道みち (哲学てつがく)

道みち（タオ、Tao、どう、みち）とは、中国ちゅうごく哲学てつがく上じょうの用語ようごの一ひとつ。人ひとや物ぶつが通とおるべきところであり、宇宙うちゅう自然しぜんの普遍ふへん的てき法則ほうそくや根元ねもと的てき実在じつざい、道徳どうとく的てきな規範きはん、美びや真実しんじつの根元ねもとなどを広ひろく意味いみする言葉ことばである。道家みちやや儒家じゅかによって説とかれた。

解釈かいしゃくの諸しょ例れい

思想家しそうかにおける道みち

中国ちゅうごくの古ふるい書物しょもつはそのほとんどが、一人ひとりの著者ちょしゃのみで書かいたものではなく、時代じだいを変遷へんせんして、多数たすうの著者ちょしゃの手てにより追記ついき編集へんしゅうされていったものであるとされている。その門流もんりゅうの人々ひとびとは、次々つぎつぎにその原本げんぽんに書かき足たしていったものを、全体ぜんたいとして構成こうせいし直なおし、それをその発端ほったん者しゃの名前なまえで呼よんでいるようである。そのため、ある思想家しそうかにおける「道みち」の概念がいねんについて見みる場合ばあい、最初さいしょの著者ちょしゃか、その思想しそうに準じゅんじた別べつの著者ちょしゃの思想しそうを合あわせたものを、その思想家しそうかにおける「道みち」として検討けんとうしてゆくことが妥当だとうであるといえる。

老子ろうし

老子ろうし道徳どうとく経けいの場合ばあい、「道みち」についての記述きじゅつは、四よん種しゅの思想しそう・人物じんぶつに区分くぶんできる。

老子ろうしの思想しそうの形成けいせいについて

老子ろうし道徳どうとく経けいの古ふるい写本しゃほんでは、「上うえ篇へん　徳とく」、「下した篇へん　道みち」の編へん名めいの順序じゅんじょとなっている。「道みち」・「徳とく」の順番じゅんばんになったのは、一いち世紀せいきから三さん世紀せいきのころとされ、そのころ、章あきら別べつも行おこなわれたとされる。また、老子ろうしなる人物じんぶつが生いきたであろう時代じだいと『老子ろうし道徳どうとく経けい』が作つくられた時代じだいには開ひらきがあり、この書しょは、その系譜けいふに当あたる弟子でしが後年こうねんに纏まとめたものという説せつや、老子ろうしは3人にんいたという説せつがある。「道みち」の内容ないようについても、哲学てつがく的てきな句くから、独断どくだん的てきな処世しょせい術じゅつの句くまでが混在こんざいしている。そのため、老子ろうしなる人物じんぶつが生いきて著作ちょさくしたであろう時代じだいよりも、もっと古ふるくから伝つたわっていた諺ことわざや名言めいげんを、『老子ろうし』の編集へんしゅう者しゃは、その著作ちょさくに取とり入いれた、とする見解けんかいがある。また、古ふるい老子ろうし道徳どうとく経けいは、五ご千せん字余じあまりしかないにもかかわらず、「上うえ篇へん　徳とく」、下した篇へん　「道みち」の順序じゅんじょに分わけられている。そのように構成こうせいされたのは、本ほんの内容ないようや本ほんの章しょう分わけがその原因げんいんとはなっていない、と推察すいさつされている。老子ろうし道徳どうとく経けいが生うまれた経緯けいいについて考かんがえた場合ばあい、古ふるくから伝つたわっていた諺ことわざや名言めいげんを作成さくせいした人物じんぶつらがいて、その編集へんしゅうや解説かいせつをした人物じんぶつが「徳とく篇へん」を形成けいせいし、そこで述のべられた道みちの思想しそうを、増幅ぞうふくした形かたちで「上うえ篇へん　徳とく」、下した篇へん　「道みち」の形かたちに編纂へんさんした人物じんぶつらがいた、ということが考かんがえられる。古ふるい構成こうせいを逆転ぎゃくてんさせ、現在げんざいのような「道みち」から始はじまり「下した篇へん　徳とく」の形かたちに定着ていちゃくさせたのが、老子ろうし道徳どうとく経けいであると考かんがえられる要因よういんの一ひとつには、第だい十じゅう八はち章しょうの、「大道だいどう廃すたれて仁義じんぎあり」の句くは、孟子もうしと同どう時期じきか、あるいはその後ご輩やからと同どう時期じきの篇へん者しゃが作成さくせいした、と見みられていることがあげられる。

普遍ふへん的てき法則ほうそくとしての道みち

道みちと無為むいとを同一どういつ視しして考かんがえる。また、道みちを「象ぞう」ではなく、「物もの」として見みる。 第だい21章しょうでは、道みちは音おともなく形かたちもない、さわることもできない、とされている。そして、その目的もくてきとする「物もの」にゆきついたとき、人ひとは忽然こつぜんとなり、それを何なによりも大おおきく感かんじるのである。

根元ねもと的てき実在じつざいとしての道みち

道みちは無むと有ゆうの反復はんぷく運動うんどうの中なかに、全体ぜんたい的てきな実在じつざいとして表象ひょうしょうされる。 反たんとは道みちの動どうとされ（40章しょう）、道みちは循環じゅんかん運動うんどうを永遠えいえんに続つづけているとされる。

政治せいじ思想しそうとしての道みち

他たの政治せいじ思想しそうと相対そうたいする、政治せいじ理念りねんでしかない道みち。 第だい18章しょうの、「大道だいどう廃すたれて仁義じんぎあり」の句くは、孟子もうしと同どう時期じきか、あるいはその後ご輩やからと同どう時期じきの篇へん者しゃが、作成さくせいしたと思おもわれる。また、第だい57章しょうにある聖人せいじんは、「無む私わたし」によって聖人せいじんとしての「私わたし」を成就じょうじゅする、というこだわりが、無為むい自然しぜんと一体いったいとなるということと、別べつ次元じげんの関係かんけいにある。ここでは、事実じじつ上じょう、聖人せいじんの存在そんざいなどはほとんど必要ひつようないといえる。

処世しょせい術じゅつとしての道みち

権謀けんぼう的てきで、処世しょせい術じゅつでしかない道みち。 第だい3章しょうの、「民みんの志こころざしを弱よわめることによって、彼かれらの骨ほねを強固きょうこにしてやる。つねに民みんをして、無知むち無欲むよくであるようにしてやる」という言葉ことばは、したたかな権謀けんぼうとも解ほぐせるものである。36章しょう、48章しょう、57章しょう、59章しょうにも同様どうような処世しょせい術じゅつがある。

「建言けんげん」に見みる、実在じつざいとしての道みち

道みちは、この現象げんしょう界かいを超こえたところで、現象げんしょう界かいを生起せいきさせ変化へんかさせる一いち者しゃとして考かんがえられている。それは、すべての現象げんしょうをそうあらしめている原理げんりとしての性格せいかくと、宇宙うちゅう生成せいせい論ろん的てきな発生はっせいの根源こんげん者ものという性格せいかくの二に面めんが融合ゆうごうしていることが知しられている。

「建言けんげん」というのは、下した編へんの最初さいしょのほうに出でてくる『老子ろうし道徳どうとく経けい』よりも古ふるくからあったとされる、諺ことわざなどを記しるした書物しょもつであるとされている。この諺ことわざや名言めいげんは、老子ろうし本文ほんぶんを構成こうせいするのに引用いんようされているところからすると、「老子ろうし下か編へん」を編集へんしゅうした人物じんぶつにとっての、最古さいこの老子ろうしの伝説でんせつの書しょのようなものであったということができる。「建言けんげん」とは、永久えいきゅうに記憶きおくされるべきことば、という意味いみを持もつ。 。

「建言けんげん」によると、実在じつざいとしての道みちは、循環じゅんかん運動うんどうを永遠えいえんに続つづけている。あらゆる存在そんざいは、「有ゆう」として、「無む」から生うまれている。「有ゆう」が「無む」として、「無む」が「有ゆう」として、運動うんどうして（生うまれて）ゆく姿すがたは、反はん（循環じゅんかん）である。（第だい40章しょう）。

「道みち」は一いちを生うみ出だす。一いちは二にを生うみ出だす。万物ばんぶつは陰かげ（無為むい）を背負せおって、陽ひ（有為ゆうい）を抱かかえる。沖おき気きというのは、調和ちょうわ（均衡きんこう）の状態じょうたいを維持いじすることである。道みちは全体ぜんたいに対たいして、弱よわい力ちからとして働はたらいている（42章しょう）。

「道みち」は隠かくれたもので、名ながない。大だい象ぞう（無限むげんの象ぞう）は形かたちがない。「道みち」こそは、何なににもまして（すべてのものに）援助えんじょを与あたえ、しかも（それらが目的もくてきを）成なりしとげるようにさせるものである。この援助えんじょは、徳とくとも、慈悲じひとも言いえるものである。

上徳かみとく（道みちの徳とく）は、徳とくのようには見みえない。（第だい38章しょう）。

不言ふげんの教きょうについて

不言ふげんの教きょうと、無為むいの益えきとは、世よの中なかでそれに匹敵ひってきするものはほとんどないとされる。（第だい43章しょう）。

不言ふげんの教きょうには次つぎの三さん種類しゅるいがある。

• 権謀けんぼう家かによる不言ふげんの処世しょせい術じゅつ。自みずからを聖人せいじんとし、自分じぶんの態度たいどを見みて、人民じんみんは学まなぶべきだと主張しゅちょうする。
• 無為むい自然しぜんの生いき方かたによる、他者たしゃへの不言ふげんの説教せっきょう。施政しせい者ものの立場たちばにある者ものが無為むい自然しぜんの生いき方かたを政治せいじに取とり入いれ、自みずからの生いき方かたを人民じんみんの見本みほんとすること。
• 道みちの働はたらきの中なかに感得かんとくされる不言ふげんの教おしえ。例たとえば水みずを見みて、人ひとが何なにかを学まなんだとした場合ばあい、言葉ことばによって水みずが無為むいの教おしえを教おしえたわけではないので、言葉ことばを超越ちょうえつした教おしえであるという意味いみで、不言ふげんの教きょうとする。

慈悲じひの教おしえについて

人々ひとびとの心しんを心しんとする（第だい49章しょう）、というのは、人々ひとびとの苦くるしみの心しんを自分じぶんの心しんとするという意味いみがある。また、「聖人せいじんは、善人ぜんにんも不善ふぜんな人ひともそれぞれに尊たっとび、愛あいし、いずれも捨すてない、という言葉ことばには、道みちの徳とくと合一ごういつした慈悲じひの教おしえが表あらわされている。 第だい67章しょうには、「我がに三宝さんぼうあり、一いちにいわく慈」という言葉ことばがある。

荘そう子こ

『荘そう子こ』の著者ちょしゃは、一人ひとりではなく、時代じだいを変遷へんせんして、多数たすう存在そんざいしているとされている。想定そうていされる原書げんしょがそのまま伝つたえられたものではなく、この門流もんりゅうの人々ひとびとが書かき足たしていったものを全体ぜんたいとして、『荘そう子こ』と呼よんでいるようである。

荘そう子こにおける道みち

自然しぜんの道みちから見みれば、分散ぶんさんすることは集成しゅうせいであり、集成しゅうせいすることは、そのまま分散ぶんさん破壊はかいすることに他たならない。道みちを体得たいとくするとは、すべてを通つうじて一いちであることを知しるということである。すべてのものは、生成せいせいと破壊はかいの区別くべつなく道みちにおいて一いちとなっている（斉ひとし物論ぶつろん篇へん）。

道みちは万物ばんぶつが皆みなよって生しょうずる根本こんぽん的てきな一いち者しゃであるとしている。道みちは無為むい無形むけいの造物主ぞうぶつしゅとして古いにしえより存在そんざいするが、情じょうあり、信しんじありとされている。また、根本こんぽん的てきな一いち者しゃとしての「道みち」は、無限むげんなる者ものであるとされる。

道みちにおける万物ばんぶつ斉ひとし同どうについて

万物ばんぶつという語かたりを「人生じんせい」という語かたりに置おき換かえると、人生じんせいのすべてをそのままに良いしとして引ひき受うける態度たいどが、万物ばんぶつ斉ひとし同どうにおける徳とくであるといえる。また、万物ばんぶつ斉ひとし同どうの思想しそうにおいては、富とみ貧ひん、貴き賤、長命ちょうめい短命たんめい、幸こう不幸ふこうと呼よばれている差別さべつの姿すがたは、すべて人為じんいによって構成こうせいされた虚妄きょもうに過すぎないとされている。道みちは、すべてのものを等ひとしく育はぐくんでいるとされる。荘そう子こは、「これこそが、至上しじょうの徳とくである」（人間にんげん世よ篇へん）としている。これを現代げんだい風ふうに解釈かいしゃくすると、宇宙うちゅうの真理しんりの前まえでは、男女だんじょ、民族みんぞく、共産きょうさん主義しゅぎ、宗教しゅうきょう、国家こっかの差別さべつなどは、すべて、仮かりの姿すがたに過すぎないということができる。

孔子こうし

孔子こうしは天道てんとうを継承けいしょうし、詩経しきょうと書しょ経けいで人道じんどうについても語かたり、「子こ曰 朝あさ聞道きくならく 夕ゆう死し可か矣」や「子こ曰 參さん乎 吾われ道どう一いち以貫之の哉」（『論語ろんご』 巻まき第だい2 里さと仁じん第だい4）といった名句めいくに道義どうぎ的てき真理しんりがあり、天地人てんちじんの道みちを追究ついきゅうした孔子こうしの姿勢しせいが窺うかがえる。

孟子もうし

孟子もうしは、「是ぜ故こ 誠まこと者しゃ天てん之の道也みちや 思おもえ誠まこと者しゃ人じん之の道也みちや」（『孟子もうし』 離はなれ婁 上じょう）と「天てん之の道みち」、「人ひと之の道みち」と「誠まこと」に言及げんきゅうしている。この言葉ことばは、『中庸ちゅうよう』における、「誠まこと者しゃ天てん之の道也みちや 誠之せいし者しゃ人じん之の道也みちや」と「天てん之の道みち」、「人ひと之の道みち」が「誠まこと」であるとしていることにもとづいている。

洪ひろし自じ誠まこと

『菜根さいこん譚たん』には、「道みちを守まもって生いきれば孤立こりつする。だがそれは一時いちじのことだ。権力けんりょくにへつらえば居心地いごこちはよかろう。だが、そののちに来くるのは永遠えいえんの孤独こどくだ。めざめた人ひとは、現世げんせいの栄達えいたつに迷まよわされず、はるかな理想りそうに生いきるのだ」と記しるし、洪ひろし自じ誠まことの主張しゅちょうとして、一時いちじの孤立こりつを恐おそれ、永遠えいえんの孤独こどくを招まねくのではなく、道みちを守まもる事ことが肝心かんじんと説とく。

各かく宗教しゅうきょうにおける道みち

古代こだい中国ちゅうごく

古代こだい中国ちゅうごくにおいて、天てんは超ちょう人的じんてきな宇宙うちゅうの支配しはい者しゃとして絶対ぜったい視しされた。中国ちゅうごくが天てんを畏敬いけいするようになったのは、紀元前きげんぜん1700年ねん頃ころよりのこととされる。。

中国ちゅうごく民族みんぞくの運命うんめい観かんとは、天命てんめい思想しそうであった。古代こだいにおいては、人格じんかく神しんであった天帝てんていが、天命てんめいを下くだすと信しんじられてきた。しかし、時代じだいがたつにつれて天てんの人格じんかく性せいが薄うすれ、やがて天道てんとうや天理てんりといったロゴス的てき存在そんざいに転化てんかしていったとされる。

道教どうきょう

道教どうきょうにおける「道みち」の概念がいねんは、神秘しんぴ思想しそうの上うえに取とり入いれられ、道家どうかのそれとはかけはなれた概念がいねんとなっているとされていたが、近年きんねんはフランス学派がくはの学者がくしゃたちを中心ちゅうしんに道家どうかと道教どうきょうの連続れんぞく性せいを認みとめる傾向けいこうが多おおくなってきている。

初期しょき仏教ぶっきょう

サーリプッタの悟さとりとブッダの問といかけ

初期しょき仏教ぶっきょうの経典きょうてんの中なかには、サーリプッタが解脱げだつをしたときに、ゴータマ・ブッダが「再ふたたびこの存在そんざいに戻もどることはないと開ひらけ悟さとるしたことを明言めいげんしたのか」と問とうたとき、「内うちに専心せんしんして、外そとの諸行しょぎょうに向むかうときに道みちが出で起おこして、阿羅漢あらかん位くらいに達たっした」と語かたったとされる。他たに、「内うちに専心せんしんして、内うちに向むかうと道みちが出で起おこり」、「外そとに専心せんしんして外そとに向むかうと道みちが出で起おこり」「外そとに専心せんしんして、内うちに向むかうと道みちが出で起おこり」という四よん通とおりがあるとされる。「この存在そんざい」という自己じこ意識いしきから解脱げだつするとき、道みち（宇宙うちゅうの真理しんり）が出で起おこりすると見みることができる。ゴータマとサーリープッタの語かたっていることに差異さいがあるのは、聖者せいじゃごとに開ひらけ悟さとる（解脱げだつ）の内容ないようはいろいろで、複数ふくすうあったとされるためである。

初期しょきにおいては、ゴータマが説法せっぽうすることを「梵輪をまわす」と呼よんでいた。これは古いにしえウパニシャッドからきており、宇宙うちゅうの真理しんりを悟さとった人ひとが説法せっぽうをするという意味いみがあるとされる。ゴータマの意識いしきの中なかでは、宇宙うちゅうの真理しんりを悟さとったという自覚じかくがあったようであり、サーリプッタの悟さとりによって、宇宙うちゅうの真理しんりを悟さとることと、「道みち」という実在じつざいが出で起おこりすることとは、悟さとりの段階だんかいの違ちがいはあっても、本質ほんしつ的てきには同おなじであるということが明あきらかにされたと見みることができる。

関連かんれん項目こうもく

• 道みち (国学こくがく) - 日本にっぽん国学こくがくにおいて天地人てんちじんの道みちに対たいする批判ひはんが展開てんかいされた
• 老子ろうし道徳どうとく経けい
• 荘そう子こ (書物しょもつ)
• 初期しょき仏教ぶっきょう

外部がいぶリンク

• 老子ろうしの思想しそう-「道みち」 の働はたらきワード
• 老子ろうし Lǎozĭ 道德どうとく經けい Dàodéjīng