鍾馗しょうき

鍾馗（しょうき）は、主おもに中国ちゅうごくの民間みんかん伝承でんしょうに伝つたわる道教どうきょう系けいの神かみ。日本にっぽんでは、疱瘡ほうそう除のけや学業がくぎょう成就じょうじゅに効こうがあるとされ、端午たんごの節句せっくに絵えや人形にんぎょうを奉納ほうのうしたりする。また、鍾馗しょうきの図像ずぞうは魔まよけの効験こうけんがあるとされ、旗はた、屏風びょうぶ、掛かけ軸じくとして飾かざったり、屋根やねの上うえに鍾馗しょうきの像ぞうを載のせたりする。

鍾馗しょうきの図像ずぞうは必かならず長ながい髭ひげを蓄たくわえ、中国ちゅうごくの官かん人じんの衣装いしょうを着きて剣けんを持もち、大おおきな眼めで何なにかを睨にらみつけている姿すがたである。

縁起えんぎ

鍾馗しょうきの縁起えんぎについては諸説しょせつあるが、もともとは中国ちゅうごくの唐とう代だいに実在じつざいした人物じんぶつだとする以下いかの説話せつわが流布るふしている^[1]。

ある時とき、唐とうの6代だい皇帝こうてい玄げん宗むねが瘧おこり（おこり、マラリア）にかかり床ゆかに伏ふせた。

玄げん宗むねは高熱こうねつのなかで夢ゆめを見みる。宮廷きゅうてい内ないで小しょう鬼おにが悪戯いたずらをしてまわるが、どこからともなく大だい鬼おにが現あらわれて、小しょう鬼おにを難なんなく捕とらえて食たべてしまう。玄げん宗むねが大だい鬼おにに正体しょうたいを尋たずねると、「自分じぶんは終おわり南県みなみあがた出身しゅっしんの鍾馗しょうき。武徳ぶとく年間ねんかん（618年ねん-626年ねん）に官吏かんりになるため科挙かきょを受験じゅけんしたが落第らくだいし、そのことを恥はじて宮中きゅうちゅうで自殺じさつした。だが高祖こうそ皇帝こうていは自分じぶんを手厚てあつく葬ほうむってくれたので、その恩おんに報むくいるためにやってきた」と告つげた。

夢ゆめから覚さめた玄げん宗むねは、病気びょうきが治なおっていることに気付きづく。感かんじ入いった玄げん宗むねは著名ちょめいな画家がかの呉道玄ごどうげんに命めいじ、鍾馗しょうきの絵姿えすがたを描えがかせた。その絵えは、玄げん宗むねが夢ゆめで見みたそのままの姿すがただった。

玄げん宗むねの時代じだいから臣下しんかは鍾馗しょうき図ずを除夜じょやに下賜かしされ、邪気じゃき除じょけとして新年しんねんに鍾馗しょうき図ずを門もんに貼はる風習ふうしゅうが行おこなわれていた記録きろくがある^[2]。宋そう代だいになると年末ねんまつの大だい儺にも貼はられるようになり、17世紀せいきの明代あきよ末期まっきから清きよし代だい初期しょきになると端午たんごの節句せっくに厄除やくよけとして鍾馗しょうき図ずを家々いえいえに飾かざる風習ふうしゅうが生うまれた^[1]。

鍾馗しょうき図ずは初期しょきには呉道玄ごどうげんの構図こうずの模倣もほうが主おもだったが、明代あきよに『鍾馗しょうき全ぜん伝つて』などの小説しょうせつが流行りゅうこうすると騎虎きこ図ずや吉祥きっしょう図ずなど多様たようなバリエーションが生うまれ、悪疫あくえき除のけの風習ふうしゅうとともに東ひがしアジア一帯いったいに伝播でんぱした^[2]。

日本にっぽんでの鍾馗しょうき

日本にっぽんに鍾馗しょうきが流入りゅうにゅうした経緯けいいは定さだかでは無ないが、最もっとも古ふるい鍾馗しょうき図ずの例れいとして平安へいあん時代じだい末期まっき作さくの辟邪絵えのひとつに確認かくにんできる^[2]。室町むろまち時代じだい以降いこうは漢かん画がの画題がだいとして多おおくの画師えしに好このまれた。

民衆みんしゅうのあいだでは、江戸えど時代じだい末まつ（19世紀せいき）ごろから関東かんとうで鍾馗しょうきを五月ごがつ人形にんぎょうにしたり、近畿きんきで魔除まよけけとして鍾馗しょうき像ぞうを屋根やねに置おく風習ふうしゅうが見みられるようになった^[1]。

京都きょうと市内しないの民家みんか（京町きょうまち家か）など近畿きんき - 中部ちゅうぶ地方ちほうでは、現在げんざいでも大だい屋根やねや小しょう屋根やねの軒先のきさきに10 - 20cm大だいの瓦かわら製せいの鍾馗しょうきの人形にんぎょうが置おいてあるのを見みかけることができる。これは、昔むかし京都きょうと三条さんじょうの薬屋くすりやが立派りっぱな鬼瓦おにがわらを葺ふいたところ向むかいの家いえの住人じゅうにんが突如とつじょ原因げんいん不明ふめいの病やまいに倒たおれ、これを薬屋くすりやの鬼瓦おにがわらに跳はね返かえった悪わるいものが向むかいの家いえに入はいったのが原因げんいんと考かんがえ、鬼おにより強つよい鍾馗しょうきを作つくらせて魔除まよけけに据すえたところ住人じゅうにんの病やまいが完かん治なおしたのが謂いわれとされる^[3]。