H部隊ぶたい

H部隊ぶたい（Hぶたい、英語えいご: Force H）は、イギリス海軍かいぐんが第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん中なかに編成へんせいした任務にんむ部隊ぶたいの一ひとつ。ただし、H部隊ぶたいそれ自体じたいが「任務にんむ部隊ぶたい（Task Force）」と呼称こしょうされていたわけではない。

概要がいよう

H部隊ぶたいは、イギリス海軍かいぐんが第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんで編成へんせいした艦隊かんたい。最初さいしょのH部隊ぶたいは、ドイツ海軍かいぐんのポケット戦艦せんかん対策たいさくの一環いっかんとして、1939年ねん10月に重じゅう巡洋艦じゅんようかん2隻せきで編成へんせいされた^[1]（イギリス海軍かいぐん、任務にんむ部隊ぶたい一覧いちらん）。

1940年ねん6月がつ上旬じょうじゅんにイタリア王国おうこくが枢軸すうじく国こく側がわとして参戦さんせんし、6月がつ中旬ちゅうじゅんにフランスが事実じじつ上じょう降伏ごうぶくして地中海ちちゅうかい戦線せんせんに影響えいきょうが生しょうじた。イタリア王立おうりつ海軍かいぐんが地中海ちちゅうかいの中央ちゅうおう部ぶに陣取じんどり、ヴィシー政権せいけんのフランス海軍かいぐんが中立ちゅうりつ化かしたので、イギリスは地中海ちちゅうかい西部せいぶのイギリス海軍かいぐんを増強ぞうきょうする^[2]^{[注釈ちゅうしゃく 1]}。イタリアの降伏ごうぶくまで地中海ちちゅうかい西部せいぶをH部隊ぶたいが、東部とうぶを地中海ちちゅうかい艦隊かんたいが担当たんとうした。H部隊ぶたいはジブラルタルを拠点きょてんとし^[4]、地中海ちちゅうかい攻防こうぼう戦せんと大西洋たいせいよう攻防こうぼう戦せんの双方そうほうに加くわわった。1941年ねん5月がつ下旬げじゅんにはドイツ戦艦せんかんビスマルク捜索そうさくに投入とうにゅうされ^[5]、H部隊ぶたいの艦上かんじょう攻撃こうげき機きがビスマルクの運命うんめいを決けっする一いち撃げきを加くわえた^[6]。

H部隊ぶたいはイギリス海軍かいぐんの指揮しき系統けいとうにおいて一いち風ふう変かわった位置いちにあった。通常つうじょうのイギリス海軍かいぐん部隊ぶたいのあり方かたから考かんがえると、ジブラルタルを基地きちとするH部隊ぶたいは、その地域ちいきを管轄かんかつするジブラルタルの司令しれい（北大西洋きたたいせいよう戦域せんいき司令しれい官かん、Flag Officer North Atlantic）を間あいだに挟はさんで、第だい一いち海軍かいぐん卿きょうの指揮しき下かにおかれることとなる。しかし実際じっさいのところH部隊ぶたいは間あいだに誰だれも通とおさず、第だい一いち海軍かいぐん卿きょうの直接ちょくせつ指揮しき下かにおかれていた。

戦歴せんれき

ポケット戦艦せんかん狩かり

1939年ねん（昭和しょうわ14年ねん）9月がつ初旬しょじゅんの第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん勃発ぼっぱつと共ともに、ドイツ海軍かいぐん (Kriegsmarine) の「ポケット戦艦せんかん」ドイッチュラント級きゅう装甲そうこう艦かんのアドミラル・グラーフ・シュペーが大西洋たいせいようで活動かつどうを開始かいしした^[7]^[8]。 9月30日にち、商船しょうせんクレメントがシュペーに撃沈げきちんされた^[9]^[10]。イギリス海軍かいぐんはドイツ通商つうしょう破壊はかい艦かんが南みなみ大西洋たいせいようにいることに気付きづき、遭難そうなん者しゃの報告ほうこくにより敵艦てきかんが「ポケット戦艦せんかん」であると認定にんていする^{[注釈ちゅうしゃく 2]}。海軍かいぐん本部ほんぶのパウンド軍令ぐんれい部長ぶちょう（第だい一いち海軍かいぐん卿きょう）は対策たいさくを協議きょうぎし、ポケット戦艦せんかんを捕捉ほそくして撃滅げきめつするため複数ふくすうの狩猟しゅりょう部隊ぶたい (List of task forces of the Royal Navy) を編成へんせいすることにした^[13]。そのうちの一ひとつとしてH部隊ぶたいが編成へんせいされた^[13]。この時点じてんでのH部隊ぶたいはロンドン級きゅう重じゅう巡洋艦じゅんようかん（カウンティ級きゅう重じゅう巡洋艦じゅんようかん）のサセックスとシュロップシャーで編成へんせいされ、喜き望もち峰ほう周辺しゅうへんに配置はいちされた^[1]。

カタパルト作戦さくせん

詳細しょうさいは「ナチス・ドイツのフランス侵攻しんこう」および「ナチス・ドイツによるフランス占領せんりょう」を参照さんしょう

1940年ねん5月がつ、ドイツ国防こくぼう軍ぐんの電撃でんげき戦せんにより連合れんごう国こくは西部せいぶ戦線せんせんで大敗たいはいした。フランス第だい三さん共和きょうわ政せいは6月22日にちにナチス・ドイツと独どく仏ふつ休戦きゅうせん協定きょうていを、24日にちにイタリア王国おうこくとヴィラ・インサーチ協定きょうてい（フランス語ふらんすご版ばん、イタリア語ご版ばん）を締結ていけつし、事実じじつ上じょう降伏ごうぶくした。フランス本国ほんごくは分割ぶんかつされ、自由じゆう地域ちいきでフィリップ・ペタン元帥げんすいを国家こっか主席しゅせきとするヴィシー政権せいけんが樹立じゅりつした。これを良いしとしないド・ゴール将軍しょうぐんがイギリスに亡命ぼうめいし、自由じゆうフランスと自由じゆうフランス軍ぐんが発足ほっそくしたが、自由じゆうフランス海軍かいぐんも小規模しょうきぼ部隊ぶたいにすぎなかった。

詳細しょうさいは「ノルウェーの戦たたかい」および「ヴェーザー演習えんしゅう作戦さくせん」を参照さんしょう

再編さいへんされたH部隊ぶたいの最初さいしょの作戦さくせんは、フランスの動向どうこうと深ふかく関かかわるものであった。チャーチル首相しゅしょうが率ひきいるイギリス首脳しゅのう部ぶは、地中海ちちゅうかいに残存ざんそんしているフランス艦隊かんたいが地中海ちちゅうかいにおけるイギリスの権益けんえきにとって脅威きょういであるとみなしていた。独どく仏ふつ休戦きゅうせん条約じょうやく上じょう、フランスは自みずからの艦艇かんていを引ひき続つづき保有ほゆうすることになっていた。しかしヴィシー政権せいけんがフランス艦艇かんていをドイツに引ひき渡わたせば、地中海ちちゅうかい攻防こうぼう戦せんはイギリスにとって決定的けっていてきに不利ふりになる可能かのう性せいがあった。

ドイツ海軍かいぐんがノルウェー侵攻しんこう作戦さくせん（ヴェーザー演習えんしゅう作戦さくせん）で大だい損害そんがいを受うけたため^[14]、イギリスは本土ほんど周辺しゅうへん海域かいいきから戦力せんりょくを引ひき抜ぬき、西にし地中海ちちゅうかいに増派ぞうはすることが可能かのうになった^[2]。H部隊ぶたいは巡めぐ洋よう戦艦せんかんフッド (HMS Hood) 、空母くうぼアーク・ロイヤル (HMS Ark Royal, 91) を基幹きかんに再編さいへんされた^[15]。ジェームズ・サマヴィル海軍かいぐん中将ちゅうじょうは、フッドに将はた旗はたを掲かかげた^[15]。

詳細しょうさいは「メルセルケビール海戦かいせん」を参照さんしょう

イギリス軍ぐんはカタパルト作戦さくせん（フランス語ふらんすご版ばん）を発動はつどうし、ジブラルタル所在しょざいのH部隊ぶたいはメルス・エル・ケビールの襲撃しゅうげき部隊ぶたいを、アレクサンドリア所在しょざいのイギリス地中海ちちゅうかい艦隊かんたいは同港どうこうに在ざい泊はく中ちゅうのフランス地中海ちちゅうかい艦隊かんたい（英語えいご版ばん）に対処たいしょするよう命めいじられた。

ヴィシー軍ぐん（英語えいご版ばん、フランス語ふらんすご版ばん）のフランス海軍かいぐん部隊ぶたいのうち、もっとも強力きょうりょくな部隊ぶたいはアルジェリアのメルセルケビール港こうに在ざい泊はくしていた。この襲撃しゅうげき部隊ぶたいはダンケルク級きゅう戦艦せんかん2隻せき、プロヴァンス級きゅう戦艦せんかん2隻せきと、およびその護衛ごえいに当あたる艦艇かんていからなっていた。

戦闘せんとうの結果けっか、戦艦せんかんブルターニュが爆沈ばくちん、戦艦せんかんプロヴァンスが着き底そこする。戦艦せんかんダンケルクは艦かん砲ほう射撃しゃげきと空襲くうしゅうにより大破たいは着ぎ底そこした^[16]。戦艦せんかんストラスブールと駆逐くちく艦かん数すう隻せきが地中海ちちゅうかいを縦断じゅうだんして南みなみフランスのツーロンに脱出だっしゅつした。ダンケルクは1941年ねんになり浮揚ふように成功せいこうし、トゥーロンに移動いどうした。

マルタ輸送ゆそう船団せんだん護衛ごえい作戦さくせん

「クラブラン」および「マルタ攻囲こうい戦せん」も参照さんしょう

この成功せいこうとは言いい難がたい作戦さくせんの後のち、H部隊ぶたいは通常つうじょうの任務にんむに復帰ふっきした。スパルティヴェント岬みさき沖おき海戦かいせんなど^[17]、西部せいぶ地中海ちちゅうかいでの様々さまざまな作戦さくせんに参加さんかした^[18]。それらのなかで特筆とくひつすべき作戦さくせんは、マルタ島とうへの輸送ゆそう船団せんだん（マルタ輸送ゆそう船団せんだん）の護衛ごえい作戦さくせんと空母くうぼを活用かつようしたクラブラン (Club Run) と呼よばれる航空機こうくうき輸送ゆそう作戦さくせんである^[18]。英えい領りょうマルタ（Crown_Colony_of_Malta）行いきの早期そうきの船団せんだんは比較的ひかくてき軽微けいびな損害そんがいを出だすにとどまっていた。しかし1941年ねん1月がつに、ドイツがシチリア島とうにドイツ空軍くうぐんの第だい10航空こうくう軍団ぐんだん（ドイツ語ご版ばん）を配備はいびしてからは、エクセス作戦さくせんを筆頭ひっとうに恐おそれるべき犠牲ぎせいを軍艦ぐんかんや商船しょうせんにもたらしたのである^[19]。

ビスマルクの撃沈げきちん

詳細しょうさいは「ベルリン作戦さくせん」を参照さんしょう

1941年ねんにH部隊ぶたいが関かかわった戦たたかいのうち、もっとも有名ゆうめいなものは、H部隊ぶたいの主戦しゅせん場じょうである地中海ちちゅうかいではなく大西おおにし洋ひろしで発生はっせいした。その前ぜん段階だんかいとして、1941年ねん2月がつから3月がつ下旬げじゅんにかけてドイツ海軍かいぐんが大西洋たいせいようで実施じっししたベルリン作戦さくせんがある。イギリス海軍かいぐんは多数たすうの軍艦ぐんかんでシャルンホルスト級きゅう戦艦せんかん2隻せきを探さがし回まわり、その一環いっかんとしてH部隊ぶたいも大西洋たいせいように駆かり出だされた^[20]。アークロイヤルの偵察ていさつ機きはシャルンホルスト級きゅう戦艦せんかん2隻せきを発見はっけんしたが取とり逃にがし、ドイツ艦かんはフランスのブレストに入港にゅうこうした^[20]。

詳細しょうさいは「ライン演習えんしゅう作戦さくせん」を参照さんしょう

5月18日にち、ドイツ海軍かいぐんのリュッチェンス提督ていとくが戦艦せんかんビスマルクと重おも巡じゅんプリンツ・オイゲンを率ひきいて大西洋たいせいようへ出発しゅっぱつした。リュッチェンス戦隊せんたい（ビスマルク部隊ぶたい）はアイスランドとグリーンランドの間あいだのデンマーク海峡かいきょうを抜ぬけ、イギリス北方ほっぽうを迂回うかいして大西洋たいせいように進出しんしゅつし、同どう海域かいいきでの通商つうしょう破壊はかいを企図きとしていた^[21]。

イギリス海軍かいぐん本部ほんぶは船団せんだんの護衛ごえい不足ふそくを憂慮ゆうりょし、ジブラルタル所在しょざいのH部隊ぶたいに対たいし、大西洋たいせいようでフリータウン経由けいゆ南みなみアフリカケープタウン行いきWS (Winston Special) 船団せんだんを護衛ごえいするよう命めいじた^[22]。マルタへのクラブランを終おえてジブラルタルに帰港きこうしたばかりのH部隊ぶたいは、空母くうぼフューリアスを残のこして大西洋たいせいように乗のり出だした^[23]。駆逐くちく艦かんは燃料ねんりょう不足ふそくでジブラルタルに帰投きとうしたので、サマヴィル提督ていとくが率ひきいていたのは巡めぐ洋よう戦艦せんかんレナウン、航空こうくう母艦ぼかんアークロイヤル、軽けい巡洋艦じゅんようかんシェフィールドになった^[23]。

5月24日にち朝あさのデンマーク海峡かいきょう海戦かいせんで巡めぐ洋よう戦艦せんかんフッドが沈没ちんぼつしてランスロット・ホランド提督ていとくが戦死せんしし^[24]、新鋭しんえい戦艦せんかんプリンス・オブ・ウェールズも中なか破やぶした^[25]。H部隊ぶたいでも、サマヴィル提督ていとくがかつての旗艦きかんの沈没ちんぼつを知しらされた^[26]。イギリス海軍かいぐん本部ほんぶは、投入とうにゅう可能かのうなすべてのイギリス海軍かいぐん艦艇かんていにビスマルク撃沈げきちんの命令めいれいを下くだした^[27]。

「en:Last battle of Bismarck」も参照さんしょう

5月26日にち午前ごぜん10時じ30分ふん^[28]、連合れんごう国軍こくぐんが航空こうくう偵察ていさつでビスマルクを発見はっけんした時とき^[29]、ビスマルクに最もっとも近ちかい位置いちにいたのがH部隊ぶたい（レナウン、アークロイヤル、シェフィールド）であった^[30]^[31]。イギリス側がわは、まずアークロイヤル艦上かんじょう機きの魚雷ぎょらい攻撃こうげきでビスマルクの速力そくりょくを落おとそうとする^[32]。

26日にち夜よるに発進はっしんしたアークロイヤル第だい一いち次じ攻撃こうげき隊たいは目標もくひょうの位置いちを誤認ごにんし、ビスマルクを追尾ついびしていたシェフィールドを攻撃こうげきしたが、幸運こううんにも命中めいちゅうした魚雷ぎょらいはなかった^[33]。第だい一いち次じ攻撃こうげき隊たいのソードフィッシュが装備そうびした魚雷ぎょらいは新式しんしきの磁気じき信管しんかんを使つかったもので、何なん本ほんか早さ爆ばくしたことが確認かくにんされ、信頼しんらい性せいに欠かけていると考かんがえられた^[34]。アークロイヤル第だい二に次じ攻撃こうげき隊たいは、従来じゅうらい型がたの接触せっしょく信管しんかんを持もつ信頼しんらい性せいの高たかい魚雷ぎょらいを搭載とうさいする^[34]。第だい二に次じ攻撃こうげき隊たいの攻撃こうげきによりビスマルクは舵機だきを壊こわされ、航行こうこう能力のうりょくに大おおきな打撃だげきを受うけた^[33]^[35]。その後ごもビスマルクは触接しょくせつしてくるイギリス海軍かいぐんの部隊ぶたいと断続だんぞく的てきに戦闘せんとうを続つづけた^[29]^[36]。

5月27日にち、イギリス戦艦せんかんキング・ジョージ5世せい（本国ほんごく艦隊かんたい、トーヴィー提督ていとく旗艦きかん）とロドニー (HMS Rodney, 29) 、重じゅう巡じゅん2隻せき（ノーフォーク、ドーセットシャー）の攻撃こうげきでビスマルクは撃沈げきちんされた^[29]。サマヴィル提督ていとくはH部隊ぶたいでビスマルクにとどめを刺さして良よいかトーヴィー提督ていとくに問とい合あわせたが^[37]、トーヴィー提督ていとくはH部隊ぶたいの介入かいにゅうを許ゆるさず、ビスマルクはドーセットシャーに雷撃らいげき処分しょぶんされた^[38]。

イギリスの苦境くきょう

詳細しょうさいは「クレタ島とうの戦たたかい」を参照さんしょう

1941年ねん5月がつ下旬げじゅんのビスマルク追撃ついげき戦せんでイギリス海軍かいぐんは勝利しょうりを得えたが、同どう時期じきの地中海ちちゅうかいではクレタ島とうをめぐる攻防こうぼう戦せんにおいて地中海ちちゅうかい艦隊かんたいが大だい打撃だげきを受うけていた^[39]^[40]。同年どうねんの終盤しゅうばん、イギリス海軍かいぐんの運命うんめいはどん底ぞこにあった。イギリス地中海ちちゅうかい艦隊かんたいでは、爆撃ばくげきによってすべての空母くうぼが損傷そんしょうを受うけ作戦さくせん行動こうどうが不可能ふかのうとなっていた。H部隊ぶたいも悲劇ひげきに直面ちょくめんしていた。11月14日にち、マルタへの航空機こうくうき輸送ゆそう作戦さくせん（パーペテュアル作戦さくせん）中ちゅうに空母くうぼアーク・ロイヤルがドイツ潜水せんすい艦かんU-81によって撃沈げきちんされたのである^[41]。Uボート作戦さくせん（Mediterranean_U-boat_campaign_of_World_War_II）に脅おびやかされたイギリス海軍かいぐんが破滅はめつせずに済すんだのは、イタリア海軍かいぐんが積極せっきょく的てきな攻勢こうせいに出でなかったからにすぎなかった。そして連合れんごう軍ぐんが北きたアフリカ戦線せんせんでロンメル将軍しょうぐんの攻撃こうげきに耐たえきり、イギリスがエジプトとスエズ運河うんがを保持ほじできるかは、英えい領りょうマルタ（英語えいご版ばん）が生いき延のびられるかどうかにかかっていた^[42]。

1942年ねんは低調ていちょうのうちに幕まくを開あけた。この年としの初はじめに緊迫きんぱくした任務にんむとなったのは、マルタ島とうへの補給ほきゅう任務にんむだった。マルタは何なんヶ月かげつにもわたって激はげしい攻撃こうげきに曝さらされており、輸送ゆそう船団せんだんは僅わずかな隙すきをついて補給ほきゅう任務にんむを強行きょうこうできるよう厳重げんじゅうに護衛ごえいされる必要ひつようがあった。輸送ゆそうが成功せいこうしたとしても、マルタの状況じょうきょうは飢餓きがの一いち歩ほ手前てまえに過すぎなかった。第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん中ちゅう、もっとも厳重げんじゅうに護衛ごえいされた船団せんだんが、この戦たたかいの鍵かぎとなった。6月がつ中旬ちゅうじゅん、連合れんごう軍ぐんはハープーン作戦さくせんを実施じっしし^[43]、限定げんてい的てきながら成功せいこうした^[44]。8月に行おこなわれたペデスタル作戦さくせんで連合れんごう軍ぐんは大だい打撃だげきを受うけたが^[45]、マルタを持もち堪こたえていくだけの物資ぶっしを運はこび込こめた^[46]。

戦力せんりょく引ひき抜ぬきとカサブランカ沖おき

詳細しょうさいは「南方みなかた作戦さくせん」を参照さんしょう

1941年ねん12月8日にち、大日本帝国だいにっぽんていこくが連合れんごう国こくに宣戦せんせん布告ふこくし、太平洋戦争たいへいようせんそうがはじまる。日本にっぽん陸軍りくぐんと日本にっぽん海軍かいぐんが発動はつどうした南方みなかた作戦さくせん（比島ひじま作戦さくせん、マレー作戦さくせん、蘭らん印しるし作戦さくせん）により欧米おうべい列強れっきょうの植民しょくみん地ちは窮地きゅうちに陥おちいった^[47]^{[注釈ちゅうしゃく 3]}。

1942年ねん2月がつ15日にちにシンガポールは陥落かんらくし、蘭らん印しるしを防衛ぼうえいするためのABDA司令しれい部ぶは解散かいさんして連合れんごう国軍こくぐん各かく艦隊かんたい^{[注釈ちゅうしゃく 4]}はスラバヤ沖おき海戦かいせんで壊滅かいめつ、3月がつ上旬じょうじゅんにジャワ島じゃわとうは陥落かんらくした^[48]。日本にっぽん軍ぐんの攻勢こうせいは蘭らん印しるしに留とまらず、日本にっぽん軍ぐんによるアンダマン・ニコバル諸島しょとうの占領せんりょう、ビルマの戦たたかい（現げんミャンマー）など戦闘せんとうが続つづいた。

イギリスの懸念けねん材料ざいりょうの一ひとつは、ヴィシー政権せいけん下したのフランス（中立ちゅうりつ国こく）が保有ほゆうする海外かいがい植民しょくみん地ちのマダガスカルであった。ヴィシー政権せいけんと日本にっぽん政府せいふの協定きょうていが成立せいりつし、日本にっぽん海軍かいぐんがマダガスカルに拠点きょてんを置おいて活動かつどうを開始かいしすれば、インド洋いんどよう～紅海こうかい～スエズ運河うんがにかけてのシーレーンと、イギリス領りょうインド帝国ていこくおよび南みなみアフリカのケープ植民しょくみん地ちは決定的けっていてき影響えいきょうを受うける^[48]。中東ちゅうとうの連合れんごう国軍こくぐんは戦略せんりゃく的てきに孤立こりつすることになる^[48]。

「マダガスカルの戦たたかい」も参照さんしょう

1942年ねん3月がつになるとチャーチル首相しゅしょうとイギリス軍ぐんはマダガスカル占領せんりょうを検討けんとうし、ボーナス作戦さくせん (Operation Bonus) と命名めいめいした^[49]。マレー沖おき海戦かいせんで主力しゅりょく艦かんを失うしなったあとセイロン島とうを根拠地こんきょちにして再編さいへん中ちゅうの東洋とうよう艦隊かんたい^[50]は日本にっぽん軍ぐんのインド洋いんどよう作戦さくせんに対処たいしょするため動うごかせず、やむを得えず地中海ちちゅうかい戦線せんせんの西にし半分はんぶんを担当たんとうしていたH部隊ぶたいを投入とうにゅうすることにした^[49]。そこでチャーチル首相しゅしょうはフランクリン・ルーズベルト米国べいこく大統領だいとうりょうに「戦艦せんかん2隻せき、空母くうぼ1隻せき、巡洋艦じゅんようかんと駆逐くちく艦かん部隊ぶたいをジブラルタルに派遣はけんして、H部隊ぶたいの代理だいりをやってもらいたい」と依頼いらいする^[49]。大統領だいとうりょうの指示しじをうけてアーネスト・キング大将たいしょう（合衆国がっしゅうこく艦隊かんたい司令しれい長官ちょうかん）は情勢じょうせいを検討けんとうし、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくとヴィシーフランスが正式せいしきな外交がいこう関係かんけいをもっていること、ジブラルタルの兵站へいたんに問題もんだいがあることを理由りゆうに、機動きどう部隊ぶたいの派遣はけんを思おもいとどまった^[51]。かわりにスカパ・フローにいるイギリス本国ほんごく艦隊かんたいの戦力せんりょくをジブラルタルに補填ほてんするならば、大西洋たいせいよう艦隊かんたいの艦艇かんていをスカパ・フローに派遣はけんして北極ほっきょく海かい輸送ゆそう船団せんだん護衛ごえいに協力きょうりょくすると申もうし出でた^[51]。

この方針ほうしんにより、大西洋たいせいよう艦隊かんたい戦艦せんかん戦隊せんたい司令しれい官かんジョン・W・ウィルコックス少将しょうしょう（en:John W. Wilcox_Jr.）^[52]を指揮しき官かんとする第だい39任務にんむ部隊ぶたいが編成へんせいされ、戦艦せんかんワシントン（旗艦きかん）、空母くうぼワスプ、重じゅう巡じゅんウィチタ、重じゅう巡じゅんタスカルーサ、第だい8駆逐くちく艦かん戦隊せんたい^[53]らが3月26日にちに北きたアメリカ東海岸ひがしかいがんを出発しゅっぱつ、4月がつ上旬じょうじゅんにスコットランドのスカパ・フローに到着とうちゃくした^[54]。

1942年ねん、H部隊ぶたいは大幅おおはばに戦力せんりょくを縮小しゅくしょうした。5月に入はいり、H部隊ぶたいからマダガスカル島とうのディエゴ・スアレスに対たいする攻撃こうげきに兵力へいりょくを抽出ちゅうしゅつされたためである。この作戦さくせんは成功せいこうを収おさめたものの、重要じゅうような時期じきにイギリスの海軍かいぐん力りょくを無駄むだに使つかうものだという批判ひはんが多おおかった。

詳細しょうさいは「トーチ作戦さくせん」および「カサブランカ沖おき海戦かいせん」を参照さんしょう

1942年ねん11月は、戦たたかいのターニングポイントとなる月つきだった。11月上旬じょうじゅんにトーチ作戦さくせんが実行じっこうされ、イギリス第だい一軍いちぐんを始はじめとする米べい英軍えいぐんが、モロッコおよびアルジェリアに上陸じょうりくした。H部隊ぶたいは、この上陸じょうりく部隊ぶたいを援護えんごするために動員どういんされた^[55]。上陸じょうりく部隊ぶたいにとっての脅威きょういはイタリア艦隊かんたいとヴィシー・フランス軍ぐんであったが、目立めだった抵抗ていこうを行おこなったのはヴィシー・フランス軍ぐんだけであった。ヴィシー・フランス軍ぐんの海軍かいぐん部隊ぶたいと空軍くうぐん（Vichy French Air Force）はカサブランカにおいて、上陸じょうりく部隊ぶたいを支援しえんするアメリカ艦隊かんたいと砲火ほうかを交まじえた^[56]。

この北きたアフリカにおける大だい規模きぼな作戦さくせんの最終さいしゅう的てきな狙ねらいは、チュニジアを枢軸すうじく国こくの勢力せいりょく圏けんから切きり離はなすことであった。この狙ねらいは最終さいしゅう的てきに達成たっせいされ、25万まん人にんを超こえる枢軸すうじく軍ぐん兵士へいしが連合れんごう軍ぐん第だい18軍ぐん集団しゅうだんに降伏ごうぶくした。25万まん人にんといえば、スターリングラード攻防こうぼう戦せんでの降伏ごうぶく者しゃ数すうに等ひとしい数かずである。H部隊ぶたいはこの戦たたかいを通とおして、陸上りくじょう部隊ぶたいに厳重げんじゅうな援護えんごを提供ていきょうした。

11月中旬ちゅうじゅん、マルタに対たいしてストーンエイジ作戦さくせんが実施じっしされ、マルタ攻囲こうい戦せんは連合れんごう軍ぐんの勝利しょうりで幕まくを閉とじた。

上陸じょうりく作戦さくせんの始はじまりとH部隊ぶたいの終おわり

詳細しょうさいは「ハスキー作戦さくせん」および「アヴァランチ作戦さくせん」を参照さんしょう

「en:Allied invasion of Sicily」および「Allied invasion of Italy」も参照さんしょう

地中海ちちゅうかいの制海権せいかいけんを握にぎった連合れんごう軍ぐんは、攻勢こうせいを強つよめる。さらなる2つの上陸じょうりく作戦さくせんにおいて、H部隊ぶたいは上陸じょうりく部隊ぶたいをイタリア艦隊かんたいから守まもるために援護えんごに当あたった^[57]。1943年ねん7月がつに行おこなわれた、シチリア島とう攻略こうりゃく作戦さくせんであるハスキー作戦さくせん、同年どうねん9月がつのイタリア本土ほんどサレルノへの上陸じょうりく作戦さくせん、アヴァランチ作戦さくせんがそれである^[58]。

残存ざんそんしたイタリア艦隊かんたいは、新鋭しんえい戦艦せんかんローマがドイツ軍ぐんの無線むせん誘導ゆうどう爆ばく弾だんフリッツXの攻撃こうげきを受うけ艦隊かんたい司令しれい長官ちょうかんとともに沈しずんだ^[59]。他たの大型おおがた艦かんは、大だい部分ぶぶんがドイツ軍ぐんの接収せっしゅうを免まぬかれた。H部隊ぶたいはサルデーニャ島とう近海きんかいでイタリア艦隊かんたいと落おちあい、マルタまでこれを護衛ごえいした^[60]。9月11日にち午前ごぜん9時じ、マルタのグランド・ハーバーに到着とうちゃくする^[60]。英えい地中海ちちゅうかい艦隊かんたい司令しれい長官ちょうかんのカニンガム提督ていとくは、海軍かいぐん本部ほんぶに次つぎのような伝統でんとう的てきな信号しんごうを発信はっしんした^[59]。

Be pleased to inform their Lordships that the Italian fleet lies under the guns of the fortress at Malta.
訳わけ：イタリア艦隊かんたいは、マルタの要塞ようさいの砲ほう列れつの下したに停泊ていはくしている^[60] — アンドルー・カニンガム、Times of Malta^[61]

ハスキー作戦さくせんではH部隊ぶたいの空母くうぼインドミタブルがイタリア空軍くうぐんの雷撃らいげき機きにより損傷そんしょうした^[62]。アヴァランチ作戦さくせんではドイツ空軍くうぐんのフリッツXによって戦艦せんかんウォースパイトが大破たいはした^[63]。このように損傷そんしょうした艦かんはいたが、沈没ちんぼつした大型おおがた艦かんはいなかった。

詳細しょうさいは「イタリアの降伏ごうぶく」および「イタリア戦線せんせん_(第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん)」を参照さんしょう

戦場せんじょうが本土ほんどに移うつった結果けっか、イタリア政府せいふは降伏ごうぶくする。このあとイタリアはイタリア王国おうこく（連合れんごう軍ぐん派は）とイタリア社会しゃかい共和きょうわ国こく（ドイツ傀儡かいらい国こく）に分裂ぶんれつし、イタリア戦線せんせんが形成けいせいされた。陸上りくじょうでは戦闘せんとうが続つづいたが、海上かいじょうには変化へんかが生しょうじた。既すんで述じゅつのようにイタリア艦隊かんたいの降伏ごうぶくによって、地中海ちちゅうかいに主力しゅりょく艦かんを含ふくむ大だい艦隊かんたいを維持いじする必要ひつようがなくなる。H部隊ぶたいの戦艦せんかんや航空こうくう母艦ぼかんは本国ほんごく艦隊かんたいや東洋とうよう艦隊かんたいに配属はいぞく替がえとなり、司令しれい部ぶも解散かいさんした。地中海ちちゅうかいの海軍かいぐん作戦さくせんは、より小型こがたで軽快けいかいな艦艇かんていによる部隊ぶたいが行おこなうことになったのである。

現代げんだいのH部隊ぶたい

現在げんざい、イギリス海軍かいぐんがジブラルタルおよび西にし地中海ちちゅうかいに配備はいびしている艦隊かんたいはジブラルタル戦隊せんたいのみである。