軍事ぐんじ教育きょういく

軍事ぐんじ教育きょういく（ぐんじきょういく Military Education）とは一般いっぱんに軍事ぐんじ要員よういんに対たいして作戦さくせん行動こうどうを遂行すいこうするために必要ひつような知識ちしきと技術ぎじゅつを付与ふよする教育きょういくである。

概要がいよう

軍事ぐんじ教育きょういくと軍事ぐんじ訓練くんれんは類義語るいぎごであるが、厳密げんみつには区別くべつするべき概念がいねんであり、軍事ぐんじ教育きょういくは軍事ぐんじ訓練くんれんを包括ほうかつする。一般いっぱんには軍事ぐんじ教育きょういくの用語ようごは「戦争せんそう学がくと戦争せんそう術じゅつの知識ちしきを拡充かくじゅうする科目かもくを人員じんいんに対たいする体系たいけい的てきな教授きょうじゅ」を指さしていた。しかし現代げんだいにおいては軍事ぐんじ教育きょういくの複雑ふくざつ化かと洗練せんれんに伴ともなって職業しょくぎょう軍事ぐんじ教育きょういく(Professional Military Education, PME)という新あたらしい概念がいねんが使用しようされるようになっており、将校しょうこうが安全あんぜん保障ほしょうのために指揮しき官かんまたは幕僚ばくりょうとして勤務きんむすることを可能かのうとするような技術ぎじゅつ、知識ちしき、そして理解りかいを付与ふよするための教授きょうじゅを指さす。詳細しょうさいは後述こうじゅつするが、これはアメリカの軍事ぐんじ教育きょういく制度せいどの改革かいかくの中なかで生うまれ、階級かいきゅうや職種しょくしゅに応おうじて教育きょういく内容ないようが体系たいけい化かされている。

歴史れきし

前ぜん近代きんだいにおける軍事ぐんじ教育きょういく

軍事ぐんじ教育きょういくの歴史れきし的てきな起源きげんは古代こだいにまで遡さかのぼることができるが、現代げんだいのように軍事ぐんじ教育きょういくの体系たいけいが確立かくりつされたのは戦争せんそう学がくと戦争せんそう術じゅつが発展はってんした近代きんだい以後いごであった。古代こだいから近世きんせいにかけての軍事ぐんじ教育きょういくは非ひ体系たいけい的てきなものであり、その内容ないようも時代じだいや地域ちいきによって異ことなっている。古代こだいギリシアの都市とし国家こっかにおいて市民しみん階級かいきゅうは等ひとしく軍事ぐんじ訓練くんれんを受うけており、都市とし国家こっかの一ひとつスパルタで行おこなわれていたスパルタ教育きょういくは幼少ようしょう期きの頃ころから厳格げんかくな教育きょういくを施ほどこしていた。

軍事ぐんじ教育きょういく体系たいけいの近代きんだい化か

近代きんだいに専門せんもん的てき職業しょくぎょう軍人ぐんじんが成立せいりつし、戦闘せんとう技術ぎじゅつの習得しゅうとくに限定げんていされていた軍事ぐんじ教育きょういくの内容ないようは戦術せんじゅつ学がくや戦略せんりゃく学がくの習得しゅうとくにも拡大かくだいするようになった。17世紀せいきにオランダ、フランス、スペインでは初はじめて軍ぐん学校がっこうが設置せっちされ、政府せいふの下したで幼少ようしょう年ねんに対たいする技術ぎじゅつ的てきな教育きょういくが行おこなわれていた。オランダの先進せんしん的てきな軍ぐん学校がっこうで教育きょういくにあたっていたマウリッツは小銃しょうじゅうの操作そうさを基本きほん教練きょうれんに組くみ込こむことで軍事ぐんじ訓練くんれんのモデルを確立かくりつした。18世紀せいきの啓蒙けいもう主義しゅぎの時代じだい精神せいしんを背景はいけいとして社会しゃかいでは民間みんかん人じんのための技術ぎじゅつ学校がっこうが設置せっちされていくに従したがって、軍ぐん学校がっこうの制度せいどはヨーロッパ各地かくちの軍隊ぐんたいで普及ふきゅうしていった。同どう時期じきにヨーロッパ諸国しょこくの各かく言語げんごで軍事ぐんじ学がくの研究けんきゅう、教科書きょうかしょや参考さんこう書しょの出版しゅっぱんをもたらし、科学かがく的てき手法しゅほうに基もとづいた戦争せんそう学がくが成立せいりつした。19世紀せいき後半こうはんにはまずプロイセンで将校しょうこうのための発展はってん的てきな軍事ぐんじ教育きょういくを専門せんもんとする陸軍りくぐん大だい学校がっこうが創設そうせつされ、フランス、イギリス、オーストリア、イタリアでも相次あいついで創設そうせつされていった。プロイセンではシャルンホルストにより体系たいけい的てきな将校しょうこう教育きょういく制度せいどが基礎きそ付つけられ、部隊ぶたい指揮しき官かんや幕僚ばくりょう勤務きんむに必要ひつような専門せんもん的てき知識ちしきと指揮しき能力のうりょくが付与ふよされた。

世界せかい大戦たいせん以後いごの教育きょういく改革かいかく

20世紀せいきにおける徴兵ちょうへい制せいの導入どうにゅうと大だい規模きぼな軍備ぐんびの拡張かくちょうをもたらした世界せかい大戦たいせんは軍事ぐんじ教育きょういくの発達はったつを促うながし、現代げんだいの職業しょくぎょう軍事ぐんじ教育きょういくの体制たいせいが形成けいせいされるに至いたった。第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせん中ちゅうの1917年ねんにロシア革命かくめいが勃発ぼっぱつするとソビエト連邦れんぽうは将校しょうこうを補充ほじゅうするために軍事ぐんじ教育きょういくの制度せいどの体系たいけい化かに乗のり出だし、そこでは高級こうきゅう、中級ちゅうきゅう、初級しょきゅうと軍事ぐんじ教育きょういくの水準すいじゅんを整理せいりして能率のうりつ化かを図はかった。また第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんでは科学かがく技術ぎじゅつの発展はってんと兵器へいきシステムの複雑ふくざつ化かが軍事ぐんじ教育きょういくに影響えいきょうを与あたえ、技術ぎじゅつ将校しょうこうを育成いくせいするための軍事ぐんじ教育きょういくの重要じゅうよう性せいが高たかまった。それと同時どうじに複雑ふくざつ化かと長期ちょうき化かを続つづける軍事ぐんじ教育きょういくの体系たいけいは冷戦れいせん期きにおいては見直みなおさなければならなくなった。特とくにアメリカはこの軍事ぐんじ教育きょういくの改革かいかくに積極せっきょく的てきに取組とりくみ、1898年ねんにアメリカの議会ぎかいは軍事ぐんじ教育きょういく体系たいけいの大だい規模きぼな見直みなおしを決きめた。その結果けっか、国防総省こくぼうそうしょうは職業しょくぎょう軍事ぐんじ教育きょういくの枠組わくぐみの下したで軍ぐん学校がっこうの教育きょういくを再さい編成へんせいし、個別こべつ的てきな能率のうりつではなく全ぜん部隊ぶたいの連繋れんけいと統合とうごう作戦さくせんの遂行すいこうに寄与きよするような軍事ぐんじ教育きょういくを目指めざした。

軍事ぐんじ教育きょういくの諸しょ段階だんかい

軍事ぐんじ教育きょういくの過程かていは段階だんかい的てきに進すすめられる。その教育きょういく体系たいけいは採用さいようした後のちに行おこなわれる新兵しんぺい訓練くんれん、作戦さくせん遂行すいこうのための基本きほん的てきな技能ぎのうを習得しゅうとくする初期しょき訓練くんれん、追加ついか的てきに発展はってん的てきな技能ぎのうを修得しゅうとくする発展はってん訓練くんれん、統率とうそつを習得しゅうとくする統率とうそつ訓練くんれん、部隊ぶたいとしての作戦さくせん行動こうどうを練ねり成なりする部隊ぶたい訓練くんれん、そして職業しょくぎょう軍事ぐんじ教育きょういくや予備よび隊たい訓練くんれんから成なり立たっている。

新兵しんぺい訓練くんれん

新兵しんぺい訓練くんれん(Recruite training)とは新あたらしく入隊にゅうたいした軍事ぐんじ要員よういんに対たいする教育きょういく訓練くんれんである。服務ふくむの諸しょ規則きそく、礼法れいほうなどの基本きほん的てきな行動こうどう様式ようしきの習得しゅうとくに始はじまり、個人こじんまたは分隊ぶんたいの基本きほん教練きょうれん、体力たいりょくの練ねり成なり、衛生えいせい管理かんり、小銃しょうじゅうなどの各種かくしゅ装備そうびの扱あつかい、銃じゅうの分解ぶんかい・結合けつごうと整備せいびの方法ほうほうの習得しゅうとく、航法こうほう、築城ちくじょう構築こうちく、さらに格技かくぎ、射撃しゃげき、匍匐ほふくなどの戦闘せんとう技術ぎじゅつである。

日本にっぽんの自衛隊じえいたいでは、入隊にゅうたい後ごは教育きょういくを担当たんとうする部隊ぶたい（陸上りくじょう自衛隊じえいたいでは教育きょういく団だん、教育きょういく連隊れんたい、教育きょういく大隊だいたい等とう。海上かいじょう自衛隊じえいたい・航空こうくう自衛隊じえいたいでは教育きょういく隊たい。）において同様どうようの訓練くんれんや教育きょういくを受うけ、その後ご各かく分野ぶんやで専門せんもん的てきな教育きょういくを与あたえられる。

士官しかん教育きょういく

士官しかん候補こうほ生せいの場合ばあいは、士官しかん学校がっこうなどで高度こうどな専門せんもん教育きょういくが行おこなわれる。

自衛隊じえいたいの幹部かんぶ候補こうほ生せいについては、防衛大学校ぼうえいだいがくこう、防衛医科大ぼうえいいかだい学校がっこう及および幹部候補生学校かんぶこうほせいがっこうなどで教育きょういくが行おこなわれている。また上級じょうきゅう士官しかんに対たいしては上級じょうきゅう学校がっこう（陸上りくじょう自衛隊じえいたいでは陸上りくじょう自衛隊じえいたい幹部かんぶ学校がっこうなど、旧きゅう日本にっぽん陸軍りくぐんでは陸軍りくぐん大だい学校がっこうなど、旧きゅう日本にっぽん海軍かいぐんでは海軍かいぐん大だい学校がっこうなど。）で教育きょういくが行おこなわれる。

教育きょういく内容ないよう

基本きほん教練きょうれんの訓練くんれん

基本きほん教練きょうれん(Military Drill)とは個人こじんおよび部隊ぶたいの基本きほん動作どうさを統制とうせいする一定いっていの動作どうさ様式ようしきである。基本きほん教練きょうれんにおいてはまず視線しせんを前方ぜんぽうに向むけ、両手りょうてを体側たいそくに付つけた上うえで両足りょうあしの爪先つまさきを約やく45度どに開ひらいて踵かかとをつけた直立ちょくりつ不動ふどうの姿勢しせい(気きを付つけ、Attention)が基本きほん姿勢しせいとなる。この不動ふどうの姿勢しせいを基礎きそとして、前進ぜんしんの基本きほん方向ほうこうとなる前方ぜんぽう、前方ぜんぽうを向むいた状態じょうたいで回まわれ右みぎにより向むく背後はいご、さらに前方ぜんぽうに対たいする左右さゆう方向ほうこうの基本きほん的てきな四よん方向ほうこうが定義ていぎされ、回まわれ右みぎ、右みぎ向むけ右みぎ、左ひだり向むけ左ひだりなどの号令ごうれいによって決きめられた動作どうさと節度せつどで所定しょていの方向ほうこうへ転換てんかんする。分隊ぶんたい、小隊しょうたいなどの部隊ぶたいでもこの基本きほん教練きょうれんによって行進こうしんすることが可能かのうとなる。

戦闘せんとう技術ぎじゅつの訓練くんれん

戦闘せんとう技術ぎじゅつとは個人こじんが発揮はっきする基礎きその戦せん技わざであるが、これは格技かくぎから射撃しゃげきなど非常ひじょうに幅広はばひろい技能ぎのうを含ふくむものである。基本きほん的てきな戦闘せんとう技術ぎじゅつとしては徒手としゅ格闘かくとう、短剣たんけん格闘かくとう、小銃しょうじゅうの射撃しゃげき、銃じゅうの分解ぶんかい結合けつごう、各種かくしゅ匍匐ほふく、手榴弾しゅりゅうだんの投擲とうてき、偽装ぎそう、陣地じんち構築こうちく、対戦たいせん車しゃ兵器へいき、軍事ぐんじ通信つうしん、応急おうきゅう手当てあて、地図ちず判読はんどくなどが挙あげられる。

軍事ぐんじ科学かがくの教育きょういく

士官しかんは軍隊ぐんたいにおいて作戦さくせん部隊ぶたいを指揮しきする立場たちばにあるために戦術せんじゅつ学がくが学まなばれる。戦術せんじゅつ教育きょういくでは基礎きそ理論りろんとしての原則げんそく、戦闘せんとう力りょく、状況じょうきょう判断はんだん、兵站へいたん、攻撃こうげき、防御ぼうぎょ、後退こうたい、命令めいれい、軍隊ぐんたい符号ふごうなどについての専門せんもん的てきな教育きょういくを受うけることとなる。図上ずじょう戦術せんじゅつによって基本きほん的てきな戦術せんじゅつ作業さぎょうを習得しゅうとくした後のちに実際じっさいに現地げんちに赴おもむいて出題しゅつだいされた状況じょうきょうにおいて答案とうあんを作成さくせいする現地げんち戦術せんじゅつや演習えんしゅう、軍事ぐんじ史しにおける作戦さくせん・戦闘せんとうの事例じれいの教育きょういくである戦史せんし教育きょういくなどによって学習がくしゅうする。

関連かんれん項目こうもく

• 兵学へいがく - 軍事ぐんじ学がく - 防衛ぼうえい学がく - 軍学ぐんがく
• 戦争せんそう玩具おもちゃ
• 軍事ぐんじ訓練くんれん
• 防衛大学校ぼうえいだいがくこう
• 防衛医科大ぼうえいいかだい学校がっこう
• 江川えがわ英龍ひでたつ：「気きを付つけ」や「右みぎ向むけ右みぎ」や「回まわれ右みぎ」等とうの掛かけ声ごえを日本語にほんごに訳やくさせた

参考さんこう文献ぶんけん

• U.S.Department of Defense. 1988. JCS Pub. 1. Dictionary of military associated terms. Washington,D.C.:Public Affairs Press.
• U.S.Department of Defense. 1989. Military manpower training report. Washington,D.C.: Office of the Assistant Secretary of Defense(Force Management and Personnel).
• Van Creveld, M. 1990. The training of officers. New York: Free Press.

外部がいぶリンク

• 『軍隊ぐんたい教育きょういく』 - コトバンク
• 『軍事ぐんじ教練きょうれん』 - コトバンク