田麩でんぶ

田麩でんぶ（でんぶ）は、魚肉ぎょにくまたは畜肉加工かこう品ひんのひとつ。佃煮つくだにの一種いっしゅ。

日本にっぽんでは魚肉ぎょにくを使つかうことが多おおく、江戸前えどまえ寿司ずしの店みせではおぼろと称しょうするほか、一部いちぶでは力ちから煮に（ちからに）ともいう。北海道ほっかいどうの一部いちぶの地域ちいきなどでは、単たんにそぼろと呼よぶ場合ばあいもある。

中国ちゅうごくや台湾たいわんでは豚肉ぶたにくを使つかうことが多おおいが、鶏肉とりにく・牛肉ぎゅうにくを使つかうものもある。

日本にっぽんの田麩でんぶ

桜さくらでんぶを使用しようした弁当べんとう

三さん枚まいにおろした魚さかなをゆで、骨ほねや皮かわを取とり除のぞいた後のち、圧搾あっさくして水気みずけをしぼってから焙炉ほいろにかけてもみくだき、擂すり鉢ばちで軽かるくすりほぐす。その後ご、鍋なべに移うつして、酒さけ・みりん・砂糖さとう・塩しおで調味ちょうみし煎いりあげる。鯛たいなどの白身しろみ魚ぎょを使用しようしたものに食紅しょくべにを加くわえて薄うす紅色こうしょくに色付いろづけすることもある。薄うす紅色こうしょくのものは、その色いろから「桜さくらでんぶ」と呼よばれる。日本にっぽんでは魚肉ぎょにく田麩でんぶをご飯はんに振ふりかけるほか、ちらし寿司ずしや巻まき寿司ずしの具ぐとする。大日本帝国だいにっぽんていこく陸軍りくぐんが開発かいはつ・採用さいようした、ポン菓子かしを使用しようした携帯けいたい糧食りょうしょくである「圧搾あっさく口糧こうりょう」には副ふく食品しょくひんとして、調味ちょうみした削けずり節ぶしをブロック状じょうに押おし固がためた「圧搾あっさく田麩でんぶ」が添そえられていた。

伝説でんせつによれば、京きょうのあたりの貞婦ていふが、病気びょうきで食しょくの進すすまない夫おっとのために、産土神うぶすながみの諭さとしにしたがって、土佐節とさぶしを粉こなにして、酒さけと醤油じょうゆとで味あじをととのえ供きょうしたところ、夫おっとの食欲しょくよくは進すすんで病気びょうきもなおった。そして自分じぶんでも試こころみ、人ひとにもわけたのが初はじめであるという。もしこれが事実じじつとなんらかの関係かんけいがあるとすれば、おそらく田麩でんぶのおこりはカツオのふりかけであろうという。

日本にっぽんの田麩でんぶには一般いっぱんに魚肉ぎょにくが用もちいられるが、中国ちゅうごくとの関係かんけいが深ふかく、肉食にくしょくの禁忌きんきが存在そんざいしなかった沖縄おきなわには、豚肉ぶたにくを原料げんりょうとする「はんちゅみ」と呼よばれる肉にく田麩でんぶがある。

中国ちゅうごくの肉にく田麩でんぶ

猪いの肉にく鬆す（中国ちゅうごくの豚肉ぶたにくの田麩でんぶ）

中国ちゅうごく語ごでは、肉にくの繊維せんいをほぐしてふんわりさせたものであることから、「肉にく鬆す」（ロウソン、ròusōng）と呼よぶのが一般いっぱん的てきである。一般いっぱん的てきに豚肉ぶたにく製せい肉にく鬆すは淡あわい茶色ちゃいろに着色ちゃくしょくされており、牛肉ぎゅうにく製せい肉にく鬆すは濃こい茶色ちゃいろに着色ちゃくしょくされているため外観がいかんで見分みわけが付つく。

肉にく田麩でんぶの作つくり方かたは明あきら末すえから清きよし初はつに確立かくりつされていたと見みられ、1698年ねんの『養やしなえ小しょう録ろく』には鶏肉とりにくを使つかう作つくり方かたが、1750年ねんの『醒園録ろく』には豚肉ぶたにくと魚肉ぎょにくを使つかう方法ほうほうが記載きさいされている。

中国ちゅうごくでは粥かゆに乗のせたり、マントウと共ともに食たべる事ことが多おおいが、卵焼たまごやきに混まぜ込こむこともある。

「太ふとし倉くら肉にく鬆す」は上海しゃんはいの隣となりの江蘇ちぁんすー省しょう蘇州そしゅう市し太たい倉くら市しの名物めいぶつである。

福建ふっけん省しょう漳州市し竜りゅう海うみ市しも「肉にく鬆す」の一ひとつ重要じゅうような産地さんちである。

台湾たいわんの肉にく田麩でんぶ

台湾たいわん語ごでは、「肉にく酥」（バーソー、bah-soo）または「肉にく脯」（バーフー、bah-huh）と呼よぶ。まれに魚肉ぎょにくの肉にく鬆すも存在そんざいするが、豚肉ぶたにくから作つくった肉にく鬆すがより普及ふきゅうしている。台湾たいわんでも一般いっぱん的てきに豚肉ぶたにく製せい肉にく鬆すは淡あわい茶色ちゃいろに着色ちゃくしょくされており、牛肉ぎゅうにく製せい肉にく鬆すは濃こい茶色ちゃいろに着色ちゃくしょくされているため外観がいかんで見分みわけが付つく。それ以外いがいにも鶏肉とりにくや素もと食しょく（ベジタリアン）のために大豆だいず製品せいひんから作つくられた素す肉にく鬆すなどがある。

台湾たいわんではおにぎりや「蛋餅」と呼よばれるクレープのような朝食ちょうしょく料理りょうりに入いれたり、朝あさ粥かゆに乗のせて食たべる。豚肉ぶたにくや牛肉ぎゅうにくの肉にく鬆すは惣菜そうざいパンの定番ていばんの具ぐにもなっている。台湾たいわんの寿司すしでは、肉にく鬆すの軍艦ぐんかん巻まきが定番ていばんメニューになっている。台湾たいわん風ふうの肉にく田麩でんぶ入いり惣菜そうざいパンやおにぎりは上海しゃんはいなどでも一般いっぱん的てきになっている。

東南とうなんアジアの田麩でんぶ

ベトナムの肉にく田麩でんぶ乗のせ炒飯ちゃーはん

タイ、マレーシア、シンガポールなどでも中国ちゅうごく風ふうの肉にく田麩でんぶは一般いっぱん的てきである。ベトナムでも、豚肉ぶたにく・牛肉ぎゅうにく・鶏肉とりにく・魚肉ぎょにくの田麩でんぶがあるが、他たにカエルの肉にくでつくるものがある。ベトナムには、炒飯ちゃーはんに肉にく田麩でんぶを載のせたり入いれたりしたコムチエン・チャーボン（cơm chiên chà bông）や、揚あげお焦こげに肉にく田麩でんぶと調味ちょうみ料りょうを載のせたコムチャイ・チャーボン（cơm cháy chà bông）などの料理りょうりがある。ミャンマーにはエビで作つくる田麩でんぶがある。

また、かつてフランス領りょうであったベトナム、ラオス、カンボジアなどではフランスパンのサンドイッチ（バインミー）がよく食たべられるが、具つぶさにでんぶを使つかう場合ばあいが多おおい。