国家こっか武力ぶりょく行使こうしをするさいもっと頻繁ひんぱんにその適用てきよう主張しゅちょうされ、しかも、これらの主張しゅちょうたいして、たとえば国連こくれん安全あんぜん保障ほしょう理事りじかいかならずしも、明確めいかく回答かいとうあたえていないという事情じじょう存在そんざいするからである[10]。さらに憲章けんしょう51じょうとう解釈かいしゃくめぐっても、先制せんせいてき自衛じえい容認ようにんしているか、自衛じえい行為こういにおける釣合つりあいの原則げんそく比例ひれい適合てきごうせい)の有効ゆうこうせいについて、あるいは武力ぶりょく攻撃こうげき内容ないようまもられるべき法益ほうえきについても議論ぎろんがなされている[11]

自衛じえいけん行使こうし要件ようけん効果こうか

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自衛じえいけん行使こうしたっては、「ウェブスター見解けんかい[注釈ちゅうしゃく 1]において表明ひょうめいされた自衛じえいけん正当せいとう要件ようけんである「即座そくざに、圧倒的あっとうてきで、手段しゅだん選択せんたく余地よちがない」ことを基礎きそに、その発動はつどう限界げんかいかんする要件ようけんつぎの3つにまとめられている。

  1. 急迫きゅうはく不正ふせい侵害しんがいがあること(急迫きゅうはくせい違法いほうせい
  2. にこれを排除はいじょして、くに防衛ぼうえいする手段しゅだんがないこと(必要ひつようせい
  3. 必要ひつよう限度げんどにとどめること(相当そうとうせい均衡きんこうせい

この要件ようけんもとづいて発動はつどうされた自衛じえいけん行使こうしにより、他国たこく法益ほうえき侵害しんがいしたとしても、その違法いほうせいは阻却され、損害そんがい賠償ばいしょうひとし責任せきにん発生はっせいしない[4]

また、19世紀せいき以来いらい国際こくさい慣習かんしゅうほうした、このさん要件ようけんたされるならば、機先きせんせいして武力ぶりょく行使こうしする「先制せんせいてき自衛じえいけん」の行使こうし正当せいとうされるとほぐされた[12]。しかし、国連こくれん憲章けんしょうでは「武力ぶりょく攻撃こうげき発生はっせいした場合ばあい」と規定きていされることから、この要件ようけん厳格げんかくかいして、みとめられないとする見解けんかい有力ゆうりょくである[13]。ちなみに、「武力ぶりょく攻撃こうげき発生はっせいした場合ばあい」という日本語にほんご日本にっぽん外務省がいむしょうによる公定こうていやくによるもの。国連こくれん憲章けんしょう公用こうよう(当時とうじ英語えいご仏語ふつごのみ)である英語えいごでは"If an armed attack occurs,..."となっており、過去かこがたではない。

日本にっぽん政府せいふによる要件ようけん解釈かいしゃく

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日本にっぽん政府せいふは、先制せんせい攻撃こうげきみとめられていないとの立場たちばから、武力ぶりょく攻撃こうげき発生はっせい自衛じえいけん発動はつどうの3要件ようけんたされた場合ばあい効果こうかしょうじるとの立場たちばをとっているが、武力ぶりょく攻撃こうげき着手ちゃくしゅどきをもって、武力ぶりょく攻撃こうげき発生はっせいがあったとかいしており、着手ちゃくしゅ有無うむは、諸般しょはん事情じじょう勘案かんあん個別こべつ具体ぐたいてき判断はんだんするとの基準きじゅんしめしている[14]

個別こべつてき自衛じえいけん集団しゅうだんてき自衛じえいけん

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個別こべつてき自衛じえいけんとは、他国たこくからの武力ぶりょく攻撃こうげきたいし、実力じつりょくをもってこれを阻止そし排除はいじょする権利けんりである[4]。これにたい集団しゅうだんてき自衛じえいけんは、国連こくれん憲章けんしょうにおいてはじめて明記めいきされた概念がいねん[15]、「自国じこく密接みっせつ関係かんけいにある外国がいこくたいする武力ぶりょく攻撃こうげきを、自国じこく直接ちょくせつ攻撃こうげきされていないにもかかわらず、実力じつりょくをもつて阻止そしする権利けんり」と定義ていぎされることもある[16]。すなわち、他国たこくたいして武力ぶりょく攻撃こうげきがあった場合ばあいに、自国じこく直接ちょくせつ攻撃こうげきされていなくても、実力じつりょくを以って阻止そし排除はいじょする権利けんりである[6][15]

集団しゅうだんてき自衛じえいけん本質ほんしつは、自衛じえいけん行使こうししている他国たこく援助えんじょして、これと共同きょうどう武力ぶりょく攻撃こうげき対処たいしょするというところにあるが、自衛じえいけん概念がいねんについては、様々さまざま見解けんかい存在そんざいする[17]

自衛じえいけん類型るいけい

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国際こくさい連合れんごう憲章けんしょうだい51じょう自衛じえいけんを「固有こゆう権利けんり」であると規定きていするが、国連こくれん憲章けんしょう作成さくせい存在そんざいした慣習かんしゅう国際こくさいほうには「武力ぶりょく攻撃こうげき発生はっせいした場合ばあい以外いがいにも行使こうしできる自衛じえいけん存在そんざい」し、それはどう51じょうの「固有こゆう権利けんり」のなかまれ、当然とうぜん行使こうしできるとする解釈かいしゃく存在そんざいする(許容きょようてき解釈かいしゃくせつ一方いっぽう現実げんじつてき発生はっせいした武力ぶりょく行使こうしたいしてしかゆるされないとする解釈かいしゃく制限せいげんてき解釈かいしゃくせつ)が存在そんざいし、国連こくれん憲章けんしょう発足ほっそく以来いらい対立たいりつつづいている[18]。これにより、自衛じえいけん行使こうしについてはいくつかの類型るいけい存在そんざいする。

 武力ぶりょく攻撃こうげきとそれにいたらない武力ぶりょく行使こうしたいする自衛じえいけん行使こうしについて 

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国連こくれん憲章けんしょうだい51じょう自衛じえいけん発動はつどう要件ようけんを"If an armed attack occurs,..."と、「武力ぶりょく攻撃こうげき(armed attack)」が発生はっせいしたこと自衛じえいけん発動はつどう要件ようけんとしているが、武力ぶりょく攻撃こうげきとはなにかを規定きていしていない。これにより、国連こくれん憲章けんしょうだい2じょう4こう武力ぶりょく行使こうし原則げんそく禁止きんししている「武力ぶりょく威嚇いかくまた行使こうし(the threat or use of force)」と「武力ぶりょく攻撃こうげき(armed attack)」が同一どういつものかという議論ぎろん生起せいきした。この解釈かいしゃく如何いかによっては、武力ぶりょく攻撃こうげき該当がいとうしない武力ぶりょく行使こうし発生はっせいしたとき自衛じえいけん行使こうしゆるされないという事態じたいしょうるとろんじられてきた[19]

これにたいし、国際司法裁判所こくさいしほうさいばんしょニカラグア事件じけんにおいて、下記かき例示れいじする武力ぶりょく行使こうし自衛じえいけん行使こうし容認ようにんされる「もっと重大じゅうだい形態けいたい武力ぶりょく行使こうし武力ぶりょく攻撃こうげき)」と容認ようにんされない「武力ぶりょく攻撃こうげきいたらない武力ぶりょく行使こうし」とに区別くべつした。

 もっと重大じゅうだい形態けいたい武力ぶりょく行使こうし武力ぶりょく攻撃こうげき) 

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  • いわゆる国連こくれん憲章けんしょうだい51じょうの「武力ぶりょく攻撃こうげき」に該当がいとうする武力ぶりょく行使こうしであるとし、「正規せいきぐんによる越境えっきょう軍事ぐんじ攻撃こうげき」や「正規せいきぐん越境えっきょう攻撃こうげき匹敵ひってきするほどの武力ぶりょく行為こういおこな武装ぶそう集団しゅうだんとう派遣はけん援助えんじょとう」を例示れいじしている。
  • これにたいしては被害ひがいこくによる個別こべつてき自衛じえいけん行使こうしくわえ、第三国だいさんごくによる集団しゅうだんてき自衛じえいけん行使こうしゆるされるとした。ただし、集団しゅうだんてき自衛じえいけん行使こうしについては被害ひがいこくの「被害ひがい発生はっせい宣言せんげんおよび「援助えんじょ要請ようせい」が必要ひつよう判決はんけつされた[20]

 武力ぶりょく攻撃こうげきいたらない武力ぶりょく行使こうし 

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  • 国連こくれん憲章けんしょうだい51じょうの「武力ぶりょく攻撃こうげき」に該当がいとうしない武力ぶりょく行使こうしであり、「武器ぶき兵站へいたん物資ぶっし提供ていきょうによる、正規せいきぐん越境えっきょう攻撃こうげき匹敵ひってきしない程度ていど叛徒はんとへの支援しえん」などが例示れいじされている。
  • これにたいしては、集団しゅうだんてき自衛じえいけん行使こうしは「ゆるされない」としたうえで、「被害ひがいこくによる均衡きんこうせいのとれた対抗たいこう措置そち」は可能かのうはんじられた。「対抗たいこう措置そち」の内容ないよう程度ていどについてはICJは判決はんけつけており、武力ぶりょく攻撃こうげきいたらない武力ぶりょく行使こうしたい被害ひがいこく武力ぶりょく行使こうし可能かのうかどうか(個別こべつてき自衛じえいけん発動はつどう可能かのうかどうか)については学説がくせつじょうあらそいが存在そんざいする[21]
  • また、「武力ぶりょく攻撃こうげきいたらない武力ぶりょく行使こうし」が連続れんぞくして発生はっせいした場合ばあいに、これが累積るいせきして武力ぶりょく攻撃こうげき認定にんていされ累積るいせき理論りろん(Accumulation of Events Theory)という学説がくせつ存在そんざいし、これの支持しじ増加ぞうかしているものの、安保理あんぽり決議けつぎやICJにおいて明確めいかく肯定こうていされたことはない[21][22]

 武力ぶりょく攻撃こうげき発生はっせい予測よそく切迫せっぱくされる場合ばあい自衛じえいけん発生はっせい時期じきについて 

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 予防よぼうてき自衛じえい 

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 先制せんせいてき自衛じえい 

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  • 先制せんせいてき自衛じえい(anticipatory self-defense またはpreemptive self-defense)とは、「武力ぶりょく攻撃こうげき発生はっせいしん急迫きゅうはくしている場合ばあいに、その発生はっせいまえ自衛じえいけん行使こうしする」概念がいねんであり、武力ぶりょく攻撃こうげき急迫きゅうはくしていない段階だんかい攻撃こうげきおこな予防よぼうてき自衛じえい予防よぼう攻撃こうげきとは区別くべつされる。このうち、anticipatory self-defenseは相手あいて武力ぶりょく攻撃こうげき発生はっせい以前いぜん自衛じえいけん行使こうし全般ぜんぱんし、preemptive self-defenseは急迫きゅうはくした武力ぶりょく攻撃こうげきたいする自衛じえい行為こうい場合ばあいおおいが、これについては明確めいかく定義ていぎ確立かくりつされておらず、論者ろんしゃによりことなるてん留意りゅうい必要ひつようである[25]
  • 下記かきの「迎撃げいげきてき自衛じえい」との相違そういは、相手方あいてがた武力ぶりょく攻撃こうげき発生はっせいしたまえのちかというてんであり、相手方あいてがた同一どういつ行動こうどういちれいとして、ばくげき作戦さくせん実行じっこう地点ちてん飛行ひこうちゅうである場合ばあい[26])について「武力ぶりょく攻撃こうげき発生はっせいまえだが自衛じえいけん行使こうしする」と解釈かいしゃくするか「武力ぶりょく攻撃こうげき発生はっせいしたので自衛じえいけん行使こうしする」と解釈かいしゃくするかで、実際じっさい自衛じえいけん行使こうしのタイミングについてはかさなる場合ばあい存在そんざいする
  • 武力ぶりょく紛争ふんそうほう専門せんもんとする国際こくさい法学ほうがくしゃマイケル・N・シュミット (Michael N. Schmittは、先制せんせいてき自衛じえいけん行使こうし要件ようけんとして「実行じっこう可能かのう最後さいご機会きかい(last feasible window of opportunity)」という、「いまこの瞬間しゅんかん対処たいしょしなければ、事後じご国家こっか防衛ぼうえい困難こんなんになる」というレッドラインを提唱ていしょうしている[27][28]
  • また、もとえい外務省がいむしょう法律ほうりつ顧問こもん法廷ほうてい弁護士べんごしのダニエル・ベツレヘム (Daniel Bethlehemは、「敵対てきたいしゃ武力ぶりょく攻撃こうげき切迫せっぱくしているかか」の評価ひょうか基準きじゅんとして、下記かきしめす「ベツレヘム原則げんそく」を提唱ていしょうした[29]。これはイギリスおよびアメリカにおいても武力ぶりょく攻撃こうげき切迫せっぱくせい判断はんだん基準きじゅんとして参考さんこうとされている[30][31]
(1) 脅威きょうい性質せいしつ急迫きゅうはくせいはどうか
(2) 攻撃こうげき発生はっせいする蓋然性がいぜんせいたかいかひくいか
(3) 予期よきされる攻撃こうげき継続けいぞくてき軍事ぐんじ活動かつどう一致いっちしたパターンの一部いちぶ
(4) 予期よきされる攻撃こうげき規模きぼとそれにたいする行動こうどうがとられない場合ばあいしょうじるであろう被害ひがい損失そんしつあるいは損害そんがい
(5) よりてい付随ふずいてき被害ひがい損失そんしつあるいは損害そんがい想定そうていされる効果こうかてき自衛じえい行動こうどうをとるほか機会きかい可能かのうせいいのか
  • アメリカ同時どうじ多発たはつテロ事件じけん以降いこう急迫きゅうはくする武力ぶりょく攻撃こうげきたいする自衛じえいけん行使こうし支持しじする国家こっか増加ぞうか傾向けいこうにあるものの、それに反対はんたいする国家こっかすくなくなく、国際こくさいほうじょう確立かくりつされた概念がいねんとはがたいのが現状げんじょうであるる[29]

 迎撃げいげきてき自衛じえい 

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  • 迎撃げいげきてき自衛じえい(interceptive self-defense)とは、イスラエル国際こくさい法学ほうがくしゃであり戦時せんじ国際こくさいほう権威けんいであるヨーラム・ディンシュタイン (Yoram Dinstein教授きょうじゅ提唱ていしょうした概念がいねん[32]であり、「国家こっか自衛じえいけん行使こうしするにあたり、現実げんじつ被害ひがい発生はっせいしてからでなければならないというのは不合理ふごうりである」というかんがえから、国連こくれん憲章けんしょうだい51じょう武力ぶりょく攻撃こうげきの「発生はっせい」をひろ解釈かいしゃくし、「敵対てきたい勢力せいりょく攻撃こうげきへの可逆かぎゃくてき軍事ぐんじ行動こうどう着手ちゃくしゅした(committed itself to an armed attack in an ostensibly irrevocable way)」時点じてんを「初期しょき武力ぶりょく攻撃こうげき(incipient armed attack)」と認定にんていし、これにたいして自衛じえいけん行使こうしするというかんがえであり、日本にっぽん政府せいふ採用さいようした「着手ちゃくしゅろん」に類似るいじする国際こくさいほうじょうかんがえである[33]
  • 現実げんじつ被害ひがい発生はっせいするまえ自衛じえいけん行使こうしするというてんでは先制せんせいてき自衛じえいけん基本きほんてき同一どういつであるが、先制せんせいてき自衛じえいが「武力ぶりょく攻撃こうげき発生はっせいしん急迫きゅうはくしている場合ばあいに、その発生はっせいまえ自衛じえいけん行使こうしする」[25]概念がいねんである一方いっぽう迎撃げいげきてき自衛じえいは「すでがねかれ、武力ぶりょく攻撃こうげき発生はっせいし、しかしまだ被害ひがい発生はっせいしていない」段階だんかい自衛じえいけん行使こうしする[32]というてんちがいがある。
  • ディンシュタインは具体ぐたいれいとして「発射はっしゃ前後ぜんこうICBMへの対応たいおう」や「真珠湾しんじゅわん攻撃こうげきかう途中とちゅう艦隊かんたいたいする迎撃げいげき」を例示れいじしており、「日本にっぽん海軍かいぐん真珠湾しんじゅわん攻撃こうげきだいいち空中くうちゅう攻撃こうげきたいはつかんし、ばくだん投下とうかするまえ迎撃げいげきすること」は迎撃げいげきてき自衛じえいであるとし、また「日本にっぽん海軍かいぐん出航しゅっこうしてからだいいち空中くうちゅう攻撃こうげきたいはつかんまでのあいだ迎撃げいげきすること」もまた(先制せんせいてき自衛じえいちかいものの)迎撃げいげきてき自衛じえいであるとした。一方いっぽうかり日本にっぽん海軍かいぐん真珠湾しんじゅわん攻撃こうげき出港しゅっこうするまえにアメリカが攻撃こうげきくわえたならばそれはアメリカがわの「予防よぼう攻撃こうげき」になるとしている[32]
  • 武力ぶりょく攻撃こうげきがいつ発生はっせいし、どのタイミングで自衛じえいけん行使こうしできるかについては国際こくさい連合れんごう総会そうかいだい6委員いいんかいだい282かい会合かいごう(1952ねん1がつ7にち~1がつ21にち)においても「真珠湾しんじゅわん攻撃こうげきかう日本にっぽん海軍かいぐんたいアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくはどの段階だんかい自衛じえいけん行使こうしできるか」と議論ぎろんされており[34]いちれいとして「よる他者たしゃいえへいによじのぼ侵入しんにゅうしゃ家主やぬし射殺しゃさつしたとしても、侵入しんにゅうしゃ危害きがい意思いしいと立証りっしょうされないかぎ家主やぬしつみわれることはい」として、真珠湾しんじゅわん攻撃こうげきかう日本にっぽん艦隊かんたい公海こうかいじょうべいぐん迎撃げいげきしたとしても米国べいこく侵略しんりゃくしゃとみなされず自衛じえい行為こういとされる、とべい両国りょうこく共通きょうつう見解けんかいられている[35]。これにより、「実害じつがいしょうじた時点じてんではないが、たん攻撃こうげきのおそれがある場合ばあいでもなく、武力ぶりょく攻撃こうげき目的もくてきをもった軍事ぐんじ行動こうどう現実げんじつ開始かいしされたとき」に武力ぶりょく攻撃こうげき発生はっせいみとめられるとされ[36]、これについて「ニイタカヤマノボレ」の暗号あんごうはっされた瞬間しゅんかんにアメリカが自衛じえいけん行使こうしできるとほぐされている[37]
  • いずれにしても、国際司法裁判所こくさいしほうさいばんしょオイル・プラットフォーム事件じけん英語えいご: Oil Platforms case審理しんりにおいて「自衛じえいけん行使こうしするがわが、敵対てきたい勢力せいりょくからの武力ぶりょく攻撃こうげきがあったことを証明しょうめいしなければならない」と判決はんけつされているため[26][38]迎撃げいげきてき自衛じえいもとづき自衛じえいけん行使こうしするためには「自国じこくたいする攻撃こうげき意図いと明確めいかくである」という証拠しょうこ収集しゅうしゅうし、さらにどのような攻撃こうげき手段しゅだん(どこに配備はいびしたなん種類しゅるいのミサイルかとう)を使用しようするのかまで明確めいかく証明しょうめいできる場合ばあいかぎられるとされる[33]

 国家こっか主体しゅたいたいする自衛じえいけんについて 

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  • 国際こくさい連合れんごう憲章けんしょうだい51じょう自衛じえいけん発動はつどう条件じょうけんを「武力ぶりょく攻撃こうげき発生はっせいしたとき」と規定きていしているが、武力ぶりょく攻撃こうげきが「国家こっか」によるものなのか、はん政府せいふ勢力せいりょくやテロリストのような「国家こっか主体しゅたい(non-state actor)」によるものもふくむのかについて明確めいかく記述きじゅつはない」[24]。これにたいして、9.11のべい同時どうじ多発たはつテロけて採決さいけつされた安保理あんぽり決議けつぎ1368およ安保理あんぽり決議けつぎ1373[39]において、テロ攻撃こうげきたいする「個別こべつてきまた集団しゅうだんてき自衛じえい固有こゆう権利けんり」がみとめられた。
  • しかしながら、「国家こっか主体しゅたい」が所在しょざいする国家こっか主体しゅたい[注釈ちゅうしゃく 2]がその武力ぶりょく攻撃こうげき直接ちょくせつ関与かんよしている場合ばあい当該とうがい領域りょういきこく武力ぶりょく攻撃こうげきなせるため問題もんだいない[注釈ちゅうしゃく 3]ものの、当該とうがい国家こっか主体しゅたいがその所在しょざいする国家こっか主体しゅたい国家こっか意思いしはんして武力ぶりょく攻撃こうげき実施じっしした場合ばあい当該とうがい国家こっか主体しゅたいたいする被害ひがいこく自衛じえいけん行使こうし武力ぶりょく攻撃こうげき無関係むかんけい国家こっか主体しゅたいたいする武力ぶりょく行使こうしになるというてんで、自衛じえいけん正当せいとうされるるかという問題もんだいしょうじる[40]。これにたいしては国際司法裁判所こくさいしほうさいばんしょふくめて明確めいかく回答かいとうあたえておらず、「国家こっか主体しゅたい実施じっしした武力ぶりょく攻撃こうげきが、当該とうがい国家こっか主体しゅたい帰属きぞくすること条件じょうけんである」と判断はんだんしたにとどまり、当該とうがい国家こっか主体しゅたい領域りょういきない当該とうがい国家こっか主体しゅたいたいして限定げんていして実施じっしされる武力ぶりょく行使こうしかならずしも否定ひていされていない[24]
  • また、国籍こくせきにまたがるテロ組織そしきISILたいする各国かっこく軍事ぐんじ活動かつどうにおいて、国家こっか主体しゅたいおよびその所在しょざいする国家こっか主体しゅたいたいする自衛じえいけん行使こうし正当せいとうする条件じょうけんとして、「その所在しょざいする国家こっか主体しゅたいが、国家こっか主体しゅたい違法いほう武力ぶりょく攻撃こうげきたい対応たいおうする『能力のうりょくおよ意思いし欠如けつじょ(nuable or unwilling)する場合ばあい』」がげられるようになりつつあるものの、かならずしも慣習かんしゅう国際こくさいほうとして確立かくりつしたと断言だんげんできるまでにはいたっていない[41][42]

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ 1837ねん英国えいこくりょうカナダと米国べいこくとの国境こっきょうながれるナイアガラがわ発生はっせいしたべい船籍せんせきカロラインごう攻撃こうげき事件じけんかんする国際こくさい紛議ふんぎについてウェブスターまい国務こくむ長官ちょうかん提示ていじした見解けんかい参考さんこう:(島田しまだ征夫いくおカロラインごう事件じけん再論さいろん -事実じじつ検証けんしょう中心ちゅうしんに-」『早稲田わせだ法学ほうがくだい82かんだい3ごう早稲田大学わせだだいがくほう学会がっかい、2007ねん7がつ、21-57ぺーじCRID 1050001202467736320hdl:2065/29552ISSN 0389-0546NAID 120001941691 
  2. ^ 国家こっかまた国家こっかじゅんずる組織そしき
  3. ^ 9.11めーとる同時どうじ多発たはつテロにおける国家こっか主体しゅたいアルカーイダたいするターリバーン関与かんよがこれにあたる。

出典しゅってん

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  1. ^ a b c d e 現代げんだい国際こくさいほう講義こうぎ、456ぺーじ
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参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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